「ベランダ飼い」

ワンルームの部屋から引っ越すと、引っ越し先のマンションにはベランダがあった
日当たりもよく、結構広くて快適だ
何か活用しようと考えた結果…
今年のベランダは夏は家庭菜園に、冬は実装石飼育スペースにすることにした

そして夏が始まる頃にそこそこ高ランクの仔実装を1ダース12匹を大量購入し、
締め切った室内で極暑地獄に耐えた仔実装だけが冬を越せる権利を得ることにした

12匹を120センチのそこそこでかいケージに放り込む
ケージはでかいが、仔実装が12匹もいるとギュウギュウ詰めだ
「テチィ」ペコペコと頭を下げて宜しくとでも言っている仔実装
「テチ！」両手を上げてアピールしている元気な仔実装
「テチャア！」何かしらを訴えてくる仔実装
仲良しアピールしてたり喧嘩をしたり
わちゃわちゃとしている緑の小人達…とてもかわいい
こんなぬいぐるみのような生物の一匹一匹に命があり、各々の意思で動いているのがとても神秘的だ
でも結構すぐ争って耳や手がちぎれたり顔がボコボコになるので多頭飼いをするべき生物じゃないのがよくわかる
協調性の無い奴らだが、お互い髪や服をむしるところまではいかないのが高ランク飼い実装といったところなのだろう

そして夏本番になり…来た当初は希望に満ち溢れたこいつらが地獄を見るのはすぐだった
連日40℃以上のサウナのような室内…
しかもすし詰め状態のケージの中ででみんなあっという間に衰弱していくことになる
家に帰ってクーラーの効いた部屋で、カメラで撮っていたその様子を見るのが楽しかった

「ﾃﾌｫｰ、ﾃﾌｫｰ…」
熱中症になり白目を剥きながら横たわるやつ
「テチャァァ！」
あまりの熱さに何もないところに向かって助けを求めるやつ
「テチャア…グヴォ、ｵﾛﾛﾛ」「ｵﾛﾛﾛ」
ゲロを吐いて他の仔実装にもらいゲロを伝播させるやつ
など様々だった

そしてついに…
「テゲ…テ…テ…（パキン）」「テヴォッ…（パキッ）」

酷暑が数日続くと、顔を真っ赤にして鼻から血を出しばたばたと一気に死んでいく
そして12匹いた仔実装は、夏が終わるまでに最終的に2匹生き残ることができた。
2匹も残れば上等上等。

ちなみに家に帰ってきたときにただでさえ臭い実装石がさらに死臭やらでとんでもなく臭くなってたのででもう二度とやらないだろう

2匹は生き残ったご褒美とばかりに、短い秋の季節は平穏に飼い実装としての恵まれた生活を過ごせたと思う
さすがに死線を越えて2匹だけになるとある種の友情が生まれたのか、
あるいは数が減ってスペースができて余裕ができたのか。
金平糖なども分け合って姉妹のように仲良く暮らしていた

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そして冬になり…
計画通りベランダ飼いを実行する
ベランダに段ボールを設置し「テチコの家」とネームプレートまでつけて家を作ってやった
タオル類など防寒に使えるようなものは一切置いてない
ベランダ飼いするにあたって不満を言っていたが、毎日の餌に金平糖をつけることと名前をつけてやるという条件で承諾したのはあいつらだ
ちなみに二匹いるけど、どっちもテチコだ
付き合いはそこそこの期間になるけど未だにあんまり区別つかないし。

「お前の名前テチコな」
「テチャ！」
「そしてお前の名前もテチコな」
「テチャ…！テチャ？」
「テチ？」
「テチィー？」
お互い顔を見合わせて納得いかない表情をしていたテチコ達がちょっと面白かった

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冬本番となり。
「うー寒い寒い…暖房っと」
朝起きて暖房をつけると徐々に部屋が暖まってくる
ふとぺしぺしと窓を叩く音がしてベランダを見ると、俺に向かって二匹の仔実装が開けろと言わんばかりに血涙を流して何かを訴えている
「「テチャアアアア」」

「うむ」
俺は満足して温かいコーヒーを飲みながらそれを眺める
外は冷え込んでおり見ているだけで寒そうだ

「テチー！」「テッチャア！」
ぺこぺこと頭を下げながら必死に訴える奴らを見ると実装石を飼ってよかったと心の底から思える
ちなみに行動範囲をごく狭くするために首輪をしているのでベランダから隣の部屋まで行くことはできない
奴らの生殺与奪の権利を持つのは俺だけだ
「よし仕事にいくか」
今日も一日頑張ろう。俺も、お前らも。

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しばらくして。家に帰ってくるとテチコが一匹死んでいた
もう一匹は「テエエン、テエエン」と死体にかぶさって泣いている
日中気温上がったはずなのにおかしいなと思ったら、寒さで死んだんじゃなくて餓死だったようだ
そういやしばらく餌もやってなかったな…寒くてベランダに出たくないしすっかり忘れてた
「ちが…俺…そんなつもりじゃ…」
やっちゃったな…思ってたのとちょっと違う結末だ
まあ…些細なことだろう
まだ一匹テチコ残ってるしな

死体を食べないだけ偉いやつだと褒めて実装フードと金平糖を放り込む
「テ！」と一目散に死体から離れテチテチと鳴きながら、一気に餌にかじりつく
いかにも動物的でとても良い
一心不乱にフードを食べている奴を横目に死体や排泄物を片付けてベランダを閉める
今日の夜は昨日よりも冷えるぞ。がんばれよ。
ベランダを閉めた音に気づいて食べるのを中断し、また窓を「テチー！」とぺしぺしと泣きながら叩くテチコを見ながら暖かい部屋で飲むビールは最高だ

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「雪が降ったか…」
ある日大雪が降り、段ボールハウスが雪で埋もれていたので取り除いてやる
勿論優しさからではなく、段ボールが雪で埋まってかまくら状態になると防寒効果があるらしいのでそれを防ぐためだ
「テチィ！テチー！」
テチコは俺の足を引っ張りながら家の中を手で指し示す
「家には絶対入れないよ。ほら、今日もフードと金平糖だ」
「テチャアアアア！！」
餌には目もくれず涙を流しながら家に入れてと訴える
「手が凍傷で赤黒くなっている…かわいそうに。頑張って冬を乗り切るんだぞ」
頭を撫でて励ます。乗り切ってみてほしいのは本当だ。

「テー！」
テチコは手と頭を床につけて頼み込む
土下座…？どこで覚えたんだそんなの

俺は土下座したままのテチコをスルーし家に入る
そして肉まんをレンジで温め、再びベランダを眺めるとまだ土下座していた

俺がベランダの窓をこんこんと叩くとテチコは顔をあげる
「肉まんうめー　あったけー」
俺は肉まんを2つに割って湯気を見せながら、温かなうちにほおばる
「テチャーーー！」
涙を溢れさせながらぺしぺしと窓を叩くテチコを見るとうまさが倍増するな
さて、今日も十分楽しんだし熱い風呂にでも入ってくるか
ばいばいと手を振ってカーテンを閉めて本日のコミュニケーションを遮断した

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そんな楽しい日々が続き、数日後…朝起きてベランダを見るとテチコは死んでいた
「そんな…嘘…だろ…テチコ…」
苦悶の表情で舌をだらりと出しながら目に光がない…
結局、最後の一匹も冬を越すことができなかった
最後の方は反応無くなっててつまんなかったし、別に良いか
餌はやっていたので餓死ではないだろう
死因はまあ…寿命だ寿命
リンガルがあればきっと「ありがとうゴシュジンサマ」と表示されたことだろう

それから少しして、マンションの入口の貼り紙に「ベランダでペットを飼わないでください。騒音や異臭の原因になります」と張り出されていた
まったく、マナーの悪い住人もいるもんだ

…俺は急いで、興味を失い放置してたベランダの段ボールやらテチコの死体やらを片付けるのであった
（終）

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過去作
3441【哀愛】祭事実装
3437【哀虐】実装石ブリーダーの苦悩
3420【食哀】実装石のなる木
3416【哀】 幸せな部類の実装石
3405【哀虐】実装石が実装されなくなる世界
3396【虐哀】短～中編色々詰め合わせ2
3395【愛虐】働く野良仔実装
3368【虐哀パ】短～中編色々詰め合わせ1 テチコ系他
3270【虐観察】楽園とは実装石の産物なり
3240【観察】フォトコンテスト
3199【虐観察】本能と理性の狭間で
3193【虐】里親
3140【虐】ビン飼育