タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話10(完)
ファイル:「実装産業の世界編」10.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:566 レス数:1
初投稿日時:2014/10/12-21:16:25修正日時:2014/10/12-22:20:22
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため
強引に異世界を旅行させられる羽目になった。
 「実装石」と呼ばれる人型生命体がいる世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間というタイム
リミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。

 としあき達が訪れた「実装産業の世界」は、実装石を産業資源としている超未来都市だった。
 そこでは、なんと海藤ひろあきが指名手配されていた。
 彼の兄にして、実装管理委員会の次官を勤める海藤やおあきは、としあき達に、ひろあきと彼の
持つデスゥタンガンの捜索を依頼する。

 一方、ミドリは、中実装化したひろあきと共に、「アビス・ゲーム」に参加させられていた。
 そしてとしあきとぷちも、メイデン社の会長・志川蘭子と知り合った結果、実装化されて「アビス・
ゲーム」に刺客として参加させられてしまった。

 “封印の間”201号室へ入り込んだとしあきとぷち、キイロチームは、閉鎖された部屋ならではの
問題に、徐々に苦しめられ始めていた。
 そして、部屋に入れなかったミドリは、実装燈に寄生されたひろあきの死がきっかけで、恐るべき
変化を起こしてしまった。

 そしてアパート内に現れた、化け物のような能力を持つ禿裸実装——

 アビス・ゲームと、それを巡る人間模様は、複雑な経緯を辿り、いよいよ終局へ向かう。

 


【 Character 】

・弐羽としあき:人間
「実装石のいない世界」出身の主人公。
 実装石と会話が出来る不思議な携帯を持っている。
 現在、実装化している。


・ミドリ:野良実装
「公園実装の世界」出身の同行者。
 成体実装で糞蟲的性格だが、としあきやぷちとトリオを組みよくも悪くも活躍。
 現在、首下のリボンの色は、緑。


・ぷち:人化(仔)実装
「人化実装の世界」からの同行者。
 見た目は巨乳ネコミミメイドだが、実は人間の姿を得てしまった稀少な仔実装。
 現在、実装に戻ってしまっている。


・伐採石:
 「アビス・ゲーム」に無関係な乱入者や、ルール違反とみなされたプレイヤーを伐採(処刑)
するための実装石で、どこからともなくアパート内に現れる。
 顔や腕、脚を包帯で覆い、右腕には巨大な刃を埋め込まれている。
 殺傷方法は主に首の切断で、一切の容赦はないが、伐採対象外の者には一切干渉しない。


・志川蘭子:
 チャイナドレスをまとった色っぽい美女で、メイデン社の若き会長。
 デスゥタンガンの現在の所有者で、本体のシステムに施されたロック解除を、としあきに
依頼するが、紆余曲折を経て、初期実装と取引を行うことに。


・デスゥタンガン(アイテム):
 海藤ひろあきが持っていた、実装石を自由に操ることが出来る銃型の機器。
 グリップ内部にあるスイッチボックスを引き出し、任意のボタンを押してからトリガーを
引くと、特定範囲内の実装石がボタンに従った行動を(本人の意志とは無関係に)取り始める。
 また、電撃や火傷と同じ偽ダメージを与えたり、動きを強制的に止めることも可能。
 偽石の固有周波数を登録することで、特定の実装石を効果対象外に指定することも可。
 更に、本体側面部に内蔵されたモニターは偽石センサーのレーダー表示になり、広範囲に
散らばった実装石(偽石)をキャッチすることが出来る。
 ただし、元々は実装石ブリーダー用に開発されたものなので、殺傷能力はない。

 
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      じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話 ACT-10 【 炎の大逆転 】

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●101号室:アカチーム
 成体/中実装2/仔実装1/仔実装2……二階の明り取りから転落死。
 ※成体実装は仮死状態だが、ステージ外へ出たためリタイア扱い。

●102号室:アオチーム
 成体/仔実装1/親指実装……ゲーム中に消失(原因不明)
 中実装1/中実装2……乱入生物(実装雛)により捕食され死亡。

●103号室:キイロチーム
 成体1……203号室に潜む乱入生物(正体不明)により斬殺。
 成体2/仔実装1/仔実装2/蛆実装……201号室内に健在。

●105号室:ミドリチーム
 成体1/成体3……同士討ちで死亡。
 仔実装……上記巻き添えで死亡。
 中実装……乱入生物(実装燈)による寄生を受け死亡。
 成体2……二階床下にて健在。

●202号室:クロチーム
 成体1……アオチーム成体実装により刺殺。
 成体2……発狂後、乱入イベント実装石により撲殺。
 中実装1……発狂したクロ成体2により殺害される。
 中実装2……アカチーム中実装により刺殺。
 仔実装……クロ成体1の死のショックで自壊。
 
●203号室:シロチーム
 成体1/成体2/中実装1/中実装2……クロチームに襲撃されて死亡。
 仔実装……仲間に踏み潰されて圧死。

●205号室:ムラサキチーム
 成体1/仔実装1/仔実装2/親指……乱入生物(実装燈)による寄生を受け死亡。
 仔実装3……乱入生物(実装燈)による寄生を受け、発狂後に死亡。

●リボンなし:乱入チーム(非プレイヤー)
 成体1/成体2……乱入生物(実装紅)により斬殺。
 成体3……伐採石に処分され死亡。
 中実装1/中実装2……201号室内に健在。

■生存プレイヤー:全5体
 非プレイヤー実装の生存数:2体(※伐採石除く)
 未確認生命体:1体

 プレイ開始後72時間経過。
 現在日時、6月15日午前0時17分——


          ※          ※          ※


 201号室では、キイロチーム-1とぷちが、既に就寝している。
 しかしとしあきだけは、無言でドアを見つめ続けていた。

 他の者達が寝付く2時間ほど前、廊下側から微かな叫び声のようなものを聞き取っており、
それが気になって仕方なかったのだ。

(なんか、ものすげぇ嫌な予感がするんだよなぁ……
 他実装の世界で体験した、あの時の感覚に似てるっつぅか)

 中実装の肉体を持ってから、としあきは、動きづらさや肉体の非力っぷりに戸惑わされたもの
の、逆にあらゆる感覚が研ぎ澄まされた実感も得ていた。
 特に、視覚や聴力は人間時とは全く違い、空間把握能力や物体分析能力が格段に高まっている。
 しかもそれは、良く見える・良く聞こえるという単純なものではなく、視覚・聴覚で受け取った
感覚が、脳内で勝手に分析され、周辺の状況をかなり正確に理解させてくれるのだ。
 だからこそ、ちょっと見ただけの物体の大きさや配置が瞬時に理解出来たり、視点が低くなった
にも関わらず、距離感の察知が人間時とほぼ変わらない。
 何より、自分より遥かに巨大な物の大きさが、かなり正確に把握出来るのは非常に役立つ。
 また、「危険」に対する感受性も強まっており、あらゆる事柄に対する警戒心が強まった。
 としあきは、実装石の肉体を得て初めて、実装石の持つ各種感覚の素晴らしさを実感していた。
 と、同時に——

(でも、これだけ凄い感覚や分析能力を持ってても、警戒心皆無ですぐに殺されたりする奴が殆ど
なんだよね、実装って。
 結局、宝の持ち腐れって奴なんだろうなぁ)

 という思いも抱いていた。


 としあきは、ドアに耳をつけて、廊下の様子を窺ってみた。
 この部屋は、それなりに防音機能も強化されているらしく、外の喧騒が殆ど聞こえて来ない。
 そのため、外部の情報が全く入らず、201号室はまさに隔離されている状態だ。
 また、この部屋にはジュースと菓子しか食料がなく、ベーコン以外に実装の本来必要な栄養素を
満たせるものが、全くと云っていいほど存在していない。
 糖分過剰の食事は、生物の精神状態に悪影響を与えるという話を、以前テレビで見て覚えていた
ため、このままでは精神的・肉体的にも危険だと判断できる。
 としあきは、これこそが、最後に残ったプレイヤー達に課せられた、最も過酷な試練なのだと理解
していた。

(ぷちはあの性格だし、キイロの連中は、だんだんカリカリして来てる。
 もう、他の連中は頼りにならんだろう。
 やおあきの野郎は、この一見恵まれた部屋の中で、武器も持たない実装石同士で、最後の殺し合い
をさせるつもりなんだ……
 なんせ、勝利条件は「最後の一匹が生き残る」事だもんな)

 としあきは、他の実装石達に気付かれないように冷蔵庫に近寄ると、コンセントを引き抜き、コード
の被覆を齧り始めた。

(このままじゃあ、俺達は、ウンコの臭いと食い物の悪影響で、頭がどうにかなっちまう。
 その前に——上手く行くかどうか、わかんねぇけど……)

 カリカリカリカリ……

 
 そしてその様子を、ベッドの上から、キイロママが無言でじっと見つめていた。 


          ※          ※          ※


 一方ミドリは、床下に潜り込んですぐ、LEDライトの明かりを発見していた。
 どうやら、キイロチームが201号室に入る前に、置いていった物のようだった。
 おかげで、完全な闇の中を迷わずに済んだが、ミドリは行く宛てが全くなくなってしまった。

「デェ? こりゃあ何デス?」

 ミドリは、201号室の床下の鉄板を発見し、呆気に取られた。
 中央部に突き刺さっている真鍮の鍵を引き抜こうとするが、全くびくともしない。

「もしかして、ここはあの部屋の真下デス?
 おーい、そこに誰かいるデス?」

 ミドリは、ライトの先端で突き上げるように鉄板を叩いてみるが、当然反応はない。

「畜生、今夜はここで夜明かしデスゥ?
 寂しい状況になったもんデス……ああ、腹減った」

 腹が減っているのに、便意だけは普通にやってくることに苛立ったミドリは、天井裏でたっぷりと
脱糞して、少しだけ鬱憤を晴らした。


          ※          ※          ※


 二階では、伐採石が、何かを捜してさ迷っていた。
 現在、プレイヤーも、としあき達非プレイヤーも、伐採石の手の届かないところに退避している。
 本来であればここに来る事もないのだが、伐採石は、それでもしきりに周囲の様子を窺っていた。

 クスクスクス

 どこからか、小さな笑い声がする。
 伐採石は、突然、右手の刃を202号室のドアに突き立てた。

 コー、ホー……

 しかし、そこには何者の姿もなかった。


          ※          ※          ※


 6月15日午前10時——
 としあき達がこの世界に到着して、既に丸96時間が経過した。
 滞在可能時間は、残りあと24時間。

 アパート内に、変化が起きた。


 ドスン、ドスン!
 ドスン、ドスン!!

 201号室のドアが、突然、凄まじい力で叩かれ始めた。
 それは、熟睡する室内全員が目覚めるほど大きな音だ。

キ成2「何事デス?!」

 キイロママは、子供達をベッドの奥の方に避難させると、警戒しながらドアに近づく。

と「打点が実装石の身長じゃないぞ! もっと巨大な奴だ」

ぷ「あのチャイナドレスのオネーチャが、クソドレイサンを助けに来たテチ?」

と「いや、それなら、ドアを切断するなりするだろ」

キ蛆「あまり近づいたら危ないレフ!」

 キイロ蛆の叫びとほぼ同時に、ドアの中央辺りがベコンとへこんだ。
 表面の板が割れ、その中から鉄板のようなものが見える。

と「なんだぁこりゃあ! おかしいぞ! こんなのねじ曲げるなんて!」

キ成2「どうすればいいデス? 蛆ちゃん?!」

キ蛆「わ、わからないレフ……こんな事態、さすがの蛆ちゃんも初体験レフ!」

キ仔1「肝心な時に蛆ちゃん役立たずテチ! あーもう、イライラするテチ!!」

キ蛆「あっ痛い! オネーチャ、暴力は駄目レフ!」

キ仔2「テェェン、ケンカしないでテチュウ!!」

 キイロチームは、どうやらかなり平静さを失っているようだった。
 しかし、それも当然といえば当然だった。
 201号室内は、既にとしあきとキイロママによって調べ尽くされ、窓や押し入れの天井も含め、一切
の脱出方法が存在しない事が分かっている。
 普通に考えれば、このまま脱出も出来ず、一方的に死を待つしかない。

 メキ……メキメキ……

 やがて、ドアの端から、触手のようなものが入り込んでくる。
 それは、映画のエイリアンを思わせるようなデコボコした造りで、しかも太さが5センチほどもある。
 更に隙間がこじ開けられ、その向こうから、実装石の頭が見えた。

キ仔1「パパテチ! パパが助けに来てくれたんテチ!!」

 突然、キイロ仔の姉の方が、叫び出した。
 確かに、隙間から覗いているのは、キイロパパと思しき顔ではあった。
 しかし、その位置はどう見ても床上150センチ以上はある高さで、しかも両目は灰色に濁っており、
焦点が定まっていない。
 それが死体の頭“だけ”だということに、としあきとキイロママは、すぐ気付いた。

キ成2「パパ……!!」

と「お、おい、ちょっと待て、ちっこいの!!」

キ仔1「パパァァ!! テェェェン、テェェェン!!」

 ベッドから転げ落ち、座布団に着地したキイロ仔実装は、泣きながらドアに向かって走り出した。
 だが、キイロママが抱き上げようとした瞬間、室内に入り込んだ触手が高速で伸び、キイロ仔実装の
顔面を貫いた!

 ギョベッ

キ成2「……!!」

ぷ「ひ……!!」

と「……!」

 触手の先端が、瞬時にキイロ仔実装の体内に潜り込み、中身を吸い尽くす。
 仔実装の身体は見る間に薄皮だけになり、へなへなとその場に崩れてしまった。
 骨すらも、残っている様子はない。

 触手は、仔実装を餌食にすると、一旦ドアの向こうに引っ込んだ。
 ドアは若干開きはしたものの、開いてる部分はかなり上の方で、そこを脱出路にすることは出来そう
もない。
 まして、触手の動向が全く確認出来ないため、としあき達は、どのみち逃げ出すことは叶わないまま
だった。

と「おい、あんた。ちょっといいか?」

 その間に、としあきはキイロママに話しかける。

キ成2「こんな時に、一体何デス!?」

と「このままじゃ、俺達は全員あのバケモノに殺られてしまう。
 実は、イチかバチかの脱出方法があるんだが」
 
キ成2「ほ、本当デス?」
 
と「下手したら、俺達も大怪我しかねないくらい危険だが」

キ成2「ワタシは構わないデス、子供達さえ無事に脱出出来るのなら——」

と「よしわかった」

 そう言うと、としあきはお菓子の粉末を詰めた袋を抱えて来た。

キ成2「それをどうするデス?」

と「ああ、俺も実際にやったことはないんだけどな。
 まず、これを——」

 としあきは、キイロママに「作戦」の説明を始めた。


          ※          ※          ※


 15日の正午になって、やおあきはようやく、自室の隠し部屋に戻ることが出来た。
 にじあきから進行状況の報告を聞き、いくつかの予想外の展開に驚愕した。

「安全圏にこれだけ沢山のプレイヤーが集まったケースも、珍しいな」

「そうそう。確か30回くらいだったか?
 安全圏に4匹入り込んで、そのまま一週間も篭城されたのって」

「あの時はいつ終わるかわかんなくて、こっちも焦ったからなあ。
 ——ん?」

 ニチャ

 やおあきは、何か変な物を踏みつけた。

「ああ悪い。
 変な生き物が入り込んで来てさ。つい潰しちまったんだ」

「これ、実装生物なのか?
 おいおい、ちゃんと綺麗に処分しとけよ」

「そりゃあそうと、次官殿。
 新しい企画を思いついたんですが、採用しませんか?
 実装石を直接叩き潰したり、拷問にかけたりするんだよ。
 爽快感が物凄いんだよ、見てるだけより、遥かに楽しいぜ?」

「ほぉ——」

 突然興奮し始めるにじあきと、床で潰れている小さな死体を一瞥する。
 やおあきは、懐に手を入れた。

「それでさ、それ専用に集めた実装石を参加者に虐待させてだな——」

「熱弁中すまないんだが、にじあき」

「ん? ——え?」

 眼前に翳された物を見て、にじあきの動きが止まる。

「実は、ちょっと状況が変わってしまってね。
 すまないが、最期にお前の力を貸して欲しい」

「え? は? お、おい、ちょ……?」

 眉間に当てられたのは、拳銃だった。
 にじあきの顔色が、どんどん青ざめていく。

「お前に、ゲーム全体の首謀者になってもらいたいんだ。
 なあに、心配するなよ。
 こことは別な場所に、ここと似たような中継室を用意してるから。
 そこにお前を運ぶ手はずを整えてる」

「ま、待てよ、やおあき! マジ? マジでそんな……!!」

 甲高い奇声を上げるにじあきに優しく微笑みかけると、やおあきは、鼻をフフン♪ と鳴らした。

「問題ないって。
 最初から、まずくなったらこうするつもりだったんだし」

「ま、待って、待ってくれ! ください!!
 お、俺、色んな企画出したろ? な?
 きっとこれからも、お前の……貴方の役に立てると思う……います!
 だから、だから殺さないでください!
 もっと実装を苦しまらえるネタほ提供しちゃすかりゃ! 金稼ぎゅから!
 俺もらちゃから、ちゃべら……!!」


「命乞いか? 感動的だな。
 ——だが無意味だ」

 パン!


 無情にも、引き金は引かれた。
 反動は意外に少なく、にじあきの身体は軽くのけぞり、椅子にもたれかかる程度だった。
 やおあきは、まるで養豚場のブタでも見るような目でにじあきの骸を見つめると、懐から携帯を取り
出した。

「ああ、私だ。
 丸太を例の場所に運んでくれ。
 それと、クリーナーも何人か遣してくれ」

 通話を切ると、やおあきは椅子ごとにじあきをどかし、モニターに見入る。
 そこには、二階の廊下で蠢いている、巨大なサソリのような化け物の様子を映し出されていた。

「な、なんだこれは?!
 これも、乱入してきた実装生物だっていうのか?」

 脇に置かれている端末を見ると、ギャンブラーやブリーダーからの抗議や質問が、山の様に寄せられ
ている。
 その件数は既に七千を超えており、相当な混乱を招いていることが窺える。
 しかし、もうやおあきには、それに対応する気は全くなかった。

(アビス・ゲームは中止だ。
 DEJAにより主催者の所在が暴かれ、主催者は抵抗の末に射殺されたんだからな。
 勿論、返金などされることもない——哀れなのは、安全な場所で実装石の無様な死に様を楽しんでいる
連中だけになるという寸法だ)

 室内に、やおあきの含み笑いが木霊する。

 タブレットやマウスが置かれたテーブルの裏にくっ付いている、ボタン大の機器は、静かに作動を
続けていた。


          ※          ※          ※


 それからしばらく後。
 アパート周辺から、人の気配が完全に消えた。
 それは、やおあきによる撤収命令……アビス・ゲームの完全放棄命令が下されたからだった。
 プレイヤーと呼ばれる実装石達は、もはや完璧に孤立した状態となっていた。


          ※          ※          ※

 
★2階  
 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203、205(204はない)
____
□||□
□||□
■||▲
 | → 一階へ
‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は洗面所。


 ミシ……ミシ……

 コー、ホー……


 アパートの二階に、伐採石が姿を現す。
 その視線の彼方には、一匹の禿裸中実装が、佇んでいた。

 テスゥ!

 伐採石の姿に、中実装は歓喜する。
 両手を広げ、満面の笑顔を浮かべた瞬間、突如その上体が縦に裂けた。
 裂け目から、溢れるように飛び出す、無数の触手。
 ——否、それは触手というよりは、昆虫や甲殻類のものに似た「脚」だった。
 繋がったままの下半身が持ち上げられ、総排泄孔から、新しい頭が生えてくる。
 鼻と口のない頭には、赤と緑の目玉が無数に、かつデタラメに付いている。
 やがて全体が肥大化をはじめ、中実装——カオスは、廊下を完全に塞ぐ程の大きさになってしまった。
 周囲に、虹色の粘液が飛び散る。


 シャアァァァァァ!!


 コオォォォォォォ!!


 それぞれの叫びが合図となり、二匹は激しくぶつかり合った。
 各方向からフレキシブルに伸びるカオスの脚と、それを見事にいなし、懐に飛び込もうとする伐採石。
 しかし、伐採石がいくら強いと云っても、所詮は普通の実装石を基準とした場合の話。
 闘いの優劣は、ものの十数秒で着きつつあった。
 四方八方から襲い掛かる脚の先端は、鋭い爪状の器官があり、それが次々に伐採石の顔や身体に突き
刺さる。

 コー……ホォ……

 顔面を覆っていた包帯が解け、伐採石の顔が露出した。
 顔にあたる部分が大きく抉り取られ、鼻、口に当たる部分にオイルクーラーのような機械が埋め込まれ
、目の位置には、赤外線カメラのような黒くてごつい機器が設置されている。
 額や頬に当たる部分は空洞で、その中には血液や体液と思しき液体が行き来するチューブが、無数に
蠢いていた。

 伐採石の身体中に突き刺さった脚は、体液や血液を容赦なく吸い取っていく。

 キュウウ、コォォォォ……

 呼吸用の機器が露出したため、伐採石の呼吸音が変わる。
 ものの数分もしないうちに、伐採石は身動き一つ取れなくなり、廊下の真ん中で沈黙した。

 クスクスクス……

 異形の外観に似合わない、可愛らしい微笑みを残し、カオスはくるりと身を反転させる。
 その先には、先ほど襲撃を中断した201号室があった。


 シャアァァァァァ!!

 異形のカオスは、再度201号室のドアを破ろうと挑む。
 再び、ドスンという激しい衝突音が響いた。
 先の攻撃で、ドアの両端はかなり大きく破損しており、角から折り畳むような力を加えれば、比較的
容易に開けることが出来そうだった。
 もっとも、それはカオスの力を基準にした場合の話で、中の実装石達にはどうしようもないレベルの
ことだが。


 201号室では、再び猛攻を開始したカオスの勢いに、子供達が怯えていた。

キ仔2「テェェェン、テェェェン!! ママァ〜! パパァ〜!!」

キ蛆「泣いちゃ駄目レフ、必ず皆でおうちに帰るレフ!!」

ぷ「テェェン! もうなんで毎回こんな酷い目に遭うんテチィ?
 もう元の世界に帰りたいテチィ!!」

 メキ、メキ、メキ……バキバキバキ!!

 ドアが、ついに半壊した。
 と同時に、複数の触手状の脚が割り込み、完全に開こうと一気に力を込めてくる。
 その瞬間。

 ——ぼふっ

 グシャグシャに捻じ曲がり、倒れたドアが潰したのか、それとも踏み込んだカオスの脚が踏み抜いた
せいか。
 入り口の近くに置かれていた紙袋が破られ、中に入っていたお菓子の粉が、辺りに吹き上がった。
 微粒状の粉末が散らばり、白い煙のようになって、周囲に充満する。

 その瞬間、押入れの中に隠れたとしあきが、大声を上げた。

と「よし今だ! コンセントを差せぇ!!」

キ成2「デスッ!!」

 カチッ


 キイロママが押入れに逃げ込み、襖を閉じた数秒後——




       ド・ドオオォォォォ………ンンン!!!




 201号室が、大爆発を起こした。


          ※          ※          ※


「な、何だと?!」

 モニターを見ていたやおあきは、驚愕の声を上げた。
 一瞬、爆風のようなものが映り、次の瞬間、全てのモニター映像が途切れたのだ。
 それは、まるで爆弾でも破裂したかのようだった。

「何が起こったんだ?! 現地班!!
 —-くそ、撤退した後か!」

 201号室に、爆発物やそれに類似した物を配備した筈などなかった。
 しかし、実際に爆発でも起こらない限り、全ての映像回線が瞬時に途切れることなどありえなかった。

「なんてことだ! まさか実装石如きが、アビス・ゲームのステージを破壊するなんてな……恐れ入った
 よ」

 やおあきは、やれやれを両手を挙げて、皮肉げに笑う。
 その時、突然、隠し部屋のドアが勝手に開いた。

「えっ?」

 部屋の向こうから、大勢の人間が押し寄せる。
 その中の数名は、やおあきの脇で放置されている死体に駆け寄った。
 それを止めさせようとしたやおあきを、他の者達が制する。
 動揺するやおあきの前に、見た事もない壮年の男性が立ちはだかった。

「実装管理委員会DEJA最高次官……いや、アビス・ゲーム首謀者、海藤やおあき。
 君の身柄を拘束する」

「何?! 貴様、何者か知らんが、私にこんな真似をしてタダで済むと思うのか?!」

「まだ状況を理解出来ていないようだな、海藤。
 本日只今を以って、君はDEJA次官の職を外されたのだよ」

 壮年の男性は、表情を変えぬまま、冷静に告げる。
 やおあきは、目をひん剥き、唾を飛ばしながら抗った。

「馬鹿な! 一体、何の権利があって!」

「実はね、君が居ない間に、この部屋に盗聴器を仕掛けさせてもらったんだよ。
 そこに倒れている黒浦にじあきとのやりとりも、君が彼を射殺した所も、すべて聞かせてもらった」

 そう言いながら、男はテーブルの裏に手を回し、ボタン大の機械——盗聴器を示した。

「……!!」

「そして君は先ほど、この部屋でモニターしていたものがアビス・ゲームだと、自ら認めた。
 ——もはや言い逃れの余地は、全く残されていない」

 壮年の男は、顎を上げて部下らしき者に指示すると、やおあきの両手首に手錠をかけさせた。

「アビス・ゲームに関わり、失われた命は、人間・実装石共にかなりの数に及ぶ。
 極刑は免れまい、覚悟をすることだな」

 それだけ告げると、男は踵を返し、部屋を退出しようとする。
 だが、それをやおあきが止めた。

「待て! 何でお前達は、俺をマークしたんだ?!
 俺は完璧に——」

「君は、重要指名手配犯・海藤ひろあきの実兄だろう?
 彼が犯罪を犯した時点で、君もずっとマークされていたんだよ。
 DEJAの中にも、君を監視する目は、無数にあったのさ」

「なん……だとぉ?! 俺が、オレが!?
 あのクズと同じように見られていたというのか?!」

 もはや平静な態度など全く取れなくなったやおあきは、噛み付くような勢いで、壮年の男に食い下がる。
 だがそれも、無駄な抵抗に過ぎなかった。

「件の産業スパイ事件の時から、秘密裏に内偵が進められていたんだよ。
 だが君は、実に尻尾の隠し方が巧妙だった。
 そこの黒浦にじあきが、君の留守中にドアを開けてくれなかったら、こうはならなかっただろうね」

「この……この糞ブタ野郎のせいで……ッ!?」

 凄まじい憎悪の篭もった目で、やおあきはにじあきの死体を睨みつける。
 だが、男達に無理矢理引っ張られたため、最後の別れも一瞬で終わった。

「君はこれより重犯罪者として、当局によって身柄を拘束される。
 君の手の者も、いずれ一網打尽にされるだろう」

「待て、当局って、お前達は何者なんだ?!
 警察如きではあるまい? 一体——」

 やおあきの問いに、壮年の男性は、ジャケットの内側のワッペンを示す。
 大輪の薔薇をモチーフにした、金色のシンボルマークが、そこにあった。

「総ては、偉大なる大ローゼンのために——」

「……っ?!」

「連行しろ」

 壮年の男性の命令で、やおあきは、引き摺られるように個室から連れ出された。
 その表情は絶望に染まり、顔色は、まるで死人のように青ざめていた。


          ※          ※          ※


★2階  

炎 炎 □
□||□
■||▲
 | → 
‾‾‾‾
 

 轟音を上げて爆発したアパートは、想定外の被害を生み出していた。
 アパート二階の北西側は、跡形もなく吹き飛んでしまった。
 201号室は炎に包まれ、部屋中央のテーブルは押入れの上段まで吹き飛び、下にずり落ちていた。
 ドアはもはやどこに行ったのかすら解らず、カーペットやカーテンが、更に炎を煽り立てていた。
 肝心のとしあき達は、吹っ飛んだテーブルが偶然にも盾代わりとなり、殆どダメージを受けなかった。
 しかし、部屋が炎上しているため、かえって脱出が困難になってもいた。

 としあきが行った「作戦」とは、所謂“粉塵爆発”を利用したものだった。

 小麦粉などの可燃性の粉末が、大気中に舞っている状態で火花などから引火した場合、火薬を使用しなく
ても爆発するという実在の現象だ。
 としあきは、以前何かのニュースで、これによる火災事故を見て、記憶に留めていたのだ。

 しかし、としあきが考えた「粉の袋に冷蔵庫のコンセントの漏電を引火させる」という条件では、確実
に失敗していた。

 カオスの猛攻によりドアが破壊され、これにより粉末状の菓子がたまたま室内に蔓延したところに、遅れ
て発生した漏電のスパークが引火したのだ。
 このタイムラグのおかげで、点火役のキイロママもなんとか逃げ仰せていた。
 いわば、偶然に助けられて成功しただけの、限りなく大失敗に近い作戦だった。
 
と「げぇ、このままじゃあ燃え尽きちまう! どうすりゃあいいんだ!」

キ成2「そこまで考えてなかったデス?!」

と「だって、こんなにド派手にイくなんて、思わなかったんだもん!」

ぷ「テチャア! 熱いテチ! 早くなんとかしないとテチィ!!」

キ蛆「ジュースを被るレフ! そこに転がってるから、早く!」

 キイロママは、躊躇わずペットボトルのジュースを開け、中身を全員にぶちまけた。
 水分が極薄の耐熱皮膜を形成する効果を期待しての処置だが、それより早く逃げなければ、煙にまかれて
しまう。
 既に、201号室や廊下は黒煙が充満し、かなり危険な状態だ。

キ仔2「ゆ、床下は駄目テチュ?」

と「ゆ、床下は——」

 ボコン!

 その時、いきなり、床下で何かがへこんだような音がした。
 同時に、押し入れの奥でメキメキと何かが割れ裂ける音がする。
 やがて、床下への穴と思われる隙間が開いた。

ミ「デェェ〜!! ゲホゲホ!」

と「み、ミドリ?! なんでそこに居るんだ?」

ミ「く、クソドレイデス?! 一体何がどうなって……」

と「いい所に来た! そこから逃げさせろ!」

ミ「デェ?! わ、わ、わ!」

 としあき達は、我先にと床板の穴に飛び込み、次々にミドリの上に落下した。

ミ「ムギュウ」

ぷ「オネーチャ、ありがとうテチ!」

キ蛆「それより、早く一階へ! 103号室の押入れから出られるレフ!」

キ仔2「ワタチのライト! それ使ってテチュ!!」

ミ「あ、これ、お前のだったデス?」

と「いーから! 早く先導しろよこのすっとこどっこい!!」

ミ「ムカッ! なんデス?! 主人に向かって酷い暴言を——」

キ成2「このままじゃ焼け死ぬデスーッ!!」

 一行は、慌てて103号室の押入れ天井を目指した。
 猛烈な熱が頭上から降り注ぎ、ついには先ほどの脱出口が、火に包まれた。

と「やばい! 天井裏まで燃えるぞ!」

キ成2「そこデス!」

 キイロママが先に飛び込み、毛布をクッションにして子供達を受け止める。
 温度こそ高まっては来たものの、幸いまだ103号室に炎は届いていない。
 しかし、天井裏に引火した以上、時間の問題だった。



■1階

   _
  ||
 □||炎
 □||□
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾



キ成2「お風呂場デス! あそこには水があるデス! それで火を消すデス!!」

と「馬鹿いえ! そんな程度の水で火が消せるか!!」

キ成2「ワタシ達は、風呂場に行くデス!」

キ蛆「ママ、冷静になるレフ!
 必ずどこかに逃げ道がある筈だから、それを探すレフ!」

 そう言うと、キイロ蛆はキイロママの耳の穴に入り込んだ。

キ蛆「ニンゲンさん、我々は、なんとしてもここから脱出しなければならないんレフ!
 勝手で申し訳ないけど、蛆ちゃん達は別行動を取らせてもらうレフ!!」

ぷ「テェ?!」

と「お、おい!」

キ蛆「さよならレフ、あなた方のご無事を祈ってるレフー!」

 その言葉を最後に、キイロチームは、部屋を出て風呂場の方へ走り去った。
 取り残された三人は、天井が燃え始めたのを見て、慌てて後を追うように部屋を飛び出た。
 だが、その直後——

と「マジ、ですかい」

 どかっ! という大きな音を立て、105号室のドアから、カオスが姿を現した。
 背中から無数の脚を生やした中実装という、中間形態のような姿をしている。
 その目には、凄まじい殺気が込められ、としあき達を睨んでいる。
 キイロ達の姿がないところを見ると、うまくカオスをかわせたようだが……

ミ「ぜ、絶対絶命とは、こういうことをいうデス」

ぷ「そ、そうテチ!
 このままタイムリミットまで待って、次の世界に行けば——」

と「アホンダラー! そんな上手くいくかー!!」

 テスゥ? クスクスクス♪

 迫り来る炎などものともせず、カオス実装がゆっくり迫ってくる。
 103号室の中に炎が回り、ドアから凄まじい熱気が迫るが、それでもカオスは怯まず、としあき達を追い
詰める。
 ついに玄関まで後退したとしあき達は、これ以上逃げられない状態に陥った。
 玄関の扉は、相変わらず厳重に固定されたままだ。

と「もう駄目だ、どうしようもない」

ミ「せめて最期に、プレミアム牛丼を食べてみたかったデスゥ」

ぷ「テェェン! せっかく苦労して人化したのに、実装石の姿で死んじゃうなんて、イヤイヤテチィ!!」

と「せめて辞世の句でも述べますかね、ミドリさんよぉ」

ミ「死に際に 夢見る牛丼 卵付き」

と「やるな、ミドリ! ちょっと感心した」

ミ「牛丼が季語になってるデス」

と「マジかよ! つか辞世の句に季語要るの?!」

ぷ「もお!! どうしてこんな時まで、そんな馬鹿なこと出来るんテチィ?!」

と・ミ「「ごめんなさいデス」」
 
 馬鹿なやり取りをしている間に、カオス実装も玄関までやって来た。
 もはや、カオスをすり抜けなければ、逃げ道はない。
 半泣きのぷちを庇うように、少しでも距離を取ろうとするとしあきの足に、何かがぶつかった。

と「なんだこれ——って、水鉄砲?」

ミ「何でこんなのが……あ、コレデス」

 それは、かつてミドリが、ひろあきと玄関を探索した時に見つけた、下駄箱内の袋の中身だった。
 キイロパパが発見したものの、役に立たないので放り出していたものだ。
 としあきは、反射的にそれを手に取った。

(このアビス・ゲームで、ただの水鉄砲が無意味に入ってるわきゃあない。
 きっと、何か意味があるんじゃないのか——て、アレ?)

 逆さにした水鉄砲から水が漏れ、としあきの脚に滴っている。
 それを見た途端、としあきの頭上に突如電球が出現し、パリンと割れた。

と「ミドリ、これ!」

ミ「デェ? こ、こんなもん渡して、どうしろというデス?」

と「いいから撃て! あいつの顔を!」

ミ「デェェ?」

と「早く!」


 クスクスクス———シャアァァァァァ!!!


 笑顔の中実装の口が大きく裂け、出鱈目に生えた無数の牙が露出する。
 その気持ち悪さに怯えながらも、ミドリはとしあきの指示通り、水鉄砲のトリガーを引いた。

ミ「エネルギー充填120パーセント! 発射あぁ!! デス!」


 ぴゅるるるっ


 軽やかな放物線を描き、水が、中実装の顔に降りかかる。

 赤色の、水が。


 テェ? ……テ、テ、テェェ?!?!


 突然、カオス実装が苦しみ出した。

ミ「デ? どうしたデス?」

と「いいから、もっと撃て! 顔! つうか左目だ!」

ぷ「あ! お腹がボコボコ言い出したテチ!!」

 ミドリは、更に水鉄砲を発射した。
 カオス実装の顔に、容赦なく降りかかる赤い水は、彼女? の両目を真っ赤に染めていく。
 ぷちの指摘通り、カオスの腹は物凄いぜん動運動を始め、大きく歪み出した。

 グエェェェェェェ!!!


 触手が力なくうなだれ、脱出口が開く。
 すかさず、三人はそこを抜け、廊下に戻った。
 カオス実装の背中の足もそれを追おうとするが、苦しさが勝ってか上手く伸ばせないようだ。

と「やった! 最後まで諦めないもんだな!」

ミ「おもっくそ諦め切ってなかったデス!?」

と「しかし、酷い道具もあったもんだな!
 あれ、明らかに実装攻撃用の武器じゃねぇか!」

ぷ「テェェ! 前! 前ェ!!」

 廊下は、既に火が回り切っていた。
 103号室はおろか、その向こうも、もはや深紅の炎で覆われ、黒煙が蔓延している。
 かろうじて火の勢いが弱いのは、101号室だけだ。
 もはや、選択肢はない。
 三人は、躊躇わず101号室に飛び込んだ。

 背後から、カオスの断末魔が聞こえて来たが、それもすぐに消えた。


ミ「どうする? どうする? ど・お・する? キミならどうするデス?!」

と「もぉヤケだー! 任せるんだ俺様に!!」

ぷ「天井が燃えてるテチ! 押入れテチ!」

と「振り向くなー!」

 201号室床下の鉄板のせいなのか、出火元の真下なのに、火の回りが遅かった101号室。
 炎の洗礼を受けようという直前、押入れに飛び込んだ三人は、そのままストン! と落下した。
 そこは、アカチームがかつて床下侵入に使っていた入り口だった。

 一階床下は、幸いまだ炎や煙が回り切っていないようで、比較的居心地が良かった。

ミ「あ! そういえば!!」

 ミドリは、かつて物置に隠していた食料を、何者かに奪われた時のことを思い出した。
 あの時、何者かが明かりを使って床下を移動していたのだ。
 加えて、ひろあきと一階を探索した時、廊下の一部だけ何故か足音がしなかった事も、思い出していた。

ミ「きっと、床下にいた連中は、廊下の下の何かを利用してたんデス!
 そこへ行ってみるデス!」

と「行くのはいいけど、何もなかったら?」

ミ「みんな仲良く、ベリーベリーウェルダンデス!」

ぷ「ウェルダンて何テチ?」

と「ステーキの焼き方で、中までしっかり火が通ってるって意味」

ぷ「絶対にノゥ、テチ!!」

と「お前もそう思うか、オレもなんだよ!」

ミ「あ、やっぱり何かあるデス!」

 馬鹿な会話を続けつつ、三人はかつてアカチームが拠点としていた、床下の隠し部屋に辿り着いた。
 それは、完全な独立構造の部屋で、ユニットとして造ったものを無理矢理押し込んだような、所謂小型
のシェルターに見えるものだ。

ミ「やっぱりここデス! 構わず入るデス!!」

と「もうどうにでもなれやー!」

ぷ「テ、テチィ!!」

 最後の選択肢すら失った三匹は、迷うことなく室内に飛び込んだ。


          ※          ※          ※


 同じ頃、キイロチームは、風呂場へと逃れていた。
 幸い、アパートの南側は、まださほど火が回っていない。
 とはいえ、それは一次的なことに過ぎないことを、全員が理解していた。

キ成2「以前、パパが何度も言っていたデス。
 伐採石は何処から来るのかって……一番怪しいのがここデス」

 そう言うと、キイロママは、浴槽の蓋を開けようとした。
 複数枚の分厚い木の板は、実装石の力では到底持ち上げられない。
 しかし、そのうちの一枚だけは、異様なほど軽く、片手でひょいと上がってしまった。

 中を覗きこむと、そこは浴槽——ではなかった。
 外見こそ浴槽ではあったが、中身は平たくて底の浅い「穴」になっており、昇降用の階段がほんの数段
取り付けられている。
 底の部分は緩やかなスロープになっており、浴槽の中に降りると、南側に開いている脱出口へ移動出来る
構造になっていた。
 赤黒い血痕が、そこへとまっすぐ続いている。

キ蛆「ここから、伐採石が出入りしてたんレフ!」

キ仔2「やったテチュ!! 最後に大逆転テチュウ!!」

キ成2「あのニンゲンさん達には悪いデスけど、我々はここから逃げさせてもらうデス」

 そう言うと、キイロママは洗面器を踏み台に浴槽の中へ入り込み、穴に向かって移動した。
 大柄の伐採石が出入り出来るくらいなので、大きさはかなり余裕があり、移動は全く苦ではない。
 真っ暗な穴の中を進み、やがて行き止まりに突き当たる。
 少しずつ蒸し暑さが増してくる穴の中、三匹の焦りはピークに達しようとしていた。

キ仔2「きっと、出口のドアテチュ!!」

キ蛆「早く開けて脱出するレフ!」

キ成2「わかってr——あ、アチャアアアアア?!」

 キイロママが突き当たりの壁に手を触れた途端、物凄い高熱が手を焼いてしまった。

 壁は凄まじい高温になっていた。
 キイロチームは知らなかったが、この穴はアパートの庭側にある掃除用具収納用の物置に通じており、
そこが伐採石の待機所だったのだ。
 だが、完全木製の物置は、風呂場周辺より先に炎上していたのだ。
 キイロママが触ったのは、伐採石用のケージの蓋で、鉄製である。
 炎で過熱されたケージは高熱化しており、それがキイロママの手を焼いたのだ。
 穴の中の温度も、急激に高まってくる。

キ蛆「も、戻るレフ! 風呂場へ戻るレフ!!」

キ仔2「熱い熱いアツイ!! 焼けじぬデヂュウウウ!!」

キ成2「も、戻れ……ええっ?! な、何か詰まってる?!」

キ蛆・キ仔2「「ええっ?!」」


 コー、ホー……


 穴の向こう側から、聞き覚えのある呼吸音が響いてきた。
 それは、伐採石。
 カオスとの闘いで敗れながらも、まだ生き長らえていた伐採石が、戻って来ていた。
 右手の刃は根元から折れ、全身傷だらけになりながらも、必死に戻って来たのだ。

 デ、デギャアァァァァァ!!


 尻を伐採石の顔面に押し付けるような形になったキイロママは、まさに、黄色い悲鳴を上げた。

 そしてそれが、キイロチームの最期の瞬間となった。

 ついでに、伐採石も。


          ※          ※          ※


 6月16日午前1時——

 アパートの火災に気付いた者達による通報で、火が消し止められてから数時間後。
 大ローゼンによる事後調査が行われるためか、消防隊の面々は早々に撤退し、現場は一時的に放置された
状態だった。
 敷地が広かったため、近隣の家屋に燃え移ることは避けられたが、アパート自体は全焼を免れなかった。
 かろうじて燃え残った柱は炭化したまま立ち尽くし、そこら中水びだしになっている。
 南西部・風呂場跡からは、コンクリートの壁に開いた狭い穴の中に逃げ込んだ、実装石達の焼死体が発見
された。
 アビス・ゲームの中継は、昼過ぎ以降は途絶えてしまったが、不思議なことにアパートの状況やプレイヤー
の結末はネット上に広まっており、「ステージ全壊・優勝プレイヤー全滅」という結論が下されていた。

 しかし、現実は違った。
 生き残ったプレイヤーはいたのだ。

 としあき達が逃げ込んだシェルターだけは、全焼火事にも関わらず焼け残っていた。


『全く、お前らの悪運の強さには、ほとほと呆れるデスゥ』


 開かれたシェルターの中から、疲れ果てて眠っている三匹を見つけると、初期実装はため息を吐き出した。

「この中実装を、回収すればいいわけだな。
 ——成体実装はどうする?」

 志川蘭子の呼びかけに、初期実装はしばし考える。

『こいつは置いてっても——いや、待てよ……?』

「どうなんだ?」

『やっぱり、全員回収するデスゥ。
 こんな奴らでも、“因子”のボディガード代わりにはなるかもデスゥ』

 蘭子が手を挙げると、黒服達が三体の実装石を回収し、ワゴンに乗せた。
 


          ※          ※          ※


『いいデス?
 これから貴方——いえ、皆さんは、信じられないような出来事を
 沢山経験されるデス——

 でも、大丈夫デス……
 きっと、どんなピンチも乗り越えられるデス。
 だから——ご自身を信じて行動して欲しいデス——』



 いつか聞いた優しい声が、ふと、脳裏に蘇る。
 その言葉が、としあきの意識を結びつけ——たような気がした。

「ここは……?」

 そこは、ぼんやりとした明かりが一つ灯るだけの、暗い部屋。
 その中に、としあきは独り座らされていた。

「あ、あれ? 指がある……?
 脚も?」

 にぎにぎ、パンパン

「身体、元に戻ってるのか?! やったー!」

 としあきは、立ち上がって元の肉体に戻れたことを喜んだ。
 衣服も、持ち物もしっかり揃っており、携帯もミドリの偽石も、DEJAのカードもしっかりポケットに入って
いる。
 しかし、問題はまだ山積みだ。

「ここは何処なんだ? メイデン社の連中のところか?」

 うす呆けていた記憶が徐々に戻り始め、眠らされる前のことや、アパート内の惨劇が脳裏に蘇る。
 
「そうだ、ぷちは、ミドリはどうなったんだ?
 あと、海藤は——」


『海藤ひろあきは、死んだよ』


 突然、室内に女性の声が響いた。
 それは、スピーカー越しの志川蘭子の声だ。

「なんだと?! どういう事だ!?」

『まだ思い出せないのか?
 それとも、意図的に思い出さないようにしているのか?』

「どういう事だよ……?」

『君は、アビス・ゲームの中で、海藤ひろあきに出会った筈だ。
 そして、そいつは君と一緒に、最後まで逃げ切れていたか?
 そうではあるまい——途中で、彼は消えた』

「……!!」

 思い返すと、確かに、逃げている時には、ひろあきの事が頭から飛んでいた。
 ミドリに再会したら、ひろあきの行方を確認しようと思っていたにも関わらず。
 としあきは、自分のふがいなさを呪ったが、どのみち結果は変わらなかった可能性も考え、言葉に詰まった。

『無理もない、相当慌てていただろうしな。
 だが、心配するな。
 君の飼い実装とメイド服の少女は、無事だ』

 その言葉に、としあきは、安堵感と悲壮感を同時に味わった。
 そして、こみ上げる怒りも。

「そもそも、お前らが俺達を実装石にしなきゃ、こんな事にはならなかったんだろうが!
 他人事みたいに、何を言ってやがる!!」

『まあ、落ち着くんだ。
 確かに、君達にはすまないことをした。
 だがこちらとしても、既に報酬を支払った以上、なすべきことはしてもらわなくては困るのだよ』

「報酬ぅ? 支払っただと?」

『その通りだ、自分で言っていながら、忘れたのか?
 報酬はいらない、代わりに海藤ひろあきに会わせて欲しいと言ったのは、君だ』

「うぐ……!!」

 部屋の中央辺りに、スポットライトが灯る。
 そこには、鉄製の台座に固定された、デスゥタンガンが設置されていた。
 としあきの目が、顰められる。

『我々の目的は、あくまでデスゥタンガンのロック解除だ。
 改めて協力してくれるなら、君達の安全な解放を約束しよう』

「……そうかよ」

 蘭子は、はじめからまともに交渉するつもりなど、ないのだ。
 話す相手は、自分の思うがままに動いて当然と考えているようだ。
 短い間の付き合いでも、それはとしあきには痛いほど良く判った。

「いいぜ、わかった」

 としあきは、素直に了承すると、デスゥタンガンへと歩み寄った。

『そうか、理解と協力に感謝する』

 あまり感謝の気持ちを感じない言葉に、としあきは更に返す。
 蘭子は、指紋認証と音声認証の組合せで、ロックが解除出来ることを説明した。
 それなら、回りくどい事しないで、最初からそうさせろよ! と、としあきは心の中で呟いた。

「ちゃんとロック解除してやるから、せめてミドリとぷちを先に解放してくれ。
 それくらいの条件は、出しても良いだろう?」

『——そうだな、良いだろう』

 蘭子がそう言った直後、部屋のどこかで自動ドアが開くような音が聞こえた。

「クソドレイサン!」

『クソドレイ!!』

「なんだ、すぐ近くに居たのかよ」

 半泣きで飛びついてくるぷちを抱き止め、でんぐり返って脚にキックしようとするミドリをいなし、
としあきは安堵の息を漏らす。

「クソドレイサン、今、いったい何——」

 ぷちの唇に指を当てて黙らせると、としあきはデスゥタンガンに近づいた。

『では約束だ、デスゥタンガンのロックを解除してもらおう』

 蘭子の静かな、それでいて有無を言わさぬ迫力のこもった声が響く。
 としあきは、ゆっくり頷いて、デスゥタンガンに手を伸ばした。

「なぁ、参考に聞いていいか?」

『なんだ?』

「このデスゥタンガンを、どうするつもりなんだい? あんたらは」

 デスゥタンガンのボディを、指先でなぞりながら話しかける。
 グリップに手をかけるように見せて触らない、という行為をわざと繰り返し、としあきは反応を待った。

『この世界は、実装石があらゆる産業の中心として動いている。
 実装石を自在に操れるデスゥタンガンが、どれだけの価値を発揮するか、なんとなく見当がつくだろう?』

「確かにな。
 それに今は、やたらと実装生物が増えてるらしいし」

『そうだ、ならば実装生物を数多く独占出来る我々の天下ということだ。
 ——さぁ、そろそろロックを解除したまえ』

 少し苛立ち気味に、蘭子が話しかける。
 それを聞いたとしあきは、ぷちとミドリを一瞥した。

「さぁて、後はもう、運任せしかないなぁ」

 としあきがデスゥタンガンに手を伸ばそうとしたその時、スピーカーの向こうから、蘭子の軽い悲鳴が
聞こえてきた。

 と同時に、何者かが部屋のドアを、激しく蹴破った。


          ※          ※          ※


「なんだ、お前達は?!
 誰の断りを得て、ここに入り込んだ?」

 怒りの形相を浮かべ、蘭子は自室に侵入して来た男達を睨み付けた。

「メイデン社の会長・志川蘭子だな。
 只今より、君を拘束する」

 先頭に立つ、壮年の男性が、静かな口調で伝える。

「何だと?! 馬鹿な、一体何の権利があってそんな事を?!」

 牙を剥く蘭子に、男は逮捕状のようなものを翳して即答する。

「簡単な話さ。
 君は、第52回アビス・ゲームで、ミドリチームのブリーダーとして登録していた。
 ゲーム主催者であるDEJAの次官・海藤やおあきは、既に我々“大ローゼン”が身柄を拘束した。
 君達にまつわる情報は、彼から全て手に入れたよ」

「DEJA……? 次官?!」

「詳しい話は、我らの本部で伺うとしよう。
 もう諦めたまえ」

「待て! 私は! 私は——!!」

 問答無用で複数の男達に取り押さえられた蘭子は、抵抗も空しく、そのまま室外まで引き摺られていった。
 
「よし、デスゥタンガンを確保せよ」

 壮年の男性は、携帯のような小型端末を取り出し、どこかに指示を出した。


          ※          ※          ※


「弐羽としあき様ですね? 私達は、偉大なる大ローゼンの公安調査庁の者です。
 皆様の保護を命ぜられています」

 Deceiveに良く似た戦闘服のようなものをまとった男性が、笑顔でとしあき達に接する。
 差し出す身分証明書には、確かに大ローゼンのあのロゴがあった。

 その後、室内に入り込んできた工作部隊のような者達は、デスゥタンガンの確保と共に、三人の安全確認を
行って来た。
 敵ではない様子に、としあきは、改めてほっと息をつく。

「もしかして、これで俺達は、本格的に助かったのか?」

「はい、早速、ここから脱出いたしましょう」

「どうして、大ローゼンさんは、私達の味方なんテチ?」

「それは——さ、お早く」

「まぁいいか、行くぞ二人とも!」

『細かいことは気にすんな、ってことデス?!』

「テェェ? また良くわかんなくなっちゃったテチィ!」

 廊下に出ると、そこには男性と同じ格好・装備を施した者達が、ずらりと並んでいた。
 それはまるで、としあき達を警護しているかのようだった。
 否、他には誰もいないので、もはやそうとしか考えられなかった。
 先導する男は、腕時計のような端末を確認して、慌ててとしあきに呼びかけた。

「時間がありません、聞いてください。
 もうまもなく、貴女がたの滞在時間が120時間を超過します」

「テェ?! そ、それはまずいテチ!」

 デデェ!

「このままでは、貴方がたにこの世界の“因果”が紐付けられてしまいます。
 私共の“ディメンジョンドライバー”で、別の世界へお送りいたします」

 男の言葉に、としあきは目を剥いた。

「何? あんたら、一体何を?!」

「私達は、MOTHERの命令で、貴方がたをこことは別の、とある世界へお連れしなければなりません。
 その為に、ここへ参りました」

「世界へお連れって……出来るの?! 世界移動が?!」

「はい、これをお付けください」

 男は、自分が着けているものと同じ腕時計のような機械を、としあきとぷちに与えた。
 自分だけもらえず抗議するミドリにも、別なサイズのものがきちんと用意されていた。

「それでは、外に出て早速移動を——」

 エレベーターホールのようなところに辿り着いたところで、突然、エレベーターのドアが、バタン! と
激しく開かれた。
 その向こうは暗黒の空間。
 その中には、赤と緑の、血走った眼が浮かんでいた。


『何を、勝手なことをしようとしているデスゥ?
 この、大ローゼンのお猿さん達めぇ』


 徐々に姿を現す初期実装に、男は躊躇わず、腰に装備した銃を撃ち放った。
 しかし、銃弾はすり抜けるだけで、効果はない。

「初期実装! てめぇ、何しに来た!!」

『もうお前達に、これ以上、ワタシの知らん世界に行かせるわけにはいかんのデスゥ。
 全く、捜し出すのにどんだけ苦労すると思ってるデスゥ?』

『知るかデス! そもそも、お前が勝手に始めた事デス!?
 なんでいちいち、お前にそこまで言われなきゃならんデス!!』

 ミドリが、歯を剥き出しにして初期実装に食ってかかる。
 それを見た初期実装は、一瞬身も凍りそうなほどの恐ろしい顔つきになった。

『——新人さんは黙ってろデスゥ!
 これは、ワタシとクソドレイの問題デスゥ!』

「何が新人だよ?」

『ええーい、問答無用デースゥ!!』

 初期実装は、そう高らかに宣言すると、両手を挙げた。
 エレベーター内の暗黒空間が、まるでブラックホールのように広がり出す。
 エレベーターホール全体を包み込むほどに肥大化した途端、としあき達は、急に強い吸引力のようなものを
感じた。

「うわ……?!」

「テェ……!!」

『デギャア……!!』

『さぁ、みんなで幸せになろうよぉデスゥ〜♪』

 上下左右、右左もわからなくなり、としあきは、必死で手を伸ばし、ぷちの手を掴んだ。
 遥か彼方で、あの男性が必死で呼びかけているのが見えたが、何を言っているのかは聞こえない。
 暗黒空間の中に、小さな光の点が見えた瞬間、突如、身体が奇妙な浮遊感を覚えた。


「ディメンジョンドライバー、作動願います!!」

 あの男性の声が、何故か突然、耳元ではっきりと聞こえた。


          ※          ※          ※


 その後、「実装産業の世界」は、無数の実装生物による“悪意なき侵略”を受け続けた。
 世界中に発生した実装生物の数は、一週間後には全世界の人口を上回り、各先進国の都市部では、人間の
居場所がどんどん奪われ始めていた。

 もはやそれらは、この世界における工業資源ではない。
 ただの、インベーダーだ。

 DEJAの暗躍も、アビス・ゲームの記録も、そしてメイデン社のことも、やがて人々の記憶から消えてしまった。
 それは、実にあっけなく——本当に、つかの間のことだった。

 世界はパニックに陥り、もはや「国」も「権力」も、「資本力」も役に立たない、滅びへと向かうだけという
有様。
 そんな激動の流れの中、デスゥタンガンは、ロックが解除されないままの状態で闇の彼方に紛れてしまった。


 また一つ、世界が、実装石によって破壊されてしまった。


 そして、この世界における「真の破壊者」の骸は、冷たい海の底で孤独に眠り続けていた——



→ To Be Continue NEXT WORLD





次回 【 実装石が支配する世界 】








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1 Re: Name:匿名石 2024/07/15-04:29:48 No:00009246[申告]
ここで話が止まるのか… 悲しい
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