タイトル:【ジャンル無】 新製品『戦乙女』
ファイル:戦乙女.txt
作者:kf 総投稿数:5 総ダウンロード数:1410 レス数:1
初投稿日時:2011/09/20-23:09:25修正日時:2011/09/20-23:09:25
←戻る↓レスへ飛ぶ

         戦乙女








20××年、『株式会社ヴァルハラ』と言う名の玩具メーカーより人型フィギュアロボット『戦乙女(ワルキューレ)』が発売された

その体長は20cm程度であるにも関わらず自分の意思を持って独自に行動でき
髪の毛からつま先まで多種多様なパーツの組み換えによって無限に近いカスタマイズ性が数多くのマニアの心を掴んだ

そしてこの戦乙女達の動力源と基本AI・・・・それは『実装種の偽石』を使う
その特殊動力炉内に偽石を格納すると肉体との何らかのリンクが完全に途切れてしまい本来の肉体は死に至り
肉体の死と同時に戦乙女は起動して偽石の持ち主そのもののように振舞う

それはあたかも実装の魂が肉の体から戦乙女の体に移動したかのように・・・・・・

この動力構造に多くの実装種愛好家は疑問を感じた

「ヴァルハラは何でそんなアホな構造を作ったんだ?」

「いちいち実装の偽石を移植しなくても実装そのものを愛でればいいじゃん」

「ヴァルハラは何がしたいんだ?」

数多くの疑問と抗議に対しての答えはしばらくして全国のゲームセンターに卸されたゲーム筐体『ヴァルハラコロシアム』として出された









戦乙女をセットする事にゲーム筐体内の特殊空間内でCPU・戦乙女同士での対戦格闘が行われる『ヴァルハラコロシアム』
その主役である戦乙女達は別売りの武器・装甲・バーニアなどを装備して戦うその姿は『リアルなガ●ダムの世界』と表現しても過言ではなかった

20cm程の戦乙女達がゲーム筐体内の戦闘領域で戦うデモンストレーションはたちまち数多くの人を魅了し、改めて戦乙女の長所にもスポットが当てられた

まず今までの実装とは違い餌が必要なく(基本は機体の充電と月1程度の自社制作の特殊保護溶液のみ)当然排泄物なんてない
新陳代謝もないのでまめに風呂に入れなくても臭くならないし
コミニケーションをとる時に面倒なリンガルも必要ない
何よりも仮に甘やかし過ぎたり躾に失敗したりして我侭な子になってもパソコンの補正パッチですぐに大まかな性格を(自分好みに)矯正出来る事が大きな魅力となり
世間は戦乙女ブームに沸き立ち始めた














そんな華やかな戦乙女達の一世風靡には実装石がなくてはならない存在だった

ここはとあるゲームセンター、今日も自慢の戦乙女と共に一人の青年が来店し、そのまま真っ直ぐカウンターに向かった

「いらっしゃいませ」

「店員さん、ヴァルハラコロシアムやりたいんだけどE(エナジー)S(ストーン)ありますか?」

青年の言葉にカウンターの店員は後ろの棚から緑色の石が入ったカプセルをケースごと取り出して青年の前に置いた

「サイズはS・M・L・LLの4種類ですがどれに致しますか?」

「う〜ん・・・リリス、どれがいいかな?」

ケースのカプセルを見ながら青年は肩に乗っているパートナーのリリスに声を掛けた

『今日は兄様とのデートだもん、いっぱい頑張りたいから・・・』

「ならこれだな・・・じゃあ店員さん、LLをください」

青年はLLサイズの中でも一番大きい緑色の石が入ったカプセルを手に取った

「かしこまりました、LLサイズは300円になります」

青年は代金を支払うとリリスの背中に背負っているバックパックにカプセルをセットした

「よ〜し・・・今日は新しく買ったビームキャノンとウイングバーニアの試運転もかねてトコトン楽しむぞ〜」

『兄様、今日こそ20連勝達成しますからね!!』

楽しく会話しながらゲーム筐体に向かう一人と一機・・・・

勘のいい人なら気付いているかもしれないが先程青年が買っていった『ES』・・・
戦乙女達の武器・バーニアetoのエネルギーは全てこれで賄っている

そしてこのESこそ今の実装石に与えられた役割なのだ











実装種の持つ偽石・・・その内に秘められているエネルギーは相当量ある事はかなり昔から知られている

だがそれを人間社会のエネルギー開発に使えるかと言うとあまりにも小さ過ぎる

例えば普通の家庭で一日に使う電力を偽石で賄うとなると成体実装石350匹分位が必要になる・・・とても使えたモノじゃない

しかし着眼点を変えて小さな物の動力源にすれば確かに有効性はある
ヴァルハラ社はそこに目を付けて戦乙女の開発を始めた

苦節を経て4年、最初の戦乙女が完成してその起動実験に適当に捕獲した野良実装石の偽石を(偽石が壊れても問題無いからとの単純な理由で)搭載して実働テストを始めた
その結果は・・・・あまりにも酷いモノとなった

プロトタイプとは言え外見も完全に作り上げた戦乙女・・・その外見とイメージをぶち壊すような汚い言葉で喚き出し
投糞の真似事をするわオナニーを始めるわで当時の開発スタッフの何人かはあまりの酷さにショックで寝込んでしまう程の大失敗だった

もちろん失敗の原因は『実装石の偽石』を使った事にあり、他の実装種の偽石を使った結果は開発陣の満足いく結果を出した
(以後実装石の偽石をコアに使用する事は固く禁止された)

しかし開発スタッフはこの時同時進行していた『武装・バーニア』の開発で暗礁に乗り上げていた

当時は武器やバーニアの動力源は本体の偽石から確保する案と電力の有線ケーブル式の二つの案が出されていたがどちらにも大きな欠点があった

一応本体から動力を確保する事は出来るがその分偽石に掛かる負担は大きく戦乙女の寿命を大幅に縮める恐れがある・・・

だからと言って有線ケーブル式にすれば行動は制限されるし戦闘の度にケーブルが破損すればその都度修理が必要になる・・・そんな金の掛かる欠点だらけの筐体なんて売れる訳がない・・・

戦乙女自体が生産ラインに乗る直前まで議論は続き、ある会議の時に一人の若手スタッフ(虐待派)がポツリと呟いた

「バックパックを別に作って糞蟲の偽石入れて動力にしちゃ駄目かな?」

この一言が開発を大きく前進させた

その後、実装石の偽石を動力源とした外装用動力システムが急ピッチで開発され

戦乙女素体の発売より遅れてヴァルハラコロシアムと専用武装と装甲は発売された
そして・・・これ以降実装石とそれに関わる人間達の今後の運命も大きく変わった・・・・・・・















ヴァルハラ社から『戦乙女武装用カートリッジ』としてゲームセンターなどで販売を始められた実装石の偽石

素体の生命である偽石は何重もの装甲で守られているが
肉体とのリンクを断ち切る為だけの使い回しのきく特殊カプセルに入れられたバックパックの実装石の偽石は結構雑に扱われている

大抵は何回かの戦闘で武器やバーニアにエネルギーを全て吸い取られてゴミとなる
酷いものとなれば大型のエネルギーキャノン一発でゴミになる事も珍しくない・・・・

だがそれは当然だ・・・『補充の利く消耗品』の方の偽石なんぞの安全性なんて気にする事自体が馬鹿らしい
そんな事気にするくらいなら武器の性能や威力を優先した方が遥かにマシだ

そしてこのゲームにハマッた者の中には自分で野良実装石を狩って偽石集めを始める者も出始めた

最初こそは虐待派や愛護派が

「俺達の私物に手を出すな!!」

と抗議したり偽石集めを妨害したりしていたが
自分達も戦乙女を購入すると愛らしい彼女達に魅了されてあっさり虐待や愛護の道から引退して偽石集めに夢中になった

こうなってしまうと一番のとばっちりを受けたのは虐待派や愛護派のような味方のいなくなったローゼン社やメイデン社のような実装関連業者だ

なにせ戦乙女が発売されて4ヶ月過ぎた頃には実装産業最大手のローゼン社ですら売上がいつもの5分の1以下まで落ち込み
『実装だけじゃもうアカン』と判断した他の業者はすぐに実装以外の産業にすぐさま乗り換えてなんとか生き延び、対応出来なかった業者は次々に倒産していった

更に今まで人間に依存を求めていた野良実装石達も変化があり
『人間を舐めた』個体は次々に狩り尽くされ『人間を恐れる』個体が僅かながら人間の目を欺いて細々と暮らしていた・・・・・・・・しかし・・・・・・
















そんな人間の目を欺いて密かに生活していたとある野良実装石の一家はたった今、死に直面していた

『デ・・・デギャアアアアアアア!!なんでニンゲンがこんな所に!!』
『テッチュ〜ンママ〜、このクソドレイニンゲンをアタチの魅力でメロメロにしてやったテチ〜』

餌集めから帰ってきて人間の襲来に腰を抜かしている親実装とは対照的に、自分の家族を人間に売り飛ばした事にすら気付かない子実装が男の手の上で満面の笑みを浮かべていた
この子実装は親の言いつけを守らず勝手に巣の外で遊び周り、それを見つけた男が『飼い実装にしてやるから』と持ちかけて巣まで案内させ、家族構成まで聞き出していたのだ

「なるほどねぇ・・・木の洞の奥に山実装みたいに隠れていた訳か・・・どうりでセンサーに引っ掛からない訳だ」

ドガッ!!

『デグギャッ!!』

男は逃げようとする親実装を蹴り飛ばして背骨をヘシ折り動きを封じると腰のポーチを開け、二体の戦乙女を取り出した

「シーナ、メル、コイツの話だとあと子実装が4匹、蛆実装と親指が3匹づついるはずだ、全部追い出してくれ」

「お任せ下さいマスター」

「全国大会まで日が少ないのにゃ、えなじ〜すと〜んは少しでも多く確保しないとにゃ〜」

双剣を装備したシーナと猫爪を装備したメルは(銃火器は基本的にゲーム筐体外では安全装置が作動して使用出来ない)男の手のひらから降りるとそのまま巣の中に飛び込んだ

『テエ?今のは何テチ?それよりバカドレイニンゲン、あんなブタババアなんかどうでもいいからとっととお前の家に連れて行くテチ!!
お迎えパーティーをするテチ!!寛大なアタチは松坂牛のヒレ肉ステーキと大間のクロマグロの中トロで我慢してやっても・・・』

事の次第を理解出来ていない子実装(糞蟲)は男の手の上で幸せ回路全開の妄想をテチテチと喚き出した

「さて、今回はどのくらいのESが回収できるかな?」

変声リンガルを切った男はそう言うとさっきの腰ポーチから小型のカッターとバックパック用特殊カプセルを取り出した

『テエ?・・テ!!テチャアアアアアアアアアアアアアアア!!』

こうしてこの日、間引き損ねた愚かな子実装のせいでそれまでひっそりと隠れて暮らしていた野良実装石の一家が自分達の生命の石を奪われた
















戦乙女が全国に流通して2年後・・・世間は大きく変わった

「実装石?そう言えば最近見なくなったな〜・・・全滅したんじゃない?」

「実装を飼ってるかって?今時実装のままで持ってる人っていないんじゃない?」

「ってか”じっそうせき”って何さ?新幹線の指定席とかそんなヤツ?」



あれ程までに悪害をまき散らした野良実装石も戦乙女ブームの末に狩り尽くされ、生粋の野良実装石は全国に予想推定100匹以下まで激減し、多くの人の記憶から消えた
後の実装石と言えばES用の養殖物やディープな虐待派や愛護派が人目から隠してこっそり飼っているモノしかいない

他実装に至っても養殖物(野良は偽石狩りの為にほぼ全滅)が産まれた直後に偽石を戦乙女にすぐさま移し変えられるが故に実装種として世に出る事もほとんどなくなり
実物の実装種自体が最近では都市伝説化していた

更にかつては全国に400近くの支社を持っていた大企業ローゼン社やメイデン社は『あんなキモオタ向け人形なんかすぐに飽きてみんなまた実装を求めてくる』
と甘く考えて戦乙女を見下していたのと実装企業最大手のプライドが仇となり
下らない意地を張り続けたその結果、9割近くの支社と工場を潰す羽目となり、今では小さな工場兼事務所が数軒あるだけの弱小企業に廃れていった

そして愛護や虐待関連の実装産業の衰退とは反比例に戦乙女関連の企業はゲームの枠には収まらずに建設・医療介護・防犯など多くの分野に発展を始め
戦乙女達は『オタクの遊び道具』から『人間の良きパートナー』に認識が変わり、最近の普及率は携帯電話とほぼ同率クラスとなり、今ではなくてはならない存在となった





























そして今現在・・・とある下水道の奥の奥に人間の魔の手から逃れた実装石達が細々と暮らしていた

『テエエ・・・ママ、ここは暗くて怖いテチ・・・もっと明るい所に行きたいテチ』

『イモウトチャ、我侭言っちゃダメテス・・・そんな所に行ったらニンゲンに殺されるテス、ニンゲンに見つかったら皆殺しテス』

『テエエ・・・・』

そんな姉妹を見て親実装は悲しくなった

この親実装は子供の頃に偽石狩りの騒ぎの中、たまたま開いていた側溝から下水道の奥に転げ落ちて運良く難を逃れた一匹である
今現在そうやって人間から逃げ切った者同士が助け合ってなんとかココでの生活を維持していたが・・・・

(どうしてデス?ワタシが子供の頃ニンゲンはクジョでもない限りあんなに執念深くワタシ達を襲わなかったデス・・・・
ママもオネイチャもイモウト達もあの小さいニンゲンにいじめられてから大きいニンゲンにお石を取られて殺されたデス
何でデス?ワタシ達が何をしたって言うのデス?どうしてこんな目に合わなきゃいけないのデス?)

戦乙女ブームから始まった偽石狩りなんて全く知らない親実装の口からやりきれない悲しみの混じった溜め息がこぼれた

(ここにいれば食べ物にも水にも困らないデス・・・・でも・・・これじゃあ何の為に私達は生きているのデス?)

確かに下水道での生活は贅沢さえ言わなければ実装石の群れがなんとか生存出来る程の環境だった
しかし・・・・ココで生活している実装石達には夢も希望もない、そんなモノを考える余裕すらない闇での生活・・・
ただ無駄に生き続け、時折現れる人間(下水道局の見回り)に怯えながら逃げ惑い、昼も夜も分からない闇の中をあてもなくさまようだけの日々
そんな毎日に耐え切れなくなった仲間の中には暗闇と孤独感に気が狂って下水の濁流に飛び込んだり偽石が爆ぜるまで意味不明の言葉を喚きながら踊り狂った者まで出だした

(地獄デス・・・・ニンゲンから逃げ切ってもこれじゃあ地獄と変わらないデス・・・・何でこうなったのデス?・・・どうして・・・)

生きている間に何百回何千回と繰り返した答えのない親実装の自問自答・・・・そんな時

『そろそろ移動を始めるデス、もっと広くて住みやすい場所が必ずドコかにあるはずデス』

『ママ、どうしたテス?大丈夫テス?』

『ママ、みんな行っちゃうテチ、ワタチタチも行こうテチ』

『デス・・・』

急に現実に引き戻された親実装は子供達や仲間に急かされて歩き始めた・・・

(デエエ・・・今度こそ本当に安心して暮らせる場所があるとイイのデスけど・・・)






















一方、そんな群れからかなり離れた河川の入口に近い下水道・・・

「なあのぶ、本当にこんな下水道の中なんかに天然の野良実装がいるのか?」

「間違いないって、ウチの叔父さんが前に下水道の見回りの時に見たって言ってたんだって」

年の頃10代前半の少年二人組が懐中電灯と偽石サーチャーを持って下水道の中を歩いていた

「でもよ〜・・・勝手に入ってチョットヤバいんじゃねえの」

「見つかんなきゃ平気だって、せっかくの小遣い稼ぎのチャンスなんだぜ、『天然の野良実装石の偽石・買取価格は成体なら一個3000円』こりゃもうやるしかねーだろ!!」

「だったらさぁ・・・俺のフィリアとお前の雅(戦乙女)連れてきた方が良かったんじゃね?」

「お前馬鹿だろ!!俺の雅様をこんな汚い所に連れてこれるか!!因みにお前のフィリアは雅様のお守りをしてもらう為に置いてきてもらったんだがな」

「このディープオタッカーめ・・・ん?」

他愛ない会話をしていた二人は広域モードにしていた偽石サーチャーの隅に光った偽石反応に気付いた

「おいのぶ・・」

「距離はだいたい200m位だな・・・しかもこれは多分群れで移動しているみたいだぞ」

「群れで?それ全部偽石取れたらマジ大儲けじゃん!!」

「よっしゃ・・・ここからは静かに近付くぞ、どんだけいるか分からんがこんなにいるなら1万越えは確実だ・・・とし、カメラ用意しとけよ」

「分かってるって、生きている時の証明写真だろ?ちゃ〜んと姉貴のデジカメ(無断で)持ってきてるって」

「よ〜し、楽しい狩りの始まりだぜ・・・くっくっくっくっく」

「フィリアの新しい武装とコスチュームの購入資金の為だ・・・悪く思うなよ、ク・ソ・ム・シ・ちゃ〜ん」

ニヤニヤした笑みを浮かべた二人は静かに安息の地を求めてさまよう実装石の群れに近付いていった





















***********追加説明**********




のぶ君の言っていた『天然の野良実装石の偽石・買取り価格は成体なら一個3000円』について

天然モノが高い買取り価格なのにはいくつかの理由があります

一つは養殖モノに比べて遥かにエネルギー量が多い事
(産まれた直後から無理矢理成長加速剤で大きくした養殖モノの偽石に比べて10倍以上のエネルギー量を持っている)

もう一つが『天然の野良実装石の偽石』と言う名前が最近ではブランド名として定着しつつあるからです

因みに買取り価格が3000円の偽石、お店での販売価格は一個7800〜9000円前後だそうです


後、追記として『天然の野良他実装の偽石』だと種によって変わるけど最低12000円+αの買取り(販売価格は2万〜3万円)になるそうです

どちらも捕獲時の生きている時の証拠写真か動画(あとお店での偽石チェック)が必要になります

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため9718を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2024/03/16-00:54:25 No:00008908[申告]
このスク昔は「んなわけあるか」で一笑に付してたが現実の美プラとかAIの需要見てるとそうとも思えんくなった
特に美プラとか15年にブーム始まってから今の今まで断続的に供給され続けてるくらい需要作ってるし
戻る