タイトル:【人保】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜第9話02
ファイル:「ネガ実装人の世界編」02短縮版.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:93 レス数:0
初投稿日時:2010/08/05-23:12:48修正日時:2010/08/05-23:12:48
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】  弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため 強引に異世界を旅行する羽目になった。  「実装石」と呼ばれる人型生命体の存在する世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間という タイムリミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならなくなった。  8つ目の「実装人の世界」で実装人魔道師ビドゥの魔法に巻き込まれたとしあきは、とてつもなく 巨大な建造物の内部に出現した。  そしてぷちとミドリとひろあき、同じく魔法に巻き込まれた実装人世界の住人・ヒスイとルリは、 実装石を捕らえ捕食する、全く異質な文化を持つ実装人の村を発見する。  この世界からの脱出を望み、ひとまず食料調達を行うことにしたぷち達に対し、としあきは、 建物の中にある「大都市」にたどり着き、その中枢部で想像を超える存在と遭遇する。  としあきとぷち達一行は、果たして無事再会する事ができるのだろうか? −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−    じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第9話 ACT-2 【 動く完全巨大母艦 】 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  “グランマイスの聖者”は、「実装人の世界」で発見された人間型のデータベース端末で、情報検索者の頭脳に直接情報 を書き込むことで、メディアを介さない提供を行うことが出来た。  しかし、些細な誤解からこれはヒスイによって破壊されてしまい、二度と利用出来なくなった。  そしてここに、もう一体の“グランマイスの聖者”がいる。  先の者とは異なり、身体が巨大な機械に埋まっているわけではなく、また全裸でもなく、逆さまになってもいない。  きちんと衣服を身にまとい、四肢もしっかり存在し、自在に動き回ることも出来る。  共通点といえば、いかにも機械的な質感の皮膚と、何かのセンサーのようなものがある瞳と掌だ。  それより気になって仕方ないのは、「彼女」の外観がぷちそっくりということ。  髪型、顔、体型だけに留まらず、大きな耳、豊満すぎるバスト、更には独特の小首を傾げる仕草まで同じだ。  さすがに髪と肌の色や衣服の種類・色は別物だが、ぷちを知る者なら誰もが彼女を模したものだと即座に判断するだろう。  それくらい、「彼女」はぷちに瓜二つに造られていた。  「彼女」——C.H.I.K.A.186533982 は、としあきを近くのベンチへと招き、腰掛けるように勧める。 『ご心配なさらないでください。  この艦は、としあき様のご来訪を待ち続けておりました』 「そ、そうは言っても……  そもそも、なんでこんな所にそんな船があるんだよ?」  テェェ… 『それでは、現在の世界ととしあき様の周辺状況からご説明いたしましょう』  そう言うと、「彼女」はグランマイスの聖者のように、右手を差し出した。  あの時と同じように、掌には複雑な光が点灯している。  としあきが手を触れようとすると、突然、仔実装が騒ぎ出した。  テチテチ、テチィ!! 「えっ、お前も触るの?」  テッチュウ 「えーと、でも、理解できないと思うぞお前には」  テチィ プンプン 『構いませんわ、それではおチビちゃんはこちらに』  「彼女」は左手を広げるとそこに仔実装を乗せるように促す。  としあきは少し躊躇ったものの、仔実装を乗せ、自身も「彼女」の右手に触れた。  途端に、周囲の風景が消え去り、真っ白な空間に切り替わった。 『ご説明いたします。  ここは——』  「彼女」は、まずとしあきの置かれている状況から説明を始めた。  としあきが今居るのは、外宇宙航行用の新世代ギガント級宇宙艇日本国用大移民船323号「ペガサス」という巨大な 宇宙艇の中。  ここは、内部に37万人もの人間を半永住させるだけの設備が搭載されており、また東京都心部をモチーフとした大都市 まで建造されている。  西暦2405年より地球離脱を開始した大移民船団は、約70年の期間を費やして各国数百から数千の単位で宇宙に散って 行った。  移民船団の中で、「ペガサス」が所属していた日本国大移民船団は既に移民を完了しており、この中にはもう誰一人と して地球人は残されていない。  説明を受けたとしあきは、ふと浮かんだ疑問を口にする。 「なあ、ぷ……じゃねぇや、えーと」 『私の名称でしたら、ご自由にお呼びください』 「じゃあ、やっぱり……チカ、かなあ?」 『はい』  早速としあきは、「この世界」についてチカに尋ねてみることにした。 『この世界は、としあき様に伝わりやすく申しますと「実装人の住む世界」です』 「えっ?! じゃあ俺は世界移動をしてないの?」 『そうではありません。  ここは、いわば「もう一つの実装人の世界」です』 「もう一つって……  実装人の世界にも、パラレルワールドがあるのかよ!」  チカは、再び丁寧な説明を始める。  地球人が25世紀に地球を離れた後、地上に残された生物達の生き残りはそれぞれ独自の進化を遂げたが、実装生物は 3万5千年という短期間で地球の覇者となり、やがて様々な生物の性質を「実装」し、広まったという。  人間に進化した者もいれば、哺乳類に、または爬虫類に、はたまた魚類・貝類に変化した者も居る。  チカによると、「ペガサス」の分析によれば、約92%もの動植物が実装化しているらしい。 『当艦は、移民作戦完了後、地球の再調査のために帰還いたしました。  現在は地表各所に調査機器を飛ばし、調査結果をまとめております』 「ああ、そうか。  それで移民船なのに地球に戻ってるわけか」  テチテチ、テチィ 「それなら、やっぱり実装人の独自文化みたいなのも発展しているんじゃない?  見てみたいな、そういうの」  テチュウ  としあきの質問に、チカは表情を曇らせて首を横に振る。  しばらくすると、白い空間に突如巨大な画面が浮かび上がった。  粗末な造りの家屋が建ち並ぶ、どこかの小さな部落のようだ。  そこでは、やや小柄で子供っぽい外観の実装人達が、大勢集まっている。  いずれも実装頭巾のようなものを被っており、まるで実装石のコスプレをした幼女の集団に思える。 『こちらが、新人類の生活環境の様子です。  残念ながら、彼女達の文明レベルは著しく低く、まだ文化が充分に形成されているとは言い難い状態です』 「ふええ、あっちの実装人世界とはえらい違いなんだなあ」 『もう一つ、大きな問題があります』  少しだけ間を置き、チカは、仔実装に目線を向けながら話し出す。 『この世界の実装人は、実装石をはじめとするあらゆる実装生物を狩猟・捕食しています』  テチャアッ?!  チカの言葉に、仔実装がブルブルと震えだす。 「んな?! 自分の仲間や先祖を食ってるって意味か?!」  チカはコクリと頷き、怯えている仔実装を優しく手で包み込んだ。 『同族食いの習慣を持つ、加虐性質の強い個体より派生した種族なのかもしれません。  実装人は捕食のみではなく、捕らえた実装石に過度な拷問・虐待を行い、徹底的に苦しめた上で屠殺するという、大変  野蛮な食文化を形成しています。  ですがご安心ください、この艦内にいれば、それらと関わることはありえません』  テ、テチィィ…… 「牧畜の習慣とか、そういうのはないの?」 『確認された範囲ではありません。すべて狩猟に頼っているようです』 「おっかねぇなあ、とてもじゃないけど、そんな奴らの所にミドリ達を連れていけ……」  そこで、としあきの声が止まる。   「そうだ、本物のぷちと! ミドリの奴はどうした?! あとひろあきと!!  あいつらも、この中にいるの?」 『残念ながら、艦内にそれと思しき反応は見られません。  艦外におられる可能性が高いと思われますが——』  チカの言葉に、としあきは目の前が真っ暗になった。           ※          ※          ※  一方、食料調達に向かっていたヒスイ達は、約束の時間になり馬車まで戻ってきていた。 “デスー、腹減ってるのに食欲がないデスゥ……”  残念なことに、メンバーの誰もが食料を調達出来なかった。  だが、それには如何ともしがたい理由が存在していた。 「でも、お食事どうすればいいテチ? このままじゃ…」 「まさか、何もかも実装石だなんて思わなかったです!  いったいどうなってるです、この世界わっ?!」  ヒスイの心の叫びに、ミドリを含めた全員が深く頷いた。  各人が手分けして探したものは、動植物区別なく、すべて実装生物だったのだ。  赤い右目と緑の右目を持ち、特徴的な三つ口、尖り気味の三角耳。  緑色の体色や亜麻色の部位を持つ者もおり、中には(鳴く機能が必要と思えないようなものですら)「デスデス」と鳴き声 を立てる。  ひろあきが捕まえてきた魚などは、脂が乗っていて焼いたら実に美味そうに思えたが、体表から赤と緑の血を流して デスデス呻いており、とてもさばく気にはなれなかった。  果物ですら、例外ではない。  ヒスイが出会った森の中の実装石ですら、実装生物果実などを貪っているのだ。 「ど、どうすればいいテチ?  このままじゃ全員飢え死にしちゃうテチ!」 “我慢して食べるしかない?” 「そんなの絶対イヤイヤテチ!  共食いは絶対しちゃいけないんテチ!」 “あ、そうか。  メイド君は実装石だったんだっけ、すっかり忘れてたよ” 「ヒスイだって共食いはごめんです!  しゃあねえ、あの村に忍び込んで、他に何か——」  そう言いかけて、ヒスイは突然ポンと手を叩いた。  腰に着けているポーチを開くと、その中から小さなクッキーのようなものを取り出す。 「緊急用の非常食があったです!  これと水があれば、二食までは我慢出来るです」 「ヒスイオネーチャ、すごいテチ!  で、数はいくつあるテチ?」 「さ、三枚です……でへっ♪」 “わ、ワタシは絶対食うデス、一枚はワタシのデズゥ……”  相談の結果、非常食のクッキーはひろあきとぷち、ミドリに譲ることになった。  心配したぷちが自分のを半分分けようとしたが、ヒスイは笑顔でそれを断った。 「ヒスイ達はこういうトラブルには慣れてるです。  それより、ぷちは食べられるうちにしっかり食べておくです」 「ヒスイオネーチャ、ありがとテチ……ポワワ」 「か、顔赤らめるより、とっとと食うです!」  更なる相談の末、水だけは確保しておこうという事になったメンバーは、馬車に設置されていた木の樽に水を詰めた。  ふと見上げると、空の上に風船のような生物がフワフワ浮かんでいる。  ひろあきとぷちは、あれも実装生物なのかなあと話し合った。 「よし、お前らは留守番頼むですっ。  ヒスイは、馬代わりに使える動物を探してくるですー」  靴紐を結び直してぴょんぴょん飛び跳ねながら、ヒスイが二人に告げる。  武器もなしに大丈夫かと心配するぷちに、ヒスイは鋭い連続蹴りを空撃ちして見せた。 「すごいテチ! あんよが全然見えないテチ!」 「息ひとつする間に、八発のキックを叩き込めるです!  心配はいらんですー」 “すごいな、少しは恥じらいを覚えた方がいい気がするけど” 「もーっ! ひろあきさんはどこ見てるテチ! プンプン」   「森の実装石に聞いたら、トカデーという大きな動物が近くに棲んでるらしいです。  そいつを連れてくるですー!」  そういうが早いか、ヒスイはあっという間に森の中に消えて行った。  クッキーを一つミドリに食べさせた後、ぷちは、自分の分をそっとポケットにしまいこんだ。 “ぷち、食べないデス…?” 「うん、ヒスイオネーチャ、きっとお腹空かせて帰ってくるテチ。  その時に半分こするテチ」  にっこり微笑むぷちの手を、ミドリは弱々しくポンポンと叩いた。 “そう言うと、僕も半分こしなきゃならないじゃないか”  ひろあきは、食べかけたクッキーをしまいこみ、先に食料探索に向かったルリの帰還を待った。           ※          ※          ※  数時間後、としあきは「カシスの庭」を抜け、艦内の散策を再開していた。  としあきが乗ってきたエアカーは、彼が行き先を告げればオートで移動してくれる便利なもので、いつでもチカの許に送り 届けてくれる。  巨大移民船「ペガサス」自体に強い興味を抱いたとしあきは、チカの与える情報以外にもいろいろなことを知りたくなって きたのだ。  その後、様々な質問を行い、この船は着陸時の事故でエンジン部が破損してしまい、現在修理中である事、北東方面の 末端部は外装が大きく破損しており、そこから外へ出る事が出来る代わりに、外部からの侵入も容易になってしまっている 事を理解した。  特に、そこからは高頻度で動物が紛れ込んでおり、動力炉に近い位置にある第786居住エリア近辺だけは、あまり治安 が良くない場所になっていると警告されていた。  ただし、外部に出るためにはそこを通過するのが近道である。  テチテチ、テチィ  先ほどから仔実装がしきりに話しかけているが、携帯を持っていないため言葉は理解出来ない。  だがとしあきの言う事には素直に従い、「静かにして」といえば鳴き声をピタリと止め、何か用があればシャツを引っ張って 伝え、ジェスチャーによって簡単な意思表示を行う。  また、ここに至って一度もぐずったりお漏らしをしたりしておらず、その点でもとしあきは深く感心させられた。  ミドリやぷちもそれなりに賢い部類の実装石だという事は理解していたが、この仔実装は二人とは全くタイプの異なる賢さ を持っている。  出会ってからそんなに時間が経っていなかったが、としあきは仔実装を本格的に気に入り始めていた。 「そういや、お前は名前あるの?」  テチィ? フルフル 「そっか、名前ないと呼ぶ時不便だもんなあ。俺が名前付けてやろうか?」  テ、テチィ?! テチィ、テチィ!!  よほど嬉しかったようで、仔実装はとしあきの手の中で激しく飛び跳ねた。  あまりに過剰に喜ぶ仔実装を見て小首を傾げながら、としあきは、今度はちゃんとした名前をつけてやろうと考えた。  ——ミドリのような、適当なものではなく。  エアカーは、街の中心部を抜けて大通りを駆け巡り、繁華街のある方向に飛んでいく。  ふと見上げると、実装石の看板が掲げられた大型ショッピングセンターが見えてくる。  なんとなく中を覗いてみたくなったとしあきは、エアカーを止めると仔実装と共に中へ入り込む。  入り口の自動ドアはごく自然に動き、としあき達を招き入れた。 「うわぁ、でっけぇ」  テチィ……  そこは、いわば実装石用アイテム専門のトイザ○スのようなところだった。  背の高い棚が路の左右を覆い、ぎっしりと商品が詰められている。  2メートルくらいはありそうな巨大ぬいぐるみから、かなりの規模の実装ハウス、果ては実際に運転出来る自動車玩具 など、本当に様々なものがある。  当然、ケージや水槽、実装フードや治療用のグッズ、薬品まで多彩で、以前使ったことがある「実装石活性剤」まで 売られている。  その中に、「偽石保護キット」と呼ばれるものも置かれていた。 「なんだこれ? 偽石って実装石のアレだよな?」  テチテチ、テチテチィ、テチテチ、テチィ  仔実装が何か説明してくれているようだが、よくわからない。  ただ、自分の胸を手で指し、そこから容器の中に何かを入れるような仕草を繰り返す。  としあきは、以前ひろあきに言われたことを思い出した。 「ああそうか、実装石には偽石があって、取り出されても生きていられるんだっけ」  テッチュウ  容器の説明書を読むと、「大怪我をした実装石に施術する場合、先に偽石を取り出してください。その後、偽石を“保護剤” に漬け、乾燥したら容器の中に収めて、活性剤を注入してください」とある。  何かの役に立ちそうだと思い、としあきは「偽石保護キット」と「実装石活性剤」を取り、ポケットに押し込んだ。  カチッ、と何かが当たる音がする。           ※          ※          ※ “デギャッ?!”  突然、ミドリが苦しげにのた打ち回った。 「テチャッ?! どうしたテチ、オネーチャ?」 “デ、デェェ…なんか今、すごく死の臭いを感じ取ったデス…” 「テェェ?! そ、そんなのイヤイヤテチィ!」           ※          ※          ※  ポケットを探ってみると、ハンカチに包まれた小さな宝石が出てくる。  これは「実装人の世界」に着いた時、額の上に乗っていたものだ。  なんとなく、以前より少し黒ずみ、光も弱まっている気がする。  それを見た仔実装が、血相を変えて騒ぎ始めた。  テチテチィ!! テチィテチィ、テチテチィィィ!! 「えっ?! こ、これがどうしたの?」  テェェェッ!! テチティ!!  必死で何かを訴える仔実装の様子に焦りを覚えたとしあきは、うろたえつつも考えを巡らせる。  仔実装は、自分の胸と石を交互に指差す行為を繰り返した。 「まさか、これが実装石の偽石なの?」  テチィ♪  仔実装は、笑顔で頷く。 「どっから紛れ込んだんだこんなもの? 捨ててもいい?」  テェェェッ!! テチテチテチテチィィッ!! 「わかった、わかったよ。めんどくせぇなあ」  としあきは、説明書に従って偽石を保護剤に漬け、乾燥を待つことにした。  保護剤はねちょねちょしたもので、そう簡単に乾きそうにない。  しかし、心なしか偽石は少しだけ輝きを取り戻したように見えた。  その後、しばらく店内を探索したものの全然乾燥する兆しが見えないため、としあきは偽石をしばらくここに置いていくこと にした。 「あっ、乾燥には数時間かかります、って説明書に書いてある……おいおい」  テチュウ 「まあ、よく教えてくれたな、ありがとう。  これ、お礼だよ」  テェ? テチィ☆  としあきは、店内で発見した仔実装用の前掛けを取り出し、彼女の首元に結びつけた。  それは純正のものではなく既製品で、前掛けというよりはエプロンに近い大きさがある。  下の方に、真円の中に実装石の目と口がプリントされているアップリケがあり、それが妙に可愛らしい。  仔実装も、そのまん丸いマークがとても気に入ったようで、手で摘んではしゃいでいる。 「そんなに、そのまん丸好きか?」  テッチュウ♪ 「じゃあ、お前の名前は“マンマル”…じゃ変だな、よし、マルにしよう」  テチャア♪ テチテチィ!!  相変わらず適当極まりないネーミングだったが、それでも仔実装はとても喜び、としあきの手に何度も頬ずりをした。  猫の肉球を思わせるぷにぷにとした感触が、なかなか心地良い。   「よーしマル、あらためてよろしくなっ」  テッチュウン♪  ようやく完璧な姿と名前を得た仔実装マルは、あらためてとしあきの胸ポケットに収まった。  彼を見上げるその頬は真っ赤に染まり、両目は少しだけ潤んでいた。            ※          ※          ※  森の中から「トカデー」と呼ばれる大型の四足実装生物を連れて来たヒスイは、それを馬代わりに馬車を引かせてみた。  当初は力ずくでと考えていた彼女だったが、トカデーは思ったより温厚な生物らしく、闘うまでもなくヒスイになついて 付いて来た。  4メートル前後の巨体と太い四肢はとてつもなく頑丈かつパワフルで、四人と一匹を乗せた馬車を苦もなく引っ張って くれる。  さすがに馬ほどの速度は出なかったが、さっきまで馬車を引いていた奴らよりは遥かに頼りになった。 「さーて、それでは次はどこへ行くです?」 「クソドレイサンを捜して欲しいテチ」 “その前に、メシを手に入れるデス……” 「水は確保したけど、食料は大事だね。  目的地を定めて、その過程で食べられそうなものを調達して行くべきなんだが——」  ルリの言葉で、会話が止まる。  馬車の一行は、全員としあきと合流すべきという事で意見は一致していた。  しかし、いかんせん手がかりがないのだ。  西か東か、はたまた北か南か、海の向こうか別大陸か。  あまりにも情報が乏しすぎて、お話にならない。  ルリの提案で、まずは次の村を探して別なアプローチを計り、少しでも情報を得ようということになった。 「テェ? オネーチャ、少し元気になったテチ?」 “デス、さっきよりいくらかマシになったデス”  ミドリの顔色は先ほどよりかなりましになっていた。  まだ元気に動き回るほどではないにせよ、生死の境を彷徨うというほどではないようで、ぷちもようやく安堵の表情を 浮かべた。 “ひょっとしたら、弐羽くんに近づいているのかもしれない。  偽石との距離が近づいているのだとしたら、こっちの方向で間違いないね” 「それは嬉しいテチ! 急いで行くテチ!」  ヒスイ達は、ひとまず「実翠人達は自分と違う肉体の者を警戒したのでは」という仮説を立て、次はルリ以外の者達が 交渉にあたる事にした。  分け合った非常食はとっくになくなり、一行は再び空腹感に苛まれる。  だが幸いにも、その日の夕方前には新しい村を発見出来た。 「やったー村ですー!」 “おお、今度こそ食べ物が手に入るといいね!”  御者席で、ヒスイとひろあきが歓声を上げる。  だがルリは、村から全く煙や光が漏れていないことに気付き、眉をひそめた。           ※          ※          ※  としあきは、仔実装マルと共に街中を巡り、かなりの幸福感と疲労感に包まれていた。  無人の大都市は、すべてのサービスがとしあきとマルだけに向けられており、無料かつ自由になんでも利用出来た。  食料を取り扱う店に入れば、いつでも温かくおいしい料理が好きなだけ食べられ、しかも代金を請求されることはない。  驚くことに、食べ物は普通のレストランと変わらない規模のものが揃っており、その気になればフランス料理や中華料理 もフルコースで楽しめるようだ。  ミドリがもしここに居れば、ステーキや牛丼食べ放題も余裕だ。  チカによると、これらはすべて「超生産能力」と呼ばれる特殊なシステムによって生み出されているもので、限りなく本物に 近いイミテーションだが、99.999%実物と同じ栄養摂取が叶うという。  いずれもとしあきの知識の範疇を大きく超えたものだったが、「遠い未来の科学だからこんな事も出来るんだろう」と考え、 あまり深く追求しないことにした。  それだけではなく、娯楽面も充実しており、その気になればどのような遊戯でも楽しめるようだ。  だがさすがに一人で遊ぶには限界もあり、遊戯施設はほとんど眺めて回るだけに終わった。  散々遊びまわった末、としあきは再び実装ショップに戻り、ようやく乾燥した偽石を容器に詰めた。  その頃には、としあきはあくびを連発しており、マルもいつしかポケットの中で居眠りしていた。  時計を確認すると、既に23時を回っている。 「うわあ、全然気付かなかった。随分動き回ったなあ」  最初の部屋まで戻る気力が湧かず、としあきは、手近にあるホテルで休むことにした。  普通なら絶対に泊まる事など出来なさそうな、恐ろしく高級そうなホテルの入り口をくぐり、受付から適当な部屋の鍵を 取る。  としあきが鍵を手に取った瞬間、カウンターの裏側にあるホテルマップの一部が点灯し、行き先を示した。 「ほんとにもう、何もかも至れりつくせりだなあ」  テチュ〜…ZZZ  マルを起こさないように注意しながら、としあきはエレベーターへ向かった。           ※          ※          ※ 「——そっちは、どうだったです?」 「ダメだ、全滅してるよ」 「テェェェン! みんな酷いことになってるテチィ!  誰がこんなに酷いことをしたテチィ?」 “これは、どう見ても大型の猛獣クラスの生物だなあ。  さもなきゃ、こんな大きな傷なんか付けられる筈がない” “デ、デェェ……  この世界のことが、益々わかんなくなったデス!”  ぷち達一行が新たに発見した村は、「死人の村」だった。  村人は全員皆殺しにされており、しかもほぼ例外なく無残に身体を引き千切られている。  転がる生首、壁にぶら下がる腕、血糊に染まる壁、石畳を塗らす大量の内臓……  それはまるで、猟奇殺人犯が実翠人の解体を楽しんだ跡のようですらある。  それなりの修羅場を潜り抜けたつもりだったヒスイとルリですら、この惨状は耐え難いものがある。  ぷちは早急に馬車に戻されたが、意外にも、ここで活躍したのがひろあきだった。  彼だけは、惨死体を見ても全く平気なのだ。 “ミドリ君、彼女達に通訳を。  ここの死体は、少なくとも数日は放置されていたようだ。  臭いのほとんどは血の臭いじゃなくて腐臭だし、傷口も傷んで蛆虫が湧いてる” “デェェ、わかったデス”  ミドリを通じてヒスイ、ルリへと、非常に手間のかかる翻訳が行われる。  ルリは、としあきの携帯を取り出し不思議そうに見つめると、あらためてひろあきに向き直った。 「じゃあ、この近くに獰猛なケモノが潜んでいる可能性があるってことかな?」  ヒスイとミドリを通じて、ひろあきが返答する。 “可能性は高い。ここに長時間留まるのは危険かもしれないな” 「とんでもないことになったです。  ひとまず、馬車に戻るです」  ぷちを心配し、ヒスイは馬車へ戻ろうとする。  相談の結果、ひろあき&ミドリとルリが、手分けして村の中を少しだけ調査する事になった。  危険があったら、ヒスイはルリ達に構わず馬車を発進させるという段取りをつける。 「じゃあ、行こう」  ルリのハンドサインで、ひろあきとミドリが暗闇に消えていく。  その後姿を見守りながら、ルリはあらためて気を引き締めた。  両手には、ガントレットとショーテルを装備して。  ざっと確認する限り、村はそんなに大きくはなく、住人も100人を割っている程度だと考えられる。  しかし、どこからも生者の気配はなく、無人の廃墟に佇むような感覚すら覚える。  僅かな空気の乱れすら見逃すまいと、ルリは極限まで緊張感を高め、手近な家を探索する。  寝室らしき場所では、母親とその娘と思われる者達の死体が放置されていた。 「——あれ?」  ルリは、死体に見られる奇妙な共通点に気付いた。  母親と思しき死体は下半身に何も身に着けておらず、股間部に激しい裂傷が確認される。  その上で、頭から肩にかけてを食いちぎられているようだ。  対して子供の方は、頭こそ残っていたものの何か太い物で身体を貫通されたように変形しており、股間だけでなく腹や喉、 口腔まで裂けている。  一旦外に出て死体を再確認してみると、やはり他の死体にも似たような特徴が見られた。  皆、何者かによって股間を中心に激しい裂傷を起こしており、その上で身体を食い千切られているようだ。 「これは——」  ルリは、この状況に「マラ実装」を思い出した。  実装石の亜種とも突然変異とも言われるマラ実装は、男性器に似た器官を持ち、大変旺盛な性欲で同族や他の実装 生物に暴行を加える傾向がある。  野生のマラ実装に襲われた実装石の死体も、このように股間部に激しい裂傷跡が残される。  それどころか、あまりにも酷似し過ぎた状況だ。 (まさか……人間大のマラ実装が潜んでいるのか?!)  ルリの感じる危機感が、より強まる。  一旦馬車に戻り、ヒスイに警告しようとすると、背後から何者かが近づいてきた。  ひろあきとミドリだ。 “ルリ君、これを見てくれ” “これ、ひょっとしたら食えるんじゃないデス?”  二人が持ち寄ったのは、白い粉の詰まった袋が二種類だった。  一つは粒子の細かいもので、もう一つは粒が結晶化している。  ひと舐めしてみると、舌の上に馴染み深い味が広がる。 「塩か——!」  袋を抱えて、三人は一旦馬車に戻ることにした。 “こっちの粉は、小麦粉のようなものだと思う。  これを水と練り合わせれば、しばらくは食い繋げると思うよ” “つーか、それくらいしか食えそうなのはないデス。  あとはみーんな、実装石を使った保存食ばかりデス” 「おうどんが作れるテチ〜」 「ふいい〜、なんとか助かりそうです。  けど、これからどーするです?」  さっさと緊張感を解いて寝そべっているヒスイに、ルリはいまだ厳しい表情を崩さず話した。 「情報が欲しい。  実装石の加工食品があるということは、ひょっとしたら捕らえられた実装石がまだいるかもしれない」 「なるほど、そいつらから情報を得るです?」  だがルリとヒスイの言葉に、ひろあきは首を振って答える。 “残念だがそれは無理だ。  籠に入れられてた実装石はみんな自壊していたし、そうでない者達も実翠人同様食い殺されている。  本当に徹底的にアサルトしていったようだね、バケモノは”  ひろあきの言葉を受け、ヒスイは、「あれ?」と呟いた。 「なーんかおかしいです」 「なにがテチ?」 「バケモノが出たなら、実翠人達は真っ先に逃げ出すんじゃないです?  けど、あの村はほとんどの住人が殺されてたみたいです。  どうして逃げなかったです?」  ヒスイの疑問はもっともだった。  ルリは再度暗闇の彼方の村を見つめ、熟考した。 「もし、逃げられない状況が成立したとしたら、どうだろう?」 「周りを大勢で取り囲んで逃がさないようにすればいいテチ」 “さすがぷち、頭がいいデス” “そうだね、そうすれば中の人間はすべて殲滅可能だ。  理に適ってると思うよ” 「ぷちの言うとおりだとしたら……ち、ちょっと待てですっ!」  突然、ヒスイが叫びながら飛び起きる。  ルリも、表情を更に険しくさせ頷く。 「詰めるだけの粉を積んで、出来るだけ早くここを離れよう」 「テェ? どうしたんテチ?」 “何を慌ててるデス?”  馬車を降りたルリは、鋭い視線を村の入り口に向けながら、独り言のように呟く。  どこからか、生暖かい風が吹いた気がした。 「この村を襲った化け物は、単独とは限らないってことさ。  いや、むしろその可能性の方が低い。  もし本当に、村人を一網打尽にしながら虐殺出来るほどの知能と計画性を持った奴らだとしたら、とんでもないよ」  無言で青ざめるぷちとミドリをよそに、ルリはショーテルのジョイントを、ギリリと回した。           ※          ※          ※  ——翌朝。  窓から差し込む明るい光に、としあきは眠い目をこすりつつ反応した。  どうみても、それは太陽光だ。  宇宙艇の中の街の筈なのに、太陽の光が差し込んでいるのだ。  窓から外を見てみると、ご丁寧に街全体を包むドームの天井面に、青空が映し出されている。 「うへぇ、人工の青空かよ!」  理屈はわからないが、この船の中では昼夜の概念がそのまま用いられているようだ。  偏光ウインドウのせいか、陽の光の温かさは感じられなかったが、おかげで街の全貌がより良く見渡せるようになった。 「……」  だがホテルの窓から見下ろす光景は、お世辞にも素晴らしいとは言い難いものだった。  建造物こそ凄い迫力で美しさすら感じられるものの、どこにも人間の気配は感じられず、また動く物すらない。  遥か眼下を行き来する人の粒も、素早く駆け抜ける車の影も、何もない。  むしろ、夜よりもゴーストタウンというイメージが強く感じられた。  ふと気付くと、テーブルの上に空間投影されたモニタが現れており、その中には、朝食メニューの一覧が示されていた。  タッチパネル式で項目を選ぶと、サービスを得られる仕組みらしく、ご丁寧にマル用のメニューまで載せられている。  としあきは、マルに「高級実装フード・ミルク溶き」と金平糖を選ぶと、自分用に「サーロインステーキとライスセット」を注文 した。 「一度でいいから、朝っぱらからステーキ食べてみたかったんだよなあ。  って、そういやここのステーキって、どこの肉なんだろう?」  不思議に思って更にモニタを操作するが、なぜか材料についての詳細が表示されない。  ものの数分もしないうちに、軽いチャイムが鳴り響き、部屋の隅にあった小さなボックスの上に料理がせり上がってきた。  まだ眠っているマルを揺りかごごとテーブルの上に運ぶと、としあきは早速ステーキを切り、口の中に放り込む。  じゅわっと広がる肉汁の旨味ととろける脂肪のコク、そして素晴らしく柔らかい歯ごたえに、としあきは思わず呻き声を 上げる。  そんなに沢山ステーキを食べたことはなかったが、これが極上の味わいだという事はすぐに理解出来た。 「それにしても不思議だなあ、こんなにおいしい肉が、どうして長年放置されてた宇宙艇から出てくるんだ?  それに、こんな絶妙な焼き加減の料理、いったい誰が作ってるんだ?  これも未来の科学だってか?」  テェェ?  匂いにつられてか、ようやくマルが目を覚ます。  テーブルの上の料理を見るなり、マルは両手を挙げてテチャーと叫んだ。  その日の予定は、北東の第786居住エリアを目指すこと。 唯一外部に通じている代わりに、「何か」によって治安が悪化しているという場所だ。  人間が居ない筈なのに治安という表現が出てくる理由はわからなかったが、とにかくチカによるとあまり良い環境ではない らしい。  クリーニングされた服を着て、腹ごなし(映像鑑賞)も済ませ、風呂で身体を清めたとしあきとマルは、早速エアカーで 目的地を目指すことにした。  エアカーに乗り込んだ途端、コンソールパネルから女性の声が聞こえてくる。  チカだ。 『おはようございます、としあき様。  本日はどうされますか?』 「北東の、第786居住エリアに行こうと思う」 『それはおやめになった方が賢明です。  あそこは、としあき様が知らない危険な生物が多数住み着いております』  チカによれば、第786居住エリア周辺は着地失敗時のシステム破損で充分な管理が行えず、モニタライズすら不充分で 安全の確約が行えないらしい。  チカは、定期的に監視ロボットを派遣して状況を確認しているようだが、そのいくつかは帰還せず破壊されてしまったようだ。 「ここに居るのもいいんだけど、それじゃ俺の目的は全然果たせないからな」 『としあき様の目的は——』 「何かあったら連絡するから。  とりあえず車を向かわせてくれ」 『かしこまりました。  ですが、その前にどうかこちらへお寄りください』  チカの声に反応するように、フロントウインドウに地図が表示される。  赤い矢印がどんどん伸び、「GUNS&WEAPONS」と記されたブロックで止まる。 『緊急時に使用される、自衛部隊専用の武器弾薬庫です。  こちらで、護身用具が手に入りますので、どうか……』 「おいおい、どんだけやばい場所なんだよ?」  テェェ……  胸ポケットの中で、マルが震えている。  としあきは、チカの申し出を受け入れることにしてみた。           ※          ※          ※  ここは、北東ブロック第786居住エリア。  鋭く尖った大きな岩に、外壁を削り破られた形になっており、そこから本物の太陽光と、新鮮な大気が入り込んでくる。  しかし、穴の周囲だけにしか光は届かず、それ以外は薄暗闇に包まれている。  非常時用の照明が灯っているのか、長年の雨風ですっかり傷んだ廊下は、暗いグリーンの光でぼんやりと照らされて いる。  どこから持ち込まれたのか、黒ずんだゴミが端々に点在し、その光景はとても同じ「ペガサス」の内部とは思えないほど だ。  デスーデスー  デスー      デスー!  どこからともなく、無数の実装石の鳴き声が聞こえてくる。  薄暗闇に浮かび上がる、赤と緑の光の群れ。  それは居住ブロックの中心部にある、大きなエントランスホールのような場所に集まりつつあった。  その数は、数十・数百の単位ではない。  かつて美しい装飾を施されていたと思われるエントランスホールは、もはや見る影もないほど薄汚れ、白が黒に変わる ほどの有様だった。  どこからともなく、地の底から響くような唸り声が轟く。  それを耳にした実装石達は、一斉に悲鳴を上げ、身を寄せ合った。  ターミナルポイントまでの通路は、分厚いハッチで完全に閉ざされている。  実装石は、じわじわと迫ってくる唸り声に怯えながら、必死でハッチを殴打し続けた。    デギャァァァ! デギャァァァ!!    デジャァァ、デェェッ、デッギュァァァ!!  デスーデスーデスー! デスゥゥゥゥ!!    デ、デエェェェェッ!!  だが、ハッチが開かれることは、ない。  第786居住エリアの最深部、エントランスホールから最も離れた仮想ガーデンから、巨大な影が姿を現そうとしていた。  グルルルルルル………           ※          ※          ※  幸いにも、無事に夜を越せたぷち達一行は、道中で見つけた水場を利用し、小麦粉モドキと塩を使って食料を作り出して いた。  実翠人の村から発見された粉は中力粉と同じような性質があり、水と塩を混ぜて練れば練るほど独特の弾力と歯ごたえ が出た。  村から調達した比較的清潔そうな布地でくるみ、皆で協力して足踏みで練り込み、もらい物の鍋に湯を沸かして適当に 千切ったものを茹でる。  味付けは塩のみでイマイチ味気なかったが、それでもしばらくぶりに食べるまともな食料という事もあり、一行はそれなり に満足感を得た。  調理アイデアを出したのはぷちだったが、実際の作り方を教えたのはひろあきだった。  充分に満腹すると、全員の思考にそれなりのゆとりが生まれてくる。  話題は当然、夕べ見た実翠人の村の惨状についてだ。  トカデーに草を食べさせながら、ヒスイが口火を切る。 「ヒスイ、あれから一生懸命考えたです。  多分この世界は、実翠人にとっての外敵が多いんです」  ヒスイは、初めて村を訪れた時の村人達の対応や、即座に持ち出して来た武器について注目していた。  実装石のミドリに対してはともかく、それ以外の者達への対応は、明らかに「見慣れぬ者達への警戒」そのものだった。 “でもあいつらの言葉、訛りが酷くて全然聞き取れないデス” “そうか訛りか……しょうがない、やってみよう”  そう言うと、ひろあきは手持ちの実装リンガルを取り出して何か操作し始めた。  彼が持っているものは、としあきの携帯と異なり不思議な力によって機能するものではなく、れっきとした製品のようだ。  どのような経緯で入手したのかは不明だが、相手が実装生物であればかなり融通の利く翻訳が可能らしい。  ipodに似た形状のボックスを掌に乗せ、タッチパネルをしきりに操作する。  しばらくすると、ひろあきはヒスイを指差して「何か話して」とジェスチャーした。 「でぇ? えーと、じゃあ……アヤメのお尻は百メガトンです」 “もう一度” 「で? えーと……クレナイの歳は、実は——」 “オーケー、なんとかなりそうだ”  ぷちが横から覗くと、画面には無数のイコライザのようなものが表示されており、ひろあきはそれを器用に操作している。  三度目の発言をヒスイに求めると、実装リンガルの画面に「タンポポの額は鉄より硬い」と表示された。 “なるほど、きっちり調整すれば君達の言葉は翻訳出来そうだ。  これなら、実翠人達の言葉もわかるかもしれない” 「すごいテチ! ひろあきさん尊敬するテチ!」 “でもなんで、今までそれを使わなかったデス?” “設定保存枠がもうギリギリなんだよ。アクア用のも入ったままだしね” 「よくわからんけど、ヒスイ達の言葉が通じるようになったなら便利です」  相変わらず、ひろあきの言葉はヒスイ達には通じなかったが、それでもコミュニケーションはかなり円滑になったといえる。  その後の相談で、一行は実翠人を見かけたら多少強引にでも身柄を拘束し、世界の事情を聞くことにした。  食事の片付けを終え、残った小麦粉モドキの塊をまとめ、いくつかを馬車内で乾燥させることにする。  干す物だけ塩分を多めにして、移動中に齧れる携帯食代わりにするのだ。  皮肉にも、これは実翠人の村を見て絶句したヒスイのアイデアだった。 “おいクソドレイ2号、ちょっと話があるデス”  馬車を出発させたのとほぼ同時に、珍しくミドリが御者席にやって来た。 “なんだい?” “あの粉、材料は何デス?  よく似てるけど、絶対にラーメンやうどんの素と違うデス。  まさかアレも——” “わからないことは、わからないままにしておこうじゃないか。ねぇミドリ君” “……絶対にぷちには気付かせたくないデス……”  空は今日も見事に晴れ渡り、暖かな日差しが燦々と照りつける。  ヒスイは、気のせいか自分の世界よりも太陽が大きく見えるような気がした。 →NEXT −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
<script type="text/javascript" src="http://www.aaacafe.ne.jp/js/header_ad.js"> </script> 【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】  弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため 強引に異世界を旅行する羽目になった。  「実装石」と呼ばれる人型生命体の存在する世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間という タイムリミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならなくなった。  8つ目の「実装人の世界」で実装人魔道師ビドゥの魔法に巻き込まれたとしあきは、とてつもなく 巨大な建造物の内部に出現した。  そしてぷちとミドリとひろあき、同じく魔法に巻き込まれた実装人世界の住人・ヒスイとルリは、 実装石を捕らえ捕食する、全く異質な文化を持つ実装人の村を発見する。  この世界からの脱出を望み、ひとまず食料調達を行うことにしたぷち達に対し、としあきは、 建物の中にある「大都市」にたどり着き、その中枢部で想像を超える存在と遭遇する。  としあきとぷち達一行は、果たして無事再会する事ができるのだろうか? −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−    じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第9話 ACT-2 【 動く完全巨大母艦 】 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  “グランマイスの聖者”は、「実装人の世界」で発見された人間型のデータベース端末で、情報検索者の頭脳に直接情報 を書き込むことで、メディアを介さない提供を行うことが出来た。  しかし、些細な誤解からこれはヒスイによって破壊されてしまい、二度と利用出来なくなった。  そしてここに、もう一体の“グランマイスの聖者”がいる。  先の者とは異なり、身体が巨大な機械に埋まっているわけではなく、また全裸でもなく、逆さまになってもいない。  きちんと衣服を身にまとい、四肢もしっかり存在し、自在に動き回ることも出来る。  共通点といえば、いかにも機械的な質感の皮膚と、何かのセンサーのようなものがある瞳と掌だ。  それより気になって仕方ないのは、「彼女」の外観がぷちそっくりということ。  髪型、顔、体型だけに留まらず、大きな耳、豊満すぎるバスト、更には独特の小首を傾げる仕草まで同じだ。  さすがに髪と肌の色や衣服の種類・色は別物だが、ぷちを知る者なら誰もが彼女を模したものだと即座に判断するだろう。  それくらい、「彼女」はぷちに瓜二つに造られていた。  「彼女」——C.H.I.K.A.186533982 は、としあきを近くのベンチへと招き、腰掛けるように勧める。 『ご心配なさらないでください。  この艦は、としあき様のご来訪を待ち続けておりました』 「そ、そうは言っても……  そもそも、なんでこんな所にそんな船があるんだよ?」  テェェ… 『それでは、現在の世界ととしあき様の周辺状況からご説明いたしましょう』  そう言うと、「彼女」はグランマイスの聖者のように、右手を差し出した。  あの時と同じように、掌には複雑な光が点灯している。  としあきが手を触れようとすると、突然、仔実装が騒ぎ出した。  テチテチ、テチィ!! 「えっ、お前も触るの?」  テッチュウ 「えーと、でも、理解できないと思うぞお前には」  テチィ プンプン 『構いませんわ、それではおチビちゃんはこちらに』  「彼女」は左手を広げるとそこに仔実装を乗せるように促す。  としあきは少し躊躇ったものの、仔実装を乗せ、自身も「彼女」の右手に触れた。  途端に、周囲の風景が消え去り、真っ白な空間に切り替わった。 『ご説明いたします。  ここは——』  「彼女」は、まずとしあきの置かれている状況から説明を始めた。  としあきが今居るのは、外宇宙航行用の新世代ギガント級宇宙艇日本国用大移民船323号「ペガサス」という巨大な 宇宙艇の中。  ここは、内部に37万人もの人間を半永住させるだけの設備が搭載されており、また東京都心部をモチーフとした大都市 まで建造されている。  西暦2405年より地球離脱を開始した大移民船団は、約70年の期間を費やして各国数百から数千の単位で宇宙に散って 行った。  移民船団の中で、「ペガサス」が所属していた日本国大移民船団は既に移民を完了しており、この中にはもう誰一人と して地球人は残されていない。  説明を受けたとしあきは、ふと浮かんだ疑問を口にする。 「なあ、ぷ……じゃねぇや、えーと」 『私の名称でしたら、ご自由にお呼びください』 「じゃあ、やっぱり……チカ、かなあ?」 『はい』  早速としあきは、「この世界」についてチカに尋ねてみることにした。 『この世界は、としあき様に伝わりやすく申しますと「実装人の住む世界」です』 「えっ?! じゃあ俺は世界移動をしてないの?」 『そうではありません。  ここは、いわば「もう一つの実装人の世界」です』 「もう一つって……  実装人の世界にも、パラレルワールドがあるのかよ!」  チカは、再び丁寧な説明を始める。  地球人が25世紀に地球を離れた後、地上に残された生物達の生き残りはそれぞれ独自の進化を遂げたが、実装生物は 3万5千年という短期間で地球の覇者となり、やがて様々な生物の性質を「実装」し、広まったという。  人間に進化した者もいれば、哺乳類に、または爬虫類に、はたまた魚類・貝類に変化した者も居る。  チカによると、「ペガサス」の分析によれば、約92%もの動植物が実装化しているらしい。 『当艦は、移民作戦完了後、地球の再調査のために帰還いたしました。  現在は地表各所に調査機器を飛ばし、調査結果をまとめております』 「ああ、そうか。  それで移民船なのに地球に戻ってるわけか」  テチテチ、テチィ 「それなら、やっぱり実装人の独自文化みたいなのも発展しているんじゃない?  見てみたいな、そういうの」  テチュウ  としあきの質問に、チカは表情を曇らせて首を横に振る。  しばらくすると、白い空間に突如巨大な画面が浮かび上がった。  粗末な造りの家屋が建ち並ぶ、どこかの小さな部落のようだ。  そこでは、やや小柄で子供っぽい外観の実装人達が、大勢集まっている。  いずれも実装頭巾のようなものを被っており、まるで実装石のコスプレをした幼女の集団に思える。 『こちらが、新人類の生活環境の様子です。  残念ながら、彼女達の文明レベルは著しく低く、まだ文化が充分に形成されているとは言い難い状態です』 「ふええ、あっちの実装人世界とはえらい違いなんだなあ」 『もう一つ、大きな問題があります』  少しだけ間を置き、チカは、仔実装に目線を向けながら話し出す。 『この世界の実装人は、実装石をはじめとするあらゆる実装生物を狩猟・捕食しています』  テチャアッ?!  チカの言葉に、仔実装がブルブルと震えだす。 「んな?! 自分の仲間や先祖を食ってるって意味か?!」  チカはコクリと頷き、怯えている仔実装を優しく手で包み込んだ。 『同族食いの習慣を持つ、加虐性質の強い個体より派生した種族なのかもしれません。  実装人は捕食のみではなく、捕らえた実装石に過度な拷問・虐待を行い、徹底的に苦しめた上で屠殺するという、大変  野蛮な食文化を形成しています。  ですがご安心ください、この艦内にいれば、それらと関わることはありえません』  テ、テチィィ…… 「牧畜の習慣とか、そういうのはないの?」 『確認された範囲ではありません。すべて狩猟に頼っているようです』 「おっかねぇなあ、とてもじゃないけど、そんな奴らの所にミドリ達を連れていけ……」  そこで、としあきの声が止まる。   「そうだ、本物のぷちと! ミドリの奴はどうした?! あとひろあきと!!  あいつらも、この中にいるの?」 『残念ながら、艦内にそれと思しき反応は見られません。  艦外におられる可能性が高いと思われますが——』  チカの言葉に、としあきは目の前が真っ暗になった。           ※          ※          ※  一方、食料調達に向かっていたヒスイ達は、約束の時間になり馬車まで戻ってきていた。 “デスー、腹減ってるのに食欲がないデスゥ……”  残念なことに、メンバーの誰もが食料を調達出来なかった。  だが、それには如何ともしがたい理由が存在していた。 「でも、お食事どうすればいいテチ? このままじゃ…」 「まさか、何もかも実装石だなんて思わなかったです!  いったいどうなってるです、この世界わっ?!」  ヒスイの心の叫びに、ミドリを含めた全員が深く頷いた。  各人が手分けして探したものは、動植物区別なく、すべて実装生物だったのだ。  赤い右目と緑の右目を持ち、特徴的な三つ口、尖り気味の三角耳。  緑色の体色や亜麻色の部位を持つ者もおり、中には(鳴く機能が必要と思えないようなものですら)「デスデス」と鳴き声 を立てる。  ひろあきが捕まえてきた魚などは、脂が乗っていて焼いたら実に美味そうに思えたが、体表から赤と緑の血を流して デスデス呻いており、とてもさばく気にはなれなかった。  果物ですら、例外ではない。  ヒスイが出会った森の中の実装石ですら、実装生物果実などを貪っているのだ。 「ど、どうすればいいテチ?  このままじゃ全員飢え死にしちゃうテチ!」 “我慢して食べるしかない?” 「そんなの絶対イヤイヤテチ!  共食いは絶対しちゃいけないんテチ!」 “あ、そうか。  メイド君は実装石だったんだっけ、すっかり忘れてたよ” 「ヒスイだって共食いはごめんです!  しゃあねえ、あの村に忍び込んで、他に何か——」  そう言いかけて、ヒスイは突然ポンと手を叩いた。  腰に着けているポーチを開くと、その中から小さなクッキーのようなものを取り出す。 「緊急用の非常食があったです!  これと水があれば、二食までは我慢出来るです」 「ヒスイオネーチャ、すごいテチ!  で、数はいくつあるテチ?」 「さ、三枚です……でへっ♪」 “わ、ワタシは絶対食うデス、一枚はワタシのデズゥ……”  相談の結果、非常食のクッキーはひろあきとぷち、ミドリに譲ることになった。  心配したぷちが自分のを半分分けようとしたが、ヒスイは笑顔でそれを断った。 「ヒスイ達はこういうトラブルには慣れてるです。  それより、ぷちは食べられるうちにしっかり食べておくです」 「ヒスイオネーチャ、ありがとテチ……ポワワ」 「か、顔赤らめるより、とっとと食うです!」  更なる相談の末、水だけは確保しておこうという事になったメンバーは、馬車に設置されていた木の樽に水を詰めた。  ふと見上げると、空の上に風船のような生物がフワフワ浮かんでいる。  ひろあきとぷちは、あれも実装生物なのかなあと話し合った。 「よし、お前らは留守番頼むですっ。  ヒスイは、馬代わりに使える動物を探してくるですー」  靴紐を結び直してぴょんぴょん飛び跳ねながら、ヒスイが二人に告げる。  武器もなしに大丈夫かと心配するぷちに、ヒスイは鋭い連続蹴りを空撃ちして見せた。 「すごいテチ! あんよが全然見えないテチ!」 「息ひとつする間に、八発のキックを叩き込めるです!  心配はいらんですー」 “すごいな、少しは恥じらいを覚えた方がいい気がするけど” 「もーっ! ひろあきさんはどこ見てるテチ! プンプン」   「森の実装石に聞いたら、トカデーという大きな動物が近くに棲んでるらしいです。  そいつを連れてくるですー!」  そういうが早いか、ヒスイはあっという間に森の中に消えて行った。  クッキーを一つミドリに食べさせた後、ぷちは、自分の分をそっとポケットにしまいこんだ。 “ぷち、食べないデス…?” 「うん、ヒスイオネーチャ、きっとお腹空かせて帰ってくるテチ。  その時に半分こするテチ」  にっこり微笑むぷちの手を、ミドリは弱々しくポンポンと叩いた。 “そう言うと、僕も半分こしなきゃならないじゃないか”  ひろあきは、食べかけたクッキーをしまいこみ、先に食料探索に向かったルリの帰還を待った。           ※          ※          ※  数時間後、としあきは「カシスの庭」を抜け、艦内の散策を再開していた。  としあきが乗ってきたエアカーは、彼が行き先を告げればオートで移動してくれる便利なもので、いつでもチカの許に送り 届けてくれる。  巨大移民船「ペガサス」自体に強い興味を抱いたとしあきは、チカの与える情報以外にもいろいろなことを知りたくなって きたのだ。  その後、様々な質問を行い、この船は着陸時の事故でエンジン部が破損してしまい、現在修理中である事、北東方面の 末端部は外装が大きく破損しており、そこから外へ出る事が出来る代わりに、外部からの侵入も容易になってしまっている 事を理解した。  特に、そこからは高頻度で動物が紛れ込んでおり、動力炉に近い位置にある第786居住エリア近辺だけは、あまり治安 が良くない場所になっていると警告されていた。  ただし、外部に出るためにはそこを通過するのが近道である。  テチテチ、テチィ  先ほどから仔実装がしきりに話しかけているが、携帯を持っていないため言葉は理解出来ない。  だがとしあきの言う事には素直に従い、「静かにして」といえば鳴き声をピタリと止め、何か用があればシャツを引っ張って 伝え、ジェスチャーによって簡単な意思表示を行う。  また、ここに至って一度もぐずったりお漏らしをしたりしておらず、その点でもとしあきは深く感心させられた。  ミドリやぷちもそれなりに賢い部類の実装石だという事は理解していたが、この仔実装は二人とは全くタイプの異なる賢さ を持っている。  出会ってからそんなに時間が経っていなかったが、としあきは仔実装を本格的に気に入り始めていた。 「そういや、お前は名前あるの?」  テチィ? フルフル 「そっか、名前ないと呼ぶ時不便だもんなあ。俺が名前付けてやろうか?」  テ、テチィ?! テチィ、テチィ!!  よほど嬉しかったようで、仔実装はとしあきの手の中で激しく飛び跳ねた。  あまりに過剰に喜ぶ仔実装を見て小首を傾げながら、としあきは、今度はちゃんとした名前をつけてやろうと考えた。  ——ミドリのような、適当なものではなく。  エアカーは、街の中心部を抜けて大通りを駆け巡り、繁華街のある方向に飛んでいく。  ふと見上げると、実装石の看板が掲げられた大型ショッピングセンターが見えてくる。  なんとなく中を覗いてみたくなったとしあきは、エアカーを止めると仔実装と共に中へ入り込む。  入り口の自動ドアはごく自然に動き、としあき達を招き入れた。 「うわぁ、でっけぇ」  テチィ……  そこは、いわば実装石用アイテム専門のトイザ○スのようなところだった。  背の高い棚が路の左右を覆い、ぎっしりと商品が詰められている。  2メートルくらいはありそうな巨大ぬいぐるみから、かなりの規模の実装ハウス、果ては実際に運転出来る自動車玩具 など、本当に様々なものがある。  当然、ケージや水槽、実装フードや治療用のグッズ、薬品まで多彩で、以前使ったことがある「実装石活性剤」まで 売られている。  その中に、「偽石保護キット」と呼ばれるものも置かれていた。 「なんだこれ? 偽石って実装石のアレだよな?」  テチテチ、テチテチィ、テチテチ、テチィ  仔実装が何か説明してくれているようだが、よくわからない。  ただ、自分の胸を手で指し、そこから容器の中に何かを入れるような仕草を繰り返す。  としあきは、以前ひろあきに言われたことを思い出した。 「ああそうか、実装石には偽石があって、取り出されても生きていられるんだっけ」  テッチュウ  容器の説明書を読むと、「大怪我をした実装石に施術する場合、先に偽石を取り出してください。その後、偽石を“保護剤” に漬け、乾燥したら容器の中に収めて、活性剤を注入してください」とある。  何かの役に立ちそうだと思い、としあきは「偽石保護キット」と「実装石活性剤」を取り、ポケットに押し込んだ。  カチッ、と何かが当たる音がする。           ※          ※          ※ “デギャッ?!”  突然、ミドリが苦しげにのた打ち回った。 「テチャッ?! どうしたテチ、オネーチャ?」 “デ、デェェ…なんか今、すごく死の臭いを感じ取ったデス…” 「テェェ?! そ、そんなのイヤイヤテチィ!」           ※          ※          ※  ポケットを探ってみると、ハンカチに包まれた小さな宝石が出てくる。  これは「実装人の世界」に着いた時、額の上に乗っていたものだ。  なんとなく、以前より少し黒ずみ、光も弱まっている気がする。  それを見た仔実装が、血相を変えて騒ぎ始めた。  テチテチィ!! テチィテチィ、テチテチィィィ!! 「えっ?! こ、これがどうしたの?」  テェェェッ!! テチティ!!  必死で何かを訴える仔実装の様子に焦りを覚えたとしあきは、うろたえつつも考えを巡らせる。  仔実装は、自分の胸と石を交互に指差す行為を繰り返した。 「まさか、これが実装石の偽石なの?」  テチィ♪  仔実装は、笑顔で頷く。 「どっから紛れ込んだんだこんなもの? 捨ててもいい?」  テェェェッ!! テチテチテチテチィィッ!! 「わかった、わかったよ。めんどくせぇなあ」  としあきは、説明書に従って偽石を保護剤に漬け、乾燥を待つことにした。  保護剤はねちょねちょしたもので、そう簡単に乾きそうにない。  しかし、心なしか偽石は少しだけ輝きを取り戻したように見えた。  その後、しばらく店内を探索したものの全然乾燥する兆しが見えないため、としあきは偽石をしばらくここに置いていくこと にした。 「あっ、乾燥には数時間かかります、って説明書に書いてある……おいおい」  テチュウ 「まあ、よく教えてくれたな、ありがとう。  これ、お礼だよ」  テェ? テチィ☆  としあきは、店内で発見した仔実装用の前掛けを取り出し、彼女の首元に結びつけた。  それは純正のものではなく既製品で、前掛けというよりはエプロンに近い大きさがある。  下の方に、真円の中に実装石の目と口がプリントされているアップリケがあり、それが妙に可愛らしい。  仔実装も、そのまん丸いマークがとても気に入ったようで、手で摘んではしゃいでいる。 「そんなに、そのまん丸好きか?」  テッチュウ♪ 「じゃあ、お前の名前は“マンマル”…じゃ変だな、よし、マルにしよう」  テチャア♪ テチテチィ!!  相変わらず適当極まりないネーミングだったが、それでも仔実装はとても喜び、としあきの手に何度も頬ずりをした。  猫の肉球を思わせるぷにぷにとした感触が、なかなか心地良い。   「よーしマル、あらためてよろしくなっ」  テッチュウン♪  ようやく完璧な姿と名前を得た仔実装マルは、あらためてとしあきの胸ポケットに収まった。  彼を見上げるその頬は真っ赤に染まり、両目は少しだけ潤んでいた。            ※          ※          ※  森の中から「トカデー」と呼ばれる大型の四足実装生物を連れて来たヒスイは、それを馬代わりに馬車を引かせてみた。  当初は力ずくでと考えていた彼女だったが、トカデーは思ったより温厚な生物らしく、闘うまでもなくヒスイになついて 付いて来た。  4メートル前後の巨体と太い四肢はとてつもなく頑丈かつパワフルで、四人と一匹を乗せた馬車を苦もなく引っ張って くれる。  さすがに馬ほどの速度は出なかったが、さっきまで馬車を引いていた奴らよりは遥かに頼りになった。 「さーて、それでは次はどこへ行くです?」 「クソドレイサンを捜して欲しいテチ」 “その前に、メシを手に入れるデス……” 「水は確保したけど、食料は大事だね。  目的地を定めて、その過程で食べられそうなものを調達して行くべきなんだが——」  ルリの言葉で、会話が止まる。  馬車の一行は、全員としあきと合流すべきという事で意見は一致していた。  しかし、いかんせん手がかりがないのだ。  西か東か、はたまた北か南か、海の向こうか別大陸か。  あまりにも情報が乏しすぎて、お話にならない。  ルリの提案で、まずは次の村を探して別なアプローチを計り、少しでも情報を得ようということになった。 「テェ? オネーチャ、少し元気になったテチ?」 “デス、さっきよりいくらかマシになったデス”  ミドリの顔色は先ほどよりかなりましになっていた。  まだ元気に動き回るほどではないにせよ、生死の境を彷徨うというほどではないようで、ぷちもようやく安堵の表情を 浮かべた。 “ひょっとしたら、弐羽くんに近づいているのかもしれない。  偽石との距離が近づいているのだとしたら、こっちの方向で間違いないね” 「それは嬉しいテチ! 急いで行くテチ!」  ヒスイ達は、ひとまず「実翠人達は自分と違う肉体の者を警戒したのでは」という仮説を立て、次はルリ以外の者達が 交渉にあたる事にした。  分け合った非常食はとっくになくなり、一行は再び空腹感に苛まれる。  だが幸いにも、その日の夕方前には新しい村を発見出来た。 「やったー村ですー!」 “おお、今度こそ食べ物が手に入るといいね!”  御者席で、ヒスイとひろあきが歓声を上げる。  だがルリは、村から全く煙や光が漏れていないことに気付き、眉をひそめた。           ※          ※          ※  としあきは、仔実装マルと共に街中を巡り、かなりの幸福感と疲労感に包まれていた。  無人の大都市は、すべてのサービスがとしあきとマルだけに向けられており、無料かつ自由になんでも利用出来た。  食料を取り扱う店に入れば、いつでも温かくおいしい料理が好きなだけ食べられ、しかも代金を請求されることはない。  驚くことに、食べ物は普通のレストランと変わらない規模のものが揃っており、その気になればフランス料理や中華料理 もフルコースで楽しめるようだ。  ミドリがもしここに居れば、ステーキや牛丼食べ放題も余裕だ。  チカによると、これらはすべて「超生産能力」と呼ばれる特殊なシステムによって生み出されているもので、限りなく本物に 近いイミテーションだが、99.999%実物と同じ栄養摂取が叶うという。  いずれもとしあきの知識の範疇を大きく超えたものだったが、「遠い未来の科学だからこんな事も出来るんだろう」と考え、 あまり深く追求しないことにした。  それだけではなく、娯楽面も充実しており、その気になればどのような遊戯でも楽しめるようだ。  だがさすがに一人で遊ぶには限界もあり、遊戯施設はほとんど眺めて回るだけに終わった。  散々遊びまわった末、としあきは再び実装ショップに戻り、ようやく乾燥した偽石を容器に詰めた。  その頃には、としあきはあくびを連発しており、マルもいつしかポケットの中で居眠りしていた。  時計を確認すると、既に23時を回っている。 「うわあ、全然気付かなかった。随分動き回ったなあ」  最初の部屋まで戻る気力が湧かず、としあきは、手近にあるホテルで休むことにした。  普通なら絶対に泊まる事など出来なさそうな、恐ろしく高級そうなホテルの入り口をくぐり、受付から適当な部屋の鍵を 取る。  としあきが鍵を手に取った瞬間、カウンターの裏側にあるホテルマップの一部が点灯し、行き先を示した。 「ほんとにもう、何もかも至れりつくせりだなあ」  テチュ〜…ZZZ  マルを起こさないように注意しながら、としあきはエレベーターへ向かった。           ※          ※          ※ 「——そっちは、どうだったです?」 「ダメだ、全滅してるよ」 「テェェェン! みんな酷いことになってるテチィ!  誰がこんなに酷いことをしたテチィ?」 “これは、どう見ても大型の猛獣クラスの生物だなあ。  さもなきゃ、こんな大きな傷なんか付けられる筈がない” “デ、デェェ……  この世界のことが、益々わかんなくなったデス!”  ぷち達一行が新たに発見した村は、「死人の村」だった。  村人は全員皆殺しにされており、しかもほぼ例外なく無残に身体を引き千切られている。  転がる生首、壁にぶら下がる腕、血糊に染まる壁、石畳を塗らす大量の内臓……  それはまるで、猟奇殺人犯が実翠人の解体を楽しんだ跡のようですらある。  それなりの修羅場を潜り抜けたつもりだったヒスイとルリですら、この惨状は耐え難いものがある。  ぷちは早急に馬車に戻されたが、意外にも、ここで活躍したのがひろあきだった。  彼だけは、惨死体を見ても全く平気なのだ。 “ミドリ君、彼女達に通訳を。  ここの死体は、少なくとも数日は放置されていたようだ。  臭いのほとんどは血の臭いじゃなくて腐臭だし、傷口も傷んで蛆虫が湧いてる” “デェェ、わかったデス”  ミドリを通じてヒスイ、ルリへと、非常に手間のかかる翻訳が行われる。  ルリは、としあきの携帯を取り出し不思議そうに見つめると、あらためてひろあきに向き直った。 「じゃあ、この近くに獰猛なケモノが潜んでいる可能性があるってことかな?」  ヒスイとミドリを通じて、ひろあきが返答する。 “可能性は高い。ここに長時間留まるのは危険かもしれないな” 「とんでもないことになったです。  ひとまず、馬車に戻るです」  ぷちを心配し、ヒスイは馬車へ戻ろうとする。  相談の結果、ひろあき&ミドリとルリが、手分けして村の中を少しだけ調査する事になった。  危険があったら、ヒスイはルリ達に構わず馬車を発進させるという段取りをつける。 「じゃあ、行こう」  ルリのハンドサインで、ひろあきとミドリが暗闇に消えていく。  その後姿を見守りながら、ルリはあらためて気を引き締めた。  両手には、ガントレットとショーテルを装備して。  ざっと確認する限り、村はそんなに大きくはなく、住人も100人を割っている程度だと考えられる。  しかし、どこからも生者の気配はなく、無人の廃墟に佇むような感覚すら覚える。  僅かな空気の乱れすら見逃すまいと、ルリは極限まで緊張感を高め、手近な家を探索する。  寝室らしき場所では、母親とその娘と思われる者達の死体が放置されていた。 「——あれ?」  ルリは、死体に見られる奇妙な共通点に気付いた。  母親と思しき死体は下半身に何も身に着けておらず、股間部に激しい裂傷が確認される。  その上で、頭から肩にかけてを食いちぎられているようだ。  対して子供の方は、頭こそ残っていたものの何か太い物で身体を貫通されたように変形しており、股間だけでなく腹や喉、 口腔まで裂けている。  一旦外に出て死体を再確認してみると、やはり他の死体にも似たような特徴が見られた。  皆、何者かによって股間を中心に激しい裂傷を起こしており、その上で身体を食い千切られているようだ。 「これは——」  ルリは、この状況に「マラ実装」を思い出した。  実装石の亜種とも突然変異とも言われるマラ実装は、男性器に似た器官を持ち、大変旺盛な性欲で同族や他の実装 生物に暴行を加える傾向がある。  野生のマラ実装に襲われた実装石の死体も、このように股間部に激しい裂傷跡が残される。  それどころか、あまりにも酷似し過ぎた状況だ。 (まさか……人間大のマラ実装が潜んでいるのか?!)  ルリの感じる危機感が、より強まる。  一旦馬車に戻り、ヒスイに警告しようとすると、背後から何者かが近づいてきた。  ひろあきとミドリだ。 “ルリ君、これを見てくれ” “これ、ひょっとしたら食えるんじゃないデス?”  二人が持ち寄ったのは、白い粉の詰まった袋が二種類だった。  一つは粒子の細かいもので、もう一つは粒が結晶化している。  ひと舐めしてみると、舌の上に馴染み深い味が広がる。 「塩か——!」  袋を抱えて、三人は一旦馬車に戻ることにした。 “こっちの粉は、小麦粉のようなものだと思う。  これを水と練り合わせれば、しばらくは食い繋げると思うよ” “つーか、それくらいしか食えそうなのはないデス。  あとはみーんな、実装石を使った保存食ばかりデス” 「おうどんが作れるテチ〜」 「ふいい〜、なんとか助かりそうです。  けど、これからどーするです?」  さっさと緊張感を解いて寝そべっているヒスイに、ルリはいまだ厳しい表情を崩さず話した。 「情報が欲しい。  実装石の加工食品があるということは、ひょっとしたら捕らえられた実装石がまだいるかもしれない」 「なるほど、そいつらから情報を得るです?」  だがルリとヒスイの言葉に、ひろあきは首を振って答える。 “残念だがそれは無理だ。  籠に入れられてた実装石はみんな自壊していたし、そうでない者達も実翠人同様食い殺されている。  本当に徹底的にアサルトしていったようだね、バケモノは”  ひろあきの言葉を受け、ヒスイは、「あれ?」と呟いた。 「なーんかおかしいです」 「なにがテチ?」 「バケモノが出たなら、実翠人達は真っ先に逃げ出すんじゃないです?  けど、あの村はほとんどの住人が殺されてたみたいです。  どうして逃げなかったです?」  ヒスイの疑問はもっともだった。  ルリは再度暗闇の彼方の村を見つめ、熟考した。 「もし、逃げられない状況が成立したとしたら、どうだろう?」 「周りを大勢で取り囲んで逃がさないようにすればいいテチ」 “さすがぷち、頭がいいデス” “そうだね、そうすれば中の人間はすべて殲滅可能だ。  理に適ってると思うよ” 「ぷちの言うとおりだとしたら……ち、ちょっと待てですっ!」  突然、ヒスイが叫びながら飛び起きる。  ルリも、表情を更に険しくさせ頷く。 「詰めるだけの粉を積んで、出来るだけ早くここを離れよう」 「テェ? どうしたんテチ?」 “何を慌ててるデス?”  馬車を降りたルリは、鋭い視線を村の入り口に向けながら、独り言のように呟く。  どこからか、生暖かい風が吹いた気がした。 「この村を襲った化け物は、単独とは限らないってことさ。  いや、むしろその可能性の方が低い。  もし本当に、村人を一網打尽にしながら虐殺出来るほどの知能と計画性を持った奴らだとしたら、とんでもないよ」  無言で青ざめるぷちとミドリをよそに、ルリはショーテルのジョイントを、ギリリと回した。           ※          ※          ※  ——翌朝。  窓から差し込む明るい光に、としあきは眠い目をこすりつつ反応した。  どうみても、それは太陽光だ。  宇宙艇の中の街の筈なのに、太陽の光が差し込んでいるのだ。  窓から外を見てみると、ご丁寧に街全体を包むドームの天井面に、青空が映し出されている。 「うへぇ、人工の青空かよ!」  理屈はわからないが、この船の中では昼夜の概念がそのまま用いられているようだ。  偏光ウインドウのせいか、陽の光の温かさは感じられなかったが、おかげで街の全貌がより良く見渡せるようになった。 「……」  だがホテルの窓から見下ろす光景は、お世辞にも素晴らしいとは言い難いものだった。  建造物こそ凄い迫力で美しさすら感じられるものの、どこにも人間の気配は感じられず、また動く物すらない。  遥か眼下を行き来する人の粒も、素早く駆け抜ける車の影も、何もない。  むしろ、夜よりもゴーストタウンというイメージが強く感じられた。  ふと気付くと、テーブルの上に空間投影されたモニタが現れており、その中には、朝食メニューの一覧が示されていた。  タッチパネル式で項目を選ぶと、サービスを得られる仕組みらしく、ご丁寧にマル用のメニューまで載せられている。  としあきは、マルに「高級実装フード・ミルク溶き」と金平糖を選ぶと、自分用に「サーロインステーキとライスセット」を注文 した。 「一度でいいから、朝っぱらからステーキ食べてみたかったんだよなあ。  って、そういやここのステーキって、どこの肉なんだろう?」  不思議に思って更にモニタを操作するが、なぜか材料についての詳細が表示されない。  ものの数分もしないうちに、軽いチャイムが鳴り響き、部屋の隅にあった小さなボックスの上に料理がせり上がってきた。  まだ眠っているマルを揺りかごごとテーブルの上に運ぶと、としあきは早速ステーキを切り、口の中に放り込む。  じゅわっと広がる肉汁の旨味ととろける脂肪のコク、そして素晴らしく柔らかい歯ごたえに、としあきは思わず呻き声を 上げる。  そんなに沢山ステーキを食べたことはなかったが、これが極上の味わいだという事はすぐに理解出来た。 「それにしても不思議だなあ、こんなにおいしい肉が、どうして長年放置されてた宇宙艇から出てくるんだ?  それに、こんな絶妙な焼き加減の料理、いったい誰が作ってるんだ?  これも未来の科学だってか?」  テェェ?  匂いにつられてか、ようやくマルが目を覚ます。  テーブルの上の料理を見るなり、マルは両手を挙げてテチャーと叫んだ。  その日の予定は、北東の第786居住エリアを目指すこと。 唯一外部に通じている代わりに、「何か」によって治安が悪化しているという場所だ。  人間が居ない筈なのに治安という表現が出てくる理由はわからなかったが、とにかくチカによるとあまり良い環境ではない らしい。  クリーニングされた服を着て、腹ごなし(映像鑑賞)も済ませ、風呂で身体を清めたとしあきとマルは、早速エアカーで 目的地を目指すことにした。  エアカーに乗り込んだ途端、コンソールパネルから女性の声が聞こえてくる。  チカだ。 『おはようございます、としあき様。  本日はどうされますか?』 「北東の、第786居住エリアに行こうと思う」 『それはおやめになった方が賢明です。  あそこは、としあき様が知らない危険な生物が多数住み着いております』  チカによれば、第786居住エリア周辺は着地失敗時のシステム破損で充分な管理が行えず、モニタライズすら不充分で 安全の確約が行えないらしい。  チカは、定期的に監視ロボットを派遣して状況を確認しているようだが、そのいくつかは帰還せず破壊されてしまったようだ。 「ここに居るのもいいんだけど、それじゃ俺の目的は全然果たせないからな」 『としあき様の目的は——』 「何かあったら連絡するから。  とりあえず車を向かわせてくれ」 『かしこまりました。  ですが、その前にどうかこちらへお寄りください』  チカの声に反応するように、フロントウインドウに地図が表示される。  赤い矢印がどんどん伸び、「GUNS&amp;WEAPONS」と記されたブロックで止まる。 『緊急時に使用される、自衛部隊専用の武器弾薬庫です。  こちらで、護身用具が手に入りますので、どうか……』 「おいおい、どんだけやばい場所なんだよ?」  テェェ……  胸ポケットの中で、マルが震えている。  としあきは、チカの申し出を受け入れることにしてみた。           ※          ※          ※  ここは、北東ブロック第786居住エリア。  鋭く尖った大きな岩に、外壁を削り破られた形になっており、そこから本物の太陽光と、新鮮な大気が入り込んでくる。  しかし、穴の周囲だけにしか光は届かず、それ以外は薄暗闇に包まれている。  非常時用の照明が灯っているのか、長年の雨風ですっかり傷んだ廊下は、暗いグリーンの光でぼんやりと照らされて いる。  どこから持ち込まれたのか、黒ずんだゴミが端々に点在し、その光景はとても同じ「ペガサス」の内部とは思えないほど だ。  デスーデスー  デスー      デスー!  どこからともなく、無数の実装石の鳴き声が聞こえてくる。  薄暗闇に浮かび上がる、赤と緑の光の群れ。  それは居住ブロックの中心部にある、大きなエントランスホールのような場所に集まりつつあった。  その数は、数十・数百の単位ではない。  かつて美しい装飾を施されていたと思われるエントランスホールは、もはや見る影もないほど薄汚れ、白が黒に変わる ほどの有様だった。  どこからともなく、地の底から響くような唸り声が轟く。  それを耳にした実装石達は、一斉に悲鳴を上げ、身を寄せ合った。  ターミナルポイントまでの通路は、分厚いハッチで完全に閉ざされている。  実装石は、じわじわと迫ってくる唸り声に怯えながら、必死でハッチを殴打し続けた。    デギャァァァ! デギャァァァ!!    デジャァァ、デェェッ、デッギュァァァ!!  デスーデスーデスー! デスゥゥゥゥ!!    デ、デエェェェェッ!!  だが、ハッチが開かれることは、ない。  第786居住エリアの最深部、エントランスホールから最も離れた仮想ガーデンから、巨大な影が姿を現そうとしていた。  グルルルルルル………           ※          ※          ※  幸いにも、無事に夜を越せたぷち達一行は、道中で見つけた水場を利用し、小麦粉モドキと塩を使って食料を作り出して いた。  実翠人の村から発見された粉は中力粉と同じような性質があり、水と塩を混ぜて練れば練るほど独特の弾力と歯ごたえ が出た。  村から調達した比較的清潔そうな布地でくるみ、皆で協力して足踏みで練り込み、もらい物の鍋に湯を沸かして適当に 千切ったものを茹でる。  味付けは塩のみでイマイチ味気なかったが、それでもしばらくぶりに食べるまともな食料という事もあり、一行はそれなり に満足感を得た。  調理アイデアを出したのはぷちだったが、実際の作り方を教えたのはひろあきだった。  充分に満腹すると、全員の思考にそれなりのゆとりが生まれてくる。  話題は当然、夕べ見た実翠人の村の惨状についてだ。  トカデーに草を食べさせながら、ヒスイが口火を切る。 「ヒスイ、あれから一生懸命考えたです。  多分この世界は、実翠人にとっての外敵が多いんです」  ヒスイは、初めて村を訪れた時の村人達の対応や、即座に持ち出して来た武器について注目していた。  実装石のミドリに対してはともかく、それ以外の者達への対応は、明らかに「見慣れぬ者達への警戒」そのものだった。 “でもあいつらの言葉、訛りが酷くて全然聞き取れないデス” “そうか訛りか……しょうがない、やってみよう”  そう言うと、ひろあきは手持ちの実装リンガルを取り出して何か操作し始めた。  彼が持っているものは、としあきの携帯と異なり不思議な力によって機能するものではなく、れっきとした製品のようだ。  どのような経緯で入手したのかは不明だが、相手が実装生物であればかなり融通の利く翻訳が可能らしい。  ipodに似た形状のボックスを掌に乗せ、タッチパネルをしきりに操作する。  しばらくすると、ひろあきはヒスイを指差して「何か話して」とジェスチャーした。 「でぇ? えーと、じゃあ……アヤメのお尻は百メガトンです」 “もう一度” 「で? えーと……クレナイの歳は、実は——」 “オーケー、なんとかなりそうだ”  ぷちが横から覗くと、画面には無数のイコライザのようなものが表示されており、ひろあきはそれを器用に操作している。  三度目の発言をヒスイに求めると、実装リンガルの画面に「タンポポの額は鉄より硬い」と表示された。 “なるほど、きっちり調整すれば君達の言葉は翻訳出来そうだ。  これなら、実翠人達の言葉もわかるかもしれない” 「すごいテチ! ひろあきさん尊敬するテチ!」 “でもなんで、今までそれを使わなかったデス?” “設定保存枠がもうギリギリなんだよ。アクア用のも入ったままだしね” 「よくわからんけど、ヒスイ達の言葉が通じるようになったなら便利です」  相変わらず、ひろあきの言葉はヒスイ達には通じなかったが、それでもコミュニケーションはかなり円滑になったといえる。  その後の相談で、一行は実翠人を見かけたら多少強引にでも身柄を拘束し、世界の事情を聞くことにした。  食事の片付けを終え、残った小麦粉モドキの塊をまとめ、いくつかを馬車内で乾燥させることにする。  干す物だけ塩分を多めにして、移動中に齧れる携帯食代わりにするのだ。  皮肉にも、これは実翠人の村を見て絶句したヒスイのアイデアだった。 “おいクソドレイ2号、ちょっと話があるデス”  馬車を出発させたのとほぼ同時に、珍しくミドリが御者席にやって来た。 “なんだい?” “あの粉、材料は何デス?  よく似てるけど、絶対にラーメンやうどんの素と違うデス。  まさかアレも——” “わからないことは、わからないままにしておこうじゃないか。ねぇミドリ君” “……絶対にぷちには気付かせたくないデス……”  空は今日も見事に晴れ渡り、暖かな日差しが燦々と照りつける。  ヒスイは、気のせいか自分の世界よりも太陽が大きく見えるような気がした。 →NEXT −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− <div align="center" style="margin-bottom:7px"> <script type="text/javascript" src="http://www.aaacafe.ne.jp/js/footer_ad.js"> </script> <!-- <script type="text/javascript" src="http://www.aaacafe.ne.jp/js/search_frame.js"></script> --> <script type="text/javascript" src="http://st.search.livedoor.com/research/search_frame.js"></script> <script type="text/javascript"> livedoorSearchShowReSearchFrame({ search_id : 'ld_aaajs_sl' }); </script> <script type="text/javascript"> var gaJsHost = (("https:" == document.location.protocol) ? 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