その成体実装石は、太陽の光がさんさんと降り注ぐ広々とした草原でのんびりと食事をしていた。 側で控えている人間にあれこれ注文をつけながら、自分の前にあるテーブルに盛られたご馳走を口に運ぶ。 テーブル上のご馳走には仔実装や親指、蛆ちゃんも群がっており思い思いに食事を楽しんでいる。 仔実装は楽しそうに寿司を口に放り込み、親指は山盛りの金平糖を一生懸命舐め、蛆ちゃんはプリンの中に潜り込んで嬉しそうに尻尾をぴこぴこ動かしていた。 我が仔達の食事風景を満足気に見詰めつつ、親実装石は切り分けられたステーキを口に入れ、顔を顰めた。 口に含んだステーキをニンゲンに吐き付け、涙を流して怯える奴隷ニンゲンに叱責をくれてやる。 何て不味いステーキデス、何時も松阪牛の霜降りを使えと言っているデス、お前は使えない糞奴隷デスゥゥゥゥ! 直ぐに代わりを持って来るデス、そうしなければ奴隷失格でぶっ殺してやるデスゥゥゥゥ!! 土下座するニンゲンの髪に糞を塗りつけた後、とっとと行けとばかりに蹴りをくれた。 ニンゲンは泣き喚き、ブルブルと震えながら逃げ去っていった。 デップンと鼻を鳴らす親実装を見て、テーブル上の仔達は偉大なる母親を賞賛する。 ママは凄く強いテチュ。 ニンゲンなんて相手にならないテチュ。 ママが居れば世界は楽園テチュ♪ そうレチュ、ママが居ればなんでも思い通りレチュ♪ ママノプニプニハセカイサイコウレフ♪ ウジチャンニサイコウノプニプニシテレフー♪ 仔達の賞賛を心地よく聴きながら食事を終えた親実装は、天蓋付きの寝台にゆったりと寝そべる。 奴隷ニンゲンに命令して持ってこさせたそれは、ふかふかして凄く寝心地が良い。 この世はワタシ達専用の楽園デスゥ♪ これからもずっとずっと、可愛い仔達と楽しく暮らしていけるデスゥ♪ 「デププ」 そうして、親実装は一緒に眠る仔達の頭を優しく撫でながら楽しい昼寝を過ごしたのだった……。 「デププ」 拘束台で全身を拘束され、長い髪を作業台に載せられた全裸の実装石が眠ったまま楽しげに笑う。 長い髪を梳っていた女性作業員が不愉快そうに顔を顰め、溜息を吐きながら意識を髪に戻した。 「どうせ、くだらないご都合主義な夢でも見てるんでしょうね。全く、お気楽な緑蟲だ事!」 二葉市郊外の漁師町にあるメイデン社産業用実装石工場の第二工場。 ここでは、主に繊維石の育成と実装繊維の大量生産を行っている。 産業用実装石の用途で、髪と服を繊維として利用する試みは実装産業黎明期から行われて来た。 実装石の肉体が食料になる際、彼女らが着ていた服やむしり取った髪が残る。 それをどうにか繊維用として利用できないか? ただ単に廃棄してしまうには惜しい。 そう考えた産業界が食肉用を処理した後に残る服と髪を産業用繊維として加工し売り始めたのが、繊維石の先駆けとも言える。 最初は単純に不要物の再利用として考案されたそれは、実装産業界の新たな分野を開く事になった。 メイデン社を初めとする数社は、実装石で繊維産業を起こす時に『高級・高品質』を掲げた。 愛護派の飼い実装の中には、見事な髪を持った飼い実装が居る場合がある。それを何とか商品として作り出せないか、という試みだ。 しかしこの試みは頓挫しかけ、メイデン社以外は実用化を諦めて繊維から撤退してしまった。 コンセプトである『高級・高品質』の段階まで、繊維石を育成するのに多大な問題が発生してしまったからである。 人間動物問わず、髪質に精神状態が大きく関わっているのは周知の通りだ。 特に精神構造がアレな実装石の場合、髪質に関わる部分は非常に多い。 何故に、一部の飼い実装の髪は見事なまでに美しく艶やかなのか? それは、その飼い実装が充分な栄養を摂るのは当然の事、充実した実装ライフを過ごしているからだ。 (この充実した実装ライフというのは、その個体が善良であろうが糞蟲であろうが兎も角実装石が精神的に満足している状態である事を付け加えておく) その為に、試験段階では繊維石を一匹一匹良好な環境で飼育する事で髪質を向上させてみた。 だが、その生産法は短期間で破綻してしまう。 第一に、コストが掛かりすぎた事。欲望の限界を知らない実装石に良質な環境など与えれば、直ぐさま思い上がり更なる待遇を要求し始める。 飼育側がそれを断れば怒り狂ってパンコンし、重度のヒステリーとストレスによって髪は荒れ糞投げなどで汚れて痛んでしまう。 かといって要求通りにすれば費用だけかさんでしまい、髪を採取出来る頃には採算が全く合わない状態になる。 商売として、全く成り立たなくなるのだ。 第二に飼育係のなり手が少なく、居たとしても直ぐに辞めてしまうと言うことだ。 良質な環境で飼育を行えば大概の繊維石は増長して手が付けられなくなる。 実装販売店などに売っている実装石達が人間に従順なのは、拷問虐待と大差変わりない苛烈な躾と専門的な調教の結果だ。 そんな躾を行えば髪質が落ちてしまう為、飼育側が行えるのは口頭による注意や説教程度しかない。 そしてどれだけ怒られるような事をしても、直接暴力が行使されないと繊維石達が理解してしまったらどうなるか? 結果は言わずもがな。 糞蟲化した繊維石達は飼育係に対して露骨に逆らい始め、果てには合同で糞投げを行い反乱すら起こす始末。 酷い時など糞投げに怒髪天を衝いた飼育係が、持ってた清掃用具で飼育していた繊維石を皆殺しにしてしまった事もある。 結果、多数の実装産業会社は繊維業から手を引くか、品質が並程度の繊維石を生産する事になる。 しかし、実装産業の双璧の1つと言われたメイデン社は、良質の実装繊維を作り出す方法を編み出したのだ。 まず、出産石から産まれた仔実装達を一日だけ愛護的に育てる。 (親指、不適合な個体は仔実装に見えない様に処分。蛆は繭を作るので生かされ別の工場に移される) 優しく接し、美味しいモノを食べさせ、遊び相手をし、ウンチの始末をしてあげ、お風呂に入れてあげる。 そして良い具合に『この世は楽しい所』『人間は実装石を可愛がる存在』と言う認識を植え付ける。 (全体的にみれば、この作業が繊維用実装石を育成するに当たり一番辛い作業だと言えよう) 一日程度の愛護と言う無かれ。 たった一日で仔実装達を増長させ、思い上がらせるに充分なのだ。 何故ならメイデン社製繊維用実装石として生を受ける仔実装達は、極々僅かな例外を除けば全て重度の糞蟲なのだ。 繊維用出産石が飼育されている飼育所には、親実装達の音痴で耳障りな胎教が流れる事は一切無い。 出産石は全て喉を潰され、勝手な胎教をする事を許されていない。その代わり、定期的に変声装置で作られた胎教が流れる。 内容は重度の糞蟲親実装が妊娠した時胎教として歌う内容。 即ち、 『高貴なワタシ達は世界の支配者デスゥ♪』 『この世で一番ワタシ達は賢くて美しいデスゥ♪』 『ニンゲンはワタシ達の奴隷デスゥ♪』 『美味しい食べ物も、住み心地の良いオウチも、ふかふかの寝床も、温かいお風呂も全てニンゲンが用意してくれるデスゥ♪』 『ニンゲンなんて、ワタシ達が一吼えすれば直ぐ逃げ出すデスゥ。糞を塗りつけて隷属デスゥ♪』 『ステーキ金平糖お寿司にプリン。毎日お腹一杯食べてウンチをいっぱいするデスゥ♪』 『そして可愛い仔達を一杯産むデスゥ。素晴らしい世界で楽しい楽園生活を満喫するデスゥ♪』 この様なフレーズが、バリエーション豊かに延々と流れ続けるのである。 胎教というのは、仔実装の性格や精神を形成するのに重要な要素。 こんな胎教をずっと続ければ、どうしようもない糞蟲が量産されるのもむべなるかな。 話を繊維石の工程の方に戻そう。 一日愛護で見事に『上げられた』仔実装達は良い気分のまま用意された寝床に入り、ふかふかな布団(在庫の飼い実装用布団)で眠りにつく。 明日から始まる楽しい日々。胎教で教えられた実装石の為の世界を夢見ながら。 一杯我が儘を言おう。逆らったらウンチを付けて隷属させてやる。 一杯美味しいモノを食べよう。毎日変わったゴチソウじゃなきゃ絶対に満足しない。 一杯ウンチをしよう。当然、お尻を拭くのもパンツを履かせるのもニンゲンの仕事だ。 面倒な事はニンゲンに全部やらせて、毎日楽しく遊んで暮らすのだ。 そんな罰当たりな事を考えチプチプ鳴きながら仔実装達は眠りにつく。 寝床のある部屋へ静かに散布された、実装ネムリガスによって深い深い眠りに。 数分前までテチテチチププと五月蠅かった部屋が静かになると、数人の作業員が入って来る。 軽く箱を揺すり、仔実装達の意識が不自然な程深い眠りに落ちたのを確認する。 布団から仔実装達を取り出し、次々とピンク色の飼い実装寝間着を剥いでいく。 本当なら破きたい気分だろうが、次回も同じように使用するので丁寧に。 髪以外の全てを剥ぎ取られた仔実装達の身体と髪を、飼育員達はチェックし始める。 髪質が悪く無いか、身体に異常は無いか、手作業で念入りに行う。 勿論、産まれた時にもチェックは行うが、偶にチェック漏れが起こる。 仔実装達が繊維石としてデビューする前に、もう一度チェックが行われるのだ。 チェックで合格すれば、彼女達は晴れて繊維石の生産ラインへと送られる。 チェック漏れで紛れ込んでいた屑な個体があれば、何の躊躇いも無く首を捻られて殺される。 しかし、後々の事を考えれば、この場で楽しい記憶を抱え眠りこけたまま死んだ方が仔実装にとってずっと幸せかもしれない。 生産ラインに運び込まれた繊維用仔実装達は、作業台に並んでいる大の字型の拘束台に次々と固定されていく。 この拘束台、台座の大きさと拘束ベルトのサイズが調整できるようになっている。 今は、最小の状態……10cm前後の仔実装を大の字で拘束するに適した大きさだ。 ちなみに最大で70cm級まで拡大する事が出来る。 拘束台に合わせるように大の字に寝かされ、手足をベルト式の拘束具で固定される。 嘔吐物を吸い出すチューブが喉に差し込まれ、テープで口に固定される。 股間に排泄用のパイプが差し込まれ、ゴム帯で固定された。 作業員が仔実装の頭を探り偽石の位置を確かめてから、偽石を迂回出来る位置の頭皮に点滴に使われる注射針を当てる。 ズブリと刺さった注射針がゆっくりと沈んでいき、柔い頭蓋を貫通して内腔に達した。 作業員は其処で挿入を止め針を用具で固定し、ローラークレンメを調整して点滴を開始する。 ポタリ、ポタリ、ポタリ。 チャンバーに薬液が滴り落ち始め、実装石の頭部にゆっくりと送り込まれていく。 暫くして仔実装の頬がほんのり赤く染まり、テチュテチュと機嫌よさげな鳴き声が漏れ出始めた。 別に発情している訳ではない。単に酔っぱらっているだけだ。 繊維用仔実装達には成長促進剤(実装ホルモン)と実装ネムリ、栄養剤をブレンドした酒精をチューブと注射針を経由して内腔に直接注射される。 この日から、繊維石はずっと眠りっぱなしになる。 内腔に注がれるブレンド薬液は、繊維石を眠らせ、強制的に成長させ、身体に必要な栄養を摂取させる。 繊維石は生産ラインに居る間、ひたすら眠り続けているので飼育に必要な多大な費用と手間と人間のストレスが発生しない。 強制的な成長によって僅か数日で仔実装は成体へと成長し、髪がそれに合わせるように手早く伸びるのでコスト削減に有益。 (この辺の生物の成長を全く無視した構造を見るにつけ、実装石とは全く出鱈目な生き物である) 栄養剤によって身体が維持される為、排出される糞も微量で、工場に臭いが篭もったり糞の処理に手間取る事は無い。 身体が50cm〜60cm位の成体に育ち、髪も同じように長く成長した段階で成長促進剤の投与が無くなる。 後は栄養剤と実装ネムリと酒精をブレンドしたものが、繊維石に投与され続けるのだ。 繊維石が生産ラインに載っている間、工場からは機嫌よさげな繊維石の鳴き声が絶え間なく聞こえる。 それは、生産側の思惑が見事に成功している証。昏睡し続ける実装石達の髪はツヤツヤで、作業員の手入れの甲斐もあり良質そのもの。 前述したように、髪質は髪の主の精神状態に大きく関わるもの。 通常の飼育では繊維石のメンタルを維持しつつ、髪質を安定させるのは不可能と判断した人間の答えがこれだ。 つまり、繊維石を酔っ払い続けさせ、妄想の檻に閉じこめればいい。 アルコール+αを内腔に直接注入し続け、常に酔っぱらった状態にする。 酔っぱらった繊維石は幸せ回路全開の糞蟲であるが故に、眠っている間常に楽しい妄想を脳内で繰り広げる。 生産ラインに入った後、繊維石の妄想が途絶える事は殆ど無い。 何せ、わざわざ幸せ回路全開な糞蟲に育成した理由が『ひたすら都合の良い夢想に浸り続けれる様な性格にする為』なのだから。 勿論、こんな事を長々と続ければ如何に出鱈目なナマモノの身体でも限界が来る。 しかし、人間にとって繊維石の身体の事など大した問題でもないのだ。 数回髪を採取すれば実装石の髪質は劣化を始める。 そうなれば、彼女らは用済みとなるからだ。 髪を採取出来ぬ繊維用実装など、この世に存在する価値は無し。 そして髪質が劣化するのと、繊維石の身体が壊れるのと、どちらが先かと言えば劣化する方が先なのだ。 つまり、現状として何ら問題は無い。少なくとも、生産者である人間にとっては。 繊維用仔実装達が成体になり、一月近くが経過した頃。 今日も生産ラインの中は、酒に酔った繊維石の鳴き声で満たされていた。 拘束台の列を数人の女性が歩き回り、作業台に載せられた繊維石の髪の手入れを行っている。 「全く、もう少し静かにならないかなぁ」 「リンガル持ち込んだらきっと聞くに堪えない言葉ばかりだろうねぇ」 「文句言わないの。昔みたく反抗されたりウンチ投げられるよりは億倍マシでしょ」 拘束台に載った繊維石の髪をチェックし、髪の根元の頭皮をチェックする。 ブラッシングとシャンプーによる手入れは勿論の事。 状態に応じて頭皮のマッサージやトリートメントによるダメージヘアの治療も抜かりは無し。 彼女らの瞳は亜麻色の髪しか捉えておらず、不愉快な鳴き声を洩らす持ち主の肉塊など意識の端にすらないだろう。 実際、髪は丁寧に扱われるのに対し、肉体は『健康で体調を崩さず髪の品質に影響の無い』程度のメンテナンスしか行われない。 「どうかね、今回の髪質の方は?」 繊維石の髪を梳り髪質を確認した作業員のチーフが、傍らに立つ責任者に報告する。 「はい、今回も品質基準を満たした良質の髪ですが、3回目よりも若干質が落ちています」 「そうかぁ……じゃ、頃合いだな」 「第四ラインの繊維石達は廃棄、でよろしいですか?」 「ああ、そうしてくれ。後、一応偽石と身体の具合を確かめてまだ健康なのは残しておいてくれよ」 「先週の会議で決まった新しい商品化の件でしょうか」 「そうだ。残りの使えん奴らは何時も通り、焼却場に持っていってくれ」 「はい、解りました」 3回目まではまた生えて来るように幾分残して刈られてた髪が、今度は根本からジョッキンと刈られる。 正真正銘禿裸になった繊維石達を他所に、髪は丁寧に回収され別の作業場へと移されていく。 さて、用済みとなった繊維石達はどうなるのだろうか? 大半は食用としても使えない為そのまま焼却場行きだが、一部には『上げ済み』の虐待用実装として販売もされている。 愛護ブームが過去のモノとなり、虐待派のコミュニティが広がるに連れ需要も高まっているようだ。 このメイデン社実装繊維工場でも、まだ身体の状態が良い繊維石を虐待用として販売する事が決定した。 ただ焼却するだけよりも、売れるところに売った方が儲かるし廃棄の費用も浮くと判断されたのだ。 そして、その中にはあの繊維石も含まれていた。 口に低圧ドドンパを放り込まれ、栄養剤によって太っていた身体が強制的にシェイプアップさせられる。 これは体内の老廃物と糞袋の中身を全て絞りきる糞抜きの役割も含まれていた。 持ち運ぶのに手頃な重さまで減量させられた後、身体を固定していたベルトが外される。 頭部に突き刺さっていた注射針、股間に固定されていた排泄用ゴムホースと口のチューブが引き抜かれた。 久方振りに拘束を解かれた繊維石は洗剤の付いたスポンジで無造作に洗われ、冷水を浴びせられ作業台の上に放り出された。 「デ、デェ……?」 繊維用としての廃棄が決定してから酒精の注入が止まっていた事と、水を浴びて刺激を受けた所為か朦朧としながらも繊維石は辺りを見渡す。 長い長い妄想の深淵から現実に舞い戻った禿裸の目には、無機質な工場の作業場がぼんやりと映った。 「ここはドコデス?」 「ワタシはどうしてこんな場所に居るんデス?」 「さっきまでいたポカポカな場所に戻るデス」 「ワタシが産んだ、可愛い可愛い仔達と一緒に暮らすデス」 「愚かで劣等な奴隷ニンゲンどもを扱き使って、楽しく楽しく毎日遊んで暮らすデス」 「おい、バカな奴隷ニンゲン、高貴なるワタシをあの場所まで連れて行くデス!」 作業員は目の前に居る禿裸のみずぼらしい肉塊の吐く戯れ言など気にせず、黙々と出荷準備を進める。 「バカニンゲン、早くしないとお仕置きデスゥ! デシャアアア「五月蠅いぞ廃棄物が」」 威嚇し始めた元繊維石の顔に、作業員が面倒臭そうにスプレーを吹きかける。 繊維石は敢え無く意識を刈り取られ、ビニール袋の中に放り込まれ、真空パックを施された後箱詰めされる。 箱に張られた商品名は『虐待用成体実装石<禿裸処理済み・糞抜き済み、上げ済み>』と記されていた。 次に目が覚めた時、元繊維石は全く別の知らない場所に居た。 そして見知らぬ人間が自分を見下ろしていた。 「やぁ、初めまして糞蟲ちゃん」 男は手にした実装叩きを高々と振り上げながら笑顔を浮かべる。 この男は練達の虐待派で、この元繊維石がどうやって作られたかも知っていた。 「脳内オナニーばっかじゃつまらないだろ? そろそろリアルでも遊んでみようぜ!」 「デギャア!!」 元繊維石が文句を言うよりも早く、虐待が始まった。 何故此処に自分が居るのか。 何故禿裸になってしまったのか。 自分の可愛い仔達はどうなったのか。 どうしてニンゲンに自分がいたぶられているのか。 様々な疑問を抱く猶予すら与えられず、元繊維石は襲いかかる激痛に身悶えるしかない。 それはこの元繊維石にとっての悪夢、現実が始まった瞬間でもあった。 「おら、さっきまでの勢いはどうしたよ糞蟲ちゃん♪ 俺達人間はお前らの奴隷なんだろ? 奴隷に負けるご主人様ってのは情けねぇよなぁ?」 「デ、デェェェ……」 ズタボロに殴られた元繊維石が床に蹲り、苦しげに息を吐きながら吐血する。 全身が酷く腫れ上がっていて、無数の打撲と内出血で覆われていた。 左腕は割り箸の様にへし折られていた。右腕も酷く捻られており動かなくなっていた。 両足は骨が粉砕していた。総排泄口からは大量の尿と血が漏れ出ていて、元繊維石の受けたダメージの深さを物語っていた。 「何でバカニンゲンなんかにワタシがいいようにされるデスゥ!?」 「ワタシが一声吼えるだけで直ぐに泣き出す、糞を投げただけで土下座するようなよわっちいニンゲン如きが!?」 夢想の中でしか存在しない『最強の自分と最弱のニンゲン』のイメージを物理的に粉砕された元繊維石は愕然とする。 青年は元繊維石の勘違い極まった戯れ言をリンガルで確認し、ニヤリと嗜虐に満ちた笑顔を浮かべた。 「やっぱ、こーいった勘違いし切った糞蟲じゃねぇといたぶりがいが無いよなぁ」 「デ、デヒィッ!!」 惰弱な筈の人間が浮かべる獰猛な笑みに、恐怖のあまり血涙を流し始める元繊維石。 圧倒的な現実とそれに伴う暴力を眼前にし、元繊維石の何ら根拠の無い自信と妄想は敢え無く吹き飛んでいた……。 一ヶ月後。 「デーデーデ……」 とある物置の中で、1つの肉塊が呻いていた。 それは、あの元繊維実装の成れの果てであった。 両手両足をもぎ取られ、付け根を焼き塞がれていた。 身体の表面の皮膚が引き剥がされ、薫製された為に再生が始まらず毛細血管が浮き出ていた。 表面に塩がふき出ている事から、塩を何度も揉み込まれたのだろうか。 両耳は削ぎ落とされ、代わりに鉄の板が差し込まれていた。 鉄板の端にはブースターケーブルが接続してあり、コードの先には充電器が置いてあった。 目蓋は切り取られ、白く濁りかけた両目が常時剥き出しになるようになっていた。 頬には無数の血涙の後が残っている。どれ程の苛烈な虐待を受けて来たのかが窺えた。 肉達磨になった彼女の身体を支えるもの、それは総排泄口に打ち込まれた野太い鉄芯。 鉄芯は深々と無慈悲に繊維石を貫き、どんな扱いを受けても倒れないように、逃げれないようにしていた。 「デーデーデー……デ」 唯一破壊されなかった口と舌から虚ろな鳴き声が漏れ出る。 青年が実装石の悲鳴や絶叫を楽しむ嗜好があったからだが、元繊維石は知るよしもない。 中世の拷問吏も真っ青な虐待と拷問を一ヶ月受け続け、彼女の心と身体は完全に壊れてしまっていた。 今、彼女が何を考えているかは、誰も解らない。 生まれ出て直ぐに妄想の檻に閉じこめられ、虚構の楽園でずっと楽しい世界を満喫していた元繊維石。 彼女にとって、苦痛と絶望しかない現実はどう映ったのであろうか? 青年からの虐待が無かったその日、久し振りの眠りに落ちていた元繊維石の口から鳴き声が漏れ出た。 「デププ……プ」 その壊れきった虚ろな寝言を最後に、パキンという音が室内に響き渡った。 「何だこいつ、思ったより早く壊れちゃったか」 暫くして物置に現れた青年は、元繊維石が死んでいるのを見て舌打ちした。 どうやら、自分の手で絶望に追い込んだ上止めをさせなかったのを悔いているようだ。 「まぁいいや。新しいの出さないとな」 元繊維石の亡骸をゴミを捨てるように回収袋に放り込み、固く結びながら物置の戸棚の方を見る。 そこには、禿裸の元繊維石達が真空パックに入ったまま、己の夢想が壊れる瞬間を静かに待っていた———。 完 ———————————— 感想を何時もありがとうございます。 過去スク 【微虐】コンビニでよくある事 【託児】託児オムニバス 【託虐】託児対応マニュアルのススメ 【虐】夏を送る日(前編) 【虐】急転直下(微修正) 【日常】実装が居る世界の新聞配達(微修正) 【虐】山中の西洋料理店 【観・虐】実装公園のトイレで休日ライフ 【虐・覚醒】スイッチ入っちゃった 【虐夜】冥入リー苦死実増ス 【冬】温かい家(改訂版) 【虐】繭を作った蛆 【教育】神父様の教え 【哀】風の吹く町 【哀】【春】急転直下2 【哀・虐】桜の季節