タイトル:【愛】 テチ
ファイル:テチ12.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3778 レス数:2
初投稿日時:2007/01/03-23:24:03修正日時:2007/01/03-23:24:03
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『テチ』12

■登場人物
 男    :テチの飼い主。
 テチ   :母実装を交通事故で失った仔実装。

■前回までのあらすじ
 街中に響いたブレーキ音。1匹の飼い実装石が交通事故で命を失う。
その飼い実装は、ピンクの実装服の1匹の仔を残した。その名は『テチ』。
天涯孤独のテチは、男に拾われ、新しい飼い実装の生活を始める。
紆余曲折を経ながら、テチと男は互いに信頼を重ねていく。しかし、
無情にも、二人を別つ時が訪れた。テチは中年女に連れられ、街を去る。
二度と男に会えないと本能で知ったテチは、男が自分にとって、掛替えのない
人間であったかを知る。テチは男を追い、男はテチを迎え入れた。
テチは、男の飼い実装として、新たな実装生を送る事となった。
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あの事故から1ヵ月後———

「じゃぁ、行って来るな」

男は事故の後遺症もなく、いつもの通りの生活に戻っていた。
頭の傷は数針を縫ったが、幸い脳には異常はなく、私生活には何ら支障はなかった。

「今日は早く帰れると思うからな。大人しく待ってるんだぞ」

しかし、あの事故以来、私生活に大きく変わった事がある。

 テス〜♪ テス〜♪

それは、新しい家族が増えたということ。

「わかった、わかった。帰りに金平糖買ってきてやるから」

 テスゥ〜ン♪ デッチュ♪ デッチュ♪

玄関先で、男を見送る中実装が一匹。

彼女は「緑」の実装服を身に纏い、愛くるしい瞳で会社に出かける男を玄関先で見送っている。

「じゃぁな。テチ」

 テスー!! テスー!!

テチであった。


男はあの事故の後、中年女からテチを正式に飼い実装として譲り受けた。
中年女も愛護派であり、テチの幸せを願い、快くテチを男に譲り渡した。

今テチは、名実ともに男の飼い実装である。

テチの体は、既に仔実装から中実装の大きさになっている。
テチの名を現す仔実装の鳴き声は今はなく、成体実装石に近い「テス」になっていた。

 テッス〜♪ テッス〜♪

テチは男の居ない間、大人しく一人で男の帰りをリビングで待つ。
それは、もう昔のテチではなかった。

テチは男の家に正式に引き取られてから、躾の紆余曲折はあったが、今では、模範的な
飼い実装のレベルに達していると言っていい。

あの繁華街で男に拾われてから約2ヶ月。
テチと男の間には、普通の飼い実装と飼い主に間のは考えられない以上の強い絆で結ばれている。

それは、男も自負しているし、テチも理解できるものだった。

ピンクの実装服もいらない。テチテチ☆スティックもいらない。
テチは、男とこの家で暮らすことができれば、全てが満ち足りていたのだ。

テチと男の関係。
それは、ペットと飼い主と言った単純な関係ではない。

互いを信頼し合い、慈しむ関係。
それは単なるペットではなく、「家族」と形容する方が相応しい関係であった。



◇

 テスー テスー

男が帰ってくる夕方まで、テチは、玩具箱から絵本や積み木を取り出したりして、
一人で大人しく遊んでいる。

男は中年女からテチを譲られる際に、ピンクの実装服やテチテチ☆スティックなど、
多くの実装グッズを譲り受けた。

しかし、男はこの家の飼い実装になるならば、普通の生活をさせねばならぬと思い、
敢えて、その贅沢品を与えず、身の丈に合った物を与えていった。

今、テチが身に着けているのも、市販の安い緑の実装服であり、テチが遊ぶ玩具も
使い古したバザー品の数々である。

テチにとって、どんな服であれ玩具であれ、男から与えられた物は即ちそれが宝物なのである。

テチが手に取った積み木もバザー品で購入した薄汚れた品。
積み木には、男と一緒に撮影したのか、仲良く笑顔で映るプリクラ写真が、処狭しと貼ってある。

 テスッ〜ンッ!!

鼻息荒く積み木を積み上げるテチ。
お城のつもりだろうか。最上段に積まれた三角の屋根を模したブロックには、
笑顔で笑う男とテチのプリクラ写真が位置している。

それは、まるで城の窓から笑顔で外を見る王様とお姫様のよう。

 テー…

テチは頬を赤らめて、テーと呟きながら、空想の世界に想いを馳せていた。

次いで、玩具箱の底から、実装石用のスケッチブックとクレヲンを取り出す。

 テスゥ〜!! テッテッスゥ〜スゥ〜♪

リビングの床にスケッチブックを広げ、クレヲンでお絵かきを始める。
スケッチブックには、歪に描かれた大きな丸の中にミミズの這ったような線が描かれる。

 テッス〜ゥ♪ テッス〜ゥ♪

完成したらしい。
スケッチブックに描かれたのは、どうやら男の顔らしい。
テチは、うつ伏せになって足もバタつかせてながら、その絵に魅入った。

(ボォ〜ン…)

 テェ?

時計が12時を告げた。
テチはその場で座り直り、お腹に手を当てる。

 グゥ〜〜

時間が経つのも忘れて遊んでいたらしい。

 テッス〜 テッス〜 テステステ〜♪

テチは鼻唄交じりで、台所に向い駆ける。
そして、台所の戸棚からテチ用のお皿を取り出し始める。
どうやら昼食の準備らしい。

その皿の底には仔実装の顔がプリントされていた。
それは、テチのお気に入りの皿だ。

テチは、別の戸棚からお徳用の実装フードを取り出し、フードをお皿に盛り始める。
そして、皿の前にチョコンと座り、フードを手にし始めた。

 カリ… コリ… カリ…

行儀の良い食事が始まった。

 テップ… テー…

満腹になったのか、テチは、お腹を押えてテーと鳴いている。
食器を浴室の洗面器の中に漬け洗いし、テチはリビングへと駆けて戻る。

 テスゥゥゥゥゥゥ〜〜〜♪

食後は決まって、リビングの隅にある、ある物に抱きつく。

それはピンクの実装服を着込んだ実装人形だった。
テチが幼少の頃、男に拾われてから与えられた実装人形。
彼女が着込んでいる服こそ、テチの実母であるエリサベスの形見である。
もう既に母の匂いは薄れ、交通事故の痕である血痕も、どす黒い染みが残っているだけだ。

テチは男の飼い実装となっても、この人形をこよなく愛した。
テチ自身、どういう理由で、この人形が好きになったかよく覚えていない。

 テッスゥ〜♪ テッスゥ〜♪

しかし、今のように人形に抱きつき、顔を埋めているだけで、男に撫でられているような
幸せな気持ちになるのは確かだった。

 テッテロケ〜♪ テッテロケ〜♪

実装人形に背を預けながら、食後は決まって膨れたお腹をさする。

思わず口から唄が零れてしまう。
その唄がどういった意味を成すか、テチはママ達から学んでいない。
その唄は、実装石の本能がテチに唄わせているのだ。

 ロケ〜… テッテ…ロ…

 ………テスゥー

どうやら眠りに落ちたようだ。

 テスゥー… テスゥ…

幸せそうな寝顔。
テチが寝入るリビングの窓からも、外の光景が映っている。

世間では冬である。
窓の外では、厳しい冬の自然が野良実装たちを襲っているはずだった。

テチが男に拾われたのが初秋。
既に2ヶ月近い時が経過している。

テチは冬の日差しが差し込む暖かいリビングで、実装人形に背を委ね、
2匹のママと男に囲まれた幸せな夢を見ながら、テププと頬を赤らめていた。

テチは望み続けた幸せを手に入れたのだ。


夕方——

赤い日差しが差し込むリビングで、テチは唄を紡いでいる。

 テェスゥゥー♪ テッテスゥ〜♪ テーテースゥー♪

自らの美声にうっとりと頬を赤らめ、赤い夕日を見つめながら唄うテチ。

夕方になると、テチは決まってこの唄を歌う。
それは、男の帰りを待つ唄であった。

(ブロロロロロロッ……)

 テェ!?

玄関脇からエンジン音が聞こえる。
嫌いな音だが、待ち遠しい音。

それは、男が仕事から帰って来た合図でもあった。

「ただいま〜」(ガラッ)

玄関を開けて男が帰宅する。

 テェェェスゥゥゥゥ〜〜〜!!!

一日の中で、一番待ち遠しい時間。
一日の中で、一番嬉しい瞬間。

テチがリビングの積み木を放り投げ、一目散へ玄関へと走っていく。

「テチ。大人しくしてたか?」

 チュワッ!! チュワッ!! テスゥゥゥーーーッッ!!!

「はいはい。抱っこして欲しいのか」

テチはぴょんぴょんと飛び跳ねて、男に腕の中に納まることを望む。
男が軽い体重のテチを持ち上げると、テチは頬を赤らめて男の厚い胸板に顔を擦り始めた。

 ピスッ… ピスッ…

鼻の穴を大きく膨らませて、涎を垂らしながら紅潮するテチ。

 テチュ〜… テチュ〜…

男に本気で甘える時だけ、テチの言葉は幼児語に退化する。

「大人しくしてたから、金平糖な」

 チュ〜 チュ〜♪

テチは男に褒められた事が嬉しくて嬉しくて、喉の奥から猫なで声ような甘いくぐもった声を
何度も何度も出しながら、全身で男に甘えた。


◇

男は帰宅すると、風呂の準備、夕餉の支度をする。
テチはその間、男の足の周りを8の字に駆けながら、テスゥゥゥゥゥゥ〜〜!! と忙しない。

模範的な飼い実装となったとは言え、12時間近く一匹で家で留守番をしているのだ。
こんな時ぐらい甘えても罰は当たるまい。

男もそれを充分承知の上で、テチの好きなようにさせている。

今晩の献立は、ブリのいい所がスーパーで手に入ったので、焼き魚である。

 テェ…? クン… クンクンクンッ!!

魚を焼いている男の足元で、鼻をピクピクさせながら興味津々のテチ。

「なんだ?気になるのか」

 テスーッ!! テステスゥーッ!!

足元でぴょんぴょん跳ねるテチ。

「よし。これでどうだ?」

男はテチは肩車するような格好で、テチを肩に乗せて、再び調理に戻った。

 テェェェェ…

テチは目を真ん丸にさせて、男が焼く魚料理や野菜のサラダも盛り合わせなど、
まるで手品のように出来上がる料理の数々を、ウキウキしながら魅入った。

「はい。これで準備終わり。ご飯にするか」

 テスゥゥゥゥゥゥ〜〜♪

留守番の時のような、味気ない一匹だけの食事ではない。
男の肩から降り立ったテチは、新しいテチの皿を持ち出し、実装フードをそれに盛り、
皿を持ってリビングへと駆けた。

男も料理皿を運びリビングのテーブルの上に並べ、テチとの夕餉を始める。

「うまいか?」

 テスゥゥーー♪ テスゥゥーー♪

テチは、リビングのテーブルの上で、御裾分けで貰った魚の身と実装フードを口に頬張りながら
頬を赤らめ、お尻を振り、口の中の味覚に酔いしれている。

最高の笑顔のテチを肴に、男は晩酌のビールを口に含みながら、今日の幸せを噛みしめていた。

食事が終われば、次は風呂だ。

「テチ。お風呂にするか」

 チュワッ!?

リビングで寛ぎながら絵本を見ていたテチが、ガバッと首を上げて目を輝かせる。

 テスゥゥゥゥッ!!! テスゥゥゥゥゥッ!!!

「お風呂」と聞いたテチは、いささか興奮気味で玩具箱へと駆け寄り、
積み木やスポンジボールを放り投げて、中から「アヒルの玩具」や「浮き輪」「水鉄砲」を
取り出して、テスゥゥゥゥゥゥッッ!!!と叫びながら、一匹浴室へと駆けて行く。

「こらこら。風呂場は逃げないぞ」

脱衣所に男が向うと、テチは既に全裸で浮き輪をつけて男の到着を待っていた。

 ピスゥ… ピスゥ…

鼻の穴をピクピクさせて、頭巾を脱いだ裸耳をバタつかせている。

男が浴室の扉を開けてやると、嬌声と共にテチが浴室へと駆け込む。
男はそれを見届けて、自らも服を脱いで浴室へと向った。

 テッスゥ〜♪ テスゥ〜ン♪

「こら。肩まで浸かりなさい」

男が浸かる湯船の中で、浮き輪で浮かびながら、嬌声をあげるテチ。
もう中実装であるテチは、仔実装の時のようにケロヨンの洗面器では手狭であり、
風呂に入る時は浮き輪を持って、男と一緒に湯船に浸かる事が多い。

湯船の上では、浮き輪で浮かぶテチとアヒルさんの玩具が並んで浮かんでいる。

「テチ。肩まで浸かりなさい」

 デチュゥ〜!! デチュゥ〜!!

男の声を無視し、バタ足でアヒルと競争するテチ。

 デチャァーーッ!! テププゥ〜!! テププゥ〜!!

次は手にした水鉄砲で、男の顔を目掛けて水を飛ばして遊んでいる。

「遊んでないで、肩まで浸かりなさい」

 テプゥゥーー!! ププププゥーーーッッ!!

テチが水鉄砲で男の顔、それも鼻の穴ばかりを正確に執拗に狙う。

 !…テプッ! テプププッ!!

男の鼻の穴から垂れる水が、まるで鼻水のよう見えて、テチの壷に嵌って(はまって)いるらしい。

 プギャッ! プギャッ! プギャーーーーーーーッッ!!!

「いいから、肩まで浸かりなさい」

男は無理やりテチを浮き輪から外し、男の手の上に載せて、テチが肩まで浸かるように高さを調節する。

「さ。10まで数えるか」

 テ?

「数字だよ。数字。前教えただろ」

 テスゥ〜?

「んん〜。仕様が無いなぁ。もう1度教えるぞ」

「蛆ちゃんが1匹」

 テステステ〜

「蛆ちゃんが2匹」

 テステステ〜

「蛆ちゃんが3匹・・・」

 テステステ〜…

湯船から上がった男はテチを洗い場の床に置き、パンコ〜ンの容器を取り出してテチの頭を洗う。

 テプププァ!!

今だに水鉄砲を持つテチが、次は男の股間に狙いを定めて水鉄砲を放つ。

 テキャァァ!! テププーーー!!!

「テチ、遊んでないで大人しくしなさい」

 プギャァッ!! プギャァァァァッッ!!

水鉄砲の水が男の一物に当たるたびに、一物がピクンピクンと反応する。

「こら、やめなさい」

男は水鉄砲で遊ぶテチをそのままに、頭からシャンプーをかけて、テチの髪の毛を洗い始める。

 テプゥゥーー!! テプゥゥーー!! 

テチは髪の毛を洗われるがままで、水鉄砲をますます狙いをつけて、男のカリの部分を中心に
執拗にかつ正確に銃火を集中させる。

 プギャッ!! プギャァァァァァッッーー!!

ピクンピクンと反応する様が、また壷に嵌ったのか、テチはご機嫌だった。

「水鉄砲は没収。大人しくしなさい」

堪らず男がテチの持つ水鉄砲を没収する。

 テェ!? チャァァァァァッッ!! テェェェェェ…ッ!! テェェェェェェッッ!!!

「駄目だ。洗い終えるまで没収」

男が取り上げた水鉄砲目掛けて、ぴょんぴょん垂直に飛び跳ねるテチ。

 テェェェッ!! テスゥゥゥゥゥーーッッ!! テェッ!?(ツルッ ガンッ!!)

泡だらけの浴室で飛び跳ねるために、テチは泡で滑り、後頭部を浴室の床にぶつけてしまう。

 テェェェェ…ッ!! テェェェェェーーーンッ!! テェェェェェェーーーンッ!!!

後頭部を押えながら、浴室で大声で喚き騒ぐテチ。

「ほら泣かないの。お風呂あがったらプリン食おうな」

テチの頭を撫でながら、あやす男。

 テェ… テッスン… テッスン…

プリンという単語を聞き、どうにか泣き止んだようだ。

「ほぉら。テチ。体を洗うぞ」

テチは、男の膝の上に乗せられ、ボディソープで体を洗われる。

 テッス〜ン♪ テッス〜ン♪

男の膝の上で泡踊りに興じるテチ。
どうやら損ねた機嫌も取り直したようだ。

風呂上りは、バスタオルで体を拭いて貰い、男に髪を乾かして貰う。

 デチュ〜ン♪ デチュ〜ン♪

髪が乾くと、次はブラシで綺麗に髪を梳いて貰う。

テチの目の前の鏡では、男が梳くテチの栗色の髪が、煌びやかに光り続ける。

テチは頭巾を後ろにずらした姿で、鏡に映った自分の姿を見ながら、
テププと頬を赤らめてご満悦である。

テチはこの瞬間が一番好きであった。
仔実装時代、花火で焼かれた髪は縮れてしまっていたが、今ではその後遺症もなく、
中実装に相応しいこの栗色の長い髪がテチの自慢であった。

そして、その自慢の髪を大好きな男に手入れされるこの瞬間が、テチにとっては至宝の時であった。

「今日は三つ編みにするか」

 テェ!? テスーッ!! テスゥーッ!!

「三つ編み」という魔法の言葉を聴き、鼻息を荒く叫び出すテチ。

乾いた髪の毛を男の指が器用に編み上げていく。
男の指は、まるで魔法の指だった。

テチの栗色の繊細な髪が、まるで1つの綺麗なレースのように編み込まれていく。

 テェェェェ…ッ!!

テチはドキドキしながら、瞳を輝かせ、鏡の中の自分に魅入っている。

「えーと。たしかお歳暮の包みのリボンがあったな」

男は鋏でピンクのリボンを適当な長さに調え、それでテチの髪を結わえてやる。

「はい。できたよ、お姫様」

 テェッ!? テスゥゥゥゥゥ〜ン♪ テスゥゥゥゥゥ〜ン♪

テチは鏡の前の自分の姿に驚き、左右のお下げを掴んで、鏡の前で、くるりくるりと回転し始める。

「さ、テチ。湯冷めするぞ」

男は次いで、テチを乾いた厚手のバスタオルで包む。
そして、テチの頭巾を元に戻す前に、綿棒を取り出し、風呂上りの仕上げに入った。

「さ。耳を出しなさい」

 テェッ!? テェェェェェ……ッ!!!

男はテチの裸耳を軽く指で掴み、湿った耳の中を綿棒で擦り始める。
風呂上りは、耳に湿った蒸気が溜まっているため、こうやって取り除いてあげないと
後で痒みなどを訴えやすいのだ。

 ェェェェェ……ッ!!

頬を上気させ、息を荒げながら、擦れた嬌声を上げるテチ。

「こら。動くな、テチ」

 テェェェェーーッ!!

届かぬ手で、堪らず耳を掻く仕草を何度も繰り返す。
しかし、体の構造上それも届くはずもなく、テチは男にしたいがままにされ続けた。

 チュアアッッ!! アッ! アッ!! テェェェェ〜ッッ!!

開けっ放しの兎口からは、愉悦のためか、涎が大量に垂れ、それがテチを包んだ
厚手のバスタオルに染み込んで行く。

「よし、終わったぞ」

耳から取り出した綿棒は、べっとりと緑の染みで汚れていた。
男は仕上げに、テチの耳にふぅっと息を吹きかけてやる。

 エエエエッッ!! チュワァ… チュワァ…

「はい。反対側」

次いで左耳の掃除。男は綿棒を逆さにして、テチの耳の奥を執拗に責める。

 チュワァ〜ン♪ テチュゥ〜ン♪ チュフゥ〜ン♪

テチは、足の爪先まで伸ばしたまま硬直し、海老反りの形で、顔中の穴という穴から
色々な液体を流して、悦に入っていた。

 ェェェェ……

仕上げに、再び耳の中に熱い男の吐息を吹き込み、風呂上がり恒例の耳掃除は終わった。

「はい、テチ。頭巾をつけて…」

男の声は既にテチには届いていなかった。

 ……ェ ……テ

テチはバスタオルを強張る手で硬く握り締め、既に桃源郷の世界へと旅立った後だった。
男はやさしく頭巾を被せてやると、テチをお姫様抱っこし、テチを男の寝室へと誘う。

寝室の隅には、テチ用の小さな簡易ベットがあった。
そこにテチを寝かしつけ、男は大きく伸びをして、自らも床に入った。



◇

何でもない生活。
質素で煌びやかでもない生活。

食べ物も簡素な実装フード。新しい服も中国産のユニクロの実装服。
与えられる玩具も、地域のバザーの使い古し。

平日は、ほぼ仕事で男は仕事で出かけ、1日の大半は一匹で過ごす毎日。
外に連れられるのは、週末の公園の散歩のみ。

世間一般の飼い実装の生活レベルでも、低い方に部類されるだろうこの生活。

そんな生活でも、それはテチにとって、掛替えのない生活であった。
あの見知らぬ繁華街で震えていた仔実装の求めていた生活がここにあった。

テチにとっては、綺麗な実装服や豪華な食事などは意味をなさない。
テチにとっては、男こそが全てであった。

留守中は、絶えず男の事だけを考え、男の帰りを待つ。
待ち疲れて眠った時に見る夢は、もちろん男の夢。

質素でも男が傍で笑ってくれるだけで、テチはそれで満足だった。
男もテチが傍で笑い泣き、安らかな寝顔を見せてくれるだけで、それで満足だった。

男もテチも、こんな生活がいつまでも続くと信じて疑わなかった。


◇

ある日の事だった。
その日は休日で、男もテチもリビングで寛ぎ、銘々雑誌や絵本を読んだりしていた。

 テェッ!? テェェェ…!!

テチが小さな悲鳴と共に、お尻を押えてリビングから洗面所に駆け出す。
どうやら便意を催したらしい。

 テェェェェッッ!!

昔はよく粗相はしたが、中実装までなると糞を漏らすことは、ほぼ皆無である。
洗面所のテチ用のトイレで、用を足すテチ。

ここまでは、いつもの光景だった。

 ……スゥッッ!! テスゥゥゥゥッッ!!

洗面所からテチが大声で駆けてくる声が聞こえた。

男は見ていた雑誌から目を離し、何事かと視線をテチが駆けてくる台所の方へと向けた。

 テスゥゥゥゥッッ!! チュワッ!! チュワッ!! テスゥゥゥゥゥッッ!!

テチは下着を手に持ち、大絶叫で男の方へ駆けて来る。

「な、なんだ! どうしたんだ、テチ!」

 テスゥゥゥゥゥッ!! テスゥゥゥゥゥッッ!! テェェェェ……ッ!!

何か驚きと不安の表情で、男に何かを訴えかけているらしい。
よく見るとテチが持つ下着。

男が与えた中国産の麻の実装石用の下着であるが、緑の染みに加えて、赤い染みが下着についていた。
良く見ると、洗面所から廊下、そして台所とテチが駆けた跡に点々と赤い染みが続いている。

まさか怪我?

男は、青い顔で叫ぶテチを抱き上げ、テチの体を丹念に調べた。
そして、男はその赤い染みの原因を知ることになる。

その赤い染みは、テチの総排排泄孔から流れていた。
男も一応知識の中で、それが雌の生物にとって、どういう現象かは理解していた。

「……テチ。まさか、女の子になったの?」

 テェェェェェ…ッ ェェェェェェ……!!

肝心のテチは、赤い血の意味が何かわからず、動揺した震えた声で、必死に男に対して訴えかけている。
テチも動揺していたが、男も動揺を隠せなかった。

その後、テチの出血も止まり、男とテチは二人で床の掃除をした。
その日、テチはオヤツの時間以外に、何故か金平糖を2個も貰いご満悦だった。
赤飯を炊くわけにもいかず、男は頭を掻きながら、金平糖を食べるテチの頭を撫でた。

テチも知らないうちに成長をしている。
男も娘を持った父親のような心境で、微妙な面持ちで笑顔で金平糖を頬張るテチの顔を
頬杖をついて見つめていた。


◇

その頃からだろうか。
テチの四体がやけに艶っぽくなって来たのは。

まず腰。
実装服から見える腰から臀部にかけて、やけに丸びを帯び始め、歩く度にその豊満な肉が揺れ動くのが
目立ち始める。

申し訳ないくらいの洗濯板だった胸部も、ポツリと強調する2つの突起物が、実装服の上からも主張し始めている。

兎口の唇には、うっすらと朱の赤み。
大きな瞳に栄える睫毛。

そして声。

 テスゥゥゥゥ〜〜ン♪ テェェェスゥゥゥゥ〜〜ン♪

腰をくねらせ、唄い始める。

今までも、甘い声は出していた。
しかし、今までにも増して艶やかな音を含むその唄声は、雄の心を惑わす魅惑の蜜をも含んでいた。

そして、体形の変化と共に、テチの行動も変わってきた。
この頃、どうもテチの様子がおかしいのだ。

男を見る目がどうも違うのである。
こう。何と言うか。舐めるような粘液質的な視線。そう表現しようか。

男が朝食中、台所のテーブルに座り、パンを齧っている。
ふと、視線を床に降ろすと、床に座ったテチが実装フードを両手に持ち、じーと男の顔を見ている。
目が合うと、視線を外すようにして、もごもごと実装フードを口にし始める

実装フードを口にする頬は、何故かほんのりと赤い。
男は、?な顔をして、食卓の上のトーストに視線を戻す。

 テー…

男が視線を外すと、再びテチの粘液質な視線が始まる。絡むような視線。
男はどうも落ち着かない。


こんな事もあった。

「こんな時間か。テチ。早くお風呂に入りなさい」

 テスーッ!!

この頃からか、テチは男と風呂に一緒に入る事を拒絶し始め、一人で入浴をするようになった。
中実装ともなると、蛇口を捻る、洗面器にお湯を張る、髪を洗う、など一通りの入浴は、こなす事ができた。

湯船に浸からなくとも、身を洗うという目的は、テチ単身でこなす事ができるのである。

何から何まで男に頼るのではなく、出来ることは自らの手で行う。
飼い実装としては、それはいい傾向ではある。

脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入るテチ。

「あ、そうだ。実装シャンプーが切れてたっけ」

男は買い置きの中から、新しいシャンプーを降ろし、浴室の扉を開けて、テチにそれを渡そうとした。

 テェ!? テスゥゥゥゥッ!!? テスゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!

浴室の扉を開けるなり、テチは急ぎタオルを掴んで、自らの胸と股間を隠し叫ぶ。

 テスゥゥゥ!!! テスゥゥゥゥゥゥッッ!!!

耳まで真っ赤にして、男に向かって何かを訴えている。
男は、何の事かわからず、?な顔をしてキョトンとしていた。

「テチ。どうしたんだ。どこか痛いのか」

男がテチを案じて、男の手がテチの肩に触れる。
その途端、テチが持ったタオルが、ハラリと落ちた。

 テェ…!? テェェェェッッ…!!

テチは、両手で胸を隠すように体を捻り、その場で蹲ってしまう。
そして、両目から止め処もなく涙を流して、声を出して泣き出した。

 テェェェェェンッ!! テェェェェェンッ!!

「な… なんなんだ?」

男は、よくわからないまま、シャンプーを置いて、その場を後にした。



その後、男が風呂に入る番となった。

湯船に浸かり、一日の疲れを癒す。
ふと、浴室の出入り口を見る。扉は擦りガラスとなっており、脱衣所の影が見て取れるのだ。

そこに緑色の物体が、ゆらりと動いていた。
テチであった。

何やってるんだ、あいつ?

テチは、擦りガラスにくっつくように顔を密着させている。
丁度、鼻の辺りの擦りガラスが、息の荒い蒸気で白く湿っていた。

「おい。テチ」

緑の影がビクリと動き、テスゥ〜〜〜〜〜!!!という叫び声と共に、緑の影が消えた。

何だ、あいつ?
男がそう訝しがりながらも、湯船から上がり、体を洗い始める。

体を洗い終え、再び男が湯船に入ろうとすると、扉にまた緑の影が引っ付いているのに気付き、
噴出しそうになる。

擦りガラスにぼんやりと浮かぶ緑赤の光る瞳と鼻と口元辺りに広がる白い蒸気。
ガラス越しでも、フゥゥ〜 フゥゥ〜という息遣いまでが聞こえて来る。

「おい。テチ」

男が扉を開ける。

「何やってるんだ、おま…」

 チュワッ!? テスゥゥゥッ!! テスゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!

テチは顔を真っ赤にして、両手で顔を覆う。
そして、チラリチラリと手の間から、男のある一点のみを喰い入るように凝視し続けていた。

「おまえ、どうしたんだ? 体でも悪いのか」

男がそのままの格好でしゃがむ。
テチの視線も、そのまま下へ。

 テッ…!? テスッ!! テテテッ!! テステ…ッ!!

顔を覆っていた両手も既に何処へやら。
テチは、瞳孔が開かんばかりに両目を喰い広げ、歯茎を剥きだしにして、ある1点を凝視する。

顔には血管が溢れ出し、鼻腔からは、つーと緑の血も垂れてきた。
知らぬ間に両手は、胸や股間などを忙しくまさぐり始める始末。

 テェ…ッ! テェェェ…ッ!! ………テ…

そして、テチは耐え切れず、その場で崩れるように気を失ってしまった。

「おい! テチ!! おいってば!! テチ!!」

その日は、男はテチの介抱で大忙しだった。


テチの異変はそれだけではない。

歩く度に、揺れるスカートを気にし始める。
男の傍を移動する時だけ、小股ですそすそと通り過ぎる。

トイレを覗くと悲鳴を上げる。
テチの下着を洗濯すると、大声で男を叱る。

居間で寛ぐ時は、足をくの字に曲げて、常に男との位置関係を気にする。

そして、極めつけは夜。

男が夜中、ふと何かの気配で目が覚める。
眠い眼を開けて、寝室の天井をみると、赤と緑の瞳が上から男の顔を覗き込んでいるんのだ。
それは、フゥ〜 フゥ〜 という生臭い息吹も、顔に感じる程の距離。

テチが寝室隅のテチ用の簡易ベットから抜け出し、男のベットに登り、夜ながずっと男の寝顔を
覗き込んでいるのである。

「……テチ?」

男が擦れた声で言うと、テチは小さな悲鳴と共に自分のベットへと転がるように舞い戻る。

おかしい。明らかにおかしい。
何かの病気だろうか。

一度、医者に連れて行くべきか、そう考えていた矢先であった。



◇

その日は、男も会社に出かけており、テチは一匹で留守番だった。

テチ自身も、感じていた。
何かがおかしい。体がおかしいのだ。

 テー…

実装フードを手にしても、おいしくない。
玩具で遊んでも、面白くない。

胸の奥で、何かもやもやするこの気持ち。
これは、一体何なんだろう。

テチは、その変な気持ちに身を苛まれながら、答えを見つけられずにいた。

排泄をするためにトイレに行く。
排泄をし、お尻を拭き、テチはそれに気がついた。

 テー? (クン… クンクン)

その日、男は朝の時間がなく、昨日の洗濯物をまだ脱衣籠に入れたままにしていたのだ。

何か心が温まる匂いがする。
ドキドキする匂い。何だろう。この匂いは。

気がつけば、テチは脱衣籠の中に身を投じていた。

 テェ…? テェェェェ…?

脱衣籠の中で暴れるテチ。

 テェッ!! テェェェッ!!(モゴモゴ…)

気がつけば、脱衣籠の中で男の衣類を漁り、男のトランクスを頭から被っているテチがそこに居た。

 (テスー…)

目を瞑り、トランクスの匂いを思いっきり嗅ぐ。

 …ッ!?

変だ。頭がくらくらする。
股間が熱い。さっき、おトイレに行ったばかりなのに、股間が熱い!

気がつけば、手は下着の上からなぞるように股間へ。

 テッ!! テッ!! テッ!! テッ!! テスゥゥッッ!! テスゥゥッッ…!!

体を駆け巡る初めての感覚。
テチはその衝撃に戸惑いながらも、本能に近いその感覚に身を委ねていた。

 テェェ…ッ!! テェェェェェ……ッ!! (スーハー スーハー…)

瞼を瞑ると鼻腔に叩き付けられる男の匂いが鮮明に脳内に広がる。
男の存在を近くに感じていた。

 チュワアアアアッッ!! チュワアアアッッ!!
 テスゥゥッゥッッ!! テステスゥゥゥゥゥ〜〜ッッ!!!


30分後——

洗面所の床の上で、内股でテスンテスンと泣きながら、床に雑巾をかけるテチの姿があった。

おトイレに行ったのに。おトイレに行ったのに。
床にべっとりと、テチの透明の体液が水溜りを作っていた。

それは、テチの排尿でも何でもない。テチの大人の証であった。

しかし、テチにはその意味がわからない。
本人は、この年になって、お漏らしをしてしまったと思い込んでいた。

 テッスン… テッスン…

掃除を終えたテチは、涙ぐみながらリビングへと戻る。

 テチィィィィィッッ!! テチィィィィィッッ!!

実装人形に、ぱすんと抱きつき、テスン テスン と泣くテチ。

 ェェェェェェッッ!! ェェェェェェッッ!!

やり切れぬ気持ちを実装人形にぶつけると、少し気が晴れたような気がした。

 テェ…

暫く呆けたように、体操座りで宙を見ていると少し落ち着き始める。
こういう時は、体を動かした方がいい。

テレビ台の下の棚を開けて、DVDのソフトを取り出す。
パッケージには『実装☆Dance!!』と書かれていた。

 テェ…

床に置かれたDVDプレイヤーにDVDをセットする。
実装ダンスを踊り、このヤキモキした気持ちを忘れようとした。

DVDをセットし終わり、テレビをつける。

 テェ…?

その時、JHK総合で行われていた番組がテチの目に映った。

 JHKドキュメンタリー 『私はこうしてママになったデス』

テレビ画面では、実装石用のロッキングチェアーに座った成体実装石が
1匹の生まれたての仔実装を胸に抱いていた。

ゆっくりと揺れる椅子の上で、その仔実装は懸命に母実装の乳房を吸引している。

母実装の乳房を咥えて離さぬ幼い仔実装。

 チュパ… チュパ…

テレビのスピーカーからは、母実装の乳を嚥下する音まで聞こえている。
テチは目を大きく見開き、それをじっと見つめていた。
口元は、微かに動き、唾を飲み込む仕草まで真似している。

番組のインタビュアーが、その親実装に幾らかの質問をし始めた。

『あなたはどのようにして母親になったのですか?』

その質問に、画面の成体実装石は答える。

『ご主人様からご寵愛を受けたデス』

 テェェ!?

テチは意味もわからず声を荒げる。

『あなたの飼い主は、それを望んだのですか?』

『その通りデス。毎日、ご主人様から愛を頂いたデス』

画面は切り替わり、06年度の『飼い実装の妊娠原因』の統計グラフが表示される。

妊娠原因 		   98年度統計		 06年度統計
 花粉による受粉		         80%		    70%
 マラ実装との交尾			 11%		    10%
 強制妊娠			  8%		        5%
 飼い主との営み			  1%		    15%

特筆すべきは、『飼い主との営み』の割合が急増していること。
実装石ブームにより、愛護派が急増したことや、社会的な少子化の傾向など様々な要因が
この統計から映し出されているとナレーターは説明をしている。

画面は再び、先程の成体実装石に移る。

『その仔は、あなたの飼い主の子供なのですか?』

『そうデス。この仔は目元が特にご主人様にそっくりデス〜』

『テチィ〜』

 ………テ

テチは兎口を大きくぱかーんと広げて、首をテレビに向けてただ呆けていた。

画面は移り、都内のある実装病院の産婦人科へと場面は移る。
そこには、大部屋にベットが12個。そのベットには色とりどりのマタニティ実装服を着た
成体実装石が、処狭しと寝ている。

その成体実装石に共通しているのは、全員目の色が緑。
そして銘々が、大声で「デッデロゲ〜♪」と大合唱をしている事。

カメラがその部屋に入り、妊婦たちに質問をして行く。

『デププ。このお腹の中はご主人様との愛の結晶デスゥ〜。そんな事聞いちゃイヤデス〜♪』

『合図はだいたいご主人様からデス。目を見ればわかるデス』

『私は耳の裏が性感帯デス。ご主人様はそこを責めるのが大好きデスゥ〜♪』

聞いていないのに性感帯まで語り始める妊婦実装。

皆一様に幸せそうに頬を赤らめ、お腹を膨らませながら、「デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪」と
大合唱している。その妊婦実装たちを、テチは喰い入るように見つめていた。

 テェ… テッテロケ〜?

テチは自分のお腹を押えながら、テーと小さく鳴いて自分のお腹を見つめた。

画面は変わり、その大部屋の一匹の妊婦実装が分娩室へ運ばれるシーンへと映る。

『生まれるデスゥ!! 生まれるデスゥ!! ワダジの赤ちゃんが生まれるデスゥ〜!!』

看護婦たちがその妊婦実装の手を取り、リンガル越しで励ましている。

次いで、テレビ画面は、その妊婦実装の総排泄孔のアップとなる。
そして、サイレント画面の中、1匹、2匹、3匹と子供たちが生まれ、合計7匹の仔実装が
生れ落ちた処で、妊婦実装の喜びの叫びでサイレント画面が解ける。

『デェェェ… ニンゲン、舐めるデスゥ!! 私の子供たちの膜を舐めるデスゥ〜〜!!』

番組は生命の素晴らしさを訴求する内容だった。
飼い主の気まぐれで仔を成した飼い実装の不幸と望まれて生まれた飼い実装の幸せを
比較する番組構成となっていた。

 チュワァァ!? チュワァァ!?

しかし、中実装のテチにとっては、この番組はセンセーショナル過ぎた。
テチは眉間に皺を寄せて、瞳孔全快でその番組に見入っていた。

 テェ…… ェ…… テェ!?

番組が終わった後、テチの下着は再びぐっしょりと濡れていた。

 チュワッ!? テェェェッ!! テェェェッ!!

テチは下着のお漏らしが垂れぬよう、急いで洗面所に向かって走っていた。


◇

親実装の仔実装への教育の名には、餌の取り方、家の作り方、仲間への接し方など、
生き抜くために必要な様々な物が含まれている。

その中でも、重要となる教育の一つが「性教育」である。
性教育は、通常母実装が仔へと教えていく。

生物学上、この性への芽生えが、すなわち子孫の反映へと繋がる。

野良生活では、本能に従い、仔を育む実装石達は多い。
しかし、闇雲に仔を作るだけでは、厳しい野良生活を生き抜くことは難しいのだ。

だから、親実装たちは子供たちに性教育の一環として「自慰」を学ばせる。
自慰を行うことにより、自らを慰め、仔を育む機会を適切にコントロールさせるのだ。

外敵から避け、塒(ねぐら)と餌場を確保し、厳しい冬以外の時に彼女らは妊娠する。
その条件が合わぬ時は、親から受け継いだ秘伝の自慰行為で、もたげる本能を押さえつける。

しかし、飼い実装の場合は勝手が異なる。
外敵、塒、餌場など、それが既に必然的に揃った環境にいる。
仔を育むには、最適な環境と言ってよい。

しかし飼い実装の場合は、飼い主の合意がなければ仔を育む事は適わない。
それは、高級飼い実装の場合は、ブリーダーの元で躾として学び、その飼い実装の仔たちは
親からの教育から、それを学んで行く。

しかし、テチの場合。
テチは、その教育をエリサベスからもポリアンナからも学んでいない。
学ばぬまま青い性の目覚めを向え、そしてそのままならぬ性の衝動に翻弄されながら、
テチは自戒と自責の念を募らせているのだった。


「駄目だろ! テチ。お漏らししちゃ」

 テェェェェェンッ!! テェェエエエエンッ!!!

べっとりと汚れたシーツを見て、男はテチを叱っている。
テチは弁明のしようがなく、ただ男に叱られた事実のみを悔やみ、己の内から沸きあがる
性の衝動を忌み嫌い続けた。

男は男で、気付いてやるべきであった。
それは、男が実装石を飼う事が初めてあるため仕方のないことであったが、
引越しした中年女や実装医に相談すれば、簡単に解決する話でもあったのだ。

しかし、男はそれを単なるテチの粗相と思い、テチのためを思い、心を鬼にして
テチを叱り続ける。

「テチッ! 聞いているのかっ!」

 テェェェェ…… テェック… テェック…

テチは叱られることにより、ますます自らの性の衝動が不道徳である物と決め付け、
さらにそれを押さえつけようとする。

男が叱っている場所。
それは男の寝室であり、テチがお漏らしした場所は、男のベットの上であった。


その日は、男は仕事に出かけており、まだ帰宅までは時間があった。
テチは、テッチテッチと階段を登り2階まで上がった。

中実装ともなると、階段を上り、扉も何とか開けることもできるようになっている。

階段を登るという運動をした事によるのか、テチの頬がほんのりと赤い。
2階に上がったテチは、男の寝室に向い、テーとその部屋を覗き込んだ。

それから、テチの嬌声が男の寝室から漏れるまでは、10分もかからなかった。

 テスッ!! テスッ!! テッ!! テッ!! テェェェェ〜〜ッ!!

見れば箪笥から見つけ出したのか、テチは男のトランクスを頭から被り、寝室のゴミ箱から
漁ったのか、丸まったティッシュペーパーを口に含み、男と映したプリクラを手にとり、
それをうっとりと見つめながら、余った片手で秘処を慰め続けていた。

場所は、男のベットの上だ。

 テッ!! テッ!! テッ!! テェェェ〜〜ッ!!

中実装となったテチは、既に体は乙女となっていた。
幼い胸の蕾はつんと屹立し、慰める恥丘に至っては、まだ青々しい産毛しか見えない。

抗い難い性の欲望。母のいないテチに、それを止める術を教える者もなく
テチはひたすら、募る思いと性の欲望に、身を焦がれる毎日を過ごすしかない。

男の体臭に包まれながら、テチはぐっしょりとベットのシーツを濡らしていた。
この行為の終わった時の怠惰な気持ちと背徳感は、いつもテチを自己嫌悪に陥らせてしまう。

「テチ? ここにいるのか?」

 テェッ!?

そんな背徳感に苛まれながら、気だるい体を男のベットに預けている時に、その現場を男に
見つけられたのだ。

そして今、男がシーツの上でお漏らしした行為に対して、テチを叱っている。

叱る男の前で、テェック… テェック…と泣きながら、しゅんと項垂れるテチ。
怒られて愁傷になっているわけではない。
羞恥のため、まともに目を合わせることすらできないのだ。


何度も何度も、至る処でお漏らしをするテチを叱る日々が続く。
その度に、テチは自分の中から湧き上がるこの衝動を忌み嫌うようになっていた。

そんな抑圧された日々を送るテチの顔に精細は無くなっていた。
食は細り、大好きな玩具でも遊ぶ光景が少なくなってきた。

男がテチを案じ、テチを抱き上げようとする。
しかし、テチは男に触れられるのを嫌がり、

 シャァァァァァァッッッ!!! プルッシャァァァァァァッッッ!!!

と四肢の姿で威嚇を始める始末。

テチの中で、性を押さえつけるばかりに、その恋慕の対象である男さえも拒否し始めたのだ。

テチは思う。

違う。
何かが違う。

そんな気持ちが募る日々。
テチは、何もないのにいきなり泣き始めたりする。

 テェェェェェェンッッ!! テェェエエエエエンッッ!!

男が訝しがり、テチに近づく。

 テェッ!? テェェェェ……

テチは男の手を逃れ、リビング隅の実装人形の元へ駆けて隠れる。
そして、ひしっと実装人形を抱きしめ、男の気配がなくなるまで震え続けた。



◇

そんなある日の事だった。

男は既に床に入り目を瞑っていた。
男の寝室にあるテチの簡易ベットにはテチの姿はない。

男と一緒の部屋で眠ることも嫌い、テチはリビングで寝るようになった。

男は目を瞑っても、最近のテチのおかしな行動ばかりが頭にちらつき、どうも寝つく事ができなかった。

あの初潮以後、奇妙な行動がやたらと目に付く。
極度なお漏らし。
男を避けるような行動。

これが俗に言う「親離れ」なのだろうか。
そう思うと何か物寂しい気持ちになる。

引越しした中年女にでも相談しようか。
そう思った矢先の出来事であった。

 テスゥ〜

声がした。
最初はテチの事ばかり思っていたための幻聴かと思ったが違った。

 テスゥ〜

声がする。
男の寝室の扉の向こうからテチの声がするのだ。

あれだけ男との接触を拒んでいたテチが、自ら寝室へと上がってきたのだ。

今晩の気温は、一段と冷え込む。
たまらずテチは階上へと登ってきたのだろう。

男はそう理解しベットから降りて、テチのために扉を開けた。

「どうした?テチ。寒いなら、俺のベットで…」

男は思わず息を呑んだ。

開いた扉から、テチがスタスタと男の寝室へと歩みを進める。
思わず、男が後ろずさり、ぼすんとベットの上に腰を下ろす。
テチは男に構わず、歩みを進めて行く。

寝室の窓から差し込む月明かりが、テチが歩みを進める度に、テチの姿を徐々に照らして行く。

「テチ… おまえ」

完全な月明かりの下、テチは男の前に姿を現した。

それはピンクの実装服。
解れた糸。血塗られたドス黒い染み。

母の形見。エリサベスの実装服を身に纏ったテチが、男に向かって頬を赤らめそこに立っていた。

 テスゥ〜

テチはその月明かりの下で華麗にステップを踏んだかと思うと、おもむろに自らの下着を降ろし始めた。

そして、それを顔に被る。
下着の足を通す穴から、それそれの左右の目が不気味に光っていた。

そして、ピンクの実装服を捲し上げ下半身を露わにさせる。
そして、男に向い背を向けたかと思うと、犬のように四肢を地につき、男に向って露わになった股間を
突き出き、そして叫んだ。

 テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!!

呆気に取られる男。

四肢の姿で激しく腰を前後にストロークさせて、テチは咆える。天に向かって。

 テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!! テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!!

男には実装石に関する知識がない。
もし知識があれば、それがどのような本能に従った行動か理解ができただろう。

それは、自然界における実装石の『求愛行動』だった。

孔雀が羽を広げ、大きさを競い、愛を勝ち取るように。
鳥が美しい声を囀り、雌を誘うように。
ライオンが己の強さを見せつけ、雌を守るように。

実装石にも存在するのだ。求愛の行動が。

 テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!! テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!!

テチの叫びと共に、腰の動きがますます激しく動く。

一般的に実装石は花粉等で繁殖するため、自然界において求愛行動を取る事はまれである。
しかし、優良な子孫を得るためには、敢えて好んでマラ実装と交配する種も存在する。
実装石の雌雄比率は、ほぼ99:1に近く、希少なマラ実装を確保するために、実装石は
雌の方から求愛行動を行うという。

母実装たちから然るべき教育を受けれなかったテチ。
性と男との想いに揺れるテチが取った行動。

それは、誰に教わった行為ではない。
それは、実装石として生まれながらに持つ本能に従った行為であった。
それは男を雄として認め、己の血の中の本能に従った末の『求愛行動』であった。

 テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!! テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!!

ますます激しく揺れる腰。
呆然と固まる男。

男は何が何だかわからず、ただテチの奇行を見つめるしかなかった。


◇

その日を境に、テチの行為にますます拍車が掛かっていった。
朝、目覚めリビングに下りる。

 テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!!

朝一番、男を迎えるテチの挨拶。
下着を顔に被り、四肢の姿で股間を露わにして男に迫ってくる。

 テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!! 

ソファーに座り、寛ぐ男。その膝の上にテチが上ってくる。

 テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!! テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!!

至近距離でのアピール。
男の両足の膝と付け根に四肢を合わせ、男の顔に近づけるように股間をアピール。

 テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!! テスゥゥゥゥゥ〜〜〜!!

風呂から上がれば脱衣所で。
寝ようと思えば、ベットの中で。

男は堪らずテチをリビングの中に閉じ込め、インターネットでテチの行動を調べに入った。

最初は何かの病気かと思い、必死にサイトを調べて行ったが、そのうち安堵のためか
男は噴出し始める。

サイトには、実装石の求愛行動の説明があった。
しばし、飼い主にこの行動を取る実装石の紹介文などもあり、それは愛を注いだ飼い実装が
取る行動としては、至極当然の行為である旨が書かれていた。

寧ろ、この行動を取る飼い実装こそが、真のあるべき飼い実装であると賞賛さえされていた。

対処方法としては、抗性衝動剤の投与するか、避妊をさせる、また妊娠させることにより
その行為が収まると書いてある。

 テスゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜ッッ!!
 テスゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜ッッ!!

階下からテチの叫び声が聞こえてくる。

「はぁ… 人騒がせな奴」

溜息と共に安堵の息も漏れる。
理由がわかればなんてことはない。

「避妊か… 妊娠か…」

避妊するにせよ妊娠するにせよ、まだ中実装であるテチには早いように思えた。



◇

結局、男はテチを病院に連れて行き、抗性衝動剤を投与して貰うことにした。

 ギャァァァァァァァァァッッ!!! ジャァァァァァァァッッ!!!

診察所で男によじ登り、ブリブリと下着を膨らませて逃げようとするテチ。
そこを看護婦がパンコンの下着をめくり、実装医が注射器を取り出す。

 テェェエエエエエンッ!!! テェエエエエエエンッッ!!!

お尻に注射をされ、その痛みのためか大声で泣き喚くテチ。
あまりの痛みのために、男にしがみつき、男に痛みを訴えかけている。

この実装院は、テチが河川敷で虐待を受けた時に診療してくれた医院でもあった。

「一種の発情期ですね。個体差で目覚める時期はまちまちですが、テチちゃんは少し早かったかな」

「ははは。このおませさんめ」

 テェック… テッスン… テッスン…

「あの後の傷の経過も見ておきましょうか。簡単な採血もしましょう」

「はい。お願いします」

 テェェェェ…ッ!!

「大丈夫だよ、テチ。耳たぶにチクってするだけだ。チクって」

 テッスン… テェ…

抗性衝動剤の効果はてき面で、この病室での男に甘えるテチの所作は、まるで昔のテチそのものだった。

成体実装までこの薬で性衝動を抑えるせよ、その後、避妊するか妊娠を望むか決めなければならない。

しかし、男の心は決まっていた。

もしテチが妊娠したら。

テチの仔たち。
きっと可愛い我侭一杯の仔たちに違いあるまい。
そんな仔たちと幸せに暮らすと想像すると、男の頬も緩み始めるのだ。

「あら。可愛い実装ちゃん」

待合室で頬を緩めていると、隣に座った女性がケージで大人しくしているテチを見て声をかけて来る。

男は抗性衝動剤を投与しに来た事を告げると

「もし妊娠をお望みでしたら、私のところで、独身の若いマラ実装がいるんです。
 この仔にどうかしら?よかったら、紹介しましょうか?」

と言ってくれたりする。

「はは。よかったな、テチ。旦那さんが出来たぞ」

 テスゥ〜?

テチは何を言われているのかわからず、?な顔で男の顔を見続けた。

そんな会話をしていると、待合室に男の名を呼ぶ声が聞こえる。
後は、先程の検査結果を聞き、薬を貰って、病院を後にするだけだ。

男がテチのケージを持ち診療室に向おうとすると、看護婦が男の前を遮った。

検査結果は奥の事務所で説明するという。
その間、テチは看護婦が預かるというのだ。

男は検査結果を聞くだけなのに大げさなと訝りながら、看護婦が案内する事務所へと通された。

事務所には、テチのカルテを手にした実装医が既に椅子に座っていた。
実装医は、男の来室に気が付くと手にしたカルテを机の上に置いて、男に視線を移した。

「テチちゃんの様子はどうですか?」

「ええ。薬が効いているのか、前のテチに戻った感じですよ」

「そうですか」

「テチには妊娠はまだ早いと思うんですよ。もう少し大きくなったら…」

「飼い主さん」

「はい?」

実装医が、男の発言を遮り、机の上のカルテの目を戻す。

「後天性免疫不全症候群ってご存知ですか?」

「はい?」

「実装石のAIDSと言えばわかりやすいでしょうか?」

実装医が、実装AIDSに関する説明を男にし始めた。

「……ちょ、ちょっと待って下さい。ど、どういうことですか?」

男は実装医の説明を遮り、実装医に説明を求める。

「テチちゃんから陽性反応が出ました」

「……え?」

「テチちゃんは、実装AIDSのキャリアです」

「…………」

「既に発症している形跡があり、発症すれば統計的に、もって数ヶ月です」

「…………」

「大変言いにくいんですが……」

「…………」

「今のうちに安楽死をお奨めします」

最初、実装医が何を言っているのか男にはわからなかった。
男はしばし呆然とし、堰を切ったように何度も何度も実装医に問いただした。

何が起こったか。何がどうなっているのか。テチの身に何が起こっているのか。

散々問いただした後、男は呆然自失でその場に座り込んでいた。
実装医の発言は、男にとって死刑宣告にも似たような響きであった。


 テスゥ〜?

隣の部屋では、テチが間抜けな声を出して、男が迎えに来るのを待っていた。

(続く)

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1 Re: Name:匿名石 2023/07/05-22:30:01 No:00007443[申告]
キモすぎる…なんで官能小説になってるんだ!?
2 Re: Name:匿名石 2024/06/20-10:59:46 No:00009193[申告]
教育ビデオのとこきしょすぎるよ~
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