班猫（ハンミョウ）


　午後からの予定がつぶれてしまったので、昼飯前に近所の公園をゆっくり散歩することにした。
　ここの公園は実装愛護団体とやらが管理しているそうな。
　噴水の前で野良実装石親仔を並ばせて実装フードを配給しているのもそいつらだ。

　愛護団体というが彼らは公園の実装石を仔実装の段階で厳しく個体選別しているそうだ。
　糞蟲認定された仔実装は遅効性コロリはもちろん、暗殺者まがいの実蒼石まで使って抹殺するらしい。
　やってること自体は虐待派とそうかわりないような気がする。
　しかし窓割りや託児のような住民トラブルが確かに激減した。
　盲目的キ印愛誤者と違って、目に見える結果を示した団体には住人の評判がよい。
　だから実装石のダンボールハウス放火などで危険視される虐待派もこの公園には近づきにくくなっている。
　役所も公園管理用の実蒼石を好意的に援助していると聞く。
　そのお陰なのかオレの前にあるベンチも糞で汚れていない。
　ベンチで一休みしながら周囲を眺めることにする。

　近くの地面にレピャレピャ鳴いている蛆実装がいた。
　まるで背筋運動をしているように地面の一点でもがいている。
　興味がわいたのでリンガルを起動して悲鳴を翻訳してみる。

　「レピィャーアッ？！　レフレフ?レフ?レピィー?！」
　（いたいレピャーッ？！　おなかの下になんかいるレフ？鋏まれてるレフ？動けないレピィー？！）


　蛆実装の腹のところを見ると地面の穴から大きな顎が突き出している。
　ハサミのような大顎が蛆実装を鋏んで穴に引きずり込もうとしているようだ。

　「（もしかしてアオバサミさんレフ？！　 ウジちゃんはイイコレフーッ！）」


　どうやら穴から顎を出しているのはハンミョウの幼虫だ。
　蛆実装のずんぐりした体に比べて穴の径が小さいので入らない。
　だが食欲旺盛なハンミョウの幼虫は獲物を逃すつもりはないようだ。

　「（ママー　ママァーー　　ウジちゃんイイコにするレフー

　　　ウンチはトイレでするレフー　オウチでおルスバンもちゃんとするレフー

　　　だからマ マー ゆ る し てレ フー 　たー  すー  けー  てーレ フーゥ ーー）」


　蛆実装は必死にもがいて逃れようとしている。
　だがハンミョウの幼虫は背中の棘を穴の壁に引っ掛けて体をしっかり固定する。
　非力な蛆実装では振り切れないだろう。

　「（く゛　る　ち ゛　　い゛　レ　…　ダ　レ　　カ…　タ…・ ・ 　・  　・ 　）」パキン


　オレは虐待派でも愛護派でもない。
　大自然の摂理に人が干渉するべきではない。
　蛆実装が偽石を崩壊させるまで時間にして約１０分。
　オレは全てを見届けた後、静かに立ち去った。
　だが一つ疑問が残った。
　実装石にとってアオバサミとは実蒼石を指すのではないのか？
　家に帰った後もしばらく気になった。


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　ウジちゃんと一緒にお昼のお散歩テチ

　お昼にはやさしいアイゴハさんがゴハンくれたテチ
　イイコのアタチにはコンペイトウまでくれたテチ
　おなかいっぱいテチ　
　でもワルイコにはこわいアオバサミさんが来るんテチ
　ママが教えてくれたテチ
　アオバサミさんはミナシコームインなんテチ
　アオバサミさんはとってもこわいテチ
　クソムシはチョッキンされるテチ
　でもイイコにしてたらだいじょうぶテチ
　ここは平和テチ　ラクエンなんテチ


　ウジちゃんおなかいっぱいシアワセレフ
　そろそろプニプニしてくれたらもっとシアワセレフー

　芝生でプリプリしちゃダメテチ　そこの茂みまでいくテチ

　ウジちゃんがまんできないレフー　ここでプニプニしてレフンレフン

　ワルイコはアオバサミさんにチョッキンされるテチ　がまんするテチッ

　チョッキンはイヤレフッ　レップレップレップ　ちょっとモレちゃったレフ
　
　芝生が少し汚れちゃったテチ　でもウジちゃんよくガマンしたテチ　えらいテチ

　ウジちゃんはイイコレフー　　はやくプニプニするレフ〜〜ン　

　はいはいウジちゃん　 イイコにはすぐプニプニしてあげるテチ

　プニプニされたらウンチでるレフ
　ウンチモリモリいっぱいでるレフ
　ウンチいっぱい出てウジちゃんシアワセレフー
　ウンチいっぱい出たらウジちゃん眠たいレフー


　ウジちゃんピスピス寝ちゃったテチ
　木陰でしばらくキュウケイするテチ
　あっ！とってもキレイな虫さんがいるテチ
　キラキラ七色に光ってピカピカテチ
　はじめて見るテチ
　そらとぶ宝石テチ
　ブローチにするテチ
　おっかけるテチ

　早いテチ　すぐ逃げちゃうテチ
　ちっとも追いつけないテチ
　ぜんぜんつかまんないテチー


　テェーテェーーテェーーー 疲れたテチィ
　さっきも惜しかったテチ　あと一歩で追いつけないテチ
　くやしいテチ　すごくイジワルな虫さんテチィー
　あっ いけない！　ウジちゃんのこと忘れたテチ

　ウジちゃんが待ってるテチ
　ゴメンなさいテチ　急いで戻るテチー


　ウジちゃんイイコにして待ってたテチか？
　ウジちゃーん どこテチィー？
　アレ？あそこにいっぱいキレイな虫さんがいるテチ！
　なにか食べてるテチ
　今なら全部捕まえられるテチ
　待つテチッ！

　逃げられちゃったテチ
　ざんねんテ……

　テェ？…・ ・ 　・  　・   
　…！　ウジちゃん？！ウジちゃぁあああっん！




　一月ほどたってから、またあの公園を散歩していたら、ハンミョウの群れが蛆実装を襲っていた。
　先月のことがまだ気になっていたのでリンガルを起動してみる。

　「（ウジちゃんなんにも悪いことしてないレフー！ なのにアオバサミさんが追っかけてくるレフーー！）」


　蛆実装は必死で逃げようとしていたが、素早いハンミョウから逃げられるわけがない。


　「（ウジちゃんシバフでウンチモリモリしてないレフー　ちょっとプリプリしただけレフー）」

　「（アオバサミさん許してレフー！　チョッキンしちゃイヤレフー！）」

　「（オネーチャーどこレフーーッ！　ウジちゃんチョッキンされちゃうレフーーッ！）」

　「（いたいレピャーッ！ ニンゲンさーん ウジちゃんイイコレフッ たすけてレヒ゛ャーーァァアッ！）」


　オレは虐待派でも愛護派でもない。
　大自然の摂理に人が干渉するべきではない。
　捕食者のハンミョウ相手に蛆実装は、「自分は良い子なんだ、だから助けてくれ」、と必死に許しを乞うている。
　意味のわからない命乞いだったが、しばらく聞いているとなんとなく理解できた。
　「アオバサミ」とはこの公園に住む実装石にとってのナマハゲのようなものなんだと。
　奥歯に挟まったものが取れたような気分で帰路についた。




−−　終わり　−−

大鍋１４６（仮名）と自称するモノです。
ナミハンミョウの成虫の大きさはせいぜい２ｃｍ程なので、蛆実装が相手でも正直サイズ的にかなり無理があります。
外国のハンミョウ（タイガービートル）なら５センチ程あるのでちょうどよかったのですが。

実はハンミョウの幼虫見たことないです。
ノビルの茎を突っ込んで一度釣ってみたいです。