タイトル:【愛】 実装かぞく20
ファイル:実装家族020.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2094 レス数:3
初投稿日時:2009/11/22-18:13:22修正日時:2009/11/22-18:13:22
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第20話「デさん4」


妹の巴に買い与えた実装石。
先天性の弱視を持った実装石。その名はデスアといった。

眼鏡による視力の矯正により、飼い実装らしい生活を送っていた矢先のこと。
巴のアパートの管理人に、デスアが見つかってしまったのが、1週間前。
そのため、デスアは一時、俺の家へと預かることになった。

「おーい、デスア。飯だぞぅ」
「………」

デスアが、俺の家へやってきてから1週間。
デスアは、居間で積み木を組んで、1匹で黙って遊んでいた。

耳がピクリと動いているため、俺の声には反応しているようだったが、俺の言に対するアクションはない。
巴と別れて暮らし始めてからは、始終こんな様子だった。
ま、腹が減ったら喰うだろ。

「……テスン」

デスアは溢れる涙を眼鏡を外して拭いながら、崩れる積み木に対してテーと鳴いた。


◇

巴の話では、大家のほとぼりが覚めるまで、という話であったが、
元々アパートがペット禁止なのに、ほとぼりも糞も何もない。

デスアのために、ペットが飼えるアパートに越すことも話し合ったが、
半年後に迎える短大卒業後まで、なし崩し的に俺が面倒を見る形となった。
俺の家は借家であるが、古い木造の2階建て。契約上、ペットも飼うことも可能だ。

巴は、今この不況下、鋭意就職活動中。
短大出の巴にとっては、辛い状況である。

その代わり卒業までの間、巴は月に数回、デスアに会いに俺の家まで来ることにさせた。
それぐらいの事はして貰っても、罰は当たるまい。

「テー」

眼鏡越しに、壁の染みを食い入るように見るデスアを見ながら、俺は溜息をつく。
まぁ半年の我慢だ。

そうことになった。

◇

カレンダーに丸印がつけている。
その日が近づくに連れて、デスアは動きは活発になっていく。
実装石でありながら、暦という概念を理解しているのか、その丸印の前日は、お祭り騒ぎのようだった。

「テスー!! テスー!!」
「ああ、わかった。わかった。明日だな」
「テスゥゥゥ!! テスゥゥゥ!!」
「わかったから、早く風呂に入って寝ろ」
「テスァ!! テスァ!!」

丸印がつけられている日こそ、デスアにとっての楽しみの日である。
そう巴が、俺の家へ遊びに来る日だった。


−翌日−

「おーい。デさん。巴が遊びに来たぞー」
「テスウゥゥーー!! テスゥゥゥーー!!」(トモエー!! トモエー!!)

巴が訪れると、デスアは一直線へ玄関へと駆けていった。
玄関前には巴が、お土産を持って立っている。

「デさん、久しぶり。少し大きくなったんじゃない?」
「テスァ!! テスァ!!」(ウニューテス!! ウニューテス!!)

ぴょんぴょんと飛び跳ね、巴にじゃれつくデスア。
それは、俺には決して見せない表情だった。

「デさん。今日はいい物持ってきたんだよー」
「テス!? テステェースッ!!」(テェ?ウニューテス?)

デスアの表情が、生き生きとしている。
頬を赤らめながら、耳をピクピクと瞬かせて、巴の鞄の中を眼鏡越しで凝視していた。

「ほぉら。お出掛け用のポーチだよ」
「テテッ!?」
「ほぉら、つけてごらん」
「テェェ!! テェェ!!」(ウニューテス!! ウニューテス!!)

興奮のパンコン寸前とは、このことだろう。
デスアは、月に何度かのご主人様との再会に、喜びを体全体で表現していた。

「……………」

その様子を伺う俺は。まさしく傍観者だった。

二人は、互いに見つめ合いながら、嬉々として語り合っている。
言葉とかそんなんじゃない。種族とかもそんなんじゃない。生き物として、互いを認め合う何か。
その基準が何かは知らないが、その何かを越えた繋がりが、この二人にはある。

俺にはそれが何だかわかるはずもなかった。
2人の間に、俺が入るべき居場所はどこにもない。
それ故、俺は傍観者として、その二人を眺めるしか術はないのだ。

◇

時が経つのは早いもの。
楽しい時間であればあるほど、そう感じるものである。

「テスァァーーッ!! テステスゥゥゥーーッ!!」

デスアにとって、巴との蜜月の時間はあっという間に過ぎ去っていく。
毎度の事だが、巴が帰る時は、一悶着が起きた。

「デさん。また来週来るからね。ね」
「テスァァァ!! テヂヂィーーッ!!」

巴のスカートを引っ張り、巴を必死に引き留めようとする。
大声で泣き、喚き、ここを去る巴に対して、必死に自分の存在をアピールする。

「テスッ!! テスァッ!! アッ!! アッアッーーッ!!」

自分が哀しい。寂しい。可愛そう。そんな自分を必死にアピールする。

「テチュゥ〜〜ン♪ チュゥ〜〜ン♪」

ほら。可愛い。こんな可愛い自分。そんな自分がこんなに頼んでるの。
右手を口元に添え、お決まりの媚びポーズを何度も繰り返す。

「テヂヂィーーッ!! ヂィーーッ!!」

最後には、下着を大きく膨らませ、自虐的にその糞を顔に塗りたくる。
こんなに可愛い私が、こんなに可愛そう。見て。見て。可愛そうな私!

「ごめんね。デさん」
「アッーー!! アッアッーー!!」

壁に頭を打ち据えたり、舌を大層に噛み、口周りを血だらけにして叫ぶも、
その甲斐虚しく、巴は帰路へとつく。

「テチュゥ〜〜ン♪ テチュゥ〜〜ン♪」

巴が帰った後も、ゆうに30分は玄関の扉の前に立ちすくみ、
ぺしんぺしんと扉を叩き、甘い声を何度も何度も出し続けるのだった。

そして、何も反応が返ってこないと得心すると、デスアは泣き腫らした目で、とぼとぼと洗面所へ行く。

そして下着を脱ぎだし、下着に溜まった物体を、トイレの砂地の上へボトリボトリと捨てる。

「テー」

涙に濡らした目で、恨めしそうに俺の顔を見上げて、デスアは呻くのだった。


◇

「今週は、巴来れないんだってよ」
「テッ!?」
「何だか、就職活動が忙しくてな」
「テスァ!!」

この頃からリンガルというものを使うようになっていた。
知能指数が幼稚園児なみの実装石に、理路的な説得をするには、リンガルなしでは不可能だった。

『巴、明日、来ない。わかるか?』
『ウソテスゥ!! トモエーは来るテスッ!!』
『嘘言ってない。インデアン、嘘、つかない』
『ウソテスゥー!! トモエーッ!! トモエーッ!!』

デスアは、巴から貰ったポーチを手に、玄関に向かって駆け出す。

「こら。夜遅く何処に出掛けるつもりだ?」
「テスゥーーッ!! テスゥーーッ!!」

デスアは、テスンテスンと泣きじゃくりながら、外行きの靴に履き直し、玄関をぺしんぺしんと叩く。

『どうするつもりだ?』
『トモエーッ!! 会いに行くテスゥーー!! トモエーーッ!!』
『あのな、巴の家まで、何十キロもあるんだぞ』
『関係ないテスッ!! 会いに行くんテスゥーーー!!』

「はぁ…」

俺はリンガルのスイッチを切り、幼稚園児並の知能への説得を施すのを諦めた。

「ほら。勝手に行け」
「テェ!!」

ガラリと玄関を開けると、デスアは高い声で「トモエ、トモエ」と叫びながら、
暗がりの夜道を駆けて行くのだった。

「やれやれ」

俺はコートを手にして、玄関の扉に鍵をかけて、デスアの後をつける。
預かっている手前、放っておくこともできまい。奴が得心するまで、付き合ってやるしかないのだ。

30分後。
俺の家の3件隣りの木造アパートの一室の前で、扉を必死に叩くデスアの姿があった。

『トモエーッ!! 会いに来たテスゥーー!! トモエーッ!!』(ぺしん。ぺしん)

訝しそうな顔をした親父が、扉から顔を出すと、デスアはブリリッと糞を漏らした。


(つづく)

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1 Re: Name:匿名石 2021/04/08-21:43:55 No:00006325[申告]
とても微笑ましくて、面白く読ませてもらった
…でも、ここで終わりなのか…orz 残念orz
2 Re: Name:匿名石 2021/04/08-21:44:17 No:00006326[申告]
とても微笑ましくて、面白く読ませてもらった
…でも、ここで終わりなのか…orz 残念orz
3 Re: Name:匿名石 2023/10/26-17:03:15 No:00008162[申告]
ところどころ勘違い虐待してるのに一切謝らないクソ主すぎる・・・
おとなり実装とデの前日譚いらんかったかな、もう少し拾ってきた実装との話が見たかった
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