最初で最期のクリスマスプレゼント ある冬の早朝。 公園に隣接したとあるアパートの共同ゴミ捨て場に、一匹の野良実装が来ていた。 『今日もないデス……でも、もうすぐなはずデスゥ』 今年、独り立ちしたばかりの彼女の目当ては、クリスマスパーティーで出る残飯である。 冬本番の寒さとなり、そして人間たちがうきうきとしだす時期になると、 ゴミの日に美味しい残飯が出されることがある。 これは彼女自身が経験したことではなく、彼女のママから聞かされたことであったが、 彼女は今は亡きママを信頼していたし、何より冬を越すためには栄養を蓄えなければならない。 その為には、朝早く起きて他の同族に先んじてゴミ漁りに来る苦労もいとわなかった。 そうして彼女が毎朝早起きしてゴミ捨て場の様子を見に来ること数日。 ついにその日は来た。 『ニンゲンが美味しそうな匂いのする袋を捨てていったデス……アレに違いないデス!』 人間がゴミを捨てて立ち去るのを見届けると、彼女は急いで物陰から走り出た。 他の同族が来る前に美味しくて栄養のありそうなものを片っ端から食べなくては、と意気込んで。 その袋は頑丈で破れにくい素材ではあったが、成体実装ほどの力があれば、 尖った石を使えば破ることは容易だった。 袋が破れた瞬間、彼女の鼻を美味しそうな肉の匂いがくすぐる。 そこには、まだ端の方に肉が残っている骨があった。 『……ゴクリ』 思わずつばを飲み込む。 早く手に取れ。口に入れて噛み、味わい、飲み下せ! 本能がそう告げる。 『待て待て、慌てるなデスゥ。まだ慌てるような時間じゃないデス』 のんびりとしてはいられないが、焦るのも良くない。 どんなゴチソウが入っているのか、よく調べるのも大事だった。 袋の中をざっと見まわし、調べてみた結果、見つかったのは……。 肉の残った骨、甘い匂いのするクリームがへばりついた紙、他は野菜くずやお菓子のくず。 例え野菜くずであっても野良の身として十分なゴハンだが、やはり気になるのは骨の付いた肉だ。 『ではさっそく……頂きますデスゥ』 メリ……モニュ、モニュ…… 骨についた肉を齧り取り、頬を膨らませて咀嚼し、味わう。 仔実装の頃にママからもらった蛆実装の生肉とは違う、調理されて甘じょっぱい味の付いたオニクの味。 あまりの美味さに、彼女は思わず赤と緑の本気涙を流していた。 『ウマウマデッスン……!ママの言うとおりだったデスゥ……!』 10分ほどして、全部で20本ほどあった骨付き肉(の肉の部分)は、すべて彼女の腹に収まった。 だが、まだまだ食べ物は残っている。 『次はこのアマアマそうな匂いのするクリームデスゥ』 彼女は思った。 これはママが言っていた「ケーキ」という物ではないか。 「ケーキ」は甘くてふわふわした食べ物で、トクベツな時だけもらえるのだとママは言っていた。 どうしてママがそんなことを知っているのかは分からなかったが、彼女はママの言うことを信じていた。 『ママの言うとおり、今日はトクベツな日デスゥ……ママ、ありがとうデスゥ!』 彼女は天国のママに感謝を捧げながら、白いクリームの付いた紙を手に取り、舐めようとした。 ……その時だった。 『……デボァ!』 不意に気分が悪くなり、内臓がひっくり返るような嘔吐感が襲ってきた。 彼女はクリームの付いた紙を取り落とし、呻き声を上げながらその場に転がる。 『ゴボッ、デビェェェッ、オボロロロロロロ……』 のた打ち回るうちに、口からゲロがあふれ出る。 ゲロまみれになって転がる彼女だったが、それを気にする余裕がないほどの苦痛に襲われていた。 (ママ、ママ!苦しいデス!助けてデス!) 声にならない声を上げながら、彼女はゲロまみれで悶え苦しむ。 手足をイゴイゴと動かすが、それでどうにかなるはずもなかった。 視界は涙でにじみ、鼻からは鼻水が溢れ、口からは相変わらずゲロが、 そして総排泄孔からは大量の糞が溢れてパンコンしていた。 その時、涙でにじんだ視界に、ぼんやりと緑色の光に包まれた何者かの姿が映った。 (ママ……?) ママなら助けて欲しい、彼女はそう思って手を伸ばす。 その何者かは、その手をしっかりと握り返した。 彼女の瞳には、その姿は最愛のママの姿に感じられていた。 (ママ……ワタシはもう駄目デス……最期にママに逢えて嬉しかったデス……。 死んだらママが言っていたコンペイトウ星に一緒に連れて行ってほしいデス……) 「……!……!!」 (ママが何か叫んでるデス……でも、もう聞こえないデス……。 最期に、死ぬ前にひと目でいいからママの姿が見たかったデス……) 彼女は薄れゆく意識の中で、そう願った。 今まで彼女はクリスマスプレゼントという物を貰ったことがなく、そして彼女は善良な実装石だった。 故に、その願いは聞き届けられた。 今際の際のその瞬間、彼女の意識はロウソクの灯の最後の瞬間のようにはっきりとし、 自身の手を掴む者の姿を捉えた。 「しっかりするです!ご主人さま、早く、この子が死んじゃうです!」 そこにいたのは、緑色の服に身を包んだ小さな人間……ではなかった。 彼女ら実装石が言うところの「ヒトもどき」、つまり実翠石の姿がそこにあった。 『!?』 実翠石とは実装石をより人間に近づけたような生物で、大人しいが故に実装石より人気がある。 一方の実装石からすれば、実翠石はニンゲンに媚びて寵愛を受けている存在で、 ニンゲンを半端に真似た「ヒトもどき」であるとの思い込みから、本能的に忌み嫌っていた。 そして、いくら彼女が善良な実装石であっても本能には抗えなかった。 実翠石は彼女のゲロまみれの手を嫌な顔せずにしっかり掴むと、 後方にいる人間に向かって何やら叫んでいる。 『デ……デジャアアアアアッ!』 「きゃっ、動いちゃだめです!」 『デジャァッ!デジャアアアァァァァ……ッ!』パキン 彼女は、「ヒトもどき」に自らの死を看取られるという屈辱にまみれ、 そのあまりの屈辱に残った体力を使い果たすほどの大声を上げ、パキンした。 駆け付けた人間……実翠石の飼い主は、絶望と苦痛と怒りの混じった表情で事切れている彼女を見下ろし、 首を横に振って実翠石を引き離した。 「そいつ、毒餌を食べたんだろう。どうしようもなかったよ」 「そんな……私のことをママって、呼んでたのに……」 「この辺も野良実装が増えてきたからなあ。 この時期になると、ゴミにコロリとかゲロリをまぶして捨てる家も多いんだ。 さ、もう帰ろう、汚れた手とか服を洗わないと。 ……それに冷えただろう?コタツで温かいものでも飲もう」 「はい……」 実翠石は飼い主に手を引かれて、実装石の死骸を振り返り振り返り去っていった。 あとに残されたゲロまみれの実装石の死骸は、すぐにゴミ収集業者に片付けられて、 ゲロの跡くらいしか残らないだろう。 ……クリスマスの朝のお話でした。 終わり ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ママは元飼い。 実翠石を彩りに出してみました。 実翠メインで話を動かすのは自分的にはやりにくいけどこういう感じならいけそう。 他の作者さんの「実翠石との生活」シリーズ好きです。
1 Re: Name:匿名石 2024/12/22-20:53:42 No:00009446[申告] |
実翠からするとできれば仲良くしたい相手だけど実装からすると単なる敵でしかないの悲しいなあ |
2 Re: Name:匿名石 2024/12/22-22:27:13 No:00009447[申告] |
ゴミを食べ散らかしたから罰が当たったんだね |
3 Re: Name:匿名石 2024/12/23-19:12:47 No:00009448[申告] |
実装害酷い地域では残飯への対策する世帯は当然あるよねって考えていたので説得力があった
でも同時に使用される実装毒にはゴミ捨て場の汚染対策に抗脱糞や吐瀉防止成分みたいのが添加されてて欲しいなとも そこら辺対策しない事による実装汚染の揉め事って発生しそうだし それにしても 実翠石が害心に取り憑かれている実装石にまで共存を望む事があったりするのは人間に依存しなくてはいけない者同士の同情もあるのかね 過度な寄生しか出来ないのに隷属を求めけして成就されない実装連中には実翠からの憐憫は自尊心を大いに揺さぶるのだろう |