路傍の雑然とした小さな空間は空き地。 管理者の手が長らく入っていない様子で、そこにはダンボールハウスが点在する。 実装石の集落だ。 それらは古びていたり真新しかったりと、それぞれに暮らしがあることを伺わせた。 その中の一つのハウスに住まう実装家族は、他の家族同様に季節に苦しんでいた。 「ママァ……サムイサムイのコワイコワイなんテチィ」 「ダイジョウブデス、ママがついているデス」 「テェェン、がんばるテチー……」 「イモチャ、ワタチもいっしょテチ!がんばるテチュ」 雑巾をかけ布団にし、寄せ固めた落ち葉を敷布団にした寝床で母仔が身を寄せ合う。 外は雪、雪国ではなくとも雪は降る。実装石にとって冬は天敵だ。 「オマエタチ、そろそろオチリをナメてやるからこっちにむけるデス」 「テェェ……」 成体ならばこんなことをする必要はない。 ただ、この時期の野良の仔実装や親指実装には必要なことだった。 十数時間おきにケツアナをナメねばならないのだ。 冬場の乾燥する空気で総排泄孔が乾いてしまうと、切痔や便秘を誘発してしまう。 それは健康を害するばかりか悪化すれば尻から腐っていくことさえある。 『冬仔の尻腐れ』としてニンゲンに知られる現象。 元飼いらしく知性ある親実装はそれを知っていた。 「ヒンヤリテチ!おチリプルプルなんテッチャ!」 寒い中でケツアナを舐められた仔実装は悶絶する。 湿ることで一時的にだが冷え込みがパンツ越しとはいえビンカンにケツに突き刺さる。 ケツを抑えて震える姿が痛々しい。 「ガマンするデス……ガマンデス……」 母実装は仔をかき抱き、よく温めてやる。 冬の過酷はまだまだ続いていく。 夜闇に薄暗く光る街灯に舞う雪の結晶が幻想的に照らされる。 ダンボールハウスに作った小窓から外を眺める実装一家。 忌々しい雪の去る事を皆が一心に祈った。やはり冬は嫌いなのだ。 「ママ、シロイシロイのヒンヤリはいついなくなるテチ?」 「ママにも、わからないことがあるんデス……ユキは、キライデス……」 仔実装と共に空をにらむ。雪が憎い。 だが憎みの中身はそれぞれ違う。 仔たちは命を奪おうとする冷気を恐れて、母は思い出に縛られて。 ——— 二年ほど前の今頃だったか、とにかく寒い日だった。 飼い実装だった頃はご主人様とともに雪遊びをした。 「おぅいメロンパン、そろそろ家戻るぞ〜」 「デス〜!」 実装雪だるまなどを作り、遊んで冷えたカラダのかつての母実装。 このときの名は『メロンパン』 彼女は暖かな屋内に入るなり、特に暖かくて大好きなこたつに直行した。 「とってもぬくぬく、ぬくぬくしたいデス〜!デ?なんだかオナカが」 それは当然な現象、急激に冷えていた腹が暖められれば必然的にそうなる。 ブリブリブリブリ、ブチョ!ブチュ、ブブブブブッ!ドバッ! こたつを緑色に汚染していく、半固体の下痢便がモリモリ、モリと漏れ続ける。 「腹を急にあっためたからだな!?おとなしく、おとなしくしろ、そこ動くなよ!?オイ!」 「デ!これはわざとじゃないんデス!そ、そうデス!ふく!ちゃんとフキンでふくデスゥ!」 ハプニング脱糞にパニックになったメロンパン。 ご主人様の制止も聞かず、下痢便垂らしながらフキンを求めて室内を疾走。 ご主人様はそれを見て、ペットへの愛着やら何やらが完全に吹っ飛んでしまった。 「あー……なんか汚い『ゴミ』があるな、捨てなきゃ」 「デ?」 ——— 「デェェン!わざとじゃないのになんでこんなことするデス!?ひどいデス〜!」 耳をひっつかまれ、ブラブラと運ばれる『ゴミ』が抗議した。 実装の短い手では耳まで届かず、暴れる手がむなしく空を突くばかり。 「デデデェ!?なんでゴミさんのフクロにいれるんデス!?デアアアッ!」 実装ゴミ袋に投げ入れられるとキュッと封がされて閉じ込められた。 袋をバシバシと叩き涙で訴える。 『ゴミ』はもうゴミなので、ゴミ捨て場に投げられた。 「まって!まってデス!まってデスゥ!」 必死で『ゴミ』が『ゴミ出しをした人』に向かって喚き続ける。 『ゴミ出しをした人』は振り返りもしなかった。 「デェェ!ユキが、ヒエヒエのユキがわるいんデスゥ!ワタシをすてたらダメなんデスゥ!」 『ゴミ』は嘆く。 ……それからゴミ袋を自力で脱出し、雪の中で自立を成し遂げた。 もはや奇跡といっていい経歴。こうなるまではそこそこ賢かったからこそ成しえた偉業だ。 野良生活の飢えと苦しみの中、心の中には己を冷やしてこんな暮らしへと追い込んだ雪への憎悪が常にあった。 ——— 「デェ…デェ…」 母実装は空をにらむ。 雪を降らせる空をにらむ。寒さが肌をつく度に思い出す。 雪を目にすれば鮮明だ。 自分から幸福と最愛のご主人様を奪った原因である雪が大嫌いだ。 命の危険もある以上に、最も嫌悪する季節だ。 「……テェ、ママのおてて、かっこいいテチ」 「イモチャいいこというテチ」 「ありがとうデス……」 仔実装らが自分を抱く母の手を称える。 ごわごわとして黒ずみ、皮の分厚くなった手は冬を二度も超えてきた証。 仔たちはそれを理解して、母実装に寄り添う。 その時である!!?!? 「ウホホホホホッ!レフ〜っ!!」 「デデェ!?!?」 母実装が仔実装を強く抱きしめた瞬間に鬨の声が響く。 ダンボールハウスが横転し、家族は外に吹っ飛ばされた 「ウジチャ……ッイエティレフッ!!!」 「デ?デデデ!?!?」 刮目するしかない、襲撃者の激・姿!? マッスルなボディの全面に縫い付けられた白い体毛、極小の頭は蛆実装が激・手術で接合されたもの!? ナックルウォークする手足は実装ステロイドの結晶、やはりバキバキ! 「ウホホホホホレフレフ~!」 前傾したゴリラ体型で雄たけびを上げる、奇怪な実装石!? 冬仕様のイエティ型バイオゴリラがついにロールアウト! 虐待派に連なる派閥・改造派の最新作が冬を盛り上げていく! ヤツは、バイオイエティだ! 「きくレフ、バナナはどこレフ?」 「バ、バナナなんてしらないテチ」 ブリブリとパンコンし、頭を抱えながらプルプルと震える妹仔実装…… バイオイエティの尋問が始まる。 妹実装はハウスから吹き飛ばされた時に足を折ってしまっており、血肉が香りたつ。 「うそつきレフ!」 放たれる際、バイオイエティは飼い主から言い含められていた。 「野良実装たちがバナナ(実装ミンチ肉)を隠したんだ」 飼い主が嘘を言うはずがない、つまり仔実装は嘘をついているのが明白だ! パァン!「ボッ」 バイオイエティはうそを言う仔実装に制裁のパンチを見舞う! 「ほらバナナレフ!バナナがあったレフ!!」 やはり頭は蛆!知能は最低レベルなので、死の概念を理解しない! パンチで潰れた圧死体をバナナ認定する、実装肉ミンチをバナナと言われ育てられているからだ! そして、仔がバナナになったことでバナナが隠されていたと結論付けた!名推理! 隠蔽者たちに対し、その真摯な怒りを大加速させる! 「バナナをもっとよこすレフ!」 拳についた大好物のミンチ状肉片……バナナをぴちゃぴちゃとナメる! バイオイエティが眉間にシワを寄せる! 「デデデデ!?」 くるりと顔を回し、身を寄せ合って事の成り行きを見守るしかなかった母実装と姉実装に駆け寄っていくバイオイエティ!?雪の中に走るその姿、大迫力! 「どこにバナナがあるレフ〜!」 熱烈な拳の雨が母実装と姉実装に降り注ぐ!頭が悪すぎて尋問と暴力の間にセンテンスが消えている! 母娘は数秒でバナナ状態だ! 「ほら!バナナがあったレフ!かくしてたレフ!」ミンチを貪ってなお吠える! ダンボールハウスはまだいくつもある。バイオイエティ、走った!! ダンボールがぶっ飛ぶ快音に実装の叫び声、怒りのドラミングが空き地に木霊する! 真冬の降雪中も、ゴリラなイエティの暴力がアツすぎる!? 【GORILLA END】
1 Re: Name:匿名石 2024/12/24-08:02:07 No:00009449[申告] |
やってることメチャクチャなんだけど面白過ぎる
好き |
2 Re: Name:匿名石 2024/12/24-23:10:16 No:00009450[申告] |
単純に面白い |
3 Re: Name:匿名石 2024/12/25-01:17:21 No:00009451[申告] |
尻腐れの下りとか生理的な理由で下痢したり体調を崩すとかが描かれるだけに生命への嘲弄じみたバイオゴリラの存在がより異質さを帯びる |
4 Re: Name:匿名石 2024/12/25-02:16:30 No:00009452[申告] |
丁寧に綴られる実装達の営みと情緒など糞投の様に投げ捨て全てを粉砕するゴリラパート
一粒で二度おいしい |
5 Re: Name:匿名石 2024/12/25-19:31:15 No:00009453[申告] |
前半のまったりパートが嘘なような後半のハイスピードすき |