※善良な実装石が酷い目に遭うものもあるので苦手な方は見ないでください ・①~⑤までの短~中編詰め合わせ ・文体、改行、半角全角、句読点等は統一されてません -------------------------------------------------------------------------------------------------------- ①「託児道」 「ここも託児お断りのシールが貼ってあるデスゥ…」 「ママ、落ち込まないテチ。ワタチはママと一緒なら、別にニンゲンさんに飼ってもらわなくても」 「ここまで来たんデスゥ、ベストを尽くすデス」 高級住宅街の家を一軒一軒回る親子実装…託児目的である 託児といっても勝手に仔を放り投げるのではない きちんと玄関から訪問して売り込みをするのだ 一戸建てで、犬や猫を飼ってない家…欲を言えば人間の子どもがいればいい 家族としてパートナーとして、末永く一緒に育ててくれるだろう …この野良実装石の親のほうは、仔育ての天才である もともと優秀な高級飼い実装だったが、家庭の事情で捨てられた 野良でつらい目にも遭っていたが、産む仔も自分に似て軒並み優秀な仔であったことと、 選別、教育、美容…全てに才能があったようで、ショップの高級実装石以上の 質の良い仔実装を育てることができた 「ワタシより優秀な仔…ニンゲンさんに飼ってもらって、シアワセになってもらいたいデスゥ」 そう思い、とびきり出来の良い仔を連れて住んでいる公園から離れた高級住宅街に来たものの、 成果は得られていなかった 玄関には実装石目線の低い位置で「託児お断り」「実装石お断り!」のシールが貼っていたり、訪問できても 「実装石なんていらないよ!帰って帰って!」 「うちじゃ実装石はちょっと…ごめんなさいね」 「うち、猫いるけど大丈夫?襲われると思うよ」 等々…条件が折り合わず断られ続けていた もう夕方、陽が沈み始めた。成果は得られていないがそろそろ帰らなくては、公園の段ボールハウスで待っている他の仔が心配してしまうだろう 「デー…こんなに良い仔なのに、なかなか良いオウチと出会えないデスゥ」 「テェ…」 親実装は大きくため息をつく。こんなに質の高い仔実装など、そうそう居ないというのに。 自分を気遣い、心配そうに涙目になっている仔実装をぎゅっと抱きしめる 「あと一軒、あと一軒だけまわってだめなら帰るデスゥ」 「ママ、ワタチは本当に今のままでも良いテチ。ママのことが大好きテチ」 自分には勿体ないくらいの、本当に良い仔だ 絶対に託児を成功させるという強い意志で次の家のドアをノックした 「ん…?なんだ、実装石か。託児か?ちょうどいいわ、在庫切らしてたんだ。一匹だけ?まあいいや、もらうよ」 家から出てきたのは粗雑な印象の男性… 親実装は戦慄する このニンゲンに預けて本当に良いのだろうか? 話が早すぎる。雰囲気が怪しい。言葉が怪しい …そして何より家の中から漂ってくる同族の血肉の臭いが、訪問の失敗を本能に訴えてきた 「な、なんでもないデスゥ、間違いデス、ごめんなさいデス」 「ママ…」 「あ?託児だろ?それ以外何があるんだよ。おら、さっさとよこせ、これやるからよ」 男はお代として数個の金平糖をばらまいて仔実装をひったくる 「や、やめるデス!返してデス!返して!」 「ママァ!助けテチ!ママァー…!」 親実装が蹴り飛ばされドアがバタンと閉められ声が聞こえなくなる。ポフポフとドアを叩くが反応は無かった 「デエ…ワタシの…コドモ…」 涙を流しながら地面に転がった金平糖を拾い集め、悲しみのまま帰路につく 公園には残った仔達が待っている。前を向いて歩くしかない …これはいずれ彼女が託児の名人と呼ばれる前の、若い頃の話であった (終) -------------------------------------------------------------------------------------------------------- ②「道を極めし者」 JHK放送局で金曜21時から放送されている『職人の技』 その道を極めた人たちを紹介しながらインタビューをしていく番組である アナ「JHK『職人の技』をお送りします。本日は100匹以上の仔実装の託児を成功させた野良実装のミドリさんをお迎えしています」 ミドリ「よろしくおねがいしますデス」 アナ「100匹以上はすごいですね。全部ミドリさんの仔なんですか?」 ミドリ「もちろんデス、しつけの行き届いた良い仔達ばかりデス」 アナ「ミドリさんは元飼い実装だということですが、そういった経験もお役に立っていると?」 ミドリ「ニンゲンさんがどういう実装石を好むのかを理解した上で託児することが重要デス。そういった意味でも元飼い実装の経験が活きているといえるデス」 アナ「なるほど…ではその職人の技をVTRでご覧ください」 ミドリが仔実装を抱えて通勤途中の会社員のカバンをめがけてシュートする だがビジネス用のカバンに仔実装が入る隙間は無く、カバンにぶつかり「テヂッ」と顔から地面に落ちた 会社員は気づかずにそのまま通り過ぎていった アナ「ミドリさんこれは失敗ですかね」 ミドリ「まあこういうこともあるデス。試行回数が大事デス」 パンコンし顔が血まみれの仔実装を拾い直し、次は主婦らしき女性の買い物袋に狙いを定めシュートする 今度はスポッと袋に入った ミドリ「あのくらいの距離なら二回に一回は入るデス」 アナ「入ったのはいいとして…血と糞まみれの仔実装が買い物袋に入ってたら怒ると思うんですけど。ミドリさんは仔実装のその後を追ったりしないんですか?」 ミドリ「若い頃はワタシも飼ってもらおうとしてついていったら託児したニンゲンさんにボコボコにされて死にかけたデス。それ以来目が覚めたデスゥ。親は仔の幸せだけを祈るべきだと。しっかり躾を行った良い仔達が幸せになることができるだけでワタシも幸せデスゥ」 アナ「なるほど、良いことを言っている感が出てますね。では次のVTRへいってみましょう」 ミドリがコンビニ帰りの学生風の男が下げているビニール袋に向かって仔実装を三匹連続で投げつける スポスポスポッと吸い込まれるように三匹がビニール袋に入り込んでいく アナ「これがミドリさんの必殺技、三投石ですね」 ミドリ「これで託児が一回で3匹できるデスゥ。3匹構成のダンスを教え込んでいるからニンゲンさんも喜んでくれるはずデス」 アナ「この後どうなったか、取材班が追って撮影をさせていただきましたので見てみましょう」 怒り狂った学生風の男「ふざけやがってよぉ…!糞虫と同じ袋に入ってた弁当なんか食えねえよ!簡単には殺さねえぞ!覚悟しておけよ!」 三匹の仔実装「テチャアアア!!ママー!ママ-!」 三匹は両手両足を焼き潰されて頭にドリルで穴を開けられるなどの虐待をされていた 三匹の仔実装「ママ!助けテチ!ママ!聞いてた話と全然違うテチ!」 仔実装の叫び声が響き渡ってVTRが終わる アナ「…というわけでミドリさん、こういう結果になっていたわけですが。もう二度とダンスはできなさそうですね」 ミドリ「ふー…(ため息)、とても悲しい事デス…こういう心無いニンゲンさんが居ることは事実デス。でも、だからこそ託児を続けて実装石の良さをニンゲンさんにわかってもらう地道な活動が必要なんデス」 アナ「ミドリさんにしかできない使命、というわけですね。それではミドリさん。最後にミドリさんにとって託児とは何なのかを教えて下さい」 ミドリ「幸せのお裾分けデス。ワタシの仔を受け取った幸運なニンゲンさんがかわいい仔と一緒に毎日を楽しく過ごしてくれれば、ワタシも満足デスゥ」 アナ「ハハッ…!…失礼しました甲高い声を出してしまいましたことをお詫びします」 ミドリ「…!?」 アナ「なお、ミドリさんに託児を受けた被害者による報復の会がこのあと別のスタジオで行われます。その様子はJHKプレミアムで本編と共にご覧になることができますので、未加入の方はこの機会に是非ご加入を検討ください。ちなみに私も被害者の一人です。それではミドリさん、ありがとうございました」 ミドリ「ありがとうご…デゲッ」 ミドリはアナウンサーに蹴り飛ばされて画面外にフェードアウトし、番組はエンディングになった (…そして次週) アナ「JHK『職人の技』をお送りします。本日は実装石加工の匠、双葉(ソウ・ヨウ)さんをご紹介します。双葉さんは実装石加工の仕事をされて30年とのことですが、この実装石加工とは一体どのようなものなのでしょうか?」 双葉「実装石を色々なモノに加工しますネ。生きたまま剥製、ぬいぐるみ、車、ロボット…なんにでもできますネ。寿命も伸びる。10年から20年は生かせますネ」 アナ「芸術品に仕立て上げることができるというわけですね。それでは実際にこちらの実装石を加工して頂きたいと思います。双葉さん、宜しくお願いします」 一週間の間、託児被害者から殴打されてボコボコになったミドリが「デエエ…」と蠢く。 もはや抵抗する気力もないようだ 双葉「一番長く生きるコースネ。難しいけど頑張りますネ。施術中はちょと苦しいヨ。最初にハタワタを取って、蝋を流し込んで…」 ミドリ「デヒィ!やめるデス!ワタシ何も悪いことしてないデスゥ…!」 …… … その後、JHK社屋の前に飾ってあるマスコットキャラクターの銅像から「デエエンデエエン」と実装石の切ない鳴き声が聞こえるようになったという (終) -------------------------------------------------------------------------------------------------------- ③「後悔」 利明「はあ…会社クビになっちまった…これからどうしよう」 利明は縁故採用で勤めていた会社でうだつの上がらないサラリーマンをやっていた しかし、ある日に魔が差して横領をやらかしてしまった 事実関係を全て認めて金銭を返還すると金額が少なかったことと、縁故採用だったこともあって自主退職で済ませてもらったが… 退職金も出ないしボーナスをあてにして車のローンを組んだばかりで絶望しか無かった 就職活動をする気もおきずに公園のベンチでだらだらしていると… 姉仔実装「遠くまでお出かけテッチュン」 妹仔実装「オネチャ待っテチ、危ないテチー!」 姉妹であろう野良仔実装がテチテチと走り回っていた 野良実装石が人の目につくところにいるなんて珍しいな…と眺めていると 小学生男子「おっ 糞虫はっけーん!」「やっちまおうぜ!」 案の定、学校帰りであろう二人の小学生男子に捕まってしまった こんな時間に公園の往来でうろついてるのが馬鹿だよなぁ… 仮にも野生生物だろお前ら 小学生男子「禿裸だ!禿裸の刑だ!」「テチャアアアア!」 処刑の開始は一瞬だった 小学生が姉仔実装の髪を両側から引っ張るとブチブチィ!と音を立てて後ろ髪が引きちぎられる 間髪を入れずに服を掴むと、これも一気に引きちぎる 思わず姉仔実装はブリブリブリと音を立てながらパンコンをする 小学生男子「キッタネー、パンツは触りたくないから許してやるか。でも髪はだめだ」 前髪をつかまれると姉仔実装は泣きながら「テ、テ…テチュウ…テッチュン…?」 一生懸命笑顔をつくりながら右手を頬につけて許しを請うが、許されるはずもなく… ブチッ…ベリッ! 抜け毛から肉が剥がれ血が出るほどの勢いで引き抜かれ、姉仔実装の財産はほぼ全て奪われた 姉仔実装「テエエ…!!テスン、テスン…」 もはや抵抗することもなく、脱力している 小学生男子「これでヨシ。じゃあ次はちっちゃいほういくか」 怯える妹仔実装に手を伸ばした瞬間… 小学生女子「ちょっと男子ー 動物いじめるのやめなよー」 同じ通学路なのであろう、同級生の女子から見つかり茶々を入れられる 小学生男子「う、うっせー女子!いじめてねーよ!」「ムカつくな!さっさと帰ろうぜ」 興をそがれた様子で妹仔実装を手で張り倒すと家路についていった 絶望で天を見上げる姉仔実装に、立ち直った妹仔実装はヨタヨタと近寄っていき心配そうに「チィ、チィ」と声をかける… 妹は助かったが、姉の禿裸のほうはもう駄目だな 野良で禿裸だと最悪家族の食料になるか、実装石のトイレで死ぬまで糞を食い続けさせられて保存食にされると聞く それが嫌なら逃げ出して家族の保護なしに一匹で生きるしか無いだろうが、向かう先はどちらにせよ絶望だろう 利明「あいつも俺と同じだ。もう終わりだな」 利明は自分の境遇に姉仔実装を重ねていると… 姉仔実装「テ、テ…!テチイイイイ!!」 妹仔実装「テ、テチ?」 さっきまで気力を失っていた姉は急にいきり立ち、全力で妹を殴り始める 姉仔実装「テチャ!テチャア!」 妹仔実装「テゲッ!テッ!テゲエ!」 利明「…!?え…?なにやってんのあいつ?」 妹仔実装「テゲ…ゲポッ」 妹は姉に執拗に殴られ、血を吐きながら無抵抗になる 姉は半殺しにした妹から服を剥ぎ取り、頭巾を深々と被った 自分より小さいサイズなのでピチピチだし血まみれの前髪のハゲの跡は隠せてないが…なるほど意図はわかった 姉は妹から服を奪い、禿裸を隠して今まで通り生きていこうとしているのだ 妹仔実装「テッ…?テチィ…?」 どうして?と言いたげに手を伸ばす妹仔実装に対して 姉仔実装「テスン!」 姉は体重をかけて足で妹の頭をぐしゃりと潰すと妹は「ヂッ」と断末魔をあげて死に、それを確認して巣に戻っていった 利明「心がつえーな実装石…やってることは糞だけど。でも見習うべきことはあるかもしれないな。俺も這いつくばってでも生きてみるか!」 利明はそう意思を決めるのであった そして数ヶ月が経ち… 例の姉仔実装は親実装に一発で嘘がばれ、妹を殺したことも白状させられた しかし殺されることはなく、温情の糞穴暮らしとなる 姉仔実装「こんなの嫌テチ…イモチャゴメンテチ、許してほしいテチィ…寒いテチ…」 今日も糞穴から気力を失った姉仔実装の悲痛なつぶやきが聞こえてくる 親実装「本当に馬鹿な仔デスゥ…もう謝る妹チャンは居ないデス…もし正直に話してくれれば、ワタシは生きてる限りオマエを守ってやったデスゥ…取り返しのつかないことは髪でも服でもなく、その後にやってしまった事デス」 親実装は出来の悪い姉と出来の良かった妹を思い、泣きながらため息をつく 一方、利明は行動力が間違った方に発揮され、闇バイトで紹介された窃盗等の犯罪に手を染めて逮捕された 闇バイトは複数回行っており、執行猶予なしの実刑となる 拘置所から一人寂しくつぶやく 利明「面会の時、かーちゃん泣いてたな…元気でやっていけるのかな。こんなことなら、悪いことなんかしなきゃ良かったなぁ」 一線を超えてしまった者に対して風が冷たく吹くのは、人間も実装石も同じであった (終) -------------------------------------------------------------------------------------------------------- ④「野良実装応援」 毎日通勤のときに使う公園では寒くなってから野良実装を見る機会はなくなった しっかり準備している奴らは既に巣ごもりをしているし、そうでない奴らは木の実等の食料も無く寒くなってきたこの環境では死ぬだけだ ふと気づくと、ベンチの横に毎日仔実装が一匹だけ寒そうに震えているのが見えた 親実装とはぐれたのか、親実装は既に死んだのか。 この環境で仔実装一匹はもはや死を待つばかりだろう ベンチ横は気まぐれな人間から食料がもらえることもあるし日差しや雨もある程度防げる人気の場所だが、この季節では誰からも相手にされることもないだろう 「お前、どうしたんだ?親はどこいった?」 「ママは…死んじゃったテチ。ちょっと前まで元気だったのに、急に冷たくなってたテチ…」 野良実装の寿命は短い。この寒さでやられたのだろうか? 「そうか…まあ元気だせよ。ほら使い捨てカイロやるよ」 「…これは何テチ?ぽかぽかしてるテチィ…すごいテチ!ありがとうニンゲンさん!」 次の日もその仔実装は効果が切れて冷たくなったカイロにしがみついてた 「よう、もうそれ温かくないだろ」 「あっ優しいニンゲンさん、昨日はありがとテチ。まだまだ温かいテチ!」 もうすっかり冷たい塊になっているそれを新しいカイロに取り替えてやる 「ほら新しいやつをやるよ。がんばって生きろよ」 「…ニンゲンさん…感謝してもしきれないテチ…」 血涙を流して頭を下げる仔実装。野良のくせに、いい子じゃないか それから毎日仔実装にカイロを届ける日が続いた 仔実装は暖が取れるのでなんとか生きてはいるものの、食料は与えてないのでどんどん痩せていっていた 「ニンゲンさん、いつも感謝テチ…あの、ちょっとお願いがあるテチ」 デイリーボーナスと化したカイロを受け取った仔実装はもじもじと言いづらそうに話し始めた いつも控えめで要求などしてこないやつなのに珍しい 「どうした?餌とかはやれないし飼ってもやれないけど、簡単なことならしてやれるぞ」 「…!!テエエ…」 涙をブワッと流して落ち込む仔実装 やはりどっちかの要求だったのだろうか? まあ野良実装の要求などはそんなもんだろう 「野生生物に餌はやっちゃいけないんだよ。マナーの問題だ」 「まなー…?わかんないテチ。ワタチ、もう死んじゃうかもしれないテチ!寒い間だけでいいから飼い実装に」 「ああ、考えてやるよ。またな」 カイロを与えたのはこの厳しい環境でどこまで生きていけるか見たかっただけだ それ以上の世話をするつもりなどはない 次の日、新しいカイロを持って公園にいくとあの仔実装は冷たくなったカイロに噛みつきながら死んでいた 親も居ないのによく頑張ったなと労い、そっと新しい温かいカイロと共に袋にくるんで葬るのだった (終) -------------------------------------------------------------------------------------------------------- ⑤「止まった時間」 俊彰(45)は趣味もなく、金を稼いで仕事を早期リタイアして無職になっていた 金には余裕があり、悠々自適とは言うものの… 親しい友人もいないし仕事もしないとなると、社会とは孤立した存在だ ネットやゲーム以外に趣味もなく、無職になってからは若い頃やっていた実装石飼育に手を出した ただし仔実装時代だけかわいがって育て、成体になる頃にはでかくなって邪魔という理由で殺処分していた 情が湧かないわけではない しかし実装石は仔実装時代でほぼ精神的に完成し、それ以上ほとんど成長しないため飼い続けてもつまらないと感じたためである そんな日々がもう既に5年も続き、購入した仔実装は二桁に登った そのような無生産な生活を続け、外部と関わらない停滞した日々が続いていたのである ある日、俊彰が親族が亡くなったため遠方の葬儀に参加すると 親戚との関わりの中でコミュニケーション能力が以前より欠落していることに気づいた 5年も他人と関わらないことが続くと、端的に言うとうまく喋れなくなるのである 親族からは特に何も言われなかったが、 俊彰「このままじゃまずいのかなぁ…」 と鬱々とした気分になり、数日留守にしてた家に帰ると… 家には妙な緑色の服を着た小人が居るではないか その異物に大いに驚きながら 俊彰「うわっ…だ、誰だオマエ…!」と話しかけると 「おかえりなさいてちご主人様、テチコてち」 と小人?がお辞儀してきた このお辞儀には見覚えがある…飼ってた仔実装のテチコ、なのだろう テチコの飼育ケージには繭が残っており、実装石飼育年数が長い俊彰には実装石がいわゆる人化したのが理解できた 俊彰「マジかよ…」 育成が適正であった場合に偶然に偶然が重なった希少な例だ 喜ぶべきことなのだろうが… テチコは仔実装であった時代から物覚えがいまいちで、そこそこのポンコツであった それが人化してもやはりポンコツである テチコ「これでご主人様のお手伝いができるてち!」 やる気はあるものの何かをやるたびに失敗して逆に迷惑をかけることを繰り返す 掃除にしても汚い雑巾で綺麗な面を拭いて逆に汚してしまう 洗濯にしても洗剤の量も押すスイッチも間違って泡だらけにする 調理に至っては焼くだけの料理も真っ黒焦げにしてしまう そして何より テチコ「ご主人様、もし暇だったら一緒に遊ぶてち」 テチコの後始末に追われて家事をしているにも関わらず、気遣いができない 俊彰「暇じゃねえよ!オメーが家事できないから逆に忙しくなってんだよ!」と突っ込むと テチコ「ごめんてち」 とゲームを起動して一人で◯よぷよを延々と遊び続けている (指ができたらやってみたかったと話していた) 素直で聞き分けはいいやつなのが逆に不満のやり場がなくなる部分はあった 外見は確かに可愛いのだろうが、そういうものは実装石に求めていなかったし大体 「いやかわいいって言っても…ちょっと前まで実装石だったでしょ…」 と変化前を知ってるだけに、所詮外側だけの変化に興味は持てなかった そして一人暮らしのときに比べて倍に増える調理、入浴、掃除、洗濯等の家事と… 何よりテチコは実装フードを食べなくなり人間と同じ食事をとることになったため食費の高騰が痛かった 俊彰「いらねえなぁ…俺は仔実装を飼いたいだけだったんだ…奇跡とか言われるけど無駄に運使った感じだな…」 俊彰はその処遇に悩む 今までのように仔実装が成体になった時と同じく殺処分する…には躊躇うサイズだ 何よりリンガルなしで会話できる生命体に対しての暴力は理性が拒否をした では売買サイトで売るか…とちらりと見る ◯よぷよの積み方だけがうまくなっていく能天気なテチコ… こんなポンコツ、買われた先でろくな目にあわないかもしれない …知ったことではないが テチコ「ご主人様…!10連鎖できたてちぃ…!」 俊彰「…良かったな」 暫く考え、どうでもいいことを重大事項のように報告しているテチコを尻目にスマホで作業を開始した … …… 俊彰は結局、人化したテチコを飼い続けることになる 同時に、増えた生活費分を稼ぐべく再就職した 俊彰は無職であった時代に不満があったわけではないが、漠然とした不安が常につきまとっていた 何か社会とつながるきっかけが欲しかったのかもしれない それがテチコというだけだった とはいうものの… テチコ「おつかれさまてち今日は焦がさずにゴハンができたてち」 帰宅するとエプロン姿のテチコが出迎え、食卓には火の通りが怪しい生姜焼きが出てきた 焦がすよりはまだ焼けてないほうがマシだと教え込んだ成果が出ている ポンコツなりに向上心があり、少しずつ成長するテチコに思うところがあったというのは正直なところだ 長い亜麻色の髪も、洗髪や乾燥に手間がかかるという理由でおかっぱ頭のようなショートヘアーにしたが それ以上伸びてくることはなかった 髪が再生不可能なのは人化したあとも同じなのかと知るのと同時に悪いことをしたかなと感じ、 以前のぞんざいな扱いから徐々に家族らしい接し方をするようになっていた もっとも、当のテチコはその髪型を気に入ったようで暇さえあれば鏡を見ていたのだが 俊彰「なあテチコ、仔実装石飼おうと思うんだけど」 テチコ「えー…そういうのはちょっと…」 普段は無表情なくせに実装石の話題を出すと途端に困ったように眉を曇らせる 俊彰「他のことはすぐわかりましたてちとか言うのに実装石関係は反対するよなオマエ…」 テチコ「それより!早くゴハンたべるてち」 俊彰「…わかったよ。まずはお前の雑な仕事の尻拭いからだ」 テチコ「お手伝いするてちぃ」 話題が打ち切られ、生焼けの肉を焼き直す俊彰にくっついていくテチコはとても楽しそうだった (終) -------------------------------------------------------------------------------------------------------- 過去作 3476【観察】お掃除実装石 3470【哀虐】実装石オークション 3464【ホラー】呪縛 3441【哀愛】祭事実装 3437【哀虐】実装石ブリーダーの苦悩 3420【食哀】実装石のなる木 3416【哀】 幸せな部類の実装石 3405【哀虐】実装石が実装されなくなる世界 3396【虐哀】短~中編色々詰め合わせ2 黒髪系他 3395【愛虐】働く野良仔実装 3368【虐哀パ】短~中編色々詰め合わせ1 テチコ系他 3270【虐観察】楽園とは実装石の産物なり 3240【観察】フォトコンテスト 3199【虐観察】本能と理性の狭間で 3193【虐】里親 3140【虐】ビン飼育 スレや保管庫で読んでいただき、また感想などいただきありがとうございました!
1 Re: Name:匿名石 2025/03/07-16:52:50 No:00009553[申告] |
人化した実装石のスペックって正直こんなもんなのだと思う |
2 Re: Name:匿名石 2025/03/08-00:11:32 No:00009554[申告] |
呪いの名前テチコを付けられたやつが幸福になってるだと… |
3 Re: Name:匿名石 2025/03/08-00:19:48 No:00009555[申告] |
最初の妙に実装託児に寛容な街と2編目のオチのギャップで笑っちゃう
しかし人化って結局手に余るだけよなと思うけどそれが刺激になって重い腰を上げたのは珍しく一応役にはたったなと |