タイトル:【観察】 実装石の日常 蛆実装
ファイル:実装石の日常 35.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:10402 レス数:8
初投稿日時:2009/02/06-23:15:59修正日時:2009/02/06-23:15:59
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「行って来るデスー」

……ママが今日もお出かけするレフ、おっきいお姉ちゃんとちっちゃいお姉ちゃんがお手手を振るレフ

……私も頑張って一緒に振るレフ




 実装石の日常 蛆実装



野良実装の一家は住宅地のある草木が生い茂った空き地の、奥深くに住み着いていた。

親実装は慎重な性格であったので、ゴミ捨て場でエサを入手しつつ、
汚さないよう細心の注意を払ってきたので近所の住民もほとんどその存在を知らない。

家族の構成は小さい。仔実装一匹、親指一匹、そして蛆実装が一匹であった。

親指が蛆実装を抱きかかえてあやしていると、仔実装がダンボールに置かれた小枝を掴む。



……ママがお出かけするとおっきいお姉ちゃんは、棒切れもってお家の周りを見に行くレフ



ダンボールの周囲の茂みを巡回してくる仔実装。

「テチャ! テチャア!」

何かと格闘するような物音と掛け声。

しばらくすると、バッタを串刺しにして帰ってきた。

「お見事レチ、お姉ちゃん!」

蛆を抱えた親指が歓声を上げると、仔実装は誇らしげに笑う。

「ママが帰ってくる前に準備するテチ」

「するレチ」

「するレフ」



……大きいお姉ちゃんはおいしい虫を捕まえて来てくれるレフー  かっこいいレフ



ダンボールから半径数メートル(仔実装にとってはかなりの距離)を仔実装は小枝片手に巡回しているのだ。

ムカデのような危険な害虫を追い払い、食用になるものならば仕留めて持ち帰る。
週に2回くらいではあるが仔実装ですでに収穫があることは大きい。

親指と蛆実装が見守る前で、仔実装はかすかに生きていたバッタを殺すと、小枝から引き抜いておく。
獲物は小枝とともにダンボールの中へ仕舞いこまれた。

「お姉ちゃん、蛆ちゃんだっこして欲しいレチ」

「わかったテチ〜」

仔実装が親指から蛆を受け取ると、高々と持ち上げてやる。 
さきほどより少し高くなったからか、蛆も嬉しそうだ。

しばらくすると、床に置いてやり、そっとお腹を撫でてやる。

「レヒャッレヒャッ♪ レヒャッレヒャッ♪ レヒャッレヒャッ♪」

笑って喜ぶ蛆実装。眺めている親指も、撫でている仔実装も笑顔だ。


それもひと段落すると、仔実装がダンボールの片隅から卓球の玉を持ち出す。

「蛆ちゃんは少し見ててテチ」

「レフ〜」

上機嫌で親指に応える蛆。

仔実装と親指が玉を蹴飛ばす光景をながめ、時折尻尾を振る。



……お姉ちゃん達楽しそうレフ。 私も楽しいレフ。



でもできれば自分も参加したいな、と思う蛆であった。

体格さを考えて仔実装が力加減している遊びも、親実装の帰宅で終わりを告げた。

「ただいまデスー」

今日も十分な収穫だったのか、コンビニ袋は膨らんでいた。

「お帰りなさいテチ」

「ママ、お帰りレチ」

「レフ〜〜〜〜」

「さっそくゴハンにするデス、準備するから少しだけ待っててデス」

横置きにされたダンボールの中から、三姉妹は親の食事の準備風景を眺めていた。



……ママ、いつ見てもカッコいいレフ



親実装は平たい石の上にリンゴの大きなかけらを置くと、プラスチックの破片できれいに切り分けていく。

そしてリンゴのかけらを地面に広げたビニールに並べていった。



*************************************



今日の昼食はリンゴであった。
いつもなら仔実装が仕留めたバッタも食べるのだが、リンゴは腐りやすく、また十分な量があるのであとで食べることにしたのだ。

「おいしいテチー」

「ママ! ママのリンゴはおいしいレチッ」

「まだたくさんあるデス、たくさん、たくさん食べるデス」

言いながら親実装は抱えた蛆実装に噛み砕いたリンゴを口移しで与える。



……今日のゴハンもすごくおいしいレフ。 ママのゴハンはなんでもおいしいレフ〜。



十分な質と量の食事を終えると、一家はダンボールの中に戻った。
食事を外でしたのは、ダンボールを果汁で汚さない親実装の知恵である。
仔実装と親指がダンボールの中で、もたれるように転がって眠り始めると、親実装は蛆のお腹を撫でてやった。


……ママはプニプニまで上手レフ。 世界で… 一番…


心地よく蛆実装は眠ってしまう。

その寝顔を優しげに見つめていると、そっと産着を脱がせ、体が冷えぬよう小さいが清潔な布で包んでやる。

産着と水の入ったペットボトル片手に親実装はダンボールから少し離れた場所へ移動すると、大きな石の上に産着を置き、水をかける。
石のそばにある木片で根気よく、丁寧にたたき、また水をかける。
洗濯棒代わりの木片をおくと、ぎょっとしぼって水気を落として帰っていく。

この親実装は水不足の中でも労を惜しまず洗濯をしているのだった。



……ママが帰ってきたレフ!



親指に抱かれてダンボールの前で蛆が待っていた。

「もう起きちゃったデスー?」

「蛆ちゃんも起きたから一緒にママを待ってたレチ」

「レフーーー」

茎の太い雑草を柱代わりにして、ビニール紐を空中に渡してある。
そこへ肌着を拾ってきてあるクリップで固定する。

「まだ乾くまで時間があるデス」

「蛆ちゃんが冷たくならないよう、私がダッコしてるレチ」

「お前は優しい子デスー」

褒めてやり、親指の頭を撫でてやる親実装。

親指はうれしい顔だ。

それを見た蛆もうれしげだ。


……お洗濯したおべべが動いてるレフ きれいレフ


紐に吊らされた産着がそよ風になびく。

親指に抱かれた蛆は楽しそうに眺めている。


ダンボールの中では親実装が清掃をしていた。
チリやらゴミを集め、離れた場所へ新聞紙で包んで運んで捨てる。

「ふう、よく寝たテチ」

仔実装もようやく起きてきて、妹たちと合流した。



*************************************



「……そうして、遊んでばかりいた実装石は腑ロンティアさんに可愛がられて死んでしまったデス。 
でも、いつもがんばっていた実装石は、たくさんの食べ物のあるお家に隠れて無事に長生きして、たくさん仔を産んで暮らしたそうデスー」

家事が一段落すると、親実装は仔たちにお話を聞かせてやる。
楽しませるだけではなく、教訓を含んでいるのは人間の物語と変わらない。
話が終わると仔たちは興奮して口々に言い合う。

「わ、私は絶対ニンゲンさんにウンチを投げたりしないテチ!!」

「私もお愛想なんかしないレチ!」

「私はなにもしないレフー!」

「みんな正しいデスー、ニンゲンさんにねだったりしても良い事はあまりないデス。 離れて暮らすのが一番デス……」

人間と接触したばかりに惨たらしい最期を迎えた仲間を見ている親実装は、心底人間へ近づくことを避けていた。
ほんの気まぐれで蹴り殺される程度ならまだしも、我が仔が残忍に殺されるのだけは許容できない。

「じゃあ、そろそろ寝るデス……」


親実装、仔実装、親指、蛆の順番で寝転がる一家。

いつもならすぐに寝つく蛆であるが今日は違うようだ。



……今日も楽しいことばかりだったレフ。 ママのお話楽しいレフ。 玉ころがし見てて楽しいレフ。 大きいお姉ちゃんかっこいいレフ。

……ゴハンおいしかったレフ。 プニプニも最高レフ。 小さいお姉ちゃんのダッコ気持ち良いいレフ ……。

…

……

………




*************************************



親実装もたまに休日を設けていた。
エサが豊富な場合は体を休めて英気を養い、将来に備えているのであって、だらけているのではない。

その日も豊富なエサに恵まれていたので、ゆっくりと休んでいた。偶然では在るが、人間にとっても日曜日という休日であった。

一家はダンボールの中でまどろんでいたが、何か倒れる音がした。



……なにか音がしたレフ



聞こえても何も考えない蛆とは違い、親実装は跳ね起きると、自分の身長ほどもあるアルミのパイプを掴んだ。

「……お前たち、ママが戻るまで静かにしてるデス」

ただならぬ緊張をしている親実装に仔実装と親指は声も出さずうなづいた。

親実装はダンボールの蓋を外から慎重に閉めると、武器を握って行く。



……ママがお出かけするレフ、でも今日はお出かけしない日と言ってたレフ?



蛆実装は何も分からず見送った。

仔実装と親指が緊張しつつ待っていると、

「デジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

親実装の悲鳴とも掛け声とも思える発声が聞こえる。

直後、ダンボールの蓋が乱暴に開けられ、頭部から出血している親実装が叫んだ!

「実蒼石が来たデス!!!! 何も持たずにみんなは例の場所へ走るデス! 食べ物は持たなくて良いデス!」

硬直した一瞬後、親指は蛆を抱え上げ、仔実装は親指の肩を掴んでダンボールを飛び出す。

襲撃を受けた際の手順は決められており、練習までしていたのだから体が勝ってに動いてくれる。



……なんだかわからないレフ、でもなんだか楽しいレフ!



家族の危機感も他所に、蛆は楽しんでいた。


  なぜなら彼女は危険というモノを理解できないからだ。


姉妹が逃げ出した直後、実蒼石がハサミを鳴らしながら親実装へ近づいてきた。

「抵抗するとは思わなかったボクゥ!」

アルミのパイプによる意外な反撃で手間取ってしまい、逆上したらしい。

親実装が実蒼石へ震えながら立ち向かう姿が、親指の肩越しに蛆は見た。



……ママ! かっこいいレフ!



「テ、テチャア!?」

仔実装が叫ぶ。

姉妹の前に、また別の実蒼石が現れたのだ。ハサミを開閉して音を立てながら歩いてくる。

「害虫は一匹でも見逃さないボク!」

全身全霊で目の前の実蒼石に対峙していた親実装、新手に驚きそれでも叫んだ。

「何してるデス! 二手に分かれろデーーーーーーースーーーーーー」



        <少しでも生き残るため>


親実装が日ごろから姉妹に言い聞かせたことだ。

だが。

「ママも戦ってるテチ! 私だって戦えるテチ」

仔実装は隠し持っていた小枝(虫を狩るときに使っているもの)を突き出した。

「私がやっつけてやるテチーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

かたわらの親指は天敵が目の前に現れたことで恐慌し、震えていた。すでにパンコンまでしている。



……小さいお姉ちゃん寒いレフ? ならおうちへ帰るレフー



のどかに考える蛆とは無関係に、命を賭けて叫ぶ仔実装は、小枝を突き出して飛び出す。

興奮するでもなく、実蒼石はハサミを動かした。

小枝ごと左腕の半分があっさりと抵抗なく切断され地面の落ちる。

仔実装は立ち止まると切り落とされた腕と残された腕を交互に見た。



そして口を最大限に開ける。

「テチャアアアアアアアアアアアアア!!!!」

傷口を押さえてしゃがみ込む。

「ママ! お姉ちゃんが痛い痛いレチィィィ!!」

姉の負傷を我がことのように心配して泣き叫ぶ親指。

一瞬、振り返った親実装の足が飛ぶ。

「私に隙を見せるとはずいぶん余裕があるボクゥ!!」

激昂しているが、まずは逃がさないよう足を切断する一番目の実蒼石は賢い。

「デジャアアア!」

絶叫して転倒する親実装。



……かっこいいレフ! なんだかかっこいいレフ!



家族の重症も危機も蛆実装にとっては映画のよう刺激でしかなかった。

「腕!!! 腕がないテチィ!!!」

歯を食いしばり、だらだらと血涙を流し、痛みを訴える仔実装。

そんな仔実装へ二番手の実蒼石が歩み寄る。

「腕ぇ……。 私の腕がなぁぁぁぁいテチィー」

あっさりと戦意喪失した仔実装に、実蒼石は静かにハサミを繰り出す。

「テチャアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

一層悲鳴をあげる仔の足元には右腕が転がっていた。
のけぞって、絶叫する仔実装の姿に、ガタガタと震えながらあらゆる穴から体液を漏らす親指。

親指が逃げ出したらすぐに追跡できるよう、警戒しつつ二番手の実蒼石がハサミを掲げた。

「待ってテチィ」

仔実装が呼吸を整えて激痛にさいなまれながら、涙を溢れさせた瞳で実蒼石を見上げる。

「私の腕がないテチィ、すっごく痛いテチィ」

「長女、長女逃げるデスーーーーー!  デジャア!?」

親実装の残された足が切断されて空中を舞う。
一番手の実蒼石は確実に目標を仕留めるようだ。

口を大きく開けて叫ぶ仔実装。

「腕が痛いテチャアア!」

無言でハサミを振り下ろす二番手。



……すごいレフ! 大きいお姉ちゃんの頭が転がっていくレフ! 赤いのと緑いのが飛び散ってきれいレフー! 



「小さいお姉ちゃんも見るレフ! すごいきれいレフーーーー」

口から涎と泡を垂れ流しながら、親指は震え上がっていた。なんとか親のほうへ振り向く。

「ママァ、お姉ちゃんの頭が取れてるレチィ…」

助けを求められた親実装の手からパイプが弾き飛ばされ、ほとんど同時にハサミの鋭い先端が腹に突き刺された。

地面へ親実装を押し倒しハサミを突き刺しながら、体重をかける実蒼石。

「野良実装にしては良くやったボク、見事だったボクゥ。 でもそろそろ退場の時間ボクゥ」

構わずにかっと目を見開き、声をあげる親実装。

「次女ぉぉぉぉぉぉぉ! 走るデス! ママとお姉ちゃんの分まで走るデスーーーーー!!!」

二番手の実蒼石はじっと背後から親指を見ているだけだ。

「走るデス! 命の限り走るデス! 少しでも、一瞬でも生き残るデース!」

ガタガタ震えながら親指が振り返ると、何も言わず実蒼石が見下ろしている。

「次女っ! ママの分まで…デジャアッ!」

「退場の時間と言ったはずボク」

深々とハサミが突き刺さり、親実装は死んだ。
実蒼石は死骸からハサミを引き抜くと、振って血肉を落とす。

その光景に、一歩、親指が歩き出した。



……小さいお姉ちゃんどうしたレフ? なんだか…へんレフ



不思議そうに見つめる蛆実装に、仔実装は泣きながら笑顔を作る。

「少し今からお姉ちゃんと一緒に走るレチ」

走る、と言うよりやっと歩くような速度で、親指は逃げ出した。



……すごいレフ、お外でこんなに出てるレフ!



今までに無い遠出に蛆実装は大喜び。

その顔に親指が落涙した。

「蛆ちゃん、これがお外のせ」

ハサミが閉まる音と同時に親指の頭部が斜めに切断され転がり落とされ、その断面から派手に血しぶきを撒き散らしつつ彼女は絶命した。



……すごいレフ、お外の世界レフ



頭部を失いつつもまだなおも、親指の体は数歩前進し、まるで蛆の体を傷つけないように膝を折って地面に降ろす。

「レフ?」

やっと蛆は親指の顔を見て、斜めに切取られた頭部に気づく。



……小さいお姉ちゃん、すごいレフ。 なんだかわからないけど、すごいレフ!



レフー!と興奮する蛆は親実装を見る。



……ママ、なんで寝てるレフ? 小さいお姉ちゃんがなんだかすごいかっこいいレフ、見るレフー



次に仔実装のほうを見た。



……大きいお姉ちゃんもなんでお昼ねしてるレフ?



どこまでいっても理解できない蛆は首を傾げるばかり。

その蛆を挟むように、一番手と二番手の実蒼石が近寄る。





……ジャキンジャキンってすごいレフ、すごいかっこいいレフ。 きれいなのが近づいてくるレフ。 ジャキンジャキンが近づいてくるレフ

……きれいなのが近づ


END

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1 Re: Name:匿名石 2018/05/31-03:30:54 No:00005280[申告]
ああ、無常。だがそれがいい。
2 Re: Name:匿名石 2018/11/22-23:00:02 No:00005676[申告]
実蒼たちの背景に言及してくれればなお良かった
飼い主や駆除業者の命を受けて、町に隠れ住む実装を
見敵必殺しにきたんだろうけど
3 Re: Name:匿名石 2023/06/11-23:18:01 No:00007283[申告]
実蒼のおかけで一気に陳腐になったなぁ……残念
4 Re: Name:匿名石 2023/06/30-12:59:10 No:00007394[申告]
やっぱ蛆ちゃんは無駄な知恵とかない方が幸せに生きていられるな
突然の一家全滅だけど最後まで悲しい事を理解出来ないまま逝けた蛆ちゃん…良かったね
5 Re: Name:匿名石 2024/01/16-19:27:22 No:00008618[申告]
観察だから自然に死んだり生きたりするのは面白いんだけど、蒼いのいらないんだよなー
6 Re: Name:匿名石 2024/02/03-23:26:33 No:00008680[申告]
>観察だから自然に死んだり生きたりするのは面白いんだけど、蒼いのいらないんだよなー

同意、あんまり派生は好きじゃなんだ…。
7 Re: Name:匿名石 2024/02/04-07:59:25 No:00008681[申告]
他実装、同類の癖にやたら可愛い賢いサイコーと持ち上げられるのが不快なんだよな。
8 Re: Name:管理人 ◆Q8ffyaYxEg 2024/02/05-09:45:33 No:00008683[申告]
要る要らないは管理人判断します
感想のつもりで自治を行わないように
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