タイトル:【観】 しゃぶしゃぶ
ファイル:しゃぶしゃぶ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:5416 レス数:1
初投稿日時:2008/06/14-02:12:03修正日時:2008/06/14-02:12:03
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しゃぶしゃぶ用実装石のパックを開け、中の禿裸三匹を俎板の上に転がした。
死んだように力なくゴロゴロと出された仔実装サイズの三匹は、暫く置いておくと薄れていた両目の色が映
えてきた。光を取り戻したといった感じだろう。
三匹は寝ころんだ体勢のまま俺を見て、

「「「テッチュ〜〜〜ン♪」」」

ほぼ同時に右手を頬に寄せ、媚びた鳴き声を出した。さすがは食用実装石。
ザルに入れる時も三匹は無抵抗で怯える様子もなかったが、上から冷水を浴びせられて、続いて水を溜めた
ボールの中で手洗いされた時は小さな悲鳴をあげた。

「テチャァァ……」「テ…テテ……テブッ、ゴボッ、ブハッ!テチィ!」「テッ。テッ。テテッ」

途中、俺の片手に首から下をつかまれていた一匹の顔を見て、なんとなく手に力が入った。

「テギョオッ!?オッ、ォォ………」

A型の口を上下に引き伸ばして実装石の体がプルプルと震えた。活きが良い。
ザルで水をきると、三匹を大皿に移した。

しゃぶしゃぶの鍋では先にダシ用実装石を煮ておいた。
良い味になってるのを確かめて、ふっくらと茹で上がって浮かんでいた実装石を鍋から取り出した。

では、一匹目。
近づいてきた箸に気付いて「テー」と小さく鳴いた。
食べられようとして不安なのか、それとも喜んでいるのか?表情から読み取れるものはなかった。

切り分けていない仔実装の体でも箸で持ち上げるのに苦労しない重さだった。
元から脆くて軽い体である上に、食用は糞抜きをしてあった。
それを摘みあげて、さっと鍋の中に頭から潜らせるように入れた。

「ンブッ………ゴボゴボ!ブヒャッ!ヂヤー!ヂヤァァァァァッ!!」

熱湯に悶えながら実装石がバシャバシャと泳ぎ回った。
普通のしゃぶしゃぶのように食べる人間が肉を泳がすのではなく、肉自体に泳がせるのが実装しゃぶしゃぶ。
食べる人間は箸を離して、良い頃合いまで実装石を見守るのだ。
鍋の中は立てば腹の真ん中辺りになる水位だが、火にかけられた鍋の底には手も足をつけていられず、実装
石は必死に犬掻きのようなクロールのような泳ぎを披露した。
必死に泳ぎながら進んでいた実装石の手が鍋の縁に触れた。しかしすぐに離した。片方の手をまた触れさせ、
また離した。熱くて触れていられないのだ。

体勢がクルっと引っくり返って背泳ぎのようになった。でたらめに両手足を振り回すさまは、もはや泳いで
いるように見えなかった。

「テヂャアアーー!!テー!テェェー!テッ、テチッ!テヘッ!」

濃さを増したような赤と緑の目が血涙を流しながらギョロギョロと鍋の外を見て回った。そのうちに何度か
俺と目を合わせた。

なんで鳴いてるんだろう、食用なのに………

汁を飛ばす口の中で痙攣していた実装石の小さな舌を見つめながら、ぼんやりとそんな事を思った。
同時に俺は、俺を見ているしゃぶしゃぶ用実装石へどんな顔をしてやれば良いのかと迷っていた。
そう言えばダシ用実装は気にならなかった。すぐにフタをして台所へ向かったからだろう。
時間も無さそうだったので、とりあえず笑って見せた。眉間に皺を寄せながら。

「テッ……テッ……テッ………テッ」

実装石の勢いが急速に弱まり、パクパクと動かされるだけになった口の中で、舌は喉の方へ項垂れていた。
死ぬのか。でもそれではタイミングが遅い。
死にきる前に食べるのが実装しゃぶしゃぶだと、家庭用実装料理の本に書いてあったのだ。
今回が初めての実装しゃぶしゃぶだった。
少し緊張しながら実装石を箸で取って、タレの入った器へ持っていった。

箸の間で人形のようにダラリとのびた実装石をどう扱うか迷ったが、まずは左手の先にポン酢をつけた。

「チュッ」

左手に歯をたてた途端、実装石が声を漏らした。
生きていた。
痛みを感じたのだろうか。それとも俺が食べ始めたことに気付いたのだろうか。
しかしそれには構わず、実装石の肉に食い込んだところだった俺の歯を一息に閉じた。

プッ。ブチュッ。

ソーセージのような歯ごたえだった。口の中の感触もソーセージのようだった。
しかしポン酢やダシと混ざって感じた味は、ポークとも魚肉とも違うようだった。なんと言おう。
咀嚼しながら見てみると、左手を噛み千切られたことに、箸の間の実装石は無反応だった。ついに事切れた
ようだった。

皿の上に寝かせておいた、残りのしゃぶしゃぶ用実装石に目をやった。
彼女たちは横たわったままで俺の顔に目を向けていた。
いや、多分、俺の口を見ていたのだろう。
仲間があげていた断末魔の悲鳴を耳にしていたはずの彼女たちには、恐れも不安も見て取れなかった。
ただ静かに、仲間が人間に食べられている様子を眺めていたようだった。

不気味だった。

後日、実装石に俺より詳しい友人から、食用実装石の中には耳を聞こえなくしているものもあると教えても
らった。
しゃぶしゃぶ用でも耳が聞こえるもの、聞こえないもの、二種類あって、知らずに適当に選んだ俺の実装石
は聞こえないものだったようだ。
我ながら運が良かったと思った。もしも残りの実装石たちが仲間の絶叫を聞いて、皿の上で怯えていたとし
たら、俺は食べられなかったかもしれなかった。
基本的に、人間から食べられることに強い使命感のようなものを与えられた食用実装石が、食べられること
を拒否したりはしないという。
しかしそれでも彼女たちには感情があって、当然、恐怖というものは抱くのだ。しかも痛覚すら残っていた。
ほぼ死んだ状態の仲間が無反応で食べられる様子を目にするのは耐えられるだろう。それが彼女たちの使命、
生きる理由、最優先の望みになっているのだから。
仲間が生きたまま調理される様子ならばどうか。
次は自分がああなると知らされるのは、どうなのか。
実装食としては、その反応を楽しむのも一興だと、友人は話してくれた。

結局、俺は三匹全てをしゃぶしゃぶにして食べた。
二匹目を鍋に入れて食べ終えるまで、三匹目の乗った皿に蓋を被せておいた。
食事されているところを同じ人間から見つめられるのですら嫌なのに、これから食べる予定の、禿裸の実装
石から見つめられるのが、どれだけ嫌なものだろうか。
他の人間はよく実装しゃぶしゃぶなど出来るものだと思いながら、蓋を取って三匹目を箸で摘まんだ。
三匹目は鍋とは別の方に顔を向けたまま運ばれていき、そのまま汁の中へと潜らされた。

「ヂイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィッ!!!!!」

鍋の中央で三匹目は飛び上り、そのまま立った状態で全身を小刻みに震わせながら、長く鋭い悲鳴を上げた。
両手を胸の前にピッタリ付けて、忙しく足踏みさせながら熱さに耐えていた。
それを見て、この実装石が勘違いしているような、勘違いしているような、何か不思議な気分にさせられた。

違うんだ。これはしゃぶしゃぶなんだ。こうするもんなんだぞ。

教えてやるように、俺は実装石を再び箸で摘み、汁の中へ倒してやった。
箸を離してから二つ数えるくらいの間、小さな泡を吐きながら実装石は沈んでいた。

「ブビャアアッ!!」

そして再び飛び上ってきた。
真っ赤に火照った顔を引きつらせ、左右の目は出鱈目な方向を見ているのが分かった。
赤と緑の血涙が溢れ出ていた。
今度は両手を暴れさせて汁を叩きながら、それでも足踏みして立っていた。
一匹目に続き、二匹目も泳いだのに。
ならばと、俺は箸を実装石の両肩に乗せて、下に力を入れた。
実装石の体が一度大きく震え、硬直した。

「———————————————————ッ」

実装石が鋭い悲鳴を上げた。
足は止まり、両手が肩を押さえる箸を捕まえていた。
張り裂けそうなほど開かれた両目の下で、口から泡が噴き出てきた。
気付けば悲鳴は途切れていた。

三匹目の手に捕らせたまま箸を鍋へ垂直にし、自分の手で汁の中を泳がせた。
それを持ち上げても、この実装石は箸から落ちなかった。

味は、三匹とも変わらなかったと思う。

最後に片付ける際、俺は三匹目が鍋に運ばれながら見ていたものが、先の二匹の首が置かれた別の皿だった
と気付いた。
俺は魚やエビなどでも頭は残す方だったから、実装石も頭までは食べずに残していたのだ。
食後は、三匹分の首が置かれていた。

ずいぶん活きの良いやつを当てたなと、友人は羨ましそうに言ってくれた。


END

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1 Re: Name:匿名石 2020/02/11-23:29:15 No:00006208[申告]
いい感じにサイコで好き
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