タイトル:【諦】 独自観点?
ファイル:託児、そして訪問.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:5111 レス数:1
初投稿日時:2007/06/17-00:52:32修正日時:2007/06/17-00:52:32
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託児、そして訪問



ママは言ってたテチ、ワタチの可愛さにかかればニンゲンはメロメロだって。なんでも言うことを聞くって。
それはあたりまえテチ。ワタチは高貴なお姫様なんだから。
だからママがワタチをニンゲンにあずけるって言ったとき、良い思い付きをしたってママをほめてやったテチ。


ニンゲンのふくろにこっそり入って、後でびっくりさせてよろこばせるテチ。
ニンゲンは最初ツンツンしてるけど、すぐにデレデレとして懐いてくるから、このやり方が一番いいって
ママは言ってたテチ。
まったく手間をかけさせるテチ。


ふくろの中はガサガサして狭いし揺れるけど、なんだかいいニオイのするものがあるテチ。
食べてみたらおいしかったテチ。
生まれてはじめて食べたそれの美味しさにワタチはうれしくなってウンチいっぱい出たテチ。
こんなものをワタチのために用意しておくなんてニンゲンも気がきくテチ。
でもちょっとくさいからそろそろここから出たいテチ。


揺れなくなったテチ。
ニンゲンがふくろをガサガサしてるテチ。
チププッ、そんなにワタチにメロメロになりたいならしょうがないから会ってやるテチ。
かわいさは罪テチ。じぶんのかわいらしさがこわいテチ。
ウンチだらけのオマタも、かえってワタチのかわいらしさをひきたてているテチ。

さあニンゲン、ワタチの必殺ポーズを見るがいいテチ!

 「テッチューーン♪」

ニンゲン!可愛いワタチのドレイになることを許すテチ!

『またか…』


ニンゲンがワタチに見とれてなんかよく分からないほめ言葉を言ったテチ。
気持ちはわかるけどそんなにじーっと見つめられるとさすがにテレるテチ。


ワタチのまわりには…食べ物は無いテチ?
まったく気がきかないドレイテチ。
とりあえずここにある食べ物を全部持ってくればいいんテチ。
その中からいまワタチが食べる物を選んで教えるテチ。
まったくワタチは頭がいいテチ。きっと天才テッ、テチャッ!?


なにをするテチ!!アタマはナデナデするところテチ!ニンゲンの手でつかむところじゃないテチ!
イタタッ!?持ち上がってるテチ!アンヨが下に着いてないテチ!
高いテチ!下に降ろすテチッ!コワイテチッッ!!


チュペッ!?…降ろせとは言ったけど、もっと丁重にあつかうテチ!
ツンツンも度が過ぎると笑えないテチ。さすがのワタチも怒るテチッ。
…ここは、まわりが青いテチ。これ、見たことあるテチ。
ママがバケツって言ってたのに似てるテチ。やっぱりワタチはアタマがいいテチ。


ニンゲンが上からワタチを見てるテチ。
こんなところにワタチを置いてどうするつもりテッ!チャァァ!?冷たいテチ!水が落ちてくるテチ!?
ニンゲン!早く水を止めるテチ!ワタチがぬれてるテチ!
出るテチ!ここからテチ!上に!飛べば!届かないテチ!なんで出られないテチィ!


水が!カオのとこまでっ!上がってガボゴバガバッッ
つめたいテチ!アンヨが下に着かないテチ!おぼれるテガバゴボッ!
ワタチの上に水が落ちてきてるテッ!

「チャアッ!」

「ペプッ!」

かっカラダがくるくるまわって息が、イキができなっ
ニ、ニンゲンッ!見てないではやくワタチを助けるテチ!
今ならワタチへの無礼も山盛りコンペイトウで許してやるテチ!早く、はやくここから出して暖かいことろに
連れて行くテチィ!


…ニンゲンは見てるだけで動こうとしないテチ。
もう水がバケツいっぱいになってこぼれそうになっているのに。
よっぽどアタマがわるくてなにが起こっているのかわかってないテチ
ここから出たらキツくしかりつけてお姫様のあつかいというものを教えてやらないといけなテベッ!?


( ?!水から…アタマが出せな…上が…見えてるのに…
なんで…たたいてるのに…けってるのに…かたくて…ツルツルして…
くるしい…息が…あの泡をクチに入れれば…逃げないで…
こっちの泡なら…どうして?…つかまえられな… )


( このまま……じゃ……ワタチが……死?……
いや……だ……出られ……ない……
気づいて……カワイイ……ワタチ……が……
ニン……ゲン……見て……見て……る?…… )

『お前は生きる価値も無い。俺に殺されるのを光栄に思って死ね。このカス!』

( なん………ちが………そうじゃ………
ワタチ………お姫………オマエ………
くるし………ウンチ出………ゲ……………… )


「…ケェ」


仔実装は最期に口から泡と共にそう鳴き声を発すると、頭を仰け反らせてぐったりと動かなくなる。

そしてそのまま緑に濁った水の中をユラユラと漂い、バケツの底へと沈んでいった。




もうこれで何回目だっけか。
アパートに帰り着き、テーブルに置いたコンビニ袋を広げると真打登場とばかりにおなじみの
むかつく媚ポーズをし、下半身を緑糞まみれにした仔実装石が一匹立っていた。

牛乳パックはかろうじて無事だが明日の朝食のパンが台無しだ。
親にどう教えられたかは知らないが、多分親子ともども相当に頭の悪い糞蟲なのだろう。

俺はカバンを持つときはいつも肩から襷がけにし、
邪魔にならないように後ろに手で押さえて歩く癖がある。
コンビニ袋も手で後ろに持っているので、目ざとい野良実装からしたら比較的託児しやすい良いカモに
見えるのかもしれない。

迷惑な話だ。しかしだからと言って実装石のために自分のスタイルを変える気にはならないし
お気に入りのカバンをわざわざ別のタイプに買い換えようとも思わない。
害虫のためにあらかじめ生活を変化させるとか時間や金を浪費するなんてムカつく真似は、しないで済めば
それに越したことは無い。
実装石と俺の関わり方について言うならば、愛護派でも虐待派でも観察派でもなく、
諦観派とでもいえばいいのだろうか。



( 虐待派はそれぞれ仔実装を色んな楽しみ方で可愛がって、もっと悲鳴を上げさせてから殺すんだろうけど、
俺にはそういう独創性はないんだよなあ。)

しばらくして、そんなことを考えながら汚物を片付けているとドアをノックする音がした。
人間の訪問者ならドア横のチャイムを鳴らす。今時ノックするのは…

「デスゥ」

ドアを開けると案の定、成体実装石が仔の臭いを嗅ぎつけてやって来ていた。これもいつもの通り。

「デスゥデスデスデッスゥン」

可愛いワタシの仔がココに飼われているはずデスゥ、
仔より可愛いワタシも一緒に飼わせてやるからありがたく思えデスゥ、か。

「ああ、あの仔ね。飼ってやろうと名前もつけたんだけど嬉しさのあまり死んじゃってね。」

と適当なことを言って、後ろ髪を掴んで水から出した仔実装を母実装の目の前にぶら下げる。

「デッ!?」

頭をガクリと傾けて舌をだらりと垂らし、白い顔に濡れた前髪をへばりつかせて怨みの表情のまま固まった屍。
その仔実装を風に吹かれるテルテル坊主よろしくブラブラと揺らして、死んでることを母実装に確認させる。

「はい、ドザエモンちゃんは返すよ。」

仔実装を母実装に渡さず外に放り投げる。
死体は門扉を飛び越え、ベタッ、と活きの悪い落下音を立てて外の道路に叩きつけられた。

「デ、デェエエェェーー!?」

シンジラレナイ!ナンテコトヲスルンダ!!とでも言わんばかりの叫び声を上げて、変わり果てた我が仔に駆け寄る母実装。
そう言いたいのはこっちなんだがな。

「お前のせいで仔は死んだんだ。お前もいらないしもう来るんじゃねーぞ。とっとと帰れこの糞蟲!」

腕や脚がもげかけた動かない我が仔を抱き上げ、オロローンとその死を悲しむ振りをする母実装。
その背に向けて追い討ちの捨て台詞を投げかけると、俺はドアを閉めた。
あの母実装が哀れな娘を偽石パワーで蘇らせることが出来るのか、それともエサとして食ってしまうのかは
わからないし、正直どうでもいい。
いずれにしても持って帰るだろうからゴミの不法投棄のそしりは免れるだろう。



本来?なら母実装もボコボコに殴る蹴るして四肢をもぎ取ってから
公園の野良仲間に会わせてやる、とかするべきところなのかもしれない。
だが、はたしてそんな手間をかけたところで実装石の託児という、迷惑行為そのものが無くなるだろうか。
少なくとも俺には無くなるとは思えない。





託児、そしてその後の訪問は実装石の、自分が飼われたいという願望の現れである。
飢えや寒さや危険から逃れたい、人間に飼われればそれは叶う。
そして自分には、選ばれ、飼われるに足る優れた資質が備わっている、と当の実装石自身が語ることもある。
人間は言う。いわゆる幸せ回路がそういった根拠のあやふやな妄想を生み出し、
実装石はそれに突き動かされているのだと。

飼われて安全どころか結局さらなる危険へと家族ごと身を投じているケースが大半なのは言うまでもない。
なぜ幸せ回路とやらはそんな妄想を生み出して実装石を縛り、わざわざ命を危険にさらしてまで
損害ばかり大きく確実性の極めて低い愚かな行動をさせようとするのか。なんの意味があるというのか。

仔をばら撒くことによって種族を広範囲に広め、隙あらば繁栄させようという生物的な戦略の現れという見方も
出来るだろう。
だが、それだけだろうか。
実装石の本能ってなんなのだろう。

不思議には思わないだろうか。
かなり頭のいい野良も、かなり頭の悪い野良も人間に託児をすることが観察され、報告されている。
パターンは色々だが、託児行為には個体レベルの願望に留まらない別の理由もあるように俺には
思えてならないのだ。



仔を人間に託し、その親が自分であると告げる。

この行動は、自分が仔を産む存在であり自分もまた親から産まれ、自分の仔もいずれ仔を産む存在、
つまり自分達もまた連綿と命を繋ぐ健全な動物の生態の中に存在しているのだと、わざわざ主張しているように
思えなくもない。

奴らは認めて欲しがっているんじゃないだろうか。
実装石は神に見捨てられた不細工でデタラメなナマモノなんかではなく
人間や他の生物と同等の動物である、と。
あるいは種族全体があるべき存在へと修正を望んでいると言ってもいいかもしれない。

それゆえにこそ、知性を備えた認識の存在である人間に、生命の危険をも顧みずに我が仔を託すという選択肢を
その自覚せざる願望が無意識にとらせてしまうのではないだろうか。

これは個体として飼い主の役に立ちたいとか褒められたいとかいう事に留まらず、もっと深い種族レベルでの
実装石の存在意義と関係した本能的と言ってもいい行動なんじゃないかと俺は思う。
( 存在意義なんてものが実装石にあるとすれば、の話だが。)

そしてその本能的理想( 種族レベルでの、生まれながらの祝福 )が決して満たされないという欲求不満ゆえに
こそ、代償行為として安易な食欲や性欲、所有欲や攻撃性などを際限も無く肥大させ、実装石を糞蟲と蔑まれる
行動へと走らせてしまっているのではないだろうか。


というのが仔を託されるベテラン(なんの自慢にもならないが)である俺が辿り着いた考えだ。


もちろん例外が多数存在することは承知している。
専門に研究している偉い学者の先生に話したら一笑に付されるにすぎない仮説なのかもしれない。
正直どうでもいいことだし、俺にはどうすることも出来ない。

そう、だれにも、どうすることもできない。
個体の習慣ならば、なんとかして抑え込んだり直したりすることもできるだろう。
だが、根底に種族全体の本能があるのだとしたら、変えることは不可能なのだ。

実装石は人間に仔を託し、人間は仔を殺し親の命をも奪って楽しむ。

しかし、それでもやはり、
実装石と人間が存在し続ける限り、託児、そして訪問は無くなることはないのだろう。









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1 Re: Name:匿名石 2025/01/09-12:39:22 No:00009462[申告]
考察の件が切なくて好き
認められたくてしょうがないけど認められない悲しき存在な実装石が好きです
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