『　ポチと幸せの虹の橋　第２戒　』





ふと、夜の微睡から目覚める。
遮光カーテンに遮られた部屋は、相変わらず昼か夜か分からないほど暗く、
常夜灯の明かりだけが、ほんのりと部屋の中を照らしている。


テちゅぅ〜……て〜…ち〜……


ハウスの中からは、ポチの安らかな寝息が聞こえる。
時計を見れば、まだ早朝６時にもなっていない。
４〜５時間寝ただけで覚醒してしまうのは日勤深夜入りに慣れてしまった悲しい性か。


俺は枕元に置いてあるリンガルを手に取り、昨日のことを思い出す。


歌うポチの言葉を知りたいと思った。
なぜ？話せると知ったから？
理解できる道具があると知ったから？

仮にアレが罵詈雑言だったなら、俺はどう対処した？対応できたか？
そもそも、本当に、“あの歌を理解する必要”があったのか？

違う、俺は不安だったんだ。
あのノートを見て、ポチまで俺を罵詈雑言で蔑みだすかもしれないと恐れていた。

そうやって、観察する事を止めていた…。
ポチの発する言葉の全てを、知らねばならないと考えてしまった。


たぶん、いや、きっと今、俺は分水嶺に立たされている。
ポチと、今後どう接していくべきなのか、その分水嶺に…。

家族…ペットとして扱うつもりなのか？
伴侶…コンパニオンアニマルとして接するつもりなのか？




…俺は、ポチをどうしたいんだろうか？




思考の片隅に、うなり声をあげて俺の足に鋭い牙を突き立てた犬のポチの姿がちらつく。
思考の片隅に、泣きじゃくりボロ雑巾のような仔実装を抱きしめる少女の姿がちらつく。



ああ、そうだよ、糞ったれ！
言い訳するんじゃねぇよ、お前は、“やり直すために”ポチを拾ったんだろうが！
なのに、“また”間違える気なのかよ！？



言葉が通じなくても…。
保護した俺の手に、ポチは擦り付いてきてくれたじゃねぇか。

言葉の意味が分からなくても、
俺が根気強く繰り返せば、ポチは指示に従って行動したじゃねぇか。

言葉なんてなくても
俺は、もう正と負の条件付けだけで、ポチを導いているじゃないか。


今までの関係で十分だろう。それ以上を求める必要はないだろう。
俺はポチを、ペットとして迎え入れたんだから…。
…俺が注目すべきなのは、ポチの言葉、ではなく、ポチの反応、だ。



…
……



俺は、ベッドを抜け出してリンガルを持ったまま台所に向かう。

女性店員さんは、いらないなら捨ててくれと言っていたけど。
そうだな、手元にあれば使いたくなる。…断捨離ってやつだ。

木製のまな板を取り出し、その上にビニール袋を敷いて、リンガルを乗せた。



バキャアァァァンッ！！！



テチャ！？
テちっ！？

テッチ！テッチ！？

ぽてぽてぽて、ころんっ

テェェ…テェェェェンテェェェェン！



俺は、リンガルをハンマーで叩き壊し、そのまま燃えないゴミの袋に詰め込む。
突然の破壊音に、ハウスの中からは、夢心地のポチが飛び起きてパニックになり右往左往して転げた音と泣き声が聞こえた。



「　ポチ　だいじょうぶ　」



俺は居間に戻ると、ハウスの天窓から手を差し入れてポチがすり寄れるようにした。



テェ…テェ！テェ！
テちゃぁ〜！　テッちゅ〜ん♪


ポチは差し出された手にすり寄ってペロペロと毛づくろいをすると、
甘えた声を出した後、目をこすりながらハウス内に設置されたタオルを敷いたティッシュ箱へ戻って寝息を立て始めた。






間幕










「　ポチ　とってこい！　」



俺は、ベッドに腰かけながら、そう叫ぶと勢いよく段ボールの輪っかを反対側の壁へ投げた。



テっちゅ〜ん！



ぽてぽてぽて！
ガシッ！


チュワッ！チュア〜っ！


ぽてぽてぽて！
ぽふっ！


テちゅぅ〜ん！デチュ〜ンっ！ちゅぅ〜んっ！



ポチは、勢いよく走り出し、壁にぶつかって転がっていた輪っかを器用に前脚で抱きかかえて、
俺の所へ持ってくると、足元に輪を置いて、チュウチュウ鳴きながら俺に褒められるのを待っている。
最近、たまに鳴き声に濁音が混ざるようになってきた。
そういえば、かつて公園にいた野良の実装石達も、こんな濁音のついた鳴き声をしていたのを思い出す。

…ポチを拾ってから、早いもので、もう３か月が経った。
１０ｃｍ足らずだった身長も、今では３０ｃｍほどになっている。
さすがに、ポケットや手のひらに乗せて持ち運ぶ事は難しくなってきたが、両手で軽く抱えるにはちょうど良い大きさだ。
確か、中実装と呼ばれる仔実装の成長期だったか。
たまに掠れる鳴き声も、順調に成体になりつつある証拠なのだろう。

この３か月間にやった事といえば、ハウス、おいで、待ての指示を強化した程度だったかな。

水槽を使わないでも、３０分以上、待てができるようになったので、待ての時間を少しずつ伸ばしてみる事にした。
報酬が最初から無ければ無いで、気にも留めていないのに、やはり目の前にある物への欲求と執着は凄まじい。

食事や遊びを前にしての、待て、は１時間が限度だった。
流石に威嚇や投糞は一切見られないが、１時間を超えると、情緒不安定になる。
血涙を出してうずくまっては、俺に対して媚びるようにお愛想して、ひっくりかえってジタバタしては、俺を見上げて待機を延々と繰り返す。

かと思えば、俺が日勤深夜入りで１日以上家を空けていても、まったく平気だったりする
出勤前に、十分に輪投げ遊びをさせた後、食事を摂らせてハウスを命じてポチハウス内に輪っかを入れておけば、
それで何時までもご満悦なのだ。欲求の対象が目の前にさえなければ、存外、与えられた環境だけで粛々と過ごせるのかもしれない。


そうそう、食事について言えば、さすがに玉子がゆばかりで個人的につらくなってきたので、一計を案じた策が功を奏したというのを忘れていた。
２か月目くらいからだったかな、ポチも、だいぶ顎の力も丈夫になってきていたから、これからはドッグフードでも食べさせていこうと思って、
俺とポチの食事の種類を分けるように躾けていったんだった。



……
………



俺は、この躾のために、わざわざ数点の食品サンプルをメラミン樹脂で作成してもらうよう特注して挑んだ。
まさか素材指定までした個人発注を本当に受け付けてくれるとは思わなかったから、職人さんすげぇとしか言いようがなかった…。

少々値は張ったが、それもこれも、飼い主が通常食べている物は、ポチには食べることができないと
実体験で学んでもらうために、どうしても必要な小道具だったからだ。

頼んだ食品サンプルは、から揚げ・ステーキ・寿司・ピザ・ショートケーキetc
日頃、その辺で誰もが食べているようなメジャーな食品ばかりをチョイスした。


躾の仕方としては、こういった感じだ。


食品サンプルと同じ料理を調理したり購入しておいて、その日の食事として用意する。
食品サンプルに、油やカスがつかないように十分に注意しつつ、食品を燻してサンプルに香りだけをつける。

プレートに俺が食べるための料理と、食品サンプル、山盛りのドッグフードを盛り付ける。
ポチに食べさせる用の食品サンプル、ドッグフードには、料理の油がつかないようにキャベツの葉っぱを皿代わりに厚めに敷く。
もちろん、プレート自体に油がつかないように、わざわざプレート全体にもキャベツを敷いて徹底的にポチが料理を味わえないよう配慮した。

いつも通り、待ての指示を与えて、俺の食事が終わった後に、ポチに餌として食品サンプルとドッグフードを与えた。




テッちゅ〜〜ん♪



「　ポチ　待て　」



テチっ！



俺はプレートの中身を全てポチに見せつけるように見せた後、待ての指示を出した。
いつもと違う料理と匂いを目の前に、ポチは目をキラキラと輝かせて、涎を垂らしながら嬌声をあげる。

そんな状態でも、待ての指示が出れば、ポチは、豪勢な料理をパクついている俺を見上げながら、
３０分という時間制限がありつつも、素直にじっと待機できるようになったのだ。非常に喜ばしい。



クリュックリュッ！
「よぉぉしよし！ポチ待てたなぁ！えらいぞぉ！」



俺は、油一滴すら残さないよう慎重に食事を片付け、山盛りのドッグフードも、ちょっと涙目になりながらも、かみ砕いて食べて見せた。
プレートの上には、食品サンプルと少量のドッグフード、油がついていないキャベツの葉だけが残るように整えてからポチの前に差し出した。



チュワッ！チュワッ！
テッチュ〜ん♪

がぶっ！
ゴリッ！

テガッ！？
テェェェ！？
テっちぃ…？

がぶっ！
ガリッ！

ガハっ！？
テェェェェ！？



ポチは、から揚げ、ステーキ、寿司の食品サンプルに被り付くが、まったく歯が立たずに驚きの声をあげる。
色々な方向から齧りついてみては食べる事ができず、頭の上に疑問符を出しながら血涙を流す。
くんくんと匂いを嗅ぎ、空気の抜けるような鳴き声を上げてから、やっと他に乗っていた、匂いの薄いドッグフードやキャベツを食べ始めた。


がぶっ！
カリカリカリッ！

テェ！デェテェ！
テッチュン♪テッチュ〜ン♪

がぶっ！
シャクシャクシャクっ！

テェ！デェ！
テッチュンデッチュン♪



ポチは、ドッグフードの粒を器用に両手でつまみ上げて、カリカリと食べ始めた。
ドッグフードのほどよい噛み心地と、今回の食事の中では初めて俺と同じ物を同じように食べる事ができて
よほど嬉しいのか、有頂天になって少量残っていたドッグフードを平らげる。
キャベツの葉も喜んでシャクシャクと食べていた。


だが、残っていたドッグフードが少量だった事もあり、
食べれない食品サンプルに再度噛みついては咀嚼できずに溜息をもらし、切なげに俺を見上げる。



ちゅぅ〜ん…
ぺロペロ…



「　お　し　ま　い　」



テちぃ……



ポチがプレートから離れて、自分の前脚や頬についているドッグフードの粉を拭いながら舐め始めた時点で
俺は終了の指示を出して、プレートに乗っている食品サンプルをビニール袋に入れて回収して台所に持って行った。
ポチは、残念そうに弱々しい鳴き声をあげるが、俺はそれを気にせず輪投げ遊びへと興じるよう仕向ける。
そうすれば、空腹もどこ吹く風と、ポチは嬌声をあげながら輪っかに飛びつくわけだ。


そんなやり取りを、毎回毎回、サンプルのレパートリーを替えつつ根気よく続けた。
山盛りのドッグフードを少しずつ少しずつ、ポチへ多く配分していくように調整しながら与え続ける。


何度も繰り返していけば、そのうち、ポチもそれらの物は自分には食べれない物だと認識するようになったのか、
食品サンプルには見向きもしなくなった。

それどころか、ポチが食べる事のできるドッグフードと野菜を、俺が毎回気を使って多めに残してくれていると思うようになったようで、
俺が待てを解除した後、自分の目の前に残っている多めのドッグフードに目を輝かせつつも、ポチは食事に入る前に俺の手にすりよって毛づくろいをしてから
自分の食事を摂るようになった。

この変化が見られるようになった処で、俺は、プレートを２枚に分けて用意するようにした。

ポチ用のプレートには、ドッグフードとくず野菜を入れた物。
自分用のプレートには、焼きたての湯気が立ち上るステーキ。

この２つをポチに選ばせてみようと考えた。




「　ポチ　ごはんのじかん　」



テッチゅ〜ん♪



食事前の定例の言葉を聞くだけで、ポチは嬌声をあげる。
今回は待ての指示を与えずに、ポチの前に２つのプレートを並べてみた。



…テェ？



ポチは、俺からの食事前の待ての指示がない事を疑問に思ったのか、
不思議そうに小首を傾げて、動ないでいる俺を見つめて自主的に待機している。



クリュックリュッ！



デッチゅ〜ん♪



追加の指示や報酬は与えないが、ポチの自主的な待機をクリッカーを鳴らす事で褒めつつ、
俺は２つのプレートを、交互に俺の前とポチの前に一つずつ配置するように並べ替えた後、
再度、ポチの前に２つのプレートを並べた。
…まあ、もちろん、ステーキ選んだら破裂音再生するけどね(笑)



テチっ！

テェェ…
てちぃ……ちゅぅぅ……

デチっ！

ぽてぽてぽてっ



俺のどちらか選べというジェスチャーを理解したのか、ポチは強烈な匂いを立ち昇らせるステーキに惹かれつつも、
自らドックフードの皿の前へ移動した。



「　ポチ　待　て　」



テちっ！



ポチが皿の前に移動した瞬間に、俺は待ての指示を出す。
食べようとした瞬間に待てを出されても、ポチは文句ひとつ言う素振りなく、テチと鳴き声をあげた後はじっと俺を見上げて待っていた。

俺がステーキを食べている間も、特にステーキを欲しがっている素振りは見られない。
むしろ、目の前にあるドッグフードの方に気が向きそうなのか、ソワソワとドッグフードをチラ見している。
…が、俺と目が合うと取り繕うように背筋を伸ばす。まったく、かわいいやつめ。



クリュックリュッ！
「よぉぉぉしよしよし！ポチ待てたなぁ！えらいぞぉ！！」



テッチゅ〜ん♪
テむ…デ、テェ！

テちゅ〜ん♪
ペロペロペロ



自分の食事を終えて、ポチの待てを解除する。
ポチは嬌声をあげつつも、ドッグフードに飛びついて粒を口に運ぼうとした所で固まる。
何かを思い出したように一声鳴くと、俺の手にすり寄って毛づくろいしてから、自分の食事に戻った。


（食前に、餌を用意してくれた俺に感謝を示すっていう動作が定着しつつあるのか。
　…ふむ、良い方向に流れてるかな？）






……
………





という感じで、飼い始めてから３か月目に突入したわけだが。
んー、だいぶ良い感じに躾が入ってきてるんじゃないかなって思う。

しかし、まあ、さすがに身長３０ｃｍだ。歩幅もだいぶデカくなってきたし、
そろそろ最初にセッティングした居間の一部だけでは運動不足になりつつある。
今度、バリケードの広さを調整しようかな。

それに、そろそろ散歩に連れていくのも視野にいれて、
リーダーウォークの躾を開始しておいた方がいいだろう。











間幕











俺は、休日のある日、ポチを寝かしつけた後でペットショップに訪れた。



「こんにちはー、ドッグフード買いに来ましたー。
　あと、ついでに猫用の首輪とかリードってありませんか？」



「あら、お久しぶりですねー♪ほらほら、こっち来なさい。
　コーヒーくらいだすから。
　ていうか、犬猫なんていいから、早く卵生生物飼いましょうよ〜！」



前回、ドッグフードを買いに来た時にはタイミングが悪く、女性店員さんには会えなかったが、
今日はどうやら勤務日のようだ。
直接会うのは、ポチを治療してもらって以来だから、ちょっと緊張する。



「ははは、遠慮します。
　ポチの躾がひと段落済んだら、考えますね。」


「もー、予想以上に長続きしてるなぁ…。
　で、あれからどうです？　差し上げたノートとリンガルは役立ちました？」



俺は、リンガルを捨ててしまった手前、少しバツが悪く、苦笑いをしながら、
正直に今までの経緯を話した。


…
……


「……だがら゛ぁ！
　な゛ん゛で、ぞぉ涙腺ゆるむ話ばっがずるの゛ぉぉぉ！」



ポチの歌の下りを聞いて以降、女性店員さんは、その場に体育座りになって鼻水を垂らしながら泣き出す。


「すみません、というわけなんで、ノートは有効活用させてもらってるんですが、
　リンガルは、本当に捨てちゃって。ホントごめんなさい。」


「別にいいですよぉ…、元々が貰いものだし、いらないなら捨ててくれって言って渡したんだから。
　それに、もう…そんなの表示されちゃあ…。そりゃ、まともに躾を続けるなら、捨てたくなりますよ。むう…。
　…また、進展あったら教えてくださいね。あ、そういえば連絡先交換してませんねぇ。
　これ、私の名刺とメールアドレスです。何か、相談したい事あれば、気軽にどうぞっ♪」


女性店員さんから貰った名刺を俺は財布のカード入れに丁寧に差し込む。


「あ、はいっ！ありがとうございます！
　何かあれば、すぐ連絡させてくださいっ！」










間幕











俺は、新しいドッグフードと、ネコ用の首輪にリード、“女性店員さんの名刺！”を入手して自宅に戻った。



デ〜……ちぃ〜……ちゅ〜……



ポチは気持ちよさそうに寝ている。ピピッと照明を明るくしてっと。
さあて、起きたら、さっそく首輪をつけてリーダーウォークの練習を始めようかね。




…
……





ちぃ…チュワ〜んっ！
でちっ！テッチュン！



俺は、ハウスの外装を外して、少しポチの頬を突いたりして適度に刺激を与えてから
ポチが起きるのを待った。
ほどなくして覚醒したポチが、大きなあくびをすると同時に、俺の姿を認めて、元気に鳴き声を上げる。



「　ポチ　おいで　」



テチっ！
テッチテッチ、テッチュ〜♪



俺がポチを呼ぶと、ポチは満面の笑顔でぽてぽてと俺に駆け寄る。
俺の足元に来た、ポチに待ての指示を与え、先ほど買ってきたばかりの首輪をつけた。
ぶら下がっているタグには、POCHIと刻印を彫ってもらった。



テェェェ！？
テッチュ〜ん♪
てちゅ〜てちゅ〜〜♪



なにやらポチは、タグを前脚でツンツンといじったり、はめられた首輪をなぞってみては、大はしゃぎをしている。
甘い声を出しながら、俺にすり寄ってくる辺り、嬉しさの表現をしているようだが…。

犬猫は、割と首輪を嫌がるんものだが、実装石は何か装飾をつける事を嬉しいと感じるのだろうか。
そういえば、ノートに装飾品を好むとかっていう記録もあったな。ふむ…、もしかすると、無意味に報酬を与えてしまったか…？
まずいな…、んー…、でもリーダーウォークにはリードが必要だしな…。

いや、報酬と考える前に、さっさとリーダーウォークの訓練に移るか。
これ単品だとアクセサリーと思ってるかもしれんしな。

俺は、手早く首輪にリードをつけ手綱を持って立ち上がる。



テェ？



突然つながれたひも状の物体を見上げ、なんだろう？とでもいうように小首を傾げながらポチは俺を見上げた。




ポチの視線が俺に向けられたのを確認してから、俺は、ポチに分かりやすいように
ポチハウスの周辺に張り巡らされているバリケードの内側を沿うよう指を差して1周するジェスチャーしてから指示を出した。



「　さ　ん　ぽ　」



テッちぃ♪



ポチは俺の言葉を聴くが早いか、俺より前に飛び出して散歩コースを歩きだそうとした。


（まあ、やっぱりそうなるよな）


パアァァァァァンッ！！！



テヂャッ！？



俺は即座にICレコーダーの再生ボタンを押す。
ポチは驚いて、その場に立ちすくみ、周囲を警戒していた。

俺は、ポチが一息ついて俺を見上げるまで待つ。



テェェェ？



ポチが俺を見上げた時点で俺は２歩３歩と歩幅を大き目に歩みを進める。
ポチは意味が分からないで立ち尽くしているようだ。

俺はジェスチャーで、指先をポチから俺の足元に来るように指示する。



テェ！テチっ！
テッチ！テッチ！
ぽてぽてぽてっ！


ポチは俺に指示を理解したのか、駆け足で俺の足元まで辿り着いた。


クリュックリュッ！

テッチュ〜ん♪



俺はクリッカーを鳴らす。ポチが甘い声をあげて、俺の足に擦りつこうとするタイミングで
俺は足を大きく前に出し、先ほどと同じように２歩３歩と歩みを進めた。

ポチは、甘え足りないからか、近くへすり寄るために、てちてちと俺の足の動きについてきた。

俺の足元にポチがたどり着いた瞬間、すかさずクリッカーを鳴らす。



クリュックリュッ！
テチュ〜ん♪



こんな動きを２時間ほど続けると、やっと俺より先に歩こうとすると破裂音がして、足元にいればクリッカーが鳴ると学習したらしく、
ポチは、俺より先に勝手に歩こうとはしなくなり、常に俺の足元ですり寄れるよう、付かず離れずを維持できるようになった。


よしよし、ここまで仕込めば、もう少しだな。












つ　づ　く












｛後書き｝
まずは、いつもレスを頂きありがとうございますｍ（＿＿）ｍ

…あの、皆様。
私は、別に大作家でも何でもない、ただの一介の実装スク好きの一人だという事を念頭に置いてくだしゃい(;´･ω･)

私の愚作を肴に、討論頂くのは感激…と言いたい処なのですが、
むしろ恐れ多くて、おしっこちびりますby女性店員より

あと新しいタイトルについてですが…。
ちょっとした仕込みがあるので、現時点では、意味についてはご想像にお任せしまっす(; ･`д･´)


さて、今回の冒頭の男の独白は、ポチと男の物語にとって分水嶺となります。
原作で言うなら、「まいた世界」と「まかなかった世界」の分岐点ですね。

本当は、どちらについてもプロットを練るべきだったと思うのですが、正直な所を言うと、
分岐点といいつつ、リンガルを使う世界（コンパニオンアニマルとして見る世界）の方は思いつかないんです(;´･ω･)

実装石を（愛虐とも）可愛がるのは、大好きなんですが、どうにも伴侶としてみるのは微妙かなぁ…と。
犬猫ハムトカゲと育ててきたのですが、なんというか実際の彼らにしてみても、家族というのは抵抗ないのですが、伴侶としては考えられんなぁと。

だってこの子らの世話を私はするけど、この子らは私の世話してくれないじゃん…と、はい。
そりゃあ精神的には満たしてくれますが、物理的には衣食住どれも満たしてくれないんで伴侶とは言えないんじゃないかなぁ…と。

ペットというのは本当に幅広く、色々な解釈や主張・主義があります。
お互いの主張を否定せず尊重し合いつつ、様々な価値基準がある事を前提として、個人の考えを述べますと…。

私個人にとっては、ペットは家族ではありますが、考え方としては古代ローマ初期（または保護法出た後期限定）の奴隷と同じかなと考えてます。
※賃金（衣食住の世話を含めて）を払うかわりに、自分を満たしてくれる存在、アリストテレスの言う命ある道具、高価な財産という処でしょうか。
ヒエラルキーで言えば最下層であり、決して対等ではありませんが、無碍にはされず、むしろ高価な財産なので一家全員で大切にします。
なので、賃金（世話）をきちんと支払うことができないなら、決して所有する資格を持てない存在という感じです。

最初期の奴隷制度って、なかなかビジネスライクで面白いものがありますよね。
まあ、中期以降ローマ帝国が膨れ上がるにつれて、そもそもの制度の履き違えや奴隷自体の過剰供給で相場の値崩れが起きて、
奴隷が安価な財産になっていき、非人道的で悲惨な扱いが多くなっていくので、歴史的に見ても、最低なビジネスモデルでしょうけど。
と、話が逸れましたね。

というわけで、どこかのおとうさん犬みたいに給料を稼いできてくれたり、アイアムレジェンドみたいな世界崩壊後とかに食料を狩ってくれたりするなら、
対等か、場合によっては、むしろ自分が奴隷になりたいかもしれません(笑)

…まあ、そういう思考なので、私個人や、女性店員さんを意識しだした男にとっては、コンパニオンアニマルは別にいらないかなぁって(; ･`д･´)
それこそリンガルを使った世界に話を分岐させようとすると、ポチを人化でもしないと無理かなぁ…と思いまして、こちらを選びました。

いずれ筆が乗れば、リンガルを使った世界についてもスクにしたいなぁとは思っているので、
それまで私のやる気がもてば、ですが(;´･ω･)
皆様にもお付き合い頂ければ幸いです。





それでは、また次回！