清潔な身なりの親指が、妹らしい蛆の服を着替えさせてやり、抱っこして歌を歌う。 朝のTV番組の一コマである。毎朝飼われている実装石の様々な模様が2分ほど放送されている。 演技ではなく笑顔いっぱい、幸せいっぱいの姉妹であった。 それを大きな水槽の中から6匹、眺めている。 親指実装が5匹と蛆が1匹、すべて禿裸、糞便をすこし垂らし、羨ましげに画面の姉妹を眺めている。 TVは突然消された、1人暮らしらしい男性が何事か言いながら着替え、出かけていく。 取り残された親指はある者は座り込み、ある者は恨みがましく電源の落とされたTVを見つめている。 実装石の日常 虐待のない日 ペットショップではこの6匹、中々厚遇を受けていた。 それもその筈で、親指とは思えないほど高い知性を誇っており、特別にダンスのレッスンを受け姉妹揃って見事に習得したのだ。 6女の蛆はレフレフ歌うだけだが、時には姉妹が抱きながら歌い、その回りを他の姉妹が走り踊る。 水槽の中で繰り広げられるダンスは見事なものだ、身長が10cm足らずの彼女らがそれなりに緻密なダンスや歌をみせると 観客からは歓声が上がる。 「今日もかっこ良かったレチー」 隣りのケージの親指が興奮も隠しきれず柵越しに言う。抱えている妹の蛆もレフレフ騒いでいる。 「そんなこと無いレチ」 謙遜するダンス姉妹の次女であるが、賞賛されればやはり満更でもない。 隣りの親指・蛆姉妹は善良なだけの売り物だが、自分たちは姉妹で歌い踊るショップ一の実装だと自負していた。 それを公言するようなことこそないが、大きな誇りであった。 ダンス姉妹は好評でショップとしては見世物としておいても良いとさえ考えていた。 30万円で買い取る今の飼い主が来るまでは。 「さみしくなるレチ」 「元気でいてレチー」 「さよならレチィ!」 性格の良い実装石ばかりなので、ショップの中はちょっとした騒ぎとなった。 6姉妹もそれぞれ別れを告げ、手を振る。 ……あの頃は楽しいことばかりだった 次女は回想する。優しい店員に仲間たち。お客はみな踊りや歌に大喜びしてくれたものだ。 今はもう踊りたくないが、命令とあればやるほかない。 再び、次女はショップで買われた事を思い出す。 悲しい別れだが出会いもある。新しいご主人様の家に着くと、ダンス姉妹は綺麗にお辞儀した。 「レチューン、ご主人様よろしくお願いしますレチ、可愛がってレチ」 「ああ、可愛がってやるよ」 両者の言葉の意味は大きく異なっていた。 ダンス姉妹が新たに入れられたのは畳1枚ほどもある広いものだったが、トイレ用に砂を入れた小箱と給水器以外何もない。 とくに床はプラスチックがひかれただけである、ショップでさえタオルであった。 ベッドもないのにどこで寝ればいいのだろうか。 ショップでは退屈をしないよう様々な玩具があり、水浴び用の器まであったというのに。 違和感を覚えたリーダー格の次女であったが、いきなり要求するのは礼儀に反すると思い口にしない。 「レチャア、何もないレむぐ」 5女が喋ろうとしたのを長女と4女が抑えた。 「何もなくて悪いね」 しかし飼い主は笑顔のまま。 「ところで、君たちのダンスをさっそく見せて欲しいんだがいいかい?」 ダンス! その単語に姉妹は笑顔。 ダンスと歌は姉妹にとって喜びである。踊れば見ている人間に褒められる。 こんなことができるのは自分たち姉妹だけ。 どれだけ可愛がられてきたのか言うまでもない。ダンスは姉妹にとって存在意義そのものだった。 「みんな、ご主人様に見てもらうレチー♪」 次女が姉妹みんなを見ていう。 「まずは大好きご主人様、レチー」 頷きあう姉妹。5女は蛆を隅におき、それ以外は整列する。 中央の3女がウインクする。 「大好きレチ、ご主人様ー♪」 全員で両手を挙げ、身体を左右にゆらす。 「大好き大好き、大好きご主人様ー♪」 3女が歌いだすと、姉妹が左右で踊りだす。隣同士で腕を組んでスキップしつつ円を描く。 「ご主人様に会えて〜、私たち嬉しいレチ〜」 次女と3女が位置を入れ替わる。 「初めて会った時から〜大好きレチ〜」 姉妹は歌いながら踊り、踊りながら歌う。 位置を変え、笑顔を振りまき、いかに飼い主を好いているのか歌う姉妹。 好かれているはずの飼い主は床に置かれた水槽でレチレチ歌う姉妹を、上から黙って眺めていた。 そのうち、胡坐をかく。 ちら、ちら、と踊りや歌に影響しない程度に姉妹は飼い主の様子を見た。 普通なら観客も嬉しそうに見てくれる。拍手したり、褒めてくれたり。 だが飼い主はまるでどうでもいいような様子だ。 褒められることに慣れた仔は動揺した。 (踊りが足りないから) (歌声が小さいから) 原因を考え、それを補おうと一層踊り歌う。 曲も「ご主人様と私」「みんなでレチレチ」「踊れコンペイトウ君」と次々替えていくが飼い主の反応は薄い。 20分もするとダンス姉妹は汗だくだ、幾匹かは足元も覚束無い。 「き、休憩レチ」 顔を真っ赤にした5女が座り込む。無理もない、ダンスと歌を20分もすればくたくただろう。 5女が休むと他の姉妹も踊りを止め、呼吸を整えようとする。 「おい、どうしたんだ?」 「疲れたから一休みレチご主人様」 次女が慌てて言うが、飼い主は5女を見ている。 「疲れたから少し休んでるレチ」 「ご主人様……踊りが良くなかったら歌にしましレチ?」 伺いを立てる次女の横から「レジャ」と短い悲鳴。 見ると5女が右目からどくどくと出血し、それを両手で押さえている。 「お、お目目がぁぁぁあああああああ!!!!!!!」 「しっかりするレチ!」 長女が駆け寄る。そばには血に染まった爪楊枝をもつご主人様の手。 水槽は天井部分を取り外してあるので手がいくらでも入る。 「誰が踊りを止めていいと言ったんだ」 ダンス姉妹は見た、今まで見た人間と全く違う男の目を。 「踊れ、歌え」 カチカチミツクチから歯が鳴る音がする、足が震える。 暖かな環境で育った彼女らには想像外のことであった。 人間はすべからく優しく、特に飼い主となる人間は格別の愛情を注いでくれる、と信じきっていた。 何かの間違いではないか、と思いながらダンス姉妹は踊った。歌う。 5女だけは脳の近くまで及んだ深手で、座り込んだまま。レレと悲鳴を上げていたので歌っていると言えなくもないが。 踊りが再開すると飼い主は横を向き、何か本を読み始めた。片手でコーヒーを飲む行為以外、読書に専念している。 踊りなどどうでも良い、という姿勢だ。 さらに10分ほど踊り続けると次女が脱落し、眼球を爪楊枝で貫かれた。 「レギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 さらに5分後、3女と4女が倒れた。すかさず無表情に飼い主は爪楊枝を突き立てる。 「レ゛ギャアアアアアアアアアアアア!」 「レジャアアアアアーーーーーー!!!」 転げまわる親指をしげしげと見ている飼い主だが 「つまらん」 そう言うとその場を離れた。 「痛いレチャ!痛いレチャー!」 「見えないレチ、片目が見えないレチー」 「痛いレチ、気持ち悪い、レチ」 「痛い、レチ……なんで?」 うづくまる姉妹の心配をしながら、長女も同じ疑問を持った。 「きっと何か私たちが悪いことしたレチ。後で教えてもらうレチ」 そうショップとは違うのだ、何か悪いことを知らずにしたのだろう。 だから心を鬼にしてご主人様は罰を与えたのだ。 そう考えるしかないダンス姉妹であった。 ************************************* 「勝手に踊りをやめただろ、だからだ」 長女が自分の質問の回答を聞き、硬直した。 「俺が踊れを言ったら踊れ。やめろと言うまでな。ここで命令違反は許さんぞ」 「で、でもいつまでも踊れるわけないレチ。がんばって踊るレチ、でも、でも限界がある…レッチャアアアア!!!!」 長女も眼球を爪楊枝で貫通され床で転がりまわる。 「聞いてないのか?お前らは本当にばかだなぁ」 飼い主の言ったことは絶対だった。 気まぐれに歌えと言われれば歌い続けるしかない。 例え飼い主がTVを見ていようとも、背中を見せて食事していようとも。 飼われて2日目でダンス姉妹にとってダンスは拷問だけの意味しかなくなった。 あれほど楽しかったダンスも、動けなくなるまでさせられてはただの虐待である。 動けなくなると爪楊枝で身体を死なない程度に突き刺された。 時には水槽で静かにしている親指をいきなり刺す。 「ま、まって下さいレチご主人様!レチャアアアアア!!」 冷たいプラスチックの上で姉妹は震えて過ごすほかない。 虐待はそれにとどまらない。 「ご主人様……ベッドが無い・・・・・・レチャア!」 再生しかかった左目を再度潰される次女。 「床で寝ろよ馬鹿」 「ご、ご主人様。身体を洗いたレギャアーーーーーーーーーーーー!」 直りきらない目を潰される長女。 「風呂に入りたい?知るかボケ」 ……姉妹は糞便で汚れ、力の無い目をしてしゃがんでいた。 今は日中。日中だけは概ね飼い主もいない安心できる時間帯である。 いきなり刺されることもなくダンスを強要されもしない。 しかし、なにもない。 玩具もない。 寝具も無い。 エサは朝夕実装フードをいく粒かもらうだけ。 入浴も飼われてから一度も無い、これは毎日洗ってもらっていたショップ時代と違いする。 中途半端に賢い親指はこの環境に耐えられるはずも無い。 「レヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!我慢できないレチ!我慢できないレチ!」 4女が目を血走らせて立ち上がり、壁のガラスを蹴飛ばす。が、ぴくりともしない。 「我慢できないレチャ!ぶっ飛ばしてやるレチャア!」 苦痛と退屈で発狂しかかっている。 「4女ちゃん、無理レチ。相手はニンゲンさんレチ」 「そんなことしたらどうなるか判らないレチ。それよりも仲良くする方法を考えるレチ」 「出来るわけないレチ!」 冷静な次女に唾を飛ばす4女。 「私に考えがあるレチ。任せて欲しいレチ」 夕方、飼い主が帰ってきて水槽のそばを歩くとレチレチ次女が話しかける。いつもならびくびくとしているのに、と飼い主。 「で、何用だ」 「ご主人様、私たちはご主人様の飼い実装レチ。だから、ご主人様から名前が頂きたいと思うレチ」 名前、の単語に全ての姉妹が反応した。びくついて下を向いていたのに、次女と飼い主のやり取りを見る。 「お名前をいただいたら、大切にするレチ」 名前。 実装にとっては極めて重要なものだ。これがなくては野良と基本的には変わらない。 自分は愛される特別な存在だということを実感できる最大の行為が命名なのだ。 だからショップでも名付けは行なわず、飼い主が行なう重要なイベントと位置づけている。 飼われて一週間。彼女らはいまだ名前が無い。口に出さないが、誰もが名前を切望していた。 虐待され辛い日々でも、ひそかに期待していたが口に出す気力も失いかけていた。 次女はそれだけではなく、名前をつければ飼い主も態度がかわるのではないか、と期待してのことだった。 名前をつければ、今までとは多少なりとも関係を修復できるのではないか。 ************************************* 「駄目だ、名前はあたえない。お前らは名無しだ」 「レヒャ!」 「お前らは物だからだ。俺の暇つぶしのためのおもちゃだ、玩具だ。下らない考えは持つなよ」 「……」 希望を打ち砕かれた次女は立ち尽くす。 「ところで水槽が汚いなぁ」 それはそうである、掃除もせず入浴もさせないのでは。 顔をしかめた飼い主 「お前ら掃除しろ」 「レェ……。でも道具がないレチ」 膝を抱えたままの長女が答える。 「服があるだろ、お前らの服で綺麗にしろよ」 「レェ!」 これには無理がある。頭髪と並んで服が実装の命に等しいはあまりに知られている。 そんなことにはお構いなしの飼い主。 4女が前に飛び出す。よつんばいになり、顔に大きなしわをつくり。 「レシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「な、なんてことをするレィ!」 長女は4女が飼い主に威嚇し始めたのに驚愕した。 人間にたいする威嚇は飼い実装最大のタブー。 これをしただけで処分されることすらあるのだ、なぜなら人間とペットの立場を弁えない個体とされるから。 「もう許さないテチ!レシャアアアアアアアアアアアア!レシャアアアアアアアアアアア! フカフカベッド出すレシャアアアアアアア!お風呂よこせレシャアアアアアアアアアアア!」 4女の反乱に長女はおろおろしているが、3女と5女は驚くのをやめ、飼い主を睨みつける。 「レシャアアアアアアアアア!私も怒ったテチ!」 「私もレチ!レシャアアアアアアアアア!」 レシャアアアアアア、と3匹ならんで歯を剥き威嚇する。 「や、やめるレチ」 次女が必死に止めようとするが怒り狂った3匹は止まらない。 蛆はすみで成り行きを眺めているだけだ。 しばらく3匹の威嚇を見ていた飼い主だったが、少し笑うと両手を水槽に入れた。 飼い主が手を戻す。威嚇し続ける4女は頭髪をすっかり失い、禿になっていた。 「4、4女ちゃん……」 言葉を失う長女たち。3女5女も信じられない、といった表情。 レ?と4女も異様な雰囲気に気づき、ついで水槽にいくらか映るわが身の変貌を見た。 慌てて頭髪のあったあたりに短い手を伸ばす。ない、なにもない。なにも。 「レヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 髪!私の美しい髪がないレチャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!! 髪がァァァアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 レチャアアアア!と血涙を流して首が千切れそうなほど振り回す4女。 男は引き抜いた髪を水槽にばら撒いてやる。 「次はどいつだ」 4匹は泣き叫ぶ姉妹を放って服を脱ぐ。そして床や、届く範囲の壁を拭く。 懸命に拭くので服もぼろぼろだし、垢や糞尿や埃に汚れる。 そうして汚れた長女の服を奪うと、ライターで焼き払う。 「レエ!!」 眼球が飛び出しそうなほど、長女は目を剥く。 「汚いからな、焼いてやったぞ」 ブリブリと盛大に姉妹はパンコンする。次女も例外ではない、一応拭いた床を自分で汚してしまう。 次女は自分の服に上からしがみ付く。 「ご主人様、ご主人様!ママからもらった大切な服レチ、やめてレチィ」 情に訴えようと言うのだ 「駄目」 「レヒャア!」 にべも無い。服を次女から奪うと頭上でライターの火であぶる。 「燃やしたら駄目レチャ!服だけは駄目レチャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」 姉妹が見る中、火にくべられた服はほとんど一瞬で燃え上がり、水槽の中に落とされた。 「レヒャアーーーーーーーーー」 引火した5女が走り回る。 「誰か消してレチ!!消ぇしぃてぇレヒャアアアアアアアアアアアア!」 次女は燃え上がる服をペチペチ叩いて消そうとし、やけどして絶叫する。 「お洋服を隠すレチ!隠すしかないレチャ!」 服を隠そうと水槽の隅に押し付ける3女。 「私の服が燃えちゃったレチィィィィ!」 長女が泣き叫ぶ。 「私の髪がぁぁぁああああああああああああああああ!」 喧騒をよそに叫ぶ4女。 蛆はただ姉妹を眺めていた。 結局、さらに3日で飼い主の暇つぶしにより姉妹全てが頭髪と服を失った。 結果論だがおかげで姉妹の仲はまだ安定して残った。 もし一部だけ許されれば、姉妹の格差から禿裸は発狂していたろう。 ************************************* 暇つぶしの暴力やダンスの強要は続いた。 たまにそれらがない日もあるが、そうしたときはエサが与えられない。 絶対与えられない。 空腹はつらい。特に全く何も刺激が無い環境では気が紛らわせられないのでつらい。 今度は虐待されても良いから、えさがほしいとまで考える。 その時は泣き叫ぶことになっても。 わずかな慰めはTV番組。 そこでは優しいご主人様が飼い実装を可愛がる姿が繰り返し、繰り返し放送される。 ……あれは私たちの姿だ そう想像することで現実の苦痛から逃れようとしていた。 小さな女の子が実装姉妹においしいエサを与える。 老夫婦が飼い実装と堤防を散歩している。 名前を与えられ、照れながらお礼を言う飼われ始めたばかりの飼い実装。 どれもが確実にくると思っていた自分たちの未来だ。 ダンス姉妹がお気に入りなのは、親指と蛆の姉妹である。 世話好きの親指が精一杯の面倒をみる姿は微笑ましく、しばしばこの姉妹は登場した。 次女はその姉妹を知っていた。ショップで隣りにいた姉妹に間違いない。 少し頭が悪かったが優しい飼い主に可愛がられている。 ショップ時代は華麗に踊る姉妹を憧れの眼差しで眺めていた格安の姉妹。 しかし真実を姉妹に告げれば、ショックで偽石を割る者もでかねない。 次女は不条理な事実を胸にしまいこんだ。 そうでなくても幸せなほかの実装石の姿は苦痛でもある。 髪があり服があり名前があり可愛がってもらえる。 だがTVでも見ねば退屈でしかたがない。 他に娯楽といえば窓際に水槽を移動されたことで、外の光景を眺めること。 しかし代わり映えもしないし、普通の街中だ。 時折野良や飼い実装が見える。飼い実装なら羨ましいし、例え野良でも羨ましい。 まだ服を着ていた頃、飼い主らしい子供に抱えられた実装が通りかかった。偶然目があったが、 ……一度でいいから自由に出歩いてみたい 願わずには居られない次女であった。 虐待はあらかた受けた。次女の火傷が痛々しいが、姉妹全体で受けた虐待は言葉では言い切れない。 だれもが覇気を失い、うずくまっている。6女の蛆にいたってはほとんど会話できなくなってきた。 抱きかかえてやる気力も姉たちには無い。 心に傷も受けた。姉妹のうち最初に威嚇し髪を奪われた4女は明るい性格をすっかり失った。 軽い虐待を受けたときだ、飼い主が数と同じだけ実装フードを投げ込むと4女は怪我をした姉妹を見もせずフードへ一直線。 これは私のレチ!と叫んで一番大きいらしいのを掴むと、水槽の隅に運んで姉妹を睨む。 他の姉妹は骨折や切断で傷つき、あるいは労わっているのだが。 たしかに食べるくらいしか楽しみは無い。 生きがいだったダンスはもうほとんど踊る機会もないし、あっても強要されるときだけだ。 もっとも飼い主もダンスには飽きたのだろう、精彩を欠き汚れ禿裸が歌い踊っても面白くない。 そのようしたのは、間違いなく飼い主なのだけど。 次女はいつしか夜になっている事に気づき、TVを眺める姉妹を見た。 TVから発する光に照らされる顔には傷や飢えや疲れしかない。 TVを鑑賞するというより、他にすることも無いから、ということだ。 空腹も辛い。次女は光が届きにくい奥へ行き、冷たい床に身体を横たえた。 もう暖かいベッドやふかふかのタオルの感触など覚えていない。不潔なプラスチックの床が寝床だ。おそらく死ぬまで。 あるとき、姉妹は力を合わせて壁をけり破壊を試みた。 ……長女の足が折れ曲がるのが成果だった。 飼われてから一か月しか経っていないが、もう次女にとっては何十年もたったようで、ショップでかわいがられた日々はもう幻同然だ。 よき飼い主に飼われるのを待ち焦がれたのも。 TVが消え部屋の明かりが落とされる。 飼い主の寝室は別にあるので姿を消す。 窓からのわずかな明かりのなか、のそのそと1匹ずつなるべく汚れていない床を探し好きな場所に横たわる。 どこもかしこも汚れがこびり付いているのだが。 誰かが言う。 「今日は虐待が無かったけどゴハンもないレチ、お腹減ったレチ」 「レー……」 「明日はきっと食べられるレチ……」 むごい事に水槽の真横に実装フードの入った袋が置かれている。 初めのころエサを抜かれるとガラス越しに血涙を流し、地団太踏んだものだが水槽内にはもう諦観さえ漂ってきた。 「でも虐待もあるレチ、絶対あるレチ、すっごい痛い事されるレチ、みんなで悲鳴をあげるレチ」 「テレビの仔と蛆ちゃん、幸せそうだったレチ。服も綺麗で髪もあるレチ」 「私たちには縁がないことレチ、私たちは死ぬまでここにいるしかないレチ」 「もう一度だけでいいから、お腹いっぱいおいしいご飯食べたいレチ。ショップじゃ店員さんが色々くれたレチ」 「私は……水で思いっきり体を洗いたいレチ。糞の汚れがとれるまでアワアワで綺麗にするレチ。髪ももちろんレチ」 「あったかいタオルに包まれて眠れたら最高レチ」 「……みんな、無駄な話はやめるレチ、明日は虐待される日レチ。休んでおかないと辛いレチ」 次女が言うと静まり返り、しばらくするとすすり泣く声。 「レェェェェン、レェェェン」 「泣いても無駄レチ」 あまり大声で泣くと飼い主を呼びかねないので、口で抑えながら泣く。 「もう………嫌レチャア、なんで、私たちが……」 「私たちは虐待されるために買われたレチ。……諦めるレチ」 「嫌レチ、頭を割られるのも、お手手を千切られるのも、ゴハンに毒を入れられるのも」 「……はやく、寝るレチ」 「……レェェェン、レェェェェン」 「神様……いるなら助けて下さいレチ」 「長女姉ちゃん、もう寝るレチ」 「私の妹たちは良い仔ばかりレチ。私がどうなっても良いから助けて下さいレチ」 「………………」 「……レェェェン、レェェェェン」 「みんな、きっと良いこともあるレチ」 自分を慰めるように次女。 「生きていれば良いこともきっとあるレチ」 ……………………………………………………………………………………………………………………… 飼い主は寝床で飼い実装のことをふと、考えていた。 近頃は飼い始めほど関心がなかったのだが。 ……最初は面白かったんだけどなー。今じゃ飽きてきたぞ、反応も弱くなってきたし。でも保健所持ってくるも面倒だしなぁ とは言え自分で殺すのも何か面倒だし、公園に放すのはもっと面倒である。 ……ああ、エサやらなきゃいいだけか。共食いしても1週間ももたないだろ ……忘れずに明日朝一番で実装フードを袋ごと捨てないとな そして眠りに落ちた。 END
1 Re: Name:匿名石 2019/02/06-01:59:17 No:00005732[申告] |
実装石に触れるようになったきっかけのスク
衝撃的だった 何度読んでも面白い |
2 Re: Name:匿名石 2023/04/19-12:20:02 No:00007063[申告] |
30万出してやる事はただの虐待とか馬鹿みたいだな |
3 Re: Name:匿名石 2023/09/29-08:05:40 No:00008049[申告] |
ペットが高額なのはちゃんと買ってくれる金持ちだという裏付けもあるからなぁ
30万円でこれはな というか実装石のペットショップ設定微妙、数か月で大人になるしそんな短い期間に教育できるかとかすぐ大人になるのにそんなの買うかか。全員が成長抑制剤とかはありえない糞設定 |
4 Re: Name:匿名石 2023/11/10-02:38:01 No:00008438[申告] |
日常シリーズの中でも大好きな作品
この後の共食いの様子が気になるところ |
5 Re: Name:匿名石 2023/11/10-04:03:51 No:00008439[申告] |
ちやほやされて未来があると思いこんでる連中を買った時点である意味もう虐待と実装生は終了してたって事かな |
6 Re: Name:匿名石 2023/11/10-07:53:39 No:00008440[申告] |
幸せな未来を勝手に確信して裏切られて絶望するの最高
こんな大金払って雑な虐待するだけとはショップ側ですら見抜けなかっただろうけど… |
7 Re: Name:匿名石 2024/12/09-10:40:15 No:00009431[申告] |
このレベルのスクが2007年に投稿されてたのとんでもねえや
名付け設定も既にこの頃には完成してたんだなあ しかしこの地獄の中で他の姉妹の事を自分より考えられる長女恐ろしく善良だな…哀れ |