タイトル:【観察】 実装石の日常 コンビニ袋
ファイル:実装石の日常 45.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:7261 レス数:10
初投稿日時:2010/02/09-23:11:12修正日時:2010/02/09-23:11:12
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 実装石の日常 コンビニ袋




コンビニ袋ほど野良の実装石にとって欠かせない物はないだろう。
ある空き地に住まうこの野良実装にも当然、命をつなぐ必需品だった。


「そろそろ雨が降りそうデスゥ」


さっそく親実装はダンボールハウスから出ると、コンビニ袋を並べてダンボールの上部を覆い、小石を重石代わりに置いた。
雨の日にはよほどの事がないと、この親実装は出歩かない。

……ろくな収穫がない

と経験則から知ってるからだ。
蓄えを3匹の我が仔と一緒に食べると、早々に寝入った。

さて、翌日は雨も止み青空が高く広がっている。
防水に使ったコンビニ袋を下ろして、棒切れに引っ掛けて乾燥するように立てかけておく。
それとは別のコンビニ袋を手に、親実装は仔に見送られて出掛ける。

それほど遠くないゴミ捨て場に到着すると、親実装はゴミ袋を漁りだす。
一つ一つ、慎重に吟味して、そっと開封し食べられる物をより分けて、自分のコンビニ袋へ入れる。
エサを取り出し終われば、ゴミ袋を不器用な手で四苦八苦しつつ、なんとか封をして元通りにする。
ゴミ出しに中年の主婦がやってくると、さっと公衆電話ボックスの陰に隠れた。
主婦は気づいていたが、何事も無いようにゴミ袋を出して帰っていく。

行儀良くしているせいか、近所の住人がこの野良実装に構うことはないのだ。

惣菜の残りやら野菜クズやら賞味期限の切れたコンビニおにぎりやらでコンビニ袋を膨れ上がらせると、
親実装はゴミ捨て場を立ち去った。

もちろんゴミ捨て場をなるだけきれいにした上で。


親実装が帰宅すると3匹の仔実装たちは大はしゃぎで出迎える。
仔らもコンビニ袋には、おいしいゴハンが入っていることを知っているのだ。

早めのお昼を食べ終えると一仕事だ。

食べきれず腐った(野良実装には珍しい豊かさ!)エサを分別し、コンビニ袋へ詰めている。
実はこの親実装、使い込んで痛んだコンビニ袋に不用な物を入れて、ゴミ捨て場で捨てているのだ。
だから住まいである空き地も汚していない。


「お家と周りと自分をきれいにすることが大事デス」


繰り返し、親実装は仔実装に言い聞かせる。

実際、清潔にしていれば大抵の人間は実装石のことなど気にも留めない。
逆を言えば、悪臭を発生させたり、街を汚せば容赦ない 「 注目 」 をひきつけることに繋がる。

ゴミ捨て場から収穫物を運ぶ途中、うっかり新車を汚した他の野良実装が生きたまま解体される光景を、
親実装は忘れることができなかった。かつて住んでいた公園からゴミ捨て場に出掛けたときのことだった。

この一家、少し前まで公園で暮らしていたのだが、生活苦から渡りをしたのだ。
と、言っても数百mだが。


「公園を出たときは、こんなにおいしい物が食べられるとは思わなかったテチ」

「みんなががんばったからデス、みんなが」


仔に言いかけて親実装は涙ぐむ。

飢えた公園を脱したとき、仔は7匹いたのだ。
自動車に1匹がひき潰され、1匹が通学途中の小学生に踏み潰され、1匹は野良猫に引き裂かれ、1匹は衰弱死した……。
それでも生活が軌道に乗れば、住宅地の空き地は快適な暮らしができた。

公園から離れているからか、ゴミ捨て場で奪い合うライバルが不在なのだから、選り取り見取り。
しかも今の所、人間は野良実装の一家の存在を黙認している。

だからこそ、今の暮らしを守るため仔実装には「ルール」を厳しく教えていた。
何かを汚したり、ニンゲンに近づかないこと。
この空き地こそ一家にとっては約束された土地であった。

唯一、困ったことがある。

水が無いことだった。




*************************************





「お外は広いテチ」

「わんわんテチ! わんわんテチ!」

「ママァ! もっと揺らしてテチーーーー」


コンビニ袋の中から3匹の仔実装ははしゃぐ声が聞こえる。
親実装が腕からぶら下げたコンビニ袋、辛うじて目から上だけを出して3匹が口々に騒いでいるではないか。

体を洗うには他に方法が無かった。
親実装は仔実装をコンビニ袋に入れて、近くの小さな小さな農業用水路まで出かける。
空き地からは100mもない距離なのだが、仔実装自身を歩かせるにはやはり危険だと判断していた。

用水路には小さい階段がコンクリで作られているので、そこへ降りる。
服を脱がせた仔へ順番にプラスチックのコップで、水を頭からたっぷり注いでやる。

時間をかけて汚れを落とし、時には服まで洗濯するほどだ。

帰りは洗って乾かしたコンビニ袋に入れて運ぶのできれいなまま、仔実装はダンボールへ戻れるというわけだ。



今日も体を洗っての帰り道、コンビニ袋の中から4女はふと口にした。


「ママもこうしてママのママに運んでもらったテチ?」

「ママは公園の噴水まで歩いたデス、あのころは公園も豊かだったデス、ニンゲンさんがゴハンをたくさんくれたからデス」


だが今はもう公園に人の姿は稀で、実装石同士が奪い合い殺しあう光景ばかりとなった。


「ママ、私たちが大人になっても公園には住めないテチ」

「……ママにはわからないデス、その時になったら住めるかも知れないデス」


実装石がことさら公園に住みたがるのは、人間恋しさからだろうか。
この一家もできれば公園で、と思っている。


「でも公園に戻れなくても大丈夫なように、ママがお前たちを育てるデス」

「がんばるテチ」

「私もテチ」

「みんながいれば、どこでも暮らせるテチー」




*************************************




雑草が生い茂り、とぼしい木々がちらほらとあるだけの空き地で、親実装は仔実装を連れて歩き回る。
携えるコンビニ袋は仔実装に集めさせた草や花や実で膨れ上がった。


「これが食べられるデス、これも葉っぱがゴハンになるデス……」


ダンボールの前に帰ると、親実装は一々中身を出して仔実装に教え込む。
食べられる草や芽などを。


「さ、食べてみるデス」


うながされてまずは4女が口に含む。 
とたんに泣きそうな顔をするが、きっと親実装が見ると、無理やり飲み込んだ。


「4女は良い仔デスー」


とうれしそうに頭をなで回す。
5女は葉っぱを見せて親実装に聞いた。


「前も食べたけど、おいしくないテチ。 ママが持ってくるゴハンのほうが好きテチ」

「そのとおりデス、お前は賢いデス」


親実装は5女の発言を認め、それでも言った。


「でもママがいつでもゴハンを持ってくれるとは限らないデス。
 お前たちが大人になっても、いつでも自分でゴハンが手に入るとは限らないデス。
 だから、お腹が減っても大丈夫なように、教えておくデス」


じ、と親実装の顔を見つめていた仔実装。
せっせと食べられる植物を覚えようとがんばり始めた……。

親実装は木の実がたくさん実れば、できるだけコンビニ袋をもって集めることを強調した。
種類にもよるが、何しろ木の実は保存がきく。


「ママのママはこれで生き延びたデス」


そして一家は採集したものをコンビニ袋に入れて貯蔵した。
食べなれるよう、ゴミ捨て場から拾ってきたものと混ぜて、少しずつ食べていく。




*************************************




ある日、仔実装たちはいつものように、親実装が右腕に通したコンビニ袋の中でゆれていた。
だがいつもよりははしゃがない。
コンビニ袋からの光景を惜しむように、周囲を眺めている。

少し前だ、親実装が仔実装に言ったのは。


「次からはお前たちが自分で歩いて行くデス。 もう体は丈夫になってきたデス、ママが見てるから安全デス」


コンビニ袋での送迎はもうしない、と言うのだ。
ゆれる感触を楽しんでいた仔実装たち、さすがに反発した。
だが大人になるため、と言われれば納得するしかない。
彼女らもその程度の分別を持ち始めていた。

だからこそ哀愁をこめた眼差しで仔実装たちはあらゆる風景を見ていた。
もう二度と眺めることのないと、知ってるからこそである。


「お前たちも少しずつ大きくなっていくデス、
 いつかママのように大人になるデス。
 外を歩くのは危ないけど、注意すれば大丈夫デス、
 ママも、ママのママもこうやって歩いて、ゴハンを集めたりしてきたデス。
 お前たちが大人になって、
 もし、あの空き地に住めなくなったら、
 遠くの公園まで歩いて行くしかないデス。
 私たちは歩いてゴハンを探し、
 歩いてダンボールを見つけ、
 歩いて住める場所まで行かないといけないデス。

 歩いて、歩いて、歩くデス。

 そのとき、このコンビニ袋がとっても大切デス。

 大切なものを運ぶデス。 ゴハンや、生きていくための道具、タオルとか、ペットボトルや、大切な仔を」


しんみりと3匹も聞き入る。


「さ、ついたデス」

用水路では静かに体を洗う一家の姿があった。
今日は時間をかけて、特に丹念に汚れを落とす。
あまり時間がかかれば注意する親実装も、今日は何も言わず見守っている……。


帰り道、一家最後のコンビニ袋に入っての移動。

神妙な仔実装たちを見るでもなく、親実装が語る。


「……………いつの日にか、お前たちも大人になって自分の仔を運ぶかも知れないデス。
 その時、今日の光景を話してやって欲しいデス………」

たちまち明るい声で仔実装らが応えた。


「ママのことも話すテチ」
と4女。

「私は妹ちゃんたちのことも話すテチ」
と次女。

「私は、私たちはたくさん歩かないといけないお話をするテチ」
と5女。

声を出さず笑みを浮かべる親実装。
余韻にひたるように一家は静かだった。

そんな一家と、向こうから歩いていた若い女がすれ違う。

すれ違ったが、数mも行くといきなり引き返して親実装の腕から仔実装の入ったコンビニ袋を奪う。
女がこれからする行為には、特に理由も事情も何もなかった。


「デ」

「ママ?」


女は両手に掴んだコンビニ袋を一瞬で持ち上げると、右足で踏み込みつつ、全身の力でそれを道路にたたきつけた。



「憤(ふん)!」


「テベジュアッアッ!」






コンビニ袋はアスファルトの上で、もそもそと、しばらくの間だけうごめいていて、親実装が黙ってそれを見下ろしている。

ふと、見上げると、若い女はすでにずっと彼方を歩いていく。







「……………………………………………………………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………………………………………………………」








親実装が震える手でそっとコンビニ袋を開くと、中から訳の分からない肉塊と肉汁があふれ出てきた。

END

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1 Re: Name:匿名石 2014/09/14-02:25:48 No:00001335[申告]
声を出さず笑みを浮かべる親実装。
余韻にひたるように一家は静かだった。

そんな一家と、向こうから歩いていた若い女がすれ違う。

2 Re: Name:匿名石 2014/09/14-02:27:18 No:00001336[申告]
女は両手に掴んだコンビニ袋を一瞬で持ち上げると、右足で踏み込みつつ、全身の力でそれを道路にたたきつけた。

「憤(ふん)!」

「テベジュアッアッ!」


コンビニ袋はアスファルトの上で、もそもそと、しばらくの間だけうごめいていて、親実装が黙ってそれを見下ろしている。

ふと、見上げると、若い女はすでにずっと彼方を歩いていく。


「……………………………………………………………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………………………………………………………」




親実装が震える手でそっとコンビニ袋を開くと、中から訳の分からない肉塊と肉汁があふれ出てきた。
3 Re: Name:匿名石 2017/08/01-20:23:05 No:00004809[申告]
この、実装石家族のバックボーンを丁寧に描写した上で一瞬にして命を散らさせる展開、大好き。これぞ実装石スクという無情感が最高
4 Re: Name:匿名石 2017/08/09-07:00:44 No:00004824[申告]
仔実装なんぞ殺されて当然。
5 Re: Name:匿名石 2017/08/11-15:07:34 No:00004827[申告]
しかしこの女やべーな
6 Re: Name:匿名石 2017/08/13-02:27:03 No:00004828[申告]
いやーw俺らでもやるだろう?
人間様の道に実装が徘徊してたら、絶対排除するだろww
7 Re: Name:匿名石 2023/03/24-10:06:12 No:00006970[申告]
死骸処理してねえ時点で人間の糞虫でしかねえよこの女
8 Re: Name:匿名石 2023/09/23-21:47:04 No:00008007[申告]
コンビニ袋の中が一瞬でごちそうに早変わりデスッ!?
9 Re: Name:匿名石 2023/10/19-03:03:54 No:00008129[申告]
公園から出て当たり前のように生活してたらそりゃそうなるよ
10 Re: Name:匿名石 2023/12/24-15:04:30 No:00008556[申告]
手さげのプレミアムが手さげの棺桶になっちまったなあ!?
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