タイトル:【虐哀】 夏の花 -向日葵-
ファイル:夏の花 -向日葵-.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:20495 レス数:2
初投稿日時:2007/08/13-16:49:36修正日時:2007/08/13-16:49:36
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夏の花 -向日葵-











8月半ば、日中の温度が最高値に達しそうな程暑い日。
そんな暑い日の中、飼い実装のミドリ一家と飼い主夫婦は海へ遊びに来ていた。

「テチャァァ!広いテチー」
「お水いっぱいテチー!」

初めて見る海に仔実装達は興奮していた。
砂浜の適当な所に荷物を降ろしビニールシートを引く飼い主達。
仔実装達は早く海に触りたいのかうずうずしながら飼い主とミドリの周りをうろうろしていた。
そんな仔実装達をなだめるミドリ。

「こらこら、慌てなくても海は逃げないデスー」
「テェェ…」
「テチュゥ…」

親に注意されてうなだれてしまう仔実装達。
そんな光景を見て飼い主は笑っていた。

「はは、それ俺が去年お前に言った事と同じじゃないか」
「デデ!?」

親も同じ注意をされたと知った仔実装の顔が笑顔になった。

「ママもワタチタチと同じテチー」
「慌てんぼさんテチー」
「わ、笑うなデスー!」

飼い主達と仔実装達が笑って、親実装を笑っていたが親実装も同じように笑った。
まさに幸せな家族絵図だ。


「冷たいテチャー」
「しょっぱいテチュー」

浜辺に用意された実装石用遊泳地で泳ぐ仔実装達。
飼い実装石が溺れない様浅い場所に作られた遊泳地である。

「ママも一緒に泳ぐテチー」
「ママ、水のかけっこするテチュ!」

仔実装が親実装に水をパチャパチャとかける。

「冷たいデッスーン♪」

親仔で海水を掛け合ったり、仔達に泳ぎを教えていると飼い主が呼んだ。

「おーい、ミドリ。おやつだぞー」
「デ?おやつデスー♪」
「アマアマテチー?」
「オヤツテチャー♪」

おやつという言葉に過敏に反応する実装家族。
海水をバチャバチャと掻き分けて浜辺と走り出した。

「ご主人様、おやつはどこデスー?」
「今買ってくるからおいで」
「ハイデスー♪」
「「テッチューン♪」」

飼い主の後ろを涎を垂らしながらついていくミドリ達。
海の家に着くと飼い主が店員に注文を伝えてた。
ミドリ達には何をしているか解らなかったが、おやつがもらえるので気にはしなかった。

「ほーら、カキ氷だぞ」
「冷たいおやつデスーン」
「ママ、これはナンテチ?」
「ヒエヒエテッチューン」

ミドリは飼い主からカキ氷を一皿受け取り仔達に見せる。

「これはカキ氷デス。冷たくて甘いデスー」
「テェ?アマアマテチ?」

そういってシロップのかかった部分を仔達に食べさせる。
今回飼い主が頼んだのはイチゴ味だった。
赤く染まった氷が仔達の口へと入っていった。

「テチャァ!冷たいテチュー」
「アマーイテチュー」

仔達は初めて食べる感覚に感激した。

「ママー、モットテチー!」
「アマアマ欲しいテチュー」

ピョンピョンと親実装の周りを飛び跳ねて更にカキ氷を求める仔実装達。

「わかってるデス。あっちでご主人様と一緒に食べるデス」

ミドリは飼い主が砂浜に広げたビニールシートまで行き、再びカキ氷を仔達と食べ始めた。

「ウマイテチュー!」
「アマイテチュー!」

ばくばくと食べるが仔実装が一回に食べれる量は知れていたのでミドリの分は充分あった。

「ご主人様、おいしいデスー」

カキ氷を食べながらミドリは飼い主に喜びを報告する。

「テェ?頭が痛いテチュー…」
「テチャァ!ズキズキテッチャー!」

仔実装達がカキ氷を一気に食べたので頭痛を訴え始めた。
片方はハイペースで食べていた為、頭痛が酷かった。

「落ち着いて食べるデスー」

頭の横を短い手で押さえている仔実装の頭を撫でるミドリ。
もう1匹は頭痛が治まったのだろうか再びカキ氷を食べ始めた。

「テー…」
「もう大丈夫デス?」

頭を撫でられていた仔実装が落ち着いたようである。

「頭イタイの無くなったテチー」

そう言ってカキ氷を食べ始めた。
ただし、今度はゆっくりとであった。

「デ!?私の分も取っておくデスー」

ミドリも再びカキ氷を食べ始めた。
その光景を飼い主夫婦は微笑ましく見ていた。



—夕方

海はすっかり夕日に染まり始めていた。
オレンジ色の夕日を仔実装達は見とれていた。

「キレイテチー…」
「お日様サヨナラテチー」

夕日に見とれていた仔実装達に親実装が声をかける。

「お前達帰るデスー」
「「ハーイテチー」」

ミドリは飼い主達の後ろを歩き始めた。
仔実装達もそんなミドリに追いつこうと走り始めた。

「テッチテッチ」
「テッチテッ…、テ?」

その時仔実装の片方が何かを見つけた。
それは昼間飼い主がカキ氷を買った海の家だった。
夕方で泳ぎ終わった人たちがくつろいでいた。

「オネエチャン!あそこ見るテチ!」

妹が姉を呼び止めた。

「何テチ?ママに置いて行かれるテチ」

確かに走らなければミドリには追いつけない距離だった。
ここでわき道にそれるとミドリと飼い主達とは完全に離れてしまう。

「オヤツがある所テチー!」
「テ?本当テチ」

昼間の海の家は仔実装達の記憶にはオヤツがある所という認識だった。
仔実装達は海の家を見て昼間食べたカキ氷の味を思い出していた。
普段仔実装達はミドリからの躾で一日一回の3時のオヤツのみだった。
だが、今はミドリから離れている。
仔実装達は沸き起こる欲求を抑え込めなかった。

「オネエチャン!オヤツもらうテチ!」
「テッチャー!行くテチー!」

仔実装はミドリの事を忘れて海の家に走り出した。
というよりミドリの親馬鹿加減はこの姉妹仔実装にもわかっていた。
いなくなったら探しに来るだろうと思っていたというのもあった。
海の家の前に着くと昼間飼い主がカキ氷をもらっていた所を注目した。
しかし、高くて仔実装程度の身長では届くはずも無かった。

「テッチー!」
「オヤツ頂戴テチー!」

仔実装達はあらん限りの声を出して店員を呼んだ。

「ん?」

さすがにテチテチという音が聞こえたので店員は周りを見た。
しばらく左右を見ていたが音源がカウンターの真下というのに気が付いた。

「なんだこいつら?」

店員というか明らかに店長とも呼べる初老の人間が仔実装の存在に気が付いた。

「人間サン、オヤツ欲しいテチー」
「ヒヤヒヤアマアマテチー」

仔実装達は人間がこちらに気が付いたのが解ると再び声を上げた。
だが、この店長はリンガルを持っていたが使わなかった。
そもそも実装石自体には興味を持っていないのでリンガルは不必要だった。
それに聞いたとしても大抵はくだらない我侭が聞こえるだけだ。
店長はそんな実装石が嫌いであった。

「仔実装か」
「「テチー」」

店長は一瞬しかめっ面になったが仔実装姉妹の身なりを見て顔を戻した。

「しかも飼いか。お前らにやるもんはねぇよ」

そう言って、あっちに行けというジェスチャーをとった。

「テ?何でくれないテチ?」
「この中に入ればくれるテチ?」

そう言って入り口へ向かい歩き出した。
仔実装達が歩き出したのを見て、店長は仔実装達がどこかに行ったと思い確認をしなかった。

店の中に入るとたくさんの人間がいた。
中にはミドリと同じ飼い実装が居たりした。
ただし、飼い実装連れ専用の席に隔離されていた。

「人間サンが一杯テチー」
「お友達もいるテチ」

通路を歩いていると姉妹の目にある光景がとまった。
それはテーブルの上に置かれたカキ氷だった。

「テッチャー!オヤツテチー
「ヒエアマテッチューン」

姉妹はそのテーブルに向かって一目散に走り出した。
親であるミドリは仔達に教育はしてきた。
だが、それは一般的な飼い実装としての常識だ。
人間社会における常識は教えていなかった。
あれは自分達の物だと、あれは自分達のために用意されている物だと勘違いをして。
だが、それはすぐ近くにいた客一行が注文したカキ氷だった。
おしゃべりに夢中で来たのにまだ気が付いてなかった。
テーブルの前に着くと姉妹は器用にテーブルを上り、カキ氷の前へ着いた。

「「イタダキマチュー」」

こんな時でも礼儀正しく食前の挨拶をし食べ始めた。

「ヒエヒエテチュー」
「アマアマテチュー」

シャクシャクとカキ氷に頭を突っ込み食べ続ける姉妹。
そんな姉妹に人間が気がつくのも時間がかからなかった。

「うわ!?なんだこいつら!」

客の一人が声を上げた。
その声に気がついた客達の視線が姉妹に集中する。
カキ氷を注文した客が仔実装達をつまみあげた。

「この糞蟲!俺たちのカキ氷を食ってやがる!」
「テッチャァー!?」
「放してテチー!」

妹の仔実装が暴れたため、びっくりした客の手から離れた。

「逃げるテチー!」
「テェェン!待ってテチー」

姉の方はまだ客に捕まっていたが妹は我先にと逃げ始めた。

「待て!コノヤロウ!」
「そっちいったぞ!」
「捕まえろ!」
「潰しちまえ!」

周りから怒号が飛び交う。
妹は生まれてから聞いた事の無い人間の声に恐怖を感じていた。

「テェェ、怖いテチー!」

次第に恐怖に支配されていった頭脳はある行動を引き起こし始めた。
仔実装が走った後に緑色の線が走り始めた。

「こいつ糞もらしてるぞ!」

恐怖のあまり糞をもらしてしまった。

「テチャァァ!パンツ汚れちゃったテチー!」

思わず立ち止まって自分のパンツを確認してしまう。
その隙をつかれ人間につかまってしまった。

「捕まえたぞ!」
「テシャァァァァァ!」


姉妹共々捕まりテーブルの上に置かれ、周りを人間に囲まれた。

「こいつら飼い実装か?」
「おい、誰の飼い実装だ?」

実装石同伴の客一人一人が姉妹を確認していくが誰の飼い実装ではなかったという事が確認された。

「外から来たのか」
「構う事はねぇ!潰しちまえ!」

いっそう怒号が店内に響く。

「テェェェ、怖いテチー」
「オネエチャン助けてテチー」

姉妹は抱き合って震えていた。
そんな健気な姉妹に向けられているのは人間達の怒りに満ちた視線だった。

「どうしてやろうか?」
「保健所送りか?JP送りか?」

姉妹達の処遇を喋っていた客達に声がかかった。

「お客様、申し訳ありませんがその実装石の処遇こちらに任せてもらえませんか?」

店長だった。

「だがな…」
「元はと言えばこちらの不手際で起きた事です」

店長は深々と頭を下げた。

「う〜ん」
「ご迷惑をおかけしたので、現在店内にいるお客様の金額は無料で構いません」

店長から太っ腹の提案が出たので客達も揺らぎ始めた。

「ですから、今日の所はおき引き取りお願いします」

再び頭を下げる店長。
客達はそんな低姿勢の店長に根負けした。

「わかったよ、こいつらはあんたに任せるよ」

そう言って客達は荷物を持ち店内から出て行った。
そんな客達に向かって店長は頭をさげ続け、店内に人が居なくなると閉店の看板を店先に出した。

「テー?助かったテチ?」
「怖かったテチー」

助かった。
この人間さんが助けてくれた。
いい人間さんだ。

そんな考えが姉妹に浮かび、先ほどまでの恐怖心は消え去っていた。

「「テッチューン♪」」

姉妹は警戒心も持たず店長に歩み寄って行った。
だが、またひょいと摘み上げられた。

「テ?」

無言のまま姉妹を店の奥へと持っていく店長。
着いたのは調理場だった。
調理場にはかき氷器と焼きそば等を作る鉄板が置かれていた。
焼きそばがまだ作りかけだったためか鉄板の上には焦げた具があった。
店長はその辺に転がっていた野菜のダンボールへと姉妹を入れ、蓋に重しを載せて姉妹を閉じ込めた。

「テー、ここはどこテチ?」
「オヤツ欲しいテチー」

箱の中で騒ぐ姉妹。
先ほどまでの怯えはどこかに消え去っていた。
店長は鉄板の上のこげた野菜を隅へどかしていた。
野菜をどかし終わり、携帯のリンガルを起動して箱の中から姉妹を取り出した。

「お前達、何をしたかわかってんのか?」

先ほどの客への口調とは180度違う口調になった店長に姉妹は驚いた。

「ゴ、ゴメンナサイテチー…」
「オヤツくれるテチ?」

店長の雰囲気を感じ取った姉は素直に謝ったが妹は相変わらず頭はオヤツで一杯だった。
そんな姉妹の反応に店長はため息を漏らすだけだった。

「お前らのおかげで今日の売り上げが大幅にダウンだ」

姉はやばいと思い始めていた。

「許してテチ!ゴメンナサイテチー!」

必死に謝り始めた。

「オヤツどこテチー!」

それに対して妹は何もわかっていなかった。
そんな妹を見て顔が青ざめていく姉。

「こっちの方が馬鹿だな」

馬鹿という言葉を向けられたのがわかったのか妹が顔を真っ赤にして講義する。

「馬鹿じゃないテチー!」
「いいや、馬鹿だ」

店長は妹を目線の高さまで持ってくる。

「人の物に手を出す。これが馬鹿じゃなきゃなんだ?」
「テ、テー」

人間にじっと睨まれ何もいえなくなる。

「本当なら飼い主に弁償してもらうがいちいち探すのもめんどくさい」

店長は鉄板の上にコップ一杯の水を垂らした。
途端にジューという音を立てて水が蒸発していった。

「だから、お前達の体で払ってもらうぞ」

そう言うやいなや妹を持っていた手をぱっと開いた。

「テ?」

重力に従って下へ落下していく妹はドスンと尻から落ちた。

「テッチャァァァァァァァァー!!」

鉄板の上でジュゥゥゥという音を立てて妹は尻を焼いた。

「アッツイテチー!!!!」

急いで立ち上がろうと足を立たせるが足もまた焼かれ始めた。
足をかばおうと手を鉄板につける。
そして、尻餅をついてまた振り出しに戻る。
一連の動作を繰り返していた。

「テチョゥアァァァ!テッシャァァーー!!!」

熱さから逃れようと体を必死にくねらせる妹。
そんな光景を姉はただ見てるしかなかった。

「テェェェェェン!妹チャァァァン!!」
「オネエチャーン!助けてテチー!!!!」

騒ぐ姉妹をよそに店長がヘラを持って鉄板の前に立った。

「ここからが職人の腕の見せ所よ!」

そう言って両手にもったヘラで器用に妹を回し始める。

「テチャァァァァ!!目が回るテチー!!」

その間も妹の体は焼かれ続けた。
次第に服が燃え尽き、髪も燃えて縮れてボロボロだった。

「人間サン、止めてテチー!」

姉が涙を流して止めるように抗議する。
そんな姉の声を無視して妹を回し続ける。
次第に表面がこんがりと焼けたのか焼ける音が小さくなってきた。

「一丁あがり!」

そう言って隅に寄せていたこげた野菜の上に載せた。
野菜の上に居るためかこれ以上は焼けないようだ。

「妹チャーン」

妹に向かって手をバタバタと振る姉。

「テ、テェェ…」

全身を焼かれ、服も髪も失った妹は息も絶え絶えといった感じだった。

「安心しろ」

店長の声が聞こえた。

「次はお前だ」

ひょいっとヘラで持ち上げられたかと思ったら鉄板の上に落とされた。

「テジャァァァァァ!」

再び鉄板から焼かれる音が響き始めた。


仔実装にとっては長い時間だった。
姉妹は全身を焼かれ、こげた野菜の上に置かれていた。

「妹…チャン、大丈…夫…テチ…?」
「オネェ…チャ…ン、イ…タイテ…チ」

姉妹は息も絶え絶えに会話をしていた。

「お前ら熱いか?」

店長がヘラを片付けて姉妹に聞いてきた。
姉妹は頷いた。

「そうか、今冷やしてやるよ」

店長はにやりと笑った。
姉はしまったと思ったがもう遅かった。
店長は空いている容器に姉妹を入れるとかき氷器の下へと持っていった。

「そーら行くぞ」

かき氷器がシャリシャリと音をたてて氷を削り始めた。
姉妹の体に細かく削られた氷が降りかかる。

「冷たいテチー♪」

妹は喜んでいたが姉は不安だった。
こんな物で終わるわけが無い、と。
ある程度姉妹に氷がかかると店長はかき氷器を動かすのを止めた。
そして、姉妹の体にかかっている氷になにかパラパラと白い粉を振りかけ始めた。
それは塩だった。
氷に塩をかけるとどうなるか?
答えはすぐ出た。

「冷たすぎるテチー!」
「体イタイイタイテチー!!」

氷に塩をかけると氷が早く溶け始めて急激に周囲の温度を奪っていくのである。
しばらく放置して氷が溶け切る所にまた新しい氷をかける。
そして、また塩をかけて姉妹が騒ぐの繰り返しを数回行った。



「とっとと消え失せろ!」

そう言って姉妹を砂浜へ投げ飛ばした。

「テチャァ!」
「テェェ!」

砂浜へ放り出された姉妹はボロボロだった。
全身が火傷になり所々に水ぶくれが出来ていた。
氷で冷やされた為かヨロヨロと立ち上がれる位に体も再生をしていた。

「い、妹チャン。歩けるテチ?」
「オネェチャン…、起こして欲しいテチ…」

姉は妹に肩を貸すと妹を起こした。
姉妹はお互いに体を支えあって歩き始めた。

「オネェチャン、どこ行くテチ?」
「ママの所に帰るテチ…」

ヨロヨロとゆっくり歩く。

「ママ、ドコテチ?」
「ワカラナイテチ…」

姉はただあの建物から逃げたかった。
自分達をこんな目に合わせたあの建物から。

しばらく歩いていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「どこにいるデスー!?」

その声は姉妹にとっては聞き覚えのある声だった。

「テ!?ママテチ!」
「ママの声テチ!」

姉妹は母に会いたい一心で歩みを限界まで早くする。

「ママー!ワタチはここテチー!」
「ママー!ママー!」

ミドリも聞き覚えのある声に気がつき、声がする方へと走り出した。

「ここデス!?」

ミドリが姉妹を発見した。
だが、ミドリは姉妹の姿を見て怪訝そうな顔をした。

「「ママー!」」

母の姿を見た姉妹は喜びの声を上げた。
だが、母から出た言葉は

「お前達誰デス?」

「テ?」

親であるミドリが見間違うのは無理もなかった。
全身を火傷になり、服と髪が無いボロボロの禿裸。
自分の子供かと目を疑うのは無理な話だ。

「ママ!ワタチテチー!」
「ダッコして欲しいテチー!」

近寄ろうとする見知らぬ仔実装にミドリは警戒心丸出しだった。
1匹の近くによると鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めた。
自分の仔なら知ってる匂いがするはずだった。

「臭いデス…。ワタシの仔じゃないです」

自分の仔じゃないと聞いてショックを受ける姉妹。
原因はさっきの海の家で焼かれたためだった。
鉄板に残っていた油が姉妹の全身に満遍なく染み渡りミドリの仔であるという匂いが完全に消えていた。

「ママー、ダッコー!」

妹が母に抱きつこうとトコトコと近寄っていく。
ミドリは近づいてきた仔実装に蹴りを見舞った。

「テビャァ!」

いきなり蹴られて倒れる妹。

「ママ、イタイテチー」
「デシャァァァァ!!ワタシをママと呼ぶなデスー!!」

妹に蹴りを入れて威嚇する。

「テェェェ?」

目の前の光景に姉は信じられない物だった。
妹に容赦なく蹴りを入れる母親に姉は目を疑った。

「ワタシを騙して飼い実装になるつもりデス?」

ミドリは顔に皺を作り鋭い目つきで姉妹を睨んだ。

「そうはいかんデス!糞蟲はそこでのたれ死んでるといいデス!」

ミドリからは姉妹が自分を騙して飼い実装になろうとしている野良に見えているようだった。
姉妹はミドリに信用してもらえずただ恐怖で震えるだけだった。

「どうして信じてくれないテチー」
「ママー!ママー!」

ミドリはフンと鼻を鳴らすと踵を返した。
立ち去ろうとしているミドリに妹が走りよった。

「ママー!待ってテチー!」

あと少しで追いつくというところでミドリが振り返った。
妹は一瞬顔が明るくなったがすぐに後ろへと吹っ飛んで行った。

「いいかげんにしろデス!」
「テクポァ!?」

振り向きざまのカウンターパンチが妹の顔にクリーンヒットした。
ミドリに向かって走っていった為威力も倍増していた。

「テチャァァァ!?妹チャーン!」
「テ、テェェ…」
「次にワタシをママと呼んだら容赦しないデス…」

ミドリは暗く凄味のある声で最後の警告を伝えた。
妹は顔面を殴られ鼻からは鼻血を出し、口の中も切れて歯が何本か抜け落ちていた。

「テェ…」
「テヒュー…」

ミドリは2匹の仔実装から視線をはずし再びある行き始めた。
もう姉妹は追いかけようとしなかった。



—夜

すっかり日が落ち辺りは暗くなっていた。
誰も居ない砂浜に波の音が響き渡った。
姉妹たちはミドリが去った後、安全な場所探して移動した。
ほとんどの遮蔽物が人間の近くだったので安全な場所を探すのに苦労した。
結局、姉妹が行き着いたのは浜辺に設置されたゴミ箱の下だった。
溢れるゴミの間をぬって奥へと進むと天井がゴミ箱の広い空間があった。
姉妹はここで一夜を過ごす事にした。

「妹チャン、大丈夫テチ?」
「お口痛いテヒュー」

口内を怪我している上に歯が何本か抜け落ちた妹は語尾が少しおかしくなっていた。
そんな妹の為に姉は食べ物を探しに出かけようとしていた。

「オネェチャン、いい匂いがするテヒュー」
「テ?」

妹に言われて鼻を利かすと確かにいい匂いがした。
周りのゴミからかすかに匂う。
姉は壁の変わりになっているゴミを物色し始めた。
そこには一本の串があった。
力を込めて引き抜くと抜けた拍子に後ろにこけてしまった。

「テチャァ!?」

頭をさすって抜いた串を確認する。
そこには食べかけのフランクフルトが残っていた。

「テチャァァァ♪お肉の匂いテチー」
「テッヒューン♪」

飼い主の家に居ても滅多に食べられない肉が串に付いていた。
普段からミドリから人間の食べ物を食べ過ぎてはダメだと言われていた。
だが、まだ仔供の姉妹にとっては人間の食事は甘美なる物だった。
もっと食べたいと姉妹そろって駄々をこねた事もある。
その時は決まってミドリの愛の鉄拳が姉妹の頭に振り下ろされていた。
今は自分達だけだ、好きなだけ食べられる。
我慢するというリミッターはすぐに解除された。

「ムグムグ…、お肉ウマイテッチューン♪」
「テヒ!?お口痛いテヒュー」

妹は口内が切れているので固形物がぶつかって傷に響いた。
そんな妹の為に姉は小さく齧りとったフランクフルトを妹に与えた。

「オネェチャン、アリガトウテヒュー♪」

小さくなった肉片を食べて妹は喜んだ。
姉妹は腹が膨れるまでフランクフルトを貪った。




—ゴミ箱の下

この下にいるのは何日目だろう?
姉はそう思っていたが考えないようにした。
考えた所で何の解決にも繋がらないからだ。
ゴミ箱のしたは夏の太陽の熱で暑かった。
そんな時姉はまたゴミを物色し始めた。
ゴミの中から紙コップを見つけると中を見る。
人間が飲み残した清涼飲料水と氷が入っていた。
姉は妹を連れてその紙コップに入り涼を取っり暑さを凌いだ。
トイレに行きたくなったらゴミの中にある口の開いた袋へ入り排便を行う。
地面にすれば匂いで人間にここに居ることがばれてしまうからだ。
時々ゴミを回収に人間が来る事もわかり、ゴミ収集をする人間が来るとじっとゴミ箱の下に隠れていた。
その際はゴミの後ろに隠れたりした。
収集に来る人間は全部のゴミを回収しようとはしなかった。
この暑さの中で真面目にゴミを拾うのが嫌なのだろう。
目に付く大きいゴミだけ広いさっさと帰っていった。
姉は自分の知識をフルに使い妹と生き延びていた。

「ここは天国テチー…」
「でもママに会いたいテチー」

ミドリに受けた仕打ちを思い出す姉妹。
あんな事をされてもミドリは母親なのだ。
そしてまた浜辺に夜が来た



—真夏の夜

今日も蒸し暑い。
今日はゴミの回収が遅かった為に姉妹の周りにゴミはほとんど残っていなかった。
涼を取るための紙コップも見当たらない。
だが、暑い。
姉は決心して妹に言った。

「妹チャン、海に行くテチ」
「テ?人間サンいないテチ?」
「もう真っ暗テチ。人間サンもいないテチ」

姉妹はそろそろとゴミ箱の下から出た。
人間がいないと言ったが姉も内心はびくびくしている。
周りに人間が居ないことを確認すると姉妹は海岸へと向かった。
波打ち際で波を体に受ける。
それだけで涼しかった。

「冷たいテチー」
「ヒエヒエお風呂テチー」

姉妹は海でしばらく遊び始めた。
ゴミ箱の下にずっといた為、久しぶりの遊戯を楽しんだ。
だが、そこに複数の影が近づいていた。

「なんだありゃ?」
「何かいるぞ」

それは人間だった。
ちょうど姉妹とは別方向で花火をしていた人間達だった。
花火も少なくなり時間も遅いので引き上げてきたのだ。
そして、波打ち際で動く影を見つけた。

「仔実装じゃないか」
「テ?」

人間の声が聞こえたので周りを見る姉。

「しかも全身火傷してるし」

人間の一人が姉をひょいと耳をつまんで持ち上げる。

「テチャァァァァ!?お耳痛いテチー」

じたばたと手足を振り回すがどうにもならなかった。

「こっちのも全身火傷状態だぞ」

妹も人間に腕を掴まれて持ち上げられていた。

「テチー!放すテチー!」

姉妹は空中に持ち上げられて手足をパタパタと動かしていた。

「こいつらなんて言ってるんだ?」
「ちょっと待ってくれ」

人間の一人が携帯のリンガルを起動する。

「放せって言ってるぞ」

携帯の画面に翻訳された言葉が出る。

「じゃあ、放してやるよ」
「テェ!?」
「テヒャァ!?」

そう言うと同時に二人は姉妹から同時に手を放した。
地面に落下する姉妹。
砂のおかげで潰れるという事は無かったが結構な高さから落とされたので体に激痛が走った。

「テェェェン!痛いテチー!」
「人間サン許してテチー」
「許してくれって言ってるぞ」
「許すもなにも、まだ何もしてないんだけどな」

必死に人間達に命乞いをする2匹の生物を見ていると人間達にどす黒い感情が芽生え始めた。

「おい、花火余っていたよな?」
「ん?ああ」

袋から余った花火を出し始めた。
ロケット花火に打ち上げ式、ネズミ花火等が数本あった。

「よーし、じゃあ始めるか」

そういって人間の一人が手持ち花火に火を付けた。
火が付き火花を出し始める。
姉妹は火花に見とれていたが、人間の持つ花火が自分達の方へ向けられた。

「テチャァァァ!熱いテチー」
「熱いのもういやテチー!」

火傷の跡に火花が降りかかる。
姉妹は必死になって逃げるが人間の方が速度が上だった。

「そらそら、早く逃げろー」

人間はわざと姉妹に火花がかからない様に調整しながら追いかけた。
しばらく追い回すと火花が出なくなった。

「ありゃ、もう終わりか」

燃え尽きた花火を捨てる。

「おーし、次は俺の番だ」

別の人間がネズミ花火持って、走り回ってへばっている姉妹を掴んだ。

「テェェ!?」
「オネェチャーン!!」

人間は姉妹の両肩にネズミ花火を通し、地面へ下ろした。
そして両肩にかかったネズミ花火に火をつけた。

「「テェェェェェェ!!」」

顔のすぐ近くで火花を上げ回転を始めたネズミ花火に姉妹は驚きながら走り始めた。
振り落とそうと両腕を振り回すがなかなか落ちなかった。

「お顔熱いテチー」
「目がー目がーテチー」

やがて姉妹の両肩からするりと落ちたネズミ花火は地面に落ちた。
今度は足元で火花を撒き散らし始めたので再び姉妹は逃げ回り始めた。

「テチャァ!テチャァ!」
「テヒーテヒー」

地面の火花をかわそうと必死にピョンピョンとジャンプする姉妹。
その光景に人間達は爆笑をしていた。

「ははは!必死すぎ!」
「もっと跳べー!」

ネズミ花火が終わりに近づいた時、ポンと音を立ててネズミ花火が爆発した。
爆発した時丁度ジャンプしようとしていた姉妹は音に驚いて同時に後ろへと盛大にこけた。

「「テチャァァ!?」」
「ぶはははは!コントみてー!」
「おーい、次の準備できたからそいつら連れてきてくれ」

別の人間が用意した次のステージが開演を始めた。
そこには余っていた打ち上げ式花火が円を描くように並べられ中心を向いていた。
人間はその真ん中に姉妹を下ろした。

「よーし、着火するぞー」

そう言うと打ち上げ式花火に次々と点火し始めた。
火の付いた花火から順番に大量の火花が吹き始める。

「テェェェ!?」
「熱いのがいっぱいテチー!?」

姉妹は逃げようとするが全方位から火花が飛んできたので逃げる事すらできなかった。
ただ、真ん中で姉妹背中合わせでじっとするしかできなかった。

「オネェチャン、怖いテチー!」
「動いちゃダメテチー!動かなければ熱くないテチー!」

リンガルでその言葉を拾った人間は足で少しずつ花火を中心に向けて動かし始めた。
姉妹には気づかれない様に少しずつ少しずつと。
やがて火花はじっとしていた姉妹に降りかかり始める。

「テェェェ!?熱いテチー」
「何でテチー!?」

パラパラと火花が頭に降りかかる。
必死に振り払おうと届かない手を頭に向けて振る。
なんとも滑稽な絵だった。

「何してんだ?こいつら」

人間からすると顔の横で手をパタパタと動かしてるようにしか見えなかった。

「火花を振り払ってるんじゃない?」
「あれでか?」
「本人達はそう思ってるみたいだけどね」

人間達の爆笑が響く。
打ち上げ式花火も終わり姉妹はぐったりと座り込んでいた。
もう偽石も限界の近いのだろうかグロッキー状態だった。

「モウ、イヤテチ…」
「オウチ、カエリタイテチ…」

ただ、そうつぶやいていた。
だが、人間達の狂宴は終わっていなかった。

「メインディッシュだ!」

そう言って取り出したのはロケット花火だった。
人間の一人が姉を掴むと乱暴に遠くへ投げ飛ばした。

「テペェ!?」

頭から砂に突っ込む姉。
そこへ人間の声が響く。

「目標発見!ただしに攻撃開始!」

3人程の人間がロケット花火とライターを持って姉に狙いを付け始めた。

「テェェ!?」

ただ事ではないと思った姉は人間から離れようと背を向けて逃げ出した。

「発射!」
「点火開始!」

人間達がロケット花火に火をつける。
ピューとかん高い音を上げながら姉に向かって飛んだ。
姉は必死に走るが実装石の速度では無理な話だった。
1発目が姉に向かってくる。

「テチャァ!」

姉の右側の砂に着弾したロケット花火は爆発をした。
姉はそれを見て当たったらやばいと思い、顔を青ざめながら必死に走り続けた。
2発目は姉の頭をかすめて前方へと着弾した。
そして3発目が飛んできた。

「テチョォォォ!?」

3発目は見事に姉の尻に命中したが、爆発しなかった。
尻に当たって地面に落ちたロケット花火が足元で爆発して姉の体を空中へと上げて、姉はそのまま顔面を砂へと打ちつけた。
姉はしばらくぴくぴくと痙攣をし続けていた。

「命〜中〜だけど、死ななかったな」

人間の一人が姉を回収する。

「おーい、起きろー」

人間がペシペシと顔叩いて姉を起こす。

「テェ…?」
「妹の晴れ舞台だぞ」
「オネェチャーン!!!」

見ると妹が人間に何かされていた。

「テチャァァァ!妹チャンに何するテチー!」

止めようと思ったが人間に体を持ち上げられていたので何も出来なかった。

「さてと最後の仕上げにっ!」
「テビャァァ!?」

人間が妹の総排泄口へと3本のロケット花火を糸でまとめた物を突っ込んだ。
導火線部分だけは外に出し、1本にまとめていた。

「イタイテチー!オマタイタイテチー!」
「テェェェン!妹チャーン!」
「妹の最後の姿。その目に焼き付けろよ!」

導火線に火が着いた。
そしてロケット花火は発射された。

「テッチャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………………………!!!!」

妹は空中に打ち出されて声が遠ざかっていった。
そして、ある程度飛んでいった所でポンと音を立てて爆発した。

「テェ…」

それが何を意味するか姉は理解してしまった。
もう妹は生きていない、生きていてももう会えない。
姉はしばらく呆然と海を見ていた。

「さて、帰るか」
「あー、面白かった」

人間達は用済みとなった姉を放置して帰り始めた。


どれくらい時間がたっただろうか。
姉は星が輝く空を見続けていた。

「妹チャン…」




—再び朝

「どこデース?ワタシの仔供達ー?」

ミドリはまたこの海岸に来ていた。
あきらめきれないミドリは飼い主に土下座をしてまでお願いして連れてきてもらった。
ただし、これが最後だという条件付で。
それ故に必死だった。
ここで見つけられなかったらもう仔供達に会えない。
ミドリは目を血走らせながら探し続けた。

「いたら返事するデース」

ミドリは走った。
走りながら呼び続けた。
喉が渇き声が枯れようとも呼び続けた。

「デー…、どこにいるんデス…」

ミドリは小休止を取ろうと首から下げた水筒の中身を飲み始めた。

「テー…」
「デ?」

聞き覚えのある声だった。
ミドリの前に現れたのはすっかり体がパサパサに乾き、目も曇りどこを見ているか解らない目になった仔実装だった。
だが、ミドリにはその仔実装に見覚えがあった。
自分を騙そうとした仔実装だと。

「またお前デスか…」
「マ、ママ…」

また自分を母親だと言った。
ミドリのこめかみに青筋が浮かび始めた。

「デシャァァァー!」

ボフンという音を立てて仔実装を殴りつけるミドリ。

「言ったはずデス!次にママと呼んだら容赦しないと言ったデス!」
「テ…!テヒ…!テビュ…!」

馬乗りになり仔実装を殴りつけるミドリ。
殴られる度に短い叫び声を上げ痙攣する仔実装。

「糞蟲!死ぬデス!」

どれくらい殴っただろうか。
仔実装の顔はすっかり腫れていた。
ミドリはデーデーと息を切らして立ち去ろうとした。

「まったく!お前のおかげで無駄な時間をすごしてしまったデス!」

再び歩き出すミドリ。

「マ、マ…マ…」

また自分の事をママと呼んだ事にミドリは完全に怒髪天を衝く状態だった。

「いい加減にしろデスー!!!」

今度こそ殺そうと思い仔実装に向かって歩き出すミドリ。
だが、仔実装の口から出た言葉に耳を疑った。

「ママ…、ピクニックタノシカッタテチ…」
「デ?」

ミドリはピクニックという単語に反応してしまう。

「アカイハッパガイッパイテチ…」
「デ…!」

仔実装は淡々と続けた。

「イモウトチャントイッショニイッパイアツメタテチ…」
「…!」

…
……
………

「ママー、一杯取れたテチー」
「赤いの黄色いの一杯テチー」

「すごいデスー、さすがワタシの仔供デスー」

ミドリは姉妹が持ってきた紅葉に感激していた。

………
……
…


「トゲトゲノボールガイタカッタテチ」

…
……
………

「テチャァー!痛いテチー」
「テェェ!妹チャン!」

妹が栗のいがが手に刺さって妹が泣き叫んでいた。
ミドリはそんな妹を抱いてあやした。

「もう大丈夫デスー。痛いの痛いのとんでけデスー」

飼い主に剥いてもらった蒸した栗は甘くて頭がとろけそうだった。

………
……
…


「ツメタイシロイノガイッパイダッタテチ」

「イモウトチャンガヒエヒエナッタテチ」

…
……
………

「寒いテチー」
「白くてキラキラテチ」

雪を初めて見る姉妹は実装石用の防寒具を着て外で遊んでいた。
飼い主達が北へと旅行をするので飼い実装のミドリ達も連れてきていた。

「お前達気をつけるデスー」

「テッチテッチ!」
「テッチャー!」

姉妹は雪の中を走り回っていた。

「テチャァ!?」

突然妹が地面に消えた。

「デェ!?」

ミドリは急いで妹が消えた所へ駆けつけた。
そこにはぽっかりと地面に空いた穴があった。
丁度姉妹が遊んでいたのは池の上に張った氷の上だった。
薄い所で飛び跳ねていた為か氷が割れ、妹は池に落ちたのだ。

「テチャァ!助けてテチー!」
「デェェ!早く手に捕まるデスー!」

妹がミドリの出した手を掴むとミドリは一気に引き上げた。

「妹チャン!大丈夫テチ?」
「サ、サムイテチー」

防寒具でも濡れれば体温を奪っていく。
ミドリは急いで飼い主の元へと戻った。
飼い主の迅速な処置が良かったのか妹は一命を取り留めた。
ただ、次の日はホテルで大人しくなっていたが。

………
……
…


「ピンクノオハナガイッパイサイテイタテチ…」

「ママガオシエテクレタテチ…、アレハサクラッテイウテチ」

「ポカポカオヒサマキモチイイテチ…」

…
……
………

「綺麗テチー」
「ピンクが一杯テチー」

姉妹は風で飛ぶ桜の花びらに見とれていた。
サーという音と供に空中に飛び交う桜の花びらをいつまでも見ていた。

「ママー、あれはなんていうお花テチ?」

「あれは桜デス。ポカポカになると咲くお花デスー」

春の陽気にあてられ、よく公園の桜の木の下で親仔で昼寝をした。

「幸せデスー」
「ママ、ワタチもテチー」
「ワタチもテチー」

………
……
…


何で!?何で仔供達と一緒に過ごした時を知ってる?
ミドリの頭はそれで一杯だった。
同時に嫌な汗がダラダラと体に流れ始めた。

「ママ、ワタチノナマエオボエテルテチ…?」
「デ?」

「ゴシュジンサマガイッテタテチ…」

やめろ

「ナツノハナノオナマエテチ…」

言うな

「オヒサマガダイスキナオハナテチ…」

もういい

「ワタチノナマエハ…」

ワ タ シ ヲ ク ル シ メ ル ナ






「"ヒマワリ"テチ…」








パキン…











—それからの季節

あの夏以来ミドリはふさぎこんでしまった。
仔を失った一時的な感情と飼い主は思っていた。
すぐに治るだろう、仔を生めばまた元に戻るだろう。
そう軽く考えていた。

「デー…」

ミドリは考えるのを止めた。
考えても脳裏にあの姉妹が出てくる。
ミドリは寝るのを止めた。
寝ると夢にあの姉妹が出てくる。
ミドリは食べるのを止めた。
食事をすると餌皿の周りにあの姉妹が出てくる

「デー…」

ミドリはもう一度呟いた。
また、目の前に姉妹が出てきた。
テチテチと鳴きながらミドリの前で遊んでいる。
やがて姉妹が親実装に語りかける。

"ママ、ママ"

「デー?」

"ママ、モウダイジョウブテチ"

「デー…」

何がもう大丈夫なんだろうか?
今のミドリにはわからなかった。

"ママハモウイインテチ"
"ママハワルクナイテチ"

ミドリの頭に響く声。
もういい、悪くない。
ミドリの頭が都合よく解釈した言葉かもしれない。
だが、ミドリには解放の言葉だった。

「もう、いいんデス…?」

""テチー!""

姉妹は元気よく返事をした。
ミドリは目から涙を流した。

「ワタシも、今、い、く、デ、s…」








また夏がやってきた。
飼い主宅には新しい仔実装姉妹が生活を始めていた。
飼い主は仔実装姉妹に名前を与えることにした。

「お前達の名前は夏の花からとって…」







−終−









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1 Re: Name:匿名石 2024/02/25-05:00:18 No:00008781[申告]
元はと言えば姉妹が悪いんだけどやるせなくなるなあ
こういうスク大好きだ
2 Re: Name:匿名石 2024/02/25-06:25:39 No:00008782[申告]
飼い実装が虐待以外で不幸になるの良いよね
楽しかった頃の思い出が丁寧に描写されてて素晴らしい
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