タイトル:箱1/一話完結
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3927 レス数:1
初投稿日時:2007/07/14-21:24:18修正日時:2007/07/14-21:24:18
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                                     「箱/1」





『今日ご覧になる物は、世にも珍しい品ばかりで御座います』

そう話す男の怪しげな言葉に、夏祭りに集まった人達の目が釘付けになった。
安っぽい黒の上下スーツを着た男の年齢は60前後だろうか、
丸いサングラスを掛け、口には白髪混じりの髭をたくわえ痩せていた。

夜店の並ぶ一角にその男の店が薄暗く赤いネオンの下、次から次へ商品を台の上に置いて口上を始めた。
一度酒を注いだら無くなる事のない徳利、大きさの変わる石、殺したい相手を呪い殺す事の出来る藁人形セット。

出してくる物はいかがわしいが嘘ではない、無くなる事のない徳利は徳利が無くならないだけだし、
大きさの変わる石は砕けば小さくなる、藁人形セットは五寸釘と木槌で相手を殺せる。

良くあるペテンだが、それを楽しむのも大人の余裕だろう。
そんな物売りを見ている一人の男は、今日は娘にせがまれ近所であるこの夏祭りに来ていた。
男は健一といってある会社の役員をしている、それなりに地位のある男だ。
娘に幾ばくかの小銭を渡し、本人は男の口上を楽しんでいた。

こんなペテンでも騙される奴もいるんだなーと、健一は考えていた。
事実半分位の商品は騙されている事も分からず、購入されていった。




『もうそろそろ娘と待ち合わせの時間になるな・・・』

男は呟くと脳裏に待ち合わせ場所の、綿菓子売りの屋台がイメージされた。

もう良いだろうと踵を返そうと思ったら、物売りの男が台の下から一つの木箱を出した。
大きさは30cm×30cm位の、持ち歩くには丁度いい大きさの箱だ。

物売りはニヤリと集まった者を見て笑うと、箱に向かって話し始めた。


『おい・・起きてるか?』

箱からの反応はない、すると物売りはノックの要領で、コンコンと木箱を二度叩いた。


「デェ〜、デス、デスデス?」

箱からは実装石の声が聞こえた、あの木箱は実装石が入れられているのか?
男は妙だなと思った、あんな変哲の無い物が売り物になるのかと?
回りの客も同じ事を思っているのだろう、みんな首を捻っていた。

すると男はその木箱の正体を話し始めた。

『この木箱には皆さんもお分かりの様に、実装石が入れられています』

回りの客たちもそれは分かっていると言いたげな表情を浮かべた。

『なぜこの木箱が不思議かと申しますと・・・』

客達は次第に物売りの口上に引き寄せられていく。
そんな中でも健一は冷静にその様子を見ていた、どうせこれも裏があるんだろうと高を括っていた。


『いいですか・・この木箱には蓋がありません、すなわち箱から実装石は出て来る事が出来ないのです』
『そしてこの実装石は箱に入れられ、既に何年も月日が経っているのです』

健一は成る程な・・と心の中で思った。
まぁ実装石なら餌と一緒に箱に閉じ込めときゃ、一年位は平気で生きているのかもなと・・
しかしそれが一体なんになると言うのだ。

健一は動物ならどんな物でも虐待しては行けないと、今はいない母より教えられて来た。
身を乗り出し『それは動物虐待だろう』と、声を上げた。

物売りは一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに平静な顔になるとこう言った。

『いいえ、この実装石は箱の中でないと生きて行けないのです』
『いいですか良く考えて下さい、これ程に理想的なペットは他にはいません』
『一切の餌はいらず、その糞処理もいらずです、いつでも好きな時に話し相手になるのです』

『気になるなら旦那さんに飼って貰うと、色んな意味で嬉しいね』
物売りはサングラス越しに健一をじろりと睨みつけた。


言った手前、健一は引っ込みが付かなくなってしまう。
だが値段が5万もするのだ、たかが実装石に5万か・・・

少し考えたが健一は娘の由佳を思い出した、そういえばペットが欲しいと言っていた。
しかし以前もハムスターを飼って、そのままほったらかしで殺してしまった。
最後まで面倒を見れない由佳に対し、今後はもう駄目だと言ったばかりだった。


この物売りの言う事が本当なら、面倒を見なくても問題はない。
餌も糞処理も大丈夫だ、しかも放っておいても問題ないと来ている。
由佳の話し相手位なら丁度良いだろうと健一はこの箱を買う事にした。

『分かった・・アンタのいう事が本当かどうか確かめさせて貰う』

物売りは両手を摩り『毎度ありー!』と、甲高い声を上げた。


箱を手渡す時にオマケだといって、リンガルを2個付けてくれた。
そして小声で『いいかい、この箱は蓋も開ける場所もないが、絶対に無理に開けちゃ行けない』

健一も無理に開けるつもりはないので『分かった、分かった』と二つ返事でうなずいた。

『来年の今日、私はここにまたやって来る、その時にはその箱の話を聞かせてくれ』

そういうと物売りは次の商品を忙しそうに出して、また口上を始めた。
健一は両手に箱を抱え、その場を後に娘との落ち合い場所へ向かった。 





落ち合い場所の綿菓子屋台にはもう由佳が来ていた、手にはリンゴ飴と水風船を持っている。
健一の抱える木箱に興味を示すと『それ・・なーにパパ』と聞いてきた。

健一は由佳にリンガルを渡し、自分ももう一個の電源スイッチを入れた。

『よーく見てろよ由佳』

コンコンと叩いて『聞こえるか、今日から私と由佳がお前のご主人様だ』

由佳は目を丸くして意味が分からない様子だ、すると・・・


「ご主人様デス?、また変わったデス?」

リンガルにそう表示されると、由佳が『なにこれー!』と箱に向かって驚いた。

「もう何人目かは憶えてないデスが、これから宜しくお願いするデス」

箱が喋るのは何とも不思議な感じだ、健一は由佳にこの箱の事を話して聞かせた。
由佳は話が出来る箱をとても気にいり、
手に持ったリンゴ飴と水風船を健一に押し付け、帰りはずっと箱と話をしながら帰った。








                   △




家に帰ると健一は嫌がる由佳から箱を取り上げて、箱を舐め回すように確認した。
だが箱にはフタ所かどこからも開く様な仕掛けがない。
表面はニスで仕上げて角の部分は滑らかに削ってある。
もしかしたら積み木細工の様に、何か仕掛けがあるのかも知れない。

箱に耳を当てると、デスゥと時折声が聞こえ、ごそごそと何かが動く音がする。

取り合えずは由佳がうるさいので箱は返した。
由佳は箱をひったくる様に掴むと、そのまま自分の部屋に持って行ってしまった。




由佳は箱の実装石にミミと名付け、家に帰るといつも話をするようになる。
元々由佳は大人しく引っ込み思案だったので、健一も良い話し相手になってくれるなと考えた。
自分の興味も満たしてくれるし、考えれば悪くない買い物だった。


ただ健一としてはいつも由佳の机に置いて、離そうとしないので少し不安も感じていた。
健一の妻の幸恵も中身が実装石と言うだけで、あまり良い顔はしない。
幸恵は不気味な声を出す箱程度の認識でしかない。
そして箱と由佳がいつも部屋に閉じこもる様になると、
幸恵の心配もあながち的外れでは無いと感じ始めた。


最初は興味だけであった由佳も、次第に犬猫と違い感情があって話の出来るミミに惹かれていった。
由佳が母親に怒られた時も慰めたり、嬉しい時は一緒に喜んでくれた。

ミミは実態が箱でしかないが、その性格や知能は相当な物があった。
人間のいう事はほぼ理解して、その対応も感情豊かだった。

『あーあ、ミミが箱じゃ無けりゃ由佳が抱いてあげるのに』

イスに両膝を立てて箱を抱えたが、ごつごつと冷たい感触が体に伝わった。

「ごめんデス、ミミはこの箱の中でしか生きられないんデス」

『ふ−ん、なんで?』

ミミは少し間を置くと「最初のご主人様に、酷く苛められたデス」

『それと箱がどう関係あるって言うのよ』由佳が苛められたと聞いて、怒るように聞いた。

「ずーっと苛められたデス、もう痛いのはイヤだって言ったら
 じゃぁ一生痛い思いを出来なくしてやるって箱に入れられたデス」
「その時にそのご主人様は細工をしたデス、箱を空けたら死ぬって・・」
「それから、ミミは箱のままご主人様をたくさん変わったデス」


話を聞くと由佳は黙ってしまう。
ミミはその意味が分からず、由佳を心配した。

「ミミは幸せデス、今はもう痛くないデス、それに由佳チャンがいるデス」

由佳は箱を更に強く抱きしめると、ポタポタと涙を箱に落とした。

『・・もうこの話は二度としないね』

ミミは最初の主人以降この話は何度も話してきた。
やはり箱に入れられた経緯は、誰しもが興味があるから聞いて来たのだ。
話を聞く主人達は面白いのか笑ったり、頷いたり色んな反応を示した。

だが由佳の様に涙を流して悲しんでくれた事は、ただの一度も無かった。
ミミ自身もその反応に、どう対応して良いか分からずにいた。









                  △








ある日その事件はいきなり起こった。

由佳の今学期の成績がガクンと落ちてしまったのだ。
原因はミミといつも一緒にいる為に、勉強が全然手に付かなくなったからだ。
子供なら勉強よりも面白い事があれば、当然面白い方へと向いてしまう。

母の幸恵は由佳に対して、ミミと話す事を暫く禁止してしまった。
そして健一にはあの箱を捨ててしまうか、持ち主に返してしおうと詰め寄った。

『良い事、あなたが捨てられないなら、私が川にでも捨ててきます』

健一も由佳の成績の事となると、幸恵には頭が上がらなかった。
なんせ由佳を可愛がるだけで、一度も手を上げた事もない。
由佳に恨まれる担当は全て幸恵に任せていた。

だが二人は、その話を由佳に聞かれている事を知らない。
二人で争っている事を影から由佳は覗いていた。

『ミミ!由佳が絶対ミミを捨てさせたりしないから』

箱を両手に持ちあげると、そう告げ遠足用のリュックサックにミミの箱を入れた。
そして由佳がお気に入りにしてるウサギ貯金箱を割った。

中には3千円ばかし小銭で入っていた、それをポケットにしまうと両親の喧嘩を横目に家を出て行った。
由佳はミミを連れて家出をしてしまう、取り合えず母方のお爺さんの家なら知っているので向かうことにした。


家を出る頃には午後の日差しが落ち始めていた。
背中のリュックからミミが声を掛ける。

「由佳ちゃん、ミミはまた新しいご主人様を捜すデス」
「だから早まっちゃ駄目デス、パパとママの所に帰るデス」

由佳は立ち止まると、リュックのベルトを両手で掴み大声で叫んだ。

『いやっ!!』

背中越しに由佳の震えがミミに伝わると、ミミは何も言えなくなってしまう。

『由佳はミミのご主人様なのよ、だから由佳の言う事は絶対なんだから』

由佳は目の前を見つめると、また歩き出した。



その頃になって家では由佳の貯金箱が割れて、リュックサックがなくなっている事に気付く。
そしてミミの木箱も無くなっている、両親は由佳が家出をしたとすぐに分かった。

健一も幸恵も近くの公園や友達の家を探し回ったが姿が見えない。
幸恵はパニックになってしまい、警察へ捜索届けを出そうと健一に話した。

だが健一は何となくだが行き先は分かっていた、恐らく一人暮らしをしている幸恵の父の所だと。
今年の正月に家族で幸恵の父の所に行ったが、その時父と由佳はとても仲良くしていた事を思い出した。
ただ幸恵の父の家は電車で30分位は掛かる。
一人で電車に乗った事も無い由佳に、そこまで行けるだろうか不安はあった。

その事を幸恵に話すと、幸恵は思い出した様に走り出した。

『おい!どこへ行こうって言うんだ』健一は幸恵に聞く。

幸恵は振り返ると『駅に決まってるでしょう!由佳がまだいるかも知れないわ』と答えた。
幸恵の後姿を見ながら健一は家に帰った、もしかしたら由佳が連絡してくるかもしれないからだ。









                  △







由佳は電車にのって祖父のいる町まで来たが、祖父の家の場所が分からなかった。
記憶を辿ったがどこをどう間違えたのか、いつの間にか知らない場所を迷っていた。

迷いながら由佳はミミとずっと話をしていた、もうミミとはお別れの様な気がしていた。
母親は由佳に何かを言い出したら、今までも覆る事は一度もない。

幾ら自分が家出をして抗議しても、いずれミミは捨てられるか貰われるかしてしまう。
歩いてお爺ちゃんの所まで行っての抗議なら、お爺ちゃんも味方になってくれるかもと、
そんな事を思いながら、由佳は線路沿いの道をひたすら歩いていた。 

目の前の知らない風景はぼんやりとして、どこか現実感が無く由佳も不思議な気持ちだった。
不安な気持ちをミミと話すことで紛らわせた。

『ねぇ、ミミは箱から出たいと思わないの?』

ミミは何度もこの答えは今までの主人に答えてきた、なぜか由佳には答えにくいなと感じた。
なぜなのか考えたがミミには答えが出ない、感覚的なものだからだ。

「ミミは実装石だから箱の中が安全デス、だから出るのが怖いデス」

『答えになってないよミミ、出たいの、出たくないの』

「最初は箱に入れらて、痛いのが無くなったからホッとしたデス」
「でも・・・何年も箱の中にいると色んな事が不安になって来たデス」

『不安って、どんな?』

「ミミは今どうなってるのか、箱の中だと分からないデス」
「箱の中は暗くて静かで何も無いデス、由佳ちゃんもどんなだか分からないデス」

『真っ暗なの?由佳はそんなの絶対いや、だって暗いとオバケが出るんだよ』

「オバケでも良いデス、一人よりましデス」

『もう・・それよりミミは答えをまだ言って無いよ』

ミミも実は答えが分からなかった、箱の中は安全で酷い虐待もここではない。
反面ミミはここから出たい思いもあった。
今の主人の由佳は、ミミにとって今までの主人とは違う特別な何かを感じていた。
ただ外に出る事は不可能なのだ、外に出たとたんミミには死が待っている。
本当かどうかは分からないが、最初の主人は嘘を言う人間ではなかった。
やると言ったらどんな事でもやって来た、ありとあらゆる虐待も言った事は実行してきた。
だからあの時も箱の中に入れられて、ミミは心から良かったと思っている。

「出たいデス、ミミは由佳ちゃんに触りたいデス」

ミミの想いは死よりも由佳に触れたい想いが勝った。
何年も箱の中で生きて来た、もう思い残す事は無い。
このまま由佳と離れ離れになるのなら、好きな由佳の所で最後を迎えても良いと思った。

『死ぬかどうかは分からないけど、このままじゃミミ可哀相』
『由佳がパパに言って箱を開けて貰うね、でもどうなっても恨みっこ無しだから』

「そんなデス、恨みなんか・・・その日が楽しみデス」

暫く歩くと夕暮れになり、疲れたので公園のベンチに座った。
喉が渇いたのでアニメキャラの水筒を出して水を飲んだ。
声がするので見ると、公園の広場では由佳と同じ年頃の女の子が母親と遊んでいる。

由佳はその様子をじっと見つめていると、目から意味も無く涙が出てきた。
何度も何度も涙を拭ったが、涙は止まらない。

リュックから木箱を取りだすと膝の上に置いて、由佳は木箱に話しかけた。

『今頃ママは由佳の事、忘れちゃったかな・・』

「そんな事あるわけ無いデス、ママさんはいつでも由佳ちゃん見てたデス
 ・・・だからもう帰るデス」

『嫌よ、だって悪いのは全部ママなんだから』
『ミミは何も悪い事してないのに・・捨てるなんてあんまりよ』

『ママが迎えに来るまでここから動かない』

「デスゥ・・・」



更に時間が過ぎて辺りが真っ暗になると、公園の灯が付いた。
既にあの親子も公園にはいない、公園には由佳とミミの木箱だけだった。

昼間はあんなに暖かかったのに夜になると気温が下がり始めた。
由佳は体を丸めてぶるぶると震え、疲れが追い討ちをかけ熱を出してしまう。

ミミは何度も由佳に声を掛けるが、最後に『寒いよミミ・・・』と、言ったっきり何も話さなくなった。

「起きるデス!寝たら駄目デス!」

声を掛けるが、箱の中のミミにはそれ以上何も出来なかった。
どんなに声を掛けても自分の声が由佳に届かない、ミミはこの時ほど箱でしかない自分を呪った。
もし自分が箱の中でなければ、由佳を暖める事も出来るのに。
もし自分が箱の外に出られれば、近くの人間に助けを求められるのに。

「デェェェン!デェェン!誰か由佳ちゃん助けてデスゥゥ!!」

ミミは叫び続けたが何の変化も無かった、夜の公園に訪れる人もいない。
虚しくミミの声だけが公園の中で響いていた。


『おお!!なんだ声が聞こえるぞ』

声が聞こえた、ミミは懸命に声のする方向に向かって「デスゥ!!デスゥ!!」と叫んだ。

『おお!いたいた、由佳!!』

『おじいちゃん?・・・』

由佳の声が聞こえミミはホッとする、声の主は由佳の祖父だった。
祖父の声を聞いて由佳もホッとしたのか、祖父に抱きついて泣きじゃくった。

『まったく無茶しおって、とりあえずわしの家に来なさい』

祖父は由佳を背負うと『熱があるじゃないか』と言い、心配した。

『あの箱・・ミミも一緒に・・疲れた・・』そう言い残すと、由佳は祖父の背中で寝てしまう。

『わかっとるよ、話は健一君から聞いとる』木箱を小脇に抱え祖父は自分の家に向かった。









                    △







由佳が起きると目の前には、両親も祖父と一緒に正座をして座っていた。
布団から顔を半分だけ出して由佳は両親を見て『ごめんなさい』と素直に謝った。

幸恵は溜息を付くと『説教は家に帰ってからよ』
『ミミの事はママが悪かったわ、反省してる』と横を向いて言った。

『あっミミはどこにいるの?』由佳は回りを見たが小箱が無い。

健一が由佳の後ろを指差した「由佳ちゃんミミはここデス」
振り返るとまくらの真後ろにミミの木箱があった。

『ミミ!』由佳が木箱を抱きしめると、祖父が口を開いた。

『健一君から連絡があって、わしも方々捜したんだ』
『丁度近所の公園に差し掛かってみると、何やら声が聞こえたんで近寄ってみた』
『そしたら木箱を抱えて由佳が寝ていたって訳だ』
『ミミが声を出してなきゃ分からんかったぞ、ミミに感謝をしろ』

由佳は『うん』と頷くと、健一が口を開いた。


『ミミから由佳にお願いがあるそうだ、聞いてみなさい』


由佳は『お願い?』首をかしげミミに聞いて見た。

「お願いは由佳ちゃんとあの時話した事デス」
「ミミをこの箱から出して欲しいデス」

由佳は少し考えたが、複雑な思いだった。
あの時はああ言ったが、今はミミが捨てられないと分かった。
無理に箱を開けてミミが死ぬ事もないのでは?

『ねぇ・・開けなくてもこうやってお話出来るんだし・・』

健一の言葉が由佳の言葉を遮った。

『なぁ由佳、ミミはもう箱から開放してあげないか
 結果はどうなろうがミミの望んだ事だ』
『それに死ぬと決まった訳じゃない、ミミだって由佳と直にふれ合いたいって言ってるんだし』

由佳は木箱を見つめていたが、コクリと頷き『そうだね、でも恨みっこなしだよ』と、ミミに呟いた。





『そうと決まったらお爺ちゃんに任せなさい』

そう言うと祖父は玄関の方から、のこぎりとノミを持って来た。
由佳と両親の見守る中で箱の解体作業が始まった。

のこぎりで上ブタらしき所に辺りを付けると、ぎこぎこと挽き始める。
ある程度切れた所で、その切れ目にノミを打ち込んでいった。

カーン!カーン!とリズム良くノミが食い込んで行くと、パクっと音がして手応えがあった。

『これでノミを上にこじると、箱は開く』祖父は周りを見て言った。

最後に由佳がミミに聞いた。
『もしこれでお別れでも、由佳は後悔しないよ』
『だってミミ、箱の中は暗くて寂しいって言ってたから・・』

「うれしいデス、ミミは由佳ちゃんと会えてから天国だったデス」
「由佳ちゃんに抱かれるのがミミの夢デス」
「その為だったらどうなってもミミは後悔しないデス・・」

祖父が頷くと回りのみんなも頷いた、ノミに力が入りパカリとフタが開いた。










              △







フタが開けられ、みんなが中を覗きこんだ。
中には緑色に輝く偽石が、おがくずと一緒に一個入っているだけだった。

由佳はガックリすると視線を自分の足に向けた。
他のみんなは声も出ずに、由佳の方を覗き込んでいる。

その緑色の偽石から声が聞こえた。

「そ・・そんなデス!!」
「ミミの体は・・体は・・・ピシ!!」

カシャンと音がすると偽石が縦に幾つもヒビが入り砕けた。

由佳は『ミミ!!』と、叫んだが偽石はもう元には戻らない。
ミミは自分の体が無い事を知ると、もう由佳には抱いてもらう事が出来ないと知った。
そのショックは偽石を砕くには十分な破壊力で、一気にヒビが入り砕けてしまったのだ。

一瞬エメラルド光を発すると砕けた偽石が光に包まれた。
その光りの粒子は由佳の目の前まで浮き上がると、すぐに空間に吸い込まれる様に消えていく。

みんなあっけにとられそれを見ていたが、由佳は我に帰ると呟いた。

『パパ・・今のはなんだったの』

健一は返答に困ると、こう答えた。

『魂じゃないのかな』

由佳はみんなの方へ振り返り『ミミはもういないの?』と聞いた。
みんな何も答えない、由佳の言った言葉が答えだからだ。

『あの実装石は解放されたんだよ、嫌な昔の思い出からな』少し時間を置き祖父が答えた。

由佳は砕けた偽石を幾つか掴むと、両手に包み抱いてみた。
ミミの夢だった筈だが、何の反応も無かった。

ただ割れた偽石が時折部屋の蛍光灯に反射して、エメラルド光を放っていた。






                 △







調べて分かったのだが、元々ミミはこの木箱にいれらる時から、実体となる体は失っている。
上手く最初の主人に騙されていたのか、それともミミの妄想だったのか今では分からない。
おがくずには高濃度の栄養剤が染み込ませてあり、ミミはそのお陰で何年も生きて来られた。
ミミ自身は自分の体を暗闇では見る事も出来ない、そして体はある物と思い込んでいた。
実装石の思い込みの凄さは、偽石だけになってもその精神だけで生きながらえて来た。


健一は一年後のあの夏祭りに由佳を連れて来てみたが、あの物売りとは会う事は無かった。
最初からそのつもりだったのか、それとももう死んでまったのか・・・

健一と由佳は不思議な体験をしたが、ミミの声を忘れる事が出来ずにいる。
特に由佳は解体した箱の中に砕けたミミの偽石を入れて、今でも前の様に話し掛けている。
返答は勿論ないのだが、それでも由佳は未だにミミが死んだとは思っていない。
箱からミミの声が聞こえる様な幻想にかられている様だ。

そんな由佳を見るたび健一も、安っぽい黒スーツを着て、
丸いサングラスを掛けた物売りの姿を思い出していた。











終わり




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暗い空間でやった箱話ですが、また同じ様なネタだななんて。
一話完結でもう少しこのネタは、続けようかなと思います。






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1 Re: Name:匿名石 2017/07/10-08:03:43 No:00004772[申告]
不思議な話だなぁ‥‥
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