※憂鬱な要素を含むので苦手な方は注意してください

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「実装石ブリーダーの苦悩」

実装石のブリーダーは精神がまともでは務まらない
なにせ手塩にかけて育てた仔実装でも、虐待派に買われれば生まれてきたことを後悔するような
一生を送るからだ

俺自身も実装石の命に価値など感じて無かったが、やはり自分が育てた実装石には少なからず愛
着が湧いてくるものだ
しかし取り扱う商品が実装石である以上、そういう客層も想定しなくてはならない
そんな現実を目の当たりにしたくないため、大抵の実装石ブリーダーはペットショップに卸され
た後のことは関知しないわけだが…
気にならないと言えば嘘になるだろう

ところで実装石というものは顧客が愛護派でも虐待派でも、当然実装石の質は高いものを求めら
れる
頭がよく、性格がよい仔実装だけを厳選し、質の悪いものはさっさと首をひねってゴミ箱行きだ

「ブリーダーさん、今日は何をお勉強するテチ？」
「立派な飼い実装になるために頑張るテチ！」
「良い飼い実装になって、教育してくれたブリーダーさんに報いるテチィ」
選別を経て合格した仔実装は、教育期間として俺の自宅でしばらく飼育を行う
賢くてやる気のある、幸せになる価値のある仔実装ばかりだ

通常であればブリーダーは仔実装には愛情を注がない
躾け以外では殆ど関わらない
後の飼い主との関係に影響するからだ
しかしうちの場合は情操教育を含め人間との関係を学ばせ、疑似の飼い実装関係を築いている
自分なりの考えで組み立てたこの育成法はうまくいっており、質の良い実装石を多数供給できる
ようになっていた

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これは俺が育ててきた仔実装の中で最も優秀で、気遣いや優しさを持っていた仔実装の思い出だ

その仔は特に教育をしなくても何でもできる、いわゆる天才の実装石だった
礼儀作法、場の適応性、衛生観念など…はっきり言って、そこらの人間よりも立派だっただろう

それだけでなく俺が見ていない（と思っている）ところでこっそりと周りの仔実装仲間に対して
のフォローも行い、いまひとつ物覚えの悪い別の個体にも丁寧に教育を施す様子もあった
実装石の、それも仔実装…普通ならば自分のことで頭が一杯だというのに、正直驚きである
そしてその物覚えの悪い個体のできないことができるようになると、自分の事のように喜ぶこと
のできる優しい仔だった

贔屓はしないことにしてはいたのだが、自然とこの仔実装と過ごす時間は増えていった

仔実装「ブリーダーさん今日は元気ないテチ。どうしたんテチ？」
俺「ああ、送り出した仔実装が相次いで粗相を起こして、飼い主とトラブルを起こしてね…」
仔実装「飼い主さんやブリーダーさんを困らせる悪い仔テチ。ワタチは絶対そんなことしないテ
チ！」
俺「お前はとても賢い仔だから期待してるよ。今日もナデナデしてくれ」
仔実装「テチ！一生懸命がんばるテチィ、ブリーダーさん元気だすテチー」
仔実装は俺の頭を小さな手でぽふぽふと撫でる
俺「ありがとな。なあ…例え辛い状況でも希望を失わないようにしような。お前が辛い時でも、
必ず俺が助けてやるから」
仔実装「ブリーダーさんは優しいテチ。ブリーダーさんみたいなご主人様に飼われたいテチ♪」
俺「ああ、きっと良い人が飼ってくれるよ。絶対に幸せになるぞ！」
仔実装「テチィ！」
俺がにこりと笑うと仔実装も「テチャー♪」と両手をあげて笑顔を見せる

心を奪われそうな感覚に胸が揺さぶられそうになるが、俺はブリーダーだ
この仔を良好なコンディションで売るのが仕事なのだ

…そして、数日後この仔実装は無事に飼い実装として出荷されることになった

仔実装「ブリーダーさんのおかげで飼い主さんに選んでもらえたテチ。今までありがとうテチ」

一ヶ月程度の仮初の家族関係であったとはいえ、こちらも思うところはある
涙を抑えながらぺこりとお辞儀をして連れて行かれたあの仔実装の表情を忘れることができない

「飼い実装として選ばれた」という体ではあるが、実際のところは欲しいという希望が多数あっ
た中で一番金払いの良い客を選んだのは、俺だ
提示した金額が他の客と一桁違うのもあったが、俺が実装石ブリーダーの駆け出しの頃に色々と
目をかけてくれたり他の客を紹介してくれた、いわゆる恩人でもある

その客は実装石研究の大御所ではあるが、過去には生きたまま解体をして生体反応を調べたり、
各種病原菌を植え付けて肉体を腐らせたり再生を繰り返させたりと、やっていることは虐待派よ
りもえげつないかもしれない
…あの仔も無事では済まないだろう

正直な所あの仔実装には、何百匹と実装石を出荷してきた俺ですら少し惹かれてしまっていた
しかし金と引き換えに、あの仔の実生を奪ったのは俺だ
それが仕事とはいえ、罪悪感も無くはない

ふと、何かの間違いであの客があの仔に普通の生き方をさせてくれる…
そんなありえない夢想をしてしまうのだった

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忘れようとしてしばらく経った頃、例の客から電話がかかってきた
客「としあきさん、あの仔実装は素晴らしかったよ。また同じような仔をお願いしたいね」
俺「ああ…ありがとうございます。でもあのクオリティの仔実装はなかなかできなくて」

次の仔実装を希望するということは、やはり死んだのかと落胆しながら会話を続ける

客「だろうね。いや、今日はお礼を言いたくて。あの仔のおかげで研究が一つ完成してまた本が
売れそうだよ、ハハハ」

俺「…ええと、その…あの仔実装の最期はどんな感じでしたか？」
普段なら送り出した仔実装のその後など聞かない
まして虐待まがいの扱いで死んだとなれば。

その客は動画を送ってくれた

…仔実装は首が切断され空気用のチューブが付けられ、胴体から切り離されていた
声も出せず絶望の表情で目だけが動いている…
こんな状態でもまだ生きている、あの仔がいた
俺が毎日手入れして艶があった綺麗な亜麻色の髪も、大事に大事に着ていた服も無くなった、禿
裸仔実装…顔も体も傷や痣だらけの変わり果てた姿だが、一目であの仔だとわかる

スポイトで目を赤い液体で染められると、切り離された体の腹部が膨張し蛆実装を出産していく
出産が終わると、涙を溢れさせた目がぐるんと上に向きパキンと偽石が割れる音がして、死んだ
のがわかった
俺は「…そうか、死んだのか…」と思わず呟く

客「たまたま頭部に偽石があるのに気づいて試したが、まさか首を切り離されても生きている上
に出産までするなんてね！どうやったらこんなに強い偽石になるんだい？偽石にはコーティング
された跡なども無かったが」
俺は「業務秘密です」とだけ言ってごまかしたが、実際のところうちでは偽石強化やコーティン
グなどの加工はしていない

絆だ
あの仔は短い期間の俺との生活で絆を得たから頑張れたのだ

…きっと、多分、おそらく
あの仔のことだ
俺を困らせないように、自分の責務を全うしたのだろう

それ以降、自分が育てた仔実装を売ることや不幸になることに何の感情も抱くことは無かった
例の客のツテで商売も順調にいき、今では日本有数の実装石ブリーダーだ
しかし、あの仔実装についてだけは思い出すたびに胸が締め付けられる
（終）






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過去作
3420【食哀】実装石のなる木
3416【哀】 幸せな部類の実装石
3405【哀虐】実装石が実装されなくなる世界
3396【虐哀】短～中編色々詰め合わせ2
3395【愛虐】働く野良仔実装
3368【虐哀パ】短～中編色々詰め合わせ1 テチコ系他
3270【虐観察】楽園とは実装石の産物なり
3240【観察】フォトコンテスト
3199【虐観察】本能と理性の狭間で
3193【虐】里親
3140【虐】ビン飼育