タイトル:【塩】 仔実装チィちゃん 最終話
ファイル:仔実装チィちゃん 最終話.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:306 レス数:2
初投稿日時:2006/03/27-00:00:00修正日時:2006/03/27-00:00:00
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仔実装チィちゃん最終話 06/03/27(Mon),02:00:28 from uploader 【6】  ママは仔実装の頃から、すでにこの公園に住んでいた。  母親のことははっきり記憶にないが、現在公園にたむろしている実装石とそれ程違わな いものだったらしい。  その頃はまだ実装石の数も今ほど多くはなく、意地汚く自己中心的で、強い者には媚び 弱い者を蔑むという性格は変らないものの、エサもそれなり豊富にあり、実装石同士が争 うようなことは少なかった。  だが、ママが成体に近づくにつれ公園の実装石は急激に増えていった。  くわしい原因はわからないが、他で虐待されていた個体が逃げてきたのかもしれない。  比較的人間の出入りが少ないこの公園を安住の地とでも思ったのか、住み着いてしまっ たのだろう。  公園は徐々にエサが足りなくなり、やがて実装石同士でエサの奪い合いがはじまった。  それはどんどんエスカレートし、とうとう他所の仔実装を捕まえて食べる者まで現れた。  それまで辛うじて生態系のバランスがとれていた公園の秩序は急激に崩壊していった。  母親が死んでまもなく、成体に成長を遂げたママの姉妹も互いに殺し合い、食べ合って 滅んでしまった。  賢かったのか本能がそうさせたのか、ママは辛うじて生き延びた。そして、他の野良実装 と同じ場所にダンボールで巣をつくり、やがて5匹の仔実装を産んだ。  ママは仔実装に愛情を感じたが、仔実装たち自身は特に賢いというわけではなかった。  仔実装たちはエサを得るために互いの足をひっぱりあい、ある者は他の実装石に喰われ、 ある者は事故に会って命を落とし、またある者は家族の秩序を乱したためママの手によって 粛清された。  最期に、比較的おとなしい仔一匹だけが生き残った。  ママは生き残った最期の仔ということもあり、特別に愛情を注ぎ、大事に大切に、時には 厳しく育てていった。  やがて仔実装は、ほんの少しずつではあるが賢さの片鱗を見せるようになっていった。  あきらかに他の仔実装よりは思慮が深く、ほんの少し思いやりの心も芽生えていった。  そんな仔実装にママは満足し、4匹の子を失った悲しみよりも、最期の1匹に注ぐ慈しみ の心の方が大きく育っていった。  ある日、ママの言いつけを守らなかった仔実装は一人で遊びに行ってしまった。  この公園で仔実装が一人で出歩くなど死にに行くようなものだ。  少々賢くはなっていたものの、子供本来の好奇心には勝てなかったのだ。  エサ探しから巣に戻ったママは仔実装がいないのに気がつき公園中を探し回った。   そして、数組の実装石親子がエサを奪い合っている現場に出くわした。  そこで無残に引き裂かれ、貪り喰われていたエサはママの賢い仔実装だった。  ママは怒り狂い、食事に夢中になっている親実装石の頭を叩き潰した。  そのころのママは実装石として特に大きく力が強いわけではなかったが、少しばかり 知恵が働いた。  無防備に食事しているところに奇襲したことも幸いした。  木の枝で目を突き刺し、尖った石で脳天を砕き、足の先端を踏み潰す。  実装石のウィークポイントを効率よく攻撃し、反撃を封じてから殺していった。 「殺すデス! オマエら全部、殺すデス! オマエらの子供、殺すデス!」  反撃することも逃げることもできない半殺しの親実装たちは無様にうごめいていた。 「テ、テチテチ…たしゅけテチ〜……テヒ゜ャッ!!」  ママは、親たちの災厄を目の当たりにし腰を抜かしている仔実装らを捕まえると、頭を 引き千切り、身体を引き裂き、足で磨り潰していった。 「テチャァ!」「テヒ゜ャ!」「テテ……」「テェェ〜ッ!」「テ…テ……」  ものの数分で5匹の親実装、18匹の仔実装が絶命した。  公園の一角には緑色の小山と緑色の水溜りが出来、あたりには糞尿臭と死臭が漂った。 「うまいデス子供は美味デス……デププ……子供! 子供! 子供を出すデズゥ〜ッ!!」  いつのまにかママは仔実装を食べていた。そして、その禁断の美味を知ってしまった。  まるで中毒になったかのように仔実装の死体を貪り喰った。  その中には、自分の賢い可愛い仔実装の死体もあった……  その日以来、ママは狂ったように他の実装石親子を襲い、殺し、喰らい続けた。  組織的に防衛すれば一匹の実装石など充分に撃退も可能なのだが、自己中心的な実装石 にそんな知恵は回らなかった。  ママの襲撃からバラバラに逃げ惑い、各個に撃破されていった。  最も栄養豊富なエサ=実装石を摂取しまくった結果、ママは他のどの実装石よりも大きく、 強くなっていった。  大きくなったママは無敵だった。食欲は仔実装、性欲はマラ実装を捕まえて満たしていった。  マラ実装の手足を食いちぎって身動きを封じてから行為に及び、用がすむとその肉も 喰らった。  だがママはある日、自分の身に起こった重大な異変に気がついた。 「なんで子供ができないデス! 子供が欲しいデス! 食べるためじゃないデス! 子供!  ワタシの子供! 子供が、子供が欲しいデズゥ〜ッ!!」  ママは叫んだ。  力を手に入れた。  食料に困ることもなくなった。  全ての欲望は力によって手に入れることができる……はずだった。  だが、自分の子供を愛でたい。愛したい。そんなささやかな欲望がかなえられることはなかった。  実装石にも神がいるというのなら、仲間を殺して喰らい、我が子まで喰らったその罰だ とでもいうのだろうか?   自分が子供を作れなくなったのを嘆き、ママは公園を彷徨い歩いた。  恐ろしい咆哮をあげながら彷徨い歩く大実装を他の実装石は震えながら遠巻きに見守った。  やがてママは公園の広場で他の実装石を襲うこともなくなった。  食べるものも残飯や草や木の実だけとなっていった。  公園の隅、他の実装石も嫌って近づかないような手入れのされていない藪の中にダンボー ルの巣を作った。  ママはそこに引き篭もると、まるで世捨て人のような隠遁生活を送るようになった。  ある日、ママは死にかけた蛆実装を発見した。  息が弱く身体が乾燥し、今にも死んでしまいそうな蛆実装だった。  仔実装よりも遥かに儚く脆い蛆実装。  ママは何を思ったのか、その蛆実装を大切に抱え、ダンボールの巣へと連れ帰った。  言語が幼い蛆実装の鳴き声全てを理解することはできなかったが、その鳴き声や行動から、 優しく思いやりのある子であることがわかった。  子供の作れなくなったママは、蛆実装を本当の子供のように大切に育てた。  その蛆実装こそがフゥであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「お話はこれでおしまいデス……」  それまで話し続けていたママは、大きく深呼吸した。 「チィはいやデチ。ここ以外に行くところがないデチ……」 「フゥに謝って、それから助けてもらったお礼を言うデス。フゥが許すならワタシも許すデス」  ママはそれだけ言うと自分も眠りについた。  次の日の朝。 「フゥちゃん…今までワタシがしたこと許してほしいデチ。もう絶対しないデチ」  チィは腹ばいの無理な姿勢のまま深々と頭を下げた。その眼からは涙が零れた。 「テフテフ〜♪」  フゥはチィを許してくれた。  あれだけ苦しめられたのに、命まで奪われかけたのに…… 「テフテフテッフン! テフーテフー♪」  おねえちゃん、またいっしょに遊んでね。またおなかプニプニしてね。 「デ…デ…デチ……デ、デェェェ〜ン! デェェェ〜ン!」  チィは泣いた。  自分が犯してきた罪への悔恨。フゥの慈愛に、ママの厳しくも誠実な姿に対する思いが 一気に噴出し、大声をあげて泣く以外なす術を知らなかった。 「テフ〜……」  そのチィの姿を見てフゥは尻尾(?)をパタパタして優しく鳴いた。  ママは何も言わず、優しい眼差しを向け二匹の姿を見つめていた。   雪が降りはじめる頃にはチィの手足はすっかり元通りに再生していた。  今までフゥを嬲り弄んでいた手足は、フゥをなで愛でるものへと変身を遂げていた。  チィは自分が許せなかった。こんなに優しく、自分を大切に思ってくれるフゥに、なぜ あんな酷いことをしたんだろう? こんなに可愛いのに、なんで虐めたりしたんだろう?  チィは、今までの罪を償うことはフゥに尽くすことだと思い始めていた。  フゥが楽しく暮らせるように努力しよう。毎日遊んであげよう。美味しいものを探して あげよう。  こうしてチィは新しい楽しみを覚えた。フゥやママが幸せになることが自分の幸せにも 繋がるという楽しみを。  そして、長い長い冬。  三匹は抱き合って、なるべく熱を消費しないよう冬眠に近い状態で冬を乗り切った。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  そして春。  三匹は一緒に山へ山菜を採りにいったり、巣のそばで春の草花を採って過ごした。  秋ほどではないが、山や野原で採れる食料は新鮮で素晴らしいものばかりだった。  フゥは少しだけ大きくなったが、未だに蛆実装のままだった。  三匹の生活は決して豊かとは言えなかったが、お互いを想い助け合うことにより毎日楽 しく過ごすことができた。  やがて夏がやってきた。  青々と育った草木からは、やわらかく美味しい芽は採れなくなり、食べられる植物も限 られてくる。  自然の恵みに多くを頼っていた実装石親子も、仕方なく虫や残飯を探すしかなかった。  この頃になるとママは完全にチィを信用するようになっていた。  遠出しなければならないときは以前のようにチィに留守を任せた。  今日もママは一人でエサを探しに出かけていった。  チィとフゥは仲良くママの帰りを待った。  だが、その日ママは帰ってこなかった。  その晩二匹は遅くまでママの帰りを待っていたが、やがて疲れて寝てしまった。  次の日もママは帰ってこなかった。  心配になったチィは探しに行くことを決心した。  今まで一人で遠くまで行ったことはなかった。しかし、探さねばならない。  フゥと自分のためにも、ママを探さなければならない。 「おねえちゃんはママを探してくるデチ。フゥちゃんはここで待っててほしいデチ」  優しくそう言って巣を出ようとした時だった。 「テフテフ……」  おねえちゃん、わたしもいく。ママしんぱいだよ。  外は危険だ。だが、フゥを一人で巣に残しておくのも心配だ。 「わかったデチ! 一緒にママを探しにいくデチ!」  チィはフゥを自分の頭の上に乗せると巣を後にした。  チィとフゥが公園の広場へ向かって進んでいくと、今まで藪を作っていた丈の高い草は 刈られていた。  やがて、イヤな臭いが漂ってきた。  しばらく行くとマラ実装が数匹死んでいた。  そして、まもなく広場に出るという所で「それ」を発見した。  「それ」は両脚が綺麗に切断され、身体のところどころが齧られていた。  「それ」にはハエが飛び回り、あたりには腐敗臭が漂っていた。  「それ」のパンツは破り捨てられ、総排泄口は大きく裂けていた。  チィは状況をまったく理解できなかった。  チィに理解できたのは、かつて「それ」がママと呼んでいた存在であり、「それ」が もう動かないという事実だけだった。  ママは死んでいた。  夏になり丈の伸びた草を人間が草刈機で刈ったのだろう。  ママは不幸にもその作業に巻き込まれ両脚を草刈機で切断された。  そして、動けないところをマラ実装たちに凌辱され、身体を齧られ絶命したのだ。  いくら力の強いママでも両脚を失っては普通の実装石並みの力も出せない。  なんとかマラ実装たちを屠ったものの、ママも力尽き倒れたのだ。 「ママ……」 「テ…フ……」  チィとフゥは変わり果てたママの死体の前で涙を流した。 「デジャァァァァァッ!!」  突然、藪の中から何かが飛び出してきた。  マラ実装だった。まだ生き残っていた者がいたのだ。  力の強いマラ実装相手ではフゥを守るどころか、自分の身を守ることすらできない。  チィは恐怖でその場を動くことができなかった。  マラ実装はチィをいとも簡単に押し倒すとパンツを剥ぎ取り総排泄口にマラを突き刺した。 「デッ! デチャァァァァァァ!!」  チィは叫んだ。マラ実装のマラの長さはチィの身長にほぼ等しかった。  マラはチィの総排泄口から喉まで貫き通した。 「〜〜〜ッ!!」  喉を貫かれたチィは叫ぶことも封じられた。  マラ実装は容赦なくピストン運動を繰り返す。このままではチィの身体そのものが壊れてしまう。  チィは苦痛の中で、反撃しよう、せめて眼だけでも潰せればと手を伸ばすが届かない。  チィは仕方なく手でパタパタとマラ実装の身体を叩いた。 「……ッ!!」  チィは右腕に激痛を感じた。マラ実装が抵抗を続けるチィの右腕を千切りとったのだ。 「デッ、デッ、デッ……デビャウオォウォウォウォウォウォウォ!!」  マラ実装は絶頂に達し、チィの体内……性格には喉から頭部にかけての部分に射精した。  ブピュッ! ビュクッ!! ビュクッ! ビュクッ!  マラ実装の精液はチィの口はおろか、鼻、耳、そして眼からもあふれ出た。  チィの脳は、頭部までも貫いたマラの激しいインサートで破壊され、チィは激痛と 鈍痛の海の中、徐々に意識を失っていった。  その時。  ……ィィィィィィィン……  遠くから機械の音。  ……ィィィィィィィン……  音は徐々に近づいてきた。  ギュィィィィィィィィン…… 「デジュギュァッ!!」  マラ実装は簡単に胴体を切断され絶命した。  チィを救ったのは皮肉にもママを死に導いた草刈機だった。  どのくらい時間がたったのだろう? チィはようやく意識を取り戻した。  マラ実装のマラはまだ差し込まれたままだった。  チィは苦労してマラを抜き取るとなんとか立ち上がり、わずかに残った本能と理性を フルに駆使してフゥの姿を探した。  しかし、視界の届く範囲にフゥの姿は見えなかった。  なんとか無事に逃げてくれたのかとチィは少し安心した。  ふと、チィは背中が濡れているのに気がついた。緑色の液体……どうやら実装石の血のようだ。  だが、チィの背中に傷はないようだ。では、この体液はいったい…… 「フ、フゥちゃん……!!」  いままでチィが倒れていた場所に、ぐじゃぐじゃになった緑色の皮と液体が残っていた。  その中に埋もれている小さな赤と緑の球体……  フゥはマラ実装に倒されたチィの下敷きになり、声を出す暇もなく潰されてしまったのだ。 「デ……デ……デジャァァァァァァァァァ!!」  悲しみと怒りの叫びを挙げた後、チィはその場に倒れてしまった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  まだ仔実装より少し大きい程度の親実装が親指実装より少し大きい仔実装を二匹つれて 歩いている。  楽しそうにテチテチ鳴きながら。どうやら親子愛のある実装石のようだ。  仔実装の一匹が倒れている実装石を発見した。  成体になりきってない、まだ小さめの実装石だった。  右腕が失われ身体が酷く汚れ、そばには上半身と下半身が泣き別れしたマラ実装が転が っていた。  仔実装はそばに近づき、優しく話しかける。 「おねえちゃん大丈夫テチ?」  仔実装は心配そうに覗き込んだ。 「デ……デデ……」  実装石は意識を取り戻したようだ。 「よかったテチ! ママ、このおねえちゃん生きてるテチ!」  嬉しそうに言ったその時だった。 「テチャッ!……」  仔実装の頭が消えた。  くちゃくちゃ……ぷきっ……ぽきぽき……くっちゃくっちゃ……  倒れていた実装石は仔実装を喰らい始めていた。 「デデデ……デェェェッ!!」  恐怖に糞尿を漏らしながら、実装石親子は逃げ去った。 「うまいデチ……なんデチこれは……?」  この新鮮なエサを食べると、身体の芯から力がみなぎってくるようだった。  みるみる疲労が回復していくようだった。  失っっていた右腕も蘇ってくるようだった。  記憶も理性も失った同族喰いの実装石の脳裏に、ふとある知識が蘇った。 「……同族を喰らうと力が手に入る……」  そうだ。力だ。力が手に入れば、なんでも自由にできる。  今まで守れなかったものも守ることができる。  でも、守れなかったものってなんだったんだろう?  何か大切なことを忘れてしまったような気がする。  でも今は力を手に入れなくては。  そのためには同族だ。  同族を捕らえて喰ってやる。  失った大切なものを取り戻してやる。  実装石は新たな決意を胸に立ち上がった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  時は流れ……  春。  中学の入学式を終えたモモは母親と一緒に家路についていた。  モモはセーラー服の似合う美しい少女に成長していた。  モモは通学路の横の公園に眼を向ける。桜の花が満開だった。  数年前までは野良実装石が大量に住み着き、近づくことも躊躇われた公園。  だが、ある時を境に凶暴な野良実装石は姿を消した。  しばらくすると、実装石は戻ってきたが公園を汚し人間にエサを催促するようなことが なくなり、逆に公園の掃除をしたりするようになっていた。  街の住人の実装石に対する認識は少しずつ改まり、餌付けする人たちも増えていった。  餌付けされた実装石も図々しく催促するようなことはなく、エサを貰うと「デスゥ〜」 と小さな声で鳴きながら頭を下げ、おとなしく去っていった。  親実装石も仔実装を食べるようなことはなく、エサを等分に分け与えるようになっていた。  公園は美しい秩序を取り戻していった。  今では実装石は子供たちの良い遊び相手であり、街の人々の親しい友人になっていた。  実装石は世間一般では未だに嫌われ者だが、この公園の実装石だけは不思議と秩序だっ た行動をしていた。  理由は誰にもわからない。  モモは公園の水飲み場で水を飲んでいる実装石の親子を見た。  水を飲み終わった仔実装の口元を前に垂らした布で拭いてあげている。  親実装に抱かれた仔実装が不器用に水飲み場の蛇口を閉めると、親実装はやさしく 頭をなでてあげた。  その様子は人間の親子と何ら変らない。  実装石親子はモモたちに気がついた。仔実装はモモの方を向くと両手を挙げて 「チィ♪」と可愛らしく鳴いた。  実装石親子がモモのそばに近づいてきた。  親実装石は普通の実装石よりも少し大きかった。 「デスデス……」  親実装石はモモに仔実装を差し出した。飼って欲しいというような感じではない。  自分の子供を見てくださいといった優しい感じだ。 「テッチュ〜ン! テチテチテッチュ〜ン♪」  仔実装はモモの手の中で嬉しそうに鳴いた。 「かわいいね。やさしい子なんだね……」  仔実装の頭と髪を優しくなでるモモを親実装は静かに見つめていた。 「元気に育つといいね!」  モモは親実装に仔実装を返してあげると親実装はコクリと頷いた。  そして、実装石親子はゆっくりと公園の奥の方へと歩いていった。  モモはその後ろ姿をいつまでも見つめていた。  かなり姿が小さくなったとき親実装石はくるりと振り返り、深々とお辞儀をした。  そして、仔実装を抱き上げると駆け出し、藪の中に消えていった。 「え?」  モモは不思議な感覚に襲われた。  なんだったんだろう? 今のお辞儀は?  子供をだっこしてあげただけ…… 「あ……」  モモは突然何かを思い出した。とても懐かしい、とても優しい。そしてとても悲しい 小学生のころのちいさなちいさな出来事  みるみる目頭が熱くなってくる。 「お、おかあさん……う……う、うぁぁぁっ!」  モモは突然大声をあげて泣き出した。  母も涙を流しながらモモの肩を抱き、何度も何度も頷いた。  暖かな陽射しの中、冷たい風が母娘の横を吹き抜けていった。  春はまだ始まったばかりだ。 (おはり) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 注釈. 及び後記. 06/05/12(日)23:00:00 作者コメント:  「仔実装ちぃちゃん」は今回でおわりです。  長い間おつきあいいただき、ありがとうございました。  絵を描いていただいた絵師の方ありがとうございました。 *1:アップローダーにあがっていた作品を追加しました。 *2:仮題をつけている場合もあります。その際は作者からの題名ご報告よろしくお願いします。 *3:改行や誤字脱字の修正を加えた作品もあります。勝手ながらご了承下さい。 *4:作品の記載もれやご報告などがありましたら保管庫の掲示板によろしくお願いします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 戻る 仔実装チィちゃん最終話 06/03/27(Mon),02:00:28 from uploader 【6】  ママは仔実装の頃から、すでにこの公園に住んでいた。  母親のことははっきり記憶にないが、現在公園にたむろしている実装石とそれ程違わな いものだったらしい。  その頃はまだ実装石の数も今ほど多くはなく、意地汚く自己中心的で、強い者には媚び 弱い者を蔑むという性格は変らないものの、エサもそれなり豊富にあり、実装石同士が争 うようなことは少なかった。  だが、ママが成体に近づくにつれ公園の実装石は急激に増えていった。  くわしい原因はわからないが、他で虐待されていた個体が逃げてきたのかもしれない。  比較的人間の出入りが少ないこの公園を安住の地とでも思ったのか、住み着いてしまっ たのだろう。  公園は徐々にエサが足りなくなり、やがて実装石同士でエサの奪い合いがはじまった。  それはどんどんエスカレートし、とうとう他所の仔実装を捕まえて食べる者まで現れた。  それまで辛うじて生態系のバランスがとれていた公園の秩序は急激に崩壊していった。  母親が死んでまもなく、成体に成長を遂げたママの姉妹も互いに殺し合い、食べ合って 滅んでしまった。  賢かったのか本能がそうさせたのか、ママは辛うじて生き延びた。そして、他の野良実装 と同じ場所にダンボールで巣をつくり、やがて5匹の仔実装を産んだ。  ママは仔実装に愛情を感じたが、仔実装たち自身は特に賢いというわけではなかった。  仔実装たちはエサを得るために互いの足をひっぱりあい、ある者は他の実装石に喰われ、 ある者は事故に会って命を落とし、またある者は家族の秩序を乱したためママの手によって 粛清された。  最期に、比較的おとなしい仔一匹だけが生き残った。  ママは生き残った最期の仔ということもあり、特別に愛情を注ぎ、大事に大切に、時には 厳しく育てていった。  やがて仔実装は、ほんの少しずつではあるが賢さの片鱗を見せるようになっていった。  あきらかに他の仔実装よりは思慮が深く、ほんの少し思いやりの心も芽生えていった。  そんな仔実装にママは満足し、4匹の子を失った悲しみよりも、最期の1匹に注ぐ慈しみ の心の方が大きく育っていった。  ある日、ママの言いつけを守らなかった仔実装は一人で遊びに行ってしまった。  この公園で仔実装が一人で出歩くなど死にに行くようなものだ。  少々賢くはなっていたものの、子供本来の好奇心には勝てなかったのだ。  エサ探しから巣に戻ったママは仔実装がいないのに気がつき公園中を探し回った。   そして、数組の実装石親子がエサを奪い合っている現場に出くわした。  そこで無残に引き裂かれ、貪り喰われていたエサはママの賢い仔実装だった。  ママは怒り狂い、食事に夢中になっている親実装石の頭を叩き潰した。  そのころのママは実装石として特に大きく力が強いわけではなかったが、少しばかり 知恵が働いた。  無防備に食事しているところに奇襲したことも幸いした。  木の枝で目を突き刺し、尖った石で脳天を砕き、足の先端を踏み潰す。  実装石のウィークポイントを効率よく攻撃し、反撃を封じてから殺していった。 「殺すデス! オマエら全部、殺すデス! オマエらの子供、殺すデス!」  反撃することも逃げることもできない半殺しの親実装たちは無様にうごめいていた。 「テ、テチテチ…たしゅけテチ〜……テヒ゜ャッ!!」  ママは、親たちの災厄を目の当たりにし腰を抜かしている仔実装らを捕まえると、頭を 引き千切り、身体を引き裂き、足で磨り潰していった。 「テチャァ!」「テヒ゜ャ!」「テテ……」「テェェ〜ッ!」「テ…テ……」  ものの数分で5匹の親実装、18匹の仔実装が絶命した。  公園の一角には緑色の小山と緑色の水溜りが出来、あたりには糞尿臭と死臭が漂った。 「うまいデス子供は美味デス……デププ……子供! 子供! 子供を出すデズゥ〜ッ!!」  いつのまにかママは仔実装を食べていた。そして、その禁断の美味を知ってしまった。  まるで中毒になったかのように仔実装の死体を貪り喰った。  その中には、自分の賢い可愛い仔実装の死体もあった……  その日以来、ママは狂ったように他の実装石親子を襲い、殺し、喰らい続けた。  組織的に防衛すれば一匹の実装石など充分に撃退も可能なのだが、自己中心的な実装石 にそんな知恵は回らなかった。  ママの襲撃からバラバラに逃げ惑い、各個に撃破されていった。  最も栄養豊富なエサ=実装石を摂取しまくった結果、ママは他のどの実装石よりも大きく、 強くなっていった。  大きくなったママは無敵だった。食欲は仔実装、性欲はマラ実装を捕まえて満たしていった。  マラ実装の手足を食いちぎって身動きを封じてから行為に及び、用がすむとその肉も 喰らった。  だがママはある日、自分の身に起こった重大な異変に気がついた。 「なんで子供ができないデス! 子供が欲しいデス! 食べるためじゃないデス! 子供!  ワタシの子供! 子供が、子供が欲しいデズゥ〜ッ!!」  ママは叫んだ。  力を手に入れた。  食料に困ることもなくなった。  全ての欲望は力によって手に入れることができる……はずだった。  だが、自分の子供を愛でたい。愛したい。そんなささやかな欲望がかなえられることはなかった。  実装石にも神がいるというのなら、仲間を殺して喰らい、我が子まで喰らったその罰だ とでもいうのだろうか?   自分が子供を作れなくなったのを嘆き、ママは公園を彷徨い歩いた。  恐ろしい咆哮をあげながら彷徨い歩く大実装を他の実装石は震えながら遠巻きに見守った。  やがてママは公園の広場で他の実装石を襲うこともなくなった。  食べるものも残飯や草や木の実だけとなっていった。  公園の隅、他の実装石も嫌って近づかないような手入れのされていない藪の中にダンボー ルの巣を作った。  ママはそこに引き篭もると、まるで世捨て人のような隠遁生活を送るようになった。  ある日、ママは死にかけた蛆実装を発見した。  息が弱く身体が乾燥し、今にも死んでしまいそうな蛆実装だった。  仔実装よりも遥かに儚く脆い蛆実装。  ママは何を思ったのか、その蛆実装を大切に抱え、ダンボールの巣へと連れ帰った。  言語が幼い蛆実装の鳴き声全てを理解することはできなかったが、その鳴き声や行動から、 優しく思いやりのある子であることがわかった。  子供の作れなくなったママは、蛆実装を本当の子供のように大切に育てた。  その蛆実装こそがフゥであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「お話はこれでおしまいデス……」  それまで話し続けていたママは、大きく深呼吸した。 「チィはいやデチ。ここ以外に行くところがないデチ……」 「フゥに謝って、それから助けてもらったお礼を言うデス。フゥが許すならワタシも許すデス」  ママはそれだけ言うと自分も眠りについた。  次の日の朝。 「フゥちゃん…今までワタシがしたこと許してほしいデチ。もう絶対しないデチ」  チィは腹ばいの無理な姿勢のまま深々と頭を下げた。その眼からは涙が零れた。 「テフテフ〜♪」  フゥはチィを許してくれた。  あれだけ苦しめられたのに、命まで奪われかけたのに…… 「テフテフテッフン! テフーテフー♪」  おねえちゃん、またいっしょに遊んでね。またおなかプニプニしてね。 「デ…デ…デチ……デ、デェェェ〜ン! デェェェ〜ン!」  チィは泣いた。  自分が犯してきた罪への悔恨。フゥの慈愛に、ママの厳しくも誠実な姿に対する思いが 一気に噴出し、大声をあげて泣く以外なす術を知らなかった。 「テフ〜……」  そのチィの姿を見てフゥは尻尾(?)をパタパタして優しく鳴いた。  ママは何も言わず、優しい眼差しを向け二匹の姿を見つめていた。   雪が降りはじめる頃にはチィの手足はすっかり元通りに再生していた。  今までフゥを嬲り弄んでいた手足は、フゥをなで愛でるものへと変身を遂げていた。  チィは自分が許せなかった。こんなに優しく、自分を大切に思ってくれるフゥに、なぜ あんな酷いことをしたんだろう? こんなに可愛いのに、なんで虐めたりしたんだろう?  チィは、今までの罪を償うことはフゥに尽くすことだと思い始めていた。  フゥが楽しく暮らせるように努力しよう。毎日遊んであげよう。美味しいものを探して あげよう。  こうしてチィは新しい楽しみを覚えた。フゥやママが幸せになることが自分の幸せにも 繋がるという楽しみを。  そして、長い長い冬。  三匹は抱き合って、なるべく熱を消費しないよう冬眠に近い状態で冬を乗り切った。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  そして春。  三匹は一緒に山へ山菜を採りにいったり、巣のそばで春の草花を採って過ごした。  秋ほどではないが、山や野原で採れる食料は新鮮で素晴らしいものばかりだった。  フゥは少しだけ大きくなったが、未だに蛆実装のままだった。  三匹の生活は決して豊かとは言えなかったが、お互いを想い助け合うことにより毎日楽 しく過ごすことができた。  やがて夏がやってきた。  青々と育った草木からは、やわらかく美味しい芽は採れなくなり、食べられる植物も限 られてくる。  自然の恵みに多くを頼っていた実装石親子も、仕方なく虫や残飯を探すしかなかった。  この頃になるとママは完全にチィを信用するようになっていた。  遠出しなければならないときは以前のようにチィに留守を任せた。  今日もママは一人でエサを探しに出かけていった。  チィとフゥは仲良くママの帰りを待った。  だが、その日ママは帰ってこなかった。  その晩二匹は遅くまでママの帰りを待っていたが、やがて疲れて寝てしまった。  次の日もママは帰ってこなかった。  心配になったチィは探しに行くことを決心した。  今まで一人で遠くまで行ったことはなかった。しかし、探さねばならない。  フゥと自分のためにも、ママを探さなければならない。 「おねえちゃんはママを探してくるデチ。フゥちゃんはここで待っててほしいデチ」  優しくそう言って巣を出ようとした時だった。 「テフテフ……」  おねえちゃん、わたしもいく。ママしんぱいだよ。  外は危険だ。だが、フゥを一人で巣に残しておくのも心配だ。 「わかったデチ! 一緒にママを探しにいくデチ!」  チィはフゥを自分の頭の上に乗せると巣を後にした。  チィとフゥが公園の広場へ向かって進んでいくと、今まで藪を作っていた丈の高い草は 刈られていた。  やがて、イヤな臭いが漂ってきた。  しばらく行くとマラ実装が数匹死んでいた。  そして、まもなく広場に出るという所で「それ」を発見した。  「それ」は両脚が綺麗に切断され、身体のところどころが齧られていた。  「それ」にはハエが飛び回り、あたりには腐敗臭が漂っていた。  「それ」のパンツは破り捨てられ、総排泄口は大きく裂けていた。  チィは状況をまったく理解できなかった。  チィに理解できたのは、かつて「それ」がママと呼んでいた存在であり、「それ」が もう動かないという事実だけだった。  ママは死んでいた。  夏になり丈の伸びた草を人間が草刈機で刈ったのだろう。  ママは不幸にもその作業に巻き込まれ両脚を草刈機で切断された。  そして、動けないところをマラ実装たちに凌辱され、身体を齧られ絶命したのだ。  いくら力の強いママでも両脚を失っては普通の実装石並みの力も出せない。  なんとかマラ実装たちを屠ったものの、ママも力尽き倒れたのだ。 「ママ……」 「テ…フ……」  チィとフゥは変わり果てたママの死体の前で涙を流した。 「デジャァァァァァッ!!」  突然、藪の中から何かが飛び出してきた。  マラ実装だった。まだ生き残っていた者がいたのだ。  力の強いマラ実装相手ではフゥを守るどころか、自分の身を守ることすらできない。  チィは恐怖でその場を動くことができなかった。  マラ実装はチィをいとも簡単に押し倒すとパンツを剥ぎ取り総排泄口にマラを突き刺した。 「デッ! デチャァァァァァァ!!」  チィは叫んだ。マラ実装のマラの長さはチィの身長にほぼ等しかった。  マラはチィの総排泄口から喉まで貫き通した。 「〜〜〜ッ!!」  喉を貫かれたチィは叫ぶことも封じられた。  マラ実装は容赦なくピストン運動を繰り返す。このままではチィの身体そのものが壊れてしまう。  チィは苦痛の中で、反撃しよう、せめて眼だけでも潰せればと手を伸ばすが届かない。  チィは仕方なく手でパタパタとマラ実装の身体を叩いた。 「……ッ!!」  チィは右腕に激痛を感じた。マラ実装が抵抗を続けるチィの右腕を千切りとったのだ。 「デッ、デッ、デッ……デビャウオォウォウォウォウォウォウォ!!」  マラ実装は絶頂に達し、チィの体内……性格には喉から頭部にかけての部分に射精した。  ブピュッ! ビュクッ!! ビュクッ! ビュクッ!  マラ実装の精液はチィの口はおろか、鼻、耳、そして眼からもあふれ出た。  チィの脳は、頭部までも貫いたマラの激しいインサートで破壊され、チィは激痛と 鈍痛の海の中、徐々に意識を失っていった。  その時。  ……ィィィィィィィン……  遠くから機械の音。  ……ィィィィィィィン……  音は徐々に近づいてきた。  ギュィィィィィィィィン…… 「デジュギュァッ!!」  マラ実装は簡単に胴体を切断され絶命した。  チィを救ったのは皮肉にもママを死に導いた草刈機だった。  どのくらい時間がたったのだろう? チィはようやく意識を取り戻した。  マラ実装のマラはまだ差し込まれたままだった。  チィは苦労してマラを抜き取るとなんとか立ち上がり、わずかに残った本能と理性を フルに駆使してフゥの姿を探した。  しかし、視界の届く範囲にフゥの姿は見えなかった。  なんとか無事に逃げてくれたのかとチィは少し安心した。  ふと、チィは背中が濡れているのに気がついた。緑色の液体……どうやら実装石の血のようだ。  だが、チィの背中に傷はないようだ。では、この体液はいったい…… 「フ、フゥちゃん……!!」  いままでチィが倒れていた場所に、ぐじゃぐじゃになった緑色の皮と液体が残っていた。  その中に埋もれている小さな赤と緑の球体……  フゥはマラ実装に倒されたチィの下敷きになり、声を出す暇もなく潰されてしまったのだ。 「デ……デ……デジャァァァァァァァァァ!!」  悲しみと怒りの叫びを挙げた後、チィはその場に倒れてしまった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  まだ仔実装より少し大きい程度の親実装が親指実装より少し大きい仔実装を二匹つれて 歩いている。  楽しそうにテチテチ鳴きながら。どうやら親子愛のある実装石のようだ。  仔実装の一匹が倒れている実装石を発見した。  成体になりきってない、まだ小さめの実装石だった。  右腕が失われ身体が酷く汚れ、そばには上半身と下半身が泣き別れしたマラ実装が転が っていた。  仔実装はそばに近づき、優しく話しかける。 「おねえちゃん大丈夫テチ?」  仔実装は心配そうに覗き込んだ。 「デ……デデ……」  実装石は意識を取り戻したようだ。 「よかったテチ! ママ、このおねえちゃん生きてるテチ!」  嬉しそうに言ったその時だった。 「テチャッ!……」  仔実装の頭が消えた。  くちゃくちゃ……ぷきっ……ぽきぽき……くっちゃくっちゃ……  倒れていた実装石は仔実装を喰らい始めていた。 「デデデ……デェェェッ!!」  恐怖に糞尿を漏らしながら、実装石親子は逃げ去った。 「うまいデチ……なんデチこれは……?」  この新鮮なエサを食べると、身体の芯から力がみなぎってくるようだった。  みるみる疲労が回復していくようだった。  失っっていた右腕も蘇ってくるようだった。  記憶も理性も失った同族喰いの実装石の脳裏に、ふとある知識が蘇った。 「……同族を喰らうと力が手に入る……」  そうだ。力だ。力が手に入れば、なんでも自由にできる。  今まで守れなかったものも守ることができる。  でも、守れなかったものってなんだったんだろう?  何か大切なことを忘れてしまったような気がする。  でも今は力を手に入れなくては。  そのためには同族だ。  同族を捕らえて喰ってやる。  失った大切なものを取り戻してやる。  実装石は新たな決意を胸に立ち上がった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  時は流れ……  春。  中学の入学式を終えたモモは母親と一緒に家路についていた。  モモはセーラー服の似合う美しい少女に成長していた。  モモは通学路の横の公園に眼を向ける。桜の花が満開だった。  数年前までは野良実装石が大量に住み着き、近づくことも躊躇われた公園。  だが、ある時を境に凶暴な野良実装石は姿を消した。  しばらくすると、実装石は戻ってきたが公園を汚し人間にエサを催促するようなことが なくなり、逆に公園の掃除をしたりするようになっていた。  街の住人の実装石に対する認識は少しずつ改まり、餌付けする人たちも増えていった。  餌付けされた実装石も図々しく催促するようなことはなく、エサを貰うと「デスゥ〜」 と小さな声で鳴きながら頭を下げ、おとなしく去っていった。  親実装石も仔実装を食べるようなことはなく、エサを等分に分け与えるようになっていた。  公園は美しい秩序を取り戻していった。  今では実装石は子供たちの良い遊び相手であり、街の人々の親しい友人になっていた。  実装石は世間一般では未だに嫌われ者だが、この公園の実装石だけは不思議と秩序だっ た行動をしていた。  理由は誰にもわからない。  モモは公園の水飲み場で水を飲んでいる実装石の親子を見た。  水を飲み終わった仔実装の口元を前に垂らした布で拭いてあげている。  親実装に抱かれた仔実装が不器用に水飲み場の蛇口を閉めると、親実装はやさしく 頭をなでてあげた。  その様子は人間の親子と何ら変らない。  実装石親子はモモたちに気がついた。仔実装はモモの方を向くと両手を挙げて 「チィ♪」と可愛らしく鳴いた。  実装石親子がモモのそばに近づいてきた。  親実装石は普通の実装石よりも少し大きかった。 「デスデス……」  親実装石はモモに仔実装を差し出した。飼って欲しいというような感じではない。  自分の子供を見てくださいといった優しい感じだ。 「テッチュ〜ン! テチテチテッチュ〜ン♪」  仔実装はモモの手の中で嬉しそうに鳴いた。 「かわいいね。やさしい子なんだね……」  仔実装の頭と髪を優しくなでるモモを親実装は静かに見つめていた。 「元気に育つといいね!」  モモは親実装に仔実装を返してあげると親実装はコクリと頷いた。  そして、実装石親子はゆっくりと公園の奥の方へと歩いていった。  モモはその後ろ姿をいつまでも見つめていた。  かなり姿が小さくなったとき親実装石はくるりと振り返り、深々とお辞儀をした。  そして、仔実装を抱き上げると駆け出し、藪の中に消えていった。 「え?」  モモは不思議な感覚に襲われた。  なんだったんだろう? 今のお辞儀は?  子供をだっこしてあげただけ…… 「あ……」  モモは突然何かを思い出した。とても懐かしい、とても優しい。そしてとても悲しい 小学生のころのちいさなちいさな出来事  みるみる目頭が熱くなってくる。 「お、おかあさん……う……う、うぁぁぁっ!」  モモは突然大声をあげて泣き出した。  母も涙を流しながらモモの肩を抱き、何度も何度も頷いた。  暖かな陽射しの中、冷たい風が母娘の横を吹き抜けていった。  春はまだ始まったばかりだ。 (おはり) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 注釈. 及び後記. 06/05/12(日)23:00:00 作者コメント:  「仔実装ちぃちゃん」は今回でおわりです。  長い間おつきあいいただき、ありがとうございました。  絵を描いていただいた絵師の方ありがとうございました。 *1:アップローダーにあがっていた作品を追加しました。 *2:仮題をつけている場合もあります。その際は作者からの題名ご報告よろしくお願いします。 *3:改行や誤字脱字の修正を加えた作品もあります。勝手ながらご了承下さい。 *4:作品の記載もれやご報告などがありましたら保管庫の掲示板によろしくお願いします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 戻る

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1 Re: Name:匿名石 2023/08/05-22:44:54 No:00007713[申告]
狂ったように見えたけどまさかのハッピーエンド…!
ママみたいに力で公園改革したのかな
2 Re: Name:匿名石 2024/03/28-04:07:21 No:00008958[申告]
ハァ!?
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