男は両手で木箱を持って、実装石が多く生息している公園にやってきた。木箱の中には仕切りが取り付けられ8つの部屋に区切られている。 男のそばに近づく実装石はいない。何をされるかわからないから実装石は人間にはおいそれと近づいていかない。何の予兆もなく蹴られて殺されることもざらにある。 しかし、餌を撒くような人間も少なからず存在しているので、男を見て逃げ出した実装石も少ない。 距離を保ってこちらを見ている実装石に聞こえるよう、男は大きな声で呼びかける。 「強い仔実装はいるかー。飼ってやるぞー。」 言うが早いか、飼い実装になるべく周りの実装石がわれ先にと男のそばに駆け出してきた。公園内はちょっとした騒ぎだ。 ”テチ。本当に飼ってくれるテチか?” ”ワタチテチ!ワタチを飼うテチ!” 男の足元に集まる仔実装に混じって、自分の仔を飼ってもらおうと仔実装を両手で差し出すようにかかえた成体実装もいる。 ”この仔は強いデス!この仔を飼うデス!” 「まてまて、俺が欲しいのは強い仔実装だ。他の仔実装を押しのけて名乗りを上げることのできる腕力も体力もあるやつだ。わかるか?」 男が持っていた木箱の四隅には穴があけられロープが結ばれていた。男はそのロープをもち、木箱を地面から10cmほどの高さになるように吊るした。体長20cm程度の仔実装にとってはなんとかよじ登れるほどの高さだ。 「強い仔実装なら高く吊るされたこの箱によじ登って入ることができるはずだ。最初に入ることができた8匹を飼ってやるぞ。さあ、他の仔を押しのけて飼い実装になれるのはどの仔だ?」 ”テチャァァァ!ワタチテチィィィ!!” 男の周りに集まった仔実装たちは飼い実装になるべく血相を変えて木箱によじ登り始めた。 他の仔実装より早く木箱にはいるべく、互いに押し合い、へし合い、殴り合い。木箱の周りは阿鼻叫喚の乱闘となった。 「よし、いいぞ。戦え。飼い実装の地位は戦って手に入れるものだ。 そこ!仔を持ち上げて箱に入れようとしない!反則だぞ。」 乱闘を潜り抜けて1匹の仔実装が木箱のへりによじ登ることに成功した。しかし仔実装の重みでバランスが崩れて木箱が大きく傾く。 仔実装は木箱から転げ落ちた。 ”デベッ” 断末魔のあとには仔実装は地面についた緑色のしみになっていた。 ”邪魔テチ!お前はあっち行くテチ!” ”お前こそどこかに行くテチ!飼い実装にはワタチがふさわしいテチ!” 別の場所では2匹の仔実装が殴り合いを始めた。やがて1匹が馬乗りの体勢になりもう1匹の顔面を執拗に殴り続ける。 ”テベッ、デヂィ、や、やめるテチ!もう殴るのはやめ、、、” 下になって殴られていた仔実装から声が出なくなり目が濁っていく。殴られすぎて死んだようだ。上になった仔実装はそんなことはお構いなしに殴り続ける。 ”かわいいワタチが飼いになるテチ!醜いお前は死ぬテチ!テプップププ” ”テェェェン!痛いテチ!おててを食いちぎられたテチィ!” ”ママァ!あいつに殴られたテチ!もう嫌テチ!飼いになるのはやめるテチ!” 力の弱い、あるいは闘争心の低い仔実装はこの喧騒に加わることを諦めて親の元に逃げ出していく。 いいだろう。弱い個体は必要はないのだ。力のないものはさっさと帰ってもらったほうがよい。 地面のしみになった仔実装が20匹を超えたあたりで、木箱内の8部屋が仔実装で埋まった。 「終了だ。この8匹は晴れて今日から飼い実装だ。」 ”やったテチ!夢の飼い実装テチ!” ”テチャァァー!うれしいテチィ!” ”よくやったデス、長女ちゃん。わが仔が飼い実装になってママも誇らしいデス” 木箱に登ることができた仔実装たちから、あるいはこの戦いを見守っていた仔実装の親から歓喜の声が上がる。 男は木箱を両手で持ち上げ公園を後にした。 8匹の仔実装は男の家に連れてこられた。男は木箱をテーブルの上に置いて仔実装たちに話しかけた 「さて、お前たちは仔実装同士の戦いを勝ち抜いて飼い実装になる資格を得られた。だが、俺が欲しかったのは強い仔実装だ。弱い仔はいらない。お前らは本当に強いんだろうな?」 ”強いテチ!最強テチ!” 「誰よりも?」 ”誰よりも強いテチ!” 「他の7匹よりも?」 ”当然テチ!強いテチ!” 「よし!それでは今からこの8匹で最強トーナメントを開始する。見事優勝したものにはこのピンクのフリル実装服とあらゆる贅沢が許された飼い実装生活を約束しよう」 仔実装の頭上にきらきらと輝くピンクの実装服が吊るされた。まぶしいばかりの実装服には服に負けないほどきらきらと光り輝く仔実装の羨望のまなざしが向けられる。 ”すごいテチ!あんな服は見たことないテチ!” ”勝つテチ!勝って飼い実装になってあの服を手に入れるテチ!” 「実装一武道会の開幕だ!」 ルールは簡単。 直径80cm、高さ1メートルの闘技場の上で仔実装は1対1で戦う。 勝敗はどちらが死ぬか、相手を場外に出すことで決する。もちろん、場外に出された仔実装はそのまま1メートル下に落下して緑色のしみになる。 仔実装は木箱から取り出されてそれぞれ別の控室に入れられた。控室の前には50cmほどななれて闘技場があり、出番が来ると控室と闘技場の間に板でできた橋が渡される。 2匹の仔実装は闘技場に移動して試合開始の合図を待つことになる。 「それでは第1回戦、第1試合。対戦選手は闘技場へ。」 ”やってやるテチ!” ”テチャァ!勝のはワタチテチ!” 仔実装たちによる飼い実装を賭けた戦いが、今、始まった。