タイトル:【虐】 実装石の日常 あったかい日
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:26725 レス数:2
初投稿日時:2007/01/10-19:39:28修正日時:2007/01/10-19:39:28
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 実装石の日常 あったかい日

   *実装石の日常2 を未読の方はそちらから読まれることを推奨します。


寒波が押し寄せ街中を行きかう人々もどこか寒さげだ。

公園の一角でそっと歩く2匹の親仔連れの姿があった。厳しい生活を思わせる衣服のほつれや、やつれた顔だが
それでもオッドアイの瞳にはまだ輝きが残っていた。

「ママ…疲れたテチュ」
か細いわが仔の声に、親実装は振り返る。水場で久しぶりの洗髪をした帰りだ、遠出に疲れているのは明らかだ。
仔の身長はまだ5センチほど。

「少しだけ休憩するデスゥ」
ベンチの下に入ると、倒れるように座る仔実装。

「足を伸ばすデス、ママが揉んであげるデスウ」
仔の靴を脱がせると、親実装が小さな足を指のない手でやさしく、もみあげる。寒空の下、凍えている体に少しでも
温もりを取り返すように。

「ママは大丈夫テチ?」
「ママはお前よりずっと元気デスウ。子供は余計な心配はしなくていいデスウ」

実際は親実装もいっぱいいっぱいだった。冬に入ってから公園の食糧事情は悪化し続けている。冷たい風にさらされ
朝には少なくない野良実装が屍をさらし、乏しい餌の奪い合いで
……仲間同士で殺しあう日々デス
気候もあるが、なにせ公園の実装が増えすぎた、あきらかにキャパを超えている。

この親実装も秋口に出産したときは8匹もの元気な仔を得た。しかし、毎日のように寒くなり餌が乏しくなると
仔は収奪の的となり、厳しい環境での飢え死にも続いた。懸命に餌を探すのだが、到底、家族の空腹を満たすには足らない。
残り3匹となったとき、待望の餌(腐りきったビスケット)を持ち帰ったとき、我が家は地獄となっていた。
7女は血痕しか残っていない、次女は引きちぎった4女の腕に旨そうに食いついていた。
4女は右手で失った腕をかばって隅で震えていた。

「ママ、もういいテチュ」

と、気づくと十分にマッサージをしていたようだ。親実装は回想を振り払うと、自分も少し休もうと仔実装の横に座り込んだ。
最後に残された仔を眺め、自然と頭をなでる。
「今は辛いけど、寒い日を我慢しているとあったかい日がやってくるデスゥ。あったかい日が毎日続くデスウ。『春』というデス」
仔実装が好む話を親実装は何十回目だろうか繰り返した。

「あったかい日になると餌もたくさん、たくさんあるデスウ。とても食べきれないくらいデスウ」

「すごいテチー。はやくそうなると良いテチ。どうすればいいテチー」

目を輝かせる仔に、親は微笑んだ。

「いい仔にして毎日を生きていくデスー。毎日毎日いい仔にしていると神様がご褒美をくれるデス。
きれいな花が咲くデス、お空が晴れてお天道様が元気になるデスー。水で全身を洗っても寒くないデス」

仔は生まれてから、一度も体を洗っていない。洗ってやりたいのは山々だが、寒さを考えれば命取りだ。
今日の洗髪も乾いて清潔な(注:実装視点)古新聞をいく枚か入手できたからだ。もう少し前なら体をぬぐってやる事もできたのだが。
目を輝かせる仔だが、白い前掛けは薄汚れ体は埃にまみれている。

通りがかりの飼い実装を見かけた仔実装が親に尋ねたものだ。
「あのお姉ちゃんなんであんなにきれいテチ?髪もぱさぱさテチ、洋服もきれいな色テチー」
飼い実装のリードを握るのは優しげな中年の女性。野良犬真っ青の悪臭を放っている仔の顔を見ず、親は答えた。
「……いい仔にしてるときれいになれるデス、お前もいい仔にしていれば、いつかきれいになれるデスー」
指の無い親実装がどれほどがんばっても、洗髪は限界がある。シャンプーなどもないし、冷たい水だけでは高が知れている。
一度でいいから仔の髪をきれいにしてやりたい、と願う親実装だった。

ベンチの下では冷たい風までしのげない、休息した親仔は立ち上がると我が家目指して歩き出した。
親仔はしっかりと手を繋いでいるが、愛情だけではない。飢えた仲間に奪われ食い殺されるのを警戒してだ。
さいわい今は他の野良実装の姿はない。離れた場所で、行き倒れらしき禿裸が転がっているだけだ


「あったかい日が続いたらタオルが入らないテチ?」
「そうデス、あったかい日はタオルがなくても寝られるデスー」

現在のところ、薄いタオルを親仔で羽織っても寒さに震えて寝なければならない。
「ママは『春』をどうして知ってるテチィ」

素朴な疑問に、親実装は懐かしそうに言う。
「ママのママが教えてくれたデス、ママのママはとっても物知りで優しかったデスー」
「テエ……私も会ってみたいテチ。どこにいるテチ」
「ママのママは遠くに行ってるデス、でもきっとママやお前のことを心配してるデス、お前がしっかりいい仔にしていれば
安心してくれるデス」
なにか誤魔化された気もするが、無邪気に仔はうなづく。


小さなダンボールで親実装は生れ落ちた。親は一生懸命に仔たちを世話し危険を避けつづけた。あの日までは。
夏が残りの力を振り絞ったように、暑い夜だった。
暗闇の中ダンボールは振舞わされ地面にたたきつけられた。
手足がもげ、内臓が飛び出た姉妹の甲高い悲鳴、逆さにされたダンボールから零れ落ちる家族。
「逃げるデス!!!お前たちは逃げ、デギ、デギャアァァァ!!!!!」
暑さに耐えかねた男がビールをコンビニで買った帰り、たまたまこの一家のダンボールに目を付けたのだ。
その後は言うまでもない。

親の言うまま、まだ仔実装だった彼女は逃げた。必死で駆け抜け、手近な茂みに身を隠すと荒い呼吸をしながら我が家を見る。
踏み潰されて幾つものシミになっている姉。手足を奪われて転げまわる姉。禿裸にされてただ血涙を流す妹。
母親は足をつかまれ地面に何度も叩きつけられていた。

あらしのような一時を耐えて、男が姿を消すとパンコンしながら家族のそばに行く。
もう、まともな姿はひとつも無い、誰が誰だがわからないほどだ。家を見ると帰りしなに踏み潰したのか、到底住めないほど破壊
されている。上には両目がはみ出た親実装の首が置かれていた。
あまりに唐突な家族の終焉だった。


「……あったかい日が続くころにはお前も一人前デスー、餌をとって、仔も生むデス」
不思議そうに仔は親を見る。
「お前もママになるデス」
……少し早かったデスウ?

まだ理解が及ばないのか、仔実装。
「生まれてくるのはお姉ちゃん達テチ?5女ちゃんや6女ちゃんや7女ちゃんや8女ちゃんテチ?
みんなが帰ってきて会えるテチ?」

一瞬、親実装は言葉を詰まらせた、あまりにもそれが
「そうデス、でも姉妹だけど、お前の仔でもあるデスー」

心底、仔はうれしそうだ。
「みんなに会えるテチ、あったかくて餌がたくさんあればみんな仲良く暮らせるテチー」

いきなり親実装は仔をギュと、胸に抱き寄せる。
テェ?という仔に頬をこすりつける。
「お前はやさしい仔デス、姉妹やママのママや、ママの姉妹の分までやさしい仔デスウ。きっとそれだけ幸せになれるデス」
これでもかと理不尽な境遇の親実装だが、だからこそ仔を愛していた。ぎりぎりの生活だが、なんとか生き残らせる自信はあった。
『春』さえ迎えられれば、あとは巣立ってくれるだろう。その日が来るまで親仔で生き抜ける。


再び歩き出す親仔。ふと仔が見ると輝く何かがあった。プラスチックのボタンが落ちていたのだが、鮮やかな緑だった。
……きれいな色テチ、ママにあげたらきっと喜んでくれるテチ
そこは仔実装、思うともう親の手を離れテチテチとボタン目指して走り出す。

デエ、と親は驚くが1mほど先のボタンに気づいて察した。
……しょうがない仔デスー。まだまだ仔デスー。



                      ジィ!



なにがおきたか、親実装はわからなかった。仔がいたところに大きな影が通りかかると、悲鳴らしいものがおこる。
陰が通り過ぎるとそこには地面にへばり付いた汚い赤と緑のシミがあるだけで、娘は見当たらない。

「……デ?……デ?」
親は周囲を見渡すが、通り過ぎたらしい人間の後姿のほかには何もない。あるのはシミだけ。

シミに近寄る。厚み5ミリほどの緑の衣服から緑色と赤色の液体と肉片が広がっている。腕だったものはボタンに手をかけるように
潰れていた。

「…デ……デ……………デッッッッ………!」
あわてて持ち上げるとまだ温かみのあるソレは、グチャリと音を立てた。口だったところから内臓の残りが血液とともに滴る。
どこかに眼球を飛び出させたのか、うつろな眼孔だけは形状を残している。震える手でそれに触れた。

「デ、デ、デジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
肉片と肉片をくっつけようとするが、かえって潰れてしまう。命の残滓たるそれはボトボトと地面に落ちていき、親実装は絶叫する。

「デギャアア!?デギャアアァァァーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

……うるさい野良だなぁ
知らずに仔を踏み殺した青年は、離れた場所で実装が叫ぶことに気づいた。
しかし、公園ではよくある光景である、青年こと二場は気にも留めない。

死骸は真上から均等に圧力がかかったわけではなく、通行人の靴底なので、まるですり潰したような状態だった。
ペースト状の赤と緑の血肉が無残だ。。
両眼からは血涙が止まらない。肉片をかき集める親実装の姿は鬼気迫るものがあった。
「デ!デ…デ…!しっかりするデスウ!返事をするデスウ!ママと呼んでデスゥゥゥ!!!」

しかし肉塊が答えてくれるはずもなく、持ち上げるたびにボタボタこぼれて行く。
わけもわからないほど絶叫。仔の死骸に親の血涙が注がれて一層奇怪なものとなっていった。
「デギャアーーーーーー!殺されたデス!殺されたデスゥ!私の仔がぁぁーーーー!」
親実装は絶叫しながら周りを見渡す。仔を惨殺した人間を探した。

イタ!
前掛けを赤と緑で汚したまま、親実装が走り出す。

人間は立ち止まり、歩くが実装にとっては全速力でも追いつけない。だが親実装の限界を超えた怒りが肉体を動かした。
公園の外、いくらか人々の行きかう中、息を切らせながらおいついた。

二場は後輩と外で待ち合わせしていたのだ。
「先輩、遅いっすよ」
少年は二場を捕まえると愚痴りだす。2,3言葉を交わしていると足元に親実装がたどり着いた。
息を荒らしながら吠え立てる。

「なんで殺したデスウ!なんで殺したデスウ!あの仔は優しい仔だったデス!自分のお腹が減っていてても妹に餌を分けるほど
優しい仔だったデス!!!姉に妹を食い殺されても、自分の腕を食われても恨み言も言わなかったデスウ!もう一度
家族と会いたいって言ってた心の優しい仔デスー!
あの仔の未来を返すデス!返せ、返せデスー!」

リンガルのない二人は乱入者に顔を見合わせた。何かわめいているという認識だ。
「野良実装の駆除の話をしているときに出てくるなんて、すごいタイミングっすね」
「ああ、それにしてもなに言ってるんだろね」

なお血涙を流す親実装、二人を見上げてわめく。
「デジャアァァァッァーーーーー!
あったかい日が好きな仔だったデスウ!春になればきっと家族をもてたデスッ!ゲ、ゲホッ!か、家族を持てて
私のママや姉妹の分まで幸せになるはずだったデスウ!」

「なあ、なにを必死に言ってるんだろうな」
「食べるものくれって言ってるんじゃないですか?厳しい季節ですし」
迷惑顔の少年、過去に物乞いする実装に絡まれたようだ。二場も経験がある、たしかに冬場は過酷な環境となるので
人を警戒し普段は近づかない個体さえ、追い詰められて餌を請いに街中へ来る。
だいたいが悲惨な末路をたどるのだが。
そして二場も野良実装は嫌いだった、行政の駆除が行き届かない、一部の繁殖した実装の害はよく知っている。
しかし、凍てつく空気を吸いながらさすがに気の毒に思い、ポケットを探ると小さなチョコの包みを出す。

ほら、と上から落とされたチョコの包み。親実装はそれを拾うと、黙って震えだす。

「お。静かになった」
「うれしかったんでしょ」

デギャアア!
爆発するような咆哮。チョコを投げ捨てる。
「デギャアアアア!!!!デジャアアアア!!!
なんのつもりデス!!これがあの仔を殺した償いのつもりかデス!!!
あの仔の命はこんなものじゃ、こんなものじゃないデス!
山のようなコンペイトウより大事なんデス!
それなのにお前が殺したデス!
なんでお前たちニンゲンは私たちを殺すデスウ!
家族を殺して楽しいデスかー」

親実装の変化に少年は顔をしかめた。

「殺してやるデス!お前ら殺してやるデス、絶対許さないデス!手足を引きちぎって殺してやるデスウ!
ニンゲンどもは皆殺しデスー!一人残らず皆殺しデスウ!!
謝っても絶対、絶対許さないデス!ぐちゃぐちゃにして殺してやるデス!」

デズウー!と親実装は二場に迫ると、渾身の力をこめて拳を足に叩きつける。
生まれてこのかた、ありえないほどの力をこめて拳を打ちこむ。右、左、と交互に。
デスデスデス!と攻撃するが少年はすばやく蹴りを入れた。
地面でバウンドし、ふっとぶ親実装。
「てめえ先輩の善意をどういうつもりだ!この糞蟲が、殺すぞ」

傍目には通行人に餌を要求する野良実装が、もらった餌に不満で投げ捨てた上、
……ポムポム、ポムポム
と殴りかかったようにしか見えない。
いきかう人も血で汚れた親実装が転がっている姿に嫌悪の表情を浮かべる。

まだ蹴り足らない、という少年を二場は制した。潰すと処理の手間もあるし、正直実装はもううんざりだ。
ズボンをすこし汚されたが、瑣末なことだ。
だいいち、これから後輩の近所に巣くった野良実装の対策をしないといけないのだから。
「しょうがないなぁ、そんなのは放っておけよ、十分だ」
それより、と後輩の相談話の続きをうながす。二人は内臓をやられて痙攣する親実装には目もくれず去っていった。


しばらくして、ようやく親実装は涙をながしつつも立ち上がった。完全に直ったわけではないが
いつまでも転がっていては確実に死ぬ。
公園に戻ろうとするが、時々しゃがみこんで吐血する。

涙はまだ止まらない。
すべてを奪われた。
もう餌を探す意味もないし、ダンボールの中をきれいにする必要も、枯れ葉をつめて暖める理由もない。

自分のすべてより尊い仔を無造作に、それこそ路傍の石を蹴飛ばすように殺されたのだ。
その抗議さえ恐らく相手にされていないことを、彼女はおぼろげに理解した。

こんなものなのだ、多くの実装は意味も無く生を奪われる。
親・姉妹を殺戮され、仔たちは飢えや共食いをし、そこから生き残った最後の希望も
文字通り踏み潰された。
吐血を繰り返しながら、ようやく仔の死んだ場所へ戻ってきた。
せめて埋葬しよう、そう親実装は考える。普通なら仔でも死骸を口にするところだが、彼女たちの絆は深い。
「お墓を作ってあげるデス、きっとあったかい日に花を咲かせるデス…。あの仔も喜ぶ」
そこには禿裸の実装がしゃがみ込み、一心不乱にシミと化した仔実装をむさぼっていた。

もう、声もなかった。ただ血涙を流すだけだ。
親実装が近づくが禿裸は飢えで何も考えるゆとりもないらしく、一心不乱に久方ぶりの食事を堪能していた。
ガツガツと息も荒く食いついている。わずかな肉片まで土ごと食らうと、盛大に排泄をはじめた。
汚らしい音にも反応しない親実装。
やがて、禿裸は「ゲップ」をすると、満足げな顔で消えていった。


親実装はシミさえ残さず、糞にされた『わが仔』をかき集めた。
それをこぼしながら、ダンボールに帰ると二場から与えられたチョコの包みをはがす。
「これはチョコというおいしい、おいしい食べ物デスゥ」
床に置いた一塊の緑の糞にチョコを押し込む。
「おいしいデスか?ママも、ママのママに話を聞いただけデスウ。でもこれはお前が良い仔だから
神様のくれた特別なご褒美デスウ」
しゃがみ込んで糞を抱きかかえる。

「もう少ししたらあったかい日になるデスウ。もう少しママといっしょにがんばるデスゥ」






あとがき
実装石の日常2 と少し、対照的にしてみました。


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1 Re: Name:匿名石 2024/09/29-01:26:56 No:00009349[申告]
秋に産まれて春に独り立ちは無理だろ…
2 Re: Name:匿名石 2024/10/01-06:05:04 No:00009353[申告]
歩けるようになるのにすら一年以上かかるニンゲンとは違うからな
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