タイトル:【観察】 街角の狩人
ファイル:CAT HUNTER.txt
作者:みぃ 総投稿数:41 総ダウンロード数:655 レス数:3
初投稿日時:2023/01/29-23:20:42修正日時:2023/02/04-02:48:06
←戻る↓レスへ飛ぶ

「うー帰宅帰宅」

 今、地元駅から自宅に向かって深夜の街道を全力疾走している僕は近所に住むただの会社員。
 しいて違うところをあげるとすれば残業明けで小腹がすいてるとこかナ……
 名前は双葉としあき。

 そんなわけで帰り道にあるコンビニに寄って買物をしてきたのだ。

 ふと見るとコンビニのゴミ箱の横に一匹の猫がいたのだった。
 ウホッ! いい野良猫……

「にゃーん」
「はは、なんだ。腹が減ってるのか?」

 コンビニを縄張りにしている野良猫はどこでもよく見かける。
 食料は豊富にあるし、アピールすれば食べ物を恵んでくれる人間がいると知っているからだろう。
 こいつはそんな猫にとっての一等地を独占できるような、したたかで争いにも強い、いい歳した地元のボス猫なんだろう。

「やれやれ、しかたないな」

 そこまで理解したうえで俺はすんなりと猫の可愛さに負けてやる。
 たったいま購入した肉まんをちぎって……あげようとして思い留まった。

 あれ、猫にとってネギは毒なんだっけ?
 これ肉の中にネギは入ってるのかな。
 まあいいや、安全のために周りの皮の部分だけをあげることにする。

「ほら、食うか?」
「にゃー」

 皮をやや大きめに一切れ地面においてやると、猫は小さく鳴いてかぶりついた。
 はは、うまそうに食ってら。
 小動物が食事をしてる姿は本当に可愛くて癒される。

 よく世間話で実際の趣味を隠すために「あー、休日はyoutubeで動物の動画を見て過ごしてますよ」ってテンプレがある。
 昔は「んなわけねーだろ正直に話せよカスが」と思っていたが、実際にやってみるとメチャクチャ可愛くて夢中になって、気がつけば数時間経っていたなんてこともあるんだなこれが。

 こいつらは別に人間に対して媚びを売ってかわいさを振りまいてるつもりではないんだろう。
 なのに、ただ食ったり寝たりしてる見た目だけで人間から愛されるんだから猫ってのは幸せだよな。
 別に実態はそれほど変わらないのに、人間から見て気に食わない外見ってだけで駆除される動物もいるってのに。

 余談だが、動物動画に飼い主の人間の声を入れるのはマジでやめてくれと思う。
 かわいい動物を見て癒されてるのに愚かな人間共の声が入るとそれだけで現実に引き戻されてそっ閉じしたくなる。
 子ども・外人・家畜系動物での農家の人ならセーフ。
 あと動物のセリフを勝手に想像して字幕で入れるのもキモイからやめろ。
 絶対そんな風に思ってねーから。動物だぞ動物。腹が減ったら自分の子供でも躊躇なく食う奴らだぞ。

「ん?」

 そんなことを考えながら眺めていると、半分ほど食ったあたりで猫が急に首をあげた。
 なんだ?

 猫は黙ったまま視線を彷徨わせる。
 腹がいっぱいになった……って感じじゃないな。
 何かに気づいて意識をそっちにとられているみたいだ。

 まだ残っている肉まんの皮から離れてコンビニの窓の方に移動。
 視線は建物の角の方に向いている。
 俺の目には何もないように見えるが……

 そういや猫って霊感が強いから幽霊が見えたりするんだっけ?
 いやいやまさか、こんな街中で。
 でももう深夜だし……

 そろり。
 そろり。

 猫はゆっくり、抜き足差し足で建物の角に近づいていく。
 その姿に先ほどまで可愛らしい食事姿を見せてくれた愛らしさはない。
 まるで忍者か歴戦の兵士、あるいは——

 建物の陰から『何か』が現れるのと、猫が飛び掛かるのはほぼ同時だった。

「テッチャァァァァァァ!?」

 あっ。

「テチャァ! ヂャァアッ! ヂュィィィィッ!」

 夕暮れ時のコンビニ前に響き渡る甲高い叫び声。
 猫に組み伏せられているのは、手のひらサイズの仔どもの実装石だった。

 あー、実装石がいたのか。
 全然気づかなかったぜ。
 幽霊じゃなかったんだ、よかったよかった。
 俺は安堵し、苦笑いをしながらその光景を眺めていた。

 ばりっ、ぼりっ。

「ヂィッ! ヂィィィィィィィィィィッ!」

 無言で小動物を捕食するコンビニ野良猫。
 響き渡る哀れな弱者の断末魔の声。

 そうだよな、野良猫ってある意味で野生の獣だもん。
 パンなんかよりも生肉の方が好きだよな。

 人間にエサを恵んでもらうのは生きる手段の一つに過ぎない。
 可愛らしいコンビニのアイドルの本性は紛れもない野生の『ハンター』だった。

「ヂィィィィィィィィィィィィィィィlィィィ! ヂッ……」

 もはや俺があげた肉まんの皮なんかには目もくれない。
 やがて仔実装の叫び声が途切れた後、そこにはわずかな血だまりだけを残し、したたかな野良猫ちゃんは颯爽とどこかに去っていたのだった。









ほぼ実話(現実で狩られた対象はセミ)です。
実装スクなのにほとんど実装ちゃんの出番がなくてごめんなさい。





 
 

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため4215を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2023/01/30-00:48:51 No:00006735[申告]
猫って可愛いのにゴキも食っちゃうから実装石くらいは当たり前だよなあ・・・
2 Re: Name:匿名石 2023/01/30-03:00:18 No:00006737[申告]
素晴らしい職人さんが帰ってきた!
過去作品を楽しく読ませてもらっています!
無理しない範囲で、制作してください。
3 Re: Name:匿名石 2023/02/07-20:41:28 No:00006763[申告]
猫、半ば反射で攻撃しますからね
そもそもネコジャラシとかもそういう本能煽ってるわけで
実装じゃ手も足も出ないでしょうね

実装石とか現実にいてもスズメにも負けそうだし
何ならクワガタ虫とかとタイマンしても腕切られたり目抉られて負けそうなんだ
戻る