タイトル:【駆除】 すべり込みアウト!
ファイル:すべり込みアウト!.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4570 レス数:5
初投稿日時:2008/07/13-06:51:46修正日時:2008/07/13-06:51:46
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『すべり込みアウト!』
 
 
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 うちの玄関脇には大きく育ったパキラの鉢植えが置いてある。
 元は居間にあったのだが育ちすぎたおかげでオカンが家の外に出したのだ。
 南米原産のくせに直射日光を苦手にしているけど玄関は庇(ひさし)が張り出しているから平気だろうと。
 確かに、いまのところは元気にしている。これから暑さが増したらどうなるか、わからないけど。
 で、本題に入ると、その鉢植えの陰に。
 奴らが潜んでいたのだよ。
 糞仔蟲どもが。
 
 
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 その日はバイトが休みで学校からまっすぐ家に帰ったのが夕方五時頃だ。
 オカンはパート、オヤジは仕事、アネキは……よくわからんが日付が変わる前に家に帰ることは滅多にない。
 だから俺がご帰宅一番乗りで、玄関の鍵を回してドアを開けると、
 
「…テチャァァァァァッ!!」「…テッチ! テッチ!」「…テチテチテチィッ!」
 
 ……ん?
 靴先を何やら汚らしい緑色をした物体が三つばかり、かすめていくではないか。
 
「…テチャーッ♪」「…テッチューン♪」「…テチィッ♪ テチィッ♪」
 
 そして玄関の中に入り込み、ぴょんぴょこ蠢く汚物ども。
 糞仔蟲?
 何でこんなところに……?
 
「…テチテチテチテチィッ♪」
 
 糞仔蟲の一匹が俺に向かって指のない手を突き出し、黄ばんだ薄汚い歯を剥き出して何やらわめいた。
 人間様の家に勝手に入り込みやがって、いったい何のつもりだ。
 俺はポケットから携帯電話を引っぱり出してリンガルアプリを起動した。
 
『——きょうからワタチたち姉妹がこの家で飼われてやるテチ♪ 感謝するがいいテチ♪』
 
 はあ。
 要するに「家宅侵入そのまま居座り」で飼い実装になろうって目論みか。
 よく頭の悪い野良蟲がやる行為だ。
 でも仔蟲の腕力ではガラス戸を割ったりできず、玄関の外でドアが開くのを待ってたわけね。
 恐らく鉢植えの陰にでも隠れて。
 
「出てけ」
 
 俺は言ってやった。
 糞仔蟲など潰すのは簡単だが面倒くさい。血やら確実に漏らす筈の糞やらの後始末が。
 
『バカニンゲン、何を寝ぼけてるテチ? せっかく飼い実装になったのに出て行くわけがないテチ♪』
『可愛いワタチたちと一緒に暮らしたくないテチ? おかしなニンゲンさんテチ♪』
『出て行けと言うならオマエが出て行けばいいテチ♪ 家じゅうのゴチソウはワタチたちが頂くテチ♪』
 
 口々に勝手なことをほざく糞仔蟲ども。
 あからさまな低脳糞蟲が二匹に、勘違いナルシス蟲が一匹。
 人間の家にさえ上がり込めば飼い実装になれると思い込んでいるようだ。
 託児を目論む連中もそうだけど、どれほど幸せなオツムをしてるんだろうね?
 ともあれ説得は中止。何を言おうがムダだなバカには。
 
「おまえたちの親はどうしたんだ?」
 
 いちおう訊いてみる。あとから親も押しかけてくるなら、それなりの対処を考えないと。
 すると低脳糞蟲が再び汚い歯を剥き出して、
 
『テプププ……ママはバカテチ♪ みじめに公園で野良を続けるつもりテチ♪』
 
 どうやら親は身のほどをわきまえた少しは賢い個体らしい。
 でも糞仔蟲どもを引き止めることはしなかった。
 親も説得をあきらめた——というより恐らく見放したというのが正解か。アホの仔すぎて。
 
「そうか、わかった」
 
 俺は下駄箱から実装シビレのスプレー缶を取り出して、糞仔蟲どもに、しゅっと一吹きした。
 
「「「テッ…テギョェェェェェッ…!?」」」
 
 こてんとその場に転がり、喉を掻き毟って苦しむ糞仔蟲ども。
 いまどき、どこの家でも玄関にシビレかコロリのスプレーは用意してあるだろう。
 コンビニやスーパーの帰りに、うっかり託児されてしまったときに備えてだ。
 そして自治体指定の実装処理袋もまた用意している筈である。
 緑色をした不透明の袋は「実装ゴミ」専用だ。
 本当は殺してから袋に入れるのがマナーだが、半殺しのまま回収日に出すことも地元では黙認されている。
 見せかけだけとはいえ涙を流す「イキモノ」に直接手を下すことに一般市民は抵抗感があるからだ。
 とはいえ処理袋に詰めて回収日に出すことは「死」を宣告するのと同義なんだけど。
 もっとも俺は、糞仔蟲どもをそのまま実装回収に出すつもりはない。
 色つきの本気涙を流している糞仔蟲どもを拾い上げて袋に放り込む。
 そのまま出すつもりはないのに袋を使うのは、これ以上、糞やゲロで家の中を汚されると困るから。
 泣いている糞仔蟲どもだが、どうせ理不尽な暴力を受けてるワタチが可哀想テチュとしか思ってないだろう。
 俺も糞仔蟲に反省など求めるつもりはない。バカを相手にムダなことだから。
 ただ人間をナメたマネをしたことは後悔させてやる。
 親蟲や姉妹蟲ともども、だ。
 
 
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「——おいコラッ、糞蟲ッ!」
 
 夜の九時過ぎ——
 昆虫の声は聞こえるが、野良蟲どもは翌朝の生ゴミ争奪戦に備えて寝静まっていた公園。
 その植え込みの陰に置かれたダンボールハウスの一つを俺は蹴りつけた。
 
「…デッ…デデェェェッ!?」「…テチャァァァッ!?」「…テェェェェェッ!?」「…レピャッ!?」
 
 ダンボールの側面に切れ込みを入れて作ったドアを開け、成体野良が慌てた様子で顔を出す。
 
『デッ……ニンゲンッ!? いったい何の用デスッ!?』
 
 俺は家から運んで来た実装処理袋から糞仔蟲の一匹をつまみ出し、親蟲の眼の前に突きつけた。
 
『マッ……ママァァァァァッ……!』
 
 禿裸になって全身のあちこちに痣を作り、片眼は潰れた糞仔蟲が、手足をばたつかせて泣き叫ぶ。
 ちなみに残りの二匹も同じように半殺しで袋の中だ。
 親蟲の棲み処はこいつらに案内させた。
 べつに脅すまでもなく「オマエらの親は何処にいる?」と訊ねたら素直に吐いたのだ。
 おうちを教えればママのところに帰らせてもらえるとでも思ったのかね?
 結果的には家族を売ったことになるのだからアホすぎだな。
 
『デェッ……オマエは四女ッ!? いったいどうしたデスッ!?』
「オマエのバカ仔が三匹、俺の家に入り込んだんだ。幸い、玄関を汚された以外に被害はなかったが……」
 
 俺は親蟲を見下ろして言ってやる。
 
「ドアが開いた隙に家に入り込むなんて、くだらん侵入方法を糞野良社会に広められたら困るんでな」
『だからそんな方法が上手くいく筈ないって言ったデス! オマエたちはニンゲンをナメすぎデス!』
 
 四女と呼んだ糞仔蟲に向かって叫ぶ親蟲。
 発案したのが三匹のバカ仔のうち誰なのかは、どうでもいい。
 だが、そのバカが親の前でも自分のアイディアを吹聴していたことは親蟲自身が、いま明らかにした。
 ということは、バカ仔の計画に乗らなかった残りの仔蟲どもも話だけは聞いていた可能性がある。
 そして——三バカ姉妹の消息がそのまま途絶えれば、幸せオツムがデフォルトの残る姉妹も、
 
「オネチャたちが帰らないテチ、きっと飼い実装になるのに成功したテチ、だったらワタチたちも……」
 
 なんて発想に及ばないとも限らないのである。
 ……考えすぎか?
 でも、何度も玄関掃除するのは面倒だしさ。
 親が賢くても娘は決してそうではないことは三バカが証明済。親については連帯責任。
 ここで、すっぱり元を断つのが手っ取り早いだろう。
 公園で潰す分には血や糞の始末なんて考えないでいいし♪(悪い市民だな、俺……)
 
「……というわけでオマエら一家全員、駆除だ。あしたは生ゴミと一緒に実装ゴミも回収日だしな」
 
 俺は実装回収袋と一緒に用意して来た金属バットを振りかざし、にやりと笑ってみせた。
 
「…デッ…デヂャァァァァァッ!?」
 
 夜の公園に野良蟲一家の悲鳴が響いた。
 
 
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「——テチャァァァァァッ♪」
 
 俺が玄関のドアを開けると同時に、足元をかすめていく緑の汚物。
 またか。
 俺は頭痛を覚えながら、玄関の中に入り込んだ糞仔蟲を踏み潰す。
 
「…チベッ!?」
 
 あとの掃除が大変だけど、ほかの駆除方法を考えるために頭を使うのは、もっと面倒だ。
 例の三バカの家族は全員、確実に始末したというのに、その後も我が家は家宅侵入の被害を受けていた。
 いや、我が家ばかりでなくご近所の、玄関先に糞蟲が身を隠す場所がある家は、ほぼ必ず狙われている。
 どうやら三バカ姉妹ども、
「ドアが開いたら玄関に駆け込む」
 という安直にして大胆な侵入方法を、とっくに公園中の野良蟲に広めていたらしい。
 親蟲と姉妹蟲を潰したのは結局、腹いせ程度の意味にしかならなかったわけで。
 とりあえず、我が家の対策としては鉢植えを居間に戻すようにオカンを説得するしかなさそうだ。
 公園中の野良蟲を全て駆除するなんて、とても俺の手には余るからな。
 
 
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【終わり】

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1 Re: Name:匿名石 2022/08/08-12:27:00 No:00006525[申告]
観葉植物すら気軽に楽しめないとは、実装のいる世界は大変大変だ...
2 Re: Name:匿名石 2022/08/08-22:49:48 No:00006526[申告]
実装石が居ると気が抜けなくてストレス性の疾患になる人増えそう…
3 Re: Name:匿名石 2023/08/11-18:25:00 No:00007768[申告]
人間を驚異と捉えてる親を殺してしまったせいで逆に託児されても受け入れてもらえると勘違いされて馬鹿を見てんの笑うわ
4 Re: Name:匿名石 2024/02/27-12:53:59 No:00008801[申告]
親まで殺したのが失敗だったなこれ
5 Re: Name:匿名石 2024/02/27-13:12:45 No:00008802[申告]
でも公園中の野良に吹聴されてたしどちらにしても仔蟲は何度でもやって来たんじゃね
もちろん親の目の前で仔だけ処分して見せしめにするのは重要だっただろうけど
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