タイトル:【観察】 ある獣装石の記録
ファイル:とある獣装石の記録.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:333 レス数:4
初投稿日時:2024/06/03-22:03:15修正日時:2024/06/04-08:35:20
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【とある獣装石の記録】



ここは『双葉実装研究所』。
我々の所属する研究室では、ある実装種を探していた。
かつては普通に……言うほどではないが、そこそこ見られた種であるが最近は数を減らしている種。
服が無い代わりに獣のような体毛と爪を持つ変種……そう、獣装石だ。

獣装石の遺伝子を採取したり生態について研究するべく、あちこちの野山を探した。
また、公園の野良から獣装石が生まれていないか監視カメラを仕掛けたりした。
そしてとうとう双葉公園に仕掛けたカメラが、それを捉えた。

  *  *  *  *  *

ある親実装が、複数の仔を連れてダンボールハウスに戻って来た。
その個体はつい先ほどまでハウスの中で大きな腹を撫でながら『デッデロゲ~』と歌っていた……。
つまり妊娠していたのだが、目が赤くなったかと思うと急いでハウスを出ていき、
そして出産を終えて戻ってきたという訳だ。

『デェェ……』

親実装は何やら不思議そうな顔で、連れた仔を見下ろしている。
以下、実装石たちの台詞はリンガルを通した物を記す。

『長女はどうして毛むくじゃらなんデスゥ……?』
『テェ?』

親実装に長女と呼ばれていた個体は、実装服を着ておらず、代わりに獣のような体毛が生えていた。
つまり、我々の目当ての獣装石だ。
我々はこの個体を『ケモコ』と呼ぶことにし、記録を始める。

『こんな仔は見たことがないデス……変な仔デスゥ』
『テェ……』

親から奇異なものを見る目で見下ろされ、ケモコは落ち込んだようだ。
そんなケモコに、他の普通の仔実装たちが思い思いに声を掛ける。

『ママ、こんな毛むくじゃらはドレイにするテチ!』
『ドレイオネチャテチ!』
『そんな言い方したらオネチャかわいそうテチィ……』

どうやら次女と三女はいわゆる糞蟲気質で、四女は思いやりがあるようだ。
三匹の仔実装はケモコの耳を引っ張ったり、脚を蹴っ飛ばしたり、あるいは毛を撫でたりしているが、
ケモコはされるがままである。

『まあまあ、これでもオマエたちのオネチャデス。姉妹なんだから仲良くするデス』
『こんなドレイと一緒にされたくないテチ!』
『ウンコ食わせてやるテチ!』
『わかったテチ、ママ』
『……テェ』

親実装は今の段階では仔たちをどう扱うか決めていないようだが、
少なくとも即座に処分されることはなさそうなので、我々は観察を続けた。
念の為、一度夜中にケモコが住むダンボールハウスに向かい、一家にネムリガスを噴霧した上で、
ケモコの血液と体毛のサンプルを採取しておいた。

また、どうやらこの一家の偽石には、獣装石に関する記憶は受け継がれていないようだった。
獣装石が数を減らして、すっかり姿を見せなくなったことと関係があるかは不明である。

  *  *  *  *  *

それから二週間ほど、ケモコは次女や三女からは虐められていたものの、
根が大人しいのか逆らったりすることもなく、黙々と餌集めなどに勤しんでいた。
親実装や四女はそれなりに優しく接していたことも影響しているかもしれない。

『ドレイオネチャはグズテチ! もっと効率よく食べ物を集められないテチ?』
『長女オネチャは少しのんびり屋さんなだけテチ……みんな仲良くするテチ』
『四女チャは良い仔ぶるなテチ! ナマイキテチ!』

次女と三女の虐めは激しさを増していた。
この分では近いうちに親から間引かれるだろう……我々がそう考えていた矢先のある日のこと。
食べ物を探しに行った親実装が、夕方になっても帰ってこなかった。

姉妹は不安そうに親の帰りを待っていたが、いつまで経っても親は帰ってこない。
事故にでも遭ったか、虐待派に狩られでもしたか……ともかく、無事でないことは確実だった。

『ママ帰ってこないテチ……どうするテチ……』
『捨てられたテチィ! ママはクソママだったテチィィ!』
『テェェェン、テェェェェン!』

妹たちがそれぞれ不安や悪態を口にしたり泣いたりする中、ケモコが言った。

『と、とにかくみんなで一緒にママの帰りを待つテチ。一緒に行動していれば、危険は少ないテチ』

今までは虐められたりした時に小さく鳴くだけだったケモコの、
生まれて初めてではないかと思えるまともな言葉。
監視していた我々も驚いたが、妹実装たちも驚いたようだ。

『ドレイ長女のクセに喋れたテチ!? まあワタチもそう言おうと思ってたテチ!』
『ドレイオネチャにしては良いこと言ったテチ!』
『でも長女オネチャの言うとおりテチ!』

こうして、その日は昼間集めた木の実を食べて、ダンボールハウスの中で抱き合って寝た。
ハウスの扉の隙間からカメラが捉えた映像では、妹たちはケモコの毛の生えた身体に抱きついていた。

  *  *  *  *  *

さて、親実装が行方不明になったことで、この一家は窮地に立たされた。
姉妹の団結が多少深まったと言っても、野性に目覚めていない仔獣装とただの仔実装だけで暮らせるほど
公園での生活は甘くないのだ。
我々としては、妹実装たちはどうでもいいがケモコだけは保護したい所なのだが……。

「どうせなら野性に目覚める所も見たい」

という所長の一声で、監視は続けられることとなった。

翌日、監視カメラにはケモコたち姉妹が何かに怯える様子が映っていた。
じりじりと交代する姉妹を追い詰めるように、画面端から現れたのは……三匹の仔を連れた成体実装だ。
近所に住む別の一家であろうその親仔は、どうやら親がいなくなったケモコたち姉妹を
奴隷にするためにやって来たようだ。

『デププ、オマエたちは親を亡くして可哀想デスゥ……ワタシたちが飼ってやるデス』

などと言いながら、一家で姉妹を取り囲んでいく。
対する姉妹はケモコが前に立ちはだかり、その背に妹実装たちが隠れる形だ。
妹実装を庇うように立っているとはいえ、ケモコも震えていて抵抗できそうもない。
……この監視もここまでかと思われた時だった。

『テ……テチャアアアア!』

ケモコが大きく鳴き声を上げる。
そして次の瞬間、爪を振りかざして成体実装に飛び掛かっていった。

『デデッ!?』

思わぬ反撃に後退する成体実装。
その隙にケモコはさらに爪を振り回して猛追する。

『テチャアア! テチュアアアアア!』
『デッ……デギッ!』

ついにケモコの爪が成体実装の脚に命中し、血がほとばしる。
ケモコはイケると思ったか、さらに追撃の姿勢をとるが……。
背後で妹たちの悲鳴が聞こえた。

『チャアアアア!』
『イモチャたち、数は同じくらいテチ、頑張っテチ!』

成体実装に隙を見せまいと、ケモコは振り返らずに妹たちに呼び掛けると、再び相手に飛び掛かる。
予想外に強いケモコに成体実装はたじろいだが、やがてニヤリと笑うと後退していった。

『や、やったテチ! 撃退したテチ! イモチャたち、無事テチ!?』
『テェェ……無事じゃないテチ……』

応えたのは次女のみ。
三女と四女は血の跡を残して消えていた。

カメラで監視していた我々は気づいていたことだが、ケモコが成体実装と戦ってる間に、
成体実装の連れていた三匹に、隠れていた三匹を加えた計六匹の仔実装が次女たちを襲っていたのだ。
結果、三女と四女は手足を食い千切られて連れ去られた。
成体実装は引き下がったのではなく、狩りが成功したから帰っただけだったのだ。

『テェェェ、どうしてテチィ!? ワタチ頑張ったテチ! 怖かったけど頑張ったテチィ!』
『テェェェン、テェェェェン!』

ケモコと次女はそのまましばらく泣いていた。
が、ただの糞蟲と思われた次女は、野良に必要な切り替えの早さは持っていたらしく、顔を上げて叫んだ。

『こ、こうなったら……もうニンゲンサンに飼われるしか生きる道はないテチィ!』
『な、次女チャ何を言うテチ! ワタチたちで頑張れば……!』

ケモコの反対意見に対し、次女は一気にまくしたてるように言葉を続ける。

『うるさいテチ! 姉妹四匹いた時でもあっというまに三女チャと四女チャが死んだテチ!
 ワタチたちだけでなんとかなるはずないテチ! オマエはちょっと強いからって調子に乗るなテチ!
 ワタチはこれからコンビニに行って、ニンゲンサンの袋に入るテチ!』
『やめるテチ、無理テチ! 大体、コンビニがどこにあるかも知らないテチ!?』
『オマエと一緒にするなテチ! 賢いワタチは公園の隣にコンビニがあると知ってるテチ!』

確かに双葉公園の隣にはコンビニがある。
それを親から聞いたか何かで知っていたのだろう次女は、決意を固めた顔で走り出す。
しかしその方向は、コンビニとは反対方向であった。
……まあ、隣って言っても色々あるからね……本当に「隣」としか聞いてなかったんだろう。

こうして独りになってしまったケモコ。
しばらくは次女の帰りを待っていたようだが……昼を過ぎた頃、ようやく動き出した。

『次女チャ帰ってこないテチ……きっとニンゲンサンに飼われたんテチ。
 そういうことにしておくテチ……じゃないと次女チャが可哀想テチィ……』

ケモコはダンボールハウスに戻ると、家の中に保管されていた木の実を食べて寝てしまった。
夕方になり、夜になっても、ケモコが起きる様子はなかった。

  *  *  *  *  *

さらに翌朝、監視カメラにおぞましい物が映る。
股間に男根を生やした実装石……マラ実装だ。
この公園にマラ実装がいるという報告はなかったので、公園の裏手にある森から出てきたのだろう。
マラ実装は何やらぶつぶつ呟きながら、ケモコのダンボールハウスに近づいてくる。

『さっきの家の奴らは良い締まりだったデスゥ。仔が六匹もいて食いでもあったデス』

どうやら、昨日ケモコら姉妹を襲った成体実装の一家はこのマラ実装に襲われたようだ。
マラ実装は口とマラからよだれを垂らしながら、ケモコの家の戸を開ける。

『チャアアアアアア!』
『デデッ!?』

戸が開いた瞬間、叫び声を上げながら爪で斬りかかるケモコ。
しかしケモコの奇襲は避けられてしまい、マラ実装はマラを振り回してケモコを弾き飛ばした。

『テチャッ!』
『ふぅ~危なかったデス……見た所ケモノの仔のようデスゥ?
 デププ……活きが良くて具合も良さそうデス』

マラを見せつけるようにじりじりと近づくマラ実装。
ケモコは怯えた表情で尻もちをついた姿勢のまま後ずさりしていくが、
やがてダンボールハウスの壁に追い詰められた。

『デププ、もう逃げ場はないデス……観念してヤられ————』

————ザシュッ

怯えた表情は演技だったのか、目の前に突き出されたマラをケモコの爪が一閃する。
仔獣装の爪の長さでは切断まではいかなかったが、竿の部分を半分ほどの深さまで切り裂かれ、
赤い血と白濁液の混じったドロリとしたものが噴き出した。

『デッギャアアアアアアアアアアアアア!』

その場に倒れてマラを抑えるマラ実装に、ケモコが飛び掛かってさらに爪で斬りつける。
斬撃、斬撃、斬撃……!
ついにマラは切断され、ケモコの足元に転がった。

『デギョォォォォォォッ!?』

マラ実装は色付きの涙を流しながら逃げていき、後にはケモコと斬られたマラが残っていた。

『ハァ、ハァ、ハァ……や、やったテチ! やったテチャアアアアアアアアア!』

ケモコは雄叫びを上げると、落ちていたマラに食いつき、その肉をむさぼった。

『……ワタチは生きるテチ。生き延びるテチ……!』

  *  *  *  *  *

ケモコがマラ実装に勝利したのは嬉しい誤算だった。
仔獣装ではマラ実装には勝てないだろうと踏んでいたのだが、これで記録を続けられる。

その夜、我々は再びケモコのダンボールハウスに行き、ネムリガスを噴霧した。
そして再びの遺伝子サンプルの採取と共に、盗聴機能付きの発信器を埋め込んだ。
ケモコの活動範囲が広がっても、これでデータを取ることができる。

その後、野性に目覚めたと思われるケモコは、身体能力を活かして公園内を移動し始めた。
公園のあちこちに仕掛けられたカメラには、ケモコの様子がたびたび捉えられていた。

『今日はあっちに行くテチ! 公園を走り回るのは楽しいテチ!』

『この辺りは木の実さんがいっぱいテチ! 他の仔が来る前に全部食べちゃうテチ!』

『ここはお水さんがいっぱい噴き出しているテチ! 身体をキレイキレイにするテチ!』

移動を繰り返すことで効率よく餌を集められたし、その強さで他の野良から餌を奪うこともできた。

『この場所はワタチがゴハンを集める場所テチ。お前たちは余所に行くテチ!』
『デェェ……あいつはマラ実装を倒した奴デスゥ、危ないから近寄っちゃ駄目デスゥ』

『……この穴には蛆ちゃんが飼われているテチ。こっそり食べちゃうテチ』
『デデッ、トイレ穴を漁ってるのは誰デス!?』
『蛆ちゃんもらったテチーッ!』
『デェェェッ!?』

また、他の野良が虐待派に襲われている時は、木に登ってやり過ごすなどして上手く生き延びていた。

「ほーら、死のうねぇ!」
『ニンゲンは恐ろしいテチィ。でもここにいれば安心テチ……』

  *  *  *  *  *

やがて成体になったケモコは、公園のボスになった……などということはなかった。

『もう公園は飽きたデス。山に行くデス』

盗聴器はそんな独り言を捉えていた。
獣としての性質が、より自然の中を求めたのだろうか?

『山は独りデス……でもこの感じは好きデスゥ』

『ちょっと寂しいデス。いつか仔を産んでこの山に仲間を増やすデス』

『カエルさんおいしいデス』

仕掛けられた盗聴器は、時おりケモコの独り言を拾っていた。

ケモコはしばらくの間、公園に隣接する山の中で暮らしていたようだ。
暮らして「いた」である……そう、獣装石と言えど所詮は実装石の一種。
爪があり、身体能力に優れてると言ってもさほど強くない。
ケモコにも最期の時が来たのである……盗聴器からの最後の通信は以下のとおりだ。

『大きな動物デス! 怖いデス、追いかけてくるデス! もう追いつかれるデス……!
 こ、こうなったら立ち向かうデス! き、来たデス! 怖いけどやるしかないデスゥ!
 だいじょうぶデス、ワタシは強いデス! マラ実装だってやっつけたデスゥ!
 ……デシャッ! ……やったデス、一発食らわせてやったデ……デギャッ!
 痛い痛い痛いデズゥゥ! ……デギッ、ガギャァァ! やめ、やめでデズゥゥ!
 ……デシャアアア! テヒィィィ、テヒャァァァ! 死にたくないテヒャアアア!
 ママ、ママァァァァ! ママどこ行ったんテチャアアアアア! ママァァァァ!
 ママ助けテッチャアアアアアアアアア————ヂヂュ! ヒュー……ヒュー……』

この信号を最後に、テチコの発信器で検知していた生体反応は途絶えた。
信号が途絶えた場所を調べに行った私が見つけたのは、散らばっていたケモコの物と思われる毛の束と、
それよりは短い毛の塊……持ち帰って調べてみると、犬の毛と判った。
公園付近の山に野良犬がうろついているという報告があったので、この毛はその野良犬の物だろう。

ケモコは獣装石として生まれ、野性に目覚め、自然の中に行きて自然の中で死んだ。
それは家族から迫害されることが多い一般的な獣装石と比べれば、シアワセだったと言えるかもしれない。
最期に幼児退行を起こしていたが、やはり母親が帰らなかったことは心の傷となっていたのだろう。

なお、ここからが本題なのだが、記録の過程でケモコから採取した遺伝子サンプルの成分を、
妊娠したばかりの親実装に投与してみたところ……胎内の仔は高確率で仔獣装となって産まれてきた。
これにしっかり躾を施すことができれば、仔獣装をペットとして売り出すことができる。
数ヶ月に及んだケモコの観察が実を結ぶ時は近い。
……ありがとう、ケモコ。



終わり

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1 Re: Name:匿名石 2024/06/03-22:23:24 No:00009161[申告]
熊かと思ったら犬かあ…猫になら勝てたかな?
2 Re: Name:匿名石 2024/06/03-23:49:06 No:00009162[申告]
小動物ならワンチャン
3 Re: Name:匿名石 2024/06/06-18:22:13 No:00009165[申告]
獣実装とはいえさすがに犬以下の所詮実装か
4 Re: Name:匿名石 2024/06/06-20:51:36 No:00009166[申告]
犬以下とは言うけど野犬には人間すら素手じゃまず勝てんよ
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