『 ちぃ〜っす。 』 ( ガラッ… ) 翌日、俺は隣街にある実装石専門ショップに来た。 店内を見回すと、相変わらず個人店らしい質素な作りと無難な品揃え。 そういえば、この店に一ヶ月以上足を運んでいない。 前まで実装石の虐待に熱を上げていた頃は、この店にも頻繁に来ていた。 店の商品の殆どは飼い実装用の餌やアクセサリ、各種アイテム。 そして実装石。 当然、この俺は愛護絡みの商品には全く興味は無い。 しかしダチに教えられると、俺は試しに足を運び…一時は入り浸りになった。 その目的は売れ残り実装石。 それは全国、どこにでもある実装石専門店の最大の悩みである。 愛護派の奴等は、仔実装でないと見向きもしない。 だから成長するにつれ、店側は処分しようと値段を下げざるを得ない。 そして遂に処分しきれなくなった商品達。 初めて来た時、店主にダチの名を言うと、俺は奥に通された。 質素とはいえ日の光の差す店内とは打って変わり、薄暗い物置。 「 テェ… 」 殆ど餌も与えられず、ケージでなくダンボールに放り込まれた仔実装達がいた。 …いや、仔実装というには少々成長し過ぎていた。 俺はソイツ等を格安で譲ってもらい、ダチ2人と一緒に遊んだ。 やはり躾済み実装は良い 僅かだが、金を払っただけの価値はある。 それまで野良実装ばかりで飽きが来ていた俺には新鮮だった。 泣き叫び方、苦悶の表情、命乞い、全てが違っていた。 強制出産させ、その仔を殺すとまた良い声で泣きやがる。 絶望の中で仔を産ませ、一片の希望も与えずブチ殺してやった。 …だが、それさえも飽きがきてしまう。 だから最近はこの店にも用が無く、店主の顔を見るのも久しぶりだったのだが。 『 ……いらっしゃい、久しぶりだね。 』 中年の店主が愛想良く俺を出迎えた。 『 今日もあっちかい? 』 店主は小声で、店の奥に目配せをする。 しかし、今日の俺の用事はそんなことじゃなかった…。 俺は近くにあった実装フードの袋を持つとレジへ。 『 いや、今日はソレじゃなくてさ……ちょっと聞きたいことがあって来たんだ。 』 『 へぇ、改まってなんだい? 』 『 ブローカーについて、ちょっとね…。 』 実装石ブローカー いわゆる実装石を専門に取り扱う仲介業者。 何らかの手段で入手した実装石を需要元に卸す者達である。 一般的なブローカーはブリーダーと契約する例が多い。 良質な個体を産み出してくれるブリーダーと契約し、ペットショップや個人などに卸す。 しかし現実として汚いブローカーも存在する。 『 …あぁ、それは野良ブローカーだね。 』 ブリーダーと契約する手段を持たないブリーダー達は、別の手段を講じて入手する。 最も手軽に入手しやすい方法として挙げられるのが公園。 だが、誰でも入手できるとはいえ、ここで求められるのが実装石に関する鑑定眼。 ビジネスである以上、顧客の要望に応える個体に妥協は許されない。 それだけに野良ブリーダー達の目は確かだ。 ほんの僅かに存在する高品質の個体を求め、公園やコミュニティへ足を運ぶ。 だが、彼らの多くは日々の糧を得るだけで精一杯の生活だという。 とてもじゃないが裕福な生活とは言い難い。 そのため、時には法律に触れることも辞さない。 『 法律に触れるって…? 』 『 例えば、飼い実装を攫ってくるとかね。 』 『 他人の実装石を盗むのかよ!? 』 『 そんな個体を好む顧客も少なくないってことさ…。 』 実装石にとって最も幸福な生活は、心優しい人間に飼われることであろう。 食事にも住む場所にも困らず、外敵の存在しない環境。 野良実装にとっては羨むべき生活である。 だが、その一方で快く思わない者達がいる。 つまり、そんな満ち足りた実装石を強引に連れ去って惨たらしく殺したい虐待派だ。 そんな人間達の要望に応えるため、ブローカー達は犯罪に手を染める場合も有る。 『 私から言わせて貰うとね、そのブローカーとは手を切った方が良い。 』 『 …そうかい? 』 『 そりゃ、そうさ……下手に関わったら自分まで犯罪者だ。 ウチも何人かのブローカーとは契約しててね、実装石を卸してもらっている。 だが、そんな怪しい連中とは関わりあいたくないね。 』 更に店長は続けて俺に忠告した。 『 野良ブローカーって奴等はね、基本的に金のために何でもすると思っていい。 』 『 分かった、肝に銘じておくよ。 あと一つ聞きたいんだけどさ、まだ時間良いかな? 』 『 今日は色々質問を用意してきたんだね……あぁ、まだ良いよ。 』 『 モドキは知ってるよね…? 』 俺が質問した途端、店長の表情が曇った。 『 野良ブローカーにモドキ…今日の話題は大きな声じゃ言えないことばかりだね。 』 『 あぁ、率直に聞くよ。 人間と実装石の混血……モドキを高く買う連中はいるのかな? 』 『 ……なんだって? 』 愛想良かった店長の表情が、今度は険しくなった。 『 …今は他に客は誰も居ない。だから、この際ハッキリ言わせてもらおう。 』 『 なんだよ…? 』 『 この店の中では二度と、その話をしないで欲しい。 』 『 え…。 』 『 これでも私は、真っ当に仕事をしているつもりだ。 人様から後ろ指を刺されない程度に、ね。 今では常連客もいるし、私の言葉を信頼してくれている。 そんな中でね、変な噂が立つような話題は店内で避けて欲しいんだよ。 』 『 あ……あぁ、悪かったよ。 』 確かにマズい話題だ。 この場合、明らかに俺の方が不注意だ。 『 けどさ……あえて、そこを教えて欲しいんだ。 』 今は他に誰も客は居ない。 だが、あえて反省して声を落として店長に問い続けた。 『 もし高く売れるモドキがいるとしたら……どんなモドキなのか知らない? 』 『 だから、その話題は…。 』 『 …頼むよ!今回限り、もう二度と話題にしないから! 』 俺は頭を下げて頼み込んだ。 モドキと関わってから、俺には分からないことだらけだ。 別に知らなくても良いかもしれないが、どうしても気になる。 今、俺の下宿先のバスルームに閉じ込めている仔モドキ1番。 なぜ、ブローカーがそこまで執着するのか、惜しむのか理解ができない。 俺の知り合い関係でモドキに詳しそうな人物は、この店長だけ。 最後の頼みの綱を、俺はどうしても離す訳にはいかなかった。 『 …知らないね。 』 『 そんな…。 』 『 いや、本当に私も知らないんだよ、高く売れるモドキなんて聞いたことも無い! 』 店長はきっぱりと言い切った。 そこまではっきりと言われては、俺もそれ以上食い下がれない。 『 ……だがね、君はそもそも何か勘違いしてない? 』 『 何が? 』 『 モドキは……人間と実装の混血は、意外に身近な存在なんだよ。 『 え…。 』 『 …考えてみてくれ。 仮にモドキを欲しいとしたら、どうすれば手っ取り早く手に入る? 』 店長の何気ない問い掛け。 分からないわけじゃない……分かってはいるが、口にするのは憚られる。 『 ……そういうことさ。 モドキ、モドキというが、アレにだって半分は人間の血が流れている。 』 『 あ、あぁ…そうだけど…。 』 『 それを知った上で、どうすれば高く売れるだの売れないだの…… 同じ人間として恥ずかしくないかね? 』 店長に年上の大人として、厳しく叱り付けられる。 確かに俺は今まで実装石を数え切れない程殺してきたが、人を傷つけたことは無い。 『 おそらくモドキについても野良ブローカーから聞いたんだろ? アイツ等は金になるなら何でもする…。 悪いことは言わない、直ぐに手を切ると良い。 』 それだけ言うと、店長はカウンターから離れて別の仕事に取り掛かった。 目の前には俺が購入した実装フードの袋。 それ以上、俺は店長に聞く気分にもなれず、直ぐに店を後にした。 分かってはいた。 店長の言い分に間違いは無かったし、正論だとも思う。 しかし、それからも俺は仔モドキを捕獲し続けた。 週一回の受け渡しのために、ダチ2人と一緒に虐待の遠征。 色々な場所を回り、ペースとしては週で2匹か3匹をあの男に引き渡す。 そして捕獲してきた仔モドキ達と1番を比較する日が続いた。 身体的な特徴に目立った差は無い。 新たに捕獲してきた仔モドキ達と見比べても違いは分からない。 ……いや、一つだけ有るのは分かっていた 「 てぇぇん…てぇぇん… 」 「 ままぁ…かえりたいてちゅ… 」 「 みんな、泣くのはやめるてちゅぅ 」 今週、新たに捕獲した2匹。 親と引き離され、ぐずったれて鬱陶しいことこの上無い。 その仔モドキに1番が慰めていた。 何時の間にか、毎週捕獲してくる仔モドキ達の世話役になっていた。 「 てぇ……おねえちゃん? 」 更に、4番も1番に懐いてやがる。 以前、俺に楯突いた4番は結局ここに居座っていた。 俺が怪我をさせてしまったため、引渡しを延期しただけなんだが、 ブローカーに引き渡すタイミングを逃してしまった。 しかし、最近になって考えが違ってきた。 1番の仔モドキの精神状態を考えてみると、4番くらいは傍にいた方が良いだろう。 何も無いバスルームの暗闇に、自分1匹だけでは狂ってしまうかもしれない。 大切な個体だから、それなりの扱いは必要だ。 ……そう、他の仔モドキ達にとっても大切な個体なのだ この1番は非常に面倒見が良い。 年齢的には殆ど変わらないが、なのに他の個体から慕われる。 どんなに他の仔モドキ達が泣いても、この1番があやすと泣き止みやがる。 多分、泣き叫ぶと俺の折檻があると分かっているからだ。 だからこそ他の仔達の面倒を見て、俺の手を煩わせないようにしていると思うのだが…。 こうして一緒に暫く生活をしてれば、それくらいのことは感づく。 しかし、それがコイツの価値とどう関わるか……やはり俺には分からなかった。 仔モドキの捕獲は続く。 あの時のブローカーの態度はムカついたが、縁を切るわけにはいかない。 そもそもあの時に縁を切っては、1番の処分で困ったことになった。 結局、今になっても猟師の話の意味は分からないが、仕方ない。 やはり金のためだ、金のため。 それにダチ2人さえいれば、仔モドキの確保も難しくない。 今では半分、簡単な小遣い稼ぎ気分で会っていた。 『 うぃ〜っす。 』 『 あぁ、今日もご苦労さまだね。 』 日曜の午後は、ブローカーと会うのが習慣となっていた。 目的は当然、その週に捕獲してきた仔モドキの換金。 『 今週は2匹な。 』 『 お疲れ様だ。それなら……コレが代金だ。 』 手渡されたのは一万円札を一枚。 普通の野良仔実装2匹の値段だったらボッタクリも良い所だろう。 だが、改めて探すとモドキは見つからないものだ。 この辺りは俺達が狩り尽くしたこともあるが、絶対数が非常に少ない。 普通レベルの仔モドキ1匹の相場が5千円。 俺達も毎日虐待してるわけじゃなく、週に1,2回程度だ。 まぁ、バイトや仕事をしている感覚も無い。 別に苦痛でも無いし、楽しみながらこれだけ金が貰えるのなら上等だろう。 『 …そういやさ、なんでモドキを産ませないんだ? 』 男は新たに渡した仔モドキ2匹を品定めしていた。 その途中、作業を中断させると俺の方へ振り向く。 『 産ませるだと? 』 『 そうさ、モドキが欲しいのなら野良実装をたくさん集めればいい。 それで実装石が趣味の男達を集めて、孕ませれば問題無いだろ。 』 しかし男は俺の話に興味を無くし、再び作業に戻った。 『 まぁ、そうなると俺は小遣いを稼げなくなるけどな。 』 この男が肝心なことを話さないのには、もう慣れた。 隣のベンチに腰掛け、顔を上げて青空を見る。 『 …もしかしてキミは、仔モドキを集めるのが苦痛なのか? 』 『 いや、ンなことも無えよ。 ダチと一緒に、実装石共をブチ殺しながらだからな。 楽しみながら稼がせてもらってるよ。 』 『 楽しみながら…? 』 品定めしていた仔モドキから視線を外し、突然俺の方を見てきた。 『 そうさ、楽しみながら実装石共を毎週ブチ殺してるよ。 そういうアンタも同じ口じゃないのか? 』 『 …どういう意味だ? 』 『 アンタも実装石が酷い目に遭うのが楽しいから、そんな仕事をしてんだろ? 』 ブローカーの男は俺の言葉に同意しようとはしなかった。 暫く無言の時が続き、再び仔モドキ達へ視線を戻した。 『 私は楽しくて、こんな仕事をやってるわけじゃない。 』 その言葉には明確な拒絶の意思が含まれていた。 『 じゃあ、なんでこんな仕事をしてんだよ。 』 『 憎いからだ。 』 『 …はぁ? 』 『 実装石が憎いからだ。 』 『 なら、俺達と同じじゃんかよ。 』 『 違うっ! 』 更に強固な拒絶。 『 キミ達は楽しいから虐待してるかもしれない。 だが、私は実装石達が憎いから、こんな仕事をしてるだけだ。 』 『 どう違うんだよ? 』 『 …私から見れば、君達虐待派も世間の愛護派も大して違いは無い。 』 『 はぁ? 』 『 どちらにしても実装石に依存しているという意味だ。 虐待派は実装石が居なければ虐待できない。 愛護派も実装石が居なければ愛護できない。 仮に、例えばの話だ…。 』 男はそこで大きく息をつく。 『 今、キミの目の前に最後に生き残った実装石が100匹いるとする。 もう、全世界の実装石は死に絶えてしまい、残るはそれだけだ。 キミ達は……虐待派と呼ばれる者達は、その最後の100匹を殺せるか? 』 『 ……。 』 『 …どうした? 虐待派は、実装石達をブチ殺すのが楽しいんじゃないのか? しかし、キミ達虐待派にそんなことは決してできないだろう…。 なぜなら、キミ達虐待派は実装石を必要としているからだ。 虐待のためにとはいえね…! 』 『 …じゃあ、アンタは何がどう違うんだよ!? 』 『 私は躊躇無く殺す。 』 『 なに…? 』 『 この世から完全に消えて無くなるのなら、その場で実装石を全て殺す。 』 俺は勘違いしていたのかもしれない。 以前、あっさりと実装石を踏み潰して殺すのを見て、この男とは同類だと思っていた。 若い頃は俺達のように楽しみながら実装石を殺していたのだと。 『 …じゃあさ、なんでアンタは実装石が憎いんだ? 』 『 …。 』 『 俺達だってさ、実装石にムカついたりはするよ。 しかし流石に憎い、とまでは感じたりしたことは無いな。 』 『 そうだな…。 』 男は品定めをしていた仔モドキをケージに入れると、ポケットから財布を取り出した。 そしてその中から四つ折りの端々が欠けた写真が姿を現す。 『 これを見てくれ…。 』 『 …ん? 』 男の渡した写真に写っていたのは女の子だった。 おそらく小学校へ入学する前くらいの歳だろう。 真っ白なワンピースとは対称的に腰まで届く長い黒髪。 麦藁帽子をかぶり、その両端を指に摘まんでカメラに向かって笑っていた。 眩しいくらいに笑っていた 『 …この子はアンタの娘さんか? 』 男は首を横に振る。 『 この仕事に就く前、私は保父をしていた。 』 『 へぇ…。 』 『 それに写ってるのは、その時、私に懐いてくれた女の子なんだ。 この帽子が大好きでね……部屋の中なのに、いつも離そうとしなかったよ。 いつも走り回って遊んでいたな…。 』 『 なんだ、アンタ……年下が趣味だったのかよ。 』 無口な上にロリコンかよ…こんな写真を持ち歩いてるなんて、どうかしてる。 まさか、こんな趣味まで持っていたとは…。 『 …その子は死んだよ。 』 『 なに…? 』 『 だから、その子は死んだよ。 実装石が原因でな……たかが、実装石なんかのために…。 』 そういえば、と俺はダチや店長から聞いた話を思い出した。 俺達にとっては脆弱な実装石達も、集団になれば子供1人以上の力にはなる。 時々、凶暴な実装石達が集団で小さな幼児を襲う。 それは事件となり、テレビや新聞で時々取り上げられる。 『 …悪かったな。 』 俺は渡された写真を返しつつ、一言男に謝罪した。 『 なぜ謝る? 』 『 …俺だってな、そのくらい気は遣えるつもりだ。 』 この男は俺達みたいな遊び半分とは違っていた。 なのに同じと言い切ってしまい……それしか言えなかったのだ。 『 それにな、確かに俺は虐待派だが、アンタの気持ちは分かるよ。 』 『 そうか…? 』 『 もし俺がアンタの立場だったら、原因の実装石共を粉々にしてやるよ。 流石に俺だってな、あんな小さな子が死んだら平気で居られねえよ。 それが身近な知り合いだったら尚更だ! 』 『 虐待派のキミでも怒るのか? 』 『 当然だ! 』 神経を逆撫でにする男の間抜けな問い掛け。 俺は思わず怒鳴りつけてやった。 『 実装石の虐待派だが、俺だって人間だ! 別に見知らぬ人間がどうなろうが知ったことじゃないがな、 こんな小さな女の子が不幸になれば、人並みに同情くらいするさ! 』 『 …キミは心優しい虐待派だな。 』 『 虐待派にだって、人の情はあるに決まってんだろうが! 』 『 そうか…。 』 財布へ仕舞う前、暫く男は写真の女の子を眺めていた。 『 キミは人の情を持つ虐待派なのか…。 』 俺は声を荒げ、怒りを露わにして男を睨み付けた。 しかし対称的に男はそれ以上何も言わず…ただ冷ややかに写真を見ていた。 『 なんだい、アイツは…! 』 部屋に戻ると、俺は怒りで腹が納まらない。 扉を思い切り叩きつけるように閉め、下の住人の迷惑を考えず足音を鳴らしていた。 俺は虐待派だが、それはあくまで実装石に対する虐待派だ。 正義の味方ヅラをするつもりは無いが、悪逆非道なつもりも無い。 俺だって、あんな小さな女の子が危険な目に遭ってたら、真っ先に助ける。 ダチ2人も生粋の実装石虐待派だが、同じように見過ごせない奴等だ。 確かに俺達は実装石の虐待派だ。 たとえ実装石であろうと虐待は虐待だ、人間として最低だと自覚している。 後で虐待派として指を差されても仕方ない人種だ。 だが、あんな小さな女の子の不幸に何も感じない程、落ちぶれちゃいない! 『 ん……? 』 ふと、何かが聞こえた。 〜〜っ! 〜〜っ! 『 ひょっとして……。 』 怒りが収まらないまま、俺はバスルームの扉を開けた。 「 てぇぇぇ〜ん!てぇぇぇ〜ん!! 」 暗闇の中、4番仔モドキが俺の言いつけを破り、大声で泣き喚いていた。 今まで1番が落ち着かせていたが、遂に精神的に限界が来たようだ。 『 うるせーぞ!静かにしろ!! 』 「 おうちに帰りたいてちゅ〜! ままのところに帰りたいてちゅ〜! 」 「 し、しずかにするてちゅ……わたちが、ここにいるてちぃ… 」 喚いている4番を、1番が落ち着かせようと宥めていた。 俺はバスルームの扉を閉めた。 幸い、密室だから簡単に音は漏れないし、他の住人からも気付かれてはいないと思う。 しかし俺の言いつけを守らないのは絶対に許せなかった。 そしてあの男との会話の後だったのが、更に怒りの火に油を注いだ。 『 静かにしろってんのが、分からねえのかっ!! 』 「 ちゃっ!! 」 俺は1番が抱きかかえていた4番を無造作に掴むと、顔を近づけて睨み付けた。 『 もう一度言う…静かにしろ… 』 「 もう、わたちはこんなところにいるのはイヤてちゅっ! 」 『 なにぃ…? 』 「 もっと明るいところに行きたいてちゅ! ままのところに帰すてちゅ〜! 」 『 うっせえぞ…… 』 「 にんげん、さっさとわたちをここから出せてちゅ〜! 」 『 うっせえって、言ってんだろ…!! 』 「 …ちゅべっ!! 」 4番を握り締めていた拳に力が入り、怒りの余り握り潰してしまった。 小さな悲鳴を上げ、途端に動かなくなる。 目や口から流れる体液、仔モドキの身体中の骨がバラバラになっている感触。 『 ハハ… 』 しかし俺は、そんな事より……内から湧き上がる衝動に驚いていた。 『 ハハ……なんだ、そういうことかよ…。 』 この時、俺は全てを悟った。 曇り空が一瞬のうちに晴れ渡るような感覚。 あのブローカーの言う、愛護派のための仔モドキ確保なんて話は嘘っぱちだ。 コイツ等は愛護なんかのために集められてるんじゃない。 愛護でなければ、集められる理由はただ一つ。 そう、一つしかない。 『 この感触……久しぶりだな。 』 俺の手は震えていた あの初めて仔実装を握りつぶした時のように…いや、それ以上に震えていた。 喜びと興奮の余り、俺は震えていたのだ。 仔モドキをブチ殺す感触が、こんなに良いとは思わなかった。 今までの精神的ストップから完全に解放された。 半分は人間だからというタブー。 同時に湧き上がる開放感、そして何とも言えぬ心地良さ。 一線を越える感想は一言で表せば最高だった。 『 そうか……つまりお前の理由もソレか。 』 同じバスルームにいた1番仔モドキ。 握りつぶされた4番を見て、泣いていた。 4番仔モドキを取り戻そうと決して届くことのない手を伸ばしていた。 同時に俺は、この1番モドキが最高級と評される理由も悟った。 俺達、虐待派にとって定番とも言える定番。 普通の仔実装より上のランクの、虐待を楽しむための仔実装の特徴。 『 なるほど……親からの愛情が十分に注がれた個体か…。 』 しかもコイツは親実装からだけじゃない。 なぜならコイツはもう片方の親から……あの高校生君からも愛情を受けていた。 今まで俺が虐待してきた仔実装は、当然だが片親。 やはり親実装から可愛がられた仔実装の反応は普通とは違う。 俺もかなり楽しませてもらった。 しかし、今ここに居るのは父親から母親、両方から愛情を受けて育った個体。 『 そんな奴を虐待なんて…考えただけでゾクゾクするぜ…… 』 「 てぇ〜!てぇ〜! 」 1番仔モドキはまだ泣いていた。 泣きながら4番の肉塊に手を伸ばしていた。 俺の手の震えに……笑みに気付きもせずに
