【ミドリのストレス解消法~テチコ~】 『チー! ニンゲンサン、ゆるしテチ! ワタチ良い仔にするテチ! しにたくないテチィィ!』 「だめ、お前はあたしのストレス解消の道具なんだから」 脚を折られて逃げられない仔蟲を靴で踏みつけ、あたしはゆっくりと体重をかけていく。 仔蟲は初めこそイゴイゴと抵抗していたけど、次第に骨が折れ始めると呻き声を上げるだけになっていく。 「ほーら、もう少しかな?」 『チィィィ、ヂギィィィィ……ヂッ……!』 仔蟲の断末魔が、自宅近くの小さな森に小さく響いた。 あたしはハンカチで額の汗を拭うと、着ていた白いブラウスに仔蟲の体液とかが付いてないか、ざっと確認する。 前に一度、長く伸ばしていた髪に仔蟲の血が付いてしまってからは髪の長さは肩で揃えているし、 少しくらい服が汚れても学校で遊んでいて汚れたとお母さんは思うだろうけど、 それでも仔蟲の血や体液なんてできれば付けたくない。 髪や服を確認した後で、最後に仔蟲を踏み潰した靴底を近くの土に擦り付けて綺麗にする。 それにしても暑い……もうすぐ夏休みだから当然だけど。 早く帰ってかき氷でも食べよう。 * * * あたしの名前は黒浦緑(くろうら・みどり)。 数ヶ月前にこの『ふたば市』に引っ越してきた小学5年生で、れっきとした人間だ。 だけどこの『ミドリ』という名前のせいで、一部の男子から実装石扱いされいじめられている。 パンコンするか試すとの理由でいきなり叩かれるのは日常茶飯事で、 実装石が生きられないという大分県の水を頭からかけられたこともあった。 酷い時は、本当に穴が一つだけなのか総排泄孔を見せろ、とパンツを脱がされそうになったこともある。 あたしが前に住んでいた田舎の町には実装石がほとんどいなくて接する機会がなかった。 緑という名前も実装石とは何ら関係なく付けたものだとお母さんは言っていた。 ……まあ、それは理解できる。 緑は実装石だけを連想する言葉ではなく、自然の緑などもっと良いイメージで使われることも多いから。 でも、このふたば市では緑と言えば実装石。 害獣扱いされ、一部の人からは虐待の対象となっている存在だ。 そんな訳で日常的にいじめを受けているあたしのストレス解消法が、 家の近所に住む野良実装の一家をいじめることだった。 ……詳しくは前の話『ミドリのストレス解消法』を読んでください。 * * * 夏休みが近づいた夏のある日。 あたしが教室に入ると、教室の隅で騒いでいたクラスのみんなが一斉にあたしを見た。 思わず足を止めるあたしに、男子たちが何かを隠しながら近づいてくる。 そして悪ガキのリーダー格の名野敏明(めいの・としあき)が、ニヤニヤ笑いながら言った。 「遅かったなミドリ。ダメじゃん、仔をほったらかしちゃあ……」 「……? 何のこと?」 としあきが何を言ってるのか理解できない。 仔……? 実装石の人形でも持ってきたの? 「ちょっとやめなよ男子~」 女子たちはそう言いながらも、あたしと男子たちを遠巻きに見ているだけの子がほとんどだ。 あたしは友達が少ないから無理もないけど、ちょっと話したりする子もとしあきの方を怖々と見ているだけで、 止めに入る様子は見えない……男子が持ってるのがただの人形だったらこんな反応するかな? 訝しがるあたしに、としあきは後ろに隠していたものを突き出した。 『……テ、テェ?』 それは、小さな箱に入れられた仔蟲……仔実装だった。 教室の隅で男子たちが騒いでたのは、これを取り囲んでいたのか……。 身長10センチくらいの仔実装は、自分と比べてとても大きな人間が周りを囲んで騒いでいたからか、 オドオドしながらあたしととしあきを交互に見上げている。 「ほら、親仔の感動の再会だろ、もっと嬉しそうにしろよミドリ!」 「……これ、どうしたの?」 「あ? 今朝学校に来た時に、校門のとこにいたんだよ」 「一匹だけで?」 「なんだ、他にも仔を産んだのか?」 「……」 「い、一匹だったよ。なんだよ、怒ったのか? 冗談なんだから本気にすんなって」 他の男子たちにも話を聞くと、周りに親実装の死骸らしきものはなかったそうだ。 この仔実装、震えてはいるけどパンコンはしていないし、臭いもそんなにキツくない。 それでとしあきたちは、あたしをからかうネタにしようと道端に落ちていたビニール袋で教室まで持ってきて 使ってない小箱に入れたそうだけど……。 「これ、飼い実装じゃない?」 「え、飼い実装!? ってことは誰かのペット……?」 あたしの言葉に、としあきが聞き返す。 あたしはその仔実装の服の、野良とは思えないほど綺麗な前掛けを指差した。 そこには『テチコ』と書かれた小さな名札が付いている。 「あなた、テチコっていうの?」 『そ、そうテチ……ゴシュインサマはどこテチ?』 「マジか……どこかの飼い実装を連れてきちゃったのかよ……」 男子たちが騒ぎ出す。 女子たちはそれにつられて「だからやめなよって言ったのに」とか「先生に言った方が良いんじゃない?」とか さっきは見ているだけだった子たちも調子の良いことを言い始めている。 そうこうしているうちに、チャイムが鳴って先生が教室にやってきた。 * * * テチコは、ひとまずクラスで使っていない水槽に入れて、教室の隅に置くことになった。 ちなみにあたしの席は教室の最後列で、テチコの水槽の隣……なんでよまったく。 ホームルームと一時間目が終わると、先生は仔実装を拾ったことを自治体へ連絡しに職員室へ行った。 先生がいなくなると、さっそく男子がやってきて、あたしとテチコを交互に見てからかう。 「おいテチコ、こいつがお前のママのミドリだぞ」 「やめて」 『テェ……? ニンゲンサンはワタチのママじゃないテチ。ママに逢いたいテチィ……テェェン』 「あー、泣いちゃったよ。ミドリ、慰めてやれよ。お前の仔だろ」 「デッデロゲーって唄えよ!」 「「「ギャハハハ!」」」 「……」 テチコのせいでいつもよりの男子からのいじりが強く、心の中に黒いモヤモヤが溜まっていくのを感じる。 あー、今すぐテチコの……この仔蟲の前髪を抜きたい。 後ろ髪を掴んで黒板に叩きつけたい! でもそれをやったらあたしの学校生活は終わる。 ……耐えろあたし。飼い主が見つかるまでの辛抱よ。 ともあれ、今日もいつもの実装一家の仔蟲でストレス解消しないと……! あたしは男子の声を聞き流しながら、下校中のお楽しみのことを考えていた。 * * * 先生が自治体に連絡した結果、テチコは捨て実装だと判った。 飼い主は引っ越す都合で、テチコとその姉妹や親実装を、楽園行きバスに乗せる登録をしていたみたい。 楽園行きバスとは飼い実装を合法的に殺処分するためのシステムで、楽園行きと言ってるけど行き先は焼却場。 でも、飼い主が飼い実装たちとバス停に行く途中で、テチコだけはぐれたらしい。 「……それで、テチコをしばらく教室で飼うことにします。中心になって世話をする人を決めましょう」 先生がテチコの境遇について説明した後、そんなことを言ってきた。 うわぁ、嫌な予感しかしない……。 「はーい、ミドr……じゃない、黒浦さんがいいと思いまーす。 黒浦さんは実装石についてよく知ってまーす!」 やっぱり……としあきの奴がそんなことを言ってきた。 嫌な奴、でもあたしだってやられっぱなしじゃない。 「あの、先生……この仔実装を拾ってきたのは名野くんです。名野くんがやるべきだと思います」 「そうよ、責任取るべきよね」 「あんたが拾ってきたんでしょ、としあき!」 あたしが手を上げて言うと、一部の女子が援護してくれた。 先生は少し考えていたけど、やがてクラスを見回して言う。 「よし……じゃあ名野と黒浦、二人が中心になってテチコの世話をして。 もちろん、他のみんなも手伝うこと。いいね」 「「「はーい!」」」 「げぇ~、ミドリと一緒かよ!」 はぁ……やっぱりこうなったか。 あたしは心の中で小さくため息をついた。 そしてその日のお昼休みは、としあきと一緒にテチコの世話をしてつぶれた。 ただ、一つだけ面白かったのが、男子の中のヒエラルキーに変化があったみたいだということ。 あたしたちがテチコの水槽に入れた器の水を交換していると、 外に遊びに行く男子たちがとしあきにこんな風に声を掛けていった。 「よぉ、夫婦仲良く仔実装のお世話、ご苦労さん」 「なんだと、誰がミドリなんかと……!」 今までリーダー格だったとしあきは、クラスに面倒ごとを持ち込んだのが原因で降格したみたい。 ……ざまあみろよ、まったく。 自分をからかった男子たちに文句を言いに行こうとするとしあきを、あたしは引き止める。 「としあき、いいから早くやってよ」 「くそっ、なんで俺がこんなこと……おいミドリ、テチコのトイレはどうするんだ?」 「わかんないけど……ティッシュを重ねて置けばいいんじゃない?」 あたしだって実装石の虐待をしたことはあっても、飼ったことはないのよ。 ただ、ウンチの量が多いのは知ってるから、ティッシュは大きく広げて重ねて置いた方が良いだろうけど……。 ……などと考えていると、水槽の中のテチコがもじもじしながら声を上げる。 『ワタチおトイレできるテチ! 実はちょっともれそうテチ……!』 「やべっ、早くティッシュ!」 「待って……!」 ティッシュを水槽の隅に重ねて置いてやると、テチコは駆けていってパンツを脱ぎ、 後ろ髪を脇に抱えてしゃがみ込んで、ぷりぷりとし始めた。 「くせぇ!」 「……動物ってのはフンをするし、フンをすれば臭うのよ」 「そうだけどさぁ……」 ただまぁ、臭いのはその通り。 実装石のウンチはとても臭い。それは今まで何度もストレス解消の時に嗅いできたからよく解かっている。 だからあたしは、先生に消臭スプレーを用意してもらっておいた。 これで教室が実装臭くなるのは避けられる。 * * * 翌日、さらに翌日と、あたしはとしあきと一緒にテチコの世話を続け、 溜まったストレスはいつもどおり実装一家の仔実装にぶつけて解消した。 そして、一学期の終業式の日。 あたしととしあきは先生に呼び出された。 先生が言うには、後で調べたところによるとテチコは法的にはもう野良実装の扱いらしい。 なんでも、楽園行きバスに乗せる登録をした時点で飼い実装ではなくなるのだとか。 だから世話が無理だと感じたら先生に申し出てくれれば、あとは先生がどうにかすると言っていた。 まあ、処分してくれるということかな。 でも、そんなことより。 テチコが野良実装と同じ扱い? ……それってさぁ、ふふっ、ストレス解消に使ってもいいってことだよね? 「どうするよ、ミドリ? まだ世話続けるのか?」 「……ふふっ」 「み、ミドリ?」 「先生、夏休みの間はあたしがひとりで世話します……名野くんはもういいよ」 「えっ、いいのかよ。やった、お前いいとこあるな!」 「無理しないようにね。名野も一応は世話係なんだから、気にかけてやるんだよ」 「あ、はい、わかってますって」 としあきは調子の良い返事をしていたけど、どうせ二度とテチコに関わることもないでしょ。 と言う訳で、テチコの世話はあたし一人に委ねられた。 ……そして夏休みが始まった! * * * テチコの水槽を抱え、あたしは帰路につく。 水槽の中のテチコは、あたしのことを世話をしてくれる人間だと認識したのか、 テチュテチュ鳴きながらこちらを見上げ、嬉しそうにしている……その笑顔はいつまで続くかな? 「さぁ着いたよ」 『……テチュ?』 いつもの広場とは別の、放置された資材置き場にやってきたあたしは、 資材置き場の隅に横たわる土管の中にテチコの水槽を置いた。 そして近くに落ちていた適当な長さの金属の棒を土管の隣に突き刺す。 『ニンゲンサン、何してるテチ? ここがニンゲンサンのおうちテチュ?』 「そんな訳ないでしょ。いいから黙って見てて」 あたしはランドセルから結束バンド製の首輪と、それをつなぐチェーンを取り出す。 チェーンを金属の棒につなげて……テチコを水槽から出して首輪を付けてやった。 「ほら、飼い実装の証の首輪よ」 『テェ! くびわテチ、うれしいテチューン! ニンゲンママありがとうテチ!』 「オエェッ!」 『……テチュ?』 「あー、何でもないから気にしないで」 ニンゲンママとか不意討ちで来るのやめてよ……思わず吐きそうになった。 ……で、続きね。さらに首輪とチェーンをつなぐ。 これでテチコの土管ハウスと庭(=鎖で動ける範囲)が完成したよ。 『……テ? ここがおうち、テチ?』 「そうだよ。豪華なお屋敷に住めると思ってた?」 テチコはあたしが用意してあげた土管の家に不満があるみたいで、口を尖らせて文句を言ってきた。 『で、でもこれはおうちじゃないテチ、ただの筒っぽテチ』 「へぇ、文句があるんだ……あたしが用意したおうちに文句を言う悪い仔は……こうよ!」 あたしはテチコの左耳を摘まみ上げると、そのまま高く持ち上げる。 『テェッ!? お耳イタいテチュー! やめテチ、イタいテチ! ニンゲンママ、ゆるしテチィ!』 「ダメ、この程度じゃ許さない。さぁて、どうしようかな……?」 右手でテチコの左耳を摘まんだまま、左手でランドセルからハサミを取り出す。 そしてシャキン、シャキンとハサミを鳴らして見せると、テチコはハサミに気づいたのか、 手足をイゴイゴさせてどうにかあたしの手から逃れようとする。 『それは怖いテチ、駄目テチ! わがまま言ったのは謝るテチ! だからやめテチ!』 「何をやめて欲しいの?」 『そ、それで髪さんを切るつもりテチ!? それだけはダメなんテチィ!』 さらにイゴイゴと暴れるテチコは、とうとうパンコンまでしてしまった。 ちゃんと躾をされて、仔実装にしては綺麗に保っていたと思われるパンツが、緑色に染まって膨らんでいく。 「あーあ、仮にも元飼い実装なのにパンコンしちゃって……わかったよ、そこまで言うなら髪は切らない」 『ほ、ホントテチ!?』 「うん、だって、元々こっちを切るつもりだったからね」 ————シャキン! 『テッ……!?』 テチコの体が、地面に落下する。 続いて、あたしが右手から放したテチコの左耳が、その顔の上にぺちゃり、と落ちる。 『ヂィィィィィッ!?』 テチコが頭の片側を血に染めて泣き叫んだ。 そう、あたしが切ったのはテチコの左耳。 『ヂヂィィィィッ! わ、ワタチのお耳ィィィ!』 さらにテチコは泣き叫びながらその場に座り込んで手をイゴイゴさせているけど、 落下の衝撃で脚が折れたみたいで、あたしから逃げることもできないみたいだ。 「痛かった? あたしもね、心が痛いんだ。毎日毎日、男子から実装石呼ばわりされて嫌になる。 でもね、お前みたいな仔蟲を虐めるとスカッと心が晴れるのよ……だからあたしのために死んで」 『ヂュワァァァァァァッ! たすけテチャーーーーーーッ、ママ、ママァァァァァァ!』 血涙をだらだら流し、鼻水と涎もまき散らし、緑色に染みたパンツをさらに膨らませ、 テチコは小さな両手をイゴイゴさせて必死に泣き叫ぶ。 それを見たあたしは、身体の奥に火が灯った様に熱くなるのを感じていた。 「残念だけど、お前のママはとっくに処分されてるよ」 『そんなの嘘テチィィィ! ママはラクエンに行くって言ってたテチィィ! ママ、ゴシュインサマァ、早く助けに来テチィィィィ!』 「……楽園って焼却場のことだから。お前のご主人様は、お前たちを捨てたんだよ」 『チュアアアアアアアアア! 嘘テチャァァァァァァ!』 泣き叫ぶテチコを見下ろしながら、あたしはハサミを右手に持ち替えてテチコに近づけた。 はぁはぁ……あぁ、身体が熱い。夏だもんね……こう暑くちゃ息も荒くなるよね。 「そうだわ、ダルマにしてみようかな……前にネットで見たのよ、ダルマ実装」 『テヂャーーーーーーーッ!』 「まずは折れて動かない脚から逝ってみようか」 ————シャキン、シャキン! 『ヂギャアアアアアァァァァ!』 「あっ……!」 両脚を切り落とした表紙に血が飛び散って、お気に入りの水色のワンピースに血が付いちゃった! もう、やだなぁ……帰ったらお母さんに気づかれる前に洗わないと。 そうと決まればさっさとダルマにしてしまって帰ろう。 あたしはヂーヂー騒いでいるテチコに、再びハサミを近づける。 「ほぅら、あとは腕だけだよぉ」 『ヂー、ヂィィィ……! ……ヂュ……ヂュゥ……』 「あれ、もう元気なくなっちゃった? じゃあ一息にやっちゃおうか」 痛みに耐えているのかぎゅっと目をつぶっているテチコに、あたしはそう言い放つと、 胸の前で縮こまらせている腕を摘まんで広げさせ、ハサミをあてがう。 ————シャキン、シャキン! 『ヂィッ、ヂヂュッ!』 「できた、ダルマ仔実装」 『……ヂィィ……』 手足を失ったテチコは、全身のあちこちから血を流して小さく泣きながら地面に転がっている。 うーん、でもいまいちダルマっぽくないな。 やっぱり髪が残ってるのと、服があるからかな? 「ごめんねぇテチコ、やっぱり髪が邪魔なのよ」 『ヂィ……?』 「でも、約束したもんね、髪は切らないって」 『し、したテチ……髪さん、きらないでテチ……』 テチコは弱々しく返事をする。 まだ喋る余裕が少しはあるらしい……実装石はこういうとこ丈夫だよね。 「約束したよ、切らないって……だから毟るね」 『テッ……テチャ、テチャァ……!』 ふふっ、約束は守る。でも髪は奪う。 それが理解できたのか、テチコは絶望的な表情で小さく泣いた。 あぁ、たまらない……夏だからという理由だけじゃなく、身体の奥がさらに熱くなる。 ————プチップチプチッ……ブチィッ! 『テヂュゥゥゥゥ……!』 「さぁて、ついでに脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」 ————シャキシャキ、シャキン! あたしはテチコの前髪と後ろ髪を毟り、血まみれになっていた実装服を切り裂き、 ついでに残っていた右耳を切除し……これでテチコはすっかり禿裸ダルマになった。 パンツも切っちゃったから、ウンチがブリュブリュ漏れて臭いったらないけど……。 ……まあ、初めてのダルマ制作にしては上出来かな。 「ねぇテチコ、今どんな気分? ……テチコ?」 『……テェ……』パキン 「あ」 仰向けに転がったテチコは、虚ろな目を宙に向け口からは舌をだらりと垂らして死んでしまった。 その目はどす黒く濁っていた。 * * * うーん、いきなり飛ばしすぎたかな、もったいなかったかも……。 でも、心はスッキリ気分爽快、って感じだわ。 あとは……。 「気づいたら服が血まみれになってる問題を解決しないと、かな……」 ワンピースのあちこちに血の跡が付いているのはマズイ。 お母さんにバレたら大変なことになるし、早く帰って洗わないと! こういう時、お小遣いを貯めて実装ショップで買っておいた大分の水が役に立つ。 ……と、あたしが資材置き場を出ようとした時だった。 「よ、よぉミドリ……」 「あ……としあき。な、なんでこんなところにいるの?」 としあきが、いつの間にか資材置き場の入り口に立っていた。 この資材置き場の位置的に、あたし以外の子が来ることはほとんどないはずなんだけど……。 なんかまずくない、これ? としあきはあたしのワンピースに付いた血の跡が気になるのか、視線を動かしながらオドオドと口を開いた。 「あ、あの……やっぱテチコの世話をお前ひとりに任せるのは悪いと思って。 手伝おうと思ってさ、お前の後をつけたんだよ。そしたらこの資材置き場に入っていくのが見えてさ……」 ……まさか、見られた? どうしよう、学校で言いふらされたらあたしは終わる。 先生に呼び出されて親にも連絡されて……やばいやばいまずいまずい! 「お前、実装石の虐待ずいぶん手馴れてるな? なんかコツとかあるのか?」 「……は?」 「実は俺も実装石の虐待は興味があったんだけど、いざやるとなるとビビっちゃってさぁ。 テチコの世話を任された時も、これで実装石に慣れたら虐待に手が出せると思ったのに、 なんかちょっとテチコかわいいかもとか思い始めちゃってさ。 でもミドリ、お前はあんなためらいなく手足を切り落としたりできてスゲェなって……。 なんか心構えとかあったら教えてくれよ!」 うわっ、なんか早口でまくし立ててる。 でも、なんか良さげな流れっぽい? 少なくとも言いふらされることはなさそうな感じ? あたしは笑みを浮かべてとしあきに近寄り、言った。 「教えてあげても良いけど……他の男子には内緒だよ?」 「お、おぅ」 としあきは顔を赤くしながら、小さく頷いた。 なんだ、憎たらしい奴と思ってたけど、意外と可愛いとこあるじゃない。 今までのことを水に流すかは別としても、ちょっとつきあってあげるくらいはアリかもしれない。 ……「こっち側」に引き込んじゃえば、あたしのストレス解消法を告げ口される心配もなくなるし。 「じゃあ、さっそく明日。野良実装を探すところから始めよっか」 いつもの広場で手なずけてある実装石をとしあきに教えるのはまだ早いから、まずは野良実装を見つけないとね。 「明日、朝8時にこの資材置き場に来て」 「……わ、わかった」 これで友達の少ない夏休みも、少しは楽しくなる、かも? ありがとうテチコ、お前のおかげ……かな? ついでに、二学期はストレスが溜まることのない学校生活になればいいなあと願っておこうっと。 最後に。 テチコは広場で遊ばせていたらカラスに突かれて死んだと、先生には言っておいた。 先生は「あまり気を落とすなよ」と言っていた。 うん、簡単に死なせちゃったのは、少し反省してます。 おわり ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 『双葉発楽園行き』の設定を一部お借りしています。
1 Re: Name:匿名石 2025/02/27-02:29:29 No:00009535[申告] |
廃棄漏れ糞仔蟲もクソ教師なんかよりはよっぽど役に立ったね
結果としてこれが緑の立場好転の切っ掛けに繋がればいいが |