タイトル:【哀虐】 実装石オークション
ファイル:実装石オークション.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:670 レス数:4
初投稿日時:2025/01/30-00:40:37修正日時:2025/01/30-01:09:35
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「実装石オークション」

「じそや」は実装石の通販最大手の企業だ
店舗を持たず、通販特化でほぼ業界最安値
そして生体から用品まで多くの品揃えで他の追随を許さない

一方で生体の品質に関しては賛否両論があるが、そこは低ランクの実装石の場合だ
営業の努力でトップブリーダーと専属契約を行い、高級種に関しては町のペットショップでは太刀打ちできないレベルを独占していた
当然、そういったものは値も張るのだが…
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そして半年に一回、じそや本社がある街で実装石オークションが開催される
本日がその日であった
多目的ホールを貸し切って、じそやの選りすぐり実装石を競売という形で販売するのだ
参加するだけでも3000円の入場料を取られるのだが、毎回そこそこの客が入る
今日集まっている客は100人ほど…

それぞれの客は赤いバッジ、緑のバッジのどちらかをつけている
赤いバッジをつけているのが虐待派
緑のバッジをつけているのが愛護派だ

オークションにかけられる実装石達には、事前に愛護派or虐待派に競り落とされたらその後
概ねどういう待遇になるのかを教育を受けて知らされている

緑のバッジをつけている客が手を上げて競りの値段を叫ぶたびに期待の表情、
赤いバッジの客が手を上げるたびに絶望的な表情になるなど、一喜一憂している

それともう一つ…
実装石は善行を積むことでシアワセになる可能性が高くなると教えられている
信心や宗教観など無さそうな生物の割には不思議とそういった話には敏感で、
「良い仔で居れば愛護派に飼ってもらえる」と思い努力するようになる
これは知能の高い個体ほど顕著な傾向だった

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オークションは滞り無く行われていた
中古の元飼い実装やマニア向けの珍種など、普段であれば売買されないものも
出品されており、その全てが良かれ悪かれ新たな飼い主と出会っていた

じそや店員「はい!そちらの緑のバッジのお客さん、20万円で落札です!」
愛護派のバッジをつけた客に競り落とされた実装石は満面の笑顔で頭をぺこぺこと下げ、客…いや、ご主人様に感謝を伝える
そしてご主人様に頭を撫でられつつ舞台裏へ行き、売買契約を行うのだ

このような売買が繰り返され2時間弱経過し、会場に中だるみの雰囲気が出てきた頃ようやくメインイベントが開催されることになる

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じそや店員「では次は本日のメイン実装となります!」
にわかに会場がざわめき立つ
じそや店員「今日のメインは天然ものの高級黒髪仔実装!知能が高く、数年に一度出るかでないかのレアものです!」

黒髪仔実装がぺこりとお辞儀をする
その立ち居振る舞い、気品、髪の毛の艶…たかが仔実装に美しさまで感じる
オークションに出ている他の実装石のレベルもかなりのものなのだが、こいつの格は飛び抜けているのがわかる
「おおー!」と観客からは歓声が上がった

じそや店員「さらに育て方によっては人化チャンスが潜在される「繭」も体内に確認されている、超優良個体!皆様張り切ってご参加ください!」

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観客A「ただでさえ天然物の黒髪の上に、繭付きかよ…天井知らずの値段になるな」
観客B「人化なんて怪しいもんだけどなー 値段は上がるよなぁ」

人化などおとぎ話のようなものだ
かつて実装石がブームになった時にこぞって愛好家が人化に挑戦したが、そうなる例はほぼ報告されていなかった
しかし近年、数千体に一体だけ体内に繭を作る機能が備わっているとわかると…

「その繭は何のためにあるんだ?」
と考えるのは当然だ。そして
「人化するにはその繭による進化が要るんじゃないか?その繭のある個体を愛情深く育ててやれば…」
そう考えて未だにブリーダーや愛好者が挑戦しているが、成果は出ていないようだ

眉唾ものの風説ではあるが、繭がある個体はただでさえ優秀であることが多い
さらに黒髪のこの個体ならばもしかして、と思わせる何かがあるのは確かだった
なにせ実装石の可能性は無限大だ
もっとも、その可能性のために繭なしの個体はハズレとして大量に処分されていた時期もあったようだが

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俺は今日、この個体のためにオークションに来たのだ。愛護派の緑バッジをつけて一番前の席で様子を見ていた
黒髪仔実装は中央にちょこんと座り、ことの成り行きを伺う

アピールは自由にしていいことになっており、他の個体はダンスをしたり算数ができることを示したり、
掃除道具を持ってきて人間のお手伝いができることを見せる仔もいる
だが、この高級種は慌てず騒がず、泰然と自分の運命を受け入れる様子を見せてきた
さすがのレア物といった風格だ

じそや店員「アピールタイムは以上のようです!それでは…オークション開始します!1万円からお願いします!」

俺「…50万!」
じそや店員「おっといきなり50万から開始です!」
会場からため息が出る。レアものでも実装石に50万はなかなか出ない価格だ
黒髪仔実装は愛護派の緑バッジをつけた俺の一声に、「テチィ♪」と微笑みを見せて応える

虐待派「…60万」
少し間があり、赤いバッジの虐待派が上を行く
俺&虐待派「62万」「65万」「68万」「…70万」

少しずつ積み重ねられていく金額…オークションは俺とその虐待派の一騎打ちの様相だった
会場の観客「おお…」
どよめきの声といい、かかる時間の長さといい、会場は異様な雰囲気につつまれていった

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観客A「なあ…あの赤いバッジつけた虐待派の人、テレビで見たことあるぞ。実装石研究者の…双葉とかいう人じゃなかったっけ」
観客B「ああ、毎回参加して優良個体を競り落としてるぞ。高級種でも容赦なくエグい虐待して殺すんだよなぁ」
観客A「何もそんな高いのを虐待しなくてもいいだろうに。黒髪とか繭とかも意味ねーだろそんな虐待して殺すんならさあ」
観客B「まあ、実装石の才能やら努力を無に返すのが好きな層もいるんだよ」

黒髪仔実装「テ…」

備え付けの実装リンガルで実装石と観客の声は双方向に伝わるようになっている
すました顔で成り行きを見守っていた黒髪仔実装は、平静を装っていたのだろう
「すぐ愛護派のニンゲンさんが競り落としてくれるはずテチ」
そう考えていた状況とは違う、その空気に耐えられず少しずつ顔は汗を吹き、表情が歪んでいっているのがわかった

黒髪仔実装(ワタチは今まで、一生懸命頑張ってきたテチィ…ちゃんと幸せになれるはずテチ)
黒髪仔実装(…あの緑のバッジの愛護派のニンゲンさんが買ってくれるはずテチ!)
今まで一生懸命努力をしてきた。能力に対しての自負もある
報われないわけがない

黒髪仔実装(でも、でも…万が一そんなギャクタイ派の人に飼われたりしたら)
黒髪仔実装(今までの努力…そしてママ、パパ、蛆ちゃん…みんなの思いが、無駄に…なるテチ…)

いくら優秀とはいえ仔実装だ
一瞬でも悪い想像をしてしまったあとは、どんどん不安に押しつぶされそうになっていった

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その後も一騎打ちは続き…ついに行くところまでいった
じそや店員「さあ最高額はそちらの赤いバッジのお客様、90万円です。他に居ないですか?」
すっかり俺にすがるような目で見ている黒髪仔実装…意を決して大台に乗せる

俺「……100万!」
俺は魂を吐くようにコールする
黒髪仔実装は両手を合わせながら懇願する
さっきまでの冷静な態度は、もう精神が無理なようだった
無理もない、虐待派になど飼われたら一生は台無しだと教え込まれているからだ

虐待派「…120万」
俺「くっ…」
一気に大きく上積みをされて俺はうなだれる
黒髪仔実装「テエエ…!」
俺にすがるように涙目になりながら、切なそうな鳴き声で訴えてくる

じそや店員「おおっと、120万が出ました!…さあ他にいませんか?」
すがるような目で見る黒髪仔実装に対して
俺「ごめんな…これ以上は無理だ」
と手を合わせて謝った
じそや店員「はい、120万円でそちらの赤いバッジのお客様が落札です!」

黒髪仔実装「テー!!」
運命が決まり、悲鳴のような声をあげる
黒髪仔実装「テチィ…テエエン、テエエン…」
どうしてと言いたげな表情で俺の方を見ながら、すっかり泣きじゃくってしまった黒髪仔実装を尻目に俺は会場を後にするのだった…

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俺「ふー、これで給料1万円ゲットと。しかしこれは気を遣うぜ」
もうお気づきだろう。俺はバイトのサクラだ。あのオークションはほとんどがやらせなのだ

既に買い手がついた上客にオークション形式で競り落としてもらうことで、愛護派に助けてもらった個体は更に従順ないい仔に
虐待派に買われた個体はその過程のリアクションまでも楽しめるというわけだ

参加者からは入場料ももらえて店は大儲かり…当の実装石達にとってはどちらにせよ寿命が縮まる思いだろうがな
まったく実装石商売は地獄だぜと思いながら得た金で美味い飯を食いに行くのだった

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あの後、ふと例の黒髪仔実装がどうなったか気になって調べてみたが…
落札者が有名人ということもあり、ネット検索すればすぐに辿り着けた
しかし、予想通りだが調べなきゃ良かったと少し後悔した
(しかも有料コンテンツのため3,000円も払った)

あの仔実装は落札されて持ち帰られてから、毎日総排泄腔を中心に丹念に破壊され
その後も肉体を原型を留めないほどに破損されたあと
偽石と脳と目玉だけ神経を繋がれて、ビーカーに液体で漬けられた状態で生かされ続けているらしい

虐待派双葉氏「脳が萎縮しているので基本的にはもう刺激には反応しませんが…」
虐待派双葉氏「こうやって髪や繭を叩くと精神活動を行っている、つまりまだ生きているというのがわかります」

そう言いながらかつて黒髪仔実装の所有物であった髪や服、繭をハンマーで殴るのを目玉に見せてやると、
備え付けの機器で表示されている脳波が乱れる

虐待派双葉氏「服についてはそこまでの反応じゃないですね。でも髪と繭を傷つけるのはやめろと言ってるんですかね。意外でした」
そのままハンマーでガンガンと叩きつけて叩く部分で反応が変わるのを見せつける
虐待派双葉氏「髪と同じくらい、繭という部分についてもここまで固執があったのは発見です」

反応しなくなれば楽になれるのに、どうしても反応してしまうのだろう
おそらく、その残った精神の残渣が完全に擦り切れるまで…

あの黒髪仔実装がどんな生い立ちで育ち、どう生きたかったのかはわからないが
幸せな飼い実装生活、そして人化…その夢を見るだけの素養はあったのだろう
しかしその夢もそれに向けた努力も、誰に飼われるかで全て決まってしまう
ここまで残酷な結末ではないにせよ、もっと言えば実装石に限らず店売りの生体なんてそんなものかもしれないが…
運と言ってしまえばそれまでだが、少し運命が違えば幸せを得られる未来もあったのだろうな

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俺「うーむ胸糞だ…飼うつもりなんて無かったけどちょっと実装石飼ってみるかな…せっかくだし、じそやで注文してみるか」
人間との出逢い一つで実装石の一生は変わる
もしかすれば、素晴らしいめぐり合わせもあるかもしれない

早速ネット上で実装石初心者用の仔実装付きの飼育器具セットをポチッと注文すると
数時間後には玄関のチャイムが鳴り段ボールに梱包されたセット一式が届く
俺「早っ!」
さすが業界最大手じそや…レベルが違うな

良い仔なら俺が幸せにしてやるぜと前のめりな気分で注文したわけだが…
届いた仔実装はクズ個体で、暫く飼ってみたもののこんなもの育てるのは無駄だと感じて禿裸にして、
飼育セットごとゴミ袋行きにすることにした
やはり安いものはそれなりの品質になるわけか…

後悔と共に実装石は飼わずに遠くから見ているだけで十分だなと実感し、
今度はオークションに冷やかしの観客として参加してみるかなと思いながらゴミ袋の口をぎゅっと縛るのであった
(終)

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1 Re: Name:匿名石 2025/01/30-13:35:00 No:00009491[申告]
黒髪が不幸になるのめっちゃ好き
2 Re: Name:匿名石 2025/01/30-21:33:17 No:00009492[申告]
実装石に仕組みを認識させた上に赤緑バッジで解り易くかつリンガルで明確に状況把握させる
丁寧な仕込みで側から見れば露骨に仕掛けがあるのが透けて見えるのに所詮賢いとは言え仔実装が澄まし顔をあっさり引っ剥がされ狼狽する様は流石業界ナンバーワンな見せ物
主人公もハマりそうだな素質を感じる
3 Re: Name:匿名石 2025/02/03-04:50:08 No:00009500[申告]
人化ってホント気持ち悪いな…実装石好きなんじゃなくてただの幼女趣味じゃないか…
4 Re: Name:匿名石 2025/02/15-23:01:45 No:00009518[申告]
黒髪に自然発生?の天然ものがあるとか繭が胎内にあるかどうか確認して可能性を調べられるとか
面白い設定だわあ
人と交わった結果の黒髪ってただ気持ち悪いけど自然発生だとどうなるんだろう
まあ同族から疎まれたり今回みたく道具として扱われたりろくな事にはならなさそうだな…
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