『 ん……ぁ……。 』 目が覚めると、すでに時計は8時を回っていた。 部屋にはいびきを立てて爆睡中のダチ2人。 思う存分に虐待を楽しんだせいか、2人とも清々しいくらいの寝顔だ。 コイツ等、心の底から実装石の虐待を楽しんでるのが分かる。 …だが、だからこそ俺の方は冷めてしまっているのも分かる。 天井の一点を見ながら、俺は今までの事を思い返す。 俺達3人は同じ大学の同じ科に通う学生だ。 なんとなく気が合い、一緒に行動するようになった。 そして誰が言い出したか忘れたが、ある時、実装石の虐待にチャレンジすることになった。 別に興味なんて無かった。 あえてなぜそんな事をし始めたかと言えば、暇だったから。 そして意外に面白かったため、今では週末虐待が恒例となってしまった。 ( その仔達は…!ワタシの大切な仔達デス…! ) しかし初めて実装石を虐待した時は最高だったのを思い出す。 親実装が、俺達3人それぞれの手に捕まれた仔実装を助けようと泣き叫んでいた。 ( ママ、ママァ〜! ) 手の中で儚く、非力で、助けを求める仔実装。 あの時の俺は初めての体験に、背筋がゾクゾクしていた。 < フフフ……ほらほら〜、お前の大切な仔が潰れちゃうぞ〜? > ( ……チュァッ!!ァァァアアッァアッァ…!! ) 手に力をこめ、徐々に顔が歪んで苦しみを訴える仔実装達…。 ( やめて、やめてデス〜!!その仔は何も悪いことをしてないデス〜!!! ) そんな仔実装達を見て親実装は泣き叫び、俺達の足元にへばりついて見上げる。 その親実装の表情が最高だった。 仔を想う悲しみと絶望感、そして悲哀。 思わずイっちまいそうなくらい快感だ。 …グシャッ 最後に僅かな悲鳴を上げ、仔実装は動かなくなる。 親実装は絶望的な悲鳴を上げる。 その時、俺は笑っていた。 世の中に、こんな楽しい遊びがあるのかと。 そして決して忘れられないのが、その時に仔実装を潰した俺の手だ。 あの時の俺の手は……喜びの余り——…… 『 ……さてと。 』 俺は考え事を止めて起き上がると、先にシャワーを浴びることにした。 昨日は飲んだまま風呂にも入ってないし、これから出かけるのなら綺麗にしておきたい。ダチ2人も使う前に、先に使っておこうというわけだ。 持ってきたタオルと着替えを持ってバスルームに…。 その途中、ふと水槽の中のアレに気が付いた。 「 すぅ……すぅ… 」 アレは、水槽の隅で身体を小さくしつつ横になって寝息を立てていた。 夜中に放り投げてやったパンには全く口を付けてないようだ。 『 たかが、家族を殺されたくらいで… 』 実装石の分際で、家族が殺されたくらいで泣くんじゃねえよ。 まるで人間のようだな、と思いつつ半分人間だったのを思い出す。 しかし問題は、コイツをどうするかだ。 つい勢いで他の実装石と一緒に持ち帰ってしまったが、処分をどうするか? ブチ殺すのは勘弁だ。 もしコイツが普通の仔実装だったら、速攻でキッチンにあるゴミ袋に放り込んでる。 そしてゴミ出しの日に集積所へ運べばそれで万事OK。 だが、現実として半分は人間だ。 俺達も実装石をブチ殺すのに抵抗は全く無いが、最後の一線を越えたくは無い。 そしてあの親実装達を全てブチ殺した以上、元の公園に返すのはマズイ。 あの高校生君なんかに保護されたら、後々面倒なことになる。 何らかの形で仕返しをされる可能性は十分に考えられる。 そうだ…俺達3人に殺されたと知ったら…。 『 …若気の至りだと思うんだがな。 』 そもそも実装石を恋愛対象にして、どうすんだよ。 人の道に外れる所から救ってやったんだから寧ろ感謝して欲しいくらいだ。 まぁ、あの歳のガキの考えることだ。 実装石の存在なんて3日で忘れるだろ。 あの高校生君だって、餌を持っていってやるの面倒だったかもしれないしな。 実は居なくなって世話する必要が無くなったのを喜んでるかもしれない。 「 てぇ… 」 その時、半端仔実装が寝返りを打ちやがった。 だが、改めて見ると普通の実装石とは明らかに異なる。 人間程ではないがすらりと伸びた手と足。 適度にデフォルメされた身体、というべきか。 そして鼻も高く瞳も大きく、整った顔立ち。 更に注意していたためだろうか、野良でありながら髪も綺麗に整えられている。 俺にはピンと来ないが、世間一般の基準から言えば可愛い部類なんだろうな。 だからといって、何だと言うのだ。 半分人間の血が入っていようと、やっぱりコイツは実装石。 俺には一欠片たりとも飼う気は起きない。 それよか、飯はどこへ食いに行くか……そう考えつつ、俺はバスルームに入って行った…。 『 お待たせ〜 』 『 おう〜、これで皆さっぱりしたな。 』 時刻は10時前になっていた。 あの後、ダチ2人もシャワーを浴びて目を覚ましたようだ。 着替えも終えて、どこにでも出かけられる体勢。 しかし、そろそろ時間的には昼飯時だ。 そこで他のお客で混む前に、早めの昼飯を食おうって事に決まった……のだが。 「 わたちを、わたちを、パパのところに返してほしいてちゅ〜! 」 例の半端仔が水槽のガラス越しに訴えてきた。 ガラスをぺしぺしと叩いて力無く訴える半端仔実装。 昨日から何も喰ってないせいか、顔色はあんまり良くない。 焦燥感が小さな顔一杯に広がっている。 『 …アレ、どーするよ? 』 『 やれやれ… 』 『 困ったもんだな 』 俺達全員、コイツをブチ殺す気になれない。 そしてやはり、元の公園に戻す気にもなれない。 「 今日はパパが来てくれる日てちゅ〜っ! 」 『 …なに? 』 「 昨日と今日は、パパが会いに来てくれるてちゅ〜 」 『 なんだ〜、パパに頼んで仇をとって貰おうってのかよ? 』 『 結局は何もできず、人間頼みか。 』 『 …いや、待て。 』 そこでダチの1人が出てきた。 『 おい、お前の父親…そいつが今日、あそこへ来るのか? 』 「 そうてちゅ! 7日に2回、パパが遊びに来てくれるてちゅ! 」 なるほど…と、ダチが頷いた。 毎週土日にあの高校生は様子を見に来るらしい。 それが習慣になったらしく、この半端仔も覚えていた。 更に聞いてみると、ソイツが様子を見に来るのは正午前と決まっているらしい。 『 ……よし、あの公園に戻ろう。 』 『 …なっ! 』 『 マジかよ!? 』 俺達2人は理解できない。 あの公園に戻り、万が一あの高校生に俺達が親実装達を攫って殺したとバレたら 面倒なことになるのは間違い無い。 なのに、なぜわざわざそんなリスクを背負わねばならないのか。 『 まぁ、聞けよ…。 』 ダチは半端仔実装に聞こえないよう、声のトーンを落として説明を始めた。 この半端仔を昨日の公園に返すつもりは全く無い。 死なない程度に車のトランクの中にでも押し込んでおこう。 そして俺達は素知らぬ顔で公園の中に入る。 適当にぶらつくなり、ベンチに腰掛けていても良い。 そしてあの高校生がやってくるのを待とう。 あの高校生、親実装と半端仔にはかなり執心のようだった。 そんな高校生が、もし目当ての親仔を見つけられなかったとしたら…? 慌てて公園内を駆け巡り、名前を呼んで探し回るだろうか。 草の根を分けても探し回るか。 どちらにしろ、非常に困った様子を見せてくれるだろう。 そんな光景を見物に行くのはどうか、とダチは提案した。 『 …お前って性格悪いよな〜…ナイス考えだぜ。 』 『 それ良いな、昼飯前に特等席でギャラリーさせて貰うか。 』 んで、見物後は少し遠くの店へランチを食いに行こう。 そして食後に半端仔実装をリリース。 昨日の公園から車で40分以上もかかる別の公園に置いておこう。 それなら高校生君と会うこともあるまい。 その後に半端仔がどうなるかなんて知ったことじゃない。 『 …よし、お前を昨日の公園に連れてってやる! 』 「 ほ、ほんとてちゅ!? 」 『 あぁ、本当だ、必ず連れてってやる! 』 トランクからは出さないけどな。 暫くして容易をし、俺は半端仔とパンの切れ端を虫カゴの中に入れると、部屋を出た。 空は蒼く晴れており、でかけるには絶好の日だ。 「 パパに…ぐちゅっ……パパに会えるてちゅ…んっ……てぇ… 」 虫カゴの中、半端仔がこれから父親に会えると思い、嬉し涙を流してやがる。 もうこれから二度と会えることは無いのにな。 < やっぱ実装石だよな… > < だからコイツも楽しめるんじゃないか… > 笑顔一杯の半端仔は訝しがりながらもトランクの暗闇の中へ押し込まれた。 そして俺達3人、座席に乗ってから大笑い。 あの愛護高校生がどんな顔をして探してるか、それだけで話のネタは尽きなかった。 『 早く着き過ぎたか…? 』 『 確かに……少し時間に余裕が有りすぎたかもな。 』 11時を回ったばかりの頃、俺達3人は既に公園の中をブラついていた。 今日は日曜日だけあって、家族連れもちらほらと見える。 そして、その人間に群がって餌にありつこうとする実装石達。 『 これくらいなら、得物を一つ二つ持ってこれば良かったな。 』 『 全くだ……ウズウズすんぜ! 』 おいおい、虐待派ってバレたらヤバいだろう。 『 それよか思ったんだけどなぁ、もし困ってるように見えたら、声をかけてやらないか? 』 目当ての親仔実装達が見当たらず途方にくれる高校生。 そこで俺達3人の出番だ。 < 何かを探してるのかい? > < 俺達も手伝おうか? > 涙を流して喜んでくれるかもな。 目当ての親実装達を攫ってブチ殺したのは俺達だってのに。 想像するだけで笑いが止まらない。 昨日攫った親仔のダンボールハウスの有った林の見えるベンチに腰掛ける。 ここなら例の高校生君が来たら直ぐに気付くだろう。 この突発イベントを堪能するため、昼飯は時間帯にずらして遅くすることに決めた。 俺達3人は、ベンチに腰掛けながら高校生君が来るのを今か、今かと待ちわびていた。 ——しかし15分後。 思わぬ人物から声をかけられることになった。 『 ……君たち、ちょっと良いかな? 』 ベンチに座っていた俺達の前に1人の男が立ち止まった。 歳は30代半ばらしき男。 くたびれたGパンに、古ぼけたジャンバー。 そして、その片手には一目でソレと分かる実装石用のケージ。 無精ヒゲを生やしつつ笑顔を絶やさないその男は、俺達に色々と質問をしてきたのだ。 『 なんスか? 』 『 この公園で" モドキ "を見なかったかい? 』 俺達3人は顔を合わせる。 俺にとっては突然の聞きなれない言葉で、他のダチ2人も知らない。 『 …あぁ、失礼、失礼! 』 男はいかにも口先だけの謝罪をしながら、続けて説明をした。 『 " モドキ "ってのは、人間と実装石の混血のことさ。 私達の業界では、モドキって呼ぶのが慣れていてね…これは失敬した。 』 『 モドキ…? 』 『 そうさ、モドキだ。 君らも一度や二度は、実装石には見えない実装石を見たことがあるだろ? 』 人間モドキとも実装石モドキとも呼べる存在。 だからこそ男は……男の業界では" モドキ "と呼ぶらしい。 当然だが、そのモドキが何を指しているか知っている。 しかし一瞬のうちに、俺達3人は首を縦に振らない方が良い気がした。 理由なんか説明できない。 何かヤバい気がしたからだ。 『 …いや、分からないっすね。』 『 俺達、あんまり実装石には詳しくなくて…。 』 『 あんまり見分けが付かないんですよ。 』 完全にしらばっくれる俺達…… 『 くくっ… 』 だが男は一瞬だけ不敵に微笑むと、俺達を見下ろしつつ言った。 『 とぼけなくても良いさ、君たちは実装石の虐待派だろ? 』 …! 突然の指摘に、情けないことだが言葉が詰まる。 『 第一だ……君たちみたいな若い男達が、こんな公園に何しに来るんだね? 』 核心を突き、確信を得た男が更に言葉を続ける。 『 こんな公園で女の子を引っ掛けるわけでもないし、 ゴミ拾いのボランティアにも見えない。 単なる散歩途中といった風にも見えないしな…。 』 実際の話、この男の言うことは尤もだった。 考えてみれば若い男が3人、別にイベントも何も無い公園に何をしにくるというのか。 しかも貴重な休日に、だ。 俺達以外にそんな酔狂な奴は居ない。 『 そういう私も、そちらの業界の端くれでね…。 君らみたいな人達は……虐待派みたいな人種は何となく分かるものさ。 』 一瞬、この男は高校生君の関係者かと考えていた。 居なくなった親仔実装石を探すため、知り合いか何かに声をかけたのかと。 しかし話を聞いてるうちに、何かが違う。 この男は高校生君とは無縁の……全然別の種類の人間に思えた。 『 さぁ……分かんないすよ。じゃ、俺達はそろそろ行くんで。 』 ダチの1人が男の話を遮ると立ち上がった。 続いて俺ともう1人もベンチから立ち上がる。 初対面の自分達を虐待派と見抜かれて不快に思えたこともある。 だが、こういう種類の人間と関わるのはマズイと直感的に悟ったからだ。 『 それは残念、折角くつろいでいる所を邪魔して悪かったね。 』 相変わらず口ばかりで誠意の欠片も無い言葉。 『 だが、モドキを見つけたら私に一言くれないか? 今日はまだ、この公園にいるつもりでね…。 』 男の話が終わるより早く、俺達は全員背中を向けていた。 足並みは自然に早くなっており、駐車場までの道のりがなぜか長く感じた。 『 ……何だったんだろうな、アイツ 』 公園から車で15分程の場所にあるファミレス。 俺達3人は、車の中に例の半端実装……モドキを入れたまま食事をしていた。 休日であり昼食時の店内は家族連れやらで大混雑だ。 だが、そんな騒々しい店内の中で俺達3人のテーブルだけは明らかに空気が重かった。 『 例のアレを探してるようだったが…。 』 『 しかもご丁寧にケージまで用意してたな。 』 俺達も実装石虐待を始めて半年近くになる。 これまで雑誌やネットで知識を得て、ペットショップにも何度か出入りした。 俺達以外の実装石虐待派とも会ったことも何度か有る。 愛護派の連中とも話だけはする機会も有った。 しかし、あんな男は初めてだった。 俺が以前から抱いていた疑問。 実装石と人間の混血児のモドキが決して増えない理由。 その訳はようやく理解できた。 あんな男が定期的に公園にやってきては捕獲していたのだろう。 だが一つの謎が解ければ、また一つの謎が生じる。 『 なんで、あんなのを……" モドキ "を捕まえるんだ? 』 ふと浮かび上がった言葉が無意識のうちに口から零れる。 しかしダチ2人は何も答えられない。 虐待派の…今は休止中の俺を含めた3人だから言える。 虐待派なら虐待目的で公園に出向く。 そこで思う存分ブチ殺して気分爽快、お土産に仔実装を持って帰ってお楽しみだ。 実装石が勝手に集まって勝手に増える公園は絶好の場所。 どの実装石を選ぶかなんて選り取りみどりだ。 しかし、そんな俺達でもモドキだけは敬遠したい。 アレは実装石だが、実装石ではない。 モドキを虐待するのだけは生理的に受け付けないのだ。 そんなモドキを捕まえ…あの男は何をするつもりなのか…… 『 …なぁ、ちょっといいか? 』 暫くの沈黙の後、俺は2人に口を開いた。 『 なんだよ? 』 『 昨日拾ってきたモドキなんだけどな、逃がすのを中止にしてくれないか? 』 『 え…。 』 それまで視点の定まってなかった2人の視線が一気に俺に集まる。 『 安心してくれ、お前らに迷惑はかけない。 あのモドキについては俺が責任持って処分するよ。 』 『 そりゃ、まぁ… 』 『 別にどうしようが勝手だけどよ… 』 元々、2人はあの仔モドキに関心なんて無かった。 目当ての親仔実装達さえ虐待すれば、あんなのは単なるお荷物でしか無かった。 処分に困っていたし、捨てに行くのも面倒だったくらいだ。 しかし、俺には全く別の考えが浮かんでいた。 なぜだか分からないが、モドキは金になるんじゃないだろうか? 統計を取ったわけじゃないが、確かにモドキの生息率は低い。 100に1も居ない、1000に1かもしれない。 なら理由は分からないが、何かしらの希少性から需要があるのでは無かろうか。 そして需要が有るのなら、金になる可能性は十分にある。 そんな金づるを捨てに行くなんて惜しい。 『 なんか今日は白けちまったな。 』 『 全くだ…。 』 2人とも、さっきの見知らぬ男のことで明らかにテンションが下がっていた。 高校生君を見物して盛り上がるつもりだったのに飛んだ的外れだ。 『 …それなら今日はお開きにするか? 』 2人は無言。 一度落ちてしまったテンションは中々元には戻らない。 結局、俺達はその後直ぐに店を出た。 ダチの部屋に戻ると、そこで荷物を纏めて今日は解散。 俺はというと、仔モドキの入った虫篭を下宿の大家や住人に見られないように持ち帰る。 「 わ、わたちを返しててちゅ… パパに会わせてくれるんじゃなかったてちゅ…? 」 虫篭から何か言っているが関係無い。 少々弱ってるようだが、全然大丈夫だろう。 俺は適当に食パンを半分入れておくと、バスルームへ持って行った。 念のためにダンボール箱で二重にしまって声が漏れないように工夫をし、 バスルームの扉をしっかり閉めておいた。 これで鳴き声が漏れることは無い。 そして俺は部屋を出ると再び公園へ。 さっきの男へ会いに出かけた。 『 ……さっきはどうも。 』 公園に入り、しばらく適当に歩いてると男は直ぐに見つかった。 『 あぁ、キミはさっきの……どうしたかね? 』 さっきと変わらぬ格好だが、ケージの中には1匹実装石が入っていた。 …いや、実装石では無い。 「 てすぅ〜!出しててすぅ〜! 」 ケージの柵から手を出して俺に助けを求めてるのはモドキだ。 俺が下宿に置いてきたモドキとは違って大きめ……中実装レベルか。 しかし男は、そんなモドキの助けを呼ぶ声を全く気にせず、話を始めた。 『 実は俺、虐待派で、アンタの話に興味が湧いてね。 』 『 …興味? 』 『 ズバリ言うと金になるんだろ? なら、俺も小遣い稼ぎ程度で良いから一枚噛ませてくれないか? 』 『 …… 』 今度は男が黙り込む番だった。 どうやら俺の考えは間違ってなかったらしい。 『 俺もさ、それなりに虐待歴はある方だぜ? 実装石が住んでる所や、混血……モドキの居そうな場所も見当は付いてる。 1人より2人なら、見つかりやすいと思うんだけどな〜? 』 男はじっと俺を見ていた。 別に睨んでるわけでもないが、友好的な表情でも無かった。 『 …キミは虐待派と言ったな? 』 『 あぁ、確かにそうだけど……それが? 』 『 最初に断っておく。 このモドキを欲しがってるのは世間で言う愛護派と呼ばれる人達だ。 』 『 ……え? 』 今度は俺が絶句する番だった。 『 キミは知らんようだが、世の中には色々な人間がいるってことだ。 私の仕事は、そんな人達の要望に沿った個体を調達することさ。 』 『 それじゃ、アンタの仕事は…。 』 『 私はこれでも実装石専門のブローカーだ。 』 男の言うとおり、世の中には様々な趣味や嗜好の持ち主がいる。 例えば金を持て余した実装石の飼い主達。 そんな連中の間で、密かに需要の有るのが混血実装……つまりモドキだ。 人間と実装石の混血児という、いわばタブー的な存在。 だが、その外見は実装石とは比べものにならない程愛らしく、知能も高い。 声もダミ声でなく、成体になっても透き通った声が続く……らしい。 決して人前に出せるモノではないが、密かに飼いたい人達が多いと男は言う。 『 しかし現実問題としてモドキは数が少ないんだ。 市場の需要に、供給が追いついてないって事だな。 私だって今日は朝から探してるが……収穫はこれだけさ。 』 目配せをした方向は、男が持っているケージ。 その中で助けを求めている1匹のモドキ。 『 コイツは、少し大きくなってしまっているが仕方ない…我慢しておくか。 』 そこまで話を終えた時。 俺達2人の近くに、成体の実装石が1匹駆けて来た。 「 み、見つけたデスッ! 」 実装石がすがりついたのは、ブローカーの持っていたケージだった。 「 ママ〜!助けててすぅ〜!! 」 会話から察するに、どうやらこのモドキの親実装らしい。 「 ニンゲン、早くワタシの仔を返すデス!さっさとここから出すデ……ギャッ! 」 話の途中、実装石の顔面に蹴りが炸裂……ブローカーの爪先がめり込んだ。 『 商品に薄汚い手で触るな…! 』 先まで比較的温厚な口調だった男は吐き捨てるように呟いた。 「 そ……その仔は…よ、ようやくそこまで育てた……大切な仔デス… 」 尚も食い下がり、親実装はケージへ近寄ろうと這いずる。 すると男はケージを地面に置き、親実装の元へ歩いていった。 『 薄汚い手で触るなと言っただろうが……! 』 「 ギャッ………ギャアアア!! 」 親実装の手を一度踏み付けると、地面と磨り潰すように擦りつけ… 仔を奪われた悲しみと両手を失った痛みで親実装は一際泣き叫び始めた。 「 お願いデス……その仔を……返してデスゥ…… 」 涙ながらに不自由な身体で訴える親実装。 「 他の仔達はみんな………残ったのはその仔だけデス… 」 地面に体液と涙が零れる。 だがブローカーの男は眉一つ動かさず……足を上げて…。 「 ギャッ……! 」 あらん限りの力を入れ、親実装の頭を踏み潰した。 その瞬間、頭部から回りに赤と緑の体液が大きく飛び散る。 頭蓋骨が砕ける音が俺にもハッキリ聞こえた。 「 マ……ママ…? 」 ケージの柵越しに見ていたモドキの近くにまで親実装の血が飛び散っていた。 「 ママァ………そんな………てぇ…… 」 モドキが膝をつき、ケージの中から親実装の死骸に手を伸ばす。 しかし、その手は決して届かず……手を伸ばしながら、ポロポロと涙を流し始めた。 『 良かったな、これでもうこの公園に思い残すことは無いだろ。 』 ブローカーは平然と言い捨て、再びケージを持ち上げた。 『 …良いのかよ? 』 『 何がだね。 』 『 アンタ、愛護派相手の商売してんだろ? なのに……虐待つうか、虐殺しても良いのかよ。 』 『 そんなことは関係無いさ。 』 そして男は平然と受け答える。 『 顧客にとって、俺が何者であるかなんて関係無い。 適切な値段で最も欲する物を提供してくれさえすれば、 虐待派であろうと愛護派であろうと構わないのさ。 』 俺もダチも実装石は軽く数百匹は殺してきた。 様々な方法で、面白おかしく、遊び半分でブチ殺してきた。 しかし、この人は違う。 楽しみで実装石を殺したりはしない。 金のため……その障害になるから殺しているだけだ。 そして俺やダチ以上に数え切れない程の実装石を殺してきたのが想像できた。 『 …それで、さっきの話だ。 』 男は思い出し、話の続きを始めた。 『 俺にとってもキミが虐待派か愛護派かなんて意味は無い。 ただ、目的の個体を見つけてくれるか、どうかだけだ。 』 俺は無言で頷く。 『 これから一週間後、また私はここに来る。 それまでにどこでもいい… ここでも他の公園でも、どこでもいいからモドキを探しておいてくれ。 モノによっては、それなりの額は用意する。 』 『 じゃあ、早速質問させてくれ。 』 『 なんだね? 』 『 モドキも色々いると思うが、どんなモドキを高く買い取ってくれる? 』 これこそ、俺が知りたかったことだ。 この男に馬鹿正直に渡すつもりは毛頭無い。 どうせ安く買い叩かれるのがオチだ。 ただ、どんなモドキが最も需要が有るか、それだけ知りたかっただけだ。 それさえ知ってしまえば、後は此方で何とかして高く売りさばけば良い。 しかし… 『 ……特に指定は無いが野良だな。 』 …あまりにも漠然すぎる、期待ハズレな返答だった。 『 野良…?野良実装の混血かよ? 』 『 そうだ、あとはできるだけ小さい……生後間も無ければ文句は無いな。 』 まぁ、普通に飼い実装として求められるのも当然だが仔実装だ。 男の言うことは尤もなのだが…。 『 養殖……ではな…。 』 その呟きは小さすぎてよく聞き取れなかった。 そして俺とブローカーは一週間後にここで落ち合う約束をした。 個体にも依るが、1匹辺り数千円から支払うと言った。 まぁ、小遣い稼ぎとしては妥当だろう。 ダチ2人と適当に辺りの公園を散策して虐待しつつ、見つかればラッキー程度だ。 『 しかし残念だな。 』 『 ん? 』 『 あそこの森の中にもモドキの仔がいたんだ。 』 男が指差したのは、俺達が掻っ攫った親仔実装と仔モドキのいた場所付近。 『 そのモドキの仔がどうかしたのかよ。 』 『 絶品だったのさ。 』 『 はぁ…? 』 『 あのモドキは最高の商品だったってことさ。 あれだけの品質、滅多にお目にかかれんのに……誰かに先を越されたようだな… …惜しいことをした。 』 男は以前から目をつけていたらしい。 それで今日こそはと、意気込んで向かったが既に跡形も無かった…と言う。 そしてその言葉に裏は無く、心底悔しがってるように見えた。 『 アイツが最高の商品…? 』 男と公園で別れ、下宿への帰宅途中にふと呟いた。 今、俺の部屋の風呂場に閉じ込めている一匹の仔モドキ。 あの仔モドキを、ブローカーは最高の商品と評す。 部屋に帰るまでの間…あの言葉が頭から離れることは無く… 俺は何度も同じ呟きを繰り返していた
