【大分県でも飼える実装石】 「大分県でも生きられる実装石を作れないかね」 それは大分に引っ越すことになった金持ちの実装石虐待派・T氏から、 双葉実装研究所九州支部への依頼だった。 皆さん御存じの通り、凄まじい繁殖力と生命力を持つ実装石が唯一生存できない謎の土地。 ……それが大分県なのだ。 T氏は、所有していた虐待用実装石は大分県外に購入した家に置いて人を雇って面倒を見させたが、 自身は所有する温泉の管理の都合上で、一時的に県内に住居を移すことになった。 そこで実装研に冒頭の依頼をしたのである。 多額の依頼料に目が眩んだ……もとい、新たな実装石の開発に興味が湧いた実装研の九州支部長は、 その依頼を引き受けることにしたのだった。 * * * * * 研究が始まった……。 研究所では、まず大分の水を他県の水道水で100万倍に薄めたものを実装石に与えてみた。 被験体の実装石はトコトコと器に近づき、四つん這いになって水を舐め始めた。 (以下、実装石の台詞はすべてリンガルを通したものである) 『お水デス。ちょうど喉が渇いていたデ……デベベェェ……』 被験体の実装石はあっという間に溶け崩れ、後には何も残らなかった。 続いて別の被験体に対し、大分県の空気を他県の空気で1億倍に薄めたものをケージの中に注入してみた。 被験体の実装石は、興味深げに研究員を見上げている。 『ニンゲンサン何してるデスゥ?……デッ……デズァァァ……』 被験体の実装石はあっという間に溶け崩れ以下略。 やはり普通の実装石に大分の水や空気を与えれば、どんなに薄めても消滅するのか……。 なぁに、この程度の結果は想定内。 多額の依頼料に報いるためにももっと実験を続けよう、と、研究員たちは寝る間を惜しんで実験を続けた。 その後も様々な実験を繰り返しては、実装石を消滅させた。 時にはNA○Aの宇宙服を極秘ルートで入手しサイズを合わせて着せてみたこともある。 大分県の空気が充満した室内に大分県の水でシャワーを浴びせても、その実装石は活動できた。 他県の空気だけを常に宇宙服内に循環させることで上手くいくかと思われたが……。 『デジャアアア!こんな動きにくいお服は着てられないデジャアアアアア!』 宇宙服を着て生活することによる実装石へのストレスは大きく、 また給餌や排泄物の処理の際は専用の小部屋を用意し、そのつど内部を他県の空気で満たす必要がある。 これはとても実用的ではないということになり、宇宙服を着せる案は廃案となった。 次に着目されたのは胎教だった。 実装石の体質は、胎教でかなり変化することが知られている。 そこで被験体の成体実装を妊娠させたうえで口を塞いで胎教を封じ、人工的な胎教を聞かせるのだ。 【オマエたちは大分県でも生きられるデス~♪ 大分の水や空気はとてもウマウマなんデス~♪ だからオマエたちは大分のお水を飲んで、大分の空気を吸って生きるデス~♪】 この胎教を聞かせると、胎内の胎児実装は著しい反応を見せた。 胎内で激しく蠢いていたかと思うと、『レフー!レフー!』と何かを訴えるような鳴き声を 母胎の外まで聞こえる大きさで上げ始めた。 これだけ元気が良ければ、もしかしたら上手くいくかもしれない。 研究員たちは期待した。 やがて妊娠実装の両目が赤くなった。 出産の時だ。 …………。 …………。 『デェ、デェ……ムスメたち、どうしたデス?出てくるデスゥ!』 妊娠実装がいくらイキんでも仔たちは産まれてこない。 本来なら『テッテレー!』と産まれてくるはずの蛆実装たちが、一向に姿を現さないのだ。 研究員の一人が、妊娠実装のお腹に聴診器をあててみた。 『おそとは大分県レフ、でたくないレフー!』 『大分でうまれたらしんじゃうレフー!』 『レフェェェン、レフェェェェン!大分イヤイヤレフー!』 なんてことだ……と研究員は天を仰いだ。 大分の水や空気で生きると胎教したのに「母胎の外が大分県だと錯覚した実装石」になってしまうとは。 しかも「大分で生きられる」との胎教も空しく、大分への恐怖は消えていない。 『デッ、ニンゲンサン……なんデス、そのナイフはどうしてお腹に向けるデス?』 研究員は試しに妊娠実装の腹を裂いて胎児実装を取り出してみることにした。 『デギャアアアアアア!』パキン 『レフッ!?……レッ……レフゥゥゥ……』 結果として母体はパキンし、取り出された蛆実装は外気に触れてわずかに体を震わせた後、 溶け崩れて消滅し、後には何も残らなかった。 そう、ここは大分ではないのに消滅したのだ……胎教の成果だろう。 思いもよらず実装石の思い込みの力の強さを見せつけられる形になった。 * * * * * 数ヶ月後。 大分県某所、T氏の邸宅にて。 「それで、ここ大分県でも生きられる実装石はできたのかね?」 「はぁ、その……できたと聞かれればできなかったのですが」 「やはり無理だったか……」 「こちらに実装石そっくりのロボットがあります」 研究員が箱から取り出したのは、実装石によく似た人形だった。 遠目に見れば生きた実装石に見えるだろうが、近くで見れば作りものだとすぐにわかる。 「ロボット?それじゃ意味ないだろう」 「このロボットの中枢には、大分県外で作られた頑丈な偽石ボックスがあり、 その中心には偽石が、光を遮断し外気にも触れないようにして密閉収納されています。 そして、このロボットのセンサーは偽石ボックスにつながっておりまして、 例えば腕をもげば偽石にその信号が伝わり痛がったり悲鳴を上げるのです」 そう言って研究員は、実装ロボのスイッチを入れてからその腕を引きちぎった。 腕をちぎられた実装ロボは、本物そっくりの悲鳴と表情で痛がり、色のついた涙も流した。 『デギャアアアアアア!』 「おぉ……うん、まあ確かによくできているな」 「ありがとうございます、多額の依頼料のおかげです。 腕や足は関節部で簡単にちぎれるので、直すのも簡単ですし、破損した表皮部も この特殊樹脂のスプレーを吹きかければ一応直ります。 ただ、あまりボコボコに殴ったりすると……」 「わかったわかった。扱いには気を付けるよ」 『デェェェン、デェェェン!』 月に一度はメンテに来ると言い残し、泣き喚く実装ロボを置いて帰っていく研究員。 その背を見送りながら、T氏は呟いた。 「……思ってたのと違う」 【終わり】
1 Re: Name:匿名石 2024/12/11-19:08:03 No:00009433[申告] |
実装の設定はだいたいぶっ飛んでるけど問答無用で大分で死ぬ設定は群を抜いて意味不明すぎて好きすぎる |
2 Re: Name:匿名石 2024/12/11-21:47:30 No:00009434[申告] |
完全密閉された偽石に外部から人工的な素体の刺激を伝える機構って事か
何気に将来実装石で遠隔的な感覚を伝達や共有にも役立ちそうな研究になったのでは しっかし思い込み大分で消滅いけるなら別府や湯布院温泉の素でもいける?ステーキ所望したら豊後牛食わすとか |
3 Re: Name:匿名石 2024/12/12-03:16:48 No:00009435[申告] |
スレに投下されたスクだと公園の近くに大分のアンテナショップができたせいで実装の群れが全滅するのとかあったな |
4 Re: Name:匿名石 2024/12/12-11:09:50 No:00009436[申告] |
ここまでされるとむしろ大分の水や空気に他県と違う何が含まれているかのほうが気になるw
一億倍に薄めても駄目とか、何がこの現象の原因成分なんだろうね |