タイトル:【塩】 あの日へ
ファイル:あの日へ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1395 レス数:3
初投稿日時:2006/05/23-23:39:45修正日時:2006/05/23-23:39:45
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このスクは[実装石虐待補完庫(塩保)]の[[スクあぷろだup0181-1267]に保管されていたものです。
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その実装が産まれ落ちた場所は、 昼も夜も無い、薄暗い蛍光灯の光だけが差す、 長方形のガラスケースの中にある水飲み場だった。 産まれて初めて口にしたものは、親の顔から垂れて来る血だった。 産まれて初めて耳にしたものは、悲鳴だった。 産まれて初めて目にしたものは、無残な姿で横たわる姉妹の亡骸だった。 産まれて初めて胸に抱いた感情は、恐怖だった。 彼女は顔面が陥没している為、 何も反応を起こさない親に抱きつき、震える事しかできなかった。 始めは多数いた姉妹達も人間の気まぐれで殺され、減っていった。 いつ自分が殺されるかわからない状態で過ごす日々は、 まさに地獄だった。 しかし、そんな状態でも救いがあった。 親は仔にできる限りの愛情を注いで育てた。 自分の分の食料を割いてまで仔に与え、 何もできない代わりに、 薄暗いケースの中で、仔をいつまでも撫でた。 人間による虐待によって、いつも怪我を負っている親。 そんな親に抱かれている時だけ、現実を忘れ寝る事ができた。 仔実装が彼女を含め、残り3匹となった所で変化がおきる。 何時もの様に部屋が明るくなり、人間がやってくる。 仔実装達はケースの隅にかたまり、身を寄せ合い震える。 その前に親が立ち、身をていして仔を護る。 親は力いっぱい威嚇の声を出す。 意味の無い行為だとはわかっていても、精一杯の抵抗をみせる。 もう、これ以上、仔を殺されてたまるものか。 親は震える足を黙らせ、人間に牙を剥く。 そんな親実装に向けて人間が言葉をかける。 『取引しよう、仔を差し出せば、お前に俺は暴力を振るわない』 親はその言葉を聞き、威嚇の声を段々と弱める。 人間は、言葉を続ける。 『仔は生きてさえいれば、いくらでも産める。  だが、死んだらそれまでだ』 その言葉を聞き、親実装はゆっくりと仔実装達の方へ振り向く。 親実装は隅で震える、適当な仔を抱き上げる。 その仔実装は、自分がどんな目に合うか、 直感的にわかったのか。 親の腕の中で暴れ、泣き、抵抗する。 親は無言のまま、人間に仔を渡すため、 高く高く仔を持ち上げる。 残った2匹は互いに抱き合い、親の背中を見る。 人間はその仔実装を受け取り、ケースの目の前で虐待を始めた。 血を別けた姉妹が、透明なガラスを隔てたすぐ近くで、 服を剥がされ、髪に火を付けられ、四肢が潰されていった。 絶え間ない絶叫と、人間の笑い声、 さっきまで姉妹だったものが、ただの肉片に変わっていく。 彼女ができる事は目をつぶり、震える事だけだった。 全てが終わり、ケースの中に姉妹だったモノが降って来る。 それは、床に落ちるとベチャっと嫌な音をだした。 姉妹は死んではいないが、微かに息が確認できるていどの瀕死の状態だった。 虚ろな目でその仔実装を見ている親実装に、人間が言葉をかける。 『殺せ』 親実装がピクンと反応する。 やらなければ、どんな目に会うか分かっている。 全身が焼かれ、再生が不可能な状態の仔実装を、 親実装が抱き上げる。 親に抱かれ安心したのか、その仔実装は小さく息をしティーと親に甘える。 自分を売った親を、まだ信じているようだ。 そんな仔実装を少し見つめると、親実装は仔の頭に噛り付ついた。 その仔実装は目を見開き、噛り付いた親を見つめる。 顔半分が無くなった、その仔実装は声にならない声を上げた。 親の手で直接、痛みを受けたその仔実装は現実に絶望し、 自らその短い生涯に幕を引いた。 死因はストレス死であった。 仔実装の遺体を抱きながらデーっと鳴き出した親実装。 その様子を見て、人間は大いに笑った。 己の安全の為に、 仔を簡単に売った親を見つめ、 彼女は安息の地が無くなった事を理解した。 それからは酷かった。 優しかった親は、人間の傀儡と成り果て虐待に手をかしだした。 人間ではなく親の手による虐待。 優しく頭を撫でてくれたその手で、 彼女をボロボロになるまで殴りつける、 そしてその度に、人間に金平糖をもらい頭を撫でられている。 まるで当然の事をしているといった顔は、酷く輝いていた。 子煩悩だった親を豹変させた人間に、彼女は底知れぬ恐怖を感じた。 親による虐待は初めのうちは、 人間が命令を出さなければ行われなかったが、 段々と日常的に、飼い主が居ない時にも行われるようになってきた。 彼女は衰弱し、暴力を受けても泣きもしなくなった。 そんな状況も人間の、 『頃合か』 の一言で終わりを告げた。 何時もの様に仔を殴りつけている親実装を掴み上げ ケースの外に出す。 親実装の頭を撫で金平糖を与える人間。 親実装は満足げにデースと声を上げ、人間に媚びを売っていた。 ふと、人間がケースの中の彼女にあるものを渡す。 『これがわかるか? これを壊せば親は死ぬ』 人間から渡された物は、キラキラ光る偽石だった。 それを見た親が、金平糖を落とし悲鳴をあげる。 何度も何度も、ガラスを叩き返してくれと彼女に懇願する。 『自らの意思で、自分の仔を殴りつけるだなんて酷い親だろ?  あんなの、親でもなんでもないはずだ。  虐待から逃れたいのなら、その石を砕け。  なに、ちょいと齧れば良いだけだ』 どんなに酷い事をさてれも彼女にとっては親である。 そんな事はできなかった。 痛みしか感じない体を引きずり、やさしく偽石を掴み上げると ガラス越しの親のもとへ、その偽石を運ぶ。 後一歩という所で、彼女の体力が尽きた。 足をもつれさせ、前のめりに転ぶ。 持っていた偽石はガラスを叩いている親実装の目の前に飛び そして、砕けた。 彼女は親を殺してしまった事を悔やみ、大粒の涙を零した。 切れそうになる意識の中で、人間の笑い声がやけに耳に響いてきた。 それから暫くの間、暴力が止まった。 餌もちゃんと支給され、声もテチィからテスーへと変化し、 もう少しで成体になるという頃に、悪夢が始まってしまった。 いつもの様に餌を食べていると、突然人間に掴まれる姉妹。 暴力が暫く止まっていた事と、食事中だと言う事もあって油断していた。 姉妹は、すぐに捕まってしまう。 口からさっきまで食べていた残飯をこぼしながら必死で喚く。 彼女もケースの中から大声をあげ姉妹の身を心配する。 今まで常に身を寄せ合い、 眠る時も重なりながら寝ていた自分の半身とも言える存在が、 殺され、消えてしまう事に、彼女は恐怖する。 人間は姉妹の服を取り裸にした後、 左手で姉妹を押えながら、右手で姉妹の総排泄口のあたりを刺激する。 恐怖で泣き喚いていた姉妹の悲鳴が、艶っぽい声に変わっていく。 姉妹は両脇を抱えられケースの中に戻された。 姉妹が無事にケースの中に戻ってきた事に、喜び走り寄る。 彼女は、背中を向けている姉妹に抱きつき、声をあげ泣く。 良かった… 痛い事されずに、殺されずに 本当に良かった… しかし、姉妹はこっちに顔を向けず荒い息を何度も繰り返している。 テス?心配になり顔を覗き込もうとした時、 姉妹に突き倒された。 倒れこんだ彼女の目にそそり立つマラを生やした姉妹が映った。 目は充血し、さっきよりも息を荒げ、 ゆっくりと彼女に近づく。 本能的に危機を感じ取った彼女は立ち上がり逃げようとする。 しかし、馬乗りされ動きを封じられる。 封じられている手の代わりに大声をあげ抵抗するが、 それは無意味な行為となった。 下着を取られ、その後、痛みが全身を突き抜けた。 つらい時流した涙を、そっと拭ってくれたその右手で、 喚く彼女を殴る姉妹。 薄暗い部屋で親による暴力に震えていた彼女の手を、 いつも握っていたその左手で、首を絞める姉妹。 怪我を負った時、傷を舐めてくれていたその口からは、 いつもの様な慰めや励ましの言葉はでず、 かわりに快楽を楽しむ声と、唾液だけがこぼれて来た。 彼女はもっとも信頼を寄せていた姉妹に犯された。 体よりも、ひたすらに心が痛かった。 一度快楽を知ってしまった姉妹は、それっきり正気に戻る事は無く、 餌の時間と睡眠時間以外は彼女を弄んだ。 唯でさえ衰弱している彼女にとって、その状況はとても耐えられるものではなかった。 いつもの様に陵辱から解放され、横たわり微かに息をする。 彼女の命は今まさに、尽きようとしていた。 次の瞬間目覚めた場所は、 やわらかいタオルが敷いてある簡易の寝床であった。 産まれて初めて浴びる日の光。 眩しいその光に、彼女は少しだけ、眩暈を起こしそうになった。 そこに、あの人間がやってくる。 今度は何をされるのかと身構える。 だが、悲鳴は上げない。 上げたところで何も変わらない。むしろもっと酷い事をされる。 彼女は諦めていた。 生きる事に、望む事に、そして家族を含めた同属に。 そんな彼女に人間が一粒の金平糖を与える。 彼女の手には甘い金平糖。 だが、なかなか口にしようとしない。 人間がいなければどこか遠い所に金平糖を投げていた事だろう。 これを食べると、 出る場所が口か総排泄口かの違いかはあるが、 体中の水分と栄養が糞と一緒に出てしまう。 毒物… しかし、食べるしか彼女に選択肢はなかった。 自分で食べれば被害が少なくて済む。 拒否したら、どんな事をされるか分かったものでない。 意を決して彼女は金平糖を口にする。 いつものように甘い香りが口の中に広がる。 そして、いつものようにお腹が痛く…  ならなかった。 人間はもう一粒彼女に金平糖を渡し、食べさせる。 それが終わると、暖かいスープを彼女に与え。 いつの間にか巻かれていた包帯を外し、薬を塗る。 そしてまた包帯を巻き。上にタオルをかぶせ部屋を出て行った。 不思議であった。 なぜ、痛い目にあわないのだろう? いつも、挨拶代わりに拳が飛んで来た。 それなのに、この待遇はなんだ? 彼女は考えた。だが答えなど出るはずが無い。 やがて、襲ってきた睡魔に身を委ね、 彼女の意識は闇の中へと落ちていった。 目を瞑る彼女の両目は、とても深い緑色をしていた。 それから彼女は教育を受ける事となる。 身重の体で人間から厳しい躾を施される。 トイレの躾け、餌の食べ方、口の聞き方から始まり。 簡単な家事の手伝い、そして掃除の仕方。 辛くはなかった。 あの四角いケースの中で、 いつ殺されるか分からない状態でいた時の事を考えると、 全然辛くは無い。 人間の期待に応えられず、失敗した時は容赦無く殴られたが、 成功した時は、誉めてくれる。 たいした奴だと言葉をかけてくれる。 彼女は嬉しかった。 自分は何も意味の無い存在、消えていくだけの存在だと 思っていたが、少しずつ自信をつけていく。 相変わらず、恐ろしい存在だが。 人間に少しだけ信頼を寄せるようにもなってきた。 認めてくれる事がとても嬉しかった。 やがて、彼女は出産の時を迎える。 大きなお腹を擦り、デーデーっと苦しそうに息を吐く。 その時はやってきた。 全部で7匹、自分の分身をこの世に産み出した。 どの仔も可愛い、とても可愛い仔供たち。 テチィと甘える、わが仔を抱え、 彼女は母になった喜びに身を震わせた。 だが、幸せは長くは続かない、それから5日後、 人間に全ての仔を取られてしまう。 反抗はしなかった。 下手に手を出し、人間の機嫌を損なえば仔は全て殺されるであろう。 彼女は賢くそして、諦めの心を持っていた。 人間に連れて行かれるわが仔の悲痛な叫びを聞き、 彼女は声も無く、静かに泣いていた。 だが、彼女はどこかほっとしている自分に気がつく。 わが仔が嫌いなわけでは無い。 彼女は無意識の内に、実装石を拒絶していた自分に気がついてはいなかった。 連れて行かれた彼女の仔達は、産まれて間もないと言うのに 人間によって厳しい躾を施される事となる。 右も左も分からない仔実装達にまず最初に仕込まれた事。 それは、彼女がそうであったかのように、 恐怖を絶望を教え込まれた。 2匹ほど、出来の悪い仔を見せしめに殺し、 徹底的に、人間の怖さを見せ付ける。 絶望し、ストレスにより死んでいく仔実装もいた。 おぼつかない足取りで掃除の真似事を行う仔実装たち、 人間は小さなミスも許さなかった。 普通であれば母親の胸に抱かれ、生涯の中で一番安らいだ 時間を満喫するはずの仔実装達は、この現実に疲れ果ててしまっていた。 そんな仔実装達に、人間は魔法の言葉をかける。 『最後まで残れたら親の元に返してやろう』 その言葉を聞き、目に光が戻る仔実装達、 人間の命令をどうにかこなしていった。 彼女は、わが仔に躾を行う様子を、同じ部屋に置いてある。 マジックミラー加工されている 完全防音のガラスケースの中からずっと見ていた。 一匹、また一匹と死んでいく、 わが仔を、歯を食いしばりながら見つめ続ける。 何も出来ない自分を呪いたくなってくる。 そんな彼女に人間が言葉をかける。 『苦しいか? 自分の分身が、愛しいわが仔が  肉塊になっていく様子は見ていて辛いだろう』 人間は血だらけになっている手を、 タオルで拭いながら、そう彼女に言葉をかける。 『辛いのはその愛情のせいだ。あれはお前の仔でもなんでもない、  どこの馬の骨とも分からぬ、同属が産んだ仔実装だ。  そう考えてみろ。不思議と気持ちが楽になるぞ』 憔悴しきっている彼女は、無条件で人間の言葉を受け入れる。 確かに世界が変わった。 見ていられないほど、残虐な光景が目の前に広がっていると言うのに、 彼女の心は、気味が悪いほど落ち着いていた。 体を痛めて産んだ、愛しいわが仔の四肢が潰されても何も感じない。 心を痛めて産んだ、愛しいわが仔の目玉がくりぬかれても何も感じない。 目線の先には、悲鳴をあげる仔実装。 たぶんママー、ママーとでも、助けを呼んでいるのだろう。 何も感じないはずなのに、彼女は無意識に涙を流した。 それっきり、仔実装達がどんな目にあっても、 彼女は何もなにも感情を表さなくなった。 人間により彼女の仔を思う気持ちが完全に殺された瞬間であった。 過度な躾により彼女の仔は、残り一匹となった。 とても泣き虫な仔実装で、人間は躾のしがいがあると、 その腕を存分に振るった。 角材や、鉄パイプで頭を叩き、様子を見る。 ボロボロにされた仔実装は、半分凹んでいる頭を地面に擦りつけ、 ありがとうございました。と呟く。 もちろん本心からでは無い。そう言わなければもっと酷い事をされるのだ。 その様子を見て人間が口を開く。 『そうか、そんなに痛みが嬉しいか。ならばもっと与えてやろう』 五寸釘を取り出すと、その足に釘を打ち始める。 肉に釘が突き刺さる度、仔実装はテッっと少しだけ声を上げた。 『打ち終えてやったぞ。何か言う事はないのか?』 その言葉に反応し、仔実装は擦れた声で、 ありがとうございました。と口にした。 人間は、マジックミラーの中にいる彼女に声をかける。 『どうだ? 生き残ったのはあいつ一匹だが、  お前が望めば、一緒に生活させてやっても良いぞ』 人間はぐったりとし、何も反応の無い仔実装を指差し 彼女にそう問う。 人間の言葉に彼女は静かに首を横に振った。 その様子を見て、人間の口元が少しだけ歪んだ。 彼女に拒絶されたその仔実装は、立派な商品となり。 ペットショップに卸されていった… しばらくし、彼女はまた身篭る。 相手はあのマラを生やした彼女の姉妹。 久々の穴の味に、狂ったように快楽を貪る。 陵辱が終わり、汚れた体を人間に拭いてもらいながら彼女は口にする。 あの、屑を殺してもらいたい。 躾を体得し、人間に認めてもらっていると言う 強力な自尊心が、彼女にそう言わせる。 何も出来ない屑が私を弄ぶ。 許せなかった。 そこには何も出来ず、流れに逆らわないように生きていた 昔の面影はなかった。 人間は彼女の願いを聞き、 何も言わずに綺麗な石を彼女のさし出す。 その石は見覚えがあった。 いつかのように、彼女はその石を受け取ると。 躊躇せずに噛み砕いた。 そしてその後、 自らの手で、緑に染まった片目をくり貫き始める。 痛みが脳天を突き抜けた。 彼女は教えられていた。 産みたくなければ、片目を潰せと。 くり貫き終わった片目から綺麗な朱色の血が流れる。 まるで、大泣きしてしまっているかのように… 姉妹と胎の中の仔を、自らの意思で殺した日から、数日後。 彼女に転機が訪れた。 目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。 彼女は売られたのだ。 実装石は可愛さの残る仔実装の時期が一番売れ、価値がある。 だが、成体になるまでじっくりと時間をかけて躾を受けた実装も それなりに価値のある存在である。 仔実装の可愛さは無いものの、 全ての躾を完了し、しかも性格が固まっているのでとても飼い易い。 仔実装ならば、その後の飼い方次第で、 いくらでも糞蟲に落ちる可能性があるが、 成体はならばその可能性が極めて低い。 初めて実装をペットにする人間や、愛玩用以外の目的、 例えば軽作業を行わす事を目的として実装を飼うような人間がいるので、 それなりに需要があるのだ。 上体を起こし、彼女は周りを確認した。 日の光は差しているものの、そこは冷たいガラスケースの中だった。 彼女はあの頃を思い出し、震え出す。 あの日々が帰って来る。 そう思うだけで、涙を流し身を振るわせ始める。 見知らぬ人間が、彼女が起き出した事に気がつき ケースの近くへと足を運ぶ。 その人間は、優しく彼女をケースの中から出すと、 床に立たせ口を開く。 『始めまして』 そう口にする見知らぬ人間。 彼女はこうして、第2の人生を歩き始めた。 彼女の飼い主は、大切に彼女を扱った。 始めの内は環境の変化に戸惑い、 落ち着かない日々を過ごしたが、時期に慣れてくる。 彼女は飼い主の下、いろいろな事を経験していく。 風の匂い、水の冷たさ、世界の広さ。 外の世界に足を運び、見るもの全てに感動する。 残酷な世界を知っている彼女にとって、 この生活はまさに天国、楽園だった。 生きていて良かった。 あの時、諦めなくて良かった。 そう思いながら、彼女は充実した日々を過ごす。 自分を大切に扱ってくれる飼い主に認められたく、 彼女は進んで家事をこなした。 あの時教え込まれた躾は、この為に教えられたのか。 何回も失敗し、その度に叩かれた事は決して無駄ではなかった。 凄い、凄いと彼女を誉める飼い主。 自分を見てくれる存在を得、彼女はとても満足していた。 それから、しばらく月日が経った。 彼女はお腹を大きく膨らましている。 散歩をしていた時にでも妊娠したのだろうか、 2度目の出産は目前に迫っていた。 彼女は気がおもかった。 産みたくない。 仔を思い、慈しむという心を殺されている彼女はそう、思う。 彼女の大きなお腹を撫で、 『君の仔なら皆可愛くて、賢い仔ばかりなのだろうな  早く産まれて来ないかな』 と飼い主が口にする。 嬉しそうな飼い主の顔を見て、 だいぶ昔の出来事だが、 今回は片目をくりぬく事は出来そうも無いなと彼女は思った。 仔を嫌う自分と、飼い主の期待に応えたい自分。 彼女の心は揺れていた。 前回より少ない頭数、彼女は4匹の仔実装を出産した。 産まれたてのわが仔を見つめる彼女。 その心には特別感情は、湧いてこなかった。 それでも、本能が指示を彼女に出す。 彼女は仔に平等に乳を与えた。 彼女の望みは、飼い主との心安らぐ時間。 それが欲しかった。 だが、現実は彼女の望みを叶えない。 飼い主は育児に手を貸し出し始める。 良かれと思ってやっている飼い主の行動が、 健全な家族の関係を壊していく。 仔実装達は、彼女よりも甘い飴を与えてくれる 飼い主に懐き始めてしまった。 味気無い彼女の母乳よりも、飼い主が与えてくれる甘いミルク。 仔実装達は彼女に見向きもしなくなってきた。 飼い主を独占するわが仔を見つめ、彼女にドス黒い感情が芽生え始める。 自分はそれこそ、死ぬような目に何度も会ってきて、 何度も絶望し、何度も諦めかけた末に、今の生活を手にしている。 お前らは、実の親に殺されかけた事が有るのか? お前らは、実の姉妹に犯された事が有るのか? お前らは、人間の狂気に触れた事が有るのか? 今の幸せを当然の事として、 あたり前の事として感じているのでは無いのだろうな? 無条件で、なぜ私と対等な生活を手にしている? おかしい。それはとてもおかしい事。 飼い主は忘れていた。 彼女を買い取る時に渡された注意書きの存在を、 そこには、 〝多頭飼い、繁殖を行わせないで下さい〟 と書いてあった。 仔を産み実装が増えると、飼い主に負担がくる。 その度に処分しなくてはならない飼い主に変わり 産んだ親自ら、仔を処分する。 彼女をブリーダーから渡された時、 説明を受けたはずだ。 『注文通り、人間に懐く実装石に仕上げました。  実装を増やしたくないとのご要望に応え  妊娠しても、この実装自らが仔を処分するよう教育を施しました』 と、 そう躾けられてきた。 実装石を嫌悪するように… 認めてくれる存在に忠誠を誓うように… 彼女に非はなかった。 全ては扱い方を間違えた飼い主の責任。 彼女の仔なら飼っても良いかなと、 多頭飼いはしないと言う、当初の考えを変えてしまった 飼い主の身勝手さの問題。 仔実装に付っきりの飼い主を見つめ、 彼女は久々に涙を流す。 憎かった、飼い主を独占する仔実装達が。 そんな仔実装の一匹がこちらを見つめ、テチチと笑う。 (ママは用無しテチュ、この下僕がいれば私達は幸せになれるテチィ) その一言が、決定的な一言となってしまった。 その夜、彼女は行動を起こす。 ガラスケースの中でテーテー寝息を立てている 仔実装達に息を殺しながら近づく。 あんなに嫌いだったガラスケースだが、 今回だけは逃げ場の無いこの構造にとても感謝している。 寝ている一匹を掴み上げ、一気に腕を食いちぎる。 テギャァァァァっと声を出したのはその後だ。 彼女は楽に殺す事をしない。 じっくりと痛みを与えながら四肢を一本一本 食いちぎっていく。 達磨になったその仔実装の頭を踏みつけ力をこめる。 (愛してるテチィ、とっても愛しているテチィ  だからママ、殺さないでママァー!!!) 演技だ。助かりたいが為に口からでまかせを言っているに過ぎない。 悲鳴を聞き起きだし、同じように悲鳴を上げ、 飼い主を呼んでいる残り4匹の仔実装達に、 彼女は暴力を振るう。 其々が気絶し、おとなしくなる。 蛆のように体をくねらし、 何とか親から逃げようとしている仔実装を捕まえ、 馬乗りで拳を叩きつけ始める。 テジャ、テジャっと言いながら殴られ続ける仔実装。 彼女は不思議な気持ちになっていた。 弱者を一方的にいたぶる快感、生命を握っている優越感。 あの人間や彼女の親、そして姉妹がなぜあのような顔をしながら こんなおぞましい行為をしていたのか、分かった気がしてきた。 彼女の下には涙を流しながら、許しをこう仔実装の姿。 ぐちゃぐちゃの顔で、涙を流しながら (ごめんさないテチィィィ、許してテェェェ、もう、痛い事しないでテジェェエエ!!!) と何度も声を上げる。 その声を聞き、彼女は怒る。 ふざけるな、私は何百何千とその台詞を口にしてきた。 たった一度でも、その願いが聞き入られた事があったか? 自分だけ、その願いが聞き入られるなんて、 そんな虫の良い話があってたまるか。 許さない、絶対に許さない。 彼女は今まで受けてきた暴力を、そのまま仔実装にぶつけ出す。 内に生まれていた凶暴な獣が、彼女を支配する。 始めは、目障りな存在を排除する目的だった。 しかし今は、泣き叫び、徐々に弱っていく仔実装のさまを見る事が 最優先になってきた。 おもしろい、これはおもしろい。 ぐったりとしている達磨仔実装を引きずり 彼女は水のみ場へやってくる。 息も絶え絶えの達磨仔実装の顔を、水の中に沈める。 あの人間にやられたこの虐待のせいで、しばらく水のみ場へ 近づけなかった事を彼女は思い出す。 瀕死の達磨仔実装は、抵抗らしい抵抗をせずに、 仮死をむかえる。 彼女は面白みの無くなった達磨仔実装を頭から咀嚼し始め その肉塊をペッと床に吐き捨てる。 その内、口の中でガキッっという音がする。 達磨仔実装はこの瞬間、完全に死をむかえた。 彼女は適当な仔実装を一匹掴み上げ、 咽喉元に牙を突き立てる。 これで、鳴き声を上げられる心配は無い。 咽喉を食いちぎられた仔実装は、苦しそうに床を転がる。 そんなに大げさに痛がらなくて良い。 その程度の怪我では絶対に死ぬ事は無いのだから。 彼女は怪我の度合いに非常に詳しかった。 どこをどうやられれば、何時間ほどで回復するか、 そして、どの程度痛みを覚えるか、 自ら経験済みの事だった。 転げ回る様子を確認し、彼女はまた別の仔実装を掴み上げ、 床に思いっきり叩きつける。 そして、転げ回る仔実装の所に、 その叩きつけた仔実装を引きずりながら移動する。 彼女は転げ回る仔実装の目の前で、 こいつが死んだら同じ事をお前にも行うと 一言、口にしてから、 暴力を始める。 テジャァァァァァァァァァァと言う絶叫が、 咽喉を食いちぎられた仔実装の耳に響く。 生きながらにしてつま先から食われていく様子は、 とても凄絶なものだった。 食われていく仔実装が咽喉を食いちぎられた仔実装に助けを求める。 死にたくない、助けてと咽喉が涸れるほど声を出す。 半分ほど食われたその仔実装の胴体から キラキラ光る偽石が顔を出す。 彼女はその偽石を取り出すと、咽喉を食いちぎられた仔実装に渡す。 助かりたければ、それを壊せ。 偽石を取られた仔実装は、 咽喉を食いちぎられた仔実装に壊さないで懇願する。 だが、その願いも虚しく、 あっさりと偽石を壊す咽喉を食いちぎられた仔実装。 これで助かる。 そう思った矢先、己の足が潰されている事に気がつく。 彼女は最初から助ける気など無かった。 悩みもせずに偽石を簡単に壊した この咽喉を食いちぎられた仔実装に怒りを感じていた。 右足から始まり、左足、右腕、左腕。 次々と潰していく。 お前はもう助からない。 頭部を足で踏み。少し力を入れたところで。 パキッっと音がする。 見れば咽喉を食いちぎられた仔実装が死んでいる。 ストレス死であった。 随分と肝の小さい仔実装だ。 そんな事を思いながら彼女は頭を踏み潰した。 テギャー テジャァァァァァアアアアァァアアァアア 気絶から覚めた最後の仔実装が、ガラスをペチペチと叩き 必死で飼い主を呼んでいる。 五月蝿いやつだ。 彼女は明確な殺意を持ち、 ゆっくりと仔実装の方へ歩いていく。 彼女が近づいた事に気づいた仔実装は、 慌てて隅の方へ駆け出す。 何かに躓き転ぶ。目の前には死体となった姉妹達。 躓く原因を作ったのは下半身が無い姉妹の死体。 仔実装はパニックを起こしていた。 倒れたまま匍匐全身でなんとか彼女から逃げ出そうと必死で前に進む。 だが、すぐに行き止まる。 四角いガラスケースの中には逃げ道など存在しない。 パンツの中に収まりきれない糞がはみ出し ケースの中を汚す。 その様子をみた彼女は、パンコンしている仔実装に 糞の掃除を命令する。 助かりたい一身で自ら生産した糞を 舌で舐め取る仔実装。 舐めても舐めても掃除が終わらない。 舐めながら糞を漏らしているからだ。 それを見た彼女は仔実装を蹴り飛ばす。 お前は要らない、さようなら。 蹴り飛ばされた衝撃で両足が砕けている仔実装は もう、その場から動けない。 迫りくる死。 仔実装は最後の力を振り絞り、咽喉が破けるほど大声を上げた。 と、その時、 急に部屋が明るくなった。 彼女はドアの方を見る。 そこには、あの飼い主が立っていた。 飼い主は、ケース内の状況を確認すると、 悲鳴を上げ続けている仔実装を救出し、 急いで部屋を出て行く。 ケースの中、独り血まみれで立ちつくす彼女。 この瞬間、彼女の第2の人生が終わった。 彼女は今、薄暗いガラスケースの中に閉じ込められ 昼も夜も分からない生活を送っている。 己の仔を虐殺した彼女の事を、飼い主は危険視した。 その為、ケースの中に閉じ込めている。 元から親だと思っていない事もあり、 生き残った仔実装は彼女をとても怖がり、近づこうともしない。 段々と彼女は飼い主から忘れ去られる事となる。 そんな飼い主の傍らには、あの仔実装。 その場所は、彼女のモノであったはずだ。 彼女は考える。 必要とされなくなった自分に価値はあるのか? 掃除、洗濯、なんでもいい、なんでもこなす。 私を必要としてもらいたい。 なんなら、貴方のストレスを発散する為のサンドバッグ代わりになっても構わない。 彼女は泣く。 飼い主から見捨てられた事に深く傷つく。 こんな所に閉じ込められているぐらいならば、 ここに来る前の、あの恐ろしい人間の所へ帰りたい。 〝あの日〟へ戻りたい… あの人間は恐ろしかったけど、 少なくとも私を必要としてくれていた。 彼女は思う。 私の人生はなんだったんだろう?と、 思えば、殴られ、壊され、奪われる事の連続だった。 殴り、壊し、奪う側に立った事がいけなかったのか? 私とはいったい… そんな彼女の疑問に答えるような声が頭の中に聞こえてきた。 『お前はモノだ。モノらしく生きろ』 あの人間の声だった… 昔、あの人間が何気なく口にしたその言葉。 モノ… モノは要らなくなったら捨てられる運命。 モノは気に入らなくなったら、壊される運命。 なんだ… そんな単純な事だったんだ… 最後に、少しだけ脳裏を掠めた思い。 あの、ペットショップに卸された仔実装の事をなぜか思う。 一緒に暮らしていれば何か違う結末があったかもしれない。 彼女は大きく息を吐くと、 それっきり考える事を止めた。 飼い主は最善の選択をしたと思っている。 親に見捨てられた仔実装を、 彼女に変わりに大切に育てている善人だと思っている。 飼い主は実装石の事を何も分かっていない。 始めて飼った実装が優秀な彼女だった事もあり 実装石とは全て頭の良い、とても優しい生き物だと 思い込んでしまっている。 ママ、ママと自分に擦り寄り、 甘えてくる仔実装を抱き、同情をしてしまっている。 実の母に殺されかけたこの仔実装を、大切に育てて行く。 愚かである。 飼い主は実に愚かであった。 そこのそれは、とても彼女が産んだ仔では 無いような酷い出来損ない。 加えて、この時期に飴だけ与えてしまっては、 どんなに賢い因子をもった仔実装でも、 確実に糞蟲への道を歩む事になる。 無知、 それは罪である。 そしてその罰を受けるのは、いつだって実装石である。 (可愛いお洋服が欲しいテチ、買って欲しいテチュ、ママ) その仔実装の願いを聞き入れ、一緒に実装専門店に出かける飼い主。 シーンと静まり返った部屋の中。 そこに、生きている生物は一匹も居なかった。 月日は巡る。 あの仔実装は成体へと立派に成長した。 立派になったのはその体だけで、中身はむしろ退化した。 飼い主は疲れていた。 この頃、この実装の我侭は酷くなる一方であった。 食事は飼い主よりも、内容のいいもの意外口にせず、 少しでも自分の意にそぐわない事を飼い主が行おうならば、 部屋中に糞を撒き散らし、飼い主を困らせる。 四六時中、喚き散らし。 飼い主を馬鹿にする。 完璧な糞蟲を飼い主は作り上げてしまった。 こんなはずでは… そう何度も思う。 今も、糞で汚れた床を飼い主が雑巾で拭いている。 その姿を見ながら糞蟲が、デププゥっと満足げに声を上げる。 糞蟲は考える。 もっといい生活を、もっと美味い餌を、もっといい服を もっといい待遇を。 要求さえすればこの下僕はなんでもしてくれる。 ププッ今度は何をさせようか? 人間はこうあるべきなのだ 人間なんて自分の幸せの為だけに存在する道具 可愛い私を、あの糞親に殺されかけた可哀想な私を 幸せにしろ。 それが、お前の存在価値だ。 糞蟲は、そんな事を思いながら金平糖の袋を抱え ポリポリと食べている。 本当の痛みを知らないまま。 本当の苦しさを知らないまま。 本当の幸せを知らないまま。 飼い主は実装石に愛想が尽きていた。 このままでは生活していけない。 決断を下す。 糞蟲は、近所の公園へ捨てられる事となる。 糞蟲は捨てられた公園で同属に手荒い歓迎を受ける事となる。 殴られ、蹴られ、犯された。 こんな目に会っていると言うのに、あの下僕が一向に助けにこない、 今度会ったら、きついお仕置きが必要だ。 糞蟲は、同属と人間に激しい怒りを燃やしていた。 そんな糞蟲に奇跡が起こる。 偶然だった。 糞蟲は、公園にやってきた男に拾われる。 しかし、そこに感謝の心は無かった。 当然の結果だ。むしろ遅いぐらいだ。 この人間も下僕とし、もっといい生活をデププ 糞蟲は何も分かってはいなかった。 分かろうともしていなかった。 世界とは自分に牙を剥く存在だったという事に、 人間とはとても恐ろしい、狂気の塊だったという事に。 考えもしなかった。 あの時、彼女に殺されていた方が、 ずっと幸せだったという事に。 男の家にやってきた糞蟲のその頬は腫れ、 体には痛々しい傷がいくつもついていた。 躾け。 成体になった糞蟲にはその躾けが理解できなかった。 威嚇の声を出すと殴られる。 反抗すると蹴られる。 媚びると刺される。 誘惑してみると潰される。 意味がさっぱり分からなかった。 どうして、自分が痛い目に会わなくてはならないのか? 人間は道具、下僕のはず… やがて糞蟲は出産を行う。 そこは、四角いガラスケースの中であった。 所どころに、古い血の跡が見える。 死の臭いが立ち込める四角いガラスケース。 そこに置いてある水飲み場で出産を行う。 始めての出産。 何かまずい事をやった時、こいつらを盾にし 痛い事を回避しよう。 そこには親子愛から遠く離れた考えの糞蟲がいた。 糞蟲が産んだ仔実装達にも躾けが始まり。 男は熱したカッターナイフを手に持ち。 泣き虫な仔実装、一匹を手に持つ。 見せしめであった。 男は、いつもやっている事を、 始めに恐怖を感染させる事を行う。 男はその仔実装の片耳をナイフで切り取った。 仔実装は大いに泣いた。 泣いている仔実装に向かい 『黙れ、もう片方の耳も切り取られたいか?』 と声を出す。 躾け、あくまで躾けである。 その仔実装の祖母がそうであったかのように… 四角いガラスケースの中で始まった話は、 こうして彼女の仔、孫へと受け継がれて行く 彼女が産んだ始めての仔、 あのペットショップに卸された仔実装と この片耳を焼き切られた仔実装はやがて意外な形で関る事となる。 そして、話は〝あの日〟へと向かって行く… ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨ 「モノに成り下がった実装」「実装視線で話が展開」が今回のテーマ。 人間側から見れば優秀な、 実装側から見れば欠陥品の実装って、私の中ではこんな感じだったりします。 ナルの後書きに書いた、並行しているスクだったりします。 最後に読んでくれた方に、感謝の言葉を述べさせてください。 こんな長ったらしいスクですが、 最後まで目を通していただき、誠にありがとうごさいました. その実装が産まれ落ちた場所は、 昼も夜も無い、薄暗い蛍光灯の光だけが差す、 長方形のガラスケースの中にある水飲み場だった。 産まれて初めて口にしたものは、親の顔から垂れて来る血だった。 産まれて初めて耳にしたものは、悲鳴だった。 産まれて初めて目にしたものは、無残な姿で横たわる姉妹の亡骸だった。 産まれて初めて胸に抱いた感情は、恐怖だった。 彼女は顔面が陥没している為、 何も反応を起こさない親に抱きつき、震える事しかできなかった。 始めは多数いた姉妹達も人間の気まぐれで殺され、減っていった。 いつ自分が殺されるかわからない状態で過ごす日々は、 まさに地獄だった。 しかし、そんな状態でも救いがあった。 親は仔にできる限りの愛情を注いで育てた。 自分の分の食料を割いてまで仔に与え、 何もできない代わりに、 薄暗いケースの中で、仔をいつまでも撫でた。 人間による虐待によって、いつも怪我を負っている親。 そんな親に抱かれている時だけ、現実を忘れ寝る事ができた。 仔実装が彼女を含め、残り3匹となった所で変化がおきる。 何時もの様に部屋が明るくなり、人間がやってくる。 仔実装達はケースの隅にかたまり、身を寄せ合い震える。 その前に親が立ち、身をていして仔を護る。 親は力いっぱい威嚇の声を出す。 意味の無い行為だとはわかっていても、精一杯の抵抗をみせる。 もう、これ以上、仔を殺されてたまるものか。 親は震える足を黙らせ、人間に牙を剥く。 そんな親実装に向けて人間が言葉をかける。 『取引しよう、仔を差し出せば、お前に俺は暴力を振るわない』 親はその言葉を聞き、威嚇の声を段々と弱める。 人間は、言葉を続ける。 『仔は生きてさえいれば、いくらでも産める。  だが、死んだらそれまでだ』 その言葉を聞き、親実装はゆっくりと仔実装達の方へ振り向く。 親実装は隅で震える、適当な仔を抱き上げる。 その仔実装は、自分がどんな目に合うか、 直感的にわかったのか。 親の腕の中で暴れ、泣き、抵抗する。 親は無言のまま、人間に仔を渡すため、 高く高く仔を持ち上げる。 残った2匹は互いに抱き合い、親の背中を見る。 人間はその仔実装を受け取り、ケースの目の前で虐待を始めた。 血を別けた姉妹が、透明なガラスを隔てたすぐ近くで、 服を剥がされ、髪に火を付けられ、四肢が潰されていった。 絶え間ない絶叫と、人間の笑い声、 さっきまで姉妹だったものが、ただの肉片に変わっていく。 彼女ができる事は目をつぶり、震える事だけだった。 全てが終わり、ケースの中に姉妹だったモノが降って来る。 それは、床に落ちるとベチャっと嫌な音をだした。 姉妹は死んではいないが、微かに息が確認できるていどの瀕死の状態だった。 虚ろな目でその仔実装を見ている親実装に、人間が言葉をかける。 『殺せ』 親実装がピクンと反応する。 やらなければ、どんな目に会うか分かっている。 全身が焼かれ、再生が不可能な状態の仔実装を、 親実装が抱き上げる。 親に抱かれ安心したのか、その仔実装は小さく息をしティーと親に甘える。 自分を売った親を、まだ信じているようだ。 そんな仔実装を少し見つめると、親実装は仔の頭に噛り付ついた。 その仔実装は目を見開き、噛り付いた親を見つめる。 顔半分が無くなった、その仔実装は声にならない声を上げた。 親の手で直接、痛みを受けたその仔実装は現実に絶望し、 自らその短い生涯に幕を引いた。 死因はストレス死であった。 仔実装の遺体を抱きながらデーっと鳴き出した親実装。 その様子を見て、人間は大いに笑った。 己の安全の為に、 仔を簡単に売った親を見つめ、 彼女は安息の地が無くなった事を理解した。 それからは酷かった。 優しかった親は、人間の傀儡と成り果て虐待に手をかしだした。 人間ではなく親の手による虐待。 優しく頭を撫でてくれたその手で、 彼女をボロボロになるまで殴りつける、 そしてその度に、人間に金平糖をもらい頭を撫でられている。 まるで当然の事をしているといった顔は、酷く輝いていた。 子煩悩だった親を豹変させた人間に、彼女は底知れぬ恐怖を感じた。 親による虐待は初めのうちは、 人間が命令を出さなければ行われなかったが、 段々と日常的に、飼い主が居ない時にも行われるようになってきた。 彼女は衰弱し、暴力を受けても泣きもしなくなった。 そんな状況も人間の、 『頃合か』 の一言で終わりを告げた。 何時もの様に仔を殴りつけている親実装を掴み上げ ケースの外に出す。 親実装の頭を撫で金平糖を与える人間。 親実装は満足げにデースと声を上げ、人間に媚びを売っていた。 ふと、人間がケースの中の彼女にあるものを渡す。 『これがわかるか? これを壊せば親は死ぬ』 人間から渡された物は、キラキラ光る偽石だった。 それを見た親が、金平糖を落とし悲鳴をあげる。 何度も何度も、ガラスを叩き返してくれと彼女に懇願する。 『自らの意思で、自分の仔を殴りつけるだなんて酷い親だろ?  あんなの、親でもなんでもないはずだ。  虐待から逃れたいのなら、その石を砕け。  なに、ちょいと齧れば良いだけだ』 どんなに酷い事をさてれも彼女にとっては親である。 そんな事はできなかった。 痛みしか感じない体を引きずり、やさしく偽石を掴み上げると ガラス越しの親のもとへ、その偽石を運ぶ。 後一歩という所で、彼女の体力が尽きた。 足をもつれさせ、前のめりに転ぶ。 持っていた偽石はガラスを叩いている親実装の目の前に飛び そして、砕けた。 彼女は親を殺してしまった事を悔やみ、大粒の涙を零した。 切れそうになる意識の中で、人間の笑い声がやけに耳に響いてきた。 それから暫くの間、暴力が止まった。 餌もちゃんと支給され、声もテチィからテスーへと変化し、 もう少しで成体になるという頃に、悪夢が始まってしまった。 いつもの様に餌を食べていると、突然人間に掴まれる姉妹。 暴力が暫く止まっていた事と、食事中だと言う事もあって油断していた。 姉妹は、すぐに捕まってしまう。 口からさっきまで食べていた残飯をこぼしながら必死で喚く。 彼女もケースの中から大声をあげ姉妹の身を心配する。 今まで常に身を寄せ合い、 眠る時も重なりながら寝ていた自分の半身とも言える存在が、 殺され、消えてしまう事に、彼女は恐怖する。 人間は姉妹の服を取り裸にした後、 左手で姉妹を押えながら、右手で姉妹の総排泄口のあたりを刺激する。 恐怖で泣き喚いていた姉妹の悲鳴が、艶っぽい声に変わっていく。 姉妹は両脇を抱えられケースの中に戻された。 姉妹が無事にケースの中に戻ってきた事に、喜び走り寄る。 彼女は、背中を向けている姉妹に抱きつき、声をあげ泣く。 良かった… 痛い事されずに、殺されずに 本当に良かった… しかし、姉妹はこっちに顔を向けず荒い息を何度も繰り返している。 テス?心配になり顔を覗き込もうとした時、 姉妹に突き倒された。 倒れこんだ彼女の目にそそり立つマラを生やした姉妹が映った。 目は充血し、さっきよりも息を荒げ、 ゆっくりと彼女に近づく。 本能的に危機を感じ取った彼女は立ち上がり逃げようとする。 しかし、馬乗りされ動きを封じられる。 封じられている手の代わりに大声をあげ抵抗するが、 それは無意味な行為となった。 下着を取られ、その後、痛みが全身を突き抜けた。 つらい時流した涙を、そっと拭ってくれたその右手で、 喚く彼女を殴る姉妹。 薄暗い部屋で親による暴力に震えていた彼女の手を、 いつも握っていたその左手で、首を絞める姉妹。 怪我を負った時、傷を舐めてくれていたその口からは、 いつもの様な慰めや励ましの言葉はでず、 かわりに快楽を楽しむ声と、唾液だけがこぼれて来た。 彼女はもっとも信頼を寄せていた姉妹に犯された。 体よりも、ひたすらに心が痛かった。 一度快楽を知ってしまった姉妹は、それっきり正気に戻る事は無く、 餌の時間と睡眠時間以外は彼女を弄んだ。 唯でさえ衰弱している彼女にとって、その状況はとても耐えられるものではなかった。 いつもの様に陵辱から解放され、横たわり微かに息をする。 彼女の命は今まさに、尽きようとしていた。 次の瞬間目覚めた場所は、 やわらかいタオルが敷いてある簡易の寝床であった。 産まれて初めて浴びる日の光。 眩しいその光に、彼女は少しだけ、眩暈を起こしそうになった。 そこに、あの人間がやってくる。 今度は何をされるのかと身構える。 だが、悲鳴は上げない。 上げたところで何も変わらない。むしろもっと酷い事をされる。 彼女は諦めていた。 生きる事に、望む事に、そして家族を含めた同属に。 そんな彼女に人間が一粒の金平糖を与える。 彼女の手には甘い金平糖。 だが、なかなか口にしようとしない。 人間がいなければどこか遠い所に金平糖を投げていた事だろう。 これを食べると、 出る場所が口か総排泄口かの違いかはあるが、 体中の水分と栄養が糞と一緒に出てしまう。 毒物… しかし、食べるしか彼女に選択肢はなかった。 自分で食べれば被害が少なくて済む。 拒否したら、どんな事をされるか分かったものでない。 意を決して彼女は金平糖を口にする。 いつものように甘い香りが口の中に広がる。 そして、いつものようにお腹が痛く…  ならなかった。 人間はもう一粒彼女に金平糖を渡し、食べさせる。 それが終わると、暖かいスープを彼女に与え。 いつの間にか巻かれていた包帯を外し、薬を塗る。 そしてまた包帯を巻き。上にタオルをかぶせ部屋を出て行った。 不思議であった。 なぜ、痛い目にあわないのだろう? いつも、挨拶代わりに拳が飛んで来た。 それなのに、この待遇はなんだ? 彼女は考えた。だが答えなど出るはずが無い。 やがて、襲ってきた睡魔に身を委ね、 彼女の意識は闇の中へと落ちていった。 目を瞑る彼女の両目は、とても深い緑色をしていた。 それから彼女は教育を受ける事となる。 身重の体で人間から厳しい躾を施される。 トイレの躾け、餌の食べ方、口の聞き方から始まり。 簡単な家事の手伝い、そして掃除の仕方。 辛くはなかった。 あの四角いケースの中で、 いつ殺されるか分からない状態でいた時の事を考えると、 全然辛くは無い。 人間の期待に応えられず、失敗した時は容赦無く殴られたが、 成功した時は、誉めてくれる。 たいした奴だと言葉をかけてくれる。 彼女は嬉しかった。 自分は何も意味の無い存在、消えていくだけの存在だと 思っていたが、少しずつ自信をつけていく。 相変わらず、恐ろしい存在だが。 人間に少しだけ信頼を寄せるようにもなってきた。 認めてくれる事がとても嬉しかった。 やがて、彼女は出産の時を迎える。 大きなお腹を擦り、デーデーっと苦しそうに息を吐く。 その時はやってきた。 全部で7匹、自分の分身をこの世に産み出した。 どの仔も可愛い、とても可愛い仔供たち。 テチィと甘える、わが仔を抱え、 彼女は母になった喜びに身を震わせた。 だが、幸せは長くは続かない、それから5日後、 人間に全ての仔を取られてしまう。 反抗はしなかった。 下手に手を出し、人間の機嫌を損なえば仔は全て殺されるであろう。 彼女は賢くそして、諦めの心を持っていた。 人間に連れて行かれるわが仔の悲痛な叫びを聞き、 彼女は声も無く、静かに泣いていた。 だが、彼女はどこかほっとしている自分に気がつく。 わが仔が嫌いなわけでは無い。 彼女は無意識の内に、実装石を拒絶していた自分に気がついてはいなかった。 連れて行かれた彼女の仔達は、産まれて間もないと言うのに 人間によって厳しい躾を施される事となる。 右も左も分からない仔実装達にまず最初に仕込まれた事。 それは、彼女がそうであったかのように、 恐怖を絶望を教え込まれた。 2匹ほど、出来の悪い仔を見せしめに殺し、 徹底的に、人間の怖さを見せ付ける。 絶望し、ストレスにより死んでいく仔実装もいた。 おぼつかない足取りで掃除の真似事を行う仔実装たち、 人間は小さなミスも許さなかった。 普通であれば母親の胸に抱かれ、生涯の中で一番安らいだ 時間を満喫するはずの仔実装達は、この現実に疲れ果ててしまっていた。 そんな仔実装達に、人間は魔法の言葉をかける。 『最後まで残れたら親の元に返してやろう』 その言葉を聞き、目に光が戻る仔実装達、 人間の命令をどうにかこなしていった。 彼女は、わが仔に躾を行う様子を、同じ部屋に置いてある。 マジックミラー加工されている 完全防音のガラスケースの中からずっと見ていた。 一匹、また一匹と死んでいく、 わが仔を、歯を食いしばりながら見つめ続ける。 何も出来ない自分を呪いたくなってくる。 そんな彼女に人間が言葉をかける。 『苦しいか? 自分の分身が、愛しいわが仔が  肉塊になっていく様子は見ていて辛いだろう』 人間は血だらけになっている手を、 タオルで拭いながら、そう彼女に言葉をかける。 『辛いのはその愛情のせいだ。あれはお前の仔でもなんでもない、  どこの馬の骨とも分からぬ、同属が産んだ仔実装だ。  そう考えてみろ。不思議と気持ちが楽になるぞ』 憔悴しきっている彼女は、無条件で人間の言葉を受け入れる。 確かに世界が変わった。 見ていられないほど、残虐な光景が目の前に広がっていると言うのに、 彼女の心は、気味が悪いほど落ち着いていた。 体を痛めて産んだ、愛しいわが仔の四肢が潰されても何も感じない。 心を痛めて産んだ、愛しいわが仔の目玉がくりぬかれても何も感じない。 目線の先には、悲鳴をあげる仔実装。 たぶんママー、ママーとでも、助けを呼んでいるのだろう。 何も感じないはずなのに、彼女は無意識に涙を流した。 それっきり、仔実装達がどんな目にあっても、 彼女は何もなにも感情を表さなくなった。 人間により彼女の仔を思う気持ちが完全に殺された瞬間であった。 過度な躾により彼女の仔は、残り一匹となった。 とても泣き虫な仔実装で、人間は躾のしがいがあると、 その腕を存分に振るった。 角材や、鉄パイプで頭を叩き、様子を見る。 ボロボロにされた仔実装は、半分凹んでいる頭を地面に擦りつけ、 ありがとうございました。と呟く。 もちろん本心からでは無い。そう言わなければもっと酷い事をされるのだ。 その様子を見て人間が口を開く。 『そうか、そんなに痛みが嬉しいか。ならばもっと与えてやろう』 五寸釘を取り出すと、その足に釘を打ち始める。 肉に釘が突き刺さる度、仔実装はテッっと少しだけ声を上げた。 『打ち終えてやったぞ。何か言う事はないのか?』 その言葉に反応し、仔実装は擦れた声で、 ありがとうございました。と口にした。 人間は、マジックミラーの中にいる彼女に声をかける。 『どうだ? 生き残ったのはあいつ一匹だが、  お前が望めば、一緒に生活させてやっても良いぞ』 人間はぐったりとし、何も反応の無い仔実装を指差し 彼女にそう問う。 人間の言葉に彼女は静かに首を横に振った。 その様子を見て、人間の口元が少しだけ歪んだ。 彼女に拒絶されたその仔実装は、立派な商品となり。 ペットショップに卸されていった… しばらくし、彼女はまた身篭る。 相手はあのマラを生やした彼女の姉妹。 久々の穴の味に、狂ったように快楽を貪る。 陵辱が終わり、汚れた体を人間に拭いてもらいながら彼女は口にする。 あの、屑を殺してもらいたい。 躾を体得し、人間に認めてもらっていると言う 強力な自尊心が、彼女にそう言わせる。 何も出来ない屑が私を弄ぶ。 許せなかった。 そこには何も出来ず、流れに逆らわないように生きていた 昔の面影はなかった。 人間は彼女の願いを聞き、 何も言わずに綺麗な石を彼女のさし出す。 その石は見覚えがあった。 いつかのように、彼女はその石を受け取ると。 躊躇せずに噛み砕いた。 そしてその後、 自らの手で、緑に染まった片目をくり貫き始める。 痛みが脳天を突き抜けた。 彼女は教えられていた。 産みたくなければ、片目を潰せと。 くり貫き終わった片目から綺麗な朱色の血が流れる。 まるで、大泣きしてしまっているかのように… 姉妹と胎の中の仔を、自らの意思で殺した日から、数日後。 彼女に転機が訪れた。 目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。 彼女は売られたのだ。 実装石は可愛さの残る仔実装の時期が一番売れ、価値がある。 だが、成体になるまでじっくりと時間をかけて躾を受けた実装も それなりに価値のある存在である。 仔実装の可愛さは無いものの、 全ての躾を完了し、しかも性格が固まっているのでとても飼い易い。 仔実装ならば、その後の飼い方次第で、 いくらでも糞蟲に落ちる可能性があるが、 成体はならばその可能性が極めて低い。 初めて実装をペットにする人間や、愛玩用以外の目的、 例えば軽作業を行わす事を目的として実装を飼うような人間がいるので、 それなりに需要があるのだ。 上体を起こし、彼女は周りを確認した。 日の光は差しているものの、そこは冷たいガラスケースの中だった。 彼女はあの頃を思い出し、震え出す。 あの日々が帰って来る。 そう思うだけで、涙を流し身を振るわせ始める。 見知らぬ人間が、彼女が起き出した事に気がつき ケースの近くへと足を運ぶ。 その人間は、優しく彼女をケースの中から出すと、 床に立たせ口を開く。 『始めまして』 そう口にする見知らぬ人間。 彼女はこうして、第2の人生を歩き始めた。 彼女の飼い主は、大切に彼女を扱った。 始めの内は環境の変化に戸惑い、 落ち着かない日々を過ごしたが、時期に慣れてくる。 彼女は飼い主の下、いろいろな事を経験していく。 風の匂い、水の冷たさ、世界の広さ。 外の世界に足を運び、見るもの全てに感動する。 残酷な世界を知っている彼女にとって、 この生活はまさに天国、楽園だった。 生きていて良かった。 あの時、諦めなくて良かった。 そう思いながら、彼女は充実した日々を過ごす。 自分を大切に扱ってくれる飼い主に認められたく、 彼女は進んで家事をこなした。 あの時教え込まれた躾は、この為に教えられたのか。 何回も失敗し、その度に叩かれた事は決して無駄ではなかった。 凄い、凄いと彼女を誉める飼い主。 自分を見てくれる存在を得、彼女はとても満足していた。 それから、しばらく月日が経った。 彼女はお腹を大きく膨らましている。 散歩をしていた時にでも妊娠したのだろうか、 2度目の出産は目前に迫っていた。 彼女は気がおもかった。 産みたくない。 仔を思い、慈しむという心を殺されている彼女はそう、思う。 彼女の大きなお腹を撫で、 『君の仔なら皆可愛くて、賢い仔ばかりなのだろうな  早く産まれて来ないかな』 と飼い主が口にする。 嬉しそうな飼い主の顔を見て、 だいぶ昔の出来事だが、 今回は片目をくりぬく事は出来そうも無いなと彼女は思った。 仔を嫌う自分と、飼い主の期待に応えたい自分。 彼女の心は揺れていた。 前回より少ない頭数、彼女は4匹の仔実装を出産した。 産まれたてのわが仔を見つめる彼女。 その心には特別感情は、湧いてこなかった。 それでも、本能が指示を彼女に出す。 彼女は仔に平等に乳を与えた。 彼女の望みは、飼い主との心安らぐ時間。 それが欲しかった。 だが、現実は彼女の望みを叶えない。 飼い主は育児に手を貸し出し始める。 良かれと思ってやっている飼い主の行動が、 健全な家族の関係を壊していく。 仔実装達は、彼女よりも甘い飴を与えてくれる 飼い主に懐き始めてしまった。 味気無い彼女の母乳よりも、飼い主が与えてくれる甘いミルク。 仔実装達は彼女に見向きもしなくなってきた。 飼い主を独占するわが仔を見つめ、彼女にドス黒い感情が芽生え始める。 自分はそれこそ、死ぬような目に何度も会ってきて、 何度も絶望し、何度も諦めかけた末に、今の生活を手にしている。 お前らは、実の親に殺されかけた事が有るのか? お前らは、実の姉妹に犯された事が有るのか? お前らは、人間の狂気に触れた事が有るのか? 今の幸せを当然の事として、 あたり前の事として感じているのでは無いのだろうな? 無条件で、なぜ私と対等な生活を手にしている? おかしい。それはとてもおかしい事。 飼い主は忘れていた。 彼女を買い取る時に渡された注意書きの存在を、 そこには、 〝多頭飼い、繁殖を行わせないで下さい〟 と書いてあった。 仔を産み実装が増えると、飼い主に負担がくる。 その度に処分しなくてはならない飼い主に変わり 産んだ親自ら、仔を処分する。 彼女をブリーダーから渡された時、 説明を受けたはずだ。 『注文通り、人間に懐く実装石に仕上げました。  実装を増やしたくないとのご要望に応え  妊娠しても、この実装自らが仔を処分するよう教育を施しました』 と、 そう躾けられてきた。 実装石を嫌悪するように… 認めてくれる存在に忠誠を誓うように… 彼女に非はなかった。 全ては扱い方を間違えた飼い主の責任。 彼女の仔なら飼っても良いかなと、 多頭飼いはしないと言う、当初の考えを変えてしまった 飼い主の身勝手さの問題。 仔実装に付っきりの飼い主を見つめ、 彼女は久々に涙を流す。 憎かった、飼い主を独占する仔実装達が。 そんな仔実装の一匹がこちらを見つめ、テチチと笑う。 (ママは用無しテチュ、この下僕がいれば私達は幸せになれるテチィ) その一言が、決定的な一言となってしまった。 その夜、彼女は行動を起こす。 ガラスケースの中でテーテー寝息を立てている 仔実装達に息を殺しながら近づく。 あんなに嫌いだったガラスケースだが、 今回だけは逃げ場の無いこの構造にとても感謝している。 寝ている一匹を掴み上げ、一気に腕を食いちぎる。 テギャァァァァっと声を出したのはその後だ。 彼女は楽に殺す事をしない。 じっくりと痛みを与えながら四肢を一本一本 食いちぎっていく。 達磨になったその仔実装の頭を踏みつけ力をこめる。 (愛してるテチィ、とっても愛しているテチィ  だからママ、殺さないでママァー!!!) 演技だ。助かりたいが為に口からでまかせを言っているに過ぎない。 悲鳴を聞き起きだし、同じように悲鳴を上げ、 飼い主を呼んでいる残り4匹の仔実装達に、 彼女は暴力を振るう。 其々が気絶し、おとなしくなる。 蛆のように体をくねらし、 何とか親から逃げようとしている仔実装を捕まえ、 馬乗りで拳を叩きつけ始める。 テジャ、テジャっと言いながら殴られ続ける仔実装。 彼女は不思議な気持ちになっていた。 弱者を一方的にいたぶる快感、生命を握っている優越感。 あの人間や彼女の親、そして姉妹がなぜあのような顔をしながら こんなおぞましい行為をしていたのか、分かった気がしてきた。 彼女の下には涙を流しながら、許しをこう仔実装の姿。 ぐちゃぐちゃの顔で、涙を流しながら (ごめんさないテチィィィ、許してテェェェ、もう、痛い事しないでテジェェエエ!!!) と何度も声を上げる。 その声を聞き、彼女は怒る。 ふざけるな、私は何百何千とその台詞を口にしてきた。 たった一度でも、その願いが聞き入られた事があったか? 自分だけ、その願いが聞き入られるなんて、 そんな虫の良い話があってたまるか。 許さない、絶対に許さない。 彼女は今まで受けてきた暴力を、そのまま仔実装にぶつけ出す。 内に生まれていた凶暴な獣が、彼女を支配する。 始めは、目障りな存在を排除する目的だった。 しかし今は、泣き叫び、徐々に弱っていく仔実装のさまを見る事が 最優先になってきた。 おもしろい、これはおもしろい。 ぐったりとしている達磨仔実装を引きずり 彼女は水のみ場へやってくる。 息も絶え絶えの達磨仔実装の顔を、水の中に沈める。 あの人間にやられたこの虐待のせいで、しばらく水のみ場へ 近づけなかった事を彼女は思い出す。 瀕死の達磨仔実装は、抵抗らしい抵抗をせずに、 仮死をむかえる。 彼女は面白みの無くなった達磨仔実装を頭から咀嚼し始め その肉塊をペッと床に吐き捨てる。 その内、口の中でガキッっという音がする。 達磨仔実装はこの瞬間、完全に死をむかえた。 彼女は適当な仔実装を一匹掴み上げ、 咽喉元に牙を突き立てる。 これで、鳴き声を上げられる心配は無い。 咽喉を食いちぎられた仔実装は、苦しそうに床を転がる。 そんなに大げさに痛がらなくて良い。 その程度の怪我では絶対に死ぬ事は無いのだから。 彼女は怪我の度合いに非常に詳しかった。 どこをどうやられれば、何時間ほどで回復するか、 そして、どの程度痛みを覚えるか、 自ら経験済みの事だった。 転げ回る様子を確認し、彼女はまた別の仔実装を掴み上げ、 床に思いっきり叩きつける。 そして、転げ回る仔実装の所に、 その叩きつけた仔実装を引きずりながら移動する。 彼女は転げ回る仔実装の目の前で、 こいつが死んだら同じ事をお前にも行うと 一言、口にしてから、 暴力を始める。 テジャァァァァァァァァァァと言う絶叫が、 咽喉を食いちぎられた仔実装の耳に響く。 生きながらにしてつま先から食われていく様子は、 とても凄絶なものだった。 食われていく仔実装が咽喉を食いちぎられた仔実装に助けを求める。 死にたくない、助けてと咽喉が涸れるほど声を出す。 半分ほど食われたその仔実装の胴体から キラキラ光る偽石が顔を出す。 彼女はその偽石を取り出すと、咽喉を食いちぎられた仔実装に渡す。 助かりたければ、それを壊せ。 偽石を取られた仔実装は、 咽喉を食いちぎられた仔実装に壊さないで懇願する。 だが、その願いも虚しく、 あっさりと偽石を壊す咽喉を食いちぎられた仔実装。 これで助かる。 そう思った矢先、己の足が潰されている事に気がつく。 彼女は最初から助ける気など無かった。 悩みもせずに偽石を簡単に壊した この咽喉を食いちぎられた仔実装に怒りを感じていた。 右足から始まり、左足、右腕、左腕。 次々と潰していく。 お前はもう助からない。 頭部を足で踏み。少し力を入れたところで。 パキッっと音がする。 見れば咽喉を食いちぎられた仔実装が死んでいる。 ストレス死であった。 随分と肝の小さい仔実装だ。 そんな事を思いながら彼女は頭を踏み潰した。 テギャー テジャァァァァァアアアアァァアアァアア 気絶から覚めた最後の仔実装が、ガラスをペチペチと叩き 必死で飼い主を呼んでいる。 五月蝿いやつだ。 彼女は明確な殺意を持ち、 ゆっくりと仔実装の方へ歩いていく。 彼女が近づいた事に気づいた仔実装は、 慌てて隅の方へ駆け出す。 何かに躓き転ぶ。目の前には死体となった姉妹達。 躓く原因を作ったのは下半身が無い姉妹の死体。 仔実装はパニックを起こしていた。 倒れたまま匍匐全身でなんとか彼女から逃げ出そうと必死で前に進む。 だが、すぐに行き止まる。 四角いガラスケースの中には逃げ道など存在しない。 パンツの中に収まりきれない糞がはみ出し ケースの中を汚す。 その様子をみた彼女は、パンコンしている仔実装に 糞の掃除を命令する。 助かりたい一身で自ら生産した糞を 舌で舐め取る仔実装。 舐めても舐めても掃除が終わらない。 舐めながら糞を漏らしているからだ。 それを見た彼女は仔実装を蹴り飛ばす。 お前は要らない、さようなら。 蹴り飛ばされた衝撃で両足が砕けている仔実装は もう、その場から動けない。 迫りくる死。 仔実装は最後の力を振り絞り、咽喉が破けるほど大声を上げた。 と、その時、 急に部屋が明るくなった。 彼女はドアの方を見る。 そこには、あの飼い主が立っていた。 飼い主は、ケース内の状況を確認すると、 悲鳴を上げ続けている仔実装を救出し、 急いで部屋を出て行く。 ケースの中、独り血まみれで立ちつくす彼女。 この瞬間、彼女の第2の人生が終わった。 彼女は今、薄暗いガラスケースの中に閉じ込められ 昼も夜も分からない生活を送っている。 己の仔を虐殺した彼女の事を、飼い主は危険視した。 その為、ケースの中に閉じ込めている。 元から親だと思っていない事もあり、 生き残った仔実装は彼女をとても怖がり、近づこうともしない。 段々と彼女は飼い主から忘れ去られる事となる。 そんな飼い主の傍らには、あの仔実装。 その場所は、彼女のモノであったはずだ。 彼女は考える。 必要とされなくなった自分に価値はあるのか? 掃除、洗濯、なんでもいい、なんでもこなす。 私を必要としてもらいたい。 なんなら、貴方のストレスを発散する為のサンドバッグ代わりになっても構わない。 彼女は泣く。 飼い主から見捨てられた事に深く傷つく。 こんな所に閉じ込められているぐらいならば、 ここに来る前の、あの恐ろしい人間の所へ帰りたい。 〝あの日〟へ戻りたい… あの人間は恐ろしかったけど、 少なくとも私を必要としてくれていた。 彼女は思う。 私の人生はなんだったんだろう?と、 思えば、殴られ、壊され、奪われる事の連続だった。 殴り、壊し、奪う側に立った事がいけなかったのか? 私とはいったい… そんな彼女の疑問に答えるような声が頭の中に聞こえてきた。 『お前はモノだ。モノらしく生きろ』 あの人間の声だった… 昔、あの人間が何気なく口にしたその言葉。 モノ… モノは要らなくなったら捨てられる運命。 モノは気に入らなくなったら、壊される運命。 なんだ… そんな単純な事だったんだ… 最後に、少しだけ脳裏を掠めた思い。 あの、ペットショップに卸された仔実装の事をなぜか思う。 一緒に暮らしていれば何か違う結末があったかもしれない。 彼女は大きく息を吐くと、 それっきり考える事を止めた。 飼い主は最善の選択をしたと思っている。 親に見捨てられた仔実装を、 彼女に変わりに大切に育てている善人だと思っている。 飼い主は実装石の事を何も分かっていない。 始めて飼った実装が優秀な彼女だった事もあり 実装石とは全て頭の良い、とても優しい生き物だと 思い込んでしまっている。 ママ、ママと自分に擦り寄り、 甘えてくる仔実装を抱き、同情をしてしまっている。 実の母に殺されかけたこの仔実装を、大切に育てて行く。 愚かである。 飼い主は実に愚かであった。 そこのそれは、とても彼女が産んだ仔では 無いような酷い出来損ない。 加えて、この時期に飴だけ与えてしまっては、 どんなに賢い因子をもった仔実装でも、 確実に糞蟲への道を歩む事になる。 無知、 それは罪である。 そしてその罰を受けるのは、いつだって実装石である。 (可愛いお洋服が欲しいテチ、買って欲しいテチュ、ママ) その仔実装の願いを聞き入れ、一緒に実装専門店に出かける飼い主。 シーンと静まり返った部屋の中。 そこに、生きている生物は一匹も居なかった。 月日は巡る。 あの仔実装は成体へと立派に成長した。 立派になったのはその体だけで、中身はむしろ退化した。 飼い主は疲れていた。 この頃、この実装の我侭は酷くなる一方であった。 食事は飼い主よりも、内容のいいもの意外口にせず、 少しでも自分の意にそぐわない事を飼い主が行おうならば、 部屋中に糞を撒き散らし、飼い主を困らせる。 四六時中、喚き散らし。 飼い主を馬鹿にする。 完璧な糞蟲を飼い主は作り上げてしまった。 こんなはずでは… そう何度も思う。 今も、糞で汚れた床を飼い主が雑巾で拭いている。 その姿を見ながら糞蟲が、デププゥっと満足げに声を上げる。 糞蟲は考える。 もっといい生活を、もっと美味い餌を、もっといい服を もっといい待遇を。 要求さえすればこの下僕はなんでもしてくれる。 ププッ今度は何をさせようか? 人間はこうあるべきなのだ 人間なんて自分の幸せの為だけに存在する道具 可愛い私を、あの糞親に殺されかけた可哀想な私を 幸せにしろ。 それが、お前の存在価値だ。 糞蟲は、そんな事を思いながら金平糖の袋を抱え ポリポリと食べている。 本当の痛みを知らないまま。 本当の苦しさを知らないまま。 本当の幸せを知らないまま。 飼い主は実装石に愛想が尽きていた。 このままでは生活していけない。 決断を下す。 糞蟲は、近所の公園へ捨てられる事となる。 糞蟲は捨てられた公園で同属に手荒い歓迎を受ける事となる。 殴られ、蹴られ、犯された。 こんな目に会っていると言うのに、あの下僕が一向に助けにこない、 今度会ったら、きついお仕置きが必要だ。 糞蟲は、同属と人間に激しい怒りを燃やしていた。 そんな糞蟲に奇跡が起こる。 偶然だった。 糞蟲は、公園にやってきた男に拾われる。 しかし、そこに感謝の心は無かった。 当然の結果だ。むしろ遅いぐらいだ。 この人間も下僕とし、もっといい生活をデププ 糞蟲は何も分かってはいなかった。 分かろうともしていなかった。 世界とは自分に牙を剥く存在だったという事に、 人間とはとても恐ろしい、狂気の塊だったという事に。 考えもしなかった。 あの時、彼女に殺されていた方が、 ずっと幸せだったという事に。 男の家にやってきた糞蟲のその頬は腫れ、 体には痛々しい傷がいくつもついていた。 躾け。 成体になった糞蟲にはその躾けが理解できなかった。 威嚇の声を出すと殴られる。 反抗すると蹴られる。 媚びると刺される。 誘惑してみると潰される。 意味がさっぱり分からなかった。 どうして、自分が痛い目に会わなくてはならないのか? 人間は道具、下僕のはず… やがて糞蟲は出産を行う。 そこは、四角いガラスケースの中であった。 所どころに、古い血の跡が見える。 死の臭いが立ち込める四角いガラスケース。 そこに置いてある水飲み場で出産を行う。 始めての出産。 何かまずい事をやった時、こいつらを盾にし 痛い事を回避しよう。 そこには親子愛から遠く離れた考えの糞蟲がいた。 糞蟲が産んだ仔実装達にも躾けが始まり。 男は熱したカッターナイフを手に持ち。 泣き虫な仔実装、一匹を手に持つ。 見せしめであった。 男は、いつもやっている事を、 始めに恐怖を感染させる事を行う。 男はその仔実装の片耳をナイフで切り取った。 仔実装は大いに泣いた。 泣いている仔実装に向かい 『黙れ、もう片方の耳も切り取られたいか?』 と声を出す。 躾け、あくまで躾けである。 その仔実装の祖母がそうであったかのように… 四角いガラスケースの中で始まった話は、 こうして彼女の仔、孫へと受け継がれて行く 彼女が産んだ始めての仔、 あのペットショップに卸された仔実装と この片耳を焼き切られた仔実装はやがて意外な形で関る事となる。 そして、話は〝あの日〟へと向かって行く… ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨ 「モノに成り下がった実装」「実装視線で話が展開」が今回のテーマ。 人間側から見れば優秀な、 実装側から見れば欠陥品の実装って、私の中ではこんな感じだったりします。 ナルの後書きに書いた、並行しているスクだったりします。 最後に読んでくれた方に、感謝の言葉を述べさせてください。 こんな長ったらしいスクですが、 最後まで目を通していただき、誠にありがとうごさいました.

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1 Re: Name:匿名石 2023/10/31-01:06:28 No:00008184[申告]
この頃の虐待スクは奥が深いな…実装石の業も深すぎる
実装石という魅力ある生き物を活かすも殺すも人間次第だな
2 Re: Name:匿名石 2023/10/31-17:55:19 No:00008189[申告]
卸された一匹はナルで廃実装に
殺されかけた仔は甘やかされ堕落して実装の日で公園で野良の慰みモノへ…
この一連作はなかなかに残酷
3 Re: Name:匿名石 2024/03/27-05:53:56 No:00008955[申告]
激動の半生に涙デス
殺伐と淡々としながらも情緒が十全に伝わる筆力に拍手を送りたい
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