仕事での外回り中、公園で休憩していると不意に声をかけられた。 「ポひぃ!クヒョニンケン!ワラチにステーヒとヒョンヘートゥをよこひゅヘヒュ!」 頓珍漢な言葉が飛び出し慌ててスマホを確認するとリンガルアプリが起動していた。 しまった。昨夜使ってからOFFにするのを忘れていた。 翻訳元はというと俺の爪先の前に仁王立ちしている。 「なんだぁコイツ?」 実装石なのは間違いない。だがその出で立ちは俺が今まで見てきたどんな実装石よりも奇妙だった。 頭巾は無く、ハゲを晒した頭に僅かにだが濁った両目。損傷激しい服からは歪に膨らんだ腕とデコボコの黒ずんだ手先。 太っている、というには正常な太り方ではない腹。更には足は左右で太さが違う上に腕同様に先が黒ずんでいる。 更に奇妙なことに全身のあちこちから産毛が生えているではないか。 「いや…違うぞ…」 あまりの風体に驚きつつもそれぞれの状態をつぶさに観察し確信した。 「これは末期糖尿病患者だ!(ギュッ」 間違いない。濁った瞳は緑内障。異様な腕の膨らみは腫瘍の塊。腹は極度の栄養失調によって餓鬼のように膨らんでいるだけ。左右で太さの違う足は動脈の異常とそれによる栄養の不均衡。手足の黒ずみは栄養の不足から壊死が始まっている証拠。とどめの産毛の正体はカビだ。 「信じられん。新陳代謝の怪物である実装石が…いったいどうやったらこんな症状になるというんだ…」 腐臭に鼻を摘まみながら驚愕する。 「ワラチはヒューパーエヒーホ実装石ヘヒュ!へれふせヘヒュ!」 歯が殆ど無くスースーと空気が漏れるせいで酷く聞き取りにくい。 よく見れば顎も変形しているのか噛み合わせなんてあって無いようなものだ。 「で、そのスーパーエリート様がなんで公園なんかでそんなみすぼらしい格好を晒してるんですかねぇ」 頬杖を付き、呆れたといった様子でリンガルを通じて会話を試みると糖尿病実装はポヒャポヒャと叫び癇癪を起こした。 「ワラチはみひゅぼらひくなんかないレヒュ!みひへなクヒョニンケンのぶんひゃいでなまいひなくひを聞くなレヒュ!」 潰してやろうか、と思うと同時にこんな汚いので靴を汚したくないなという気持ちが半々。 しばし考え込もうとした刹那答えは別のところから現れた。 「また出てきやがったデスっ!」 「ペヒャアッ!」 なんと茂みから現れた別の実装石が糖尿病実装を勢いよくぶん殴ったのだ。 「お前が出てくるせいでニンゲンサンが来なくなったデス!死んで償うデス!」 「デホピャハッ!ギャバァ!ギャババァ!」 乱入実装が執拗に足蹴にする。 なるほど。こんな気味の悪い奴がいると知れば誰だって近づきたくはないだろう。 野良実装が俺に声をかけなかったのも不用意な発言で気を悪くし、二度と来なくなった時の危険性を考慮してのことだったのだ。どっちにしろ餌はやらないけど。 「すまんデスゥニンゲンサン。どうか気を悪くしないで欲しいデス」 いつの間にか現れた妙に仰々しい実装石がペコリと頭を下げながら謝罪した。 「あ、ああ。それよりもアイツはなんなんだ?相当な愛誤派にでも飼われてたのか?」 その態度に驚きながら質問すると実装石はいえいえ、と手を振った。 「あれは昨日まで虐待派に飼われていたデス。毎日毎日砂糖水をたらふく飲まされて育ったデス」 「虐待派が砂糖水を?どういうことだ?」 「実装石は病気になるのかという実験デス。味の濃いご飯も沢山食べてたデス。結果は見ての通りデスゥ」 なるほど。飼い主は実装石が成人病になるか否かの実験をしたらしい。結果は成功と言えるだろう。 しかし代謝の怪物である実装石をあそこまでの立派な糖尿病患者にするには相当な苦労があったはずだ。しかもそれを…。 「しかしなんで捨てたんだ。虐待派なら自分で処分してしまえば良いものを」 観察派であるならこの糖尿病実装がどのように生きていくのか調べるためというのも分かる。 だが虐待派が生かしたまま実装石を公園に返すというのは少し奇妙だ。 「逆にニンゲンサンに聞くデス」 「俺に?」 「…あれを自分で処分したいデス?」 いまだボコボコにされる糖尿病実装を指、というか手で指しながら実装石が質問する。 あまりにも醜い病原菌の塊。リアルバイキンマン、病巣が体内にタワマン建てて住んでそうな身体。 はっきりいって誰も近づきたがらないだろう。 「…なるほど」 「分かってくれたようで助かるデス」 あまりに汚すぎて自分の手を文字通り汚したくない。そう判断して捨てたのだろう。 「しかし蹴られ初めて随分経つのにしぶといな。あの状態なら骨なんてあって無いようなものだろう」 元々成体実装石の骨の強度は割り箸並みと言われている。 それが糖尿病で穴だらけになっていれば実装石の力であっても即座に粉々になるだろう。 「ワタシ達もニンゲンサンと同じデス。あんなばっちいのに関わりたくないデス」 確かに。人間ですら始末するのを躊躇する相手を体格の小さい実装石が踏み潰したらどうなるか。 体内に溜め込まれた汚汁を全身に被ることになってしまう。そう考えると蹴っている実装石は勇気ある一匹と言えるだろう。 「それにしてもやけに詳しいなお前」 「ワタシはアイツの次に虐待されるはずだったデス。でもアイツの様子にゴシュジンサマもゲンナリして一緒に解放されたデス」 飼い主もうちょっと頑張れ。お前が望んだ結果だろうが。 「しかしお前賢いな。俺のところで飼い実装になるか?」 「遠慮するデス。一緒に飼われていたよしみデス。せめてアイツが死んだ後、気が変わっていなかったら頼むデス」 驚くことに賢い実装石は飼いの選択を蹴った。 ここまで賢いやつを逃すのは惜しいがだからこそコイツの意思を尊重しなければ。 「そうか。大変だなお前も」 「それはニンゲンサンもお互い様デスゥ」 一方的に蹴られる糖尿病実装を眺めながら一人と一匹はしみじみ語るのだった。 まあ、アイツが死ぬのも時間の問題だろうし明日にでもまた来るか。 「フェポパパパッ!ギャバッ!ギババギャババァァァ!」 「うるせーなアイツ」 「ご迷惑おかけしますデスゥ」
1 Re: Name:匿名石 2023/07/26-22:19:02 No:00007633[申告] |
実装石が砂糖水に漬けると再生するのも体内の栄養素を持っていかれてスカスカになってる可能性を考えさせられる |
2 Re: Name:匿名石 2023/07/26-23:20:06 No:00007634[申告] |
病気になったらなったで逆に進行も早かったりするのかな?
処分しない方が苦しむと踏んだんだな |
3 Re: Name:匿名石 2023/07/27-09:29:28 No:00007644[申告] |
虐待派ってむしろ色んなスクで生きたまま公園に捨ててる気が |
4 Re: Name:匿名石 2023/07/27-18:28:29 No:00007646[申告] |
契約や一定条件を満たした下の釈放や悪意を持った解放もしくは脱走の誘導はちょくちょくやるが(観察し破滅後ゴミとして処置する場合も)
単なる廃棄なら実装ゴミに捨てるパターンが多いイメージがある。 解放を広義の捨てるに含めるなら別だが 所謂、遺棄・放棄的な面倒が見切れなくなって放置する狭義の棄てるなら普通の飼い主や愛護派の方が割合は圧倒的だと思える |
5 Re: Name:匿名石 2023/07/30-18:18:33 No:00007667[申告] |
別に野良実装とかあんな環境じゃ病気になってすぐ死ぬ気がするがね
服とかもヤバいだろう |
6 Re: Name:匿名石 2023/11/13-00:46:12 No:00008464[申告] |
奇矯な病気実装が虐待の成果として作れたら愛誤派の目に留まる様に公園にリリースしたくなる気持ちもわからんでもない
この虐待派は違うっぽいけど |
7 Re: Name:匿名石 2024/05/03-20:09:47 No:00009081[申告] |
糖 禿 実 装 |