※ホラー要素があります 実装石要素薄め ---------------------------------------------------------------------------------------- 「呪縛」 「はー、完全に道を間違ったな…あそこの分かれ道を一本早く曲がっちゃったか」 温泉からの帰りで、ついついドライブをしようと寄り道をしたところ道を間違えて山奥に来てしまった 一度来たことがあるからと油断してカーナビもつけずに来てしまった、失態だ 「しゃあない、素直に30分くらいかけて戻るか…ん?」 ふと、山の中に一軒の古い家屋があるのが見えた 壁の色はくすみ、ボロボロになっており見るからに廃屋だ 周りは森だ 木だらけで畑や畜産などの農業をやっている風でもないし、昔はこんなところに誰が住んでいたのだろう? 「かつての住人は…林業か何かしてた人か、職人のたぐいか?もしかしたら人嫌いのひねくれものとか?」 打ち捨てられて朽ちた昭和の雰囲気の家屋を見ていると… 少しノスタルジックな気分になり車から降りて近寄ってみる すると、玄関の引き戸が1/3くらい開いているではないか ---------------------------------------------------------------------------------------- 「誰か住んでる、わけじゃないよな」 こんな山奥だ。近くに俺の車以外は停まってない 近隣にもバス停なども見当たらないし、人は居ないだろう 廃墟マニアにでも荒らされたのかな、と中をちらりと覗いてみる かび臭くほこりっぽいが、そんなに散らかってはいないようだ 「お邪魔しますよっと」 入るつもりはなかったが好奇心からついつい入ってしまった どんな状況であれ人の家に入るのは悪いこととは知りつつも、興味が勝ってしまったのだ 玄関から靴をはいたままあがると、木製の引き戸の奥は居間だった かび臭さについ咽せ込んでしまうが、中は思ったよりも散らかっていない というより物があまり無い おそらく、かつての住人は普通に引っ越しをしたのだろう レトロ感のあるちゃぶ台、もう動かないであろう黒く煤けたストーブ、籐で作られた小物入れ… 不必要だと判断され打ち捨てられたものだけ、時間が止まっていた ---------------------------------------------------------------------------------------- 「ただの空き家だったな…ん?」 奥に続く部屋の障子を開けてみると、菓子パンやビールの缶などが散らばっていた そして床に敷いてある小汚い毛布… 玄関が少し開いていた理由がわかった。ここにはホームレスなどが住んでいたのだろう でも、どうやってここまで来たんだ? こんな山奥まで、わざわざ車で来て、住んで、帰っていったのか? 謎は深まるばかりだが、ふと不安が頭をもたげてくる まだ探索していない部屋もあったが、一つの可能性を考え、少しぞっとした もしかしたらそのホームレスの死体でも見つけてしまったら寝覚めが悪いなんてもんじゃない 早々に立ち去ろうとしたとき… 比較的新し目の、リュックが目についた あきらかに家の物品とは時代と合っていない ここ最近のものだ おそらく推定ホームレスのものだろう その横に、しがみつくようにしている、くすんだ緑色の物体… よく見ると、実装石の死体があるではないか 顔はミイラのように浅黒く干からびているため、表情は読み取れないが 首についているくすんだ赤色の首輪 助けを求めるようにリュックにしがみつくその様子 「お前のご主人のものか…」 おそらく、ホームレスの飼い実装だったのだろう 干からびているとはいえある程度の大きさなので、飼い実装としてかわいがられていたのだろう その飼い主がどうしてこの廃屋にきて、どうしてこいつを置いてどこかに行ったのか 全てわからないが ---------------------------------------------------------------------------------------- 不謹慎だが、その実装石が飼い主を求めて必死に手を伸ばす様子が「美しい」と感じてしまった 悪趣味ではあるがちょっとコイツをスマホで写真を撮って、退散しよう… とカメラモードで構えると、ひどくブレてしまった 「あれ?なんでこんなにブレるんだ」 薄暗い部屋だからかなと再度撮ろうとすると (霊障の強い場所では撮影できません) と気味の悪いエラーメッセージが出た 「え、なんだこれ…」 不気味な雰囲気の廃屋に居ながら見たことのないエラー表示に全身に鳥肌が立ち、冷や汗が吹き出る するとその時、実装石の死体の手がリュックから離れ、どさりと地面に落ちる 「ひっ…!」 生きているわけがない…! ただ俺が入ってきた時の振動で、手が離れただけだ…そう考えるが、恐怖心は加速していく 一刻も早くここを出るよう本能が訴えかけ、 「失礼しましたー…」 と誰に言うでもなく、こそこそと静かに家を出る ぴしゃりと玄関の戸を閉め、一目散に自分の車に走り乗り込んだ ---------------------------------------------------------------------------------------- 「はぁ、はぁ…何だったんだ、あれ。確かに死んでたよな?」 いかに生命力が強い実装石であれ、あの状態では完全に死んでいたと思う… 「…そしてなんでカメラであんな表示が出たんだ?」 全身から震えが止まらず、急いで車を発進しようと思うが…その前に。 ふと最初にブレて撮影してしまった、あの実装石の死体の写真を消さなきゃいけないと感じた おそらく、撮影してはいけないものだったのだろう 消そうと写真を見返すと… 「うわああああ!!」 思わず叫んでしまった 撮ったのはピントがぶれている実装石のミイラの写真…のはずが… そこには絶望の表情で血涙を流しながら何かを叫ぶ実装石が写っていた やつれた顔、見開いた緑と赤の目、歯をむき出して開いた口、きれいな赤色の首輪… 俺が見ていたミイラとは別物だが、何か助けを求めて伸ばす手はそのままに。 俺はこれでもかというくらい汗を垂れ流しながら、急いで写真を削除した ---------------------------------------------------------------------------------------- 車を飛ばし、家路につく 今度こそ道に迷うこと無く帰ることができた 落ち着いた今でも、あれが何だったのかはわからない スマホカメラのエラーも、あんな表示が出るわけがないのだ 廃屋の雰囲気に惑わされて見た幻なのだろうか? 今では野良実装を見ただけでも少しどきっとしてしまう しかし、今となってはあの実装石が少し不憫ではある 魂なんてものがもしあるのならば、救われていないのだろう この先もずっと助けを求めてあの古い廃屋にずっと囚われている、あの実装石のことを考えると… 恐怖とはまた別の、物悲しい気持ちが湧いてくる (終)
1 Re: Name:匿名石 2025/01/07-18:52:07 No:00009459[申告] |
思ったよりガチホラーだった
取り残された実装石がちょっとかわいそう |
2 Re: Name:匿名石 2025/01/07-19:08:16 No:00009460[申告] |
構って欲しがりの実装石がよりによって人気の無い寂れた廃墟で地縛霊に成り果てているのは何というかこう本当に救いがないものがあるな |