悪魔の錬金術 「それではとしあき(仮名)さん、本日はよろしくお願いします」 私はとある出版社に務めている記者です。 今日私は元実装石駆除業者の社長さんから『最近の野良実装石事情』の取材をする為に彼の自宅にお邪魔しています 今回、この取材を始めるに至ったのは当出版社刊行の、ある月刊雑誌に送られるいくつかの情報が始まりでした 『野良実装石が1週間程度で元の数に戻るのには愛護派が一枚噛んでいる』 『野良実装が公園で増える前の深夜には必ず公園の近くで夜間工事が行われて公園に近づけなくなる』 『どんな季節でも駆除から1週間足らずで元の数に戻るのには誰かが意図的に大量リリースしているからだ』eto・・・・・ 毎回実装石の悪害っぷりの特集を組めば必ず20通位こんな情報が寄せられる 私から見れば馬鹿らしくて仕方がないと思う・・・・意図的な大量リリースって・・・・TVの見過ぎもイイトコだと思う 大体そんなのは駆除をやり過ごした個体や公園の外に住んでいたモノ、それに捨て実装や渡り実装が一気に押し寄せるから1週間程度で元の数に戻る・・・それが常識のはず 普通に考えればそれで一件落着なのにウチの編集長が 「なんか面白そうだ」 と安易に考え、その取材担当に私が(無理矢理)任命されたのです・・・・・・正直馬鹿らしくて涙が出るかと思いました 結局渋々実装石に関してイロイロ調べていった私は段々とこの問題の謎や矛盾にぶつかる事となった 最近は飼い実装に関しての罰則はかなり厳しいらしく全ての個体登録の義務化や不法投棄に対するハンパない処罰(500万円以下の罰金等)が下るらしい そんな罰則覚悟で捨てる人がいるかと考えれば多分居ないだろう それにそんなに数多く捨てられる程飼っている人がいるかと考えるとこれもまた難しい 第一ペットショップですら爬虫類なんかの餌用の品種改良種(短命で繁殖力無し)しか売っていないらしい (ただでさえ売れない飼い実装石を下手に販売して店の評価に響くのがみんな怖いんだそうだ) 次に渡り実装、一体アレはどこから渡って来たのだろうか? 一般的には公園の外に住んでいたモノや別の公園から渡って来たモノとかが押し寄せるってのが定説になっている 確かにそれなら納得出来るかもしれないがそれでも説明の付かない事柄がある まず公園の外で生活出来る個体はそれなりに安定した生活が出来ているモノばかり(出来ないモノは野垂れ死ぬ)がほとんどらしい そんな連中が安定した生活を捨ててまで公園に向かうだろうか? 更に、遠くからの渡りを成功させる個体のほとんどは『賢く警戒心が強い』らしい だが、駆除が終わった後の公園にいる実装石にはそんなモノは全く感じられない どいつもこいつも人の姿を見つかるなり駆け寄って 『高貴で美しいこのワタシを飼わせてやるデス!!』 『ワタシ専属のドレイになれる権利を与えてやるデス!!』 とか喚き散らし、試しに撒いた実装コロリをためらいもなく奪い合い貪り喰らう・・・・こんな連中が本当に渡りを成功させたのか不思議でしょうがない それともう一つ『駆除をやり過ごした個体』、冷静になって考えれば一番無い話だ 毎回毎回取りこぼしを全ての駆除業者がやるなんて普通だったらありえない そんな雑な仕事ぶりが世間に広まれば会社の評価に悪影響を与えるだけだ それに実装石の知能で人間を欺ける芸当が出来ると言うのも考えづらい・・・・ いろいろな資料を調べていくうちに私は説明の付かない謎に頭を抱えてしまった そんな時だった、取材を続けていた私は以前から再三アプローチしていた元実装駆除業者の社長さんから 「あなたの取材を受けます」 との連絡を受け、私は指定された日に元(アプローチの途中で倒産した)社長さんの自宅に伺って取材を行なう事となったのは・・・ 「まずどこから話そうか・・・・」 としあきさん(仮名)は一口だけコーヒーを飲んでから話を始めた 「あなたが知りたいのは公園の野良実装石は駆除しても元の数にすぐ戻る謎ですよね」 「はい、私なりにイロイロ調べてみましたけど・・・」 「まず普通だったら元の数に戻るのには1〜2ヶ月は余裕で掛かりますよ」 予想はしていたが駆除業者だった彼の口からその言葉が出るとは思わなかった私は少し驚いた 「本来だったらそんなに掛かるんですか?」 「季節によって大差はあるけど最低そのぐらい掛かるって事です・・・いくら栄養条件が良くってもね」 これには私も驚きを隠せませんでした 「一般的に実装石はウンコみたいにボトボト子を産んで爆発的に増えるって言うでしょ、それ自体が間違いなんですよ 確かに実装石の出産率は高いですけど産まれてから成体になれるのは0,01%以下なんです、大抵は同族や犬猫なんかに喰われてドンドン死にますからね」 「ではどうして実装石は1週間足らずで増えるんでしょうか?」 「増えるって言うよりは持ってくるってのが正解ですね、これを駆除業界では『鉢替え』って隠語を使うんですけど」 「鉢替え・・・・ですか?」 奇妙な言葉に私は思わず困惑した 「例えばA・B・Cの3つの公園の駆除依頼があったとします、最初にAの公園の実装石を全て駆除します 次に少し日を開けてBの公園の糞蟲タイプを全体の4分の1程度残して駆除してAの公園にこっそりリリースするんです それからCの公園から全体量の2分の1程度の糞蟲タイプの実装石を半分に割ってAとBの公園にこっそりリリースし、 後はAを駆除する際糞蟲タイプを2分の1程度残してBとCに振り分ける・・・これをひたすら繰り返す事を『鉢替え』って言うんです」 私は言葉を失った、薄々は分かってはいたけどこうも大掛かりに人間が関わっていたなんて・・・・それも駆除業者そのものが・・・・ 「実際はね、野良実装石なんて大した害獣じゃないんです 人間が本気になって駆除すればすぐに居なくなりますよ、馬鹿だし動きはトロいし毒や牙がある訳でもない、再生能力があっても簡単に飢え死にする オマケにすぐに共食いに走って数を減らす・・・だからカラスや犬猫なんかより楽に駆除出来るんですよ」 「だったらなぜそうしないんですか?」 「居なくなったら困るんですよ、虐待派も、彼らが居るからこそ商売の成り立つ実装業者も、実装被害があるからこそ成り立つ駆除業者も 野良実装石がいるからこそ初めて商売として、金儲けとして成り立つんです 普通の人が聞いたら呆れてモノが言えないかもしれないですけど、こうでもしなければこの業界はやっていけないんですよ」 私はなんとも言えない気持ちになった 結局実装石は世間で騒ぐ程のなんかじゃなかった・・・人間の欲望がアレを無増尽に増える化け物にしていただけだった事に・・・ 世間から見れば一銭の価値のない『百害あって一利なし』の野良実装石 しかし人間の悪意とも言える執念が野良実装石から巨万の富を生み出す錬金術を開発した・・・ この駆除業者の『鉢替え』ってのもそんな錬金術の一つなのだろう・・・・ 「としあきさん・・・あなたはなぜ、今回取材を受ける気になったんですか?」 今まで渋っていた彼が急に取材を受ける気になった理由・・・・私はつい気になって彼に質問してみた 「どうしてかですって?モチロン腹いせですよ、最近この辺りにも大型の駆除業者が乗り込んで来てウチのような弱小会社の契約を片っ端から横取りされたんです いくら頑張っても何もかもウチより上の会社に勝てなかった私は当然のように倒産、もう何もかもどうでもよくなったからあなたの取材を受ける気になった・・・ってとこです」 私はそれ以上何も言えなかった 確かに聞いて呆れるような犯罪紛いの錬金術、しかしその錬金術の恩恵にも限界がありその少ない恩恵を奪い合わなければやっていけない その恩恵を横取りされたからこそ取材を受けてくれた・・・・なんだか皮肉な話だな・・・ 「ではとしあきさん、先程の鉢替えに関してなんですけど・・・どうして残すのは糞蟲タイプだけなんですか?」 私は気を取り直してさっきの話(鉢替え)で疑問に感じた事を質問しました 「それですか?まず一つは鉢替えした事を記憶しているような奴を残すとそこからボロが出る、だからなるべく記憶力のなさそうな頭の悪いのを優先して選ぶようにしてるんです それと、人間を舐めた糞蟲じゃなきゃすぐに実装被害を起こしてくれないからですよ・・・被害が出ればすぐに仕事の依頼が舞い込んできますからね」 「・・・・・・・」 「以上が、今回の取材内容です」 私は先日のインタビューや今までの調査をまとめて編集長に提出して確認してもらいました 編集長は全ての書類に目を通してから気まずそうな顔をして口を開いた 「なあ「」・・・・これ・・・かなりマズイ内容じゃないか?こんなの掲載したら全国の駆除業者やローゼン社みたいなトコがウチに殴り込んでくるぞ」 「私もそう思います、個人的な意見としては掲載するのは危険だと思います」 「だな・・・すまんな「」、折角頑張って貰ったがこれはボツにするしかないな・・・本当にスマン」 編集長は頭を掻きながら書類を纏めて私に戻した (仕方ないよね・・・・下手したらどんな恐ろしい目に合わされるか分かったモノじゃない・・・) 取材を進めている時点で薄々こうなる事が予想出来ていた私は編集長の部屋を出た後、全ての取材内容を一つのダンボールにまとめて『掲載不能』と書いて倉庫にしまいました 確かに私は記者です、でも私はTVや小説に出てくるような勇敢で正義感溢れるようなカッコイイ記者なんかじゃありません つまらない正義感を振りかざして生命や将来を棒に振るなんてまっぴらゴメンです・・・・さっさと忘れるに限ります その日の帰り道・・・・家の近くの公園に差し掛かった時、公園の入口に『野良実装石駆除中』の看板が出してあり 公園の中からは実装石の悲鳴が響き渡っていました 『デギャアアアアアアア!!デシャ!!デス・デデ!!』 『テェェェェェェェェェェン!!テチャア!!テキャアア!!』 『デッス〜ン、デエッス〜ン、デッスゴボォ!!』 「汚ねえ股開いてんじゃねえ糞蟲!!」 「お〜い「」そっちに子実装が3匹逃げたから頼むわ〜」 「おい殺すな殺すな!!誰が公園掃除すると思ってんだ!!さっさと袋に詰めろ!!」 そう言えば今日は毎月一回行われる定期駆除の日だったっけ・・・なんて考えていたら 『デギャアア!!デスデスデスデス!!デッシャアアア!!』 『デエエエエエエエン!!(チラッ)デエエエエエエエエエン!!(チラッ)』 『デッス〜ン、デエッス〜〜ン、デッス〜ン』 立ち止まった私を見つけた野良実装石達が一斉に駆け寄ってフェンスの向こうで喚いたり媚びたり股を開いてアピールを始めた 言うまでもない、死にたくないから目に付いた私に助けを求めているのだろう 「冗談じゃない・・・」 何気なく呟いた私は糞を投げつけられる前に足早にその場を去りました (まあ・・・あんだけ馬鹿なら上手く行けば鉢替えで生き残れるかもしれないね・・・) だとしても二度と会いたくない・・・そう思った私は実装石の悲鳴を背に家路を急いだ
1 Re: Name:匿名石 2023/09/12-23:18:20 No:00007958[申告] |
今のご時世じゃ笑えないネタだなぁ |
2 Re: Name:匿名石 2024/05/01-05:56:56 No:00009069[申告] |
あらゆるスクの中で一番イヤなリアリティがある
ただ淡々と銭を稼げるから程度の理屈で実態のない虚業が成立していくっていうのがなんとも言えない生々しさを産んでる |