タイトル:【虐・悲劇】お前は私のママじゃない【託児】
ファイル:ママじゃない.txt
作者:中将 総投稿数:51 総ダウンロード数:1320 レス数:8
初投稿日時:2023/07/31-23:53:54修正日時:2023/08/02-01:20:38
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机の上には一匹の仔実装。
男はため息をついた。

託児である。

損害はおにぎり2つにパック牛乳。

金銭的にはそこまでの損害ではない。
だが実装石に償えるほど安い金額でもない。

男は合理的な思考をする男だった。
弁償できないならこの仔実装の命で償ってもらうしかないか……
男が静かな殺意をもって仔実装に手を伸ばしたとき、危機を感じた仔実装が吼えた。

「違うんテチ! ワタチは悪くないんテチ!」

男の手が止まった。

男は仔実装の話を聞いてみることにした。


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          お前は私のママじゃない


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「なるほど、つまりは託児は親の意思であり、お前の意思ではないと」
「そうなんテチ!」

この仔実装は賢い個体だった。
必死に男に弁明した。
まず、袋の中にあったおにぎりと牛乳には手を付けていない。
それは人間の怒りを買うことであると論理的に理解していた。

もっともビニール包装のおにぎりと紙パックの牛乳では、
汚物とともに運ばれたら汚染されたと思われるのが当然なのだが。

むやみな媚びも打たないし、もちろん糞の粗相もしない。
公園で嫌というほど人間の怒りに触れて散っていった同族……そして姉妹を見てきたのだった。
まず表明すべきは悪意のなさと害意のなさ。
そして自らについての有害性のなさである。

「つまりは、お前も一種の被害者というわけだ」
「! そうなんテチ!」

あくまで自分は捨てられてしまっただけの哀れな個体であると仔実装が主張すると、男は思案した。
そういうことであるなら、男の基準では仔実装に責任を取らせるのは理に合わないことだった。
男は頷く。

「なるほど、親に責任があって、お前に責任がないというなら、お前を殺すのは筋違いだな」
「テチ!」
「しかも、捨てられたというなら行く当てもあるまい。飼ってやろう」
「本当テチ!?」
「ああ、だが」

男はつづけた。

「もし、お前の親を見つけたら、そいつには責任をとって死んでもらうよ」
「テ」
「そして、お前が嘘をついていたのなら、お前は叩き出す。いいね?」
「テ、テチ」

仔実装が頷くと、男は満足そうにうなずいた。
男は合理的な男だった。そして虐待派でもなかった。

だが、契約に関しては恐ろしくシビアな男だった。
男が殺すというのなら、それは絶対に殺すのだ。

男の性質など知るよしもない仔実装だったが、男の柔和な表情に浮かぶ冷徹な視線に静かな恐怖を感じた。


     *     *     *


男は仔実装に「ニコ」と名付けた。
名前の意味はおにぎり二個分、という意味だ。
つまりそれだけの値段がお前の命の対価であるという意味である。牛乳分は割り引いてもらえたらしい。

ニコは飼い実装として標準的に恵まれた飼い方をされた。
男の家は小さいながらも庭付きの一軒家だ。
庭に飼われてもおかしくはないが、ニコは日の当たる一階のリビングに部屋飼いの住処を与えられた。
標準的なハウス、標準的なトイレ、標準的な食事。
男には実装石にそこまでの愛情はなかったが、面倒を見るといった手前は最低限の相手はしていた。
ニコは若干の寂しさを覚えてはいたが、分を知るというのが命を繋ぐと知っている。
空調の利いた部屋で外敵のいない生活、野良の実装石には望むべくもないことだ。

男は二階で在宅の仕事をしていた。仔実装は日中は一匹で放置される。



「テッチ、テッチ」

誰もいないリビングで、その日もニコは一人ボール遊びにふける。

ゴシュジンサマの邪魔をしてはいけない。
二階に上るのは言語道断だし(そもそもできない)、大声を出すのも厳禁だ。

オリコウに、オリコウに。



コン コン


(……?)

一人遊びにふけるニコの耳に、聞きなれない音がした。
庭に続く大窓の方からである。
ふと顔を上げたニコはそこで見てはならないものを見てしまった。

(……ママ!?)

外から一匹の親実装がニタニタした顔をしながらこっちを見ている。
ニコは声にならない悲鳴を上げた。

(ママ!入ってきちゃだめテチィ!)

ニコの悲痛な思いを裏切るかのように、親実装は手に持った石を窓ガラスに叩きつけた。


     *     *     *


男は知らないことであったが、託児には大きく分けて二種類ある。
賢母型託児と愚母型託児である。

賢母型は愚かな仔を間引く意味で託児する。
自らの手元に置いておいたら家族に害をなす個体を処刑のつもりで人間に押し付ける。
結果として人間のもとに預けられた糞虫は狼藉の報いとして処分される。
親は仔の託児先に訪問など決してしない。どういう目に合うか知っているからだ。
その仔がどうなろうと知ったことではないのだ。
結果として公園の駆除を招いたりするので賢母といえどもしょせん実装石の浅はかさなのではあるが。

愚母型託児はマシな仔から託児をする。
優れた自分の仔が恵まれた環境で生きられるようにという妄想の果てに行う、本来の実装石託児である。
もっとも、マシな仔と言うのも親の基準によるものだから、増長した糞虫が託児されることもままあるが、
人間に当たり前に気に入られるタイプの常識的な仔実装が託児されるケースもまれに存在する。

そして、気に入られた(と思い込んでいる)仔の託児先に親は訪問する。

自慢の我が仔が繋いだ縁を、一家の当然の権利として最大限甘受するために。


     *     *     *


階下から聞こえたガラスの音に、男は仕事を中断して駆け付けた。
見れば、成体実装が一匹と中型の仔実装が3匹、リビングの窓を割って入りこんでいる。
成体実装は男の姿を見つけると、デップデップと笑った。

「デッスーン、可愛い我が仔のいる家にワタシタチ一家が遊びに来てあげたデスー
 さっさとオモテナシをするデスー」
「ニンゲン!もてなせテチ!」
「アマアマのウマウマを要求するテチ!」
「イモウト以上のセッタイをするテチ!」

醜く騒ぐ成体実装とその子供たち。
だが男はそれを無視してニコに尋ねる。

「お前の親か?」
「そうデッスーン」
「お前には聞いていない。ニコ、お前の親か?」

ニコは顔面蒼白だった。かつての男の言葉が脳裏で繰り返される。


『もし、お前の親を見つけたら、そいつには責任をとって死んでもらうよ』


(だめテチ!)


「違うテチ!」

ニコは叫んだ。怪訝そうな顔をする親実装。

「デデッス!?なにを言ってるデス?お前はワタシの仔デス!」
「違うテチ!」

ニコはもう一度大きく叫んだ。

「お前なんかワタチのママじゃないテチィ!」
「デデエ!?このクソ四女!自分ばかりがいい暮らしをしたと思ったら親を見捨てるデス!?」

親実装は怒りで泡を吐きながらがなる。

(違うんテチ!ママの命を助けるためなんテチ!わかってテチ!)

「ママじゃないんテチ!ママがこんなところにいたらいけないんテチ!」

ニコは血涙を流しながら叫び続けた。



「そうか、わかった」

男が親実装の首根っこを掴んで持ち上げる。

「デエエエエ!?」「テチェ!?」「チャアア!?」「テェ!?」

突然のことに慌てる親実装と仔たち。

(! ママじゃないとわかってもらえたテチ!)

ママは助かった!
そう思ったニコは安心してへたり込んでしまった。


     *     *     *


親実装は掴まれたまま、風呂場に連れてこられた。
テェテェ泣きながら後をついていく仔実装たち。そしてそれを追うニコ。

(……外じゃ、ないテチ?)

不思議に思うニコの前で、男はバケツに薄くある液体を張り、そしてその中に親実装を足からねじ込んだ。

「デジャアアアアアアアアア!?」
「「「テッチェエエ!?」」」

親実装の足からシュウシュウと音と煙が上がる。
液体は強力な風呂掃除用の洗剤だった。
たんぱく質破壊成分を持つそれは、すかすかの実装石の肉体など触れた端から溶かしてしまう。

「違うテチィ!そいつはママじゃないんてチィ!だから殺しちゃダメなんテチィ!」

必死に男にすがりつくニコに男は告げる。

「でもこいつ窓割ったから」
「テェ」

窓ガラスの値段はおにぎり二個分じゃ済まない。
実装石に弁償が不可能な段階で、それがだれであろうと男の中では死んで償ってもらうしかないのだ。
男がさらに親実装をバケツにねじ込んでいく。
浅い洗剤の水かさが結果として親実装を長く苦しめる。

膝まで溶けた。

「ジャアア! 痛いデスやめるデスニンゲン! いまならまだ許してやるデス!」

股上まで溶けた。

「ア”ア”ア” オマエタチ何を見てるデス!この人間を止めるデス!死にたくないデス!」

仔実装たちが思い出したように男の足にまとわりつくが、なんの効果もない。

とうとう親実装の腰まで溶けた。

「よんじょォォォォ! ギザマのぜいでェェェ! ギザマがウラギルゥガラァァァ!!」

血涙を流しながらギリギリ見えるバケツの淵からこっちを見ている親実装からニコは目をそらす。

(ごめんなさいテチママごめんなさいテチママごめんなさいテチ)

うずくまり、目を閉じ、耳をふさぎ、親の凄惨な最期を見ないようにするニコ。

男はぐいと親実装の頭をバケツにねじ込んだ。

「ア” ア” ア”  ア”  ア”   ア”      ア”」

長く続いた断末魔の果てに、親実装はわずかな頭頂部を残して、すべて液体になった。


     *     *     *


「テッ!?」

うずくまっているニコの体が突き飛ばされた。
ニコが見上げると血涙を流しながらニコをを睨みつける仔実装……姉たちが取り囲んでいた。

「オマエ!おまえのせいテチ!」
「ママ死んじゃったテチ!殺されちゃったテチ!」
「ウラギリモノテチ!クソムシテチ!」
「テチャァァァァ……」

3匹はめいめい怨嗟の声を上げながらニコに暴行を加える。
殴る、蹴る、髪を抜く。頭巾をはぎ取る、さらに蹴る。服を引き裂く。

「やめるテチャアアア!」
「やめるわけねーテチ!」
「糞虫は死んでママに償うテチ!」
「違うんテチィィィ!ママを助けるためにああ言うしかなかったんテチィィィ」
「わけわかんねーこと言うんじゃないテチ!」
「糞虫!糞虫テチ!」
「オネエチャ、わかってテチィィィィィ」

泣きながらうずくまるニコは見る見る間にボコボコの禿裸にされてしまった。
それでもニコは一切抵抗しなかった。
ママを見殺しにしてしまったのは実際に確かなのだ。姉たちが怒るのもしょうがないのだ。

「はいそこまでだ」
「「「テチャアアアア!?」」」

3匹の仔実装は男につまみ上げられた。

「何するテチ!離すテチ!」
「ママの仇テチ!」
「仇だけど今ならアマアマで許してやるテチ!」

騒ぐ仔実装たちに男は告げた。

「ニコは一応俺の飼い実装だからさ。
 窓を割ったのは親の責任だとしても、そういうことされたら償ってもらわないといけないんだ」
「「「テチ?」」」

「じゃあまずお前から」
「チャァァァァァァァ!?」

親の溶けたバケツの中に仔実装が一匹落とされる。

「痛いテチィィィ!熱いテチィィィィ!ウェホ!ウェホォォォォ」
自らの溶けるガスにむせて暴れる仔実装。その上にさらにもう一匹が落とされる。

「イモウトチャ!踏まないでテチィ!ワタチしず、しずん」
「チャアア!オネエチャ暴れないでテチィ!しぶきが跳ねて痛い痛いテチィ!」
「し、しぶきがなんテチィ!ワタチを踏み台にしてんじゃねえテチィ!」
「オネエチャ、暴れないでテチ!落ちるテチ!アアアアアア!」

「チャアアアア!!」

そんな二匹の上に落とされる3匹目。

「イダイデヂィィィィィ」
「ジャアアアア エッフォ エッフォエエエエエエ」
「オデデガナイデチィィィィ」
「ワタヂノナガミィィィィ」
「ゲッフォ ゲッフォ ジェエエエエエ」
「ナンデワタヂ ガ ゴンナ メニ ィィ ィ ィ」

仔実装たちはめいめい怨嗟の断末魔をあげてバケツの中に溶けていった。


     *     *     *


「ニコ、災難だったな」
「テェェ……」

ニコは心身ともにボロボロだった。
姉たちにリンチされたあげく、間近で家族の処刑シーンを見せられたのだ。
男の手に優しく持ち上げられただけで力が抜けてしまった。
だから男の次の言葉に完全に凍り付いた。

「ママを助けるためにああいうしかなかったんだ?」
「テ」
「ママだったんだね?」
「テ、テエ……」
「嘘をついたね?」

男はにっこりと笑った。


     *     *     *


禿裸のニコ……仔実装は公園の真ん中に捨てられた。
仔実装はもうすべてを諦めていた。こうなるのは運命だったんだ、と。

「どうして、こうなったテチ?」

どこか冷めた口調で元飼いの禿裸はつぶやく。
最後の別れのつもりで聞いていた男は心外そうに答えた。

「そんなの決まってる。お前のせいだ」
「テ、テェ!?」

独り言に返事があったのににも驚いたが、予想外の答えにも禿裸の仔実装は驚いた。
男は続ける。

「お前が自分のせいじゃないと言ったから、みんなのせいになった」
「テ」
「お前が約束したから、みんなその通りになった」
「テ……」
「これは運命じゃなくて、お前の選んだ結果だ」
「……」

男はそう告げて公園を後にした。



その背後で、何かが割れるような小さな乾いた音がした。




完


*********************************

中将◆.YWn66GaPQ

クラシックな託児ものをひとつ
誤字など微修正

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1 Re: Name:匿名石 2023/08/01-07:19:17 No:00007679[申告]
言い分を聞いた上で飼ってくれて約束もきっちり守ってくれる
良かったじゃないか(破滅しないとはいっていない)
2 Re: Name:匿名石 2023/08/01-10:26:18 No:00007680[申告]
自分を捨てた親を助けようと何て慈悲深い仔なんだ
3 Re: Name:匿名石 2023/08/01-19:44:18 No:00007682[申告]
面白かった
侵入直後は窓ガラスを割ったのは親で残りの糞蟲はまだ何もしていない
投糞一発即死ルートで絶望的なほど生存率は低くてもすぐに行動を改める知能があれば三姉妹が生き残れる可能性はあったのにニコがつまらない嘘をついたせいでなんのチャンスもなく家族仲良く死んでしまったねぇ
4 Re: Name:匿名石 2023/08/01-21:26:00 No:00007684[申告]
誠実で優しい男性デスゥ
5 Re: Name:匿名石 2023/08/01-23:17:50 No:00007685[申告]
馬鹿な親を持った不幸よ
6 Re: Name:匿名石 2023/08/05-18:52:30 No:00007709[申告]
嘘をついて「いた」のなら叩き出すだからそれ以降は嘘ついても問題ないような?
7 Re: Name:匿名石 2023/08/06-01:56:39 No:00007716[申告]
「自分はママに捨てられた被害者だ」は間違いなく嘘だったね
8 Re: Name:匿名石 2023/08/06-18:21:26 No:00007729[申告]
というか、よくよく見るとこの男損しかしてないな
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