タイトル:【虐】 初スクです。虐待というか駆除
ファイル:JISSOU FREAKS 1.txt
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初投稿日時:2006/07/09-23:11:32修正日時:2006/07/09-23:11:32
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『JISSOU FREAKS』






---20**年4月12日 某県芽伊山森林地帯 午後4時28分---


「…アレか」
「発見しましたデスか」

鬱蒼とした、何処までも深い森の中。
重く湿った腐葉土の上で、俺は匍匐姿勢のまま大倍率双眼鏡を覗き込んでいた。
隣には黒い実装服を着込み、ゴツイ革の首輪を着けた実装石が周囲を絶え間なく警戒している。

「……情報よりデカイな。3…いや、4m以上あるぞ」
「デ! そんなにデスか」

目を剥く実装を他所に、俺はスコープの中のそれを……今回の標的である悪性変異実装、その動きを観察し続ける。

ブナと思しき大きな樹の根元、おそらくは巣になっているのだろう洞の入り口付近に固まって動けずにいる山実装の親仔。数は七匹。
どれも大量にパンコンしており、腰を抜かしたのか必死の形相で両手を動かして後じさろうとしている。殆ど移動出来ていないが。

そして、震える山実装親仔の目の前には……

「アレが今回のターゲット———悪性変異の実装さん、コード“巨人実装さん”か」

4mを超える巨体を持った、何かの冗談か、さもなくば悪夢の様に馬鹿デカイ実装さんの姿があった。

実装さんは実装石の亜種の中でもヒトを超える体躯を持つ唯一の種類だ。
単純な腕力なら人間でも太刀打ち出来ないが、頭は例によってパーな為か駆除は比較的容易。間違っても俺達が駆り出される様な相手ではない。

だが……実際奴を目の前にしては、流石に理解せざるを得ない。
アレは、もはや実装のレベルに収まる代物ではない。

異常なまでに膨れ上がった肉体の所為か、ぴちぴちになった緑色の服を所々突っ張らせながら山実装に迫る巨人実装さん。
前屈みになった体勢はもう小山の様だ。
山実装の親は六匹の仔を背後に隠し、首をブンブン振りながら決死の威嚇を繰り返している。
効果は無論、有る訳が無い。
巨人実装さんがその丸太の様な(比喩ではない)腕を伸ばし、歯を剥き血涙を流す親を掴み上げる。
こうすると、否が応にもその体格差を感じざるを得ない。つーかデカ過ぎだろ幾ら何でも。
そのまま口元まで親を持って行き————

「……成程、楽しいお食事タイムって訳か」

ポイっと、スナック菓子か何かの様に成体実装一匹を丸ごと飲み込む巨人実装さん。
音が聞こえる訳は無いが、グチャグチャと汚らしく咀嚼する様子は御満悦そのものだ。
呆気無く親を食われた仔共は怯え過ぎて動く事もままならず、巨人実装さんのある種コミカルな食事風景を血涙と共に見物させられている。

「凄まじいデスゥ……」

いつの間にか実装用の双眼鏡で事態を覗き込んでいた実装石が、戦慄を込めて呟く。意識して出た言葉ではない様だ。

「ああ……流石に俺達を呼ぶだけの事はある。大した化物だ」

そうする間にも一匹二匹と次々に食われていく仔実装達。
純粋に食料として見れば豆粒程度にしかならんのだろうが、人が食っても味は良いとされる山実装だ。
奴にとっては御馳走なのだろう。もしくは娯楽の一つなのか。
ゆっくりと味わう様に咀嚼し、次の犠牲を手に取る。
最後の二匹まで減った時、既に仔の一匹は発狂しており、クルクルと回りながら巨人実装さんに自ら近付いていく。
無論当たり前の様に捕まり、そのまま一切の躊躇無く喰われた。



「テエェェーン! テエエェェーン! テチュアアアアア!!!」

それまで何とか泣くのを堪えていた、残り一匹の仔実装。
だが、最後の姉妹が食われた瞬間、我慢の限界を迎えたのか文字通り火が点いた様に泣き出してしまった。
そんな仔実装の様子を堪能する様にオッドアイをギョロギョロと動かす巨人実装さん。
どうやら仔実装の悲痛な鳴き声に酔いしれているらしい。

「デェェェズゥゥゥゥゥアアアアアア……」

地獄の底から響く様な低音。意味のある言葉ではない。
しかし、遥か1キロ向こうから事態を静観している男達には聞こえる訳も無いが、その声には紛れも無い悦びが滲んでいた。

そのまま何分経っただろうか、遂には泣き疲れて声を枯らした仔実装が黙り込む。
それに合わせて、ゆったりとくつろいでいた風情の巨人実装さんがのそのそと動き出した。
それに気付き、逃げようとする仔実装。しかし、腰が抜けた今の状態ではそれも叶わない。
もっとも、万全だったところでどうなった訳でもないが。

「テ、テェェェェ……」

緩々と腕を伸ばしてくる巨人実装さんを前に、仔実装は必死になって考える。
塵も同然の頭から火が吹き出すほどに。
そして。

「テ、テチュゥ……♪(た、たすけてテチュゥ……♪)」

媚び。
危機に陥った実装石が半ば自動的に行う、本能的行動。
その仔実装もまた、本能に従い、右腕を口に持っていき、軽く小首を傾げる。上目遣いで、精一杯の甘い鳴き声と共に。
助けて、何でもしていいからたすけて。おねがいだからタステケ。
余りにも意味の無い行為。
ガチガチと間断無く身体は震え、限界以上のパンコンで糞の匂いを撒き散らし。
血涙を滂沱と流す顔はクシャクシャに崩れ、汗と涙と涎と鼻水で汚れ切っている。
既にそれは媚びの体裁すら整っていない。
だが、仔実装には他に縋るものなど無い。だからこその本能。
永遠にも等しい時間。
そして——————



「何だ……?」

何やら信じられない光景が展開されていた。
最後に残った仔実装が媚びを売った途端に、巨人実装さんがその動きを停めたのだ。あまつさえ、巨大な身体を小刻みに震わせている。
まさか、媚びが通じたのか? ……否、待て。何かおかしい。
何だ、この嫌な雰囲気は。
兎も角、スコープに集中しようとしたその瞬間—————


「……………デエエエエエェェェェズゥウゥゥゥウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」


「!!」
「デ、デスゥッ!!?」

爆音の様な咆哮。遠く離れた俺達の耳にまで届く、有り得ないほどの雄叫び。
慌ててスコープを覗くと、至近距離でもろにあの声を食らった仔実装の頭がスイカの様に破裂していた。もはや音の凶器だ。
巨人実装さんは仔実装の骸を持ち上げると、そのまま荒々しく樹の幹に叩き付ける。
一度。
二度。
三度。
四度。
五度。
止む事のない打撃。一発目で既に仔が原型を留めていないのは言うまでも無い。
だが巨人実装さんは叩き付ける勢いを緩めず、叫びながら幹から木屑が飛び散るほどに強力な一撃を繰り出し続ける。
普通の実装なら……いや、実装さんでもとっくに腕が砕けている。
攻撃が三十を超えた辺りでようやく巨人実装さんは腕を止め————おいおい、幹に齧り付いたぞ。
うわ、樹皮どころかその下まで食い込んでやがる。
そのままバリバリと生木を削り取り、もう一度。

「まるで掘削機だな……」

我ながら間抜けた感想だが、他に何をどうしろと言うのか。
スコープの中の巨人実装さんは五度生木を噛み千切った後でようやく静まった。
仔実装はもはや残骸ですら無くなり、ただそこら中に散った体液だけが辺りを汚している。
巨人実装さんはそのまま仔実装が媚びを売った場所で大量の糞をひり出すと(どうやらパンツは元々穿いていないらしい)、森の奥へと消えていった。

「……」
「……」

顔を見合わせ、黙り込む俺と黒服実装石。

「……マジであんなん相手にすんの?」
「……それが任務デスゥ」

ハァ……と、どちらからともなく溜息。
そう、任務。奴を駆除する。それが俺達の任務。
正直言って死ぬほど面倒だが、やるしかないのだ。

それが、俺達《悪性変異実装駆除部隊(ジッソウ・フリークス・ハンターズ)》————その存在理由なのだから。

「行くぞ、J(ジェイ)」
「了解デス、マスター「」」

落葉を払って立ち上がり、帰路に着く。
黒服実装石———俺の相棒であるJもまた、来た時と同じ様に辺りを警戒しつつ後に続く。
焦る事は無い。奴を狩るのは既に決定事項。
考えるべきはそこではない。
逃れられないならば—————精々、愉しむまでだ。

……ああそうそう、自己紹介が遅れたな。

俺の名はハンター「」。
奴等を追い立て噛み殺す、一匹の猟犬だ。



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実装シリーズ。
それらがいつ、歴史に登場したかは誰も知らない。
しかし、いつの間にか当然の様に人類の隣に存在していた謎の生物。
人類とは異なる進化を遂げたもう一つの知性体だ、と言う研究者がいる。
否、それらは生物ではないのだ、と唱える学者もいる。
そんな人間達の堂々巡りの論争を他所に、実装シリーズはこの世で生を謳歌している。
あるものは隣人として。
あるものは愛玩動物として。
あるものは家畜として。
あるものは虐待対象として。
扱いは千差万別ながらも、人類は実装シリーズと共存し、その関係は永らく続いてきた。

しかし、時は移り変わり現代。
その関係に一つの、だが大きな亀裂が走った。
原因は分かっていない。
環境破壊の影響だ、という声もある。
進化の新たな形だ、という声もある。
答えは誰にも分からない。
判明しているのは一つ。
ある時を境に実装シリーズ最大の頭数を誇る実装石、その中から“異常な変化”を遂げた個体が出現する様になった、という事だけである。

実装石の突然変異は、これまでにも例が無かった訳ではない。
超能力を操る実超石。
獣にも似た姿を持つ獣装石。
人間以上の体躯を持つ実装さん。
数は少ないながらも確実に存在したそれら変異実装石。
だが、これらはあくまでも実装石の“亜種”。実装の枠から外れる存在ではない。

故に、この異常な進化を遂げた個体群。
突然変異的に凶悪な性質を持った新たな実装石は、それまでの実装石とは異なり、同種はおろか人間にすら害悪と成り得る存在と化した。

————『悪性変異実装(ジッソウ・フリークス)』。

実装の範疇から弾き出された凶悪なる実装を、ヒトは悪意を込めてそう呼んだ。


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---20**年4月5日 《悪性変異実装駆除部隊》本部 午後7時16分---


「実装さんの悪性変異?」
「うむ」

無駄に掃除の行き届いた一室、硬質のデスクに陣取るご老体の前で俺は鸚鵡返しに問い返した。

ここは《悪性変異実装駆除部隊》の本部ビル、その隊長室。
そして目の前のこの老人こそが、その隊長たるコードネーム『T』。
つまりは俺の上司である。

「詳細は報告を見てもらえば分かるが……かなりの大物じゃよ。
 通常の実装さんは2m程度。じゃがコイツはおそらく3mを超えておる。
 まさに巨人じゃな」

何処か楽しげに嘯くご老体。白髭を蓄え、目を細める様子だけを抜き取れば好々爺と言えなくも無い。
まさかこの老人が政府直轄の特殊部隊の指揮官だとは誰も想像しえまい。
まあ、実体は有り得ないほど狡猾なただのクソジジイだが。

「で……俺にそれをどうしろと?
 まさか一人で狩って来いなんて仰るんじゃあないでしょうね?」
「良く分かったのう。その通り、さすがは「」、慧眼じゃ」
「は?」

ちょっと待て。

「そんな訳の分からんデカブツを一人で?
 何ほざいてんだジジイ。遂にボケたか。
 そりゃあ良い、これを機にさっさと引退したらどうだ。今なら泣いて送り出してやるぞ」
「何言っとる、頼りになるパートナーがおるじゃろうが」
「そういう問題じゃねぇだろうが。お迎えが来る前に死なすぞジジイ」

相変わらず無茶苦茶を平気で口にする。
というかこんなんばっかじゃねぇか俺の任務。

「仕方なかろうが。他のハンターは皆出払っとる。例の『王国』騒ぎの一件でな」
「ああ、アレ……まだケリ付いてなかったのか。“色付き”も何人か投入してんだろ?」
「生憎数だけは多くてのう。大規模戦術を取れんのが特殊部隊のツライところじゃて」

そこだけは首肯しておく。我が身を鑑みれば尚更である。

「で、手空きは俺だけと。確実に構造欠陥あるよなこの組織」
「それはもうどうしようもあるまいな……で、どうじゃ「」。行ってくれるか」

言葉を切り、俺をじっと見詰めるご老体。
白い眉に半ば隠れた両眼からは既に先程までの穏やかな雰囲気は消えている。
いつも思うが、この眼は絶対にオイボレのそれじゃねぇよな。
しかしまあ、別に気圧される訳でも無いが承諾以外には選択肢が無いのも事実。

「はいはい何処へなりとも行きますよ。いちおー俺もハンターの端くれですからねー」

まあこの程度の嫌味は良いだろう。どうせ何も堪えやしないが。

「うむ。ではこのケース……貴様に任せるぞ“黒”」

最後だけ声音をガラリと変え、傲然と命じる隊長殿。好々爺の仮面など何処かへ飛んでしまっている。

「了解」

射殺す様な視線を受け止め、俺はぞんざいな敬礼を返した。



---20**年4月12日 某県芽伊山森林地帯 午後7時08分---


と、云う様なやり取りがあったのが今から約一週間ほど前。
現在、俺はその悪性変異実装、識別名称“巨人実装さん”を狩るべく、某県の奥深い山林に身を潜めている。
そうして捜索する事七日、遂にターゲットを発見した訳だが。

基地テントに戻った俺は、知り得た情報の再検討をしていた。
正直、アレほどだとは思わなかった。
これまでも実装さんの変異種は何度か狩った事はあったが、あんな化物はついぞお目に掛かった事が無い。
まず体格からして桁違いだ。熊も子供扱いじゃねぇかアレは。
そもそもどうやって直立してんのかも謎だが、実装に対して常識は通用しない。
しかしあのデタラメさ加減は無いだろうよ、と溜息の一つや二つは吐きたくなる。
まあ、だからこそ悪性変異指定を受けたのだ、とも言える。
こんな場所だ。物好きでもなければ人などそうそう来ない筈。
だが実際に指定を受けているという事は……つまり、被害が出たのだ。それも人間の。

最初は、山に入った猟師が行方不明になったとの事だった。
警察や近隣住民の大規模な山狩りでも見つからず……発見されたのは、血で汚れたベストのみ。
当日、猟師が身に着けていた物だった。
それが始まり。
そして、数日後————麓の村に、奴が現れた。
悪性変異指定……つまり駆除認定は、この時の惨劇に拠っている。
奴は猟師を喰い殺し、それで味を占めた。
そして匂いを辿って人里へ降り……そこでやらかしたのだ。
被害者は十五人。その内死者は八人、しかも五人は奴の胃の中へ消え、残りも全て重傷。
威嚇射撃にも怯まず、猟銃で撃たれもしたらしいが、どうも効果は無かったらしい。
たっぷり喰って満足したのか、そのまま奴は山奥へと消えた。
それが、今から二週間前の話だ。

人里にまで手を出したとなれば、もう手をこまねいてはいられない。
また何時、奴がその気になるか分からないからだ。
だがまあ、正直言って知れば知るほど面倒になる。
いっそ狙撃でもしてやりたいところだが、残念な事に狙撃銃は持ってきていない。
それに、偽石を砕けなければ何処に当てようとも十把一絡げだ。
化物にしか見えなくともアレも実装石。再生能力は折り紙付き。
というか、そういう部分はきっちり残ってるってのが腹立たしい。

まあ愚痴っててもしょうがない。今ある装備でどうにかするしかない。
ケースを開き、装備品の確認をする。

まず、俺の基本装備である対実装銃(アンチジッソウガン)が二挺。
これは実装弾(じっそうハジキ)という、実装石の体液に反応して破裂する特殊な弾を射ち出す電動ガンだ。
見た目にはエアガンに毛が生えた様な代物(実装弾も見た目はまんまBB弾)だが、実装相手には結構使える。
まあ、あの化物相手では何処まで通じるか不安だが。

携帯式段ボールトラップ。
掌大に圧縮されており、封を解けば偽段ボールハウスが出来上がる。
これに実装石を誘い込み、居付いたところで実装の体温に反応し着火、もろとも燃え尽きるという仕掛け。
都市部なら使えるが、山ではあまり意味が無い。

各種薬物。
皆様にも御馴染みのドドンパ、コロリ、シビレ、ゲロリ等一通り。
中には瓶に入った液体コロリなんて物騒な代物もある。
使い様によっては奴にも効果があるかも知れん。
ところで、普通のコンペイトウも一袋混じっているのは何故?

と、そこまで確認したところで、斥候に出向いていたJが戻ってきた。

「マスター、ただいま戻りましたデス」
「おー御苦労。んで、どうだったよ」

因みに俺とJが普通に話しているのは耳に付けている装着型リンガルのおかげだ。しかも双方向翻訳タイプ。
これと同じ物を付けていれば、普通に喋るのと同じ様に会話を交わす事が可能になる優れ物。
まあJに限っては別に双方向である必要は無いんだが、機能は活用するものだ。

「形跡を辿ってみたところ、奴は人里に程近い場所にある洞窟に巣を作っていることが分かりましたデス。
 周囲は拓けていて、気を付けないと接近で気付かれる可能性もあるかもしれないデス」
「そうか。ふむ……」

Jの報告を受け、少し考える。

まず、正面切って戦うのは愚策。
流石にあんなデカブツをまともに相手にする気は無い。
一撃でも喰らえばそれで終わりだろう。死にはしなくても戦闘行動に支障が出る事は疑いない。

かと言って搦め手が通用するかと言えば、それも恐らくは、否。
巨大とは言え実装さん。知能レベルは普通の実装とどっこいといった所だろう。
こういう手はある程度知能のある相手でなければ嵌らない。

となれば……

「マスター、その変な丸いのは何デス?」
「あん?」

そう言ってJが指差した(指は無いが)のは、ケースから転がり出たガシャポンのカプセルっぽいブツ。大きさは掌に余る程度。
数は十個ほどで、半透明の球体の中には緑色の何かが詰まっている。
出発の際、研究開発班の奴等から渡された“新兵器”とやらだった。
使うかどうかは運任せだったから一応持ってきてはいたが、ケースに放り込んで速攻で存在を忘却していた。

「ああ、これは……」

……待てよ、そう言えば……

観察時の奴の行動……何か妙な点は無かったか。
明らかに異常と取れる行動。
それは何が引鉄だったか。

「……使えるかも知れん」
「デ? 何か分かったんデスか?」
「ああ。もしかすると……それが役に立つかも知れない」

カプセルを一つ手に取る。
不思議そうな顔のJ(基本的に無表情だが)を尻目に、俺は頭の中で作戦を組み立てていく。
かなり大雑把だが、あまり拘り過ぎても対応し切れない。
その場その場でどうにかするくらいの気構えでなければこんな商売はやっていられない。

そうして編んだ作戦をJに伝える。
コイツの行動も作戦の重要なポイントだ。それだけに危険度は高い。

「了解デス、マスター「」」

しかしJは躊躇う事無く頷く。恐れる様子はまるで無い。
当然だ。実装とは言えコイツもまた狩人。
獲物相手に震えてなどいられない。

そして、全ての段取りは決まった。

決行は明日。

奴を——————狩る。



---20**年4月13日 某県芽伊山森林地帯 午前4時00分---


翌日。まだ薄暗い早朝、俺とJは奴の巣穴の約20m手前に陣取っていた。
既に下準備は完了し、後は決行を待つのみ。

俺は黒い戦闘服にベルトキット、腰に対実装銃二挺とコンバットナイフを差した完全装備。
しかも背にはゴツイ革ケースまで背負い、仰々しい事この上無い。
Jもまた、黒い戦闘用実装服に実装仕様のナイフを二本背負っている。

「予定通り行くぞ……準備は良いか」
「いつでもデス」

軽く目配せし合い、頷く。
Jは俺から離れ、大きく迂回しつつ巣穴から最短距離にある茂みに身を潜める。

それを見届け、俺はキットから大型の癇癪玉を取り出す。
一つ、深呼吸。
ライターで導火線に火を付ける。爆発までは三秒。

では、狩りの開始と洒落込もうか。

思いっ切り癇癪玉を放り投げる。
狙いあたわず巣穴の中に飛び込み、大量の煙と騒音を撒き散らす。

「デエェェェガガアァァァアアアーーーーーー!!!!!!」

腹の底を震わせる様な雄叫びが穴から響く。
奴さんの御出座しか。随分と粋な目覚ましだったろ?

少し待っていると、見るからに怒り心頭といった様子の巨人実装さんが飛び出してきた。
ここからでも真っ赤になった顔が良く見える。
というかやっぱデケェ。ここまで至近距離だとかなりの迫力だ。
実装特有の面構えは変わらなくとも、そこに秘められた圧倒的な凶暴さは隠し様も無い。
流石に駆除認定を受けるだけの事はある……震えるほどにゾクゾクしてくる。

安眠を邪魔され、怒り狂っている奴はキョロキョロと辺りを見回している。
オッドアイをしきりに擦り、何か動くものが無いかと必死になっている様だ。
しかし残念ながら目の届く位置に俺達は居ない。
匂いで追うにしても昨夜念入りに消臭措置は取っているから、それも殆ど不可能。
まあそうでなくとも投げ込んだ癇癪玉の煙には嗅覚を微妙に狂わせる薬が混入されているから、今の奴は何が何だか良く分からん筈だ。
……多分。

さて、ここから作戦は第二段階。
もしこの段階で奴が何処かに走り去っていたらそれはそれで面倒だったが、幸いにも状況を把握出来ていない様子。
ならば、さっさと進めよう。奴の気が変わらん内に。

俺は傍らに置いた黒いビニルの包みを解き、中からあのカプセルを取り出す。
カプセルの上部には丸い凹み(スイッチ)があり、ここを押して暫く経てば自動的に開くという仕掛けだ。
取り出した十個全てを並べ、その中の一個を手に取り、スイッチを押す。
そして、

「……ふっ!!!」

力の限り、オーバースローでぶん投げる。
一直線に飛んだカプセルは過たず奴の顔面に吸い込まれ、

「デェズゥアアッ!?」

じたばたと暴れ回る奴の醜い面に直接ぶち当たる。
これは別にダメージを与えたい訳ではなく、気を引く為のものだ。
……そう言えば、この間は別としても、この距離でリンガルが反応しないのは妙だな。
もしかすると奴は意味のある言葉を発するほど知能が発達していないのか?
それとも、知能も何もかも犠牲にして————あんな悪性変異を遂げたのだろうか。

兎も角、思い通り奴の動きが止まった。しかも、明らかに何が起こったのか分かっていない。
唸りながら視線を忙しなく動かし————少し離れた位置に転がったカプセルを発見した。

「デガアァァァ……?」

首を傾げている巨人実装さん。まああんなモン見た事も無いだろうから当然だ。
と、そこで突然カプセルがパカっと開く。
その中から出てきたのは……

「テッテレー♪」

万歳ポーズを取りながら珍妙な産声を上げる、一匹の仔実装だった。
仔実装はカプセルからヨチヨチ這い出すと、伸び上がってからテチ〜と小首を傾げる。
暫くそのままでいたが、やがてゆっくりと目の前の壁(にしか感じられない巨人実装さんの足)に向けて歩き出した。

「デエェェェェ…?」

頭にハテナマークでも浮かべそうな巨人実装さん。
興味をそそられたのか、その場にしゃがみ込んでテチテチ歩いてくる仔実装を見詰める。
仔実装がすぐ傍まで来たところで、巨人実装さんが両手でひょいと仔実装を持ち上げた。
人間が掌で何かを掬う様な感じだ。
仔実装は自分の数百倍は大きい巨人実装さんに持ち上げられても怯えた様子を見せず、ちょこんと奴の両手に乗っかっている。

「デェェエエエ……」

ますます不思議そうに首を捻る巨人実装さん。
自分を見て恐れない同属などこれまで存在しなかったのだろう。

そして、手の上の仔実装は—————

「テチュ♪」

媚びた。
瞬間、巨人実装さんの雰囲気が一変する。
眉間に深く皺が刻まれ、剥き出しにした歯を食いしばるその様子は、あの山実装の仔を虐殺した時と同じ、凶暴な何かを感じさせた。
同時に、俺は確信する。

……やはりそうだ。
奴は“媚び”に激しく反応する。
あの時の仔実装が取った行動。
親実装の威嚇にはぴくりとも反応しなかった癖に、それに対してだけはそれこそ粉微塵になるまで粉砕したあの怒り。

「デエェェェガアァアアァァアアアアアアーーーーー!!」

咆哮し、そのまま目一杯開いた口で仔実装を丸呑みする。
喰うなどという生易しい行為ではない。まさしく抹殺の為の行動だ。
それを見た瞬間、口許が吊り上るのが自分で分かった。

「————掛かった」

呟きと同時に、乾いた炸裂音。

「デェズゥアッッ!!??」

驚愕。
衝撃に仰け反り返り、尻餅を突く巨人実装さん。
その口からは、血や肉片と共に緑色の煙がもうもうと上がっていた。
加えて投げ出された足の付け根、大股開きになった股間の総排泄孔からはモリモリと緑色の糞が大量に垂れ流されている。

「デェガアァ!! デェェビィィィ!? デエェギュゥヴォォアアアア!!!!」

何処か濁り、音程の狂った悲痛な叫び。
見れば、ずたずたに引き裂かれた頬や口内、それどころか鼻の穴や頭巾に包まれた耳、飛び出しかけたオッドアイからも大量に出血していた。
声がおかしいのは喉もやられた所為だろう。
見た目ほどにはダメージは無いかも知れないが、奴の混乱は最高潮の筈だ。

これが今回の“新兵器”、その名も『仔実装ボム』。
生きた仔実装の頭に特殊なチップを埋め込み、糞袋にタンマリと爆薬を詰め込んだ、まあどう足掻いても愛護派から総スカンを喰らいそうなブツだ。
持ち運びの際には強制冬眠状態にしてからカプセルに詰め、使う時は今の様に標的の目の前に転がしてやれば良い。
チップによって行動を制御された仔実装は「目にした実装石(と思しき物体)に近寄る」事と、そして「媚びを売る」以外は何もしない。
誰もがご存知の通り、実装石という生き物は基本的に欲望の塊だ。
そんな奴等の目の前に美味そうな仔実装が無防備にしゃしゃり出てくれば、末路は自ずと決まっている。
そうして仔実装が喰われるか、もしくは単純に死にさえすれば腹の爆薬に点火、普通の実装なら三匹纏めて消し飛ぶ威力の爆発が起きる、という仕組みだ。
一言で表すなら、実にえげつない代物である。

……とまあ、コンセプトは分かるが、ぶっちゃけ色々と微妙で、扱いも簡単とは行かない。
しかし今回の場合はまあ相手が特殊だった所為か、ある意味予想以上に上手く行った。
さあ、ここから畳み掛けよう。奴に優位など与えはしない。

俺は予め取り出しておいた残り九個のカプセルを全て起動し、次々に放り投げる。
山形に飛んだカプセルは地面に落ちるなり、次々に「テッテレー♪」と仔実装を生み出していく。
そして、痛みに悶える巨人実装さんに向けて、一斉に歩き出していった。

「デェズゥゥ!? デエェェジャアァァァァーーー!!!!」

長い髪を振り乱し、自らがひり出した糞溜めの中でのた打ち回っていた巨人実装さんがそれに気付く。
混乱の極みにある奴は近付いてくる仔実装を見るや、歯を剥き威嚇を繰り返しながら、手当たり次第に両腕を振り回し始めた。
最接近した一匹が右腕に叩き潰され、直後、潰した腕と地面の間で爆発が起こる。

「デェエズァアアッッ!!??」

再度の苦鳴。
右腕の先端部分がずたずたに裂け、盛大に血が吹き出している。
爆薬の中にはコロリと同様の成分も含まれているから、実装の再生力を以ってしてもそう簡単には傷は塞がらない。
ホント、つくづくえげつねぇなコレ。

既に我を忘れた奴の頭には、仔実装と爆発の因果関係など端から無いに違いない。
両腕でがむしゃらに、蚊を振り払う様な仕草をしながら吼え猛っている。
そうこうする内に他の仔実装も足元まで到達し、図った様なタイミングで媚びを売り出した。

「テチュ♪」
「テチュ〜♪」
「テッチュウ♪」
「「「「テッチュウウ〜〜〜ン♪♪♪」」」」

甲高い鳴き声の混声合唱。
状況への混乱と傷の痛み、そして媚びに対する激烈な嫌悪感。
元から有るか無きかの思考力など完全に消し飛び、巨人実装さんは恐慌状態に陥った。
晒された総排泄孔から爆発的な勢いで馬鹿げた量の糞が噴出し、滅茶苦茶になった顔面からは体液が滝の様に飛び散っている。

「デェズゥゥゥウ!! デェェガアアアアーーーーーー!!!!!」

両腕を大きく振り上げ、一閃。瞬時に二匹の仔実装が粉砕され、爆発する。
血飛沫を撒き散らしながら、尚も迫る仔実装を掴み上げ、両手で押し潰す。また爆発。
両腕の先は弾けた様に爆ぜ割れ、抉れ裂けた傷口から止め処も無く血が流れる。

あの図体だ、血液量も相当の筈。
だが実装はヒトとは違う。どれだけ血を失おうとそれが死に直結する訳ではない。
同様に幾ら傷を与えようと、それだけでは足りない。
やはり、実装石の核————偽石を砕かない事には終わらない。

恐慌のままに最後の仔実装を叩き潰した頃、巨人実装さんは表面的にはズタボロになっていた。
だがまだだ。この程度でどうにかなる相手では無いのは分かり切っている。
巨人実装さんは荒い息を吐きながらプルプルと力無く立ち上がり、住処である洞窟の方へと身体を向ける。
巣に逃げ帰る気か。ハ、させると思ってるのか。
癇癪玉を取り出し、奴に向けて投げる。届きはしないが構わない。
これは合図だ。
奴が足を一歩踏み出すと同時に破裂し、盛大に音を立てる癇癪玉。
それと同時に茂みから飛び出す。

「デズッ!? デェ、デェガァアアアアア!!!!」

更なる衝撃に慄く巨人実装さん。
そこへ、俺と同じく待機していた茂みから飛び出してきたJが弾丸の様に走り込んできた。
その速度は普通の実装を遥かに超え———否、おそらくは天敵である実蒼石さえも凌駕している。
Jは走りつつ背に括り付けられた鞘から二刀のナイフを引き抜き、奴に気付かれぬまま股の間を走り抜ける。
すれ違いざま、両足の内側を深く斬り付けながら。

「デェェギャアアアアアアーーーーーーース!!!!!!」

これまでとは少し違う悲鳴。
余りの痛みに地響きを立てながらその場で引っ繰り返り、じたばたと無様に泣き喚く巨人実装さん。
骨が見えるほど深く斬られた足からはだくだくと血が噴出し、止まる気配を見せない。
当然だ。Jのナイフにはコロリやシビレが特別な処方で精密配合された劇薬が塗布されている。
その再生阻害作用は先の爆弾の比ではない。

飛び出した俺は走り抜けたJと入れ替わる様に奴の近くで立ち止まり、腰から二挺の対実装銃を抜いてフルオート射撃を加える。
電動ガン特有の銃撃音と共に無数の実装弾が奴の足の傷口、Jが斬り付けた切創へと殺到する。
着弾し、傷口に潜り込んだ実装弾は巨人実装さんの体液と即座に反応し爆発————小さな破裂音が連続する。

「デギッ! デガッ! デギュッ! デェェェエジャアアアーーーーーーー!!!!」

傷口を捏ね繰り回される痛みに悶え苦しむ巨人実装さん。
毎分二百発で撃ち出される、弾倉に収まった全ての弾丸を両足に均等に喰らい、遂には半ばから千切れて弾け飛んだ。

「まだだ————J!」
「デスッ!!」

弾倉を交換しながらJに呼び掛ける。
Uターンして戻ってきていたJは、デタラメに繰り出される奴の両腕を巧みに回避しながら腕を何度も斬り付け、その度に汚れた血を噴き出させた。

「離れろッ!!」
「了解デスッ!」

再度の呼び掛けに素早く後退するJ。
そこへ更なる追撃、再装填完了した対実装銃で両腕を狙い、足と同じ様に半ばから吹き飛ばす。

「これで————終わりだ!!!」

両手の銃を納め、ベルトキットから液体の入った瓶とコンバットナイフを引き抜く。
瓶を奴の真上に投げ、ちょうど落ちてきたところへナイフを投擲。
一直線に飛んだナイフは狙い違わず瓶に命中しこれを破壊、中に入った液体————濃縮液体コロリを雨の様に降らせた。

「デェェーーーーギャオオオオオオオbべbks=&んhjふc%£smg:@yーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

硫酸の様な劇薬に満身創痍の肉体を焼かれ、断末魔にも似た絶叫を上げる巨人実装さん。
蒸気機関の様に全身から化学反応で生じた煙を上げ、ビクビクと意思に拠らない痙攣を繰り返している。
もはや抵抗力は無きに等しい。再生力も極限まで落ちている、いきなり復活して襲い掛かってくる可能性も皆無だろう。

「……仕留めたデスか?」

俺の投げたナイフを回収し、傍らへ戻ってきたJが問う。
俺はナイフを受け取りながら口を開いた。

「……いや、まだ死んではいないだろう。アレだけの巨体だ、生命力もそれに見合った分だけある筈。
 ——————確実に、止めを刺す」

言い置き、俺は異臭を放つ巨躯へと歩み寄る。
濃縮コロリで焼かれた体表面は不規則に火傷の様に爛れ、グズグズと気色悪い跡を晒している。
デビュゥ、デビュゥと濁った息を断続的に吐きながら震える顔も同じ。
ただオッドアイだけは三割ほど飛び出したまま、何処か別の世界を見詰めている様だ。

「…」

俺は背中に手を回し、手探りで背負っていた革ケースの先端部を開く。
中から飛び出した金属を掴み、一気に引き抜いた。
ゴクリ、とJが息を呑む音が聞こえてくる。
それも当然だろう。
俺の手に握られているのは、長さ1mを超える長大な鈍器、通称バール(r。
俺専用に造られたバール(rは通常の物より遥かに重く、破壊力重視の仕様になっている。
名実共に、俺の切り札————悪性変異実装を仕留める為の、俺の真打である。
鈍く光るバール(rを手に提げ、俺は倒れた巨人実装さんのすぐ側まで歩みを進めた。





全身を苛む痛みに震えながら、異形————巨人実装さんは考えていた。
何故。何故こんな事になったのか。
何故こんな苦しい思いをしなければならないのか。
自分は、強くなったのに。誰にも負けない力を得た筈なのに。



かつて————巨人実装さんが、まだその肉体を手に入れる前。
“彼女”が普通の仔実装だったその頃。
飼い実装だった親がその傲慢さ故に山へ捨てられ、そこで過ごさざるを得なくなった。
生存能力では野良実装にも劣る飼い実装、それも仔を抱えたまま生きるなど出来る筈も無い。
だが幸運親仔は山実装のコロニーに行き着き、そこで最下層ながら生活を送る術を得た。

まさに望外の幸運。これ以上は望むべくも無い。
しかし親実装はそれを弁えず、餌を取れない事に腹を立て、それを全て周囲の責任に転化した。
ほどなくして崩壊は訪れる。
空腹に耐えかねた親実装が、山実装達の狩りの間にコロニーの仔を喰らうという事件を起こしたのだ。
当然の様に親実装は迫害され、苛烈な虐待の末に生きたまま谷底へと投げ棄てられた。
しかし山実装達の怒りは収まらず、残った仔達にその矛先が向いた。
その日から“彼女”にとって世界は地獄と化した。
終わる事の無い暴力。最下層の更に下へと落とされ、奴隷以下の扱いを受ける日々。
拠り所である髪も服も失い、姉妹達は徐々に殺されていく。

虐待を加える同族の中には、“彼女”と良く遊んだコロニーの仔の姿も有った。

———泣けば、泣いた分だけ殴られた。
———怒れば、怒った分だけ蹴り飛ばされた。
———抵抗すれば、抵抗しただけ糞を喰わされ、ボロボロにされた。

最後に残ったのは————媚び。
ひたすら許しを乞い、慈悲を乞い—————その為に媚びた。
それしか、残っていなかった。
だが、それも—————笑いながら砕かれ、同じ様に肉さえ喰われた。

六匹居た姉妹は既に消え。
そうして最後に残った“彼女”もまた、姉妹と、そして親と同じ運命を迎えた。
迎えた、筈だった。

苛烈な同属からの虐待に崩壊寸前だった“彼女”の偽石。
原因は分からない。だが理由ははっきりしている。
憎しみ。
この世の全てに対する憎しみ。
泣いても怒っても、そして媚びてもどうにもならない、終わる事の無い苦しみ。
死の淵まで来た時、“彼女”は思った。

————壊したい。

——————殺したい。

————————自分を苦しめる全てを。

そして“彼女”は—————“彼女”では無くなった。



……なのに。
………どうして。

どうして、ワタシはこんな目に遭っているんだろう。
この山で、ワタシに敵う奴なんか居なかった。
百匹以上いた山実装も、一夜で全て喰らってやった。
泣いて、震えて、最後には媚びてきた仔実装どもは、一匹一匹念入りに磨り潰してやった。
そうだ、誰もワタシには敵わない。ワタシは無敵だ。
ニンゲンだって、ニンゲンの持ってた変なモノだって、ワタシをどうにも出来なかった。
頭から丸ごと喰ってやって、その後はニンゲンのいっぱい居る場所まで行って同じ事をしても平気だったのに。

なのにどうして、このニンゲンには勝てない?
ワタシを冷たい目で見下ろすニンゲン。
良く見えないけど、手には長い棒みたいなのを持ってる。
逃げなきゃ。
どうして。ワタシは無敵。なのにどうして。
逃げないと。早く。
どうして。
ハヤク。
殺せばいい、いつもみたいに。
ハヤク。
ハヤク。

「これで……ようやく仕舞いだな」

ニンゲンが何か言ってる。
けど分からない。
逃げないと。ハヤク。ハヤク。

「お前が何故こんな悪性変異になったのか————それは分からない」

ハヤク。ハヤク。ハヤク。

「だが——————俺にとっては、どうでも良い事だ」

ハヤク——————

「お前は獲物。俺は狩人。……それだけだ」

ニンゲンの持った変な棒が振り上げられる。

「——————————じゃあな。精々あの世でも苦しめ、化物」

ワタシは———————





「——————————じゃあな。精々あの世でも苦しめ、化物」

言い切り、振り上げたバール(rを一気に振り下ろす。
折れ曲がった釘抜き先が正確に胸の中央を貫き、一瞬の硬い手応えの後、中にあった偽石を破砕する。

直後、

「————————————————————————————————————————————!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


胃の腑を貫く様な、大気を震わせる断末魔を放ち、巨躯—————巨人実装さんは沈黙した。

長い様な、短い様な時間が過ぎる。
ようやく引き抜いたバール(rの先には、砕けた翡翠の輝きが付着していた。
少しだけそれを目に留め————バールを振り、こびり付いた肉片ごと払う。

「これで……終了、デスね」
「ああ、終わりだ。ったく、最後までやかましい事この上無いな」

バール(rを納め、声の方向へ目を向けると、Jが神妙な様子で巨人実装さんの遺体を見詰めていた。
まあ、コイツもコイツなり思うところがあるだろう。
一歩間違えば同じになっていたかも知れないとなれば、尚更に。

「……ふむ」

俺は懐から煙草を取り出し、百円ライターで火を点け一服する。
深く吸い込んで吐き出すと、たなびく紫煙が森の空気に散っていった。
キットから取り出したコンペイトウ袋の封を破る。

「おい、J」
「デス?」

声に振り向いたJに、コンペイトウを一粒放ってやる。
手の中のコンペイトウを見詰めて何やら呆然としているJが、おそるおそる尋ねてきた。

「あ、あの、マスター「」……良いんデスか?」
「構わん。安いモンだ。良いからさっさと喰え」
「デ、デス……」

別に袋ごとやっても構わなかったが、コイツは確実に遠慮するから一個にしたのだ。
全く、コイツは実装石の癖に実装らしい事にはまるで興味が無い。
正確には、その欲望の全てをある一点に向けているからなのだが、それを言っても詮の無い事だ。

「……甘いデスゥ……」

噛み締める様にコンペイトウを味わうJ。
この程度の役得はあっても構うまい。

Jが食べ終わるのを見届けると、俺は無線機を使って麓に待機している処理班を呼び出した。
こちらから説明する事は現段階では無い。どうせ本部でやるのなら、今は面倒は御免だ。
巨人実装さんの死骸にシートを被せ、周囲に獣避けと嫌実装剤を撒いてから、茂みに戻ってケースを拾う。

「さて、帰投するぞ。人でなしの隊長殿に報告せにゃならん」
「デス」

いつの間にか薄暗い森にも光が差し込み、鳥の鳴き声が聞こえてきた。
密生した木々の隙間から注ぐ朝陽が眩しい。ほぼ完徹の身には応える。


—————やれやれ。これでようやく、ゆっくりと寝られそうだな。





『JISSOU FREAKS』CASE-1:『the BIG』....END

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