捨てられた場所 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「デギャ!デギャ!デズッデズゥゥゥゥゥゥ」 実装石の必死な悲鳴が暗闇に木霊する。 コツンコツンと靴の音が響いているのが聞こえている。 その絶叫にもリズムを乱すことなく音が響いている。 「デデェェ…デスゥ〜ン…」 悲しげな鳴き声が響き、そのダンボール箱にあいた取っ手穴から、赤い目が片方だけ覗く。 だが、何かに持たれているかのように箱は小さく揺れているだけで、 取っ手の穴からは何も見えなかった。 ただ、箱が運ばれているだろうという感覚ぐらいしか判らなかった。 コツンコツン… 「デェェェェェェン、デスゥ〜ン…」 もう一度か細く、震えた鳴き声が響く。 コツンコツン…足音に乱れはない。 「デスデス…デッスゥ♪デッスゥ♪デスデスゥ〜ン♪」 箱がガタガタと揺れだし、うって変わって陽気(?)な調子の音程が一定しない歌が聞こえてくる。 箱の中で踊りを始めたようだ。 実装石に対して箱はけっして大きくなく、ガタガタと天井が盛り上がるが、 ガムテープで厳重に止められた箱の天井は開くことはなかった。 「デギャッ!」っと短い悲鳴で一瞬止まるものの、すぐに踊りと歌を続けている。 その様子から、中の実装石が彼女なりに必死にアピールを行っていることが伝わる。 やがて、箱の揺れが止まり「デェ、デェ、デェ」と息を切らす声が響く。 そして、間を置き、再び箱が、今度はカタカタと小刻みに震えだし、 「デッ、デエッ、デスゥ♪デッスゥ〜ン♪」と甲高い嬌声が響き出す。 彼女なりの考えで、なんとか箱を持つ人間に自分の魅力を伝えようと言うのか自慰を始めたようだ。 コツンコツン…それでも音は一定のリズムを刻んでいる。 「デズゥゥゥゥゥゥ…」 その音に再び、弱々しい声で答え沈黙する。 普通、自慰を始めてしまえば、最初の目的が何であれ奇麗さっぱり忘れて、 達するまで自己の世界に埋没するはずが、さっぱり冷めたように止めてしまった。 取っ手の穴から覗く目は潤み、見える肌は紅潮からみるみると血の気が失せたように白くなっていく。 血液は、赤と緑が流れてはいるが、血の気が引けば人間のそれより白に近い肌色がさらに白くなる。 まるで死刑台に向かって歩かされる死刑囚… その現実を目の当たりにして、この世に未練を残した者… コツコツと響く音は、それをより鮮明に、容赦なく叩き付ける十三階段を登らせる死神の靴音。 ソレを前に、声すらも満足に喉から出せずに、 フハッフハッ…と荒い鼻息だけが目を覗かせた穴から漏れる。 彼女にとっては死刑に等しい現実… それは、彼女がこれからどこかに捨てられるという事だ。 もちろん、彼女自身は、その宣告を受けたとき、自身に何の落ち度が有ったのか思い出そうとしたが、 何の落ち度も思い出せなかった。 ニンゲンに飼われて以来、懸命に尽くしてきた。 至らないところもあっただろうが、素直に認めて努力もしてきた。 怒られても反抗せずに我慢し、お仕置きと言う名の辛い躾にも耐えた。 理不尽な断食、厳しいルール、何でも言われるまま守ってきた。 それが出来ない者がどんな運命を辿るのかを知っていたから何でも我慢した。 耐え抜いた想い出、それによって得られた安定した生活、ささやかなる幸せ。 常に清潔であることを心掛けた。 自分に与えられた水槽の掃除は欠かさなかった。 それどころか、主の部屋も自分の小さな肉体で出来る範囲は手を抜くことなく掃除をした事もある。 主の為に食事を用意して待ったこともある。 主の為に歌や踊りを懸命に覚えて披露した。 夜の相手も勤めた。 しかし、仔が増えれば主に迷惑が掛かると、悲しいことにも手を染めた。 野良達が、部屋に進入しようとしてのを、たった一人で命懸けで追い払ったこともある。 それが、身に覚えのない一言と目の前に置かれた箱と共に終焉を迎えたのだ。 『…頃合いか…この家ともおさらばだな』 信じられなかった。 もし、至らないところ、気に障ったことをしたなら改善する為の時間が欲しい… そもそも、いきなりその一言では何が悪いのか、何が気に障ったのか判らない。 だから、箱に詰められるときも『おさらばだな』という言葉が何かの冗談であると思った。 しかし、運ばれている内に、その一言が現実味を帯びてきた。 何処に行っているのか、何が起きているのか見えない不安と恐怖…。 訴えた…泣いた…歌った…踊った…思い出して、何かの間違い…ワタシデス… 自慰も披露した。 これなら思い出してくれる…忘れられるハズがない… あんなに愛してくれたのに、可愛がってくれたのに… ワタシデス…ワタシを思い出して欲しいデス… しかし、耳に入る死神の靴音は冷酷にゆっくりとしたリズムを刻んでいる。 汗が冷や汗に変わる。 服がべっとりと肌に密着する。 バクバクと体中が心臓になったように脈打っている。 震えが止まらず、四肢は思うとおりに動かない。 胃がキュキュと締まるような感覚が、そのまま胃が捻れてしまうのではないかという錯覚に変わる。 何とか手を腹に当てる…ドクドクと脈が激しいのは確かだが、 それらの感覚が錯覚であることを触って確かめた。 それでも、胃はグルグルと音を立て、排泄口を締めようとしても、生暖かい物が下着を満たしていく。 落ち着かせるように腹をさする。 ぽっこりと膨らんだお腹を撫でる。 ここには、主との愛の結晶が息づいている。 しかし、歌を聴かせようにも、口は思い通りに動かず、喉に何か詰まったように苦しくなる。 何も出来ない、何も判らない…これから何が待っているのかすら判らない。 考える時間だけがあることが、余計に恐怖を掻き立てる。 要らなくなったら捨てられる… 何処に? そこは自分の知っているところだろうか?右も左も判らないところだろうか? このまま捨てられる?捨てられても生きていけるように何か貰えるのか? いや、何かを貰ったところで、ずっと人間に全力で奉仕する事しか知らなかった自分に何が出来る? いやいや、逆にさらに何か…大切な物を奪われてしまうのか? いやいやいや、そもそも、捨てられるとは言われていない… ここが、保健所なのかも知れない。 ”保健所”と言う所に箱詰めにされて持って行かれた者は、そこで命を終えるのだと言われたことがある。 それを見たことがある…見せられながら主に聞かされた。 とても汚い罵声を上げ、バタバタする箱が長い通路を運ばれていく様を…。 扉の向こうから聞こえる、この世の物と思えない悲鳴…そして、静寂…。 ”言いつけを守れなければああなる” そう言われて、しばらく、恐怖に怯え夢にすら出てきていたのを思い出す。 自分の置かれている状況は、まさにそうではないか?! この箱を運んでいるのは、もう主では無いかも知れない… だから、ワタシが…このワタシが一生懸命訴えても答えてくれないのだ… ここは保健所だ! 恐怖が…狂気に変わるのにそれほど時間を要さなかった。 ガタガタガタン!! 「ジギャァァァァ!!デスゥ!デスゥ!デズッ!!デズゥ!!デスゥー」 再び箱が激しく揺れた。 ボコボコ… 「デスッ!デスッ!デスデスデスデス」 箱の表面に小さな盛り上がりが生まれる。 実装石の手の大きさに突起が生じ、2つ3つと増えていく。 パン、パツン、パシン… 「デッスゥ!デッスゥ!デッスゥ!」 箱が歪む…全身を壁に叩き付けていた。 それでも、しっかりと人の手で組み上げられたダンボールの横の壁は、 助走を付けるだけの空間的余裕が無い内側からでは容易に壊せる物ではない。 例え、狂気にリミッターの外れた力を発揮していたとしてもだ…。 バンバンバン… 「デギャァァァァァァ!!デギャァァァァァァ!!」 さらに狂気に満ちた絶叫が上がると、今度は箱の天井が僅かに変形する。 確かに、箱の天井と床は横の壁に比べて構造的には弱いだろうが、 そこも人間の手によって開きにくいように交差に折り込んで閉じられ、 さらに、ガムテープで封じられ、動くように感じても開くことはなかった。 カリカリカリカリ… 「デデデデデデ…」 歪んだ壁を擦っている。 人間なら爪があるので、引っ掻いている事になるのだろうが、 実装石の手には爪がないので擦っているだけになる。 ピチャピチャ… この頃から、箱から汚水がポタポタと染みだし、それがしたたり落ちていた。 水分はどんどん増え、小水の様にジョロジョロと零れ出すようになった。 糞尿に汗、鼻水、涙…その実装石の恐怖を言葉以上に語るそれらの入り交じった汚水である。 ガリガリガリ… 「デェェェェェッ…デデ、デェェェェェッ…」 取っ手穴から手が覗く。 実装石の手よりは小さい穴から、押しつけられた肉が飛び出たり入ったりしていた。 何度か出入りし、その後、赤い目が覗く。 その瞳は先程とはうって変わり目玉の大きさが一回り大きくなっていて、 周りの肉も赤く腫れ、さらに目を大きく見せている。 目玉と肉を区別させているのは、自ら光っているのではないかと思える真っ赤なギラギラした輝きだ。 涙も赤い色に染まっている。 どうやら、内部の細い血管が極度の興奮の血圧で切れた、あるいはオーバフロウの状態になっているのだろう。 人間の血管とは、その役割も成り立ちも構造も若干違っているため、実装石には良くあることだった。 その眼球部と付近の出血・充血により、通常より濃い色の光を反射しているのだ。 まさに狂気に支配された目である。 だが、その狂気の瞳にも、限られた狭い視界に真っ暗な闇が有ることしか判らない。 その目が引っ込むと、再び手が何度もはみ出す。 穴を掻いて拡げようと言うのだろう。 人間のように指が有ればそれも可能かも知れない。 しかし、実装石にはそんな器用で便利な指がない。 どれだけ懸命に押しつけても、その手より小さな隙間からは、 ウレタンボディの無駄に柔らかい肉が押されてはみ出す程度である。 それでも、「デギィィィィィ…デェェェェェェ…デデデ…デァァァァァァ」と繰り返す。 そして、赤い目が覗き、再びヒステリックな叫びと共に繰り返す。 やがて、そこに口が覗くようになる。 歯を立てて噛み破ろうというのだろうが、 その無駄にデカイ顔と独特の口の形状、稼働範囲はその用途には不向きである。 彼女は死神の嘲りをかき消す為に、その無駄な行為を何度も繰り返した。 手は、その行為で傷が付き、穴に突っ込むたびに肉が裂け血が噴き出した。 歯を押しつけようとして、頬も同様に裂けた。 取っ手穴の周りは瞬く間にベットリと血と汗と涎にまみれた。 さらに、コチラが駄目なら…と反対の取っ手穴にも、 「デギャギャ!!デズゥデススゥゥゥゥ」と叫びを上げながら挑み掛かる。 ガゴン!ガゴン!ガゴン! 「デズッ!デッ!?デデ?デスッ!!デッ!デ!デェ!!デスッ!」 突然、箱が大きく前後上下左右に激しく振られる。 ”大人しくしろ!!”そういう無言の命令が中の実装石を襲う。 翻弄され、狭い箱の中を天井、壁、床に受け身を取る余裕もなく、 自身の漏らし下着からこぼれ落ちた大量の糞尿も宙を舞い、全身に容赦なく襲いかかる。 「デッ…デェェェェェェェ…デー…デー…」 強制的に無力感を刻まれて、実装石は大人しくならざる終えなかった。 コツンコツン…再び、静寂の中、死の十三階段を登る靴音が響く。 抵抗手段の全てを奪われた実装石は、足を投げ出して壁に背中を預け、惚けたように動かなくなった。 休み無く稼働しているのはブビブビと軟便を溢れさせる排泄口だけである。 「デー…デー…デー…」 靴音に合わせるように実装石の弱々しい鳴き声がする。 せめても、その靴音を聞こえにくくしようと言うのだろうか…。 実装石は抵抗の気力も沸き起こらず、待ちたくない死刑宣告を待ち受けた。 逃げ込む場所は、もはや、自身の心の中にしかなかった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− うららかな日差しの中、楽しいお散歩。 ママとお手々を繋いで、おめかしをして、お歌を歌いながらのお散歩…。 「美味しいゴハンも寝て食えるデス〜♪動かなくてもなんでも貰えるデス〜♪」 初めてのお散歩…。 ワタシは蛆ちゃんを抱え、暖かい日差しを受け、始めて見る新鮮な彩りの公園に感激していた。 イイ匂いのする芝生の上でマットを拡げて、みんなで仲良くお弁当…。 でも、突然周りを取り囲む、おナカマさん達…。 臭い、汚い…でも、おナカマさんだから、ママと一緒にご挨拶。 ママは、妹ちゃんを抱っこして「コレをやるからワタシだけは見逃すデス」 ワタシは公園は初めてだから、それが公園でのご挨拶だと思った。 カワイイ妹ちゃんをほめて貰うんだと…「コレをやるからワタチだけは見逃すテチュ」 ワタシもママの真似をした。 妹ちゃんはおナカマが抱っこした。 でも、ナデナデじゃなかった…。 「レッピャァァァァァァ!!」「レフゥゥゥ…レペッ」 食べられた。 頭が無くなった、蛆ちゃんの尻尾だけが、ワタシの目の前でパタパタ激しく左右に動いている。 「デギャ!!デスゥ!!」 ママが殴られ倒されイッパイのおナカマさんが群がっていく。 妹ちゃん達が逃げだし、ワタシも走った。 次々と捕まっていく妹ちゃん達…。 ワタシはなんとか草むらに身を隠して丸まって震えた。 妹ちゃん達の悲鳴がずっと響いていて…。 ワタシには何も無くなった。 芝生には、ワタシ達のマットもお弁当箱も、ポーチも、水筒も何も無くなっていた。 ただ、血やウンチの跡だけがクサイ臭いを放っていた。 ママが居ないとお家に帰る道が判らない…。 ニンゲンさんにゴハンが貰えない…。 お風呂にはいることも、玩具で遊ぶことも、フカフカタオルもない。 何も無くなった。 でも、ニンゲンさんならワタシをゴシュジンサマというニンゲンさんの元に連れて行ってくれるハズ。 確か、ママがそう言っていた。 首輪に付いているこの板を見ればワタシが判ると。 おナカマが怖くて、草むらからでられない。 美味しい匂いがしても動けない。 身体が臭くて痒くても何も出来ない。 それでも、ワタシはニンゲンさんが来るたびに首の板を見て貰おうと、 草むらから、汚いナカマ達がウロウロする怖い芝生や道にとびだしたのに…、 一生懸命コレを見てと言ったのに…、 何日経っても、どのニンゲンさんも見てくれない。 首輪がギチギチと食い込んでとても痛くなってくるのに、ワタシにはどうすることも出来ない。 ゴハンは、葉っぱとウンチと、たまにウンチをしに来る奇麗な服がムカツク仔達や蛆ちゃんだ。 ワタシがこんな目に遭っているのに、ワタシの前で見せつけたり、お上品に隠れてウンチとか、 とにかく幸せそうなので、マヌケなケツを出しているところをボコボコにして食べてあげた。 お肉はとっても美味しいけど、気分はドンドン悲しくなる。 お肉がたまにしか食べられないのもそうだけど、 ママや妹ちゃん達と美味しいホカホカのゴハンを食べたり、甘いオヤツを食べたり、 初めてのお散歩が楽しみで、前の日からゴシュジンサマに貰ったお散歩道具を眺めたり、 お弁当に何が入るのだろうか考えて、みんなで話し合っておねむ出来なかったのを思い出すからだ。 そんなある日、初めてニンゲンさんがワタシを抱っこしてくれた。 ワタシの首輪を見てくれた。 『飼い実装だったんだな?襲われて帰れなくなったのか…』 ニンゲンさんは、そのまま、ワタシを怖い場所から連れ出してくれた。 ワタシは、そうして、このニンゲンさんに拾われたのだと理解した。 フカフカタオル、お風呂、ゴハン…。 何でも手にはいる。 幸せ…幸せ… でも、幸せじゃないこともある。 色々、沢山の事を言われた。 このニンゲンさんのお家で暮らすルールと言われたけど、そんな面倒なことは聞きたくもない。 でも、聞いていないととっても痛いことをされた。 だから、取り敢えず頭を縦に振っておいた。 ガラス張りの壁、堅い床のちっちゃいところがお家だと言われた。 ワタシがママと一緒にいたときは、こんなに何にも無い所なんかじゃなかった。 でも、仕方がないと感謝してやったのに、お家はドンドン汚くクサくなっていく。 ウンチをしても、ゼンゼン掃除してくれない。 ワタシはニンゲンさんの怠慢を指摘してあげると、 ニンゲンさんはとても怒ってワタシに酷いことをした。 仕方なく、ワタシは、ワタシの為にワタシでお家をキレイにするしかなかった。 でも、キレイになるのはイイ事で大好きだからイッパイキレイにした。 するとニンゲンさんは褒めたり撫でたりしてくれた。 しかし、その後もワタシの不幸は続いた。 ワタシがお家の外でニンゲンさんの物で遊んでいると、突然怒りだした。 そして、ワタシにお片付けをしろ、そとでしたウンチを片付けろと怒った。 お家のお外はニンゲンさんの物なのは常識だ。 だから、ニンゲンさんの物はニンゲンさんがキレイにするのが常識から考えて正しい。 なんで、ワタシのウンチやニンゲンの物をお片付けするのか判らなかった。 ワタシは、ちゃんとワタシのお家をキレイキレイにしているのに、 ニンゲンさんが自分の持ち物をキレイにするのはお馬鹿な野良でも判っちゃう事だ。 ウンチはワタシのでも、ウンチが落ちているのはニンゲンさんのお部屋だ。 本来はワタシの物のハズのお部屋だから、ワタシが自由に使うのは当たり前だ。 それをニンゲンさんの物だって勝手に言い出したのはニンゲンさんなのだから、 ワタシが汚しても、お掃除するのはニンゲンさんのお仕事だ。 当たり前の話だ。 それが判っていないニンゲンさんはクルクルパーだ。 ワタシは賢い頭で、正しくそれを説明したのにバカでヤバンなニンゲンさんは、 ワタシにとても痛くて怖い事をして、ワタシは仕方なくニンゲンさんのお部屋を掃除させられた。 ちゃんと掃除をしてやったのに、ニンゲンさんはワタシを冷たいお部屋に落として、 ワタシのお部屋のハシゴがハズされて、ワタシはお部屋から出られなくなった。 ニンゲンさんは常識の判らない理不尽の塊だ。 でも、ワタシは賢いから、ちゃんとその無理難題を華麗に守って見せた。 ワタシのお部屋以外でウンチする時は白いシートの上とか、 ウンチをしたら自分でフキフキするとか、フキフキしたら手を容器のお水であらうとか、 コレとコレとコレはワタシの物だけど、アレとかアレは触っちゃいけないとか、 ココはいいけど、お風呂場とか他のお部屋には勝手に入っちゃいけないとか、 食べ物はお食事お皿の中の物しか食べちゃいけないとか、 出した物はワタシのおもちゃ箱にしまうとか、 お出迎えのご挨拶、ご飯を食べるときのご挨拶は違うとか… そんなのママも言わないぐらいに細かくてうるさくて、 とっても面倒くさくて疲れるけど、守っている間は、とっても優しいことが判った。 ハシゴはすぐに付けて貰って、お部屋の外でも遊べるようになったし、 ニンゲンさんに構ってやると、凄く懐いて、撫でたりしてくれた。 ニンゲンさんのお風呂に入れて貰えることもある。 仕方なく身体を洗わせてやると、喜んで洗ってくれた。 とても丹念に奉仕してくれるので、ニンゲンさんが洗ってくれたときはお肌がプルプルのツルツルになる。 でも、命令しても10回に1回ぐらいしか言うことを聞いてくれないのは理不尽だ。 ワタシは暖かいお水の出るニンゲンさんのお風呂場が大好きなのに偶にしか入れない… でも、仕方なく冷たいお水で毎日身体を洗う。 偶にはニンゲンさんのお布団で一緒にも寝かせてくれた。 ニンゲンさんのお布団はフワフワでママと一緒にいたときのようだ。 とても暖かくて、ニンゲンさんも暖かくて、 冷たいお部屋で、タオルにくるまっているときと大違いだ。 でも、しばらくすると、 『お前、鳴き声変わってから鼾と歯軋りが酷くて寝られない』って、 とっても失礼なことを言ってお布団に入れてくれなくなった。 そういえば、その時から、 『いい加減、風呂で盛大に糞を漏らすの止めろ。 成長して少しは栓が締まるかと思えば、余計に緩むのはどういう事だ』って、 お風呂場にも入れて貰えなくなった。 とっても気持ちが良いから自然に出てしまう物を止めろだなんて、 やっぱりニンゲンは横柄で理不尽だ。 それでも、ニンゲンさんとお散歩に行くのは楽しい。 ニンゲンさんも楽しそうだ。 ママとの初めてのお散歩は散々だったけど、 今度はニンゲンさんがワタシのボディーガードだ。 あの公園の野良達もゼンゼン怖くない。 ワタシも身体が大きくなったから、逆にガンガンお返しをしてやった。 どんなに凄んできても、ニンゲンさんの近くに戻れば、あんなカス達は逃げていく。 ワタシの強さに恐れをなして居るんだと判った。 何回か公園でワタシの強さが本物だとわかると、小汚い野良達を苛める位じゃ物足りなくなった。 ワタシは強いから、あの時、幸せそうにしていた家族と同じ様な格好のヤツらにも、 ガンガンに仕返ししてやった。 ニンゲンさんは、首輪を付けているのはナカマだから仲良くしろ…とか言われたけど、 強いワタシには倍返しする正統な理由がある。 あんなヤツらの蛆ちゃんなんて、1発踏めばグチャグチャだ。 コナマイキな仔実装なんて、昔は重たい石で何度も殴って倒したのに、 たった1発殴ったらウンチもらして泣き出して、 もう1発殴ったら頭がつぶれて玩具みたいに訳の判らない事をしゃべりだして、 さらに1発殴ったら動かなくなった。 親が文句を言ってきたから、服を破ったら泣いて命乞いしてきたので、 首輪も奪って、そのウンコまみれの汚いパンツの上からケツを蹴り上げてやった。 ワタシの強さをニンゲンさんに教えてやったら、 ニンゲンさんはワタシを小さいとき以来久しぶりに抱っこして走ってくれた。 それなのに、お家に戻ったらムチャクチャに痛い思いをさせられて、 しばらくは”また”ハシゴをハズされ冷たいお部屋に閉じこめられた。 それからオシオキが終わっても、お散歩に連れて行ってもくれなくなった。 まったく、ワタシが優しくするとつけあがる上に、やることが理不尽で仕方がない。 とにかく、楽しみなお外にも出られなくなったワタシは新しい遊びを覚えた。 ワタシは賢いからこんな事も発見した。 いつもの通り、おウンチをたっぷりして、スッキリキモチがいいので、 爽快な気分でお尻をキレイな紙でキレイキレイに擦っていた。 いつもとっても気持ちが良い。 スッキリしたのとキレイキレイになるのが気持ちいいのだと思っていた。 その時、あまりの気持ちよさに、身体がよろけて、思わずおウンチ穴にお手々がズポッって入った。 「デッ!デスゥゥゥゥゥゥゥゥン♪」 スゴい気持ちよさに、ウンチの上に転んだのも忘れていた。 入った手を抜いてもキモチイイ、また入れたり出したり、中で小刻みに動かしてもキモチイイ。 こんなのオママゴトとかおダンスとかなんかよりゼンゼンキモチイイ! 暖かいお風呂よりキモチイイかもしれない。 こんなに簡単に気持ちよくなれる遊びを開発できるなんて、ワタシは自分の賢さが恐ろしくなる。 こんなのを知っているのはワタシだけなんだ。 ワタシは、早速、ニンゲンさんにもこの新しい遊びを披露した。 するとニンゲンさんは困った顔をした。 そして、やっぱりイタイこと、オシオキをされた。 きっと、この賢い遊びがバカだから理解できなかったんだ。 それを考えだしたワタシの才能に嫉妬したんだ。 まったくニンゲンさんの理不尽さはワタシの我慢の限界を超えている。 でも、だから、ワタシはニンゲンさんの見ていない時にこの遊びをした。 ある日、お腹が重くなって、気怠くなって、いつものゴハンじゃ足りなくなった。 ワタシは賢いから判った。 ワタシがママみたいにママになるんだ。 ワタシはワタシの様なカワイイ仔をイッパイ産むんだって事が。 でも、ニンゲンさんは、また困った顔をした。 それでも、ニンゲンさんは、困った顔をしただけで何もしなかった。 バカなニンゲンさんでも、少しは学習して、ワタシへの無礼な行為を止めたようだ。 ワタシは産まれてくる仔達の為に、この賢い頭を使ってタクサン可愛がった。 ママの胎教を思い出したので、イッパイ歌った。 ママのお腹にいたときに、ワタシに見えたママの事、ママの教えを思い出した。 デキの悪い仔は、ニンゲンさんのご迷惑、ニンゲンさんのご迷惑はワタシが捨てられる迷惑の元。 賢い仔を選ぶのは賢いママ、デキの悪い仔は産まれなかったことにする。 美味しいお肉でお腹も脹れてイッセキニチョウ…賢い、賢い、ああなんて賢い…。 だから、ワタシはガンバッテ産まれた仔をイッパイ食べた。 選ぶのは面倒くさいし、全部食べればそれだけお腹も脹れるし、 全部食べれば、それだけ賢く厳しい選別をしたとニンゲンさんに思われる。 ワタシはママより、なんて賢いのだろう。 でも、イッパイ食べていたらニンゲンさんがワタシのお部屋を覗いていた。 また、とっても困った顔をしていた。 まったくニンゲンさんはどこまでバカなのか… いや、きっとワタシがスゴすぎて、ニンゲンさんのちっぽけな脳みそじゃ理解できないのだ。 そう思うと、ニンゲンさんが哀れで、面倒を見てあげたくなった。 ニンゲンさんに禁止されているけど、冷蔵庫という食べ物の出る不思議な箱を開いて、 自慢の料理を作ってあげた。 初めてだけど、賢いワタシならすばらしい料理が出来るはず。 ワタシだから出来て当たり前だ。 手の届く物を集める。 どれも美味しそうだ。 とにかく全部まとめて千切ったり、混ぜて、揉んで… 確か、こんな感じでやっているのを見たことがある。 おいしいおいしい、これは美味しい。 もっと混ぜるともっと美味しい物が出来る。 ちょうど、お皿に入らない程あったけど、味見をしていたらニンゲンお皿の半分になっちゃったので、 丁度良い、冷蔵庫の上の方にも登って、他の物もイッパイ入れよう。 お魚…全部入れたらきっと美味い。 お肉…これも美味しいからイッパイ味見して入れる。 クサイクサイお漬け物も、ニンゲンさんは好きだから入れてやる。 ネバネバ納豆、ワタシはキライ、味見せずに入れてやる。 ケーキもある。 ワタシにくれないで隠していたのは許せないから、これはワタシが全部食べてあげた。 お台所の扉も開いて、あまーい粉、しょっぱい粉、すっぱいお水、 ドロリとした黒いお水、辛い黒いお水、へんなヌメヌメお水も全部入れてみた。 お皿からお水が溢れたけど気にしない。 ニンゲンさんの部屋はニンゲンさんが掃除をすればイイ話だ。 でも具がゼンゼン少なくなったので、ワタシの愛のおウンチを入れたら、 なんとか量もイッパイになった。 お料理はワタシのお腹もイッパイになるし、イッパイ疲れるので、 ニンゲンさんのお布団の部屋に行った。 お料理を作ってあげたのだから、本来ワタシの物のハズのお布団を使っても文句は言われないだろう。 ただ寝るのもつまらないので、いつものお遊びをイッパイした。 ニンゲンさんのお布団のまわりには変な臭いのする紙が散らばっていた。 ワタシは知っている。 ママの記憶でニンゲンさんとの仔作りに必要な物だと記憶している。 これがニンゲンさんの仔供の種なんだと頭にひらめいた。 これが置いてあると言うことは、ワタシに劣情を催しているのだ。 ワタシへの愛をこうしてとってある事に感動して、紙の臭いを嗅ぎ、口に含み、 そして、キモチイイウンチ穴に突っ込んだ。 ニンゲンさんの激しい行為に陶酔した。 いつもより遙かにキモチイイ…。 コレでワタシは、ニンゲンさんとケッコンしたのだ。 もう、オシオキとかシツケなんてされる立場じゃない。 産まれる二人の、愛の結晶の為に、ニンゲンさんはワタシに楽園のような贅沢をさせてくれるに決まっている。 もう、本当に、このお家がワタシのモノになったのだ。 だから、ゆったりとお布団で膨らむお腹を抱え、余韻に浸り眠っていた。 それなのに、大きな怒鳴り声が聞こえてきた。 今までにない怒りの声… ワタシは一気に血の気が引いた。 何かよく分からないが、ドアの隙間から見れば、ワタシの愛のお料理を見下ろして怒鳴っている。 その顔は、見たこともない鬼の形相だ。 愛の結晶が授かったことを報告する事も忘れて、ワタシは何かとてもヤバイ事が起きていると感じた。 ワタシの名前を怒鳴り声に混じって叫んでいる。 しかし、ワタシは華麗に、そのピンチを切り抜ける知恵を思い浮かんだ。 ニンゲンさんがドカドカとワタシの冷たいお部屋に向かっている間に、 ワタシは、大切な自分の服をビリビリと破った。 ああ…タイセツな服…スカートに切れ目が入ってしまった。 これ以上はワタシの心まで裂けてしまいそうだが、これでニンゲンなら誤魔化せるだろう。 痛いけど、自分の腕に噛みついて歯形を残す。 血が出てしまうまでやったらワタシは死んでしまうからここで止めておく。 自分で頬を叩く、とても痛い。 鏡を見ると頬が僅かに赤く染まっている程度だけど、さらに痛い事なんてしたら死んでしまう。 もう、充分、襲われてヒドイ事をされた様に見えるはずだ。 さらに、タイセツな髪の毛も”数本”抜いて手に握りしめる。 そして、持てる物の中でイチバン重そうなモノを見つけて窓に何度も投げつけた。 大きな音がして窓が割れるとニンゲンさんがドタドタと駆けてくる。 「デスゥゥゥゥゥゥ!!襲われたデス!野良達が入ってきてワタシが襲われたデス!! お部屋を荒らしたのもみんなみんな野良達の仕業デスゥ!! ワタシは一生懸命戦って追い払ったから居ないデス!!信じて欲しいデス!! ほら、お手々噛まれたデス、頬をこんなになるまで叩かれたデス、 マラに襲われて犯されて妊娠したデス!! ほらほら、大切な髪の毛がこんなに抜かれてしまったデス!! もし、自分でやったのならこんなにヒドイ事なんか出来るはずがないデス! このお腹にはニンゲンさんとの間に育まれた愛の結晶が宿っているから懸命に抵抗したデス!! ウソじゃないデス!ニンゲンさんに激しくされたデス!!たしかにニンゲンさんの仔種デスゥ」 ワタシは一生懸命、バタバタと床を苦しそうに転がりながら説明する。 それなのに…それなのに… ニンゲンさんは冷たい目でワタシを見下ろすと、 黙ってワタシを痛く掴み上げて、冷たいお部屋に叩き落とした。 お部屋から、ニンゲンさんのお部屋へのハシゴが外され、 それどころか、お空に蓋までされた。 ワタシは何度もニンゲンさんを呼んだ。 真っ暗な中、ずっと話を聞いて欲しい、ワタシの仔がいるお腹を見て欲しいと叫んだ。 いつもはしばらく我慢するとハシゴが元に戻ったのに、 我慢の我慢をしてもお部屋は真っ暗なまま…。 ゴハンの時しか蓋は開かない。 お話もしてくれない…黙ってゴハンを乱暴に落として、また真っ暗な部屋になる。 ワタシはお腹の仔にお歌を聴かせて何日も過ごした。 そして… −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 実装石が不意に我に返ったとき、どれだけ時間が過ぎたか判らない。 座り込んだ足を埋める程の糞尿が溜まり、その臭気が箱を満たし、全身が糞まみれであった。 手も顔もズタズタに傷付いていて、しかし、それを気にしているだけの余裕もない。 スカートの裾を軽く持ち上げ腹を触る。 ピクピクと反応するように腹の中が脈打つ。 もう、出産も間近である。 だが、どうすることも出来ない。 ここには、水もタオルも、頑張る姿を見てくれるニンゲンも居ない。 することが無く、不意に持ち上げたスカートの裾をジッと見つめる。 何カ所か小さな”ほつれ”が出来た服。 ニンゲンさんに買って貰った大切な服。 それをこんな風に破ったのは…自分自身だった。 何故!?何の為に?そう考えたときに、実装石はハッと口に手を当てた。 そして、痛みに自分の傷だらけになった手を見る。 「デェェェェェェッ…」 実装石は力無く呻いた。 どんなに体裁を取り繕って、想い出を美化して逃げ込んでも、 自分の解釈を言い放ったところで…現実は何も変わらない。 自分が、それを悪いことと知りながらも、自分に都合よい解釈を与えただけでやっていたことを… そう、今自分が置かれている立場という絶対に避けられず、変えられず、戻すことも出来ない現実。 その現実が、この実装石に自分以外の視点から自分を見るという事を教えた。 そして、その自分がしてきた行為の愚かさを、この状態に至って理解してしまったのだ。 それが理解できてしまったが為に、何も出来ずに過ごす時間は苦痛以外の何物でもなかった。 時間の経過を量れるモノは、その全身を苛むように脈打ち続ける心臓の鼓動…。 時間など適当に過ぎていく物…食事、トイレ、遊んで身体を洗い寝る。 人並みの知能と言われる実装石だが、今まで、生活の中で時間は大して重要な要素ではなかった。 時間の概念が曖昧だった生き物に、秒単位のドクンドクンと脈打つ時の経過が重くのし掛かる。 生きていることを知らせるそれが、余計に降りかかる死を実感させ、 時間が経過していく事を知ることで、さらに死への恐怖を掻き立てる。 「死…死…ししし、死ぬのはイヤデス…」 その時に、声が響いた…。 飼い主の声だ。 『よし!着いたぞ!』 ビク!! しかし、飼い主の声が、その実装石に救いの声であるはずがなかった。 箱がドンと何処かに降ろされるのを感じた。 『うわ、漏らしているのか!!仕方のないヤツだ!!』 ベリベリベリ… テープが剥がされる音が響く。 ただでさえ、今にも捻り切れそうな錯覚に捕らわれている内臓が、 グキュルルルルルと音を立てて締め上げられ、ピューと排泄口から軟便がさらに勢いを増して漏れていく。 脈がバクンバクンと爆発しそうな程に弾け、全身から汗が一気に噴き出し、 身体が逆に冷たくなっていく。 「ワタシはなんて愚かだったのデス…」 心の中ではそう、最後に許しを請うために叫ぼうとしたが、 パクパクと小刻みに口が動いただけで音にはならなかった。 箱が開いて光が差した瞬間…。 「デギャァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…」 天を仰いで実装石の時間が停止した。 己の罪の大きさと、その先に待つ現実の結末に心が耐えられなかった。 考える時間が、彼女に絶望を感じさせ、苦痛のうちにショック死させた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 実装石の表情は、肉が歪み、浮き出た筋が固まり、この世の物とは思えない恐怖を表していた。 目は見開かれて、濃い赤を残しながらも曇って光を反射しなくなっていた。 口は絶叫のまま開かれ、舌が伸びきったままだらしなく垂れ下がっていた。 赤や緑の血が汗と一緒に浮き出て粒になり、斑点のように全身に浮き出ていた。 鼻や耳からは、白い素麺状になって、その小さな脳の一部が垂れだしていた。 その髪の毛は、全て根本が真っ白に脱色していた。 飼い主が、それを無言で箱から取り出すが、死体はその形のままで固まっていた。 死後硬直でなく、全身の肉が硬直したまま死んだのだ。 どれほどの恐怖を感じた結果なのだろうか…。 男がその死体を抱え上げると、地面に置いて『はぁ…』とため息を吐いた。 その男が顔を見上げた視線の先には、コテージがあった。 「合宿型実装石再教育施設”ニコニコ実装園”」 そう看板に書かれてあった。 「飼い実装の我が儘は飼い主にも要因があります。 当施設は、合宿によって徹底的に再調教を施す課程で、飼い主に正しい知識も身につけて貰い、 さらに、スキンシップを取り入れることで、ペットの学習効率を高めます! お互いがお互いを見つめ直し、さらに深い絆となる…それがニコニコ実装園のポリシーです。 美しい自然を展望できるコテージで飼い主様の休養を兼ねて、ペットを賢くしましょう。 指導員付き、飼い主様お食事付き、短期徹底2週間コース、今なら15万円!!」 そう書かれたチラシを力無く手放す。 男は、実装石を本格的に専門家による教育をしようと連れてきたのだ。 飼い主は、酷くなる実装石の愚行に対して、自分の独力での知識や指導力の方に疑問を抱いていたのだ。 まともに言うことを聞かないとは言え、一度飼った以上、簡単に見捨てることは出来なかった。 程度が低いとは言え、知能があって知育が出来る生き物となれば尚更だった。 憎く、邪魔にすら感じる事はあれど、ホイホイ捨てる事を無責任と感じた。 「そろそろ出発する頃合いだな…向こうに着いたら、産まれる仔と一緒に一から頑張ろうか。 しばらくこの水槽の家ともおさらばだな…」 そう言いながら実装石を箱に詰めたのだ。 実装石は人間の言葉が理解できると言うので、ちゃんと説明をしたのだが、 言葉が理解できるのと、内容をキチンと理解出来るのは別の話であり、 そもそも、この実装石は、その人の話を半分も聞く気がなかったのだ。 そして、人の話を聞く気がないこの実装石は、それまでの生活のそのままに、 勝手に自らの状況を考え、揺れる車のトランク内の物音を靴音と勘違いし、妄想を膨らませ、 その結果、何も出来ない狭い箱の中で、自らが包み隠そうとした罪科を考える時間を与えられ、 勝手にその罪の重さに追いつめられていった。 考える時間だけを与えられた悲劇であった。 この実装石は、少なくとも自らのペットには責任感ある飼い主を、 結局は、自らの死後においても尚、裏切り続けたのである。 男は指導員と相談をして、キャンセル料を渋々払うと、力無く車で帰っていった。 そして、途中、町の実装回収ボックスに死体を投げ捨てた。 男の手元に残ったのは、ひたすら裏切られ続けた傷心と、糞に汚れた首輪だけであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 投げ捨てられた実装石回収ボックス… そこは、虐待にあったり、車に轢かれたりした実装石を燃やすゴミとして処理する為の箱…。 目に付く町中の邪魔な実装石も処分され投げ込まれるか、投げ込む事で処分される。 皆、基本の死んだ後で捨てるという最低限のマナーは守るが、面倒なので生きたまま捨てられるケースも多い。 それでも、入れられた以上は、生きて外に出ることは出来ない。 死体の山の中に、彼女の死体が投げ込まれる。 ガゴン… 「「デスゥゥゥゥ…デスゥーッ…」」 「「テチュー…テチィィィィィ」」 まだ生きている者達が、遙か上の投入口に向かって手を伸ばし、壁を掻き力無くもがいている。 彼女の死体が、逃げ遅れた仔実装を圧殺して死体の山の頂に着地すると… ベチャ…プリッ…「レプッ…テッテレー♪」 彼女の股から1匹だけ蛆実装が勢いよく飛び出した。 糞を勢いよく漏らし続けていた為に、下着がズリ下がっていたのが幸いした。 着地の衝撃も幸いした。 他の仔は、産まれようにもその排泄口の肉に阻まれ、中で藻掻き苦しみ窒息していった。 緩いパンツの隙間を抜け、死体の山の中、彼女はコロコロ転がり「ママーママー、ナメナメシテレフ」と藻掻いた。 藻掻き這い回り、なんとか顔の膜を舌で舐め取って息をする。 だが、周りの生きている者達は無関心だ。 食い物は、地面に腐る程転がっている。 彼らの願い、関心事は、この世界から元の光のある世界へ出ることだけであった。 その中で産まれた蛆は、喰われる心配もないが、膜をとってくれる優しい存在もいない。 「レフ…レフ…誰かプニプニして…ワタチが産まれたのに誰もシュクフクのプニフ〜してくれないレフ」 転がって自力で膜を取ることに疲れたのか、蛆はハァハァと息を切らせながら動くのを止めて、 誰へともなく呼びかけた。 膜は大分取れたが、既に肉体の成長は停止して、蛆の肉体は仔実装にも親指実装にもなれなかった。 もっとも、蛆で成長が止まった以上、知能の成長も止まってしまい、 蛆自身には、その事が大した問題ではなくなっていた。 もはや、自分を産んだ母親がどれかすら判らない… 誰も構ってくれない世界で、蛆は蛆のままで居るしかなかった。 そして、後先を考えることをしない蛆のままで身体が固まってしまったことは、 無意味にこの世に生を受けた彼女に用意された最初で最後の幸せであろうか。 数日…いや、あと数時間で迎えが来て、ボックスの中身は焼却炉の中に捨てられるのだから…。 次に箱の外を見た瞬間が、この中にいる全員の死の世界である。 「プニプニ…プニプニして…誰か蛆ちゃんをプニフ〜して〜…蛆ちゃん悲しくてパキンするレフ…」 まだ、取りきれてはいない粘液が僅かにまとわりつく身体で思いっきり上体を反らし、 天井から微かに漏れる光に向かって悲しく叫んだ。 「出たいデス…あの光がある場所に出たいデス」 「お外に出たら、オイシイ物をイッパイ食べるテチ!お外がマシだったテチ…お外に出られたら幸せテチ」 「ワタシはどうしてココに居るデス?お天気いいからお昼寝していただけデスゥ!!」 「ご主人様、許してデス…シフォンテェーヌはもう二度と我儘言わないデス!ダイエットも頑張るデス! エステも週に1回でイイデスから助けに来て欲しいデス… 勝手に夜遊びしたからヘンなニンゲンさんに髪も服も首輪も取られたデス…こんな場所に入れられたデス。 ワタシは被害者だから、早く助けに来て欲しいデスゥゥゥゥゥ」 その蛆実装の叫びに呼応するように生きている者達が喉を枯らしきった澱んだ叫びを上げる。 どんな生まれで、どんな生き方をして、どんな状況・事情があれ、 そして、どんな場所であれ、一度捨てられた実装石に幸せな場所など無かった。 ガコン…箱の中に重い音が響く… 回収箱がクレーンで持ち上げられたのだ。 ドン! ガタガタガタガタ… その振動は、彼女たちへの確かな死神の靴音である。 実装石の不幸は、人並みに物事を見る事と、無意味に考える時間が許されていることである。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 捨てられた場所 おわり
1 Re: Name:匿名石 2024/04/06-16:03:02 No:00008986[申告] |
飼い主ガチャSSRくらいの飼い主を引き当てておきながら
哀れよのう |
2 Re: Name:匿名石 2024/04/09-04:57:43 No:00008993[申告] |
これだけ誠心誠意対処してくれる守護者に対して最後まで裏切りでしか答えられないのは流石に閉口するわな
追い詰めらて初めて己の愚行の数々を認識出来ているけど それらが悔悟ではなく身の破滅に対する絶望に過ぎないってのが知性の無駄遣いだね |
3 Re: Name:匿名石 2024/04/09-12:28:19 No:00008994[申告] |
次は実装石以外のペットをお迎えすることをお勧めします…素晴らしい飼い主さんだから |
4 Re: Name:匿名石 2024/04/09-12:48:08 No:00008995[申告] |
知能を自滅する方向にしか使えない実装石の救いのなさが逸品な良スク |
5 Re: Name:匿名石 2024/04/09-18:05:15 No:00008999[申告] |
見捨てず矯正を選ぶ彼にこそ愛護派という言葉は相応しい
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6 Re: Name:匿名石 2024/04/10-19:13:10 No:00009004[申告] |
飼い主は実装が自滅した後は傷心というより心底愛想が尽きたって感じで処分していたところを見るに
愛護派っていうよりも実装石相手でも保護したからには誠意を持って向き合えば何とかなると思っていた生真面目な人間だったのかも これに懲りて今後実装に関わらない方が吉だな |