タイトル:【人保】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜第9話03
ファイル:「ネガ実装人の世界編」03短縮版.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:104 レス数:0
初投稿日時:2010/08/06-19:46:00修正日時:2010/08/06-19:46:00
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】  弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため 強引に異世界を旅行する羽目になった。  「実装石」と呼ばれる人型生命体の存在する世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間という タイムリミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならなくなった。  8つ目の「実装人の世界」で実装人魔道師ビドゥの魔法に巻き込まれたとしあきは、 “もう一つの実装人の世界”に現れた。  実装生物を捕食する実翠人が住む世界で、ぷちやミドリ達と離れ離れになってしまったとしあきは、 あらたに知り合った仔実装マルと共に「巨大移民用宇宙艇ペガサス」内部を探索する。  やがて彼は、初期実装を捜すため、唯一外界に直接通じている「北東ブロック第786居住エリア」 を目指すことを決意する。  一方、「実装人の世界」の住人・ヒスイやルリと共に行動しているぷちとミドリ、そしてひろあきは、 何者かによって壊滅させられた実翠人の村を訪れていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−    じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第9話 ACT-3 【 危険度指定地帯 】 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−      としあきとマルの乗るエアカーのような乗り物は、中央都市を出た後に長いトンネルを走り抜け、やがて超巨大な工場の ような場所に出た。  それは、都市部とは異なり機材がむき出しになっているように見える空間で、都市部以上に縦横無尽にパイプラインが 伸びている。  それら一つひとつが移動通路だという事に、としあきはすぐ気付く。  本来であればここには、無数の人々やエアカーが行き来し、賑やかな様相を呈していたのだろう。  だが今となっては、この空間で動いているのは自分達だけだ。  やがてエアカーは、空中に浮かぶ透明の球体の中に入り込む。  直径100メートルはあろうかと思われる巨大な球体には、各所に更なる通路への入り口が点在しており、その周囲には ゲートのようなものが設置されている。  エアカーは球体のほぼ中央にホバリングし、やがて床がせり上がり始める。  エレベーターのようにゆっくりと昇って行き、しばらくすると、ほぼてっぺんに近い位置のゲート前まで移行する。  ゲートの脇に表示されている大きなモニタには「DANGER」の赤い文字が点灯していたが、すぐに「CAUTION」に変化した。  と同時に、ゲートの奥で何かが開いていくような音がした。  ゲートの横にある大きなウインドウの中には、「Sauth-East Area No.786」と表示されていた。 「ここから先が、危険地帯ってことか。  マル、絶対に俺から離れるなよ」  テチィ!  不思議なことに、マルは全く怯える様子を見せず、むしろ張り切っているように思える。  単に危険を認識していないのだろうと考え、としあきはため息を一つ吐いた。  助手席の上に置かれた、黒く重い物体を、もう一度手にとってみる。  長く伸びた銃身を見て、としあきはごくりと喉を鳴らした。  途中、エアカーが急激に加速し、まるで高速道路を走っているような感覚にとらわれる。  新たに出現した球状のターミナルを二つほど超え、少しずつ下降していく。  底面ぎりぎりを走るラインに乗ったとしあき達は、やがて見上げるほど巨大なホールの中に入っていく。  と同時に、自動的にライトが点灯した。 「うわ…」  テチ?  エアカーのライトに照らし出された光景は、今までとは全く違うものだった。  崩れた建造物、割れた壁、落下して山になっている瓦礫、破損して散らばっている無数の作業機械やエアカー。  よく見ればロボットのようなものまであり、ここで相当大きな被害があったことを示している。  としあきは、最初その意味がわからなかったが、やがて理解が及ぶ。  艦内に、突然ニョキッと巨大な岩が生えていたのだ。  その大きさはぱっと見ただけで100メートルは悠に超えており、かなり深くめり込んでいる様子が窺える。 「うっわ、これタイタニックの氷山よりすげぇな」  テチテチテチテチィ  「ペガサス」の外装は相当分厚く作られており、しかも多層構造になっているため、本来であれば岩が激突した程度で内部 まで損傷が起こることは考えられない。  しかし、鋭利に尖った岩の塊はまるでナイフを突き刺したように、軽々と装甲を突き破り艦内に顔を見せている。  岩の近くを通り過ぎる最中、コンパネからチカの声が聞こえてきた。 『これは、着地直前に運行管理システムにトラブルが発生したための影響です』 「ふうん、失敗しちまったわけか」  チカによると、「ペガサス」は腹を擦りつけながら地面を滑走し、装甲破損し自重を支え切れなくなった部分に岩がめり込んだ ため、北東ブロックが致命的な損傷を受けたという。  このダメージのため二度と航行不能となったが、同時にこれが機体を支えるストッパー代わりとなっているようだ。 『本艦は、このブロックを中心に機体の約76%が接地状態、残り24%が宙に浮いた状態で停止しています』  フロントウインドウに表示されたワイヤーフレーム状の図面を見て、としあきはようやく全貌を理解出来た。  鋭く尖った三角形と円形が合体したような形状の機首部分が、崖からにょっきり顔を出して下を眺めている状態になっている。 「あれ? ってことは、窓の下から見えた街は——」 『もうまもなく、北東ブロックに到着します』  としあきの独り言を遮るように、チカのアナウンスが響く。  薄緑色の不気味な光で照らされた、ゲームに出てくる廃墟のような雰囲気の場所。  あらゆる場所が崩れ著しく破損しているそこは、まさに地獄の入り口のようだ。  チカは、本来このブロックに入るためのメインルートは閉鎖されているため、岩盤で破損している外装の中を通り抜けて、 居住エリアの近くまで移動するという。  やがて急浮上を始めたエアカーは、トンネルを思わせる暗い闇の中を滑り、再び薄緑色の光の世界へ降り立った。 『お疲れ様でした、第738居住エリアへ続くメインルートに到着いたしました。  大変申し訳ありませんが、としあき様をお送り出来るのはここまでとなります』  着地するエアカーの室内に、チカの声が響く。  助手席の「武器」を抱えながら、としあきは不思議そうに尋ねた。 「どうしてこの先に行けないの?」  テチ? 『実際には移動は可能ですが、としあき様をお送りするリニアモジュール自体の安全性が保障出来ません』 「……どんだけ危険なんだよ、ここ?!」 『としあき様、武器だけでなく他の装備もお忘れなきよう』 「わかってる」  としあきは、後部座席に置いておいたゴーグルとマスク、防刃・防弾ベスト、手袋を装着する。  ゴーグルは赤外線による暗視が可能で、更にマスクと連動した骨振動型ヘッドセットもある。  まるでサバイバルゲームでも始めるようないでたちとなったとしあきは、ベストの胸部分についた小さなポーチにマルを移す と、深呼吸をして外に出た。  ゴーグルの内側には、瓦礫にまみれ荒れ果てた通路が映し出されている。 「よぉし、早速行くぞ」 “気をつけてくだちゃいテチ!”  と突然、聞き覚えのない声が耳に届いた。 「えっ誰?」 “ごチュじんチャマ!” 「えっ、まさか、マル?」 “テチー♪ やっとお話できるテチ☆”  ポーチの中ではマルが笑顔を浮かべ、こちらを見上げていた。 「あ〜びっくりした。これを着けてるとマルの言葉がわかるのな」 “ごチュじんチャマと一緒で、マルとっても嬉しいテチ♪” 「な、なんだか照れるぞ」  驚いたことに、ヘッドセットには実装リンガル機能も付属していた。  かさばるものでもないし、としあきはこれはしばらく使い続けようと考える。  マルの頭を軽く撫でながら、としあきは緊張感を漲らせて通路を進んでいく。  エアカー(リニアモジュール)のライトが届かなくなってから更に十数分、もうかなりの距離を歩いたと思われる頃、マルが 何かを訴えてきた。 “ごチュじんチャマ、くちゃいテチ! ウンチの臭いがいっぱいするテチ” 「えっ?」  としあきは空気清浄・呼吸補助機能のあるマスクを装備しているため気付かなかったが、どうやら周囲は実装石的な臭気 が充満しているようだ。  マルに身を潜めるように命じると、としあきは武器を構え、昔見た映画の主人公兵士を真似るように、壁に背を付けた。  通路は真っ直ぐ伸びているが、壁面に連なるドアはほとんどが開け放たれているようだ。  としあきが最初に出現した部屋同様、そこはすべて個室のようだ。  何も居ない一室に入り込み、机に触れてみるが、あの部屋のように端末が起動する様子はない。 “きっと、非常灯以外の電源供給がされてないんテチ” 「そっか、だからか……って、ちょっと待て」 “テチ?” 「お前、よく非常灯とか電源供給なんて言葉知ってたな」 “ごチュじんチャマ、誰か来るテチ!” 「えっ」  慌てて身を潜めると、確かに何者かがこちらに近づいてくるのがわかる。  ズシン、ズシン……!  ヘッドフォンに重い足音が聞こえてくる。  音はどんどんこちらに近づいており、壁一枚挟んだすぐ傍に辿り付いた。  ぐるるるる……という、野獣が唸るような声が聞こえてきた。  としあきは、ここに来る前にチカから与えられた両手持ちの熱線銃(ヒートブラスター)を構え、息を殺しながら部屋の入り口 を睨む。  更なる振動音の直後、大きな影が、横切った。 「——?!!」  一瞬、時間が停止する。  部屋の中を覗き込んで来た者と、としあきの目が合った。  それは、巨人だった。  としあきよりも遥かに大きく逞しい体躯を持ち、大きく裂けた口からは不気味な舌と牙が覗く。  衣服はまとわず、張り詰めた筋肉は見たこともないほどおぞましい装飾品に包まれている。  そして、両の目は——赤と緑に煌々と輝いていた。  グオオォォォォォオオオオオ!!! 「うわあぁぁぁ! ば、バケモンだあぁぁ!!」  テチャアァ!!  あまりの異形に驚愕したとしあきは、反射的にヒートブラスターのトリガーを引いた。  赤と白が入り混じったような色の閃光が、まっすぐにバケモノの顔面を捕らえる。  バケモノは顔を押さえ、鋭い悲鳴を上げた。  ギャアアアァァァァ!! “今テチ! ここを出るテチ!” 「お、おぅっ!!」  顔面を焼かれたバケモノは通路にぶっ倒れたため、脱出路は確保出来た。  すかさず飛び出したとしあきは、のたうつバケモノの姿を見て再び驚愕させられる。  バケモノの股間には、とてつもないほど巨大で逞しい男根が生えていた。  そしてそこには、無数の緑色の「布」が巻かれており、さながらどこぞの部族の○○○ケースを連想させる。  だがそれは、僅かではあるがそれぞれ蠢いているようだ。  よく見ると、それは総排泄孔から口まで貫通させられた、成体実装石達の成れの果てだった。  一番先頭? の実装石が、大量の血涙を流しながらこちらを眺めている。  ズシン、ズシン、ズシン……  のたうつバケモノの更に向こうから、別な巨体が姿を見せる。  非常灯の光を遮り現れたのは、三体の影! 「に、逃げるぞっっ!」  テチィィィッ!!  ぐるるるるるるるる……  としあきは、ようやく身を起こし始めたバケモノに再び熱線を浴びせると、大急ぎで今来た路を駆け戻った。  背後から、けたたましい叫び声と大きな足音が迫ってくる。           ※          ※          ※  夜の帳が降り始める頃、ぷち達一行は、三つ目の村を発見した。  海辺に近い場所にあるこの村は、今までのものよりかなり大きく、町と言っても支障がない規模に思えた。  各所から煙が昇り、明かりも漏れているため、今のところは安全のようだ。  今回は、ひろあきとヒスイが交渉に出ることになり、残りは全員留守番となった。  ミドリの存在がばれないように工夫しながら、ルリは二人の成功を祈ることにした。  二時間ほどして、ひろあきとヒスイが戻ってきた。  両手には大きな袋を持っており、二人とも笑顔を浮かべている。 「ルリ、大成功です!  こんなに塩と食料をもらえたです!」  “いやあ、まさかあんな大歓迎を受けるとは思わなかったよ” 「えっ? いったいどうしたんだい?」 「不思議テチ!」  荷物を馬車に載せながら、ヒスイはルリ達に説明した。  姿形が違うためはじめは警戒された二人だったが、ひろあきがリンガルを調整したおかげで意志の疎通はそこそこ成功 した。  村はちょうど何かの祭りをやっていたようで、ヒスイは広場で格闘技を活かした演舞を実践。  板や岩の試割りが喝采を浴び、村長と思われる人まで出て来る好評ぶりだった。 「——それで、バケモノの情報と合わせて色々話をしたです。  あの村を襲った連中は“マラオーク”というらしいです」 “デェ?! マラデス?!” 「マラって何テチ?」 “メイド君は知らない方がいいと思うな”  ヒスイによると、実翠人より遥かに巨大な体格で大きな男根を持つ「マラオーク」は、凶暴さと賢さ、そして貪欲さを併せ持つ 実翠人の天敵で、時折遠方から集団で「狩り」にやって来るのだという。  「オーク」と呼ばれる実装生物異業種はヒスイ達の世界にもいたが、それより遥かにたちの悪い生物のようだ。  彼らは情け容赦なく実翠人や実装石を蹂躙し、肉欲・食欲を一度に満たし、村を徹底的に破壊して去っていく。  その恐怖心から、実翠人達は彼女達なりに厳重な警戒態勢を取っているらしい。 「それはわかったけど、どうして村の人々に歓迎されたんだい?」 「うん、ヒスイ達がそいつらを倒して来てやるって言ったです!」 「テ……テエェェェェェェェッッッ?!?!」 “この乳デカ娘め! 頭がポンチ狂ったデズァ?!” 「うるさいです! この死にゾコナイ!」  ひろあきが、ヒスイに続いて説明する。  村人の話では、マラオークは「神の地」と呼ばれる遥か彼方に大規模な巣を持っており、そこからはるばるやって来ると されている。  「神の地」はここから山二つ以上超えた遠方にあり、実翠人は誰も辿り付いたことはないという。  方向も位置も不正確極まりない情報だが、実翠人達は、いつもマラオークがやってくる方向を知っており、北北西方面を 重点的に警戒していた。 “この先に、更に大きな村があって、そこにある物見やぐらで監視を行っているんだって。  そこまでたどり着けば、「神の地」に辿り付くのも時間の問題かもしれないね” 「テェェ、それはいいけど、クソドレイサンとはいつ逢えるテチィ?」 “もういっそ諦めるといいデス。  クソドレイは他にもいるデス” 「クソドレイサンと逢えないと、オネーチャも死んじゃうテチ?」 “デデッ?! 忘れてたデス!  おのれクソドレイイィィ!!”  その晩、一行は村の中の納屋を借りて一夜を明かすことになった。  トカデーも充分なエサと水をもらいご満悦だったが、村人達の勧めで、もう一匹トカデーを追加する運びとなった。  これで、翌日からは移動速度と距離が飛躍的に伸びるだろう。  予想外の報酬に心躍らせる一行だったが、同時に、それだけ期待されているのだという事を実感させられた。  皆が寝静まった頃、ミドリはひろあきの顔をペチペチと叩いた。 “おいクソドレイ2号。  例の粉、材料が何かわかったデス?” “ああ、あれは植物性だったよ” “植物? なら安心デス!” “ジソタロイモという地下茎植物の種芋から液汁を取って乾燥させてたものらしい。  実翠人は、僕達でいうところのお好み焼きみたいに加工して食べていた” “ジソタロ……やっぱり実装生物だったデス?” “分泌液の加工品だし、それそのものを食べるよりはずっとマシだろう?” “確かにそうデスけど……ところで、そのお好み焼きの具材は何デス?” “それは聞かない方がいいと思うよ” “デデ……”  ミドリは、今の会話は夢の中の出来事だったと信じ込むことにした。           ※          ※          ※  ——それから、三日後。  あの後ホテルに戻り体勢を整え直したとしあきとマルは、北東ブロックに侵入して巨根のバケモノと戦い、或いは追われて 脱出というパターンを繰り返し続け、いまだに実装石の集団に出会えていなかった。  否、正しくは何度かそれと思しき者達と遭遇はしたのだが、としあきの姿を見て逃亡したり悲鳴を上げたりするばかりで、 またそれがバケモノを呼び寄せるという悪循環に陥っていたのだ。  驚くべきことに、ある程度まともに会話が成立した実装石は、初日に出会ったあの個体だけだった。    AD.37850.6.22.TUE PM 02:48  残り滞在時間は、あと僅か18時間40分弱。  だがとしあきは、初期実装の子供はおろかぷち・ミドリらとの再会すら果たせていない。  当初、としあきはこの世界で初期実装の子供を捕まえ、一気にゲームセットに持ち込もうと考えていたのだが、やがて それは甘かったと実感せざるをえなくなった。  「ペガサス」の外部に居る可能性もあるわけで、外に捜しに出るとしても、どのみちあの場所を通過するしかない。  チカによると、本艦のメインハッチは完全に地面に埋没しており、展開不能になっているという。  それ以外にも緊急ハッチが各所に点在するが、それらはすべて宇宙空間で使用するもののため、脱出後に数百メートル の高さを自力で降りなければならない。  当然、「ペガサス」内には脱出カプセルや艦載機もあるが、前者は大気圏内での使用は前提でないため危険であり、まして 使ったとしても再び艦内に戻る事は不可能に近い。  加えて、防衛用艦載機のほとんどが無人操縦機で、人間はおろかマルですら搭乗するスペースがない。  様々な可能性を考慮した結果、やはり北東ブロックを通り抜けて船外へ出るしかないという結論に辿り付くしかなかったのた。  ここは、中央都市中枢部「カシスの庭」。  としあきとマルは、再びチカの許を訪れていた。  データ検索を終え、少しずつ「ペガサス」の全貌を理解し始めたとしあきは、チカから更なる状況説明を受け、今後に備える。  だがどうしても、残りタイムリミットが少ないという点が気にかかり、焦りが生じる。  いつしか、無意識にチカの言葉を遮りがちになり、としあきは自分の情けなさに苛立ちを覚えていた。 『としあき様、ご提案なのですが』 「なんだよ?」 『もしも世界移動が叶わなかった時は、この艦内でお過ごしになられてはいかがでしょう?』 「そりゃムチャだ。いくらこの船が安全だからって、動力や資材が尽きたらそこまでだろ?」 『そのご心配は無用です。  当艦のメイン動力“W.D.E.D”は、半永久的な稼動が可能です』 「半永久的ぃ? そんなこと、ありうるわけがねぇだろ」 『ご説明いたします』  そう言いながら、チカは再び右手をかざす。  それまで学んだ知識の中で名前だけ何度か聞かされた“高次元エネルギー炉”について、としあきはまだ詳しい説明を 受けていない。  チカの手に触れたとしあきとマルは、再び白い空間に意識を飛ばす。  西暦2009年から世界各所で発生し始めた不可解な現象「異次元干渉」により、地球は深刻な被害を受けていた。  何の前触れもなく、突然ワームホールが開いてしまい、様々な物体を吸い込む事故である。  発生原因を突き止める事こそ叶わなかったが、旧人類は長年の研究の末、ある程度以下の規模のワームホールを封入 する技術を発見した。  ワームホールは、本来であれば宇宙全体のエネルギーを用いて尚発生に足りないというほどのもので、「異世界への扉」 という一言で片付くようなものではない。  人類が一からワームホールを作り出すことは不可能だが、既に存在してしまっているワームホールを利用する事は可能 という理屈だ。  これを機に、封入されたワームホールを別利用する理論と技術はたちまち進歩し、ワームホールの彼方に無数に存在する 異次元に次々とリンクさせ、先方に存在するエネルギー(概念のが異なるため現世界で利用可能とされる物質)を選別して 組み込むという、半無限エネルギーサーキットの発明へと辿り付く。  理論上、このシステムだとワームホールを封入した「炉」が破損しない限りエネルギー供給は無限であり、中のワームホール も外部要素により消滅させられることはない。  また、多少であれば炉の損傷も補うことが可能となる。  これが、「ペガサス」に搭載された高次元エネルギー炉「Wormhole Dimension Energy Conversion Drive(W.D.E.D)」の正体 であり、同時に、超巨大な宇宙艇の機能を長期間継続稼動させられる理由なのだ。  単なる電力供給だけでなく、としあきとマルが食べている食事や普段利用している生活用品も、すべて高次元エネルギー によって生み出されている。  W.D.E.Dは、37万人の人間を収容しつつ、その全員が快適な生活を営めるだけの生活需要を補える能力を有している。  それが「超生産能力」の秘密だった。 『——おわかりいただけましたか?  ここは、いわばとしあき様にとっての理想郷になりうる場所でもあるのです。  お引止めはいたしませんが、もしもとしあき様の願いが叶わなかったあかつきには、是非ご一考ください』  そう言いつつも、チカの表情が僅かに曇る。  言葉とは裏腹に、としあきを引き止めたいようだ。  としあきは、この機会に以前から抱いていた疑問を投げかけてみた。 「なあ、そろそろ教えてくれ。  どうして君は、ぷちとそっくりの姿をしているんだ?」 『それは——』 「それに君は、俺が異世界を巡った末にここに来たってことを、最初から知っていたかのような口ぶりだった。  どうして、俺のことをそんなに詳しく知っている?」 『——』  チカの言葉が、不自然に途切れる。  まるで問い詰められて押し黙った子供のような態度だ。  それはあまりにも人間らしい仕草だったが、今のとしあきには不満でしかない。 「ついでにもう一つ。  この船は、地球の調査のために移民先の星から戻ってきたんだよね?  でもそれって、もっと小規模な探査船でもいいんじゃないか?  わざわざペガサスが使われる必要性を感じないんだ」 『——』 「これまで君からもらった艦内データには、地上探査機のデータはあったけど、それは本来移民先の惑星環境測定用のもの  じゃん。  それに、徴収されたデータを移民先の星に送り届けるような設備は、なぜかここにはない。  仮にあったとしても、データを発送するためにはペガサス級の動力が必要だ。  ——矛盾が多すぎないか?」  テ、テチィィ……  としあきの怒涛の追求に、チカはすっかり黙りこくってしまう。  返答に戸惑うような仕草を行った後、チカは、思い切ったような態度で話しかけてきた。 『残念ですが、としあき様の今のご質問に回答することは、今の私には出来ません』  散々待った末の回答に肩透かしを食らったとしあきは、舌打ちをしながらチカを睨みつける。 「肝心なことはダンマリで、ここに居続けろってか。むちゃくちゃだな」 『私は、艦内の情報すべてを提供する権限を与えられておりません。  としあき様のご質問の回答は、最重要トップシークレットの部類に属します。  回答するためには、認可が必要となります』 「認可?   この艦内には、俺達とあのバケモノ達以外、誰もいないんだろ?  誰に許可もらうんだよ」  とても悲しそうな表情で、チカは、ぼそりと一言呟いた。 『当艦の艦長、です』           ※          ※          ※  一方、ぷち達一行は、先の村から更に北北西に進み、第四の村を訪れていた。  話の通り、中央に物見やぐらを立て周囲を背の高い木の塀で覆ったその村では、「神の地」についての詳細な情報が手に 入った。  実装石を連れている一行に、村人達は当初怪訝な態度を取ったものの、マラオーク打倒のための旅だと説明すると、掌を 返すように歓迎してくれた。  ぷちとヒスイは、ジソタロイモの粉末を利用した調理法を学び、飽き始めていたうどんモドキに代わる食料の獲得に成功した。  だが、相変わらず野菜類や肉類といった栄養素やタンパク源は得られず、体調まで万全とは言い難かった。  他に「非実装食品」を得る手段は相変わらず見当たらず、このままだと同族食いの禁忌を破らざるをえないという状況に 変化はない。  村人達は、しきりに仔実装の干物を勧めてくれたが、ひろあき以外のメンバーの拒絶は激しかった。  第四の村を旅立ち、「神の地」へ続くと言われる渓谷に差し掛かる時、ひろあきは渓流を遡る魚達の姿を見た。  それは「鮭」や「鱒」にとても酷似しており、少なくとも彼には見分けがつかなかった。 “そうか……失念していた” “デェ? クソドレイ2号、どうしたデス?” “実装生物は基本的に地上生物だろう?  だとしたら、水棲生物に進化した者は少ないんじゃないかな?” 「それがお魚ってことテチ?」 「そっか、ひろあき頭いいです! そーいう事ならとっととレッツゴーです!」  そう言うが早いか、ヒスイは馬車を飛び降りて渓流に身を躍らせた。  流れが速いのか、最初は足を取られ溺れかけていたが、すぐに姿勢を整え、小さな岩の上に片足で立つ。  そして、昇ってくる魚を次々に蹴り飛ばし始めた。 「シャッ! よっしゃあどんどん来いですぅっ!」  あっという間に、大型の鮭か鱒が三匹も確保出来た。 「すごいテチ! すごいテチ! ヒスイオネーチャ、かっこいいテチ!」 「こういうのは、さすがヒスイだよね。お疲れ様」 “ヒスイ、容赦なくパンツと尻が見えて実にエロいデス。  さてさて、魚の正体は……” “ふむ、問題はないみたいだね”  捕らえた魚を押さえつけ、ひろあきとミドリがじっくり観察する。  見た感じ実装生物らしさは全くなく、目の色も普通で三つ口でもなく、緑色の体色も全くない。  誰がどう見ても、それは鮭或いは鱒だ。  ひろあきの結論に大歓喜した一行は、早速その場で火を起こし、久しぶりの動物性タンパク質を摂ることになった。 「じゃあ、早速さばくです」  ヒスイが、ツールボックスから小型のナイフを取り出し、魚の腹を割いていく。  手馴れた動作に、全員が唸りながら感心する。  モツを取り出し、頭を落とし、いよいよ三枚におろそうという時、突然ミドリが悲鳴を上げた。 “ひ、ヒスイ! 調理やめ! これはダメデスっっ!” 「でぇ? どうしたで………えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!」  先ほど取り除いた臓物の中から、大量の幼生体が発生していた。  どうやらそれは“卵巣”だったようで、中から出てきたのは、胸びれと背びれを持った、白い目の蛆実装。  鳴き声こそ立てていなかったが、どう見ても捕食されたものではなく、胃袋は別にある。  よく見ると、魚の身体から流れた血は、僅かに赤と緑が入り混じった色をしていた。  その光景は相当グロく、ぷちは口を押さえて遠ざかり、ルリですら眉間に皺を寄せている。  ナイフを持ったまま硬直していたヒスイは、やがて、天をつんざくような悲鳴を上げた。 「で、で、でぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」 「お、落ち着いて、ヒスイっ!!」 「テェェェェン! これも実装生物だったテチイィィ!!  お魚さん食べたかったテチィィ!」 “デェェ、なんてこったデス” “こりゃもう、うかつに手出しは出来ないね本当に”  軽いパニックに陥ったヒスイが落ち着くまで休んだ後、一行は、再び渓谷を進んでいくことにした。           ※          ※          ※  AD.37850.6.23.WED AM 09:59  としあきの世界ジャンプは、とうとう起こらなかった。  そして、時間が過ぎていく。           ※          ※          ※  AD.37850.6.27.MON PM 10:11  としあきやぷち達がこの世界を訪れてから、十日が過ぎようとしていた。            ※          ※          ※  長い旅も、ようやく終わりを迎えようとしている。  ぷち達一行は、とてつもなく長く続く山脈群を通り抜け、ついに、今まで見たこともない場所へ辿り付いた。  誰の説明を受けずとも、そこがかの「神の地」だというのは、すぐにわかった。 「ふぇぇぇ……すんげぇですぅ〜〜」 「これは——こんな凄い光景、今まで見たこともない!」 「テチャア……」 “デギャア! まだこの崖を降りていかないとならないデス!  まだまだゴールじゃないデズァ!” “……”  一行は、目の前に広がる予想外の光景に、心を奪われていた。  崖下目測100メートルに見える広大な平地、そこは高い岩山に囲まれ、盆地のようになっていた。  赤土色に染め上げられた剥き出しの大地と大岩が、数々の奇跡の末に作り出した箱庭。  その中に、不自然なまでに輝く銀色の街並が広がっている。  銀色の正体は、斜めに差し込む太陽の鈍い光に照らされた、無数の建造物の壁の色だ。  それは、明らかに実翠人の文明で作れるものではない。  だが同時に、ルリやヒスイの世界でも再現不可能であろうことは、言うまでもなかった。  それほどまでに、この街は時代を超越していたのだ。 “これが石造りだったら、さながらマチュピチュ遺跡のようだね”  一人だけ冷静なひろあきが、ボソリと呟く。 “クソドレイ2号、それよりアレは何デス?  町におっきな日傘がかかってるデス。  つーか、おっきいなんてもんじゃないデス!”  ぷちに抱かれたミドリは、そう呟いて上を指差す。  ここには、もう一つ不可思議なものがある。  それは、街全体を覆い隠すかのように突き出した、三角形の巨大な人工建造物だ。  街を取り囲む広大な岩山の一角からにょっきりと首を突き出しているようで、これにより街の大部分は大きな影で覆われて しまっている。  ぷち達は街から100メートルほど高い位置にいるにも関わらず、三角形の建造物はそれよりも遥かに高い位置にある。  ヒスイにもルリにも、そしてぷちにも、ミドリにも、それが何なのか全く検討もつかなかった。  もし、そこまでたどり着こうとしたら、更なる旅が必要だろう。  そう思わされるほど、それはとてつもなく巨大だった。 “まるで、SFに出てくるスペースシップだな” 「滑る湿布テチ?」 “スペースシップ——空想科学に出てくる宇宙船だよ。  まあ、いくらなんでもこんなに巨大なものはありえないけどね。  第一、地上でこんなもの作れるわけがな——いや、待てよ”  突然、ひろあきが街と三角形を交互に見つめながら唸り始める。  ヒスイは、不思議そうに彼の顔を覗きこんだ。 「ひろあきはどうしちゃったです?」 「考え事をしてるみたいテチ、そっとしてあげるテチ」  一行は相談の末、「神の地」と思われる街まで降りてみることにした。  実翠人の話が本当なら、ここはマラオーク達のテリトリーの筈だ。  ヒスイは愛用の刃を仕込んだヒールブーツを履き、ルリもガントレットとショーテルを準備する。  干したうどんモドキをしきりに齧りながら、ミドリは、流れていく景色に見入っていた。  細い山道を下りながら、御者席に座るルリは街の様子を入念に窺い続けていた。  マラオークはおろか、実翠人と思しき者も、何も居る気配がない。  見上げるほど高い建物が無数に建てられており、相当高度な建築計画が施されている事が窺えるにも関わらず、そこは あまりにも不自然なほど、動くものの気配がない。  正に、ゴーストタウンだ。  なんとか無事に街に入れた一行は、車輪の音を響かせながら大きな通りの真ん中を進んだ。  現代世界でいう所の片側三車線ほどの広さがある大きな道路は、砂利も岩も丁寧に除去され、アスファルトが敷かれて いる。  一行は、あまりに不似合いな街の光景にそれぞれの驚きを表している。  だがひろあきだけは、違う感想を述べていた。 “——随分古臭い造りの街だな”  その直後、彼女達の背後にあるビルの一つが、突然爆発した!  何の前触れも、なく。 「ででぇっ?!」 「危ない!!」 “うわあぁっ!?”  モゲフ〜!!  突然の自体に驚いたトカデーが暴れ、馬車が大きく傾く。  と同時に、地面が激しく振動し、路面が次々に割れていく音が轟く。  ルリの攻撃など比較にならないほどの粉塵が立ちこめ、周囲の視界が完全に失われた。  思わず身を伏せた一行の耳に、マラオークとは違う、実も凍るような雄叫びが届いた。 「でぇっ?! まだなんかいやがるです?!」  一番最初に体勢を整えたヒスイが、粉塵の合間を縫うように飛翔する。  だが、声を追って見上げたルリ達には、まだ何も見えない。 「ヒスイ! ムチャするなぁっ!!」 「なんだかしらんけど、一気にぶっちらばしてやるですっ!」  少しずつ収まり始めた粉塵を眼下に、ヒスイは何者かの影を見つけていた。  そこに焦点を絞り、左手のブレスレットに手を添えようとする。  だが——  ヂャアァァァァァァァァッッッ!!  粉塵の中から、突然、何かが猛スピードで飛び出した! 「で……」  ヒスイの視界に、「無数の牙」が広がる。  ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!  今まで聞いたこともないような痛々しい悲鳴と、激しい激突音、そしてけたたましくおぞましい叫び声が続けざまに響く。 「ヒスイっ!」 「ヒスイオネーチャ?!」  ヂャアァァァァッッッ!!!  ズシン……ズシン……  マラオークなど比較にならない、超重量を感じさせる足音。  ようやく晴れてきた粉塵の向こうから現れたのは、見上げるほど巨大な……まさに小山のような影だった。 「てぇいっ!」  それが何かを確認するより先に、ルリはショーテルの一本を、ブーメランのように投げつけた。  ズバ——ッッ!  ヂャギャアァァァァァァァッッ!!!  肉を切り裂くような音と、鼓膜か破れそうなほどの叫び声が大気を振るわせる。  謎の巨体は身を翻し、大地を震わせながらどこかへ逃走していく。  入れ替わるように、ルリがまだ粉塵舞う戦場の中に飛び込んだ。  数秒後、ルリの叫び声がぷちの耳に届いた。 「ヒスイィィィィィッッ!! ヒスイィィィィィィッ!?!?」 「ヒスイオネーチャ、どうしたテチ?! ヒス………」 “デェ……”  ぷちとミドリが、言葉を止める。  ひろあきも、言葉が出せなかった。  ルリに抱きかかえられているヒスイは、右脚を根元から失っていた——           ※          ※          ※  ヒスイの受けたダメージは、これまでレックレス・エンジェルの誰も経験していないほどのものだった。  ヒスイの武器ともいえる右脚は股関節部分からごっそり奪い取られており、筋肉や脂肪がはみ出し、骨の一部も露出して いる。  出血も多く、ヒスイは意識を失い弱々しい呻き声を立てるばかりで、顔色も死人のように真っ青だ。  脈拍は不規則化し、指先も冷たくなっている。  そして何より、あんな状況で歴戦の勇士ヒスイを瞬時に追い詰めるほどの圧倒的攻撃力を持っている者が、周囲にいまだ 存在しているという現実が、一行を更なる恐怖へと追い詰め、冷静さを奪っていた。  ヒスイの右脚は、発見されていない。  「ヒスイを攻撃した者」のおぼろな影をたまたま見止めたひろあきの談によると、彼女は地上5〜6メートルほどの地点で 撃墜されたようだ。  マラオークでは、そんなところまで攻撃することは出来ない。  またひろあきが見た影は小さな丘を思わせるほど巨大であり、明らかな別者だと断定できる。  その後、一行はヒスイと看護役を上の階の部屋に置き、ルリともう一人が下の階で警護を行うことにした。  ルリは徹夜を覚悟し、看護役ともう一人は可能な限り身体を休め、一定時間で交代する。  こんなところでとしあきの携帯の時計が役に立つことに、ぷちはなんともいえないものを感じていた。 「私、いつもいつも何も出来ないテチ。悲しいテチ。  どうすればいいテチ? どうすれば、みんなを助けることが出来るテチ?  クソドレイサン……」  最初の看護役になったぷちは、精神的疲労のせいか、いつしかうとうとと眠りに引き込まれ始める。  患部にタオルと包帯を巻いたヒスイが、苦しげに呻き声を立てた。  その後、何度か微震が発生したものの、一行の居る建物に被害は発生しなかった。  何日にも及ぶ長い旅に加え、突然のトラブルに見舞われたせいか、ルリ達は全員極度の疲労感と睡魔に襲われていた。 →NEXT −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
<script type="text/javascript" src="http://www.aaacafe.ne.jp/js/header_ad.js"> </script> 【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】  弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため 強引に異世界を旅行する羽目になった。  「実装石」と呼ばれる人型生命体の存在する世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間という タイムリミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならなくなった。  8つ目の「実装人の世界」で実装人魔道師ビドゥの魔法に巻き込まれたとしあきは、 “もう一つの実装人の世界”に現れた。  実装生物を捕食する実翠人が住む世界で、ぷちやミドリ達と離れ離れになってしまったとしあきは、 あらたに知り合った仔実装マルと共に「巨大移民用宇宙艇ペガサス」内部を探索する。  やがて彼は、初期実装を捜すため、唯一外界に直接通じている「北東ブロック第786居住エリア」 を目指すことを決意する。  一方、「実装人の世界」の住人・ヒスイやルリと共に行動しているぷちとミドリ、そしてひろあきは、 何者かによって壊滅させられた実翠人の村を訪れていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−    じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第9話 ACT-3 【 危険度指定地帯 】 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−      としあきとマルの乗るエアカーのような乗り物は、中央都市を出た後に長いトンネルを走り抜け、やがて超巨大な工場の ような場所に出た。  それは、都市部とは異なり機材がむき出しになっているように見える空間で、都市部以上に縦横無尽にパイプラインが 伸びている。  それら一つひとつが移動通路だという事に、としあきはすぐ気付く。  本来であればここには、無数の人々やエアカーが行き来し、賑やかな様相を呈していたのだろう。  だが今となっては、この空間で動いているのは自分達だけだ。  やがてエアカーは、空中に浮かぶ透明の球体の中に入り込む。  直径100メートルはあろうかと思われる巨大な球体には、各所に更なる通路への入り口が点在しており、その周囲には ゲートのようなものが設置されている。  エアカーは球体のほぼ中央にホバリングし、やがて床がせり上がり始める。  エレベーターのようにゆっくりと昇って行き、しばらくすると、ほぼてっぺんに近い位置のゲート前まで移行する。  ゲートの脇に表示されている大きなモニタには「DANGER」の赤い文字が点灯していたが、すぐに「CAUTION」に変化した。  と同時に、ゲートの奥で何かが開いていくような音がした。  ゲートの横にある大きなウインドウの中には、「Sauth-East Area No.786」と表示されていた。 「ここから先が、危険地帯ってことか。  マル、絶対に俺から離れるなよ」  テチィ!  不思議なことに、マルは全く怯える様子を見せず、むしろ張り切っているように思える。  単に危険を認識していないのだろうと考え、としあきはため息を一つ吐いた。  助手席の上に置かれた、黒く重い物体を、もう一度手にとってみる。  長く伸びた銃身を見て、としあきはごくりと喉を鳴らした。  途中、エアカーが急激に加速し、まるで高速道路を走っているような感覚にとらわれる。  新たに出現した球状のターミナルを二つほど超え、少しずつ下降していく。  底面ぎりぎりを走るラインに乗ったとしあき達は、やがて見上げるほど巨大なホールの中に入っていく。  と同時に、自動的にライトが点灯した。 「うわ…」  テチ?  エアカーのライトに照らし出された光景は、今までとは全く違うものだった。  崩れた建造物、割れた壁、落下して山になっている瓦礫、破損して散らばっている無数の作業機械やエアカー。  よく見ればロボットのようなものまであり、ここで相当大きな被害があったことを示している。  としあきは、最初その意味がわからなかったが、やがて理解が及ぶ。  艦内に、突然ニョキッと巨大な岩が生えていたのだ。  その大きさはぱっと見ただけで100メートルは悠に超えており、かなり深くめり込んでいる様子が窺える。 「うっわ、これタイタニックの氷山よりすげぇな」  テチテチテチテチィ  「ペガサス」の外装は相当分厚く作られており、しかも多層構造になっているため、本来であれば岩が激突した程度で内部 まで損傷が起こることは考えられない。  しかし、鋭利に尖った岩の塊はまるでナイフを突き刺したように、軽々と装甲を突き破り艦内に顔を見せている。  岩の近くを通り過ぎる最中、コンパネからチカの声が聞こえてきた。 『これは、着地直前に運行管理システムにトラブルが発生したための影響です』 「ふうん、失敗しちまったわけか」  チカによると、「ペガサス」は腹を擦りつけながら地面を滑走し、装甲破損し自重を支え切れなくなった部分に岩がめり込んだ ため、北東ブロックが致命的な損傷を受けたという。  このダメージのため二度と航行不能となったが、同時にこれが機体を支えるストッパー代わりとなっているようだ。 『本艦は、このブロックを中心に機体の約76%が接地状態、残り24%が宙に浮いた状態で停止しています』  フロントウインドウに表示されたワイヤーフレーム状の図面を見て、としあきはようやく全貌を理解出来た。  鋭く尖った三角形と円形が合体したような形状の機首部分が、崖からにょっきり顔を出して下を眺めている状態になっている。 「あれ? ってことは、窓の下から見えた街は——」 『もうまもなく、北東ブロックに到着します』  としあきの独り言を遮るように、チカのアナウンスが響く。  薄緑色の不気味な光で照らされた、ゲームに出てくる廃墟のような雰囲気の場所。  あらゆる場所が崩れ著しく破損しているそこは、まさに地獄の入り口のようだ。  チカは、本来このブロックに入るためのメインルートは閉鎖されているため、岩盤で破損している外装の中を通り抜けて、 居住エリアの近くまで移動するという。  やがて急浮上を始めたエアカーは、トンネルを思わせる暗い闇の中を滑り、再び薄緑色の光の世界へ降り立った。 『お疲れ様でした、第738居住エリアへ続くメインルートに到着いたしました。  大変申し訳ありませんが、としあき様をお送り出来るのはここまでとなります』  着地するエアカーの室内に、チカの声が響く。  助手席の「武器」を抱えながら、としあきは不思議そうに尋ねた。 「どうしてこの先に行けないの?」  テチ? 『実際には移動は可能ですが、としあき様をお送りするリニアモジュール自体の安全性が保障出来ません』 「……どんだけ危険なんだよ、ここ?!」 『としあき様、武器だけでなく他の装備もお忘れなきよう』 「わかってる」  としあきは、後部座席に置いておいたゴーグルとマスク、防刃・防弾ベスト、手袋を装着する。  ゴーグルは赤外線による暗視が可能で、更にマスクと連動した骨振動型ヘッドセットもある。  まるでサバイバルゲームでも始めるようないでたちとなったとしあきは、ベストの胸部分についた小さなポーチにマルを移す と、深呼吸をして外に出た。  ゴーグルの内側には、瓦礫にまみれ荒れ果てた通路が映し出されている。 「よぉし、早速行くぞ」 “気をつけてくだちゃいテチ!”  と突然、聞き覚えのない声が耳に届いた。 「えっ誰?」 “ごチュじんチャマ!” 「えっ、まさか、マル?」 “テチー♪ やっとお話できるテチ☆”  ポーチの中ではマルが笑顔を浮かべ、こちらを見上げていた。 「あ〜びっくりした。これを着けてるとマルの言葉がわかるのな」 “ごチュじんチャマと一緒で、マルとっても嬉しいテチ♪” 「な、なんだか照れるぞ」  驚いたことに、ヘッドセットには実装リンガル機能も付属していた。  かさばるものでもないし、としあきはこれはしばらく使い続けようと考える。  マルの頭を軽く撫でながら、としあきは緊張感を漲らせて通路を進んでいく。  エアカー(リニアモジュール)のライトが届かなくなってから更に十数分、もうかなりの距離を歩いたと思われる頃、マルが 何かを訴えてきた。 “ごチュじんチャマ、くちゃいテチ! ウンチの臭いがいっぱいするテチ” 「えっ?」  としあきは空気清浄・呼吸補助機能のあるマスクを装備しているため気付かなかったが、どうやら周囲は実装石的な臭気 が充満しているようだ。  マルに身を潜めるように命じると、としあきは武器を構え、昔見た映画の主人公兵士を真似るように、壁に背を付けた。  通路は真っ直ぐ伸びているが、壁面に連なるドアはほとんどが開け放たれているようだ。  としあきが最初に出現した部屋同様、そこはすべて個室のようだ。  何も居ない一室に入り込み、机に触れてみるが、あの部屋のように端末が起動する様子はない。 “きっと、非常灯以外の電源供給がされてないんテチ” 「そっか、だからか……って、ちょっと待て」 “テチ?” 「お前、よく非常灯とか電源供給なんて言葉知ってたな」 “ごチュじんチャマ、誰か来るテチ!” 「えっ」  慌てて身を潜めると、確かに何者かがこちらに近づいてくるのがわかる。  ズシン、ズシン……!  ヘッドフォンに重い足音が聞こえてくる。  音はどんどんこちらに近づいており、壁一枚挟んだすぐ傍に辿り付いた。  ぐるるるる……という、野獣が唸るような声が聞こえてきた。  としあきは、ここに来る前にチカから与えられた両手持ちの熱線銃(ヒートブラスター)を構え、息を殺しながら部屋の入り口 を睨む。  更なる振動音の直後、大きな影が、横切った。 「——?!!」  一瞬、時間が停止する。  部屋の中を覗き込んで来た者と、としあきの目が合った。  それは、巨人だった。  としあきよりも遥かに大きく逞しい体躯を持ち、大きく裂けた口からは不気味な舌と牙が覗く。  衣服はまとわず、張り詰めた筋肉は見たこともないほどおぞましい装飾品に包まれている。  そして、両の目は——赤と緑に煌々と輝いていた。  グオオォォォォォオオオオオ!!! 「うわあぁぁぁ! ば、バケモンだあぁぁ!!」  テチャアァ!!  あまりの異形に驚愕したとしあきは、反射的にヒートブラスターのトリガーを引いた。  赤と白が入り混じったような色の閃光が、まっすぐにバケモノの顔面を捕らえる。  バケモノは顔を押さえ、鋭い悲鳴を上げた。  ギャアアアァァァァ!! “今テチ! ここを出るテチ!” 「お、おぅっ!!」  顔面を焼かれたバケモノは通路にぶっ倒れたため、脱出路は確保出来た。  すかさず飛び出したとしあきは、のたうつバケモノの姿を見て再び驚愕させられる。  バケモノの股間には、とてつもないほど巨大で逞しい男根が生えていた。  そしてそこには、無数の緑色の「布」が巻かれており、さながらどこぞの部族の○○○ケースを連想させる。  だがそれは、僅かではあるがそれぞれ蠢いているようだ。  よく見ると、それは総排泄孔から口まで貫通させられた、成体実装石達の成れの果てだった。  一番先頭? の実装石が、大量の血涙を流しながらこちらを眺めている。  ズシン、ズシン、ズシン……  のたうつバケモノの更に向こうから、別な巨体が姿を見せる。  非常灯の光を遮り現れたのは、三体の影! 「に、逃げるぞっっ!」  テチィィィッ!!  ぐるるるるるるるる……  としあきは、ようやく身を起こし始めたバケモノに再び熱線を浴びせると、大急ぎで今来た路を駆け戻った。  背後から、けたたましい叫び声と大きな足音が迫ってくる。           ※          ※          ※  夜の帳が降り始める頃、ぷち達一行は、三つ目の村を発見した。  海辺に近い場所にあるこの村は、今までのものよりかなり大きく、町と言っても支障がない規模に思えた。  各所から煙が昇り、明かりも漏れているため、今のところは安全のようだ。  今回は、ひろあきとヒスイが交渉に出ることになり、残りは全員留守番となった。  ミドリの存在がばれないように工夫しながら、ルリは二人の成功を祈ることにした。  二時間ほどして、ひろあきとヒスイが戻ってきた。  両手には大きな袋を持っており、二人とも笑顔を浮かべている。 「ルリ、大成功です!  こんなに塩と食料をもらえたです!」  “いやあ、まさかあんな大歓迎を受けるとは思わなかったよ” 「えっ? いったいどうしたんだい?」 「不思議テチ!」  荷物を馬車に載せながら、ヒスイはルリ達に説明した。  姿形が違うためはじめは警戒された二人だったが、ひろあきがリンガルを調整したおかげで意志の疎通はそこそこ成功 した。  村はちょうど何かの祭りをやっていたようで、ヒスイは広場で格闘技を活かした演舞を実践。  板や岩の試割りが喝采を浴び、村長と思われる人まで出て来る好評ぶりだった。 「——それで、バケモノの情報と合わせて色々話をしたです。  あの村を襲った連中は“マラオーク”というらしいです」 “デェ?! マラデス?!” 「マラって何テチ?」 “メイド君は知らない方がいいと思うな”  ヒスイによると、実翠人より遥かに巨大な体格で大きな男根を持つ「マラオーク」は、凶暴さと賢さ、そして貪欲さを併せ持つ 実翠人の天敵で、時折遠方から集団で「狩り」にやって来るのだという。  「オーク」と呼ばれる実装生物異業種はヒスイ達の世界にもいたが、それより遥かにたちの悪い生物のようだ。  彼らは情け容赦なく実翠人や実装石を蹂躙し、肉欲・食欲を一度に満たし、村を徹底的に破壊して去っていく。  その恐怖心から、実翠人達は彼女達なりに厳重な警戒態勢を取っているらしい。 「それはわかったけど、どうして村の人々に歓迎されたんだい?」 「うん、ヒスイ達がそいつらを倒して来てやるって言ったです!」 「テ……テエェェェェェェェッッッ?!?!」 “この乳デカ娘め! 頭がポンチ狂ったデズァ?!” 「うるさいです! この死にゾコナイ!」  ひろあきが、ヒスイに続いて説明する。  村人の話では、マラオークは「神の地」と呼ばれる遥か彼方に大規模な巣を持っており、そこからはるばるやって来ると されている。  「神の地」はここから山二つ以上超えた遠方にあり、実翠人は誰も辿り付いたことはないという。  方向も位置も不正確極まりない情報だが、実翠人達は、いつもマラオークがやってくる方向を知っており、北北西方面を 重点的に警戒していた。 “この先に、更に大きな村があって、そこにある物見やぐらで監視を行っているんだって。  そこまでたどり着けば、「神の地」に辿り付くのも時間の問題かもしれないね” 「テェェ、それはいいけど、クソドレイサンとはいつ逢えるテチィ?」 “もういっそ諦めるといいデス。  クソドレイは他にもいるデス” 「クソドレイサンと逢えないと、オネーチャも死んじゃうテチ?」 “デデッ?! 忘れてたデス!  おのれクソドレイイィィ!!”  その晩、一行は村の中の納屋を借りて一夜を明かすことになった。  トカデーも充分なエサと水をもらいご満悦だったが、村人達の勧めで、もう一匹トカデーを追加する運びとなった。  これで、翌日からは移動速度と距離が飛躍的に伸びるだろう。  予想外の報酬に心躍らせる一行だったが、同時に、それだけ期待されているのだという事を実感させられた。  皆が寝静まった頃、ミドリはひろあきの顔をペチペチと叩いた。 “おいクソドレイ2号。  例の粉、材料が何かわかったデス?” “ああ、あれは植物性だったよ” “植物? なら安心デス!” “ジソタロイモという地下茎植物の種芋から液汁を取って乾燥させてたものらしい。  実翠人は、僕達でいうところのお好み焼きみたいに加工して食べていた” “ジソタロ……やっぱり実装生物だったデス?” “分泌液の加工品だし、それそのものを食べるよりはずっとマシだろう?” “確かにそうデスけど……ところで、そのお好み焼きの具材は何デス?” “それは聞かない方がいいと思うよ” “デデ……”  ミドリは、今の会話は夢の中の出来事だったと信じ込むことにした。           ※          ※          ※  ——それから、三日後。  あの後ホテルに戻り体勢を整え直したとしあきとマルは、北東ブロックに侵入して巨根のバケモノと戦い、或いは追われて 脱出というパターンを繰り返し続け、いまだに実装石の集団に出会えていなかった。  否、正しくは何度かそれと思しき者達と遭遇はしたのだが、としあきの姿を見て逃亡したり悲鳴を上げたりするばかりで、 またそれがバケモノを呼び寄せるという悪循環に陥っていたのだ。  驚くべきことに、ある程度まともに会話が成立した実装石は、初日に出会ったあの個体だけだった。    AD.37850.6.22.TUE PM 02:48  残り滞在時間は、あと僅か18時間40分弱。  だがとしあきは、初期実装の子供はおろかぷち・ミドリらとの再会すら果たせていない。  当初、としあきはこの世界で初期実装の子供を捕まえ、一気にゲームセットに持ち込もうと考えていたのだが、やがて それは甘かったと実感せざるをえなくなった。  「ペガサス」の外部に居る可能性もあるわけで、外に捜しに出るとしても、どのみちあの場所を通過するしかない。  チカによると、本艦のメインハッチは完全に地面に埋没しており、展開不能になっているという。  それ以外にも緊急ハッチが各所に点在するが、それらはすべて宇宙空間で使用するもののため、脱出後に数百メートル の高さを自力で降りなければならない。  当然、「ペガサス」内には脱出カプセルや艦載機もあるが、前者は大気圏内での使用は前提でないため危険であり、まして 使ったとしても再び艦内に戻る事は不可能に近い。  加えて、防衛用艦載機のほとんどが無人操縦機で、人間はおろかマルですら搭乗するスペースがない。  様々な可能性を考慮した結果、やはり北東ブロックを通り抜けて船外へ出るしかないという結論に辿り付くしかなかったのた。  ここは、中央都市中枢部「カシスの庭」。  としあきとマルは、再びチカの許を訪れていた。  データ検索を終え、少しずつ「ペガサス」の全貌を理解し始めたとしあきは、チカから更なる状況説明を受け、今後に備える。  だがどうしても、残りタイムリミットが少ないという点が気にかかり、焦りが生じる。  いつしか、無意識にチカの言葉を遮りがちになり、としあきは自分の情けなさに苛立ちを覚えていた。 『としあき様、ご提案なのですが』 「なんだよ?」 『もしも世界移動が叶わなかった時は、この艦内でお過ごしになられてはいかがでしょう?』 「そりゃムチャだ。いくらこの船が安全だからって、動力や資材が尽きたらそこまでだろ?」 『そのご心配は無用です。  当艦のメイン動力“W.D.E.D”は、半永久的な稼動が可能です』 「半永久的ぃ? そんなこと、ありうるわけがねぇだろ」 『ご説明いたします』  そう言いながら、チカは再び右手をかざす。  それまで学んだ知識の中で名前だけ何度か聞かされた“高次元エネルギー炉”について、としあきはまだ詳しい説明を 受けていない。  チカの手に触れたとしあきとマルは、再び白い空間に意識を飛ばす。  西暦2009年から世界各所で発生し始めた不可解な現象「異次元干渉」により、地球は深刻な被害を受けていた。  何の前触れもなく、突然ワームホールが開いてしまい、様々な物体を吸い込む事故である。  発生原因を突き止める事こそ叶わなかったが、旧人類は長年の研究の末、ある程度以下の規模のワームホールを封入 する技術を発見した。  ワームホールは、本来であれば宇宙全体のエネルギーを用いて尚発生に足りないというほどのもので、「異世界への扉」 という一言で片付くようなものではない。  人類が一からワームホールを作り出すことは不可能だが、既に存在してしまっているワームホールを利用する事は可能 という理屈だ。  これを機に、封入されたワームホールを別利用する理論と技術はたちまち進歩し、ワームホールの彼方に無数に存在する 異次元に次々とリンクさせ、先方に存在するエネルギー(概念のが異なるため現世界で利用可能とされる物質)を選別して 組み込むという、半無限エネルギーサーキットの発明へと辿り付く。  理論上、このシステムだとワームホールを封入した「炉」が破損しない限りエネルギー供給は無限であり、中のワームホール も外部要素により消滅させられることはない。  また、多少であれば炉の損傷も補うことが可能となる。  これが、「ペガサス」に搭載された高次元エネルギー炉「Wormhole Dimension Energy Conversion Drive(W.D.E.D)」の正体 であり、同時に、超巨大な宇宙艇の機能を長期間継続稼動させられる理由なのだ。  単なる電力供給だけでなく、としあきとマルが食べている食事や普段利用している生活用品も、すべて高次元エネルギー によって生み出されている。  W.D.E.Dは、37万人の人間を収容しつつ、その全員が快適な生活を営めるだけの生活需要を補える能力を有している。  それが「超生産能力」の秘密だった。 『——おわかりいただけましたか?  ここは、いわばとしあき様にとっての理想郷になりうる場所でもあるのです。  お引止めはいたしませんが、もしもとしあき様の願いが叶わなかったあかつきには、是非ご一考ください』  そう言いつつも、チカの表情が僅かに曇る。  言葉とは裏腹に、としあきを引き止めたいようだ。  としあきは、この機会に以前から抱いていた疑問を投げかけてみた。 「なあ、そろそろ教えてくれ。  どうして君は、ぷちとそっくりの姿をしているんだ?」 『それは——』 「それに君は、俺が異世界を巡った末にここに来たってことを、最初から知っていたかのような口ぶりだった。  どうして、俺のことをそんなに詳しく知っている?」 『——』  チカの言葉が、不自然に途切れる。  まるで問い詰められて押し黙った子供のような態度だ。  それはあまりにも人間らしい仕草だったが、今のとしあきには不満でしかない。 「ついでにもう一つ。  この船は、地球の調査のために移民先の星から戻ってきたんだよね?  でもそれって、もっと小規模な探査船でもいいんじゃないか?  わざわざペガサスが使われる必要性を感じないんだ」 『——』 「これまで君からもらった艦内データには、地上探査機のデータはあったけど、それは本来移民先の惑星環境測定用のもの  じゃん。  それに、徴収されたデータを移民先の星に送り届けるような設備は、なぜかここにはない。  仮にあったとしても、データを発送するためにはペガサス級の動力が必要だ。  ——矛盾が多すぎないか?」  テ、テチィィ……  としあきの怒涛の追求に、チカはすっかり黙りこくってしまう。  返答に戸惑うような仕草を行った後、チカは、思い切ったような態度で話しかけてきた。 『残念ですが、としあき様の今のご質問に回答することは、今の私には出来ません』  散々待った末の回答に肩透かしを食らったとしあきは、舌打ちをしながらチカを睨みつける。 「肝心なことはダンマリで、ここに居続けろってか。むちゃくちゃだな」 『私は、艦内の情報すべてを提供する権限を与えられておりません。  としあき様のご質問の回答は、最重要トップシークレットの部類に属します。  回答するためには、認可が必要となります』 「認可?   この艦内には、俺達とあのバケモノ達以外、誰もいないんだろ?  誰に許可もらうんだよ」  とても悲しそうな表情で、チカは、ぼそりと一言呟いた。 『当艦の艦長、です』           ※          ※          ※  一方、ぷち達一行は、先の村から更に北北西に進み、第四の村を訪れていた。  話の通り、中央に物見やぐらを立て周囲を背の高い木の塀で覆ったその村では、「神の地」についての詳細な情報が手に 入った。  実装石を連れている一行に、村人達は当初怪訝な態度を取ったものの、マラオーク打倒のための旅だと説明すると、掌を 返すように歓迎してくれた。  ぷちとヒスイは、ジソタロイモの粉末を利用した調理法を学び、飽き始めていたうどんモドキに代わる食料の獲得に成功した。  だが、相変わらず野菜類や肉類といった栄養素やタンパク源は得られず、体調まで万全とは言い難かった。  他に「非実装食品」を得る手段は相変わらず見当たらず、このままだと同族食いの禁忌を破らざるをえないという状況に 変化はない。  村人達は、しきりに仔実装の干物を勧めてくれたが、ひろあき以外のメンバーの拒絶は激しかった。  第四の村を旅立ち、「神の地」へ続くと言われる渓谷に差し掛かる時、ひろあきは渓流を遡る魚達の姿を見た。  それは「鮭」や「鱒」にとても酷似しており、少なくとも彼には見分けがつかなかった。 “そうか……失念していた” “デェ? クソドレイ2号、どうしたデス?” “実装生物は基本的に地上生物だろう?  だとしたら、水棲生物に進化した者は少ないんじゃないかな?” 「それがお魚ってことテチ?」 「そっか、ひろあき頭いいです! そーいう事ならとっととレッツゴーです!」  そう言うが早いか、ヒスイは馬車を飛び降りて渓流に身を躍らせた。  流れが速いのか、最初は足を取られ溺れかけていたが、すぐに姿勢を整え、小さな岩の上に片足で立つ。  そして、昇ってくる魚を次々に蹴り飛ばし始めた。 「シャッ! よっしゃあどんどん来いですぅっ!」  あっという間に、大型の鮭か鱒が三匹も確保出来た。 「すごいテチ! すごいテチ! ヒスイオネーチャ、かっこいいテチ!」 「こういうのは、さすがヒスイだよね。お疲れ様」 “ヒスイ、容赦なくパンツと尻が見えて実にエロいデス。  さてさて、魚の正体は……” “ふむ、問題はないみたいだね”  捕らえた魚を押さえつけ、ひろあきとミドリがじっくり観察する。  見た感じ実装生物らしさは全くなく、目の色も普通で三つ口でもなく、緑色の体色も全くない。  誰がどう見ても、それは鮭或いは鱒だ。  ひろあきの結論に大歓喜した一行は、早速その場で火を起こし、久しぶりの動物性タンパク質を摂ることになった。 「じゃあ、早速さばくです」  ヒスイが、ツールボックスから小型のナイフを取り出し、魚の腹を割いていく。  手馴れた動作に、全員が唸りながら感心する。  モツを取り出し、頭を落とし、いよいよ三枚におろそうという時、突然ミドリが悲鳴を上げた。 “ひ、ヒスイ! 調理やめ! これはダメデスっっ!” 「でぇ? どうしたで………えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!」  先ほど取り除いた臓物の中から、大量の幼生体が発生していた。  どうやらそれは“卵巣”だったようで、中から出てきたのは、胸びれと背びれを持った、白い目の蛆実装。  鳴き声こそ立てていなかったが、どう見ても捕食されたものではなく、胃袋は別にある。  よく見ると、魚の身体から流れた血は、僅かに赤と緑が入り混じった色をしていた。  その光景は相当グロく、ぷちは口を押さえて遠ざかり、ルリですら眉間に皺を寄せている。  ナイフを持ったまま硬直していたヒスイは、やがて、天をつんざくような悲鳴を上げた。 「で、で、でぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」 「お、落ち着いて、ヒスイっ!!」 「テェェェェン! これも実装生物だったテチイィィ!!  お魚さん食べたかったテチィィ!」 “デェェ、なんてこったデス” “こりゃもう、うかつに手出しは出来ないね本当に”  軽いパニックに陥ったヒスイが落ち着くまで休んだ後、一行は、再び渓谷を進んでいくことにした。           ※          ※          ※  AD.37850.6.23.WED AM 09:59  としあきの世界ジャンプは、とうとう起こらなかった。  そして、時間が過ぎていく。           ※          ※          ※  AD.37850.6.27.MON PM 10:11  としあきやぷち達がこの世界を訪れてから、十日が過ぎようとしていた。            ※          ※          ※  長い旅も、ようやく終わりを迎えようとしている。  ぷち達一行は、とてつもなく長く続く山脈群を通り抜け、ついに、今まで見たこともない場所へ辿り付いた。  誰の説明を受けずとも、そこがかの「神の地」だというのは、すぐにわかった。 「ふぇぇぇ……すんげぇですぅ〜〜」 「これは——こんな凄い光景、今まで見たこともない!」 「テチャア……」 “デギャア! まだこの崖を降りていかないとならないデス!  まだまだゴールじゃないデズァ!” “……”  一行は、目の前に広がる予想外の光景に、心を奪われていた。  崖下目測100メートルに見える広大な平地、そこは高い岩山に囲まれ、盆地のようになっていた。  赤土色に染め上げられた剥き出しの大地と大岩が、数々の奇跡の末に作り出した箱庭。  その中に、不自然なまでに輝く銀色の街並が広がっている。  銀色の正体は、斜めに差し込む太陽の鈍い光に照らされた、無数の建造物の壁の色だ。  それは、明らかに実翠人の文明で作れるものではない。  だが同時に、ルリやヒスイの世界でも再現不可能であろうことは、言うまでもなかった。  それほどまでに、この街は時代を超越していたのだ。 “これが石造りだったら、さながらマチュピチュ遺跡のようだね”  一人だけ冷静なひろあきが、ボソリと呟く。 “クソドレイ2号、それよりアレは何デス?  町におっきな日傘がかかってるデス。  つーか、おっきいなんてもんじゃないデス!”  ぷちに抱かれたミドリは、そう呟いて上を指差す。  ここには、もう一つ不可思議なものがある。  それは、街全体を覆い隠すかのように突き出した、三角形の巨大な人工建造物だ。  街を取り囲む広大な岩山の一角からにょっきりと首を突き出しているようで、これにより街の大部分は大きな影で覆われて しまっている。  ぷち達は街から100メートルほど高い位置にいるにも関わらず、三角形の建造物はそれよりも遥かに高い位置にある。  ヒスイにもルリにも、そしてぷちにも、ミドリにも、それが何なのか全く検討もつかなかった。  もし、そこまでたどり着こうとしたら、更なる旅が必要だろう。  そう思わされるほど、それはとてつもなく巨大だった。 “まるで、SFに出てくるスペースシップだな” 「滑る湿布テチ?」 “スペースシップ——空想科学に出てくる宇宙船だよ。  まあ、いくらなんでもこんなに巨大なものはありえないけどね。  第一、地上でこんなもの作れるわけがな——いや、待てよ”  突然、ひろあきが街と三角形を交互に見つめながら唸り始める。  ヒスイは、不思議そうに彼の顔を覗きこんだ。 「ひろあきはどうしちゃったです?」 「考え事をしてるみたいテチ、そっとしてあげるテチ」  一行は相談の末、「神の地」と思われる街まで降りてみることにした。  実翠人の話が本当なら、ここはマラオーク達のテリトリーの筈だ。  ヒスイは愛用の刃を仕込んだヒールブーツを履き、ルリもガントレットとショーテルを準備する。  干したうどんモドキをしきりに齧りながら、ミドリは、流れていく景色に見入っていた。  細い山道を下りながら、御者席に座るルリは街の様子を入念に窺い続けていた。  マラオークはおろか、実翠人と思しき者も、何も居る気配がない。  見上げるほど高い建物が無数に建てられており、相当高度な建築計画が施されている事が窺えるにも関わらず、そこは あまりにも不自然なほど、動くものの気配がない。  正に、ゴーストタウンだ。  なんとか無事に街に入れた一行は、車輪の音を響かせながら大きな通りの真ん中を進んだ。  現代世界でいう所の片側三車線ほどの広さがある大きな道路は、砂利も岩も丁寧に除去され、アスファルトが敷かれて いる。  一行は、あまりに不似合いな街の光景にそれぞれの驚きを表している。  だがひろあきだけは、違う感想を述べていた。 “——随分古臭い造りの街だな”  その直後、彼女達の背後にあるビルの一つが、突然爆発した!  何の前触れも、なく。 「ででぇっ?!」 「危ない!!」 “うわあぁっ!?”  モゲフ〜!!  突然の自体に驚いたトカデーが暴れ、馬車が大きく傾く。  と同時に、地面が激しく振動し、路面が次々に割れていく音が轟く。  ルリの攻撃など比較にならないほどの粉塵が立ちこめ、周囲の視界が完全に失われた。  思わず身を伏せた一行の耳に、マラオークとは違う、実も凍るような雄叫びが届いた。 「でぇっ?! まだなんかいやがるです?!」  一番最初に体勢を整えたヒスイが、粉塵の合間を縫うように飛翔する。  だが、声を追って見上げたルリ達には、まだ何も見えない。 「ヒスイ! ムチャするなぁっ!!」 「なんだかしらんけど、一気にぶっちらばしてやるですっ!」  少しずつ収まり始めた粉塵を眼下に、ヒスイは何者かの影を見つけていた。  そこに焦点を絞り、左手のブレスレットに手を添えようとする。  だが——  ヂャアァァァァァァァァッッッ!!  粉塵の中から、突然、何かが猛スピードで飛び出した! 「で……」  ヒスイの視界に、「無数の牙」が広がる。  ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!  今まで聞いたこともないような痛々しい悲鳴と、激しい激突音、そしてけたたましくおぞましい叫び声が続けざまに響く。 「ヒスイっ!」 「ヒスイオネーチャ?!」  ヂャアァァァァッッッ!!!  ズシン……ズシン……  マラオークなど比較にならない、超重量を感じさせる足音。  ようやく晴れてきた粉塵の向こうから現れたのは、見上げるほど巨大な……まさに小山のような影だった。 「てぇいっ!」  それが何かを確認するより先に、ルリはショーテルの一本を、ブーメランのように投げつけた。  ズバ——ッッ!  ヂャギャアァァァァァァァッッ!!!  肉を切り裂くような音と、鼓膜か破れそうなほどの叫び声が大気を振るわせる。  謎の巨体は身を翻し、大地を震わせながらどこかへ逃走していく。  入れ替わるように、ルリがまだ粉塵舞う戦場の中に飛び込んだ。  数秒後、ルリの叫び声がぷちの耳に届いた。 「ヒスイィィィィィッッ!! ヒスイィィィィィィッ!?!?」 「ヒスイオネーチャ、どうしたテチ?! ヒス………」 “デェ……”  ぷちとミドリが、言葉を止める。  ひろあきも、言葉が出せなかった。  ルリに抱きかかえられているヒスイは、右脚を根元から失っていた——           ※          ※          ※  ヒスイの受けたダメージは、これまでレックレス・エンジェルの誰も経験していないほどのものだった。  ヒスイの武器ともいえる右脚は股関節部分からごっそり奪い取られており、筋肉や脂肪がはみ出し、骨の一部も露出して いる。  出血も多く、ヒスイは意識を失い弱々しい呻き声を立てるばかりで、顔色も死人のように真っ青だ。  脈拍は不規則化し、指先も冷たくなっている。  そして何より、あんな状況で歴戦の勇士ヒスイを瞬時に追い詰めるほどの圧倒的攻撃力を持っている者が、周囲にいまだ 存在しているという現実が、一行を更なる恐怖へと追い詰め、冷静さを奪っていた。  ヒスイの右脚は、発見されていない。  「ヒスイを攻撃した者」のおぼろな影をたまたま見止めたひろあきの談によると、彼女は地上5〜6メートルほどの地点で 撃墜されたようだ。  マラオークでは、そんなところまで攻撃することは出来ない。  またひろあきが見た影は小さな丘を思わせるほど巨大であり、明らかな別者だと断定できる。  その後、一行はヒスイと看護役を上の階の部屋に置き、ルリともう一人が下の階で警護を行うことにした。  ルリは徹夜を覚悟し、看護役ともう一人は可能な限り身体を休め、一定時間で交代する。  こんなところでとしあきの携帯の時計が役に立つことに、ぷちはなんともいえないものを感じていた。 「私、いつもいつも何も出来ないテチ。悲しいテチ。  どうすればいいテチ? どうすれば、みんなを助けることが出来るテチ?  クソドレイサン……」  最初の看護役になったぷちは、精神的疲労のせいか、いつしかうとうとと眠りに引き込まれ始める。  患部にタオルと包帯を巻いたヒスイが、苦しげに呻き声を立てた。  その後、何度か微震が発生したものの、一行の居る建物に被害は発生しなかった。  何日にも及ぶ長い旅に加え、突然のトラブルに見舞われたせいか、ルリ達は全員極度の疲労感と睡魔に襲われていた。 →NEXT −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− <div align="center" style="margin-bottom:7px"> <script type="text/javascript" src="http://www.aaacafe.ne.jp/js/footer_ad.js"> </script> <!-- <script type="text/javascript" src="http://www.aaacafe.ne.jp/js/search_frame.js"></script> --> <script type="text/javascript" src="http://st.search.livedoor.com/research/search_frame.js"></script> <script type="text/javascript"> livedoorSearchShowReSearchFrame({ search_id : 'ld_aaajs_sl' }); </script> <script type="text/javascript"> var gaJsHost = (("https:" == document.location.protocol) ? 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