タイトル:【虐他】 実翠石との生活 その3
ファイル:実翠石との生活 その3.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:235 レス数:5
初投稿日時:2024/04/15-20:32:47修正日時:2024/04/15-20:32:47
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実翠石との生活 その3
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若菜と名付けた実翠石をお迎えしてから、早くも一月近くが経っていた。

日が傾きかけた頃、私は若菜を連れ、夕飯の食材を買い揃えるため商店街へと足を運んでいた。
クリスマスも程近く、外はかなりの冷え込みを見せている。
風邪などひかぬよう、若菜にはダッフルコートにマフラー、手袋、ニーソックスと防寒対策をしっかりと施す。
やや着膨れしてしまった感があったが、当の若菜は、
「これなら寒さもへっちゃらです!」
と手袋越しに私の手を握り笑顔を見せてくれた。

家を出てからほど近い、人通りもまばらな通りで、若菜が唐突に立ち止まり私の手を引く。
何事かと思い若菜を見ると、若菜は数メートルほど先にある電信柱の元に置かれた段ボールを指差した。
耳を澄ますと、不愉快さを覚えずにはいられないテチテチという鳴き声が聞こえた。
捨て実装だろう。
小さめの段ボールには、仔実装が2匹と蛆実装を抱きかかえた親指1匹が入れられていた。
段ボールには、「かわいくて賢い仔実装です。拾って上げて下さい」と女の子らしさを感じる丸みを帯びた字で書かれている。
段ボールの中にはタオルも新聞紙もなく、最低限の暖すら取れそうに無い。
あれでは明日の夜明けまで保つまい。
天気予報が示していた明日朝の最低気温は、確か0度近かったはずだ。
仔実装達の鳴き声が続く。
「テチテチテチテチッ!(寒いテチ寒いテチ早く助けろテ   チ!)」
「テチャテチャテチャッ!(ドレイニンゲンはどこ行ったテチ!はやく高貴なワタチをお家に連れて帰るテチ!)」
「レフ〜レフ〜(もうダメレフ〜。パキンしちゃうレフ〜)」
「レチィ〜レチィ〜(蛆チャ、もっとワタチにくっつくレチ。ちょっとでもあったかくするレチ。)」
まだ泣き喚く元気はあるようだが、これとていつまで保つやら。
「あの、ご主人さま・・・」
遠慮がちな若菜の声。
「・・・ひょっとして、助けて上げたい?」
こくんと頷く若菜。
「実装石は怖くないか?大丈夫なのか?」
「こ、怖いです。でも、このままじゃ・・・」
そう、仔実装達は確実に凍死する。
だが、だからといって家でこの仔実装達を飼いたいかといえば、答えは断じて否である。
とはいえ、若菜の手前、見殺しにすると言い切ることも躊躇われた。
「実装石は、生まれつき若菜達を嫌っているのは知っているね?」
「はいです」
神妙な顔つきで答える若菜。
実際のところは嫌うなどと生易しいものではない。ほとんど憎悪に近い。
以前もあったように威嚇や塗糞といった攻撃にまで及ぶほどに。
「でも、お店に居たときも、数は少なかったけど、叫んだりウンチを投げてきたりしない実装石もいたです。だから・・・」
それらはあくまで例外的な個体だろう。ペットショップ故に躾済みの個体であったこともその要因として大きかったはずだ。
そうした理屈を並べて若菜の主張を退ける事はできただろう。
だが、それは若菜の持つ生来の善性、優しさの否定にも繋がりかねない。
仕方ない。今回は妥協せざるを得ない。
「若菜と仲良くできそうな実装石だったら、少しの間預かることにしようか・・・」
「・・・ありがとうです、ご主人さま!」
パッと明るさを取り戻す若菜。
まず最初に私が段ボールを確認する。
こちらを視認するなり、仔実装達は一段と鳴き声を張り上げた。
「テチィッ!テチィッ!(早く助けろテチッ!まったく使えないクソニンゲンテチ!)」
「テヂィィッ!ヂィィッ!(役立たずのドレイニンゲン!ウンコ食わせるだけで許してやるから早くあったかいところに連れてけテチィッ!)」
「レチレチ!レチレチ!(お願いレチ!蛆チャだけでも助けてレチ!蛆チャとってもいいコなんレチ!)」
「レ・・・レピッ・・・」
何を言っているかは分からないが、うるさいことこの上ない。特に仔実装二匹は唾を飛ばす勢いで鳴き叫んでいる。
何故か分からないが、親指は色付きの涙を流しながら抱えていた蛆実装をこちらに差し出すようにしている。
当の蛆実装は口から舌をダラリと垂らしてピクピクと震えており、どう見ても長くは保たなそうだった。
正直この時点で家に連れ帰る気が完全に削がれたのだが、若菜に約束した手前、反故には出来ない。
私は背に隠していた若菜に促すと、若菜は少し緊張した面持ちで頷き、私の背からそっと顔を出す。
「こ、こんにちはです〜」
精一杯友好的なところを見せようとしてか、やや引きつりながらも笑顔で挨拶する若菜。
途端に仔実装の形相が一変した。歯をむき出し、興奮のあまり脱糞すらして若菜を威嚇し始める。
「テヂィィッ!テヂィッ!(何笑ってるテヂィィ!バカにしやがってムカつくテチィッ!)」
「テヂャアアアッ!テヂィィッッ!(そのクソニンゲンと一緒にクソドレイにしてやるテチ!一生ウンコ食わせてやるテチッ!)」
「レチィッ!レチィ!(オネチャ達、ニンゲンさん達にそんなことしちゃダメレチィ!)」
威嚇してきた内の一匹は投糞すらし始めるが、あいにく仔実装の腕力では全く届かない。段ボールの中が糞まみれになるだけである。
これは駄目だ。とても連れ帰ることができる状態ではない。
「若菜、残念だけど・・・」
私が言葉を続ける暇もなく事態は急変した。それも最悪な方向へと。
「レチィッ!レチレチッ!(お願いレチニンゲンさん達!蛆チャだけでいいから助けてレチィ!)」
「テヂャアアアアッッ!テヂィィィィッ!(オマエさっきからひとりだけイイコぶってるテチ!あんなヤツに媚びるヤツは糞蟲テチッ!)」
「テヂィィィィィッ!テヂィィッッ!!(死ねテチ!まずは糞蟲のオマエからブッ殺すテチッ!)」
「レチィッ!?ヂッ!」
止める暇も無く、親指は仔実装に頭部を半分食い千切られて絶命した。
親指に抱きかかえられていた蛆実装も、もう一匹の仔実装に胴体を踏み潰されて、悲鳴すら上げずに赤緑の染みと化す。
「・・・ぁ・・・あ・・・あぁ・・・!」
目の前の惨状に顔を真っ青にして、カタカタと震える若菜。
何てことをするのだこの糞蟲共は・・・!!
今すぐにでも踏み殺してやりたかったが、まずは若菜を何とかするほうが先決である。
私は若菜を抱きかかえ、足早に来た道を引き返した。

家に帰り着くなり、若菜は私に抱き付き肩を震わせた。
「駄目だったです・・・。助けてあげられなかったです・・・」
ポロポロと流れ落ちる涙を私は指で拭い、目線が合うように身体を抱き締め、なるべく優しく撫で擦る。
「若菜のせいじゃないよ」
全てはあの糞蟲共の自業自得なのだ。
救いの手を払い除け、あまつさえ目の前で同族を食い殺すなどという理解できない凶行に及んだのは奴らの勝手だ。
若菜が気に病む必要などない。
「でも、わたしが余計なことをしなければ・・・」
それはどうだろうか?おそらく、あの糞蟲共のことだから、時間が経って腹が空けば間違いなく共喰いに及んでいただろう。
だが、それをそのまま若菜に伝えるのは残酷に過ぎる。
「若菜のせいじゃない。悪いのは、判断ミスした私のほうだ」
そう、渋々ながらも糞蟲を助けるなどという私の判断自体が間違っていたのだ。
糞蟲共に若菜と仲良くできれば、などと淡い期待を抱いたのも誤りだった。
今更ながらに自身の考え違いに腹が立ってくる。
それになにより、糞蟲共のために若菜が心を痛めている事自体に我慢がならなかった。
何か他に話題はないか?
糞蟲共の事など忘れられるような楽しい話は何処かに転がっていないか?
ふと、泳がせた視界にカレンダーが映り込む。
あと2週間足らずでクリスマスだな・・・。
そう、クリスマス。これだ。
「若菜、若菜。そういえば、もうすぐクリスマスだ。クリスマスプレゼントで、何か欲しい物はないかな?」
「クリスマス・・・?」
急に違う話題を振られてキョトンとする若菜に、勢いで捲し立てる。
「ああ、クリスマスだ。クリスマスについては知っているね?」
「はいです・・・。」
「若菜と初めて一緒に過ごすクリスマスだからね。私も楽しみにしていたんだ」 
「ご主人さまといっしょ・・・」
「ああ、そうだよ。それにね、いい子にしていた子供は、クリスマスプレゼントが貰えるんだよ」
「プレゼント・・・」
「そうだ。いい子にしていた若菜に、私のところに来てくれた若菜に、何でも欲しい物を一つ、私からプレゼントだ」
「本当に、何でもいいです・・・?」
「ああ、もちろん。私にできることならば何でも言ってくれ」
「それなら・・・」
意を決したように、それでいて不安をわずかに滲ませて。
私の目を、そのオッドアイで見つめて。

「ご主人さまのこと、お父さま、って呼びたい、です・・・」

・・・失われたものが、また一つ、戻ってきたような錯覚を覚えた。
「だめ、ですか・・・?」
「そんな、そんなことで、いいのか・・・?」
鼻奥が何故かツンと痛んだ。おかげでろくに言葉が出てこない。
「そんなこと、じゃないです。すごく、すごく大事なことです・・・!」
「あ、ああ、すまない。そうだな。すごく、大事なことだな・・・」
普段見せない若菜の力の籠もった態度に、少しばかり戸惑いを覚えつつも、目頭が熱くなるのを感じる。
言葉を覚えることすらなく、私の元を妻と共に去って行ってしまった娘が、目の前に戻ってきてくれた。
そんな都合のいい幻想、いや妄想に囚われそうになる。
「若菜にそんなふうに呼んで貰えるなんて、本当に嬉しいよ・・・」
声の震えを抑えながら、喉から何とか言葉を絞り出す。
途端に、若菜のオッドアイが潤み、頬に紅が差した。浮かべた笑みは、まさに花が咲いたようだった。
若菜にギュッと抱きつかれ、頬と頬が触れる。耳元で、若菜が囁いた。
「大好きです。私だけの、お父さま・・・」

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1 Re: Name:匿名石 2024/04/15-21:27:09 No:00009022[申告]
若菜ちょっと打たれ弱そうだけど良い子だな
お父さまに可愛がられて健やかに育って欲しい
捨て実装たちはやはり実装石だったな
親指は良蟲と言えたが親指だからどうにもならず 合掌
2 Re: Name:匿名石 2024/04/16-01:28:36 No:00009023[申告]
実装石に情をかけても大概裏切られるからなあ…インモラルの申し子相手に若菜が良心で接する姿は何とも危なっかしい
しかし、たまにいる真面なやつに限って同族によって排除される憂き目に遭うのは哀れだ
3 Re: Name:匿名石 2024/04/16-06:15:27 No:00009024[申告]
親指可哀想…
4 Re: Name:匿名石 2024/04/16-22:21:53 No:00009025[申告]
>「かわいくて賢い仔実装です。拾って上げて下さい」
…どこにでもいるありふれた糞虫でしたとさ
若菜が即座に糞虫を暴くリトマス試験紙と化してて面白い
5 Re: Name:匿名石 2024/04/17-19:01:00 No:00009029[申告]
短い どうせならまとめて投下したほうがいい
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