実翠石との生活Ⅲ 短編まとめ3 ----------------------------------------------------------------------- 可愛がられる余地はあるはずなのだけれど 「ん〜っ、気持ちいいです〜」 二人で使うには少々広すぎる湯船に一緒に並んで浸かりながら、実翠石の常磐が蕩けたような声を上げた。 たまにはちょっと贅沢を、と思い、そこそこ知名度のある旅館の内風呂付きのお部屋で、常磐と共にお泊り会と洒落込んでみたのだ。 会社の福利厚生サービスを使ったおかげでかなり安上がりに泊まれるから、というのが主な理由なのだけれども。 「お姉さまのおかげです〜。ありがとうございますです〜」 「たまの贅沢だからね、たっぷり楽しんでね〜」 内風呂の窓の外は、雪が降り積もって風情のある景色になっている。 常磐の情操教育も兼ねて、もっといろんな所に連れて行ってあげたいな、などと思っていたのだが、当の常磐は何故か私の胸をつんつんと指でつついていた。 「お湯に浮いてるです・・・」 「・・・あの、常磐?ちょっとくすぐったいんだけど?」 「お姉さまのお胸、やっぱり大きいです。私のお胸も、お姉さまみたいにならないです?」 神妙な顔で自身の薄い胸と私の胸を交互にペタペタ触る常磐が何だか可笑しくて、ちょっと吹き出してしまう。 私自身、他人よりちょっと大きいかな、と思う程度の大きさなのだけれど。 つるぺったんな常磐に比べれば、まあちょっとは偉そうにしてもいいのかもしれない。 「大丈夫、そのうち大きくなるわよ。ここのお湯は美容にもいいみたいだしね」 そう言って軽く常磐を抱き締めると、常磐も嬉しそうな声を上げて抱き締め返してきた。 「えへへ、お姉さま、大好きです〜♥」 降りしきる雪の中を、三匹の仔実装姉妹が当てもなく歩いている。 『寒いテチ寒いテチ寒いテチ!早く温かい所に行くテチ!』 『ニンゲンさん達、どこ行っちゃったテチィ?』 『あのクソニンゲン共は役に立たないドレイテチ!見つけたらぶっ殺してやるテチャァッ!』 サマードッグ、と言うものが一時期問題になった事がある。 別荘地などで休暇の時だけ飼われて、飼い主が帰る際に捨てられ、その後に野犬化してしまった犬のことだ。 本来であれば休暇の時だけ過ごした後に放り出すなんて許されない、と考えるものである。 しかし、世の中には時たま捻じくれ曲がった思考をする人間が現れるものである。 今回の場合、野生化出来ない程度に弱い生き物なら問題無いだろう、という発想に至った人間が居て、その人間が選んだのが仔実装という訳だった。 見ようによってはかわいいと言えなくもなく、感情表現が豊かで、甘えたがりで、よく懐く。 何より自力で生存出来る能力が皆無だから、捨てても野生化せずに野垂れ死ぬのがほぼ確実である。 こうした点が評価され、産まれたばかりの仔実装姉妹は別荘へと送り出された。 「可愛い仔実装ちゃん達と過ごせる別荘で心も身体も癒せます!」という謳い文句と共に。 別荘に泊まりに来た父母娘の三人家族、その中でもまだ幼い娘は、二泊三日の滞在期間中、仔実装姉妹をたっぷりと可愛がった。 それなりに質の良い実装フードや金平糖をたっぷりと与え、ボール等で思う存分遊んでやり、仔実装姉妹の披露するお歌や踊りを手を叩いて褒めてやった。 夜眠る時は枕元で共に眠ることさえしていた。 仔実装姉妹にとって夢のような時間はあっという間に過ぎてゆき、三日目の午前中に一家が別荘を去ると同時に寒空の下へと叩き出された。 それからというもの、現実を受け入れきれない仔実装姉妹は、人の温もりを求めるように彷徨い続けた。 そのうちすっかり陽も落ちて、あたりは暗闇と寒さに包まれてしまう。 『あっちに光が見えるテチ!』 『きっとニンゲンさんがいるテチ!』 『新しいドレイがようやく見つかるテチャア!』 既に体力の限界を迎えつつあった仔実装姉妹だが、文字通り希望の光を見つけて残された力を振り絞った。 辿り着いた分厚いガラスの向こう側では、仲の良さそうな母娘、あるいは歳の離れた姉妹と思しきニンゲンが二人、仲良さそうに裸で戯れている。 きっとお風呂に入っているのだろう。 仔実装姉妹は、今日の午前中まで仲良くしていたニンゲンの少女に、お風呂に入れてもらった事を思い出していた。 『ニンゲンさん!こっち見テチ!』 『ワタチタチも入れて欲しいテチ!』 『とっとと入れろテチこのクソニンゲン!気の利かないウスノロドレイテチャアッ!』 冷え切った自分達の身体を、温かいお湯でポカポカになるまで温めて欲しい。 そんな一心でペチペチとガラスを叩くが、ニンゲン達は一向に気付いてくれなかった。 そのうちに仔実装達は、ガラスの向こうにいる小さいニンゲンの正体に気付いた。 瞳の色がニンゲンとは違う赤と緑のオッドアイ。 あいつはニセモノだ! ヒトモドキのデキソコナイ、卑しい肉人形の実翠石だ! 『テヂィィィィィィィッ!ニセモノのくせにナマイキテチ!』 『ワタチタチの方がカワイイテチ!ニセモノなんか捨ててワタチタチを飼うテチィ!』 『そんなダッチワイフなんかゴミクズテチャァッ!ワタチタチを飼わせてやるからそんな肉人形なんてとっととぶっ殺せテヂィッ!』 仔実装姉妹は口々に喚き散らし、ガラスを叩き続ける。 顔中皺だらけにして、唾を飛ばしながら喚き、怒りのあまり糞をたっぷりと漏らした姿は、可愛さの欠片も感じられないものだった。 地獄の餓鬼のような醜態を晒している間にも、仔実装姉妹の体力と体温はどんどん奪われてゆく。 誰に聞かれる事もない仔実装姉妹の喚き声は次第に小さくなってゆき、やがてはその命と共に誰に気付かれる事もなく消えていった。 ----------------------------------------------------------------------- かまくら祭り 「かまくら祭り、ですか?」 たまにはちょっとした贅沢を、と実翠石の常磐を連れて訪れた温泉旅館。 雪が降っていて寒いけど、昼食ついでにちょっと散歩に行ってみようか、等と考えていたところ、 仲居さんから近くでかまくら祭りをやっているので、良かったら行ってみてはどうですか、と案内をいただいたのだ。 「お姉さま、かまくら、ってなんです?」 「雪で作った小さなお家、みたいなものかな」 「雪でお家を作るんです?見てみたいです!」 という訳で、興味津々の常磐と共に早速会場に足を運んでみることにした。 「あったかいです〜」 貸出品のドテラに袖を通し、かまくらの中に設置された豆炭こたつに入ると、かまくらの中に居るなんて信じられない程心地よい暖かさに包まれた。 常磐もご満悦のようだし、来てよかったな。 ちなみに、注文すればお鍋やラーメンもかまくらの中で食べられるとのこと。 せっかくだから昼食はここでいただこうと思い、ラーメンを頼む事にした。 「ん〜っ、おいしいです〜」 ちゅるちゅると可愛らしくラーメンを啜る常磐に、私の心も温かくなってくる感がした。 「身体も温まるし、ラーメンもおいしいし、言うことないわね」 常磐と共に貴重な体験が出来て本当によかった。 また常磐と一緒に来れたらいいな、なんて思う私だった。 『テヂィィィィィィィッ・・・!!』 そんな常磐達の様子を、野良仔実装姉妹が寒さに震えながら睨み付けていた。 このような雪の中を仔実装が出歩くなど自殺行為以外の何物でも無い。 だが、積雪で母実装ごと住処を押し潰されてはそのような事を言ってはいられなかった。 幸い、住処の近くでは大勢のニンゲン達が何やら外で美味しそうな匂いを漂わせていた。 せめておこぼれに預かろうとやってきたところで、野良仔実装姉妹は見たくもないものを見せつけられる羽目になった。 忌々しいヒトモドキのデキソコナイが、ニンゲンに寵愛され厚遇される様を。 自分達が住処を失いひもじい思いをしているのに、あの肉人形は卑しく媚びて温かい食事にありついている。 自分達が生まれついての服一枚で寒さに震えているのに、あのニセモノは温かそうな服に身を包んでいる。 何より許せないのが、自分達が生きるか死ぬかの厳しい野良生活に身をやつしているのに、あのダッチワイフは生意気にもニンゲンに飼われていることだ! 寒さと怒りで思考力が半ば麻痺した野良仔実装姉妹は、温かな家と食事を求めて、各々手近なかまくらへと突撃していった。 『ワタチタチにもウマウマよこせテチャァッ!』 『そのお家はワタチタチのものテヂャアァァァッ!』 『飼わせてやるからありがたく思えテチィッ!』 無論、糞蟲地味た態度を隠そうともしない野良仔実装姉妹は、かまくら内の人間達に手荒い歓迎を受けた。 「げっ、糞蟲じゃん」 「こんなところにまで湧いてくんじゃねぇよ!」 「面白いから焼いちゃお!」 『ヂッ!?』 『チベッ!?』 『テヂャァァァァァァァァァァッ!?』 野良仔実装姉妹は踏み潰され、叩き潰され、鍋用コンロで炙られて死んでいった。 雪上の赤と緑の汚い染みも、炭化して放り出された死骸も、まだ降り止まぬ雪に埋もれ、すぐに見えなくなった。 ----------------------------------------------------------------------- 帰りの電車にて 楽しい時間はあっという間に過ぎると言うけど、実翠石の常磐を連れての温泉旅行も瞬く間に終わってしまった。 今は帰りの電車の中で、またいつか二人で来れたら良いな、等と思っているところだ。 車内の暖かさと適度な揺れに眠気を誘われたのか、隣に腰掛けている常磐は既に船を漕いでいる。 寝顔もかわいいな、等と呑気に考えていたら、いつの間にやら電車内は混み始め、立ち乗り客もちらほら見えるようになっていた。 私達の座る席の真横にも、座り損ねたらしい家族連れが立っている。 両親に手を引かれた幼女は疲れているのか、今にも愚図りだしそうだ。 「常磐、悪いけどこっちに来て」 「はいです〜・・・」 私が声をかけると、常磐は半ば寝ぼけながらも私の膝の上に乗り、身体を預けてくる。 「お姉さまのお胸、やぁらかくてきもちいいです〜」 ふにふにと私の胸の感触を楽しむように頬ずりすると、再び常磐は寝息を立て始める。 胸のくすぐったさに苦笑が漏れるが、寝顔の可愛さはそれを補って余りあるものだった。 「あの、よろしければどうぞ」 件の親子連れに声をかけると、ありがとうございます、と礼を言って母親が席に腰掛け、膝の上に幼女を座らせる。 父親が優しげな顔で二人の様子を見守っている事からも、仲の良い家族だと容易に想像できた。 仲の良さなら私達だって負けてないもんね、なんて胸の内で常磐に語りかけながら、私は常磐の体温と電車の心地良い揺れでいや増した眠気に身を委ねた。 『抱っこしテチュ!抱っこしテチュ!』 『ヒトモドキばっかりズルいテチュゥ!ワタチも抱っこしテチュゥ!』 父親が手に下げたケージの中で、飼い仔実装のチュチュは泣きながら飼い主の幼女に呼び掛けた。 ヒトモドキが飼い主のニンゲンに抱っこされ、いかにも愛されてますと見せつけられて(チュチュにはそう見えたというだけ)、 元々甘えん坊な気質が強いチュチュが我慢できるはずもない。 だが、余程疲れていたのだろう、幼女は母親の膝に座ると同時に眠ってしまい、チュチュの泣き声に耳を傾ける事はなかった。 今までは泣けば幼女が必ずと言っていい程言う事を聞いてくれたのに。 『ゴチュインチャマ、こっち見てチュ!ワタチを見テチュ!抱っこしテチュ!』 抱っこされたいという本能、飼い主から無視される恐怖、ワガママの通らない苛立ち。 様々な負の感情がチュチュをさらに駆り立て、泣き声は大きさを増すばかりだった。 ケージ自体は音漏れをある程度防ぐ品質の高いものだったが、それでも漏れ聞こえる程になっては手を打たざるを得ない。 さすがに眉を潜めた幼女の父親が、チュチュを大人しくさせようとケージの中に噴霧式実装ネムリをスプレーする。 自宅に帰り着くにはまだまだ時間がかかるため、目を覚まさぬようにたっぷりと。 『テヒュッ・・・!?テヒッ・・・!?』 致死量を大幅に上回る量の実装ネムリを噴霧されたチュチュは、呼吸困難に陥って指の無い手で喉を掻きむしる。 必死になって酸素を取り込もうとするが、それすらも猛烈な眠気に襲われて叶わない。 飼い主の幼女に助けを求めようにも、声にして吐き出すだけの酸素が得られない。 結果、チュチュは長い時間もがき苦しんで死んだ。 ここ最近のチュチュのワガママに辟易していた両親は、これ幸いと不幸な事故として片付けてしまった。 幼女も幼女で、子供らしい興味の移り変わりのせいか、いなくなったチュチュに大した関心を持つこともなかった。 -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2025/03/01-19:24:36 No:00009540[申告] |
凄い…旅行してるだけで半飼いに野良に飼いに次々仕留めていくぞ… |
2 Re: Name:匿名石 2025/03/01-22:20:58 No:00009543[申告] |
しかしまあ、わんこそば状態で次から次へと破滅していく事
ところでダッチワイフだ等と罵っているが何なら君たちは手作りの使い捨てオナホ以下だぞ? |
3 Re: Name:匿名石 2025/03/03-18:57:21 No:00009546[申告] |
だからこそじゃないの
実装は源流が人形という極論玩具である以上、自分より愉快で面白い同ジャンルのオモチャの登場に耐え切れないんだと思う 存在意義がなくなってしまうから |