長い雨 (10) 失望 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 全てが押し流された公園… 家だったものは、もはや無残な本当の意味でのゴミでしかない。 そして、そのゴミすら満足に残っては居ない。 ミーの家も… あの飼い主が特別に強い材質、強い構造を持たせた家…一家で描いた絵が扉に張られた家… 沢山の飼い主から貰ったものが入っていた家…待つと約束した家… 今はゴミの塊に過ぎない。 ミーは、今になって気が付いたが、この家は洪水の中…流れが出来たときかその前からか…ずいぶんと流されていた。 ヨタヨタと力なく、呆けたように見続けたミーだが、 突然、何かに憑かれたように、そのダンボールの山に向かっていくと、 その水を含んで柔らかく…それでいて重くなったダンボールをベタベタと捲り始めた。 部屋の中…だった場所には、もう、殆どまともなものは残っては居ないが、 この洪水の中、モノだけは流されずに内包されていた。 泥水に浸かった車の玩具、使うものの居なくなった浮き輪、部屋を照らした豆電球、 キーやメーのプライドを守る為だけに残されたシャンプーの空容器、泥にまみれて破れたカレンダー… 1つ1つを残骸の中からいとおしく探り出し、泥を払い、そして捨てた。 「デェェェェ…デェェェェェ…みんな居なくなったデス…何にも無くなったデス」 それは、この公園に生き残った全ての実装石も同じセリフを吐いているだろう。 だが、ミーの嘆きは、より悲痛で滑稽で無様な嘆きであった。 所詮は知恵の足りない実装石が、自身の信念や計算によってもたらされた結果を後悔する姿は、 それほど惨めなものである。 例え、それが自然災害という災厄であったとしても、この結末はミーの選択によってもたらされたものなのだ。 梅雨の長い雨が、この災害を引き起こさなくても、 ミーの選んだ…優先した事では、ミーの仔達は何らかの形で”切り捨てられていた”からである。 それだけに、ミーはその結果を自分自身にしか向ける相手が居ないのである。 「もう、終わりデス…ご主人様が来るまでどうやって生きるデス…」 そう呟きながら家を捲り返し続ける。 すると、1つの鉢植えが出てきた。 泥とふやけたダンボールと新聞紙が付着した小さな小さな鉢植え…。 実装石が両手で抱えるに丁度良い大きさの鉢植え…。 そこに植えてあった物は無くなっている。 だが、ミーは思い出した。 飼い主にこの鉢植えを貰ったときの事を…。 あれは、3回目の妊娠をして少したってからの時だった。 いつもの散歩の帰り道…ミーは花壇の花を見つめていた。 あの頃は、キーも良く言う事を聞く賢い仔だった…ピーやポーの面倒を良く見てくれていた。 ピーもポーも、生まれて間も無く、よくキーに懐いて、仲良く踊りをミーに見せてくれていた。 メーも、胎教を歌うとおなかの中で元気に動いていた仔のどれかだったのだろう。 どんな贅沢よりもミーが幸せだったと感じた時間だ。 『おいミー…何をして…花に興味があるのか?』 「はいデス…キレイな花があるとご主人様のお部屋も賑やかデスゥ 何かご主人様の役に立つものを育てたいデス…仔はあまり生むとご主人様のご迷惑になるデス…」 『そうか…それで大人しいお前が最近よくニン…いやなんでもない。 でも、お前は実装石だからなぁ…育てると言っても…そうだ!』 男は、普段、散歩の際に”花壇では遊ぶな”と言い聞かせ、ミーも守っていた。 ただし、”遊ぶな”とは言ったが、”入るな”とまでは言わなかった。 相手が、良く言う事を聞くものだという前提で考えていた男のミスだ。 ミーは、綺麗な花を眺めるために、散歩で飼い主の元を離れると”観察の為に”花壇に入っていた。 実装石に完全な避妊は無いと思っていたが、連続妊娠の秘密が判った男は気落ちした。 男は少し悩んで、そのあとミー達を連れて100円ショップに行き、小さな素焼きの容器と種を買った。 公園で土を盛り、家に戻って種を土に植えた。 『まずは入門用に簡単なのから始めればいい…花じゃないけどな…というか、お前達が花を育てたら危険極まりない』 「キケンキワマリナイとは何デス?」「何テチ?何テチ?キケンキワマリナイテッチィ!?」 『いや、判ってないならいいんだよ…これを育てる間は、もう、花を間近で覗き込むなよ』 そう言って鉢植えをミーに預けた。 ミーの手にはずっしりと持ち応えのある鉢植えになった。 ミーは、それから懸命に鉢植えのものを育てた。 毎日欠かさずに水をやるとすぐに芽が出た。 芽はドンドンと伸びていった。 ミーにはとても嬉しかった。 仔以外に自分にも育てられるものがある…その自信が付くのが嬉しかった。 その時に、飼い主の男は、種をいつくかテープで包んで貼り付けた。 『気に入ったのなら、また育てればいい…こいつはだいぶ大きくなったから少し大きなプランターを買うよ… 思う存分、育ててくれ…』 そうして、ミーの育てたモノは、ベランダのプランターに移された。 鉢植えの底に忍ばせたものは飼い主も忘れたのか、それ以外の買ったときに残った種は全てプランターの方に撒かれた。 ミーは、再び、鉢植えに種を埋めて、家族と共にプランターと同時に育成した。 ミーは、この植物の名前を知らない。 その時の種は双葉を出し、グングンと育っていた。 だが、この生活に入って以降、他の野良に取られるのを恐れて部屋に置く事が多い為か、茶色く枯れてしまっていた。 それでも、毎日水を与え続けていたが、それさえもこの洪水で、濡れて溶けたダンボールに混じって見つからない。 変わりに泥やゴミだけが鉢植えに満載になっていた。 しかし、覚えていた。 ミーは、鉢植えの底にあるテープで止められた種の残りがあることを…。 ミーはソレを取り、泥を捨てると、芝生でまだ濡れた土をスコップで盛って種を植えた。 そして、ミーは鉢植えを抱えるとトボトボと歩き出した。 「まだデス…ワタシには、このお花があるデス… このお花をキレイに咲かせて、イッパイ咲かせてご主人様に見つけてもらえるデスゥ…」 だが、その様は既に疲れきり、疲労が限界にまで達しようとしていた。 ミーは、その種が花を咲かせた姿を見たことが無い。 ミーは鉢植えを抱え、公園の林があるエリアを目指した…そこはあの賢いミーが生活していたエリアであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 水が引き、僅かな陸地や木などに逃れた者達が、久しぶりの地面に踊りながら繰り出した。 生き残ったものの多くは、迫害されていた”低層派実装”達である。 毎年の儀式の様に、季節の変わり目で大きく公園の団地が入れ替えられる。 日々の変化より激しい生存権の大革変がおきるのだ。 いつもは、この梅雨で家を失い疲労することにより、団地組みと低層派の勢力数が数的に入れ替わる。 知能の代償に体力を得て、普段から雨馴れした低層派の天下となるのだ。 コレが起きるがために、この公園は長らく進化というものはしていない。 リセットされ、立場が入れ替わる。 集団生活は築けても、それが明確なルールあるコミュニティーまで拡大しない。 それが今年は、総入れ替えになっただけの事である。 結局、団地組みはそのご自慢の家と共に殆どが死滅していた。 中央部も結局は、流れが生まれた事でキレイにゴミと化していた。 マヌケな事に、木やジャングルジムや塀に難を逃れたものの大半は、そこから降りる術を失っていた。 意を決して飛び降りて打ち所が悪く死ぬもの、軽症か重症だが命だけは助かるもの、 降りるのが怖いもの、怖いだけに安定した場所を求めて上を目指してしまったもの… それでも無事な20匹ばかりが何も無くなった公園に躍り出て、 その様子に我が世の春が来たと踊りだしたのだ。 騒ぎが収束すれば、彼らがここに家を1から築くだろう。 数を減らした彼らは、これから自分達の種を増やし、勢力を作り、後から来るものを排斥し、 数が少ない為に秋や冬を集団で乗り切り、春にはまた、人間から見ればいつもの醜態を見せるのだ。 これもまた、災害があろうと無かろうと関係の無い実装石の生活である。 災害によって数を減らしたら減らしたで、 人間はその復旧に忙殺され、実装石駆除どころではなくなる。 復旧が終わってしまえば、実装石など気にならなくなる。 水害の影響でゴミが増え、やがては新しいダンボールが人間の生活の中から大量に生まれ、 人間が忙殺されている短い期間に数を増やした実装石達に利用される。 まるで、自然の世界で何千年とそうしてきたかのような共存・寄生生活が永遠に止む事は無いのだろう。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 『素晴らしい…実に素晴らしい…実装石らしい生命力… コレが実験のような人工世界では生み出せない偶然の産物…いや、実に面白いね。 こうして進化が常にリセットされ、自然界で何も考えずに生き残るに相応しいものが支配者となる。 それは、無駄な知能を残さず、生きるために底辺を這って生きられるものである。 しかし、彼らは地区1大勢力となった事で、その怠惰性を残しながら生きる術を得ようとする。 すなわち、人間に寄生する知能を持たねば生きて行けない。 そこまでは判りきっていた事だが、生でその生命力の威力を見せ付けられるとは思わなかったよ。 この災害ですら、あの小さく不自由なナマモノは生き残れる。 だが、知的生物でありながら、決して滅亡もしなければ生物としての進化もしない。 おもしろい、実に面白い…ならばこそ、何故、コミュニティーが形成できるのか? 何が、そのきっかけとなるのか?今度こそ、判るような気がしてならないのだよ』 教授は気分が乗ると饒舌になり、大学の時の教授のような講義口調になる。 教授のもう1つの研究とは… 野生ではなく、”野良”のコミュニティーが形成される過程の研究だ。 この公園は、長らく愛護派が多い為に温存されてきた”箱庭”だ。 それなのに、いくつかの報告例が全国である”知的コミュニティー”が存在しない。 ピラミッド型完全封建社会は実装石の性格に沿っているが、利害関係により協力し合うのは彼らの生態に反している。 だが、確かに各地では、山実装同様の共生型共和社会のコミュがあるのだ。 自然であるなら、確かにその環境の厳しさから共生型で知能を生かさなければ生き残れない。 だが、公園や街中に住む実装石達には、それが必要となるほどには徹底して無慈悲な環境の厳しさが無い。 土に横穴を掘る共同作業の必要性も無ければ、雨風を凌ぐ材料は人間が用意してくれる。 だが、全てが人間で言う蛮族の様に体力馬鹿では、生きて行けないからこそ集団を築く。 それがマラによるハーレムであったり、特異的に格段に優れたものの率いるコミュである。 だから、権力者支配のコミュは多少規模の大きな公園なら簡単に見られる。 ハーレムやコミュ同士や内部の諍いも日常茶飯事だ。 教授が求めるのは、その進化形態ともいえる”野生”の様に協力し合い、 ”野良”として生きる”知的コミュニティー”の課程。 この公園には、いずれの支配層が生まれてもおかしくない環境が備わっていながらも、 どの支配形態にもたどり着かないままである。 そこにどのようにしてコミュが出来るのか、そして、それは人為的に発生をコントロール出来るのか… 可能ならば、最も難しい知的コミュを育成してみよう。 それは、教授のライフワークなのだ。 それとミーの第9世代化のかかわりは直接的には無い。 ただ、教授の仮説では、優れた知識を蓄え、性格的に温和で、愛情高い人に飼われたペットが、 野良の群れで生き抜く課程で、それを維持したまま、仮にその頂点…群れのリーダーとなった場合に、 その野良型封建社会と野生型共和社会の融合したコミュが作られるのではないか?という持論がある。 ただ、知能が高いだけではダメなのだ。 この人は…ミーが野良になる事の方を望んで実験に駆り立てているのだ。 だが、過去の検証から、そうした例がこの観察実験で成功した事は無い。 実装石といえど、人間の手が加わらなければ何から何まで人間の思い通りには動かない。 だから、第8世代を使った。 第9世代化の実験を兼ねて、その実験体を1回の観察で無駄にしないためなのだ。 だが、それでも過去の大半の例は、野良になじめずに死ぬか、野良になり群れで暮らすか、 野良となり群れから阻害されて暮らすか…である。 野良として群れに溶け込めば、大半が大幅な知能の低下をもたらす。 知能がある程度備わっている為に、身を守る為に中庸で居る事を選択し、月日と共にそれが定着するのだ。 そう、優しい実装石が、その性格のまま野良の頂点に立つことなど無理な話なのだ。 だが、教授の推測通り、愛情や優しさが無ければ、共和の理念は生まれない。 説明するまでも無く、優しいものは同じ実装石社会では生きて行けないのだ。 まして群れのトップに君臨する事など…。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ミーは、生き残った者達が広場で喜び合っている頃、一人、誰も居なくなった林の中にきていた。 この土地が高く木々があることによって助かったことも忘れて、 低層野良達は、誰も居なくなった広場での自分達の今までの扱いから見ればきらびやかな生活を思い描いた。 誰も、こんな公園の中で不便な場所には立ち寄らない。 それこそ、彼らが”団地”を復活させ、新参者や仔の中から気に食わないものを追い出し”低層派”にしない限りは…。 その場所に鉢植えを抱えてきたミーは、その一角…不自然な小さな山を掘り起こしだした。 そこには薄く土が盛られていたのだ。 それは、あの賢いミーが残した家… ミーは、その上に新聞紙やダンボールを乗せて、薄土を盛って山に見せかけていたのだ。 数日を費やし、少しづつ埋めて隠していたものを、再び、一心不乱に掘り起こしていく。 食事も睡眠も取らずに狂ったように土をどけていった。 お陰で、掘り始めた翌日の夜には、家を元に戻す事ができた。 賢いミーの家は、豪華だったミーの家とは比べ物にならない…半分の大きさで天井も低い。 成体2匹が横になれる大きさしかなく、頭もミーでギリギリだ。 前ですら月日が過ぎ襲われた破損の荒い修復で隙間風が入る状態。 さらに、土を被せたとはいえ、視覚的に馬鹿な実装石どもから誤魔化せたとして、 長雨・洪水の影響から家自体を守る事は出来ては居ない。 それでも、ミーは、取って置きのこの家を使う気の様であった。 ついに狂ったか…何人かの研究員が、観察カメラの映像や音声を元に囁いた。 だが、男にはそうは思えなかった。 ミーは生き抜く気で居る…6ヶ月…もはや経過日数を知る術も、 男が迎えに来ると言った家も家族も無く、その約束の場所すら正確に把握できない。 それでも、ミーには男が迎えに来ると言う確証と、自分をあの有象無象どもの中から見つけてくれる確信がある。 それは、実装石特有のメルヘン思考でもあろうが、同時に違う意味で確信である。 ミーは、やはり全てを失った事で、第8世代の枠を超えた忠誠心に目覚めつつあった。 怠惰・嫉妬・大食・強欲・色情・傲慢・憤怒…そして、第8世代の罪、”愛情”が、 ようやく飼われると言う”目的”を限定的ではあり、僅かにであろうが上回っている個体となったのだ。 あとは、それが熟成するワインの様に味として定着すれば完成する。 第9世代へのヤコブ(ヤコブ=掻き分けてまで上を目指すもの)の梯子が見えてくるのだ。 だが、家を掘り起こした後のミーは、たまに草を食事としてとる以外は、ほとんど林の中を出ない。 出たところであの騒ぎの後だ。 公園内に特別食べられるものがあるわけでもないのたが。 他の野良達も公園内に僅かに流され残った腐乱死体を探し回っては摘んでいる状態だ。 ごく少数に減った実装石は、この時期、環境の厳しさもあって妥協とも取れる協力をして生きる。 家もすぐに立つわけではないし、餌の問題もある。 まして、今回はこれほどの騒ぎと被害…公園の外に出て人間に発見されれば、即、撲殺される。 騒ぎが風化するまでは、誰も振り向かない公園だけが彼らの安住の地である。 その妥協の産物こそが、この公園での”団地組み”が形成される下地となる。 だが、ミーは、その群れにも加わらずに一人、林の中に身を潜める。 大きな騒ぎが去ったとはいえ、梅雨はまだ終わっていないのだ。 男は、毎日、雨の日も決まった夕方の時間まで家の外で座って空を見上げるミーの姿を、 モニターに食い入るように見つめ続けた。 その時間は、ミーと男が最後に別れた時間である。 日が過ぎる毎に、ミーの姿は恐ろしく劣化して行った。 家を掘っていた時の精力も失われ、この林の中でする事無く時間を過ごすうちに、 顔が締まりの無い、常に涎を垂らすほど緩んだ状態になった。 既に何日も水浴びすらせずに、その肌は茶色い垢が幾重にも浮かび、 服も緑鮮やかだった色はくすみ、下着は緑が染み付き、それが腐敗して茶色に変色した。 する行動といえば、寝る以外は、家の前で呆けたように座るか、鉢植えを覗き込むか、草を食べるぐらいである。 糞をするにも下着を脱いでという動作をとろうともしない。 パンツに直接すると、それが巨大に溜まる前にようやく少しはなれた場所でポトポト裏返して捨てるだけ。 時には、その糞をボーっと立ったまま眺めているときすらある。 完全な重度の精神障害…実装石独特のストレスによる簡易痴呆を起こしていた。 人間で言えば過労死寸前の鬱状態… 幾ら生きる目的を模索したところで、ミーには家を掘り起こしたところで限界だったのだ。 それでも、ストレス死に至らない…まだ、何かを食べてでも命を繋ごうとする。 そして、鉢植えから伸びる葉を見ては「デフゥ…デフゥ♪」と不気味な笑みをたたえている。 『自失期に入ったようだね。 ペット種に多い精神病だ何の問題も無い。 前のミーも仔を失うとこうなったのだよ…死にはしない。 問題は、この後、どんな要因で立ち直り、何を目的に生きようとするかだ。 前のミーは、仔を生むことに自分の存在意義を見出した。 それは必死なものだったよ…飼われていた頃の仔の数にあわせるために、 必要以上に殺しもしたし、命がけで守ろうともしたし、失っても失っても、数を合わせようと必死になった。 やがて、それが無意味と悟ると1匹だけ残った仔を守り、知恵に目覚めた。 だが、飼い主のためではなかった…あくまで自分の中でのつじつま合わせがしたかったんだ』 『教授は…楽しんでおられる ミーに…今のミーだけじゃなく…ククリから生まれた全てのミーが苦しむ様を…』 『研究者に対してはその言葉は無意味なのはわかるんじゃないかね? 前のミーの飼い主は、残念だが研究所を辞めたよ…君も同じ道を歩むとすれば仕方が無い。 だが、実装石の生態研究はより細かな分野に至るまで重要性を増している。 品種改良を受け付けない糞蟲生態すら捻じ曲げてのペット種創造… 行動形式の解明に、その行動のコントロールの重要性… 見ただろう、彼女らも人間も意図しない要因で、実装石のせいで災害が大きくなる様を… これは実装石が人間に寄生して生きる為なのだ。 寄生するなら人間にコントロールできなければ大変なことになる。 だから、第9世代も知的コミュの創造も大切な研究であり、彼女たちはその実験動物だ。 そこに安っぽい感情を持ち込まれては困るという事だよ。 犬猫も鼠でさえも、それは平等だ… だが、こと実装石に関わる人間の中には、鼠に対するソレよりはるかに高い愛情を持って話をする人間が生まれる。 言い換えればヒステリックな反応だな…今の君の様にね…不思議な話だ』 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 梅雨も終わりを告げる頃、なんとか細々と生活をしていた野良達も活気を取り戻しだす。 町ではもう災害の傷跡は無い。 災害で極端に数を減らした実装石達は、再び、人間から見れば殆ど興味の無い生き物と化していた。 ソレまでの増えすぎた実装石達の活動に比べれば大人しいからだ。 目くじらを変えて構ってやっているほど、世間の生活は暇ではないのだ。 騒ぎの印象が強かった頃、公園を出られない実装石達は、 ゴミと化したダンボールの残りでかろうじて屋根の役割を果たす掘っ立て小屋にも程遠いもので雨を凌いでいた。 いつあの洪水が襲ってくるかという恐怖に怯えながら…。 生存を小躍りして喜んでいた彼らも、現実の中での、これからの生存から目を逸らす事は出来なかった。 だが、今は新しいダンボールの家々が立ち並ぶ。 災害特需…それがようやく実装石達の生活に回ってきたのだ。 それにあわせて、実装石達の記憶からは早くも洪水の記憶は薄れ、 雨の後成長する草木を使い、再び、繁殖行動が盛んになる。 今度は、保存食を元にした種の保存の本能ではなく、 このライバル少ない中で、自分の地位を固める”一票”としての役割を仔に託すのである。 それだけに、この時期の出産は一種の戦争にも近い。 安全な出産場として水のある場所は、壮絶な奪い合いとなる。 表面的な協力関係しか築けないのは、低層も団地も、その元となる現在の群れでも大差が無い。 水があろうが無かろうが、統計的な面を見れば出生率に大差は無い。 水があるところでは出産時に死んだり未熟になる仔は少ないが、多く生き残った分は家族間の競争で死ぬ。 水の無いところで出産すれば、生き残る数はへるが、減った分、競争で死ぬ確立は少なくなるだけである。 結局は、せいぜい親の管理できる数しか生き残れはしないのだが、 無駄に多産な実装石の弱い頭では、兎に角数を産み落としたものが勝ちとばかりに安全な水場を奪い合うのだ。 その理想の水場は公衆トイレである。 和式便器には、今日も複数の実装石が群がっている。 産みたいときが繁殖期の実装石でも、特に生息数が極端に落ちると大した栄養も無いのに妊娠期間が短くなる機能がある。 通常でも妊娠から10日で出産可能となるものが、7日〜5日程度に短縮されるのだ。 さらに、出産後の妊娠機能回復も早くなる。 平均、産後3日程度で再度妊娠可能になるのが、ほぼ直後に妊娠可能になるほどである。 俗に「期待効果」と呼ばれる機能で、実装石の生態にセオリーがないとされる一因であり、 数を減らせば減らすほど”爆殖”になる原因でもある。 とにかく、同族からの攻撃が少なくなったり、ストレス要因が下がるだけで発動する。 することが無い上に、落ち着いて自慰や胎教に取り組める為に、 その事だけで、自身の脳内も矮小な幸せに満たされる。 自分の一族だけが繁栄し、自身がその頂点として君臨するのを想像して悦に浸る。 その想像が邪魔されないために、胎内での仔の成長も促進されるのだ。 そうした親が、今日も、何匹もトイレの1つの和式便所を争う。 妊娠時期が似通っており、出産間隔が短いため、僅か20匹の親でも利用時期がかぶるのだ。 既に和式便所には2匹の実装石が前後に背中向きになって便器をまたいで踏ん張っている。 「デェェェェズゥゥゥゥゥゥ…」「デッデッデズゥゥゥゥゥン」 金隠しを掴んで汗まみれで踏ん張る親が、早くも仔をプリプリと水面に落としている。 「デッチィー!!デチィー!もう我慢できないデチュ!」そこに、両目を赤くした仔実装が膨らんだ腹を抱えて、 順番を待つ脇を抜けて乱入してくる。 梅雨を生き残って、親の真似をして妊娠する中実装もおおい。 仔は、便器の後ろで、パンツを脱ぐと、よいしょと便器の端から後ろ向きに下に滑り込み、 便器の端を握って下半身を数多くの出産で汚水になっている水に水没させ股を開く。 と、そこに後ろを陣取っていた実装石が、掴むところを求めて前傾姿勢をとる。 肉体バランスの悪い実装石が踏ん張り姿勢のまま産み落とした仔を掬い上げるには捕まる物が必要になる。 だから、和式便器は2匹で分け合うのが最低限の常識である。 自分が小さくて、便器にスペースがあるからと割り込む仔実装は大抵ロクな目には遭わないのだ。 「ふう、間に合ったデチュ♪元気に生まれてイッパイママのゴハンを拾ってくるデッチュ〜♪ あれっ、なんか暗くなってきたデチュ…デデ!?デヂィィィィィィ!!」 グチャ… 仔実装は、掴むところを求めてきた実装石の手にキレイに頭を潰され、 便器にズリ落ちるとそのままプリプリと仔を吐き出すだけの肉になった。 プリプリ…「「テッテレー♪」」 3匹分の仔が次々と産み落とされる。 その量も壮絶なものがあるし、3匹分の仔が入り乱れる事になるがお構いなし。 各自我が仔と思う仔を救い上げては粘液を舐め取る。 1度の出産数もこの時期は普段より多くなる。 まず、掬われずに溺死する仔も多いし、親が出産作業に忙殺され、救い上げた仔の中には、 この時点で出産待ちをする他の親に食われる事もある。 「レチュー…レチュー…ママー…」生まれて、初期の成長変体をしかかっている仔が、 甘え動作でコロコロと転がったり、不自由な足でヨタヨタと散歩気分で歩き出す。 この成長や自立の早い個体が多いのも”期待効果”の時期に見られる仔の特徴でもある。 ただ、蛆体から半端に手足が伸びている時期が一番危ない。 置かれた場所から不自由な身体で動き出すからだ。 そうして転がっているものの中で何匹かは、親の足元を遠く離れる。 「ママー…ママー…ドコー?アッ、ママープニプニシテー」 「ママレチュン♪ハヤクダッコ!ダッコ!ワタチ アルケルレチュー♪」 「デェェェェ…出産前に栄養つけるデス」 「丈夫な仔を生むには産前の栄養はセレブのたしなみデスゥ♪」 「「レピィィィィィ!!ママーママー!!」」 一方、先に産み終わった親は、順番待ちの親に「終わったらさっさと場所を空けやがれデス!!」と、 突き飛ばされ、何匹かを踏み潰しながらも、機械的に掬い出した仔を便器の横で数えだす。 平常時の出産は、もう少しゆったりしている。 デタラメ構造とはいえ、産道と腸が連結したり、糞が流れないようにしたりと言う肉体変化を伴うだけに、 出産はそれなりに体力も使う。 内臓がメチャクチャになっているだけに、普通は仔がちゃんと未熟蛆体から仔に初期成長する間は、 親もゆったりと身体を休めて無理をしないものではあるが、 この時もやはり「期待効果の幸せ神経」により、便器をまたいだ姿勢のまま産後の休みを取る事も肉体的に必要としない。 蹴られた親は抗議しながらも、我が仔を数えあやしながら仔が初期成長するのを見守る。 ついでに、自分の後ろで産んでいた親のよけた仔を捕まえて口に運ぶ。 「ゲフッ…やっぱり産後は栄養補給が大事デスゥ♪」 時には自分の仔すら間違えて摘みながらも、仔がしっかりと立てるまでじゃれるのを見守る。 この時期は仔自身の初期成長の早さもあって、僅か30分程度で、仔は親の指示に従って列を維持して歩けるようになる。 こうして、トイレを出る頃には親は8〜14匹程度の仔を従えて野に戻る。 家への帰り道には、寄り道して草木で自慰をすることも忘れない。 20匹が、数だけで100匹になるのに1週間…。 その親は、仔を産めば育てながらも休み無く妊娠し仔を産み落とす。 育成のための教育も何も無く、頭数の分の餌の確保すら計算されずに産み落とされるのだ。 餌の不足で、仔同士が共食いをしたり、糞食に走ろうがお構いなし。 これでも、当人達は自己の”我が仔への愛”に酔いながら産んでいるのだから手に負えない。 実装石の多産と産後の成長の早さは生物的には、外敵を逃れるための成長の早さである。 それが、ライバルが少ない事で加速する。 だが、実装石にとっては、この時期に成長機能ばかりが特に早い仔が生まれやすくなっても利点ばかりではない。 種として行動に画一性が無に実装石にとって、多用な行動を学習するのは種としても自身としても繁栄に欠かせない。 その知識・知能面が異常に弱い本能のみの仔ばかりが成長する事になる。 しかも、数が多い事で教育もままならない。 そうした継承無き劣化と繁栄の繰り返しが、1年で何度も起こるために、この公園では強固なコミュが築かれない。 いかなる形であれ、卓越した指導者を迎え、季節の変わり目を群れとして乗り越えられ無い限りは…。 梅雨の名残で蒸し暑い夏が来る中で、再び、実装石達は数を取り戻しつつあった。 だが、その輪にミーの姿は無い。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ミーはある日、いつもの様にぼーっと家の前で座り続けていた。 この時の、その呆けた顔は、もはや無機質な人形のようであり、絶え間なく垂れる涎と伸びきった鼻水だけが、 ミーが生き物である事を表していた。 だが、それ以外の動きはまったくしない。 おそらく、間近に寄れば腐臭すら漂いかねない姿である。 そのミーの前に寄って来る実装石が1匹現れる。 その容姿はミーにも引けを取らないみすぼらしさである。 そして、特徴的なのは、僅かに残るボロボロの白髪と異様に巨大な目である。 顔が痩せ、見開かれ飛び出しているために、普通の実装石より巨大な目に見えるのだ。 やせ細ったその実装石は、「デヘェ…デヘェ…」と舌を出して激しく呼吸をすると、 ゆっくりとミーに近寄り始めた。 だが、ミーは顔をそちらに向けていながら、まるで遠くを見ているかのように呆けている。 その実装石は、ミーの様子を見て、その細くなったために長く見える手足で4つ足状態となって姿勢を低くすると、 そのまま、ゆっくりと威嚇するようにジワジワと距離を詰めてくる。 距離を詰めながら、さらにミーの横に回りこむ。 「デヘェ!デバァァァァ」 もはや、実装石のものとは思えない獣の叫びでミーに襲い掛かる。 フック一発で呆気なく横倒しになるミー… そもそも、呆けて防御する気もなければ、倒された今も動く気配は無い。 飢えた実装石は、間髪要れずにそのミーの腕に噛み付く。 だが、極度の栄養失調でいくつか歯が抜け落ちている飢餓実装には、ミーの肉を噛み千切るには不十分であった。 何度も何度も噛み付いては引きちぎろうとするも、細くなった肉体では満足に肉を千切る顎や首の力も無い。 その間も身動きも叫びも上げないミー… 「デスゥゥゥゥデバァァァァ…」リンガルですら翻訳不可能な叫びを上げ、 飢餓実装はミーを蹴り始める。 簡単に肉が食えない怒りに対する抗議なのであろう。 低層実装の時もそうであるが、飢餓状態まで堕ちても、実装石はある程度は容姿に変化は無い。 歯が抜けるほどの飢餓は実装石には致命的でもある。 大抵はこうなる前に、狙いやすい仔や蛆を襲って栄養をつけたり草木でも肉体を維持できる。 いくら餌場の制限などを受けた低層派の生き残りとしても、中々こうなるほど飢えたりはしないものである。 この飢餓実装は、何らかの理由で、その草すら食べられなかった…それも洪水になる前から。 これほど容姿が変わっても、まだ死なないのは、栄養のカスである自身の糞を食べているからに他ならない。 ふと、その飢餓実装は、1つのものに目を付けると、ミーを蹴るのをやめて歩き出す。 目を付けたのはミーの鉢植え…そこから伸びる青い葉である。 「ウマソ…ゴハ…ゴハン…ニンゲンさん味…」 その飢餓実装が独り言の様に呟きながら鉢植えに手を伸ばした瞬間… 「デズゥゥゥゥゥ!!」 まるで呆けていたミーが、ムクッと起き上がるとその実装石に向かって吠えた。 「デシァァァァァァ!!ご主人様の鉢植えに触るなデスゥ!」 威嚇を自身ではした事が無いミーが、初めてはっきりとした威嚇音を発する。 その叫びを聞いた飢餓実装はミーの方に向き直ると、ペタリと尻餅をついて両手を差し出す。 投げ出された両足の間からチョロチョロと水のような便が僅かに垂れている。 この飢餓実装にとって、ミーを襲ったのは、もはや自分の食う分の糞すら出せない状態での最後の博打であった。 しかし今は、頭を弱々しく左右に振り、その巨大な両目からホロホロと涙を流し、 差し出した両手を中に彷徨わせる。 全身をガタガタと震わせ怯え、許しを請う姿である。 「マ…ゴメ…ママ…ゴメ…ナサイ」 胸元に変色したリボンが揺れている。 小さなワッペンも揺れている。 消えかけた文字は…”ポー”と書かれてあった。 ピーを眼前で無残にマリアに殺されたショックと、そのマリアに容姿の似たキーに迫られた恐怖で、 発狂したポーの成れの果てであった…。 家から逃げ出した彼女は、すっかり精神を病んで彷徨い、そのお陰で奇跡的に洪水を逃れた。 その代償に彼女は逃げて以降、食事を取る機会を失った。 狂ってもなお、飼い実装の記憶しか正しいと思えない本能の混濁で、 ゴミも同族食いもしなかった… 洪水になった頃には体力が低下して、飢餓により脳が萎縮して機能しなくなると、 ようやく、その飼いの本能からは解き放たれたが、 飢えを癒すために食べる事を思い出しても、肉体は弱りきり自分の糞しか食べられなくなっていたのだ。 そのポーも、もはやミーの記憶も無くミーを襲ったのだが、 ミーの叫びに恐怖したときに、僅かに記憶のスイッチが入った。 そして、ボロボロと涙を流し、萎縮させ、許しを請わせたのである。 ポーにはミーのワッペンや特徴的な胸のカメオは目に入っても理解は出来なかった。 反射的にその言葉が出てきただけである。 しかし、今のミーには、その許しを請う飢餓実装が自分の仔であるなどと想像すら出来ない。 いや、考える思考が、ポーと同じく停止している状態である。 只でさえ、実装石に家族の概念は薄い。 成長するほどに親にとって、仔の判別は難しくなる。 長い時間傍に居るからこそ親仔の認識を持つことが出来るのは飼い実装も同じ。 飼い実装がいくら、野良より高い愛情を持っていても、成長すれば愛情が薄れ、容姿が変われば判別は不可能で、 まだ飼い独特の衣服や付属品、クセによって判別されている分、長続きするだけの話である。 ポーは容姿も変異していれば、そのリボンやワッペンを隠すような姿勢で襲い掛かったのだ。 まして、ミー自身も精神を病んでいては、降伏した今ですらミーにはポーのワッペンに気が付かない。 「ベボォ!ミャミャ…タフケヘ」 ミーのフックがポーの顔面を歪め、上顎と下顎をズラす。 「デズゥ!ご主人様の!!」 「ペホォ!フヒーーーーーー」 打ち下ろされたミーの両手が、その顔面を縦に圧縮し、下顎を胴体にめり込ませる。 衝撃で何度も噛まれていたミーの左手がブチっと裂けて、プラプラ皮一枚で繋がっている状態になる。 立場はミーとポーが入れ替わっただけだが、まだ普通の肉体のミーと飢餓のポーでは話にならなかった。 「これだけは誰にも触らせるものかデスゥ!!」 片手が使えなくなったミーは、ポーを蹴り倒し激しいストンピングの嵐を見舞っていく。 そのパターンや仕草は同じ血を持つクセと言うモノだろう。 攻守を変えてまったく同じ姿を再現した。 もちろん、肉体的に健全なミーのそれは、細いポーの体の末端部を潰してしまうには十分であった。 正気を失ったミーは、そのまま、獣の様にポーの肉体に貪りついた。 飼い主の物を自分以外のものが触れれようとすれば、それは誰であろうと敵…。 その攻撃意識と抑圧された実装石本来の本能がそこまでさせたのだ。 呆けていた反動か、攻撃するときのミーは容赦なく徹底的であった。 ジャリ… ミーの口に違和感があり、ソレを吐き出す。 それは、”ワッペン”だった。 ポーと見慣れた文字で書かれたソレを見たとき、ミーはピタリと動きを止めた。 本能のままに動いていたものが、同じだけの質量をもつ別の本能と衝突したのだ。 「ポー…ちゃん…」 ミーは、ワナワナと震える片手にはポーの体から引き剥がした胸の肉が握られている。 ワッペンは…服と共にココについていた…。 面影も何も無いポーのやせ細った容姿… それは、無残に食い散らかされ、まともな姿をとどめていない。 だが、本来のミーに戻った今、ワッペンを見て、それがポーだと認識できると愛情は復活し、呆ける以前に戻った。 実装石の都合が良い精神保護の切り替え機能も狂って逆効果となり、今はただひたすらに残酷にミーを痛めつけた。 「デェェェェェェェンデェェェェェェェン」 だが、ミーは、このショック療法によって簡易痴呆からは脱する事が出来た。 痴呆はミーにとっては野良種の偽石崩壊に等しい精神ダメージを受けた証だが、 8世代の改良で、一旦、ソレを乗り越えてしまうと、同程度の苦痛では精神の均衡を崩さない…死ねなくなる。 普通の実装石が都合よく負荷により幼児退行などをして精神を逃がす為の対策だ。 自らが手を下す仔殺しというさらに巨大な、ミーにとっては拭えない”罪”を背負って… 不注意でピー・メーを失い、意見の違いによってキーを故意に死なせ、ついには自分の手でポーを殺したのだ。 同時に、その罪を背負う事で、ミーは精神的痴呆による緩やかな死を拒絶させられた。 隠れ家に逃げ込むように、狂う事も現実逃避する事も出来ない程にミーの知能は低くなく… かといって、仔を道具として認識しても、その行為を自分で認め受け入れられるほど精神的に強くない… 実装石の中ではそこそこ賢く、お決まりの様に人間視野から見れば愚かで、 お約束の罪科を背負い…そのために定番の様に死ぬ事は出来ずに苦しみを増やすのだ。 ミーには、愚かでも未知の未来を開拓する精神は無く、数少ない現在の状況から選択する知能も無く、 ただ、飼われていたと言う過去にしがみ付く事しか選べない。 家族を失い、結局、何をしようが残された逃げ道を”飼い主の元に帰る”しか選べなくしていた。 それで居て愚か過ぎたり、愚かである周囲に染まる事で死ぬ事も無い。 その愚鈍さこそが人間には必要とされていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 長い雨… つづく
1 Re: Name:匿名石 2016/12/04-18:16:28 No:00003039[申告] |
ポーが放置されていると思ったらこのオチだったか
ひたすらエグい |
2 Re: Name:匿名石 2019/02/28-22:10:50 No:00005774[申告] |
どちらも正気を失っていたがどちらかでも致命的になる前に精神を取り戻していれば…
いや、無理か |