『 ん……? 』 俺は少し頭の中を整理しようと、頭を手で掻いた。 目の前にいるのは、さっきまで公園の実装石達にリンチを受けていた実装石。 その実装石が訳の分からない事を言っている。 行方不明になった飼い実装は怖い所にいるとかどうとか。 『 なぁ、その怖くて悪い夢みたいな場所って、どこなんだ? 』 「 たとえ話デスよ 」 『 ん〜……。 』 「 帰れないような怖い所……そんな悪い夢のような場所が有るかもしれないという事デス 」 『 夢のような、ね…。 』 そもそも実装石達にとって悪い夢のような場所って何なのか。 この二日間、街の実装石達に話し掛け歩いて、ある程度は理解した。 本能の赴くまま行動するコイツらの考えは第一に喰う事。 それから遊ぶ事や寝る事、んで性欲か。 こんな奴らが怖がるような場所。 少なくともこんな田舎町には有りそうに無い。 『 …ま、いいや。 そろそろ俺も飯の時間なんでな、帰るとする。 』 「 自転車に乗って帰るデス? 」 『 ん……?なんでオマエ、そんな事を知ってるんだ? 』 「 あそこデス 」 逃亡実装石は斜め上方向を指差した。 「 二日前、お兄サンがあの場所で自転車に乗ってるのを見たデス 」 そこは街並み全体を見渡せる高台だった。 『 何を言って……あ! 』 俺は思い出した。 そういえば二日前、この街に来た時、あそこから街を見下ろしてた。 『 けどオマエ、ここからじゃ人間の顔なんて分かんないだろ? 』 「 私は、あの場所が好きデス…だから、二日前もあの場所にいたデス 」 『 好きって? 』 「 あそこはとっても景色が綺麗デスゥ… 」 なんともまぁ、変な実装石もいたものだ。 景色を見るために、わざわざあんな高い場所まで登るとは…。 「 それに、あそこにはお花がたくさん咲いてるデス 」 『 花…? 』 「 とっても綺麗デスよ 」 見ると、芝生の所々に黄色や白い花が咲いている。 この歳になって花を、しかも雑草の花なんてじっくり見る気にもなれない。 それより、この実装石を見ていて花より何とかって諺が頭に浮かんだ。 実装石が花を愛でるなんてな。 『 …さて、俺はもう帰る事にするが、一応オマエにも頼んどくか。 』 「 デス? 」 『 さっき話した飼い実装らしき3匹を見かけたら後で教えてくれ。 』 「 飼い実装デスね 」 『 そうだ、また明日も公園に来ると思うからな。見つけてくれたら金平糖をたくさんやる。 』 「 た、たくさんデス!? 」 逃亡実装の目の色が変わった。 本当にコイツ、欲望に忠実すぎるというか……いや、単純に馬鹿なんだろうな。 『 あ、あぁ…たくさんだ。 』 「 分かったデス!絶対見つけだすデス!! 」 最後まで話を聞かず、逃亡実装は途端に凄まじい勢いで走り去っていった。 昨日、今日と大勢の野良実装石に飼い実装を探しておいてと頼んでおいた。 大抵は金平糖を餌にすると喜んで引き受けてくれたのだが…。 今、頼んだばかりの逃亡実装を思い出して呟く。 『 あの実装石は一番期待できないな…。 』 溜息を一つつくと、俺は駐輪場へ足を向けた。 飼い実装探しは3日目の朝を迎えた。 出発しようとしたところ、家の門でおばさんに見送られる。 『 苦労させてすまないわね。 』 『 いえ、知らない街を見て回るのも楽しいですから。 それより見つからなくてすみません……何もお役に立てなくて…。 』 『 はは、そんなの気にしないで! それどころか、若い子が来てくれたおかげで旦那も喜んでるんだから。 』 おばさんは笑って俺の謝罪を返してくれた。 しかし宿と飯の世話になっている以上、何かしらの成果を上げたいものだ。 1日目と2日目で、この街で回れる場所は大体回ってしまったが。 さて、今日はどこから行くべきか。 『 ……そうだ、飼い主さんに聞きに行ってみる? 』 『 はい? 』 『 だから、探してる実装石の飼い主さんよ……何か分かるかもしれないし。 』 するとおばさんは、飼い主の家の場所を教えてくれた。 あらかじめ電話して伝えておくから、今からそこへ尋ねて聞いたらどうかと勧めてくれた。 俺としては他に行く場所も無い。 勧めに従って、そのお宅に向かうことにした。 『 今回は、うちのグリンの件で御迷惑をおかけして…。 』 『 いや、いいですよ。バイト代わりにさせて貰ってますので。 』 おばさんの指示で着いた飼い主の家はそれなりに立派な物だった。 そして飼い実装3匹の飼い主は、穏やかな中年の女性。 多分、おばさんさんと同年代で話し友達なのだろう。 『 それでですね、グリンちゃん…でしたっけ? そのグリンちゃん達が、他に行きそうな場所に心当たり有りません? 』 『 分からないですね…ほとんど家から出した事が無くて。 ですから、今どこで何をしてるのかと…それを考えると心配で、心配で…。 』 中年女性は哀しげに表情を曇らせた。 そんな顔をされると見つからない気がします、とは言いたくない。 こうして話をしていて思ったのだが、実装石が逃げ出すような酷い飼い主には見えない。 あくまで自分からの視点だが。 『 そうだ、実装石達は自分で外に出ることができますか? 』 『 えぇっと……縁側の方からは簡単に出られますね。グリンの身長なら鍵にも手が届きますし。 』 『 じゃ、仔実装達を連れて外に出る事は多かったんですか? 』 『 いえ、今まで一度もそんなこと有りませんよ。 あの子達には勝手に外に出ないように言いつけておきましたし、 子供達を連れて外出なんて何か有ったら危ないじゃないですか。 』 それもそうだ。 飼い主同伴の散歩ならともかく、実装石だけで外に出るのは飼い実装とはいえ危ない。 ここは田舎で、事件らしい事件は全く起きない。 要するに平和なわけで、家に鍵をかけて出掛ける事もほとんど無いそうだ。 だからこそ、飼い実装が外に出て行くのも可能という事になる。 『 …分かりました。 余り期待されても困るのですが、頑張って探してみますよ。 』 頑張るといっても、何を頑張ればいいのか。 飼い主さんの家を出ると、俺は街中を自転車で駆け回った。 公園以外を一通り回っても、飼い実装3匹に関する手掛かりは無し。 実装石達からは何も有力な情報は得られない。 少し疲れてしまった。 どこかで休もうか、と俺は道端の自販機で紅茶を出し、河川敷にペダルをこいでいった。 「 見つからなかったデス? 」 『 あぁ、残念ながらな。 』 仔実装達は、俺が持ってきたスポンジのボールで楽しそうに遊んでいる。 隣に腰掛けるのは話し相手の親実装。 缶に口を付けながら、その光景をぼんやりと眺めた。 『 はぁ…。 』 飼い実装達は見つからない。 だが、こうして冷静に考えてみると、親子実装3匹は新しい生活を求めて出て行ったか、 気紛れに外出して不幸な事故に遭い、命を落としたと考えるのが妥当だ。 あの飼い主さんは可愛がってくれたかもしれないが、密かに不満が有ったかもしれない。 まだ見たこともない外の世界に惹かれて出て行ったのか。 あるいは、飼い主に連れられず自分達だけで散歩に行きたくなったのかもしれない。 実装達は直ぐに帰ってくるつもりだったかもしれないが、何か不幸な事故に遭った。 そして帰れなくなってしまった。 どちらにしろ、あの飼い主さんには気の毒だが帰ってこないだろう。 仮にまだ生きているとしても、俺一人じゃ探すには無理が有る。 この街だけでも実装石は何百匹と生活している。 もし飼い実装達が見つかるのを避けて隠れているとすれば、どうにもならない。 結論からすると、俺には見つかりそうに無い。 「 テチー! 」 『 …ん? 』 ふと鳴き声に引かれて傍を見ると、仔実装の一匹が俺の近くに来ていた。 両手でボールを抱え、俺の方を見上げてテチテチと騒いでいる。 「 オニイチャン、あそぶテチー 」 仔実装はボールを此方へ見せるように持ち上げた。 『 ……そうだな、それじゃお前はそっちへ行ってろ。 』 「 はいテチ- 」 俺が指を差した方向に、仔実装は危なげな足取りで走っていく。 50センチ程離れた場所で止まると此方へ振り向いた。 『 ほら、しっかり捕ってみろ。 』 俺はボールを地面に置くと、指で押してゆっくり転がす。 仔実装がよたよた歩きながらも転がるボールに近寄り……ぴたっと両手で受け止める。 「 テチー♪ 」 仔実装は受け止めると嬉しそうに声を上げ、ボールを俺の方に押して転がし返す。 コロコロと乾いた地面の上を転がるスポンジのボール。 俺は人差し指で止めると、やはり仔実装の方へゆっくり転がす。 その繰り返しでボールは仔実装と俺の手を行ったり来たり。 そのたびに仔実装は楽しそうに声を出して、はしゃいで見せた。 「 子供と遊んでくれてありがとうデス 」 『 別に。 』 「 …なのに、お役に立てなくてゴメンなさいデス 」 『 それはいいさ、もう。 』 「 テチチー♪ 」 ボールを受け止めるたびに仔実装は嬉しそうに鳴き声を上げる。 「 また行くテチー♪ 」 此方に転がす時も、やはり嬉しそうな鳴き声。 俺と仔実装は飽きることなくボール遊びに興じていた。 「 オニイチャン、ワタチともあそんでテチ- 」 『 ん…? 』 もう一匹の仔実装は、新聞の広告を持って来た。 『 それ、どうするんだ? 』 「 よんでほしいテチ! 」 『 どれどれ、これは……と…んっと………。 』 それはお菓子の商品が掲載された広告だった。 色とりどりの紙面は、仔実装の目に珍しく写ったのだろう。 「 これは……なんてよむテチ? 」 『 それは" アイス " だ。ア・イ・ス。こうやって書くんだ…。 』 俺は地面に指で文字を書いて、見せてあげた。 「 テー……こうテチ…? 」 仔実装もそれに習って地面に手を使って文字を書いてみせる。 よれよれのいかにも幼稚園児が書いたようなミミズ文字だが、それでも何を書いているのかは分かった。 『 そう、そうだ……おまえ、頭いいじゃないか。 』 「 テチュー♪ 」 褒められて嬉しかったのか、俺に向かって両手を上げ、振り回して喜んでいる。 まだこんなに小さい実装なのに…俺は心の中で感心してしまった。 思わず自然に笑みが零れる。 「 こんどはワタチの番テチー! 」 他の仔実装もボールを抱えて近寄ってきた。 またさっきのようにボール遊びをして欲しいようだ。 『 分かった、慌てないで順番だ。 』 「 お前達、余り迷惑をかけてはダメデスよ? 」 子供達に釘を刺しつつも、親実装の表情も柔らかで嬉しそうだ。 俺は受け取り易いようにゆっくりボールを転がし、その一方で地面に文字を書いて教えた。 『 なぁ、” カセン “ 。』 「 …それは何デス? 」 『 お前の名前だ。河川敷に住んでるから ” カセン ”って名前にした……安直だな。 』 「 わ、私の名前デスか…? 」 親実装は、驚いて俺の顔を見上げた。 『 それとも、お前は他に名前が有ったか? 』 「 いいえ、そんなの無いデス。 」 『 じゃ、この子達は…” ケン ”、” コウ ” って名前で、どうだ? 健康に生きられるようにって、2つに分けただけなんだけどな。 』 「 いいデスけど…どうして、私達に名前をつけるデス? 」 『 俺がお前達を飼おうと思ってな……どうだ? 』 「 えっ、本当デスか!? 」 『 その代わり、今の俺は居候でお前達を家に入れる事はできないんだ。 だけど家の人に…おばさんに頼めば、家の敷地内で暮らす事くらいは許してくれると思う。 まぁ、3日もすればここから出て行くしな。 』 「 お兄サンみたいな人に飼って貰えるなんて嬉しいデス! 」 『 世辞は言わなくて良い。 一応、飯は三食用意するが、俺は貧乏だからあまり期待するなよ? 』 「 オニイサンに飼ってもらえるテチー♪ 」 「 しあわせテチ♪ 」 親実装と一緒に仔実装達も手を振り上げて喜んでいる。 飼い実装探しをして、たくさんの実装石と話をした。 大抵は意地汚くて俺のポケットにある金平糖の事しか頭に無いような奴ばかりだった。 正直な所、頭から踏み潰してやりたい衝動には何度も駆られた。 ストレスも溜まった。 だけど、この親子実装は違う。 こうして一緒に居ると悪い気はしない。 一人旅は気楽だったが、話し相手が居なくて寂しかったかもしれない。 飼い実装は探す事ができなかったけど、こいつ等と出会えたのは幸運かもしれなかった。 『 …それでだな、カセン。おばさんに聞いてくるから明日まで待っててくれ。 多分、大丈夫だとは思うが、一応聞いとかないとな。 』 「 分かったデス!明日までに身体を綺麗に洗っておくデス! 」 お前達の服は充分に綺麗だと思う。 おばさんさえ許してくれれば、一緒の部屋に住んでもいいくらいな。 『 …っと、そろそろ行かないとな。まだ今日は行くところが有るんだ。 』 「 明日を楽しみに待ってるデス! 」 「 オニイチャン、また明日テチ! 」 俺は親子実装達の別れの言葉を背に受けながら、その場を後にした。 こうして俺は飼い実装探しを諦める事にした。 今日、飼い主さんに改めて頼まれたばかりだが、少なくとも俺一人では見つからないと思う。 それはそれで仕方ないのだが……夕飯へ帰る前に。 『 一応、聞いておかないとな。 』 俺は再び公園の駐輪場に自転車を停めた。 あの逃亡実装の働きには全く期待してはいないんだが、一応。 本当に一応。 時間の無駄だとは分かってるんだが一応だ。 しかし今になって気付いたが、どうやって探せばいいんだ。 公園の中から、あの一匹を探す方法を考えてなかった。 第一、実装石なんて俺に見分けが付かない。 そこらで出歩いてる実装石と昨日の逃亡実装の区別なんぞつかん。 「 こんにちはデス。 」 『 ん? 』 立ち尽くしていた俺に何かが声をかけてきた。 足元には実装石が一匹、俺を見上げて立っている。 『 …もしかして、昨日助けた実装石か? 』 「 そうデス、見れば分かるデス 」 いや、分かんねーよ。 しかし……さっき会ってたカセン達と見比べると、やっぱり見劣りする。 やはり服は汚れて、破れかけてるし、染みだらけ。 デヘデヘとだらしなく笑って、ヨダレをたらしている表情には知性の欠片も無い。 僅かに見えるパンツには白い清潔な部分が無い。 『 ま、いいさ。それで、飼い実装は見つかったか? 』 「 それが……一生懸命探したのデスが… 」 機嫌良さそう笑っていた逃亡実装は、途端に言葉の歯切れが悪くなる。 まぁ、最初から期待もしてなかったし、今ここに来たのも本当に念のためだった。 ただコイツもコイツなりに頑張ったと思う。 それに、さっきまでカセン達と楽しい時間を過ごした後だ。 気分が良いので、コイツを責める気にもなれない。 『 探してくれてありがとよ。これ、大事に食べろな。 』 「 …デ? 」 俺は金平糖の入った小さな袋を逃亡実装に持たせた。 中には5,6粒くらいしか残ってないが。 「 あ、ありがとデス!貰って良いデスか!? 」 『 あぁ、持っていけ。 』 「 本当にありがとうデス!! 」 突然のご褒美に驚き、嬉しいのか、頭を何度もペコペコ下げる。 悪い気はしなかった。 コイツ、身なりは絶望的に汚いが、人から物を貰って素直に感謝している。 他の実装石とは違い、貰って当然、みたいな態度は全く無かった。 『 いや、いいんだ。それから、もう飼い実装は探す必要も無いからな。 』 「 え…見つかったのデスか? 」 『 見つかってない。ただな、なんかもう…見つからない気がして…。 』 「 デスか…。 」 暫しの沈黙。 西の空が赤くなってきたのに気付いた。 そうか、もうこんな時間なんだな…。 今夜の夕飯の報告会、どうやって切り出すか…と、少し考え込む。 『 …じゃ、もう帰るわ。 』 「 モグ……え……クチュ……帰る……ング……デス? 」 渡したばかりの金平糖、早くも口の中に入れてやがった。 野良実装にとっては贅沢な食べ物だというのに……節操も品性も無い奴だ。 『 大事に食べろって言ったんだが……。 』 「 ン…チュ……デ? 」 コイツは頭も良くないし服は汚いし食べ物には意地汚い。 更に品も無い。 しかし、なぜか憎めなかった。 その真正直な、嘘をつけない性格というか馬鹿な所は嫌いじゃなかった。 『 …そのまま食べながら聞いてくれ。ほら、慌てないでいいからゆっくり食べろよ。 』 「 デッ……ング……。 」 『 そういえば、お前の名前は? 』 「 ……デ? 」 金平糖を口に入れていた逃亡実装の動きが止まった。 『 無ければこれからお前を " ノロ " って呼ぶぞ? 』 「 いいデスけど……なぜ私に名前を付けるデス…? 」 『 何となくだ。それに名前が無いと、なんて呼んでいいのか分からないからな。 』 カセン達との後で、本当に気分が良かっただけかもしれない。 コイツにだって名前の一つ有ってもいいだろう。 少なくともムカつく奴ではないから。 「 ……どうして、" ノロ " という名前にしたんデス? 」 『 お前はノロマだからだ。 いっつも実装石に虐められて、哀れなノロマだからな。あはは… 』 「 " ノロ " ……私に名前デスか…。 」 『 はは……ん? 』 「 ノロマだから" ノロ "デスか…。 」 逃亡実装……ノロは、手に齧りかけの金平糖を持ったまま、何かを考えこんでいた。 自分の名前よりも、目の前の食べ物を優先するような意地汚い実装石だと思ったのに…。 珍しく何かを考え込んでやがる。 『 ……まぁ、というわけで帰る、元気でな。 まだこの街には2,3日いるつもりだから、気が向いたら遊びに来てやるよ。 』 日が落ちてきた…もう、帰って夕飯の時間だ。 さて、今夜はどう言い訳をするか…。 「 …ちょっと待ってくださいデス 」 『 金平糖ならもう無いぞ。 』 「 この公園に飼い実装は居ないデス 」 『 あぁ、そうだな。 』 「 この街の路地裏にも空き地にも、河の近くにも居ないデス 」 『 ん…? 』 「 本当に全部探したデスか? 」 『 …は? 』 「 実装石達が集まる場所だけでなく……集められる場所も全部探したデスか…? 」 『 え…お前、何を…? 』 「 …コンペイトウ、ありがとうデス! 」 それだけ言うと、素早くノロは公園の中に…実装石の群れの中に消えていった。 『 何、言ってんだアイツ………。 』 家に着く頃には、日は完全に暮れかかっていた。 『 おばさんには言いづらいな…。 』 飼い実装の探索中止。 飼い実装の件については、あらかじめ見つける保障は無いと言っておいた。 だが毎日豪勢な夕食をご馳走させてもらって、尚且つ宿まで借りている。 なのに結果は見つからず。 更にそこへ数日間とはいえ、実装石親子を飼うと持ちかけるのは気が引けた。 『 ただいま……。 』 意を決して、門を抜けると家の中へ入っていく。 情けないことだが声は小さい。 今回は頭を下げて、他に農作業か何か他の仕事で挽回させてもらうとしよう。 多分、明日からおじさんの手伝いだ。 世話になっている以上、それくらいするのは当然だろう。 『 ……居ない? 』 しかし返事は無かった。 玄関から家に上がり、台所を覗いてみるが姿が見えない。 この時間、いつもなら夕飯の用意をするために居るのに…。 『 ここにいたのっ!! 』 『 っ!……な、なんなんですか…? 』 大家さんに突然背後から大声で呼びかけられて、心臓の鼓動を早くさせた。 『 こっちに来て……! 』 『 え?え?な、なんですか、一体…? 』 『 とにかく急いで来てちょうだい!リンガルは持ってるわね!? 』 ロクに訳も説明せず、強引に俺を引っ張って走り出した。 俺を連れ出した先は、家から少し離れた所にある家。 そう、この家は… 『 グリンの家ですね。どうしたんですか? 』 『 仔実装が帰ってきたのよ! 』 『 え…。 』 『 だから、仔実装だけが帰ってきたのよ! 』 『 見つかったんですか!? 』 夕刻に近い時間。 グリンの飼い主がカーテンを閉めようとした所、庭に仔実装が倒れてるのを発見した。 かなり弱ってるが、飼い主に何かを話しかけてくる。 だが実装リンガルは俺に預けているため、急いで呼びに連れて来たというわけらしい。 「 テェ…ェ……。 」 家に上がると、仔実装は実装用ベッドに横たわっていた。 その傍らで、飼い主が仔実装の手を指で掴んで看病している。 弱々しく、声を出そうとするが力が入らないようだ。 『 これをこうして……おい、しっかりしろ! 』 俺はリンガルのスイッチを入れて話しかけた。 「 ママ…ェ…オネエチャン……テェ……。 」 『 お母さんや、他の子達はどうした!? 』 「 ここに…いないテチ…? 」 『 お前と一緒じゃなかったのか!? 』 「 じゃあ……やっぱり……ミンナ…しんじゃったテチ…ァァ… 」 『 おい、おい!! 』 「 うそテチ……ぜんぶ…うそだったテチ… 」 この仔実装の言葉の意味がよく分からない。 それと同時に目を大きく見開いて動悸が激しくなり…苦しそうに悶え始めた。 『 それじゃ…やっぱり死んだのか…? 』 「 さ…刺されたテチュ……ても……あしも…切られたチュ………お、おなかも…切られちゃったテチュ… 」 『 …き、切られた? 』 「 ミンナ……針や……ェ…ほうちょうで……テェ…ひかる物で刺されて……ばらばらに……テチ…ィ…… 」 『 そこには何があった?お前はそこで何を見たんだ!? 』 「 ゆ…ゆめ…テチュ… 」 『 な、何…? 』 「 …チュ………ゆ、ゆめ…を……みた…テチュ…ゥ………ァァッ! 」 仔実装は、最後にビクンと大きく痙攣し…そのまま動かなくなった。 『 しっかりしろ!! 』 しかし瞳に生気は無かった。 その時はよく分からなかったが、中にある偽石という大事な物が砕け散ったらしい。 飼い主が泣き叫んで仔実装の身体に抱きつく。 おばさんが声をかけ、その肩に手を置いて慰めていた。 そして俺は、その傍らで呆然と立ち尽くす。 『 夢を見た……? 』 実装リンガルに遺された仔実装の最期の言葉。 意味不明で全く理解できない表示。 俺は暫くの間 目を離せられないでいた
