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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】
弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため
強引に異世界を旅行する羽目になった。
「実装石」と呼ばれる人型生命体の存在する世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間という
タイムリミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならなくなった。
実装生物を捕食する実翠人が住む「ネガ実装人の世界」に飛ばされ、ぷちやミドリ達と離れ離れ
になってしまったとしあきは、あらたに知り合った仔実装マルと共に「巨大移民用宇宙艇ペガサス」
内部を探索していた。
しかし船内に巣食っているバケモノのせいで思うように行動が取れず、ついにタイムリミットが
超過してしまう。
一方、実翠人達からの情報で「神の地」と呼ばれる土地にたどり着いたぷち・ミドリ・ひろあきと
ヒスイ・ルリの一行は、超近代的な廃墟の街の中でマラオークの集団と対決する。
だがその直後、突然現れた謎の存在の急襲を受け、ヒスイは右脚を失うほどの重傷を負ってしまった!
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じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第9話 ACT-4 【 デッド・オア・ジ・エンド 】
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すっかり太陽が昇った頃、いつの間にかうたた寝していたルリとひろあきは、近くから聞こえてくる足音と唸り声で目覚めた。
窓から身を潜めつつ様子を窺うと、数体のマラオークが歩き回っている。
それはまるで、街を闊歩するヤクザのようだ。
何かを探しながら歩いているようだが、やがて彼等はルリ達の馬車と繋がれたトカデーを発見する。
トカデーは身体を丸めて寝息を立てており、マラオークに気付かない。
だがマラオーク達は、馬車の存在に気付きつつも何もせず、それどころか建物の中を覗こうともせずに、そのまま通り
過ぎて行った。
「どうしたんだ? いったい」
てっきり襲撃してくるものと思っていたルリは、手に握ったショーテルを床に降ろした。
“あいつらも、あのバケモノを警戒しているのかもしれないね”
ようやく起き出してきたひろあきは、ルリから説明を受け、フフン♪と鼻を鳴らした。
建物の外を見てみると、すぐ手前のアスファルト一面に細かいひび割れが出来ており、少し離れた所が小山のように
盛り上がっている。
それは、あのバケモノが地中を移動し、この近くまで来た事を示している。
マラオークが何もせず通り過ぎた理由は、恐らくこれだろうと結論付けるしかなさそうだった。
だがものの数分もしないうちに、どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。
人間の者ではない。
デジャギャアァァァァァァ——ヂッ!!
ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ……
再び激しい地震が発生し、アスファルトのひび割れが生き物の血管のように脈動を始める。
咄嗟に地に身を伏せたルリは、慌てふためくひろあきを押さえつけると、状況確認を行う。
「さっきの、マラオークか?」
“悲鳴だったよね、アレは”
モゲフ〜…
背後から、トカデーの鳴き声が聞こえる。
と思った瞬間、バコッという破裂音が轟き、トカデーの気配が瞬時に消滅した。
モゲ……ヂュッ!!
ぷしゃっ、と血が飛び散る音と、水風船が割れるような音が同時に聞こえ、馬車が粉々に粉砕される音が続く。
振動は更に激化し、建物から十数メートルほど離れた交差点の路面が隆起し始めた。
「くるぞ! ひろあき、ぷち達を!」
“わ、わかったよ!”
ひろあきが建物の中に退避したのを確認すると、ルリはショーテルを構え、小山に向かって突進する。
3メートルほど盛り上がり、まるで花開くつぼみのように捲れ上がったアスファルトの隙間から出てきたのは、赤黒い肌色を
した楕円形の物体だった。
その下部には、大きく裂けた口と、そこから覗く無数の牙が見える。
やがて楕円形の物体はずるずると伸び、大蛇のような姿を現した。
長さは、地表に出ただけで軽く5メートルはあるだろうか。
よく見ると、長い首の一部に、ショーテルの一部と思われる破片がめり込んでいる。
「やはり、昨日の奴か!」
既に路面は酷い有様で、とてもまともに歩ける状況ではなかったが、それでもルリは構わず突進する。
アスファルトの破片を踏み砕き、再び飛翔すると、今度は首の中心部分に向けて剣を振るう。
だが、「大蛇」は予想外にスピーディな動きを見せ、信じられない速度で首を地面の中に引っ込めた。
と同時に、何かがルリに向かって投げつけられる。
「くっ!!」
咄嗟にそれを斬り飛ばし着地したものの、「大蛇」は潜ったきり出てこない。
次の動きを警戒し、数メートル下がったルリは、先ほど咄嗟に斬った物体を再確認した。
それは、ぐしゃぐしゃに噛み潰されたマラオークの死体だった。
「マラオークをも、捕食しているのか……」
再び地震が発生し、離れた地点で隆起が起こる。
それは、ひろあきやぷちが待機している、ビルの目の前だ!
「しまった——!!」
グモオオォォォォォッッッ!!
メリメリメリメリ……
建物の入り口前が瞬時に盛り上がり、そこから出現した「大蛇」が、鎌首をもたげる。
中から、誰かの悲鳴が聞こえてくる。
ルリは全力で踏み切り「大蛇」に斬りかかるが、即座に反応された。
「!!」
「大蛇」の首が、ルリを真正面から捉える。
大きく開かれた口の中には、乱雑に生えた牙が獲物を待ち構えていた。
滞空中のルリは、避けることが出来ない。
目を剥いた次の瞬間、「大蛇」の口が、驚くほどの速度でルリに迫ってきた。
「ウワアァァァァァッッ!!!」
5sec.
count over.
——ズバッッ!
突然、ルリの視界から大きな口と牙が消えた。
と同時に、横から大きな力で殴りつけられたような衝撃を受け、吹き飛ばされた。
抗う術はなく、ルリはそのままひろあき達のいる建物の向かいまで吹っ飛ばされる。
幸い、何か柔らかいものに激突したため、大きなダメージはなかったが、それが先ほどまで自分を捕らえようとしていた
「大蛇」の生首だと気付くのに、若干の時間がかかった。
「——えっ? えっ?」
事態が飲み込めないルリは、慌てて周囲を見回した。
「大丈夫です? ルリっ!」
背後から、元気な声が聞こえる。
「え……まさか?」
「危なかったです、もうちょっと遅かったら、お前バックリ食われてたです☆」
「そ、そんな……どうして、どうして君が?!」
まだ僅かに粉塵が立ち込める中、一つのシルエットが佇みこちらを見つめている。
すらりと長く伸びた足、風にたなびく長いポニーテールとリボン、そして服のあちこちに付いたフリル。
やがて視界が晴れ、はっきりとした姿が見えてくる。
ルリは、自分の目を疑った。
「ヒスイ! ど、どうして?!」
「えっへん!! ヒスイは不死身なんですっ♪」
にははと笑いながら、ヒスイは呑気にピースサインを突き出す。
見れば、建物の窓からぷちとひろあきも顔を覗かせていた。
失われた筈のヒスイの右脚は、何事もなかったかのように復元されている。
否、正確には——ヒールブーツだけがない。
死に掛けていた筈のヒスイは、明らかに、ルリよりも元気そうだった。
「君は、いったい何者なんだ?
実装人じゃないの?」
ルリの真剣な問いに、ヒスイは小首を傾げる。
「でぇ? ヒスイは、今まで一度も実装人だなんて言ったことないです」
「えっ?」
目を剥いて驚くルリをよそに、ヒスイは、階上から見下ろすぷちに向かって手を振る。
そしてその様子を、遥か上空から見つめている“機械の目”があった。
※ ※ ※
建物を引き払い、安全な避難場所を求めて移動を始めたルリ達は、かろうじて回収出来た保存用の食料をかじりつつ、
当て所なく彷徨っていた。
宇宙船の影のせいで、日中にも関わらず夕方のように暗い街並を歩き進む。
よく見ると、所々が大きく破壊されており、またマラオークのものと思われる「残骸」も無数に散乱していた。
先の「大蛇」は、まだ死んでいないようだ。
切り飛ばされた首の残骸は残ったものの、本体は逃げたようで、穴の中には何も残されていなかった。
絶望感に打ちひしがれたルリは、自分の前をスキップまじりに歩くヒスイを見て、先ほどの疑問を思い出した。
「そろそろ教えてくれないか。
君が実装人じゃないって、どういうことなの?」
「うーん、別に説明するほどのものじゃないです」
「びっくりしたテチ!
ヒスイオネーチャ、凄すぎるテチ!」
“全くデス。
起きたらいきなり足生やしてるデス、何事かと思ったデス”
「そんな安易に納得してもいいのかなあ?!」
ルリの追求をのらりくらりとかわし、ヒスイは自分の秘密を明かそうとはしない。
ただ「いずれ説明する時が来るです」と、繰り返すだけだった。
気が付くと、先ほどからひろあきの声が聞こえない。
見ると、彼は随分先を歩いているようで、こちらに向かって手を振っていた。
“おーい、ちょっと来てくれ!”
“デェ? どうしたデス、クソドレイ2号?”
交差点の角に、一台のバンが停車していた。
バンというよりは、タイヤの付いてないマイクロバスのようにも見える。
周囲の建物と異なり、これだけは埃で汚れておらず、まるで車庫から出したばかりのように綺麗だ。
不思議そうに覗き込むぷちの目の前で、突然側面部が展開した。
中には複数の座席が並んでおり、室内灯も点いている。
どこからともなく、女性の声が聞こえてきた。
『皆様、お待ちしておりました。
どうぞ、お乗りください』
「テェ? 誰もいないのに誰かの声がするテチ」
“ものっそ怪しいデス! ぷち、油断するなデス”
「まったくもう、次から次へと変なのばっか出てきやがるです」
「これは乗り物なの? 馬はどこにいるのかな」
入り口の外で不思議がる一行をよそに、ひろあきがすっと中に入り込む。
ルリが止める間もなく、彼は中の様子を確認しに行った。
“問題ない、シートしかないよ。運転席もない”
安全だという事を示し、中に入ることを勧める。
ルリとヒスイは躊躇ったが、ぷちとミドリは安心して中に入り込もうとした。
再び、女性の声が聞こえてくる。
『このビークルは、弐羽としあき様のご意向で用意いたしました。
皆様の頭上に見える船「ペガサス」で、としあき様がお待ちです』
“なにっ、クソドレイデス?!”
「クソドレイサンテチ?! 無事だったテチ?!」
『さあ皆様、どうぞ中へ。
この街はとても危険です、お早く——』
とその時、突然例の地震が発生した。
バン型のビークルは僅かに浮いているため影響を受けなかったが、このままではあのバケモノの襲撃を間違いなく受けて
しまうだろう。
ルリとヒスイは、覚悟を決めると急いで中に飛び込んだ。
“おっ、やっと来たね”
「おーっ、外はあんなに揺れているのに、ここは全然揺れないです!」
『それでは、発車いたします。
皆様、シートベルトを着用ください』
バン型ビークルは、全員がシートに座った直後に垂直上昇を始める。
ひろあきの手助けでシートベルトを着けたルリとヒスイは、側面部の窓から外を眺め、驚いた。
「すげー! 空飛んでるです!」
「見てヒスイ、あれ」
「でぇっ?!」
先ほど皆が居た場所に、何か巨大な物体が姿を現している。
全身が露出しているわけではなく、背中と思われる部分が見えているだけだが、それだけでも例の「大蛇」より遥かに大きな
体躯なのは理解出来る。
外から、耳を劈くような叫び声が聞こえてきた。
ビークルはそのまま上昇を続け、100メートルほどの高度でようやく水平飛行に意向した。
※ ※ ※
ビークルは「ペガサス」の上面部まで飛行し、第一艦橋の根元辺りにある大きなハッチから内部に侵入した。
中の一同は、窓の外に広がる壮大な光景に、ただ無言で見入るだけだ。
ハッチの中に入っても尚続く飛行から、それがとてつもなく巨大なものだという事は嫌が上にも理解出来る。
ビークルは、やがて中央都市第12ブロックに入り、広い公園のような場所に停車した。
『お待たせいたしました、どうぞお降りください』
ドアが開き、女性の声が案内するも、誰も動こうとはしなかった。
「なんで、こんな大きな街があるの?」
「建物の中に街があるテチ…」
“どうなってるデス?! ここは何なんデス?”
「まさかこれが、旧人類の……」
“おっ、弐羽君がいる”
ビークルの脇に、見慣れた姿が佇んでいる。
一番最初に外へ出たひろあきは、としあきを見て安堵の表情を浮かべた。
「ひろあき、生きてたか!」
「君こそ、こんなところで逢えるとは思わなかった」
「テエェェェン! クソドレイサアァァン!! テェェェエン!」
ビークルを飛び出して、一気にとしあきに抱きつくぷちと、それに振り落とされて悲鳴を上げるミドリ。
泣きじゃくるぷちを抱きしめながら、としあきは、静かに耳元で囁いた。
「なあ、ぷち」
「グスグス、逢いたかったテチ、クソドレイサァァン……」
「どーでもいいけど、お前等………臭せぇっ!!」
「テチャッ?!」
ぷちを引き離すと、としあきはビークルの中から様子を窺っているルリとヒスイにも手招きをした。
「お前等、まず風呂入って来いよ」
そう言いながら、としあきは後ろを指し示す。
そこには、背の高いビルに挟まれるように、とても小さな瓦屋根の木造建築がある。
入り口には「松の湯」と書かれていた。
「せ、銭湯……?!」
呆然とするひろあきの背を押し、ぷちの手を引くと、としあきは笑顔でルリ達を振り返った。
「とにかく、今はここで疲れを癒してくれ。
必要なものがあれば何でも言ってな、全部揃えられるから」
“じ、じゃあワタシは、牛丼特盛を生死に関わるほど沢山食べたいデス!”
「おお、そんなものならお安い御用だぜ」
デ、デギャアッ!(ブリブリブリブリ)
としあきの即答に、ミドリは久方ぶりの大パンコンをしながら失神した。
“ごチュじんチャマ、この人達がオトモダチテチ?”
胸ポケットの中から、マルが恥ずかしそうに顔を覗かせた。
それから数時間後、5人と2匹は、高級ホテルのスイートルームでくつろいでいた。
長旅でまともに入浴すら出来なかった一行は、隅々まで綺麗になり、着心地の良い新品の洋服をまとい、フカフカのソファ
に身を預けていた。
乾いた喉は新鮮でおいしいフレッシュジュースで潤され、もはや空腹感すら覚え辛くなった胃袋は贅沢な食事で満たされた。
今まで身に着けていた衣服は、ミドリの実装服も含めてクリーニングされており、しかも失われたヒスイの右ブーツやルリの
ショーテルも、復元されることになった。
今までの数日間が嘘のような、贅沢な時間。
ぷちとミドリ、ヒスイは安心感を得たせいか再び熟睡してしまったが、ひろあきとルリだけは、いまだ寝付けずにいた。
としあきは、二人をリビングに呼びつけて、互いの情報交換をしようと持ちかけた。
「そうだ、君に返し忘れていたんだ、これ」
ルリは、黒い携帯電話をポケットから取り出し、としあきに手渡した。
「おっ、君が持っててくれたのか、ありがとう」
「実は僕達は、この中から現れた初期実装に、君を捜してくれと頼まれていたんだ」
ルリは、依頼を受けた晩の話を簡潔に説明した。
携帯を受け取ると、としあきは電源を入れつつ、話を聞く。
だが、おかしなことに画面に何の表示も出てこない。
「あれ? 壊れてるのかな」
「えっ? ご、ごめん……扱いがよくわからないから」
“ごチュじんチャマ、チカチャンに直してもらうといいテチ”
「おお、そうだな。いい考えだ」
早速チカに連絡し、テーブルの上に置いた携帯の修理を依頼する。
ペコンとテーブルの一部がへこみ、滑るように携帯が収納されていく。
修理には、一晩ほどかかるようだ。
「さーて、俺達も寝るかあ」
二人が部屋に戻ったのを確認すると、としあきとマルも、適当な部屋を借りることにした。
※ ※ ※
「ペガサス」艦内に警報が鳴り響いたのは、皆がまだベッドの中で惰眠を貪っている時だった。
としあきの寝室に、突然投影型モニタが出現する。
いつもと変わらず平静な表情を浮かべているチカは、感情のこもらない口調て報告を始めた。
『としあき様、艦内にマラゴンが侵入しました。
現在、第786居住ブロックを破壊し、ターミナルポイントに向かって侵攻しています』
「えっ、あのバケモノが?!」
“テチ?!”
『破損した外装部からの侵入を防ぐため、補修工事を開始しましたが、突破される可能性は95%を超えています。
避難の準備をお願いします』
慌てて飛び起きると、としあきは急いで着替え、マルを胸ポケットに押し込む。
気が付くと、枕元には修理を終えた携帯電話が置かれている。
以前より少し重くなった気がするが、としあきは忘れないようにズボンのポケットに押し込んだ。
廊下に飛び出すと、まだ着替えも済ませていない皆が顔を覗かせる。
「弐羽君、何があったんだ?」
「何か異常でも起きたの?」
「うにゅ〜、まだ眠いですぅ、このうるさい目覚まし止めてです〜!」
「目覚ましじゃねーっつの。
とにかく、みんな身支度整えてホールに集まってくれ!」
大声で呼びかけると、としあきはそのままエレベーターホールへ向かう。
不安そうな声で、マルが呼びかけてきた。
“ごチュじんチャマ、あのバケモノは皆さんを追っかけて来たテチ?”
「かもなぁ、まさかここまで来るとはね」
ホールに向かう途中、としあきは脳内に刻み込まれた「ペガサス」の構造を思い出していた。
内部に侵入者があった場合の対策は、当然この艦にも施されてはいたが、それは艦内設備を大きく破壊される前提には
ない。
入り込んだマラゴンが、以前の解説通りのサイズだとしたら、対人レーザーやバリアなどは効果がないだろう。
それどころか、そういった設備自体を破壊しながら押し迫ってくる可能性が高い。
ホールに着くと、としあきは艦内にある外部脱出用の設備の確認と避難経路の確保をチカに命じ、誘導路をわかりやすく
示したマップを常時掲示させた。
一番最初に降りてきたのは、クリーニングを済ませたいつもの服をまとうルリだった。
両手には、ごついガントレットとピカピカに磨かれたショーテルが固定されている。
としあきはルリに事情を説明すると、空間投影された地図に従い避難するようにと指示した。
しばらくマップをじっと見つめていたルリは、「よし、覚えた」と呟いた。
やがて、ひろあきとヒスイ、ぷちとミドリも降りてくる。
いすれも見慣れた格好で、ヒスイに至ってはブーツも両足揃っている。
『としあき様、マラゴンが北東エリアを乗り越えました。
修理は間に合いません。
このままだと、中央都市部への侵入確率は98%に達します』
「なんとか阻止する方法はないのか?」
『艦内装備では、マラゴンに通用しません』
チカの報告を聞く限り、マラゴンを撃退しない限りどこも安全ではなさそうだ。
※ ※ ※
ついに北東エリアターミナルと中央都市の境界ラインが突破された。
大空に穴を開けたように見える、巨大な首。
それは、「神の地」で見た時よりも遥かに巨大化した「大蛇」だった。
一同は、あまりの巨体に愕然とするしかない。
「前よりデカくなってないか?!」
「なってるです!」
バリバリと空を突き破り、ついに全身が現れる。
全長100メートルクラスの巨体は、都市エリアの末端地区を蹂躙しながら、少しずつ中枢を目指す。
「テェェェン! 翼が生えてるテチ! あれで飛んできたテチ!」
“あんなめちゃくちゃな実装生物ありデス?!”
それはもはや、個人の戦闘能力で対応出来るレベルを超えている。
よく見ると、マラゴンは全身を激しく脈動させており、特に頭部周辺はビクンビクンと頻繁に収縮・膨張を繰り返している。
としあきは、無意識に自分の股間を見つめた。
「ああ、だから“マラ”ゴンなのね……」
「君が何を言いたいか、僕にもやっとわかった。
そうだね、そりゃあ大きさも変わるさ……」
なぜか突然笑い出し肩を叩く二人を、ルリとヒスイは呆れ顔で見つめた。
マラゴンまでの距離は、おおよそ600メートル未満。
次の手が打てず戸惑っていると、突然、マラゴンが翼を羽ばたかせ始めた。
「この中で飛ぶ気か?!」
「テチャァァァッ!! こっち見てるテチィ!」
“逃げるデジャァッ!!”
グオォォォォォォオオオオオ!!!
マラゴンの唸り声が、どんどん近づいてくる。
予想を上回る高速で飛来するマラゴンに、一同は逃げるタイミングを逃してしまった。
慌てて逃げ出そうとするが、慌てたぷちはつま先を段差に引っ掛けてすっ転んでしまった。
「テチャ! テ、テェェェン!」
「何してるぷち! 早く!」
としあきに急かされ、立ち上がったぷちは、背後から襲い掛かる猛烈な悪臭に思わず振り返ってしまった。
視界一杯に広がる、巨大な牙の絨毯。
そのいたるところに、見覚えのあるものが散らばっている。
マラオークの死体、実翠人と思われる者の頭部、内臓、骨、そして無数の実装石……すべて唾液や白濁液にまみれ無残
な姿と化しており、普段のぷちならとても正視出来なかっただろう。
だが、何故かこの時のぷちには、怯え・恐怖という感情が湧いて来なかった。
マラゴンの大きな舌が伸び、ぷちの眼前に迫る。
遠くから響くようなミドリの叫び声を聞き取り、ぷちは、ようやく事態を把握した。
「テ、テチャァァァッ! あ、あっち行けテチィッ!!」
バリバリバリッ!!
ジャアッ?!
突然、マラゴンの舌先が砕け散った。
見ると、ぷちが無意識に伸ばした両手に、青白い光がまとわりついている。
それは、「実装人の世界」で見た、あの力に良く似ていた。
マラゴンは悲鳴を上げ、大きく後退した。
“モタモタすんなぷち! 早くこっち来るデシャ!!”
ポテポテと駆け寄ったミドリが、ぷちの脚に触れる。——とその瞬間、彼女に青色の電光が襲い掛かった!
バリバリバリバリバリ!
“デジャギャバポギャベチャバキャニチャベハボハ”
「テェェッ?! お、オネーチャ?!」
「なんだこりゃ? 電撃?!」
「魔法! どうして彼女が?!」
感電したミドリを抱き上げながら、ルリが呟く。
それを見たとしあきの頭の上に電球が浮かび、パリンと割れる。
「おいぷち、あいつに向かってその電撃ありったけぶちかましてやれ」
「テチャ?! ど、どういう意味テチ?」
「お前は魔法使いになったんだ!
あんなマラゴンなんか、お前の呪文一発でダウン確定だ!」
大気を震わすような呻き声、必死な仲間達の呼び声。
それらを無視し、としあきは無駄に抑揚を付けて語りかけた。
「私に、そんなことが出来るテチ?」
「出来るとも!
お前の正義の魔法“サンダー”で、あの悪いバケモノをぶっ倒せぇぇぇっ!!」
「テチィ! 正義テチ!」
その気になったぷちは、ピスピスと鼻息を荒げ、再びこちらに飛んでくるマラゴンをぐっと睨みつけた。
両手を伸ばし、手を広げると何かを唱え始める。
ぷちの両手の間に、複雑な文様が描かれた光の球体が発生し、その周囲にまばゆい電光がスパークする。
その間に、としあきはちゃっかりその場から逃走していた。
グォォォォオオオオオオ!!!
雄叫びを上げ、マラゴンの顎が迫る。
同時に、ぷちの目が輝いた。
「悪い奴はあっちいけテチ!!
そぉれ、サンダアァァァ—————ッッッ!!!」
ぷちの手の中の球体が膨れ上がり、巨大な雷が伸びた。
それはまるで触手のようにマラゴンの頭全身を捕らえ、大地震でも起きたかのような衝撃音を響かせる。
直撃を受けたマラゴンの頭部は瞬時に吹き飛び、炭化した。
皮膚はみるみる焼けただれ、大きな羽根は炎上しボロボロと崩れていく。
見えない大きな手で真正面からぶん殴られたかのように、マラゴンは吹き飛ばされ、としあき達の居たホテルの向かいに
あるオフィスビルを崩壊させた。
崩れ落ちるビルの残骸が、マラゴンの身体を容赦なく埋め尽くしていく。
両手を伸ばしたまま、ぷちはポカーンと眺めていた。
「す、すげえ、ぷち、やりすぎなほどにGJ!」
「テチャア♪ クソドレイサーン♪」
パリパリパリ
「どわぁっ、近づくな抱きつくな!」
「テェッ?!」
「二人とも、早く逃げろ! 崩れるぞ!!」
雨のように降り注ぐ細かな瓦礫を避けながら、ひろあきが叫ぶ。
としあきとぷちは、今にも崩れそうなオフィスビルを仰ぎ、大急ぎで逃走した。
中央都市を放棄し、南エリアの居住区手前まで退避した一同は、絶望ムードの中で今後の対策を検討していた。
としあきは、せめて最後にもう一度チカに会っておきたいと考え、単身「カシスの庭」へ向かうことにした。
幸い、「カシスの庭」は先ほどの破壊に巻き込まれてはいない。
しかし、マラゴンが埋もれている付近を通らなければならないため、危険なことに変わりはなかった。
“ごチュじんチャマ”
今まで胸ポケットの中でじっとしていたマルが、囁くように呼びかけて来た。
「マルか、悪いなあ…俺、お前のご主人様らしいこと、何もしてやれなかった」
“まだ諦めちゃダメダメテチ!”
「でもなあ」
としあきの胸ポケットに収まったマルは、どこか真剣な眼差しでとしあきを見つめてきた。
“ごチュじんチャマ、艦長室に行くテチ!”
「えっ? でもあそこは」
“行くテチ!”
としあきは、最後にチカに会った時、「艦長からの伝言」という情報を受け取っていたことを思い出した。
その内容は、たった一言。
「——どうしようもなくなったら、尋ねて来い——」
“テ?”
「艦長とやらの伝言だ。
そうだな、何があるのかわかんないけど、こうなったらいくしかない」
リニアモジュールは、「カシスの庭」を旋回すると、第一艦橋エリアへ向かって飛翔した。
遠くで、何かが破壊される音がする。
としあきは、ごくりと喉を鳴らした。
十数分後、艦長室にたどり着く。
最初にとしあきが現れた個室の三倍くらいの広さがあり、部屋の中央には大きな椅子と机、各所には豪華な家具らしきもの
が置かれているが、私物と思われるようなものもなければ生活感もまったくなく、それがどことなく不気味な雰囲気を感じ
させる。
としあきは中に飛び込み、何かないかと調べまわったが、これといって特殊なものはない。
机にあるはずの投影型ディスプレイもなく、冷蔵庫すら停止している。
何かのモデルルームのように殺風景の真っ白な部屋の中、としあきは、再び呆然とさせられた。
「どういうことだよ艦長、なんにもねーじゃねぇか!」
“テチ! ごチュじんチャマ!”
突然、マルが何かに反応する。
よく見ると、大きな机は艦内設備としては妙に古い形状のもので、ここに来て初めて見る引き出し付きだ。
早速引き出しを開いてみると、その中にはアクリルプレートを二枚重ねたような「板」が一つだけ入れられている。
その中には——
「だ、大学ノート?!」
見間違いではなく、それは明らかに、としあきの世界にもある普通のB5サイズ大学ノートだった。
表紙には、ご丁寧にCAM○USと印刷されている。
アクリルプレートの端にある金属部分に触れると、プシュッと音を立ててプレートが開いた。
驚いたことに、大学ノートはすべて手書きで記されており、しかも日本語で、とても解りやすく「ある対策」についてまとめ
られている。
妙に見覚えのある文字だったが、としあきは、急いで全体を流し読みする。
最後のページには携帯電話のような図が描かれており、ここにチカからインストール処理をしてもらい、メインデッキの艦長
席に差し込むよう指示されていた。
「これ、どう見ても俺の携帯だよな? なんでこんなことまで知ってるんだ?」
“それより、早く戻るテチ!!
きっと、これが艦長の伝えたかった情報テチ!”
「そうだな。——ん?」
ノートの最後のページを見て、としあきは目を剥いた。
そこには、大きな手書き文字ではっきりと
弐羽としあきへ
と記されていた。
「………」
“ごチュじんチャマ?”
「戻るぞ、マル」
としあきは、大急ぎでエレベーターに戻ると、リニアモジュールを待機させている場所へ走った。
※ ※ ※
としあきが中央都市に戻る頃、マラゴンのもたらす破壊音はすぐ傍までやって来ていた。
他のエリアとの仕切りをぶち破り、普段は空の映像が写されていた天蓋スクリーンに巨大な影が映りこむ。
店を出たぷち達一同は、チカが用意したバン型のリニアモジュールに乗り込み、更に避難しようとしているところだった。
その手前に降り立ったとしあきは、ひろあきとルリを呼び出した。
「時間がない、いいかよく聞いてくれ。
誰か二人、マラゴンを誘導するために、動力炉まで行って欲しい」
「動力炉? なぜそんなところに?」
「そこにマラゴンを誘導したら、近くにある脱出ポッドに乗り込んで待機してくれ。
ポッドは二人乗りだから、三人以上は行けない。
その後、俺が遠隔操作で 動 力 炉 を 爆 破 す る 」
としあきの言葉に、その場の全員が吃驚した。
「ば……な、なんだって、正気か弐羽君?!」
「それが、この船の艦長の残してくれた唯一の対策なんだわ」
「待ってよとしあき! その動力炉とやらを破壊すると、この船はどうなるんだ?!」
ルリの追求に、としあきは一瞬眉を潜めて答える。
「当然……すべて破壊されるだろうな。
でも、それしか手段はない。
いちかばちかって奴だな」
「まったく、旧人類はとんでもない発想をするんだな」
ルリは、呆れ声で呟いた。
マラゴンが中央都市に侵入したのは、それから十分後のことだった。
真っ直ぐに中枢エリアに向かって突き進み、途中の建造物や設備を容赦なく破壊していく。
それだけではなく、口から吐き出す大量の白濁液を撒き散らし、あらゆる電飾をショートさせていく。
マラゴンよりも背が高いビルも、巨体に押し倒され次々に崩れ落ちて行った。
だがその直後、一台のリニアモジュールが飛び立ち、マラゴンに攻撃を加えた。
「こりゃーマラゴン野郎! お前の狙いはこっちでーす☆」
「ヒスイ! あんまり暴れると落ちるよっ!」
リニアモジュールに乗っているのは、ヒスイとルリだった。
二人はオートコントロールに任せ、懸命にマラゴンの注意を引き付けようとする。
遠距離からのレーザー照射、鼻先ギリギリを飛翔したり、尾の根元の実装顔すれすれに接近したり。
その甲斐あって、やがてマラゴンは二人のリニアモジュールに注目し始めた。
「る、ルリ! お前、本当に動力炉の地図覚えたです?
脱出できなかったらお前を一生呪うですっ!」
「地図は完璧に記憶してる。
第一、僕が今まで一度でも路を忘れたり間違えたことがあるかい?」
「な、ないです」
「だったら、僕を信じて!」
そう言いながら、手に持ったブラスターをマラゴンに向ける。
命中した端から傷が回復していく様子に舌打ちをしながら、ルリは、ひたすら通信を待ち続けた。
※ ※ ※
一方ぷち、ミドリ、ひろあきの三人は、マラゴンの注意が逸れたタイミングを見計らい、別なリニアモジュールで「ペガサス」
第一艦橋方面へ退避することにした。
ここは、彼女達が初めて艦に入り込んだ場所だ。
目的地がマラゴンの暴れている真上に位置するため、移動経路の照明をわざと消すことでマラゴンの注意を逸らす作戦が
検討されている。
としあきは、ひろあきに避難方法を説明した。
窓の向こうから無言で敬礼するひろあきにも手を振ると、としあきはいよいよ、最後の仕上げに移ることにした。
「カシスの庭」へ進みチカの待つ堂へ向かい、携帯を取り出す。
破壊の影響は、ついに「カシスの庭」をも侵食し始めていた。
空は既に機械の壁面が剥き出しになり、あんなに綺麗だった庭は崩れた瓦礫で見るも無残な様相を呈している。
堂のあちこちにもヒビが走り、今にも崩れてしまいそうだ。
だがチカだけは、初めて出会った時のように、その中に立ち柔らかな笑顔を浮かべている。
としあきから携帯を受け取り両手で包み込むと、ほんの少しだけ目を閉じた。
『——動力炉の臨時制御プログラム、インストール終了しました』
「って、早っ!」
“ごチュじんチャマ! 急ぐテチ!”
「待てよマル。
——チカ、今までありがとう。
短い間だったけど、とても助かった。
君は命の恩人だ」
そう言いながら、チカの手を握る。
冷たい機械の感触……だが今は、ほんの少しだけ温かみを感じる気がした。
チカは、一瞬何かを言いかけ、すぐに改める。
『お役に立てて、私も大変光栄です』
「本当に感謝してるよ。
君に逢えて良かった」
『私も、またあなたに出会えて、本当に嬉しかった』
「……」
「カシスの庭」が揺れ始め、堂の天井からパラパラと破片が落下し始める。
チカは手を離し、としあきに退出を促す。
『さあ、早くメインデッキへ!
艦長席のコンソールパネルに、携帯を接続させてください』
「わかった。——じゃあ、行くな」
『はい……としあき様。
どうか、お達者で』
軽く手を振ると、としあきは真っ直ぐエレベーターへ走り出す。
背後で、耳をつんざくような大きな音と、どこかが崩れるような破壊音が鳴り響いた。
だが、振り返る余裕はない。
倒壊する寸前にエレベーターを脱したとしあきは、いつのまにか用意されていた三台目のリニアモジュールに飛び乗った。
「よし、いよいよメインデッキだ。
もう一度、第一艦橋へ行くぞ!」
“テチャ!”
リニアモジュールが飛翔し、破壊されていく中央都市の真上を横切っていく。
としあきの眼下には、街を蹂躙する巨獣の姿と、まるでハエのようにその周囲を飛び回るリニアモジュールの光があった。
「また……ね」
“テェ?”
「いや、なんでもない」
別れ際のチカの顔が、脳裏から離れない。
ぷちと瓜二つの筈なのに、あの時だけは、全く別な人の表情のように思えてならなかった。
※ ※ ※
「長かった。
やっと、私の役目が終わるのですね、艦長」
崩れ行く堂から出たチカは、悲しげな顔で、としあきの向かった方向を見つめ続けている。
リニアモジュールは、とうの昔に離脱したにも関わらず。
「カシスの庭」を再現していたスクリーンが割れ砕け、これまで見えなかった壁面や天井に大きなヒビ割れが走っていく。
堂は天井から落下してきた巨大な破片に押し潰され、チカも、その衝撃を受けて倒れた。
それでもなお、彼女はとしあきが去っていった方向に目を向けた。
額が割れ、中から複雑な機器の明滅が覗いている。
「としあき様——」
鈍い衝撃音が鳴り、チカの下半身が瓦礫に押し潰される。
激しいスパークが煌めき、火花が飛び散る。
チカは、粉砕された自身の身体を見つめ、少しだけ悔しそうな表情を浮かべる。
だが、すぐにまた、あの優しい笑顔に戻った。
崩壊していく、「カシスの庭」の中央で——
「としあき様。
また……悠久の、時の彼方で——お逢いしましょう……」
凄まじい轟音にかき消される、悲しげな呟き。
と同時に、チカの上に、崩れた天井の一部が降り注いだ。
「——さま」
チカのモニターアイが最後に映したのは、初めてとしあきと出会い、手を触れ合った場所だった。
だがその映像も、ぶれて、消えた。
※ ※ ※
ルリとヒスイの乗ったリニアモジュールは、順調にマラゴンを誘導し、北東エリアより更に奥にある「メイン動力炉」ブロックへ
と侵攻した。
マラゴンの破壊活動のため、としあきが以前何度も立ち入った第786居住ブロック周辺はもはや見る影もなく壊されており、
皮肉にもまっすぐリニアモジュールで入り込めるようになっていた。
居住エリアから更に下降し、「ペガサス」全体の後方下部を目指すと、マラゴンも飛びながら追いかけてくる。
射出される白濁液をうまくかわしながら、リニアモジュールは作業用マシンの移動ルートを遡り続けた。
「どこまで行くですーっ?!」
「もうすぐだ!
ヒスイ、そろそろ降りるから準備して!」
「ででぇっ?! 最後まで乗ってるんじゃないです?!」
「このままだと、途中までしか行けないんだ!
脱出ポッドまで約30フィート(約90メートル)!
僕等の力だけで突っ切る!」
「き、聞いてねーですぅぅぅぅっ!!」
「そろそろだ!」
リニアモジュールが加速し、マラゴンとの距離を離す。
飛び出すように降りたルリとヒスイは、すっかり撃ち尽くした武器を投げ捨て、自分用の武器を携えて走り出す。
少し遅れて、爆風と共にマラゴンが飛来した。
グオオォォォォォォオオオオ!!!
そこは、各所に青い照明が明滅する薄暗いサイロのような場所だった。
床と天井を貫くように伸びた、とてつもなく大きな柱と、それを取り囲むように幾重にも積み重ねられたバルコニー、そして
その端々に設置された大きな機械が目立つ。
下を覗き込むと、そこにはクリーム色の鈍い光が、まるで脈打つように輝いていた。
「焉道に似てるかも…」
「これが、葉緑素です?」
「動力炉! まだ側面部だけどね。
ほらヒスイ、こっちに来て!」
「あーん、待ってですー!」
強い殺気に押されるように、二人はバルコニーを走っていく。
だが、もうすぐ別な場所に入るというところで、突然進行路が音を立てて砕け散った!
「なんだ?!」
「奴です!」
なんと、マラゴンは自分の体躯とほぼ同じくらいの幅しかないにも関わらず、無理矢理飛翔し、白濁液で進路を塞いだのだ。
まるで勝利に酔いしれるような、嬉しげな叫び声が頭上より響く。
完全に、逃げ場は失われた。
だが、なぜかヒスイだけは、口元に不敵な笑みを浮かべていた。
「おいルリ」
「なんだよ!」
「お前には借りがあったのを、思い出したです」
「こんな時に、突然なんだ!」
「借りは今、ここできっちり返すです!
ちぃっと我慢してろです!」
「何をする気だ?!」
ルリの声と同時に、マラゴンが急降下する。
巨大な口が一杯に開かれ、無数の牙が二人の視界を包み込む。
だがその時既に、ヒスイの手は左手首のブレスレットに当てられていた。
——視界が真っ赤に染まり、時間が停止する!
Sonic-Booster Ready.
Ancient-Magical System coupling device set-up.
——5.
ヒスイは、背後の壁に向かってバク宙すると、反動をつけて踏み切り、ルリにタックルする。
——4.
そのままマラゴンの口に向かって突進し、身体を捻って大きな牙を足場にする。
——3.
牙を蹴り、もう一度飛翔する。
——2.
大気の壁を突き破り、凄まじい破壊エネルギーがヒスイとルリの後方へ走り抜ける。
二人の身体の周囲に白い円錐状の雲が発生し、分厚いものを切り裂くような、独特の感覚が駆け巡る。
——1.
ヒスイ達の身体が一筋の紅い矢となり、分断された路を横切っていく。
——0.
5sec.
count over.
ド オ ォ ォ ォ ォ ォ ン !!
広場全体を揺さぶるような、凄まじい衝撃が駆け巡り、通路内に爆発音が轟いた。
ゴオォォォォッッ!!
グギャアァァァァッ!?
ソニック・キャノン発動の余波をまともに受けたマラゴンは、先ほどのサンダー攻撃に勝るとも劣らない勢いで吹っ飛ばされ、
巨大な柱に激突した。
柱とバルコニーの隙間に身体が挟まれ、身動きが取れなくなっている。
ヒスイは、痛む身体を鞭打ち、まだ事態が飲み込めていないルリの身体を引きずった。
「バカルリ! いつまでボーッとしてやがるです!」
「な、何があったんだ!?」
「いいから! 早く道を教えろです!」
「あ、ああ、こっちだ!」
再び走り出す二人の後方で、身体を挟まれていたマラゴンは、突然ジタバタするのを止めた。
全身から力が抜け、徐々に身体が萎んでいく。
みるみるうちに二周りほど小さくなったマラゴンは、即座に体勢を整え直すと、再び身体を膨張させた。
グギャアァァァァァッ!!
怒りの咆哮を上げると、マラゴンは、即座に二人の追跡を開始した。
※ ※ ※
艦長室への経路から更に進み、ようやくメインデッキにたどり着いたとしあきとマルは、まるでコンサートホールのように広い
室内に、しばし唖然とさせられた。
二階席のようにせり出している艦長席に辿り付き、コンソールパネルを調べる。
大学ノートに記された手順で計器類の電源を入れ、脇にある平たいスリットに携帯を斜めに差し込むと、としあきは空間投影
されたディスプレイに向かって、たどたどしくコードを入力した。
“ごチュじんチャマ、コード間違えたテチ!”
「え? あ、しまった。
悪いマル、また間違ったら教えてくれ」
“はいテチ!”
人間が入力している複雑なコードを、はたから見て理解する仔実装に疑問を抱く余地はない。
再び大学ノートを覗き込んだ途端、真っ赤なランプが明滅を始め、警告音が鳴り響いた。
『第1級緊急事態! 第1級緊急事態!
未確認巨大生物が、W.D.E.D第13パートを完全破壊、第12から第11へ破壊を続けています!
「ペガサス」動力稼働率53%まで低下、68秒後に25%まで緊急低下処理を行います』
チカの声とは違うアナウンスに複雑な思いを抱きながら、としあきは更にコード入力を続ける。
幸い、それ以降ミスはなく、無事に打ち込みは完了した。
と同時に、携帯が自動的に電源オンになり、サブ液晶に初めて見るような文字が流れていく。
赤く明滅していた室内が、オレンジ色の照明に切り替わった。
『艦内の乗組員及び搭乗者各位にお伝えします。
当艦「ペガサス」は、第1級緊急事態対処のため、約10分後に自爆いたします。
全員速やかに、脱出用ポッドまたは脱出艇にお移りください』
「これでよし、と……さて、俺達はどうするかな」
艦長席にどっかと座り込んだとしあきは、まるで某宇宙戦艦アニメの艦長よろしく、階下に広がる無数の操縦席などを
見つめた。
“ごチュじんチャマは脱出しないテチ?!
このままだとみんな死んじゃうテチ!”
慌てるマルの頭を優しく撫でながら、としあきは大学ノートを取り出した。
「自爆コードをセットしたら、そのまま艦長席に座ってろ、って書いてある」
“でも!”
「もうここまで来たら、この不思議なノート信じるしかねーわな。
大丈夫だろ、多分艦長専用の脱出システムか何かが発動するんじゃね?」
“ほ、本当テチ?!”
いまだに心配そうなマルを手の上に乗せると、としあきは優しい声で更に語りかける。
「そういや、お前にも色々世話になったよな、ありがとうマル」
“そんな、最期のお別れみたいな言い方、イヤイヤテチ!”
「ははは、死亡フラグってか?」
ケラケラ笑うとしあきは、自爆カウントがあと5分を割ったにも関わらず、何も変化が起こらない艦長席に、だんだん不安を
覚え始めた。
「お、おい?! 何も起こらないぞ、どーなってんだ?!」
“だから言ったテチー! 早く、脱出するテチー!”
慌てて携帯を取り上げようとするが、ロックがかかっているようでスリットから引き抜けない。
焦って何度も引き抜こうとするうちに、残り時間があと3分を割った。
『艦内に残っている方は、速やかに脱出ポッドにご搭乗ください。
自爆まで、あと2分17秒——』
「ち、ちょっとまてえぇぇぇ!! 携帯、俺の携帯ーっ!」
“テチャー! 諦めて逃げるテチー!”
ようやく携帯が外れるが、カウントダウンは容赦なく続く。
『あと、2分——』
※ ※ ※
『自爆まで、あと20秒——18、17、16……』
ひろあきとぷち、ミドリの乗ったビークルは、既に「ペガサス」を離れ、「神の地」の入り口付近まで移動していた。
徐々に高度が下がり、このままだと岩山の上に軟着陸というところで、突然動力が停止した。
「んなっ?!」
“デゲェ?!”
「テチッ?」
ぐらり、と車体が傾き、重力に引かれる。
重力が弱いせいか、落下感がふんわりと感じられる。
シートベルトで身体を固定されているひろあきとぷち、そして彼女に抱かれていたミドリは、窓の外に迫る岩肌を目の当たり
にして、悲鳴を上げる。
——5
——4
——3
——2
——1
——0.
カウントダウンが終わり、動力炉が暴走を始めた。
膨大なエネルギーを内包する壁面がすべてパージされ、まるで竜巻のようなものが「ペガサス」内部から発生する。
と同時に、艦内の至る所が誘爆を始め、中央都市が、各居住区・ターミナルが、次々に炎に包まれていく。
逃げ延びていた実装石やマラオークも、竜のように迫る炎に呑まれ、瞬時に燃え尽きていく。
やがて爆風と炎は際限なく肥大化し、「ペガサス」の機体後方を吹き飛ばし、土台になっていた岩盤すらも吹き飛ばした。
尚も収まらない爆円は「ペガサス」を次々に飲み込んで広がっていくが、竜巻も更に拡大していく。
やがて竜巻は、「ペガサス」はおろかその下に広がる「神の地」全体を巻き込み、更には周囲の山脈全体を飲み込んで
しまった。
全長4キロを超える船が、機首を持ち上げるように上昇し、周囲の岩山や森、湖すらも巻き込んでいく。
「神の地」を中心とした半径約20キロは、一切の凹凸のないドス黒い平地と化す。
やがて、とてつもない大地震が発生し、地表を激しく揺さぶり出した。
それは遠く離れた地に住む実翠人達や、あらゆる実装生物も致命的なダメージを与える。
影響範囲内の生態系は動植物問わずすべて完全消失し、その後信じられないほどの豪雨が降り注いだ。
全てを飲み込む大いなる竜巻は、天へと伸び続け、やがて大空に霧散した。
その間、たった十数分の出来事だった。
「……おいルリ、脚、ジャマです」
「君こそ、この胸、なんとかしてよ」
「てめーが先に身体起こさなきゃ無利です! おら、とっととドア開けやがれですっ!」
「いたた、痛い痛い! ちょっと待ってよもう!」
直径3メートルほどの真球型脱出ポッドは、「神の地」から遠く離れた草原に落下していた。
皮肉にも、そこはヒスイ達が初めてこの世界に降り立った場所のようだ。
隕石でも落ちたかのような痕跡が痛々しい。
鉛色に濁り小雨が降りしきる空を見上げながら、ルリは背伸びをして深呼吸した。
「みんな、無事かなあ?」
「さぁ、こうなっちまうと、もう全然わからんです」
「僕達、これからどうしようか」
「……とにかく、食べられる物を探したいです」
脱出ポッドのドアを蹴飛ばし、ヒスイは悲しそうな顔で、実翠人の村のある方向を見つめた。
「誰か来るです!」
「えっ?」
見ると、村の方角から、何か小さな生物がフワフワと漂い、こちらに近づいている。
緑色の、模様が入った頭巾、細身の身体、血走った赤と緑の目……
それは、「実装人の世界」で二人に依頼をした、初期実装だった。
『ゼェ、ゼェ……や、やっと見つけたデスゥ。
さあお前等、因子がどこに言ったか、キリキリ答えるデスゥ』
「い、因子?」
『お前達とここに飛ばされた連中の事デスゥ。
早く教えるデスゥ、そうすれば、お前等を元の世界に送り届けてやるデスゥ』
「えっ、本当に?!」
ルリの追求に、初期実装は大きく頷く。
『ただし、お前等はワタシの依頼を果たせなかったデスゥ。
だから、メルティスの発展の件はなかった事にさせてもらうデスゥ』
「ばっきゃろー、こっちは死にそうなくらい危険な目に遭ったです!
慰謝料くらい払いやがれですっ!!」
『そんな事言っていいデスゥ?
早く戻らないと、お前達の仲間が大変な目に遭わされてしまうデスゥ』
初期実装は、そう呟くと愉快そうに笑い出す。
目の形が変わらないまま笑う様子はとても不気味だったが、それより彼女の含みが気になった。
「どういうことだ?! 説明してくれ!」
『お前等が元の世界に戻れば、おのずとわかることデスゥ。
さあ、早くあいつらの行方を教えるデスゥ』
ルリとヒスイは顔を見合わせると、諦めてとしあきとの活動経緯を事細かに説明してやることにした。
※ ※ ※
何もかも消滅した筈の、「神の地」跡。
そこにはなぜか、薄汚れた仔実装用の前掛けが、一枚だけ取り残されていた。
→ To Be Continue NEXT WORLD
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次回 【 大分の世界 】
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
今回の「ネガ実装人の世界編」には、「虐侍」さんの世界観・設定を一部引用・応用しております(ご本人への申告・許可済みです
)。
次回第10話(完成済)より、これまで通り実装石虐待保管庫(白保)に投下させていただきたいと思います。
敷金
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