タイトル:【哀】 夜空に銀河を映せ
ファイル:夜空に銀河を映せ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2806 レス数:1
初投稿日時:2008/08/14-14:02:08修正日時:2008/08/14-14:02:08
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夜 空 に 銀 河 を 映 せ


朝、いつも利用している虐待仲間が運用している掲示板に気になる書き込みを見つけた。
そこには実装石の偽石が、高値で取引されていることが書かれていた。

もちろん、普通の偽石にはなんの価値もないのは皆さんもご存知のことと思う。
色は汚く濁った緑色であり、実装石の体内か培養液から取り出してしまえば直ぐに乾燥して
チョークのようにもろくなってしまうようなものに需要などあるはずがない。

ただ、ごく稀に翡翠の如く透き通るような緑色の偽石をもつ実装石がいるというのだ。
珍しさもあいまってへたな宝石よりも高い値段で取引されているという。

もっとも、なぜその様にきれいな偽石ができるのかは謎であった。
ある者は実装石に深い愛情を注いだ結果として、石が浄化されたのではないかと言ったが
野良実装のなかでも最底辺の糞蟲からもきれいな偽石が採れたことから上記の説は否定された。

そのためニートな虐殺派などは、趣味と実益(金目当て)から野良実装を片っ端から殺しまくったので、
我々虐待派にとっては虐待の対象の確保が困難になるといった深刻な問題が生じている。

ただ、虐待派のなかにも色々実験している者もおり、ライトな虐待を24時間絶え間なく行うことにより
偽石に微細なキズを多数つけることに成功したという。
その偽石はオパールの様な輝きをはなっていたとのことだが、証拠が無く噂の域を出ることはなかった。

「ボス。朝ごはんができたデスゥ。」

背後からしわがれた声がする。

振り向くと割烹着姿の”ツル美”が立っていた。

「おう、今行く。」

返事をしてPCから離れる。

ツル美は俺が以前に虐待していた糞蟲が8番目に生んだ子供だ。
親実装への絶え間ない虐待の影響のせいか、その顔はジャガイモの如くひどくデコボコしている。
左右の目の大きさも違う上、濁った色をしていて遠くはよく見えないようだったし、口も全部の歯が
むき出しになっているので、まるでホラー映画にでてくるクリーチャーのようだ。
俺は無表情に近い実装石が虐待によって苦悶に醜く歪む顔を見るのが無上の喜びであるが、最初から醜いと
虐待する気も失せる。

しかし、なにより俺の興味を引いたのは醜さの代償ではないだろうが知能が極めて高く、一度教えたことは
ほぼ間違いなく行うことができたし、文字を教えたら自分で本を読んで学習する程だ。
料理などはN○Kの番組をみて覚えたりして大変便利なところもあるので、今では家事全般を任せるように
なっていた。

一通り家事が済むと、後は特に用事が無い限り自由にさせていた。
ツル美は本を読んだり、庭の草木に水をあげたりして日がな一日をすごしていた。
なかでも一番のお気に入りは縁側から見える夜空を眺めることだった。
でも街の煌々たる灯りのせいで、星などほとんど見えない。
ある日のこと

「おまえはいつも何を見ているんだ?」

と、聞いてみた。

「星を見ているデスゥ。空にたくさんキラメイているデスゥ。」

(馬鹿な! 10メートル先も、ろくに見えないのにそんなもの見えるはずが無い。)と、思ったが
黙っていた。

「銀河だけでも2000億の星があるということは、きっとワタシたちが平穏に暮らせるような星も
 きっとあるに違いないデスゥ。いつか見つかるといいデスゥ。」

「・・・ツル美、お前。」

「あ、でも勘違いしないでほしいデスゥ。ワタシはボスのおかげでとてもシアワセデスゥ。」

「・・・そうか。」

言うべき言葉が見つからなかった。

買い物のために外出する時にはその容貌が目立たぬよう帽子とマスクをつけさせた。
だが、普通そんな格好をしている実装石などいないので、かえって目だってしまったのは失敗だった。
そんな格好の獲物を公園の野良糞蟲どもが放っておくはずがない。

ある日、全身糞まみれのツル美が玄関先にたっていた。

激高してしまった。

バールのようなものを片手に公園へ向かおうとしている俺を必死になってツル美は止めるので、
その場はとりあえず収めることにした。

深夜、例の公園に虐殺派の一人がやってきたが、獲物がまったく見つからないのでさっさと他の場所
へ行ってしまった。
それは先に俺が清掃作業を行ってしまったからだ。
これで当分の間は問題が生じることはなかろう。

最初のうちは奇異な目でツル美を見ていた商店街の人々もその賢さと明るい性格が幸いして、俺が与えた
実装リンガルを片手に野菜を値切ったり、魚屋のオバサンと世間話するのにそれほど時間もかからず、
いつしか商店街の人気実装になっていった。

しかし、そのことがかえってツル美に危険を招くことにまでは気が回らなかった。
うかつだった。

その日もいつものようにツル美は買い物に出かけたのだが、突然居間の電話が鳴り響いた。
電話に出ると、八百屋の親父さんの動揺した声だった。

突然、心臓に冷水を注ぎ込まれたような感じが走る。

話によると配達の帰り、空き地を通りかかったときに実装石の声が一瞬したのでそちらを向くと
草むらに数人の男たちが何かしているのが目に入った。
不審に思い。

「おい、そこで何をしているんだ?」

と、声をかけたところ男たちはあわててそこから走り去ったので、その場所にいってみたらツル美
が倒れており、急いで近くの実装病院へ運んだとのこと。

あわてて病院へ駆けつけると、ベッドに血だらけのツル美が力なく横たわっていた。
傷は鋭利な刃物で切り裂かれたようで長く深いことから助かる見込みの無いことは一目で分かった。

「ボ、ボスゥ・・・ゲフッ、ゲフッ。」

咳き込むたびに口から血があふれ出す。

「も、もういい。 しゃべるな。 えらいな、おまえはよくがんばった。」

ツル美のいびつな両目が一瞬笑った気がした。
そして全ての反応が消えた。

「やっとおまえは楽になれたんだな・・・」

怒りや悲しみではなく、そんな想いしか出てこなかった。
ふと、血だらけのツル美の腹を見ると何かが光っている。
取り出すと、いびつではあるがそれはまるで美しく透き通ったクリスタルガラスのような輝きを
はなっていた。

ああ、
こいつの偽石は
こんなにも

その後、街の人々の協力のおかげで犯人が捕まったとの知らせをもらったが、特に何の感情もわいてこない。
ただただ、空しいだけだった。

ツル美を埋葬した後、俺は虐待用の道具を全て売却・廃棄した。
またいつかは虐待を始めるかもしれないが、今は・・・。
俺に残されたものは、いびつな石が一つ。

ふと、アイツがいつもしていたように澱んだ夜空を見上げる。

やっぱり星の一つも見えやしない。

ポケットから偽石を取り出し、透してみた。

そこにはまばゆいほどの星がきらめいていた。

俺は銀河を見たんだ。


− 完 −

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1 Re: Name:匿名石 2019/03/08-19:33:20 No:00005790[申告]
何か感動的
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