タイトル:【愛】 【躾】流行り廃りのその跡に、改めて実装石を飼ってみよう⑨ ~男は見捨てない~
ファイル:【躾】流行り廃りのその跡に9.txt
作者:ジャケットの男 総投稿数:27 総ダウンロード数:1136 レス数:20
初投稿日時:2016/11/29-06:41:46修正日時:2016/11/29-06:41:46
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『 流行り廃りのその跡に、改めて実装石を飼ってみよう⑨ 〜俺は見捨てない〜 』







男は、仔実装をひとしきり撫で終えると、手作りハウスの中に戻す。
居間の遊び道具や材料の切れ端は隠しておき、仔がハウスだけに注視するよう環境を整えた。



テチっ?
チィ……?

テチャッ!
テチャ〜っ!
テッチテッチー!



仔は、魔法のように作り出されたハウスに興味津々だ。
最初は、自身の寝床であるティッシュ箱を中心に動き回っていたが、
床に敷いた尿取りシートの踏み心地を確かめると、ゴロゴロと転がって遊びはじめる。

転がりながら壁にぶつかると、今度は壁伝いにハウス内を散策し始める。
トイレの衝立にぶつかると、次は衝立に前脚を添えながら移動して、チラチラとトイレの中を覗いては男の方を向く。



テっテっテっ〜!



ポテポテポテっ!
ポフッ!



テッちゅ〜〜〜ん♪

テッチゃぁ!テッチュ〜!
テチぃー!テっチぃ〜っ!



衝立から離れると、ぽてぽてと急ぎ足でトイレに向かっては、排泄もしないのに便座に腰かけて嬌声をあげる。
便座の座り心地を堪能しては、テチテチと興奮した様子で立ち上がって万歳を繰り返している。




テっ!
テェ!テェー!




仔は、しばらくの間、トイレの前で万歳をしていたが、ふと思い出したように前脚を叩き合わせて一声鳴くと、
緩やかなスロープを足をもつれさせながら、バタバタと駆け下りていき、胡坐をかいて仔の様子を見ていた男の足元にすり寄った。




テちぃ〜♪チュア〜〜んっ♪




仔は、男の指を抱きしめると、嬉しそうに鳴きながら
男の指を一生懸命に引っ張って、自分の寝床に連れて行こうとする。




「どうした、ポチ?」



男は、にやけながら仔に問いかける。



テェ!テェ!
テチっ! テチュちゅー

テチゅて〜♪ テチっ!
テチゅて〜♪ テチっ!



仔は、男の指を離すとティッシュ箱をテチュちゅと指さしながら箱の中に駆け戻り、中に敷いているバスタオルにダイブする。
その後、ちょこんと身を乗り出して、男を自分のところへ招くように、テチゅて〜と鳴きながら前脚を大きく広げてピコピコと動かした。



(んっふっふっ、そうか、そうか。俺のベッドで一緒に寝れないなら、自分の縄張りで一緒に寝ようってところかな。
 ハウスの中を自分の縄張りと認識してくれたようだな。気に入ってくれたみたいでよかった。
 後は、ハウス内で遊べる物を作ってやれば、多少は一人で過ごせるようになるかもしれん。)



男は、仔の可愛らしい姿にほだされて、ついつい少しくらいポチのわがままにも付き合ってやろうかなと
ティッシュ箱に手を伸ばして添い寝してあげようとした…。



『哺乳類の嫌なところを煮詰めて固めたような習性を持ってますからねー。』



不意にあの女性店員の深淵の瞳と台詞が頭をよぎり、伸ばそうとした手を止める。
今、自分がやろうとしている事を振り返ると、なぜか背中に悪寒が走り、冷たい汗が一筋流れ落ちた。



そうだ、確かにあの店員はそういった。
哺乳類の嫌な所を全て?
ならば、そんな煮詰めて固めた特性には、良くも悪くも“都合よく学習できる”が入っているだろう。
古典的条件付け、オペラント条件付けの本質を理解して実行するのは哺乳類だけなのだから。


事実、仔は簡単にできる事、なかなかできない事の落差は激しいが、男の言動を理解している節がある。
少なくとも、名前を直ぐに認識し、風呂で俺の鼻歌をマネて、俺の動作を選択的に模倣しているではないか。
…つまり、この動作も何か意味が含まれた模倣行動なのではないか?



考えろ! 思い出せ!
ただ安直に可愛がった末の結果を思い出せ!


この動作を、お前はしたことがあるだろう?
どのタイミングで、どんな意図があった!?
その動作の後どんな結果をポチに与えた!?


ポチと名付けた意味を思い出せ! あの日のポチを思い出せ!
あんな思いはもうたくさんだろ! 仔との接し方を思い返せ!



……
………




…ああ、そうか。
こいつ、試し行動をしてるんだな。


ポチと名付けた後に、“おいで”と指示を出して、ポチを手元に呼んで抱きしめた。
そういや、他に失敗が多すぎて、ご褒美用の餌をやったのも、そのタイミングだけだったな。


その刺激から、俺が発した言葉の中で、ハウスと同じくらいポチの印象に残っている言葉なのかもしれん。


手を広げて“おいで”といえば、相手が自分の場所に来る。
ポチは、自分の縄張りを得た今、自分の中で印象に残っている条件付けを、俺に対して試しているんだ。


男が命じた動作は、自分も使ってよいのではないか?
男が自分を呼ぶように、自分も呼べば、男が来るのではないか?…と。


人として生き、社会で生きていく人間の子どもならば、模倣は大きな成長につながる。
模倣から学び、更なる学習の機会を得ることができる。


だが、人に飼われるペットにとって、それは無用の長物でしかない。
むしろ、人と生活する上では危険因子にしか成り得ない。
その上、ポチは、指示による結果を学ぶ…のではなく、指示そのものを学び、結果だけを求めようとしている。




男は、そこまで思案すると一拍も置かず、ポケットの中のICレコーダーを再生した。






パァァァァンッ!!!


テッ!?
テチゃっ!?



破裂音が周囲に響き渡る。
仔は、なぜ不快な音が鳴ったのか、理解できずにキョロキョロと辺りを見渡した。


(すまんなポチ、お前が子どもだったなら喜んでただろうが、お前はペットだ。指示はペットが出すものじゃない、飼い主が出すものだ。
 …よし、呼び込む仕草は解除したか。そんじゃ、古典的条件付け…徹底的にやるとするかね。)



「 おいで 」



男はICレコーダーのボタンに指をかけながら、大きく手を広げて仔を呼ぶ。



テチゅぅ…?
テチゅて〜?



仔は、小首を傾げながらも、男の行動を模倣する。



パァァァァンッ!!!




テッ!?
テチャァッ!?




すかさず男はICレコーダーのボタンを押した。
仔が周囲の警戒を解いた頃合いで、再度、両手を広げて“おいで”をする。



テチゅて?
パァァァァンッ!!!
テェっ!?


テチゅてぇっ!
パァァァァンッ!!!
チャァァっ!!??


テチゅて
パァァァァンッ!!!
テッチュぅぅうっ!!!!????



仔は鳴き声のイントネーションを何度も変えて模倣を繰り返す。
だが、男は模倣を期待しているわけではないので、慈悲なく破裂音を繰り返し再生した。
そんなやりとりを、1時間以上続けていくと、恍惚として男を見つめていた子の表情が次第に困惑と悲哀に滲みだす。




テェェェェン!テェェェェェン!
チュワっチュワっ! チゅわぁぁぁんっ!!
テェッテェッ……チゅぅん…チュンチゅん……




やりとりを開始して2時間後、何がどうあっても、呼んだだけでは男が自分の所に来ない事を悟ったのか、
仔は大声をあげて赤と緑の涙を流しながら、箱の中でジタバタと暴れて泣きだす。



仔が泣いている間も、男は一切態勢を崩すことなく、手を広げたまま待機する。



(手を挙げっぱなしで、二の腕が痙攣している。むっちゃツライ。
 だが、ポチも理解できたと思ったことが相手に通じなくて意味が分からなく辛い思いをしているんだ。
 飼い主の俺には、ポチが理解するまで付き合う義務がある。
 それが生き物を飼う責任なんだって、俺はあの日、痛感したんだから…。)


箱の中で、タオルに顔をうずめて、涙を流す仔を見つめながら、
男は、あの日の出来事を思い出していた。











間幕










「お父さん、誕生日プレゼント、犬がいいっ!
 ゆーくんのとこの仔犬、すっごいかわいいのっ!」


動物が好きだった少年は、昼間に友人宅に遊びに行った際に仔犬を見せてもらったこともあり、
興奮醒め止まらず、父に誕生日のプレゼントに犬をねだった。


「…生き物を飼うっていうのは、最後まで責任を持って世話をするって事なんだぞ?
 デカくなるし、可愛げもなくなる、躾をちゃんとしてなかったら、言う事だって聞かない。
 お前、ちゃんと世話することができるのか?」


父は、少年の発言に溜息をつきつつ、そう投げかけた。


「できるよ!ちゃんと世話する!毎日さんぽ連れていくし、餌もあげる!」


少年は任せろとばかりに胸を張り、そう答えた。


「…はぁ〜。わかったわかった、なら、まずは本屋に行って、犬の躾についての本を買ってきなさい。
 ちゃんと勉強をしたなら、飼ってあげよう。」


父は、深い溜息をつくと、少年に小遣いを握らせた。


「うん!」


翌日、少年は本屋に足を運ぶが、犬の専門書はどれも専門用語が多く小難しく、写真や絵が差し込んであるものがほとんどない。
つまるところ、少年が理解できるものはほとんどなかった。

ある雑誌に、犬の特集が組まれていたのを見つけると、写真付きで分かりやすいと判断し、少年は深く考えることなくそれを手に取った。
雑誌に掲載されていたのは、生き生きとした犬の写真、ペット用品の写真と簡単な説明、それらの通販カタログ、トリミングの紹介、
自称ブリーダーが語る育成ポイントについてを噛み砕いた内容だけだった。
しかってはいけない、ほめること、リードを引っ張ってはいけない、良い餌をあげよう、トリミングについて…。
漠然とそれらの事が見出しに書いてあるだけで、具体的にどうするといった最も必要な情報はない。
だが、それでも、知識のない少年には、生き生きとした成犬を撮らえた写真を見て、それが全てなのだと信ずるには十分であった。






結果は、推して知るべし。





仔犬を迎え入れポチと名付けてから、両親がポチを躾ようとしても、しかっちゃダメなんだと少年が守る行為の繰り返しだった。
ポチを腹の上で寝かせ、ポチに先に食事を与え、ポチがしたいと思う事を最優先にした。

トイレの世話も率先して行い、餌だって忘れずに自分の食事の前に毎日あげた。
日によっては、少年の夕飯の肉を仔犬が求めるままに与え、ポチの食事の後に自身が食事をする。

少年からすれば、ほめているつもりなのだ、大事に世話をしているつもりなのだ。
親は少年の行動に、疑問を抱き、専門書を買ってきて少年に説明しても、少年は自分の仔犬が奪われると考えて頑なに世話を譲らない。
終いには親も折れてしまい、いずれ少年が飽きたら、きちんと専門の調教師なりに躾けてもらえば良いかと若干の油断もあった。

半年もすれば、散歩に連れ出す事もできる。
リードを付けて、ポチの走りたいだけ、行きたい方向にだけ行かせた。リードを引っ張ってはいけないと書いてあったから。
リーダーウォークの事など知りもしない少年は、ただポチに付き従うだけだった。

そんな状況でも、少年はポチを大切にした。存外に飽きなかった。常にポチが中心だった。
むしろ、この時点で呆れていれば、結果も変わったかもしれない。


ポチを迎えて1年が過ぎ、成犬となった頃、少年は散歩に連れて出た時のポチの行動に違和感を覚えた。

まるで少年を従えさせるように、リードを強く引いて、自分の行きたい方向に少年を誘導するようになった。
自分の前を通り過ぎる全てに唸り声をあげて歩くようになった。
自分の上に乗っかり、腰を振るようになった。もちろん、それがマウンティングという自身が格上であると誇示するための動作などは露とも知らない。

さすがに、自分に乗っかられては少年もたまらず、ポチを突き飛ばしてしまった。
ポチは唸り声をあげて……。






「うわぁぁん!! もうあんな奴イヤだよぉ!! 僕を噛んだんだ!痛かったんだよぉ!!
 あんな奴最低だー!! 大事にしたのに!世話したのに! ポチなんて捨てちゃえばいいんだ!!!」



病院に受診した。10針も縫うほど大きな咬傷だ。咬まれた瞬間、自分の大腿がバックリと裂けて肉の断面を見てしまった事に恐れ慄く。
ポチは、ケージ内に父が何とか収めてくれたが、今も激しく暴れている。
少年を咬んだ事など露とも反省はしていない。


「…本気で言っているのか?
 捨てられた犬が、どうなるか、知っているか?」


父親が滅多に出さない低くドスの効いた声で語る。


「知んないよ、だって書いてなかったもん!」


「書いてある本は探さなかったか?
 これを見なさいといった本を見なかったのか?」


「あなた!そんな厳しく言わなくても!
 この子だって、けが人なんだから!」


「だってだって!」


「母さん、ケガよりも、今の考え方が問題だ。
 …ちょっと待っていなさい。」


父親は、少年と、それを優しく撫でる母から離れて、どこかに電話をかけた。


「…はい、はい、それでは明日見学に伺わせて頂きます。お忙しい所、本当に恐縮です。」
「…というわけでして、有休をとらせてください。はい。非常に申し訳ありません、お手数をおかけしますが、何卒ご容赦頂きたく。
 ありがとうございます。それでは失礼致します。」
「…というわけケガをしてしまい、はい、申し訳ありませんが明日は学校をお休みさせてください。はい、失礼致します。」
「…はい、以前お話した躾の件についてなのですが、はい、そうです、息子と一緒に、はい、では、明日、訪問させて頂きます。」


父が4件ほど電話をかけ終えると、少年に近づいて、少し荒っぽいが頭を撫でた。


「ううう…」


「明日、父さんと一緒に保健所に行こう。親子で社会科見学だ。」


「え、でも学校…」


「いいか、学校の勉強も大事だが、それと同じくらい価値のある学びってのがある。
 それが今回の事だ。
 何か一つ、どれか一つだけで、すべてが分かるほど、世の中ってのは単純じゃない。
 大事なのはな、いろんな事を知る事、知ろうとする事、考える機会を作る事、考える事を止めない事だ。」


「…よくわかんない。」


「ははは、そりゃそうだ、わかってたら、こんなケガしなかっただろうし、俺だってお前にケガをさせる前に対処できたさ。
 だから、一緒に勉強に行こう。な?」


「……うん。」




翌日、少年は父親と保健所に訪れた。
そこには、無機質なケージ内に所狭しと押し込められた犬猫が大量にいた。

犬猫や負傷・保護動物、咬傷舎といった内容で大まかに舎を分けてはいたが、
あまりの無機質さにうすら寒い思いをした。

保健所の事業説明についてや、受け入れている動物たちのそれぞれの経緯、動物たちがどうやって殺処分されるかのレクチャーを受けた。
人に危害を加えた動物もいたが、そちらの数は少なかった。
それよりも、何もしていない動物も、ただ懸命に生きようとしていただけの動物もたくさんいた。
中には真新しい首輪が付いたままの犬もいた。保健所前にケージごと遺棄されていたとの事だ。
1週間引き取り手がいなければ、何の区別もなく殺処分されるそうだ。



寂しそうにこちらを見つめる動物たちの瞳が今も目に焼き付いている。




保健所の見学を終えた後、僕はお父さんと近くのレストランで遅めの昼食を取った。
お父さんは大好きなハンバーグを注文してくれたけど、食事の間中、無言だった。

ジュージューと煙を立てるハンバーグ。大好物のはずなのに、何も味がしなかった。


帰宅途中の車の中で、お父さんが話しかけてきた。


「保健所は…どうだった?」


「……こわかった。かわいそうだった…。」


「そうだな、ポチも捨てたら、あそこに引き取られる。
 うちに帰ったら早速引き取ってもらいに行くか。」


「いやだっ! やめて! かわいそうだよっ!!
 死んじゃうんだよ! 殺されちゃうんだよ!!」


「ああ、そうだな。捨てたら、みんなそうなる、理由なんて関係なく。
 飼い主が、どうなるかを知ってるか、知らないかなんてのも関係なく。」


「うっ、うぅぅ、うわぁぁぁぁん!!!」


「実はな、もうひとつ社会科見学をしようと思ってたんだ。
 お前が、もう一度、ポチと責任をもって付き合う気があるのなら、そこに行こうと思うんだが。
 そこで、父さんと一緒に、ポチとの付き合い方について一から勉強しないか?」


「うぅぅ、う゛ん゛、い゛ぐっ、いぐよぉ! おね゛がい゛じま゛ず!!!」


お父さんは苦笑いして、僕の頭を強くガシガシと、でも心地よく撫でてくれた。










間幕










あの時の父の苦笑いが忘れられない。
あの時、教えてもらったことは今でも教訓として生きている。


いや、生かさなければならない。
それが拾った俺の責任なんだから。


一息ついたのか、ポチは色付き涙も流れきり、今は目じりに透明な涙を蓄えて、スンスンとかすれた鳴き声を出しながらも、
どうすればいいのか指示を仰ぐように男を見つめていた。


男は指先を仔に向けて、まっすぐ、自分に向かうように指を移動させる。
その動作を見せた後、すぐさまに



「 ポチ お い で 」




スンスン…
テチゅ〜…




仔は、すんすんと泣きながら、恐る恐るとだが、ティッシュ箱から出てきて、男の方へ向かいポテポテと歩いてきた。
胡坐をかく男の足元までポチがたどり着いた瞬間、男はもう一つの道具を使う。



クリュックリュッ!



クリッカーを鳴らした後、仔が反応するよりも早く、男は仔を抱き上げて大げさに褒めて頬擦りをした。



「よぉぉぉぉしよしよし!!! ポチ えらいぞぉぉ!!!」



テ、テェェェ…♪

テチゅア〜♪
チュワッ!チュワッ!
テッチゅ〜〜んッ♪



仔も、色付き涙を流しながら男に頬擦りを返して嬌声をあげる。



テチゅ〜んテチゅ〜ん!



「さ、遊ぼうか、輪っかを投げるぞー!
 ほら、取ってこい!」


チュア〜ん!
テッチテッチ〜♪


仔が一息ついて甘えた声で鳴きだしたところで、男は、隠していた輪っかを取り出して輪投げ遊びの興じた。
仔もキャッキャッとはしゃいで輪っかを追いかけだした。



しばらく遊んだ後に、再度ハウスとおいでの指示を繰り出す。


「 ポチ ハウス 」



テチャッ!
テチゅちゅ!



遊びの途中であっても、切り替えよくビシッと姿勢を正すと、仔はポテポテとハウスに戻る。



クリュックリュッ!

「よぉぉぉぉしよしよし!!! ポチ えらいぞぉぉ!!!」



仔がハウスに戻った時点で、すかさず、クリッカーを鳴らして褒めちぎる。




テッチゅ〜〜ん♪
テッチュンテッチュン♪
テッチュンテッチュン♪



ティッシュ箱の中で、お得意のダンスが始まったので、しばらく様子を見る。
食事を摂っていないせいもあってか、ワンフレーズ踊った後、自然とダンスを止めた仔は、様子を窺うように男を見上げた。



「 ポチ おいで 」



テッチュン!
テッチテッチ!



クリュックリュッ!
「よぉぉしよし!!」



テッチュ〜ん♪



おいでの指示もためらう事なく、てちてちポテポテと男の元に駆け寄ってくることができたので
すかさずクリッカーを鳴らしてから褒めちぎる。


グゥゥゥ


テェ?
テチゅ〜…?



さすがに、夕食も摂らずに色々とやりすぎたせいか、
男の腹の音も鳴り始めた。
その音に反応して、仔も自分のお腹をさすり、小首を傾げる。



食事を準備しにいくため、
ポチにハウスを命じた男は、ポチがハウスに入ったタイミングで、外装でハウス全体を覆う。

ポチが驚く前に素早くクリッカーを鳴らし、外装の天窓からポチを撫でまわした後、
ポチの声が嬌声に変わったタイミングで、輪っかをポチハウスの中に入れて、天窓から手を引き出して席を立った。






男が下ごしらえしておいた料理を作り終える。
今日のメニューも変わらず、薄味の玉子がゆと擦り下ろした野菜だけなのだが。
空腹なので、十分旨そうに感じる。


男が料理を盛ったプレートを持って居間に行くと
ハウスの中からは、テチテチ、ぽてぽて、キャッキャッとはしゃぐ仔の声が聞こえてきた。


男は思わずガッツポーズを取る。


(よっっしゃぁぁぁぁ!!!!)




「ポチ ただいま」



そう声をかけながら、一応、ICレコーダーのボタンに指をあてがったまま、天窓から中の様子を覗く。
ポチはハウス内で、尿取りシートに寝転がりながら、輪っかをくぐって遊んでいた。



テチ! テチテチゅ〜♪
テッチゅ〜ん♪



天窓から覗いている男と目が合うと、嬉しそうに鳴き声を上げて、頬に前脚を当て小首を傾げた。
男は、天窓から手を入れて仔を抱き上げて撫でまわした後、ハウスを覆っている外装を取り外す。



「ごはんの時間だ」



床にプレートを置き、抱き上げた仔をタオルで優しく包み込んだ後に胡坐をかいて足に挟む。
背中には希釈酢を置き、両ポケットにはレコーダーとクリッカーを忍ばせている。


(さあ、古典的条件付けを続けよう。
 まだまだキッチリやるからな。)


テッチゅ〜♪

テチ!テチて〜!
テチュチゅ〜!

テッヂぃぃ!
テェ…


まあ、いつもの如く、タオルにくるまれていても、甘えるように声を出してみては、何とか抜け出して食事にありつこうと力を込めている所に変わりない。
食事に関しての躾は、相当に根気が必要そうだ。

現時点では、咬まないだけで十分と思う事にしよう。
まあ、油断はしない。動物なんだから咬むのは当たり前、咬まないのは信頼の証なんだから。


男は自分の食事が終わった後、残り(…といっても仔には十分量だが)を仔の前に置いてタオルを解く。

仔は、テッチゅ〜ん♪と嬌声をあげてプレートに走り出した。

仔が食事を食べる瞬間にクリッカーを鳴らす。今回は頭は撫でない。


テェ?


仔は、周囲をキョロキョロと見渡し、男の顔を見上げるが、
男は笑顔のまま仔を見守る。



テェ…?
テッチゅ〜ん♪



考えても無駄と思ったのか、仔は深く考えずに嬌声をあげながらガツガツと食事に食らいついた。






さてさて、クリック音と快楽を結び付けられるようになるのに、どれくらいかかるかな?








つづく











{後書き}
皆様、前回もたくさんのコメントありがとうございましたm(__)m
もうなんというか、皆様のコメントのおかげで、寒空の下でもほっこりさせて頂きました。
ゲーム作成…が…がんばりまっす(;´・ω・)

今回の話は、飼い主とペットという関係を実装石と保つには…と思案した時に、男の過去話として必ず書こうと思っていた場面でした。
動物愛護相談センター(昔の保健所)について調べてみたりしてて、
最近は犬の殺処分は減少傾向にあると知り、何よりなのですが、猫は相変わらずなようで悲しいです。
少しでもわんこにゃんこが悲しい事にならない世界になるように祈りを込めて作品を書かせて頂きました。

ポチ(わんこの方)のその後については、実装スクなので詳細は省きたいのと、
顛末を作中で語る事になると思うので、今はご想像にお任せ致します(; ・`д・´)


男の過去をぶちまけたので、後は皆様お待ちかねの女性店員の過去編です!
次回のキーマンとして活躍させる予定なので、男とポチ編の前に、店員の過去話を挟ませて頂きます。

【虐】タグになると思うので、愛護でほっこりしたい方は読み飛ばしてくださいね(;´・ω・)
虐待でほっこりしたい方は、ぜひ女性店員の壮絶な絞め技を堪能して頂ければと…。


まあ、今回も、ポチ(仔実装)の行動は男の推論でしかないので、本当は難しい事は全然考えてなくて単純に
「ご主人さま♪ベッドがダメなら、ポチとここで一緒におねむしてほしいテチュ〜♪」と甘えたかっただけかもしれませんから、
男の対応は、仔の身の丈に合っていない躾をしているかもしれない、愛護といいつつ単なる虐待スクの可能性もあります(笑)

しかし、延々と躾をテーマにしてきたせいか、もう愛護スクというより監護スクな気がしてきましたよ(‾▽‾;)

あ、実装石の全長についてですが、当スクでは、初期に出回った成長図から引用して、下記のような目安を採用しています。

ウジ実装 2〜 3cm
親指実装 5〜 9cm
 仔実装10〜25cm
仔成長期25〜40cm
 中実装40〜50cm
成体実装60〜70cm

拾った時点で10cm弱くらいなので、親指よりの仔実装のイメージです。

それでは、皆様、また次回 ノシ



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1 Re: Name:ジャケットの男 2016/11/29-06:43:34 No:00002993[申告]
スポンジ便座を付けてみました、あんまりスポンジに見えませんが(‾▽‾;)
ハウス内の小物をランクアップorダウンさせていくシステムとか、燃えます!
ではではノシ
■この画像に関連するリンク[お絵かき板 ]■
2 Re: Name:匿名石 2016/11/29-08:54:31 No:00002995[申告]
女性定員のセリフが出てきたときは「ここで呪いのようにリフレインするか!?」と思いましたが
それ以上の教訓を過去に受けていて前向きに受け止めたようで安心しました。
人間とペットの関係を考えれば主人公は間違いなく最良の行動をしているでしょうが、
さてそれが実装石相手だと吉と出るか否かは予断を許さなそうですが……

とにかく、今回もポチがめっちゃかわいいです!
しかしそのかわいさを保ったまま育てるには相応の苦労がいるのですね
私なら絶対に甘やかしてしまいます

しかし作者さん、ガチの動物愛護精神の持ち主のようですが
実装界隈にいて大丈夫なんでしょうか
3 Re: Name:匿名石 2016/11/29-08:55:32 No:00002996[申告]
おお、巣が進化してる
4 Re: Name:匿名石 2016/11/29-12:17:36 No:00002997[申告]
これだけ立派な愛護作品を書く作者さんの虐待作品
いったいどうなるんだ・・・
5 Re: Name:匿名石 2016/11/29-12:25:25 No:00002998[申告]
ポチにもいろんな意味で耐え、女性定員の言葉も参考にしつつ感情的には影響なく、純然と飼い主な男には呪縛じみたものを感じていたが、それだけの過去があれば当然だったんだな

監護と気にされてますが、ある程度は自我がある生物を愛誤ではなく愛護するなら分を弁えるまで躾る方が愛だと思うので、良いと思います
6 Re: Name:匿名石 2016/11/29-12:37:37 No:00002999[申告]
続き気になるわ〜
女性店員キャラ立ってるのでどんなスクになるのか………、待ってるぜ!
7 Re: Name:匿名石 2016/11/29-17:25:02 No:00003000[申告]
※5
どんな衝撃的な出会いでもしょせん部外者の店員や
愛着がわきつつある?といっても拾って10日も立たない現ポチと比べれば
多感な子供の頃の旧ポチとの1年、愛誤の末路の方が影響あるだろうしな
8 Re: Name:匿名石 2016/11/29-19:03:09 No:00003001[申告]
部外者の一言で愛護が裏返る過去の名作もあったからなあ
9 Re: Name:匿名石 2016/11/29-20:26:52 No:00003003[申告]
何だったっけそれ
リンガルの誤訳の可能性が気になって良蟲だったはずの飼い実装を殺しちゃうスクは覚えてるけど
部外者に言われてっていうスクが出てこない
10 Re: Name:匿名石 2016/11/29-22:08:56 No:00003006[申告]
爺さんが英国品評会のチャンプまで育てた犬のブリーダーだった身からすると
この男の躾は甘すぎ&迂遠すぎてイライラするなあ
爺さんは「畜生は叩いて躾けるもの」「人間と犬(畜生)を同列に扱ってはいけない」が信条だったし
「銀牙—流れ星銀」に出てくるマタギの爺さん(熊犬調教師)そのものみたいな人だったので
何度言っても人に吠えたり他の犬と喧嘩するような馬鹿は
よく竹刀をバラしたものをムチ代わりにしてめった打ちされてたっけ

ってか今はクリッカーなんて便利なものがあるんですね
実装石相手にこのやり方でどこまで糞蟲性が封印できるか分からんけど
これほどオチが楽しみな作品も久々ですわ
11 Re: Name:匿名石 2016/11/29-22:12:52 No:00003007[申告]
ゲームがほんと楽しみです
自分がここに出入りするようになってからはすでに開発放置されたゲームがあるだけだったので
製作者さんにリアルタイムで意見を伝えられるのは本当にありがたい
レスつけられるほうの画像板で進捗を見せながら
欲しい愛護用具や虐待用具について読者の要望を聞いていただけると幸いです
12 Re: Name:匿名石 2016/11/29-23:24:46 No:00003008[申告]
次は女性店員の回かぁ

作品内容はどんな反響が何人からあれ作者の自由である
作品で主に(肯定的に)描かれるのは主役の物語であって脇役にはそこまでの配慮は必要とされない
特に主役と違う道を行った失敗者として描かれる存在には

そういう常識前提で、それでもあんまり女性店員をバカにするような否定するような展開にはならないといいなあと思ってます
あの人もあの人なりに実装業界に悪戦苦闘してああなったんだと思うので
13 Re: Name:匿名石 2016/11/30-01:50:43 No:00003010[申告]
過去がどうでも現状深淵だし飼い主とも違う路線の人だけど
ディストピアものとかの倒されるべきクソ悪役みたいなのを除けば登場人物が嘲られるような展開にならない方がいいというのには同意だな
14 Re: Name:匿名石 2016/11/30-12:21:35 No:00003012[申告]
ひどい展開ならひどい展開で面白そうだから構わないけどな
でも、そうなると間違いなく毎度のように女性店員に否定的なレスする人が錦の御幡とばかりにキャッキャするのと
それに例のあいつがキレて荒れるのが目に見えてるのがな
15 Re: Name:匿名石 2016/11/30-12:38:34 No:00003013[申告]
やつらや派生物への心配はわかるけど事が起こらないうちから言うのは無意味だし
女性店員のワザマエを楽しみに待っていようよ
16 Re: Name:匿名石 2016/11/30-19:26:17 No:00003015[申告]
感想そのものというより荒れるのがウザいんでしょ
何度も同じような書き込みを起点に荒れてればそういうこと言うやつも出るでしょ
何にせよ、そいつもあんたも実際にそうならないうちから疑心暗鬼になるなって
17 Re: Name:匿名石 2016/11/30-20:04:59 No:00003016[申告]
文章だけだと二足歩行して鳴くGのごとき実装石でも仔のうちはかわいげがあるもんだなと流されてたけど画像になるとやっぱうぜえ
目をそらせないように固定してから服や持ち物を燃やしてやりたい
18 Re: Name:匿名石 2016/11/30-21:58:23 No:00003017[申告]
ポチの服装とか特にそうだな
文章で読むと大変だったんだな、親実装の形見なんだなって感じだったのに
画像になると見せる相手なんて飼い主しかいないはずなのにオリジナルのスタイルでオサレぶってる糞蟲感がしてくる
禿裸にしてやりたくなるから不思議
19 Re: Name:匿名石 2016/12/01-07:22:59 No:00003018[申告]
この作者さんすごいな
火傷しかけてまで作った米団子を躾に役立てるかと思ったら糞蟲行動のきっかけにするとか
行き当たりばったりじゃなくて色々伏線を考えて書いてるみたいで感心します
女性店員回楽しみにしてますね
20 Re: Name:匿名石 2024/04/26-18:05:35 No:00009054[申告]
い゛ぐっい゛ぐっ
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