スレに投下したスクを大幅に改変しました。 【大きくならなかった服】 実装石の服は持ち主が着ている間、体の成長と共に大きくなっていく。 詳しい仕組みは良く知らないが、皮膚から出る老廃物や細かい体毛などによって 修復・成長を繰り返して大きくなっていくのだそうだ。 そんな馬鹿なとも思うが、とにかく実装服とはそういうものなのだ。 * * * * * 俺の名はとしあき。 冬の初めのある日、散歩していると電柱の陰に箱が置かれていた。 箱を覗き込むと、中には寝ている仔実装が1匹。 そして箱の表面には「可愛がってください」の貼り紙。 恐らくこの仔実装の親が、飼い主の言いつけを破って産んだ仔なのだろう。 親実装がどうなったかは知らないが、仔実装はめでたく捨てられたというわけだ。 俺は師走の寒空を見上げ……その仔実装を家に連れ帰り飼ってやることにした。 * * * * * 部屋に帰り暖房を点けて、俺は拾ってきた箱を部屋の隅に敷いた新聞紙の上に置いた。 その間、仔実装は目を覚まさなかったが、小さな寝息が聞こえるので生きてはいる。 飼い主がこいつを捨てる前にネムリでも嗅がせたのか。 1時間ほどして、俺が飯を食っているとそいつは目を覚ましたようだ。 見慣れない景色と、いるはずの親がいないことに不安を覚えたのか、テチテチと声を上げている。 俺が箱に近づいて仔実装を見下ろすと、そいつは不思議そうに俺を見上げた。 『テェェ……?』 口をぽかんと開けて(実装石なので元から開いたままだが)、仔実装は俺に対して媚びるでもなく ただただ見上げている……即座に媚びないところを見ると、糞蟲ではないようだ。 俺はリンガルを取り出すと、そいつに話しかけた。 「道端に捨てられていたお前を見つけ、寒そうだから拾ってやった。 言うことを聞くならしばらく置いてやってもいい」 そいつは「捨てられていた」という言葉にショックを受けたようだが、 すぐに気を取り直してペコペコ頭を下げてきた。 『いうこときくテチ! だからここにおいてほしいテチ!』 俺はその言葉を聞くと、にんまりと笑ってこう続けた 。 「そうか……ところでこの部屋は暖かいか?」 『あたたかいテチ!』 「そうか暖かいか、じゃあ服を脱いでも平気だな?」 『テェッ……そ、それはだめテチ! おフクをなくしたらたいへんテチ!』 「心配するな、脱いだ服はちゃんと保管しといてやる」 『テェェ……で、でもだめテチ……!』 「お前らの服は汚いんだよ、洗って返してやるからとりあえず脱げ、な? それとも外に放り出されたいか?」 『テェェェ……』 「じれってぇな、さっさと脱げ!」 めんどくさくなった俺は、そいつの服をはぎ取って裸にしてやった。 『テェェェェン、テェェェェェン!』 そいつはしばらく泣いていたが……。 「おら、飯食え飯!」 『テチュ?……テム、テム……』 俺が実装フードを皿に入れてやると、泣き止んでがつがつ食い始めた。 ……まったく現金な奴だ。 そして餌を食い終わる頃には部屋の快適な暖かさに気づいたのか、少なくとも泣くことはなくなった。 * * * * * 翌日。 俺は脱がせた実装服を洗うとそいつから見える場所に干してやった。 それだけでそいつは少し安心したようで、服を見上げながら聞いてきた。 『おフク、きれいになったテチュ?』 「あぁ、新品同然だ」 まぁ、実装服の材料が親実装の体液や自身の細かい体毛だって言うなら、 どんなに洗ったところで汚いんだがな……。 「それより俺はお前を拾いはしたが、ずっとは飼ってやれないぞ」 『……テチュ?』 俺の言葉を聞いて、そいつは小首を傾げて俺を見上げる。 もうすっかり飼い実装のつもりでいるのだろうが、俺が飼ってやるのは冬の間だけ。 そう、春になったら公園に放してやるのだ。 「まぁ、今はそんなことは気にせず餌をたっぷり食って大きくなれ」 『テッチュウ!……テム、テム……おいしいテチュ!』 そうだ、どんどん食え。 大きくならないと公園では生きていけないからな。 * * * * * 冬が終わって春が来た。 「さぁ、約束どおりお前を公園に放す」 『わ、わかったテス……ゴハンをたくさん食べさせていただいて、体も大きくなったテス。 公園でもなんとかやっていけると思うテス……』 ひと冬で中実装まで成長したそいつは、覚悟は完了しているとばかりにうなずいた。 そして、干してある実装服を見上げて言った。 『それでその、おフクを返していただけるとありがたいテス……』 「あぁ、そうだったな……ほら、返してやるからちゃんと着ろよ?」 『ありがとうございま……テッ!?ち、小さいテス! これ、ワタシのおフクじゃないテス、ワタシのはこんな小さくないテス!』 そいつは慌てた様子で俺を見上げる。 馬鹿だなあ、ずっと同じ部屋に干してあっただろ、それはお前の服だ。 俺がそう告げると、そいつは混乱した様子で服を着ようとするが、当然着られるはずもない。 無理に着ようとしてビリッと音を立てたところで、慌てて着るのをやめた。 「よし、公園に行くぞ!」 『ま、待って欲しいテス!これじゃはだかんぼテス、裸は嫌テス!』 「ほーら出発だ!」 俺は破れかけた実装服を中実装の手に持たせて箱に入れ、その箱を車に積んで公園に出発した。 『テェェェン、テェェェェン!』 公園に向かう車内では、中実装の泣き声がいつまでも響いていた……。 * * * * * あいつを公園に放した翌日、俺は再び公園に行ってみた。 手近な野良実装にリンガルで話しかけ、昨日ここで中実装を見なかったか聞いてみる。 「そいつ、俺が捨てた中実装なんだけどな、迷惑かけてないかと思ってさ」 『そういうことだったデス?確かに昨日、ここで騒いでた中実装がいたデス。 自分は裸じゃない、服はちゃんとあるって言って小さい服を持って騒いでたデス』 「ふんふんそれで?」 『公園のボスが来て、そいつをボコボコの禿裸にしてウンチドレイにしたデス』 「なるほど、ありがとう。これはお礼の実装フードだ」 『ニンゲンサンのお役に立てたなら嬉しいデス』 うん、裸(や禿)はすなわちドレイ! 野良実装の世界は大変だなあ! 【終】