タイトル:【虐】 モモの伝説
ファイル:モモの伝説.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2863 レス数:11
初投稿日時:2021/12/29-15:56:22修正日時:2021/12/29-15:56:22
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モモの伝説


公園は地獄と化した。
男がナイフを片手に、野良の実装石を片っ端から刺し殺していったのだ。
何十か所も刺され、血を体中から流し倒れる実装石。
仔を守るため覆いかぶさった体勢で仔とともに串刺しにされた実装石。
仔も成体も、血を流し死んでいった。

季節は12月。寒い日であった。
男は地面を染める実装石の赤い血と、自身の白い息を見ながら思った。
これ程の惨状だ。この公園にはしばらく来れないだろう。
ストレス解消に実装石を虐殺するにしても、少し時期をあけた方が・・・

死にかけだが、まだ生きている実装石たちが何匹かいた。その実装石に、男が声をかけた。
「お前らは命拾いしたな。そうだな・・・桜の花が咲くころにまたやってきて、お前たちを殺してやるからな」
男はそう言って去っていった。


その公園では男によって8割の実装石が殺された。
だが、実装石の強力な繁殖力により、数カ月後には実装石の数は大方戻りつつあった。
そして、公園の実装石たちの間には奇妙な伝承が広がっていった。
「公園の木々がピンク色に染まるとき、悪いニンゲンがやってきて、自分たちは全員殺されてしまう」
というものだった。

それは12月の虐殺を乗り越えた実装石たちが、新たに生まれた仔に話し聞かせたものだった。
実装石は生まれて1,2か月で出産可能になるため、気温が暖かくなるころには実装石たちはすっかり世代交代しており、
先の虐殺も遠い遠い昔話のような雰囲気を綢いつつあった。

しかし、実装石たちはそれが単なる昔話とは思えなかった。公園の木々が、確実にピンク色の蕾を見せ始めたからだった。
「もしママが話していた昔話が本当だったら・・・」
実装石たちは、迫りくる不確実な恐怖を思い、生活していた。


そんなとき、ある仔実装が生まれた。
親実装は元飼い実装であり、12月の虐殺の後、その公園に捨てられた。
親実装は、仔には飼い実装になってもらいたいと思い、珍しいことをした。
仔にモモという名前を付けたのだ。

普通、実装石にとって名前は飼い実装のステータスであり、人間から以外に名前を付けられることはない。
だが、モモ親実装は、名前を持っていれば人間から注目されやすく、飼い実装になるチャンスが増えるのではないかと考えたのだ。
モモはその名を受けるに相応しいほど賢かった。野良として生きていくために必要なことはすぐ覚えた。
桜の花が咲くころに悪いニンゲンがやってくる、という話はモモ親仔も他の実装石から聞いて知っていた。

モモの親は普段の生活で手一杯で、昔話をそれほど気にしたことはなかった。
だが、モモは違った。
モモは思った。もし本当に悪いニンゲンが来たら、自分も、ママも、お友達も、そのママも、皆死んでしまう。
どうすれば防げるのだろうか・・・。そうだ。悪いニンゲンをやっつければ良いのだ。
皆で協力すれば、きっと、悪いニンゲンをやっつけることができるはずだ。
モモはある日、そんなことを思いついた。


翌朝。
モモは早速、友達の中から協力してくれそうな仔実装たちにそのことを話した。
「ママたちも言っていたテチ!公園の木がピンク色になり始めているテチ!
 もし本当に悪いニンゲンが来るなら、もうすぐテチ!だから皆で協力してやっつけるテチ!」

何匹かの仔実装は、あまりに無謀だと言ってモモのところを離れ、他の仔実装と遊びに行ったり、親の手伝いをしに家に戻っていった。
結果、モモの言葉に賛同したのは3匹の仔実装だった。
以降では、3匹の仔実装をそれぞれサル、トリ、イヌと呼ぶ。

サルは特殊な技能を持っていた。生まれつき手足が普通の仔実装より長く、力も強かった。そのため、木をいとも簡単に登り
(といってもあくまで実装石にしては、だが)、木から木へ飛び移ることもできた。
トリはもっと特殊な技能を持っていた。公園の近くのゴミ捨て場で拾ったある玩具を巧みに使いこなすことができた。
それは玩具のロボットに付いていたパラシュートだった。それを持ち、段ボールの上や木に登り、パラシュートを開いて、飛び降りる。
まるで空挺部隊の兵士のように降下することができた。
イヌはこれといった技能は無かったが、知能という点ではずば抜けていた。モモ、サル、トリよりも生まれが遅いため体は小さかったが、
知能はモモよりも高いものを持っていた。一方で、ニンゲンをやっつけるという荒唐無稽とも思えるような大胆な発想ができるモモを心底尊敬していた。

サル、トリ、イヌは口々に話した。
「悪いニンゲンをやっつけるのはとても大変テチ。でも、ワタシたちは他の仔にはない特技と勇気があるテチ!」
「きっとやれるテチ!」
「悪いニンゲンをやっつければ、きっと次は優しいニンゲンさんがやってくるテチ!そうに違いないテチ!」

それから4匹は、餌探しや家の修復といった親の手伝い以外の時間は作戦会議と訓練にあてた。
最大の問題はどうやって悪いニンゲンをやっつけるか、であった。
そこが突破できなければ、この集まりは何の意味もない。

モモが考えたのは、飽和攻撃であった。
モモとイヌは地上から、サルとトリは木の上から、小石をニンゲンに投げつけて攻撃するというものだった。
この作戦に基づいて、訓練が行われた。

「テチャーーーーーー!!!!くらえテチャーーーーー!!!!」
「ニンゲン!覚悟テチャーーーーーー!!!!」

公園の木々のうち、他よりも背の低い、丁度ニンゲンと同じくらいと思われるものをニンゲンに見立て、
モモ、サル、トリ、イヌは攻撃訓練を行った。

この様子に対して、周囲の実装石たちは冷ややかであった。
「あんなのでニンゲンをやっつけられたら虐待派なんていないデスゥ」
「ニンゲンを傷付けるのではなく、ニンゲンに飼われてこその実装デスゥ。あいつら馬鹿じゃねーかデスゥ」
「あの仔たちは遊んでばかりテチ!ワタシも遊びたいテチ!」

確かに、モモたちも実際に動いてみて思った。これは効果が薄い。
まず小石の残段数に限りがあるのが痛い。どんなに沢山小石を用意しても、ニンゲン相手では本当に足りるのか不明であった。
体力的にも、仔実装が石を投げ続けるのは限界があった。それにコントロール。皆あまり木に命中していないのだ。
ニンゲンは木とは違い、動く。命中率はさらに下がるはずで、木相手でこの命中率では、この作戦は到底無理であった。


翌日。
さぁ今日も訓練だと4匹が集まったところで、イヌが切り出した。
「新しい作戦を思いついたテチ!」
皆が驚く。
「どんな作戦テチ!?」

イヌは語り始めた。
「ワタシは昨日寝る前に考えたテチ。実装石とニンゲンとでは、体の大きさも、力も、何もかも違うテチ!
 それは丁度、ワタシたちと虫の関係に近いテチ!」
「テェ??」
全員が分からない、という顔をしていた。
イヌが続ける。
「想像してみてほしいテチ。自分が虫をやっつけようとして、虫が立ち向かってきたとき、どこを攻撃されたら
 困るテチ?どこを攻撃されたら、へっちゃらテチ?」

全員がなるほど、という顔をし始める。
イヌは両腕をガッツポーズのようにし、皆を勇気づけるように語り掛ける。
「ワタシは、虫に目を刺されたら一番怖いテチ。お手てとかあんよなら、まだ痛みとか痒みは耐えられるテチ。でも目は怖いテチ。
 そして、もしワタシが虫に目を刺されたらどうなるか、考えてみたテチ
 目が見えなくなったら、怖くて動けなくなるテチ。その場にうずくまるテチ。
 そこを、虫が一斉に襲ってきたら、それはそれは怖いことテチ!」

つまり・・・

「つまり、サルちゃんとトリちゃんが、木の上から悪いニンゲンに飛びかかって、木の枝で悪いニンゲンの目を刺すテチ
 目を刺されてうずくまった悪いニンゲンを、モモちゃんとワタシが木の枝でめった刺しにするテチ」

荒唐無稽なように聞こえて、この案は妙案だった。進〇の巨〇しかり、ドラゴ〇ボー〇の大猿となったサ〇ヤ人しかり、
巨大な敵を倒すにはまず目を抑えるという考えは確かに説得力があった。そしてもし実際に目をやられれば、人間はうずくまるか、
その場から這ってでも逃げようとするだろう。

全員がいける、やれるという自信に満ちていった。
「すごい作戦テチ!それならきっと大丈夫テチ!!」
「木の上からニンゲンに飛び移るなんて考えもしなかったテチ。言われてみれば木もニンゲンも、背が高いから似てるテチ」
「ついにワタシの空飛ぶ布(パラシュートのこと)が役立つ日が来たテチ!」

それから、モモたちの訓練(修正版)が行われた。
ニンゲンに見立てた木に、木の枝を持ったサルとトリが飛び移る。そしてすかさず刺す。
続いて離れたところに隠れていたモモとイヌが駆け出し、やはり木の枝で、刺す。
前回の闇雲な訓練と違い、少しは練られた訓練をみて、他の実装石たちも少しずつだが、モモたちに対して前向きな考えを持つ者が出てきた。
「デスゥ。もし本当に悪いニンゲンが襲ってくるなら、あの仔たちに賭けるのもアリかもしれないデスゥ」
「あの仔たちが悪いニンゲンの相手をしている間に家族だけでも逃げるデスゥ」
「もし本当に悪いニンゲンをやっつけたら、あの仔たちは良いニンゲンから英雄実装として称えられるに違いないデスゥ。
 そのときに備えて今のうちにツバつけておいた方がワタシの実生のためデスゥ」

考えは様々であったが、モモたちの家族に餌を余分にあげたり、タオルをよこす実装石まで現れ始めた。
流石にこのような事態になれば、モモの親も何かしらの責任というか、自分も何かしなければという考えに至った。
段ボールハウスの中で、モモの親はモモに語った。
「ママは元飼い実装だったデスゥ」
「知ってるテチ」
「では、お前はニンゲンのことをどこまで知っているデスゥ?」
「どういうことテチ?」
「ニンゲンはとても賢く、とても動きが速い生き物デスゥ。お前たちの訓練を見ていたデスゥあれではダメデスゥ」
「何がどうダメなんテチ!?」

自信をもった作戦が否定されたとあっては、モモも怒りを抑えられない。
「落ち着くデスゥ。言ったとおり、ニンゲンは賢く、動きが速いデスゥ。最初の攻撃に気付かれれば、たちまちやられてしまうデスゥ
 でも、最初の攻撃、次の攻撃、その次の攻撃、と順番を決めて攻撃していけば、どれかは当たるかもしれないデスゥ
 ママが言えるのはここまでデスゥ。これから先は実際にやってみないと分からないデスゥ」
「次の攻撃、テチ・・・」


モモは翌日、さっそく作戦を修正した。
今までは①サル・トリコンビによる上空からの目つぶし②モモ・イヌコンビによる地上からの攻撃の2波が主であった。
ここを修正した。
①サルによる目つぶし第一弾、②トリによる目つぶし第二弾、③モモによる地上攻撃第一弾、④イヌによる地上攻撃第二弾 の4波に分けるのだ。
成功する可能性がぐんと上がるのではないか。
4匹は早速、再修正した訓練を行った。


数日後。
公園は騒がしくなりつつあった。周辺の木々の蕾が、確実にピンク色の花を開き始めていたのだ。
俄かに、あの昔話が本当に起きるのではないか、あれは予言なのではないかという不安が実装石たちの間で伝播していった。
そんな中、ニンゲンを倒すべく訓練に励むモモたちは、すでに英雄となっていた。
「もし悪いニンゲンが来て、モモたちの作戦が失敗しても、公園じゅうの実装石たちは
 モモたちの遺志を引き継ぎ、全力で悪いニンゲンに立ち向かう」

そんな協定が公園じゅうの実装石と結ばれた。
モモたちは作戦が成功すると信じていた。そして、もし失敗したとしても、その後のことは公園じゅうの
ほとんどの実装石たちが約束してくれた。このことはモモたちを安心させ、奮い立たせ、闘志を漲らせた。


夕方。
沈む夕日を見ながら、モモたち4匹は語り合った。
「ワタシたちは、死ぬかもしれないテチ。でもワタシたちの行動は、公園の英雄として永遠に語り継がれるに違いないテチ」
トリは言った。
「空飛ぶ実装石なんて後にも先にもワタシだけテチ。ワタシと、空飛ぶ布のことが語り継がれるのは本当にうれしいテチ」
サルが言う。
「死ぬ前提になってはいけないテチ。ワタシたちは生き残るテチ。生きて悪いニンゲンに勝つテチ」
イヌも言う。
「そうテチ!ワタシたちは勝つテチ!やれるテチ!」

真っ赤な夕日が公園を、モモたちの顔を照らした。
普段の何気ない日常を過ごしてきた公園が、見たこともないほど幻想的な光景に思えた。
モモたちにとって、自分たちを照らす夕日の明かりは、死後の世界から漏れ見える明かりにも見えたし、
公園の守護者たちの勝利を祝福する神々しい光にも見えた。



翌日。
桜の花が咲いた。
実装石たちは既にパニックになっている者もいた。一匹はパニックになったあまり呼吸困難になり、吐しゃ物を喉に詰まらせて死んだ。
モモたちは臨戦態勢をとり、各々木の上、茂みの中に隠れた。
だが、悪いニンゲンは現れなかった。

さらに翌日。
桜の花はいっそう色濃く咲いた。人間が見ればスマホで写真の一枚でも撮るレベルだった。
モモたちはいっそう臨戦態勢をとり、一日中、緊迫した中周囲を見渡し続けた。
だが、またしても悪いニンゲンは現れなかった。
他の実装石たちは"結局悪いニンゲンなんて来ないのではないか"と思い始め、日常生活を取り戻そうとしていった。


3日目。
来た。
ついに、男が来たのだ。
しかも前回はナイフだったが、今回はなんとバットを持ってやって来た。
その姿はまさに「鬼」だった。その姿をみて、実装石たちは既に大騒ぎになった。
「き、きたデスゥ!!!!!!」
「きたテチィ!ニンゲンテチィ!」
「ママの話は本当だったデスゥ!!」

逃げ戸惑う実装石たちの中、モモたちだけは男に向かって歩き出す。
その堂々たる姿はまさに公園の英雄、公園の守護者そのものだった。
モモが言う。
「時が来たテチ。ワタシが囮になって悪いニンゲンをここまでおびき出すテチ、それで・・・」
モモが固まった。

男がいるところ、公園の入り口のすぐ近くの水飲み場に、モモの母親がいたのだ。
丁度、水飲み場で洗濯をしていたところだった。
流石に桜が咲いた初日は皆家の中に閉じこもっていた。
だが、2日目に男が来なかった時点で日常生活(餌探しや洗濯)を取り戻す実装石が増えていた。
モモの母親もそうだった。

明らかに男はモモの母親ら、洗濯中の実装石たちを見つめていた。
モモの母親たちも男に気付くが、恐怖からか、視線を男に合わせたまま誰一人として動かない。
「ま、まずいテチ、ママが、ママが・・・」

思わず母親の元に走り出そうとするモモ。だが他の3匹が止めに入る。
「待つテチ。作戦通り動くべきテチ!」
「そうテチ、モモちゃんのママを助けるためにもすぐ作戦を開始するテチ!」
「テ、テェェ・・・」

モモは目から涙を流しながら、母親を見つめる。サル、トリ、イヌは持ち場に急いだ。
モモは涙を袖で拭い、息を吸い、叫んだ。
「テチー!!!ニンゲン!!!こっちに来てみろテチイイイイ!!!!」

作戦の第一段階、陽動作戦が始まった。
その言葉をきいて、パニックになっていた実装石たちもふと我に返る。
そうだ、自分たちには、この公園には、守護者がいた!助かるかもしれない!いや、助かるんだ!
そう思いだした実装石たちは、各々茂みの中に、段ボールハウスの中に隠れていく。
もしモモたちでも悪いニンゲンを止められなかったら、公園じゅうの実装石が大反乱を起こすのだ。

だが、男は水飲み場のところから離れない。
所詮は仔実装の声。男のところまで聞こえないのだ。
モモは焦っていた。まずい、このままではママが襲われてしまう。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。
男がモモの母親に近づく。モモの母親と、同じく水飲み場にいる実装石たちは相変わらず恐怖のあまり体が動かない。
男がバットを高く掲げる。

「テチイイイイイイイ!!!!ニンゲン、こっち向けテチイイイイイイイ!!!!!」

男がバットを振り下ろし、水飲み場にいた実装石たちは血しぶきを上げながら赤緑の塊になった。
「テチャアアアアアアア!!!!!!」
モモは叫ぶ。だが、その場を離れはしない。今モモがいるこの場所が、サル・トリが襲い掛かる最適なポイントだからだ。
やっとのことで男がモモに気付いた。
「なんだ?この実装石のガキか?」

男はバットをぶんぶん振り回しながら、モモに近づく。
そのとき、男の後ろには尖った木の枝を持ったイヌが回り込んでいた。
サル・トリの目つぶし攻撃の後は、イヌ・モモの地上攻撃の出番だ。
モモはイヌの動きを悟られないよう、視線を男に合わせたまま、睨みつける。
「よくもやってくれたテチ!お前のような悪魔は、ワタシがやっつけてやるテチ!」

男はスマホのリンガルアプリを見ながら、せせら笑う。
「やれるもんならやってみろよ、糞蟲が」
「ママの仇テチ!許さないテチ!謝っても許さないテチ!」
モモは叫び続ける。あと一歩だ。あと一歩、悪いニンゲンが近づけば、第二作戦の開始だ。覚悟しろ、ニンゲン!

「お前なんかワタシ タ チ の攻撃の前には無力テチ!」
男がスマホを見ながら、歩みを止めた。訝し気な顔をしながら、スマホの翻訳結果を見る。
わたし『たち』? 何だ?翻訳ミスか?実装石が徒党を組んで襲ってくるなど、あり得な・・・

「いまテチイイイイ!!!!!!」
モモが合図した。その瞬間、サルは実装石にしては異様に長い手足をしならせ、(実装石にとっては)目にも止まらぬ
スピードで木々を駆け抜け、男に飛び掛かった。

サルは見た。
悪いニンゲンは自らの手元(スマホ)を見ている。こっちには気付いていない。

風を切りながら、近づいていく。
大丈夫、いける。
このまま飛び掛かって、刺す。目を刺す。
この角度なら悪いニンゲンの左目が狙える。

トリもパラシュートを広げ、サルに続いて飛び立った。
サルが男に飛び掛かった1,2秒後には、トリも男に飛び掛かるタイミングだ。
サルがうまくやれば、確実に片目は仕留められるだろう。そうなればトリはもう片方の目を潰すのだ。
もしサルが失敗しても、さすがの悪いニンゲンも、まさか第二波攻撃が来るとは思わないだろう。

「死ねテチャアアア!!!!!」
サルは叫び声をあげる。

ボガッ

サルの叫び声を聞いた男は咄嗟の判断でスマホもバットも手放し、拳をサルに向けて突き出した。
サルは拳をもろに食らい、モモのすぐ隣に落ちた。

「なんだこいつ、うおっ」

ドガッ

トリもやはり男の咄嗟の判断で蹴りを喰らい、モモの上空を飛び、公園の真ん中まで転がっていった。
二匹ともピクリとも動かなくなった。

モモは唖然としていた。まさか、二匹とも失敗するとは。そんな馬鹿な。ありえない。
周囲の実装石も騒然となった。上空からの攻撃すら、効かないのか。
モモはサルとトリの死体を交互に見つめる。
男が近づいてくる。男が歩くたびに、その足元からの振動が伝わるような気がした。
怖い。
イヤだ。怖い、イヤだ。
「マ、ママァ・・・」
モモは絞り出すような枯れた声を上げた。

そんな中、イヌが男に向かって突進していった。
イヌは声を上げなかった。サルが失敗した原因は、サルが声を上げて自らの存在を知らしめてしまったことだと気付いていたからだ。
だから自分は声を上げてはいけない。悪いニンゲンがモモに注目している隙に、黙って、突進する。悪いニンゲンの足の関節に狙いを定める。
恐怖でどうにかなりそうだった。背筋が凍るほど怖い。目からは涙が流れ、木の枝を持つ手は震えが止まらない。
このまま逃げ出して、ママに抱きしめてもらえたらどれだけ良いだろう。
だが、サル、トリの仇、モモたち4匹の名誉のため、止まってはいけない。声を上げてはいけない。そう、だから自分は・・・

男の足下まで来たところで、イヌは男のスニーカーに踏み潰されて死んだ。
確かにイヌは男の後ろ、死角になるところから攻撃をしかけた。だが時間帯がまずかった。
イヌのつくる長い日影は男からは丸見えだった。後ろから実装石が来ていることは男にはすぐに分かった。

作戦開始から5秒で、サル、トリ、イヌは死んだ。
モモは、ただ固まり、3匹の死体を交互に見つめた。
さっきまで生きていたのに。あんなに一生懸命、訓練に励み、励まし合い、生き残ると誓ったのに。

モモの目の前に男が来た。モモを踏みつぶすこともできる範囲内だ。
「何だったんだ、こいつら。お前の姉妹か?」
男はあることを思いついた。
モモの両脇に手を添え、幼児を抱っこするような形で持ち上げた。
「テッ・・・」

モモは思った。
悪いニンゲンがワタシを抱きかかえた・・・?
もしかしたら、悪いニンゲンはワタシを飼うのだろうか?それは嬉しいが、しかし、悪いニンゲンをやっつけるとサル、トリ、イヌと誓い合ったし、
公園の仲間とも約束した。飼ってもらえるのは嬉しいが、それでは皆との約束が・・・いや、飼ってもらえるのは嬉しいが。

男はモモの前髪を掴み、一気に引っこ抜いた。
「テッ・・・」

モモは両手で触れることのできない額の部分に手をやる。髪があるはずのところが、外気に触れて涼しい。だが、ヒリヒリと痛い。
男はモモの首根っこを掴み、後髪も引っこ抜く。モモはやっと、髪を抜かれていることに気付いた。
「テチャアアアア!!!やめてテチャアアアア!!!!」

頭巾を、ワンピース状の服を、前掛けを、靴を、下着を脱がされ、ビリビリに破かれ、地面に捨てられた。
緑色の見慣れたはずの服が、形を失い、消えていった。
「テチャアアアアアアアアアア!!!」

禿裸になったモモを男は抱きかかえ、水飲み場に連れて行った。
そこにはモモの母親の死体(他の実装石の死体とぐちゃぐちゃに混ざっていて、あまり見分けがつかないが)もあった。
水飲み場にある給水用の蛇口(水飲み用に縦向きになっている蛇口)をモモの総排泄口にあてがい、モモの体を下に向かって押し込んだ。
「テチィ!!!」

蛇口が総排泄口にミチミチと音を立てて入っていった。
まだ妊娠出産する段階まで達していないモモの体にとって、蛇口はあまりに大きく、文字通り身が裂けるほどの痛みであった。
モモは総排泄口を蛇口に固定され、動くこともできず、さながら公園に佇む不気味な彫刻のような状態となった。

男は茂みに隠れている他の実装石たちに向かって叫んだ。
「おーい、この禿裸に石を投げて当てられた実装石は、俺が全員飼ってやるぞー」
茂みから、実装石という実装石がデスデスと言いながら出てきた。
飼ってくれる?石をあてれば、飼ってくれる?
実装石たちは悪いニンゲンをやっつけるための協定をモモたちと結び、もしモモたちが全滅した際には公園じゅうの実装石たちが
大反乱を起こす計画だったはずだ。だが、飼い実装という言葉が、モモたちとの約束を、絆を消し飛ばした。

公園じゅうの実装石たちが水飲み場に集まり、モモに向かって石を投げ、罵った。
「デスー!ニンゲンさまに歯向かうとは馬鹿なやつデスゥ!恥を知れデスゥ!」
「さっさと死ねデスゥ!」
「お前なんか公園の疫病神テチ!さっさと死ねテチ!」

モモたちの訓練から分かったとおり、実装石の投球コントロールはたかが知れているのだが、あまりに多くの石が投げられたため、
大小様々な石がモモにあたり、体が裂け、凹み、骨がきしみ、折れた。
身をよじろうとすると、総排泄口に食い込んだ蛇口が邪魔をし、裂けた肉から血が滴り落ちた。
「テエエエ、みんな、やめてテチィ・・・
 ワタシたちは、公園を守るため、みんなのために戦ったテチ・・・
 約束を思い出してほしいテチ・・・・」

「ふっざけんなデスゥ!お前が死ねば飼い実装になれるデスゥ!もうお前に用はねーデスゥ!」
「そもそも実装石がニンゲンさまに勝てるわけねーデスゥ!馬鹿じゃねーかデスゥ!」
「この期に及んで公園を守るとは、誇大妄想もいいとこデスゥ!あと10回は生まれ変わるまでワタシの前に姿出すなデスゥ!」

その様子を、男はにやつきながら眺めつつ、モモたちに投石する実装石集団の後ろ側にまわりこんだ。
実装石たちはモモばかり見ているので、男の動きには気付かない。モモだけが、男の動きを見ていた。
「みんな・・・逃げるテチ・・・危ないテチ・・・そのニンゲンは危険テチ・・・」

投石の打撲が激しく痛む。出血で視界が狭くなっていく。
共に戦ってきた仲間を一瞬で失ったショック、信じていた公園じゅうの実装石たちに裏切られた苦しみから、
モモは気が狂いそうな中、最後の力を振り絞って、皆に男の動きが怪しい、皆が危ないと伝えた。
「まだ言うかデスゥ!ワタシたちは飼い実装デスゥ!お前のような野良糞蟲と一緒にすんなデスゥ!」
「ワタシたちをニンゲンさまから遠ざけて、自分だけ飼ってもらおうという算段デスゥ!禿裸なんか飼うやついねーデスゥ!」
「さっさと死ねデスゥ!」
「「「死ねデスゥ!」」」
「「「死ねデスゥ!」」」
「「「死ねデスゥ!」」」

実装石たちは、悪いニンゲンに襲われるという恐怖、実際にモモたちが壊滅したところを目撃し感じた絶望、
それでも飼ってもらえるのだという僅かな希望が混ぜこぜになり、一種の集団ヒステリー状態となった。
その集団の一番後ろで、男がバットを振り下ろした。
「デギャッ!」
「テヂャ!」
「デベシ!」

だが集団ヒステリーを起こした実装石たちは、自分たちの後ろで何が起きているのか最期まで気付かない。
モモだけがその様子を見ていた。
「や、やめてテチィ・・・皆逃げるテチィ・・・」
「「「死ねデスゥ!」」」
「「「死ねデスゥ!」」」
「「「死ねデスゥ!」」」
「デギャッ!」「チベッ!」

最終的に、集団ヒステリーを起こした実装石はいなくなった。全員、男のバットの餌食になったのだ。
「テエエェェェ・・・・テエエェェェ・・・・」
モモは涙を流し、どうしてこんなことになったのかと思った。
もっと訓練をたくさん積んでおけば良かった?
もっと良い作戦を考えていれば良かった?

いや、違う。
そもそも自分が悪いニンゲンをやっつけようなどと、思わなければ良かったのではないか?
悪いニンゲンに襲われるのは変わらないが、少なくとも自分はこんな目に合わなかったのではないか?
どうして他の実装石と同じように、ただ桜の木を眺めているだけで満足できなかったのか?
サル、トリ、イヌだって、自分の話に乗らなければ、ひょっとしたら公園から逃げ出すことだってできたのではないか?
彼らが死んだのは、自分が悪いニンゲンをやっつけようなんて言ったからではないのか?

それは、モモの半生、モモの生き様そのものを否定する考え方だった。
自分の実生は何だったのだ。ただ、ニンゲンを怒らせ、仲間を誰一人助けることもできず、守るはずの公園は壊滅してしまった。
仲間も、髪も、服も、母親も失った。全てを失った。
「テエエェェェ・・・・テエエェェェ・・・・」
モモはうめき声のような声を出して、泣いた。

男は集団ヒステリーに参加せず茂みに隠れていた実装石をも次々と殺し、水飲み場の蛇口に刺さったままのモモのところに戻ってきた。
「あらかた殺し終えたぜ。さて、お前はどうしたものか・・・」
男は考えを巡らせる。

モモは涙を流し、思った。
自分の実生は間違いだった。全て間違っていた。そして取返しのつかない失敗を招き、全てを失った。
もう自分は死ぬしかない、と。

だが、ふと、別の考えも浮かんだ。
確かに自分は仲間も、髪も、服も、母親も失った。だが、自分はまだ生きている。
現に総排泄口は蛇口が刺さっているのでまだ痛いが、石を投げられた傷はもう癒え始めていた。
そう、自分は生きているのだ。何とかこの状況を脱して、自分の実生を懸けて、このニンゲンに復讐を!

モモは絶望を捨て、希望を取り戻すことに成功した。
まだ自分は生きている。やれることがあるはずだ!
生きている限り、自分はあきらめない!次こそうまくやって見せる!
そしてママの、仲間の、公園の皆の仇を!

「まぁいいや、殺すか」
モモはバットのフルスイングを喰らい、頭部を吹き飛ばされて死んだ。
モモの胴体からは噴水のように血が噴き出し、力なく傾いた。
それだけだった。

「さて、警察が来る前に逃げるか」

男は踵を返したところで、公園の入り口の茂みの中に生き残りの仔実装がいることに気付いた。
男は少し考え、その仔実装に言った。
「雪が降って、公園が真っ白になるころ、また来てやるよ。それまでせいぜい生きるんだな」


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1 Re: Name:匿名石 2022/01/02-23:23:39 No:00006459[申告]
いやあ素晴らしかった・・・新年からありがとう!
2 Re: Name:匿名石 2022/01/03-00:00:10 No:00006460[申告]
桃太郎というよりは猿蟹合戦みたいな話だったね
だがしょせん実装ごときが人間に攻撃を加えようというのが甘すぎた
なんせ綿でポフポフ叩く程度の威力しかないパンチしかできないんだから
枝持って突っ込んだところで1mmも刺さらんだろ
3 Re: Name:匿名石 2022/01/03-08:06:11 No:00006461[申告]
痛快な虐殺劇ににっこりデス
4 Re: Name:匿名石 2022/01/05-12:45:51 No:00006462[申告]
賢かろうが、たがが仔蟲3匹でどうにか出来ると
思ってるあたりがホント笑える。
主様、素晴らしいスクをありがとう。
良ければ次回作、よろしくお願いします。
5 Re: Name:匿名石 2022/01/11-12:50:51 No:00006465[申告]
王道を行く虐殺スクって感じで最高です
6 Re: Name:匿名石 2022/01/13-22:37:33 No:00006470[申告]
ユキの伝説に続く、か
7 Re: Name:匿名医師 2022/03/04-14:29:31 No:00006482[申告]
読ませるなあ…
今もこんな名作を書く人がいることに感謝!そしてその才能に嫉妬!
8 Re: Name:匿名石 2022/08/10-16:11:53 No:00006535[申告]
良すくありがとう!
9 Re: Name:匿名石 2022/09/21-06:22:06 No:00006542[申告]
この世界の公園は水道使えねえなあ
10 Re: Name:匿名石 2024/06/03-14:23:21 No:00009159[申告]
スレで紹介されて読んだが熱さあり悲哀ありですごく良かった…
蛇口に被せる指人形エグくて好き
11 Re: Name:匿名石 2024/06/03-16:16:38 No:00009160[申告]
こういうタイプの虐待派今では逆に新鮮だな
世代交代を重ねて虐待派の寿命を待つしかねえな
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