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Journey Through The Jissouseki Act-9
【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】
弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため
強引に異世界を旅行する羽目になった。
「実装石」と呼ばれる人型生命体の存在する世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間という
タイムリミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならなくなった。
8つ目に辿り付いた「実装人の世界」は、実装生物が進化した新人類に支配される世界だった。
旧人類の残した文明の記録に執着する実装人魔道師ビドゥは、としあきを利用し“グランマイスの聖者”
と呼ばれる者から、様々な情報を引き出そうとするが、その目論見は予想外の展開を見せ……
ビドゥの魔法で強制的に次元移動させられてしまった、としあき達の運命はいかに!?
【 Character 】
・弐羽としあき:人間
「実装石のいない世界」出身の主人公。
実装石と会話が出来る不思議な携帯を持っている。
・ミドリ:野良実装
「公園実装の世界」出身の同行者。
成体実装で糞蟲的性格だが、としあきやぷちとトリオを組みよくも悪くも活躍。
・ぷち:人化(仔)実装
「人化実装の世界」からの同行者。
見た目は巨乳ネコミミメイドだが、実は人間の姿を得てしまった稀少な仔実装。
・海藤ひろあき
「実装愛護の世界」でとしあき達と知り合い、その後他の世界で何度も再会する
“もう一人の旅人”。
・ヒスイ
「無謀なる天使達」のメインキャラクター。
「実装人の世界」出身の、お気楽極楽スカポンタンな性格の少女。
キック主体の格闘技能を駆使して活躍。
・実蒼人ルリ
「無謀なる天使達」のメインキャラクター。
「実装人の世界」出身の、真面目一徹な戦士。
二本の巨大なショーテル(半月型の剣)を振るう。
※ ※ ※
長い眠りから目覚めたような、鈍い感覚に戸惑いを覚える。
額の上に何か乗っている感触に気付き、ようやく意識が戻った。
「うぅ……」
そこは、どこかの建物の一室のようだ。
清潔なベッドに横たわっており、衣服も身体も問題はないようだ。
としあきは、現在時刻を確認するため、携帯電話を取り出そうとするが、ポケットの中に感触が何もない。
慌てて起き上がろうとすると、何かが額からポロリと落ちた。
テチャッ?!
「えっ?」
テ、テチィィ
それは、とても小さな実装石だった。
身長は目測8センチ程度で、ともすれば玩具のようにも見えてしまう。
身体は清潔で、嫌な臭いは全くせず、また衣服や髪も清潔に保たれている。
二人は、しばしジッと見詰め合う。
やがて、としあきの少しむくんだ目が、ギラリと輝いた。
「やったー! のっけからゲットおぉぉぉぉ!!
これでやっと帰れるぜええぇぇぇ!!!
おらあぁぁ、出て来いやぁ初期実装おぉぉぉっっ!!!」
テチャアッ?!
仔実装を両手でガッシリ掴み挙げ、としあきは勝利の雄叫びを上げた。
だが、なんとなく違和感を覚え、手の中の仔実装を再確認する。
気丈にも、仔実装は泣いたり脱糞したりはしておらず、きょとんとした顔で見つめ返していた。
残念ながら、頭巾には何の模様もない。
その代わり、この仔実装には、何故か前掛けを持っていなかった。
「あ…ごめん、勘違いしてた。今のなし」
テチ
「痛かったか? ごめんな」
テチィ(フルフル)
「えーと、君は、誰?」
テチー
「言葉、わかんない…よな。当然か」
テチテチ、テチー
「えーと、俺、としあき。
ここはどこかなー? なんて、聞いてもわかりっこねーか」
テッチュウ♪
としあきに呼びかけられたのが嬉しいのか、ベッドの上に下ろされた仔実装はぴょんぴょん飛び跳ねている。
その無邪気な笑顔を見ているうちに、としあきは、だんだん頭がハッキリしてきた。
「あっそうだ、俺、実装人の世界で飛ばされて——って、なんだぁこりゃあぁぁぁ?!?!」
テチャッ?!
としあきの絶叫に、仔実装が怯えてひっくり返る。
ベッドの脇に設置された、角丸型の大きな窓。
飛行機のウインドウを連想させるそれには、予想だにしなかった光景が広がっていた。
「こ、ここ何?! いったい、何の世界?!」
眼下数百メートル彼方に広がる、巨大な都市。
そして、遠方に広がる広大な荒地。
赤茶色に染まった景色が青空に照らされて、まるでアメリカの荒野を連想させた。
生き物の姿は、どこにもない。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第9話 ACT-1 【 ネガ世界の闇歴史 】
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としあきがいるのは、六畳間強くらいの広さの個室。
限りなく白に近い薄青の壁色は清潔感が漂い、蛍光灯や通気口が全く見当たらないにも関わらず、室内は明るく快適だ。
窓は北側の壁に付いており、向かい合わせに出入り口がある。
東側にベッド、西側には机と椅子、そして用途不明の四角いボックスが大小二つ備え付けられている。
窓は開け閉めが不可能な構造で、カーテンも付いてない。
ドアにはノブはなく、見た感じ自動ドアのように思える。
何も置かれていない机に手を触れると、なんと椅子が自動でスライドする。
背もたれや座面が微妙に稼動し、まだ座ってもいないのにとしあきの体型にフィットするように調整された。
更に、机の上面がモニタのように光り輝き、空間投影型のディスプレイが展開する。
しかし、そこには何も映ってはいなかった。
としあきは、前掛けのない仔実装を机に上げ、自らも椅子に座ると、物珍しそうに辺りの物を手当たり次第触れてみた。
「すげぇなコレ」
テチテチ、テチィ♪
「あ、そうだ今は何時なんだろう、えーと時計は……」
としあきがそう呟くと同時に、空間投影ディスプレイに何かが表示される。
AD.37850.6.18.FRI AM 09:28
「えっ、音声入力システムなのか?」
テッチュウ♪
「って……えーでー、さんななはちごーぜろって……
西暦、37850年?! おいおい……」
テーチテチ、テチテチ、テチィテチ
「もう、何があっても驚かねーぞ俺は……」
※ ※ ※
強い日差しを受け、ヒスイは意識を取り戻す。
爽やかな風が、草木の香りを運んできた。
「う、うう……ここは、どこです?」
「ひ、ヒスイ?」
横から、ルリの声がする。
そこは、果てしなく広がる大草原のど真ん中。
そよ風に揺られる青葉は柔らかで心地よく、鼻腔をくすぐる香りはとても爽やかで胸がすっとする。
空は晴れ渡り雲一つない良い天気で、このまま日向ぼっこでもしたくなりそうな素敵な場所だった。
だがヒスイとルリは、そんな環境に心奪われることはなく、すぐに現状確認に入る。
「僕達、魔法で飛ばされたんだったよね?」
「です! 他のみんなはどうなったです?
クレナイは、ぷちはどこです?」
ヒスイは立ち上がり、その辺を軽く駆け回ってみようと考えたが、突然物凄いスピードで走り出してしまった……悲鳴を
上げながら。
「でででででででででで?!?!」
「ヒスイ?! どうしたの?」
「きゃーっ! あ、足がとまんねーですぅぅぅぅぅ」ドテッ
コケた。
「全くもう、なにをやって——」
立ち上がったルリは、その気もないのに、若干身体を浮かせてしまった。
異様に、身体が軽い。
「えっ? えっ?!」
試しにその場で跳ねてみると、いつもよりかなり高くジャンプ出来る。
彼方でずっこけたヒスイは、泣きながら凄い勢いで駆け戻ってきた。
「でぇぇぇん! でぇぇぇぇん! 身体が軽すぎるですー!
これじゃあ、ヒスイの技に上手く体重を乗せられないですぅ!」
「重力が、かなり弱いのかもしれない。
まさかここは、僕達が居た世界とは違うのか?」
「でぇ? まさかそれって、ひろあきが言ってた世界移動です?
ヒスイ達も巻き込まれたです?」
「わからない。とにかく、みんなを捜そう」
「でっす!」
二人は草原から周囲を見回し、そこが高台である事に気付いた。
右手の彼方には森林が広がり、左手の方には川が流れている。
眼下には果てしなく青と土色の平原が伸びており、地平線が見える所すらある。
海は見えなかったが、有視界内には、人工建造物と思しきものは全く見受けられない。
「どこへ行くです?」
「まずは森かな。
もし彼等があそこに落ちていたら大変だ」
「らじゃったです!」
二人が森林部に辿り付いたのは、あっという間だった。
距離があるように思えたが歩行速度がいつもより速いため、想像以上に時間がかからない。
森と言っても木々はかなり背が低く、太陽光も沢山入り込むため極端な暗さは感じない。
その代わり、妙に湿気が多く異臭が強い。
それに、普通の森林とは違う妙な感覚がつきまとう。
「なあルリ、なんだか変な視線を感じないです?」
「僕も、さっきからそう思ってた」
「なんだか、大勢に取り囲まれてじろじろ見られてるみたいですー」
「おかしいな、僕達以外誰もいないのに」
「すごく気持ち悪いです〜!」
どんどん先に進んでいくと、途中から木々の密集度が増し、光が弱くなる。
獣道は若干開け、普通に歩行出来る路が出現した。
その先には、ちょっとした広場のような場所があり、そこだけ真上から光が差し込んでいた。
広場の真ん中にはヒスイ達が腰掛けられそうな大きさの岩があり、その周りには背の低い実装石の集団がたむろしていた。
「おっ、実装石です! 話をしてみるです」
「うん、頼むよ」
ヒスイは、笑顔を浮かべながら実装石達に呼びかける。
だがその途端、彼女達は驚愕の表情を浮かべて必死で逃げ出した。
デギャアァァァァァッッ!!!
「でぇっ?! ち、ちょっと待てです!! なんで逃げるですーっ!」
逃げるといっても、身長30センチにも満たない小柄な生物なので、ヒスイは容易に追いつける。
最後尾の者を二匹ほどまとめて捕まえると、ヒスイは恐怖心を与えないように優しく抱き上げた。
「ヒスイは味方です、ちょっと話を聞かせてほしいだけですー」
デ、デ、デヒィィィィ!!
「どうしたんだい?」
「わっかんないです! こんなに怯えられるの初めてです」
デ・ヒ・ヒ・ヒ・ィィィィ……!! パキン
二匹のうち一匹は、何もしていないにも関わらず、あっさりと自壊してしまった。
それに連動するように、もう一匹も泡を吹いて気絶する。
「でぇぇぇっ?! でぇぇぇん! なんでそんなに嫌うですー?」
「ヒスイが実装石に嫌われるなんて不思議だね、初めて見たよ」
「ぐすんぐすん、こんな経験初めてです」
ヒスイは、レックレス・エンジェルの中でなぜか唯一実装石と直接会話が成立する。
その特技を活かし、彼女は野良実装から情報を得るという、他では真似できない活躍が可能である。
また、彼女だけはどんな実装石も警戒せず、親しげに接してくるのだが、ここまで拒絶反応を示されたケースは過去にない。
ヒスイは、ルリに手伝ってもらい実装石を土に埋めると、もう一体の実装石を介抱した。
目が覚めた実装石は、覗き込む二人に激しく警戒するが、ヒスイはすかさず優しい言葉で尋ねた。
「ヒスイ達はお前達の味方です! 何も悪い事しないです。
だから教えて欲しいです、カクカクシカジカ、ここはどんな世界です?」
デスデスー?! デェェ、デスデスデスデス、デスーッ!
「ヒスイ、この子なんて言ってるの?」
「え、えーと…“本当に食べないデス? 絶対に約束するデス? 神に誓って虐待しないって言えるデス?”って」
「なんだそれ、そんな事するわけないじゃないか」
「でぇぇ。この異様な怯え方は何なんです?」
ヒスイは、腰裏のポシェットにいつも仕込んでいる飴玉を取り出し、実装石の口に含ませた。
素晴らしい甘味に、実装石の表情が幸福に緩んでいく。
デ、デスゥゥゥゥ♪ ほっこり
——パキン
「でぇっ?!」
「ちょっとヒスイ! 毒薬じゃないの?!」
「ち、違うです!! でぇぇぇん! 至高の幸福を味わいながら地獄に逝ったですーっ!」
「せめて、そこは天国にしてあげなよ」
デスデス、デスデス……
デスデス、デスデス……
デスデス、デスデス……
その時、突然周囲から、無数の鳴き声が聞こえてきた。
傍に実装石の姿や気配は、全くない。
ただ、声だけが聞こえてくるのだ。
しかも、上下左右全ての方向から。
ルリとヒスイは、たとえようのない不気味さを覚え、実装石達が逃走した方向へ走り出した。
「なんなんだ、今のは?!」
「わかんねーです! ヒスイにも聞き取れないです!」
薄暗い森の中を、かなりの速度で駆け抜けていくが、不気味な声はつきまとうように聞こえ続ける。
やがて木々の数が減り、森が林に変わる頃、今度は前方から多数の実装石がこちらに向かって走ってきた。
「でぇっ?! 今度は熱烈歓迎です?」
「いや違うよ!」
デギャアァァァァッッ?!?!
実装石達は、前方に迫るヒスイやルリ達を見て、急停止する。
何匹か勢いを殺せずずっこけ、そこから将棋倒しが発生しようやく静止した。
ヒスイは、実装石達と少し距離を置いた状態で、出来るだけ刺激を与えないように質問した。
「ヒスイ達はお前達を傷付けないです。
だから教えて欲しいです、ここは一体どうなってるです?」
デ? デギャデギャ! デギャアッ!
デスデスデス、デスデス、デスーッ!
デジャアァァ! デェェェェン!
物凄い勢いで、実装石達が何かを訴える。
どうやら後方をとても気にしているようで、何匹かはしきりに振り返っている。
話を聞くうち、ヒスイは眉をしかめ、彼らの来た方向を睨んだ。
「どうしたんだ、ヒスイ?」
「この子達は、追われているです!
ニンゲンに殺されそうになってるです!」
「なんだって? おだやかじゃないな」
「手を貸せですルリ! 迎撃するです!」
「わかった」
ギリギリ、ギリリッ……
ルリのガントレットに固定されたショーテルが回転し、刃が前方を向く。
左手のショーテルは半回転させシールドにし、右手の剣は取り外してグリップを握りこんだ。
一方のヒスイは、左足を軸に右脚を上げ、呼吸を整える。
右脚のブーツの踵から、長い刃が伸びる。
しばらく待機していると、向こうから小柄な人間が三人ほどやってくるのが見えた。
それを見て悲鳴を上げる実装石達に反応し、背中に担いでいた弓を取る。
すると、彼らはヒスイやルリがいるにも関わらず、ためらう事なく弓矢を射出した。
「シャッ!」
「てぇっ!」
緩やかな放物線を描いて飛ぶ矢は、ヒスイのキックとルリの剣戟であっさり弾かれ、一発も命中しない。
その様子に焦ったようで、小柄な人間は新しい矢をつがえようとする。
だがその瞬間、既にヒスイが飛翔していた。
数メートルの距離など、ヒスイにとってはひとっ跳びだ。
「てめぇら、いきなり何しやがんでずぁっ!!」
着地するよりも早く、ヒスイは後ろ回し蹴りを放ち、人間達の持つ弓を破壊した。
と言っても、それは決してヒスイのキックが強力だっただけではない。
足が当たると無条件で折れてしまうほど、もろかったのだ。
てちゃっ?!
悲鳴を上げてよろめく人間の顔前に、ヒスイはブーツの底を寸止めする。
僅か数ミリ差という、精密な動き。
「チェックメイト、ですっ!」
「抵抗はしないでくれよっ」
残りの二人は、ルリによって取り押さえられている。
見れば、人間は全て身体が未発達な幼女で、しかも実装服に良く似た明るい衣服を身にまとっている。
不思議に思ったルリは、彼女達の顔を覗きこみ、吃驚した。
「ヒスイ! この子達、実翠人だ!」
「でぇっ?!」
赤色の右目、緑色の左目、亜麻色で末端部がカールしている髪の毛、そして横に伸びた大きな耳……それは、確かに
実翠人の特徴だった。
ですぅっ! ですです、ですぅっ!?
ですー、ですーっ!!
だがしかし、彼女達の言葉は、ルリはおろかヒスイにすらわからない。
必死で抵抗するのはともかく、彼女達は皆、自身を取り押さえている二人を無視し、ひたすら実装石にばかり注目している。
「お前ら、早く逃げるです!!」
「ここは僕達に任せて、行くんだ」
ヒスイ達の申し出を受け、実装石達は礼も述べずに森の奥へ逃げていく。
それを見た彼女達は、先ほど以上に激しく暴れ、二人から逃れようとした。
「おっと待った。
どうして実装石を苛めようとしているのか、理由を聞かせてもらうよ」
「そうです!
まったくお前ら、こんな物騒なものまで持ち出して、何考えてるです?」
ですーですー!
ですー、でじゃあっ!
でぇぇぇん、でぇぇぇん!
言葉が通じないだけでなく、意志の疎通すら行えそうな気配がない。
ルリは少女達を見て、まるで人間の姿をした実装石そのままの存在のようだと考えた。
「あれ、こいつら何か持って——で、デギャアアアァァァァァッ!!!」
突然、ヒスイが凄まじい悲鳴を上げてぶっ倒れた。
その隙を突いて、ヒスイに押さえられていた者が脱出する。
折れた弓を拾ってルリ達に投げつけると、少女は思い切りアカンベーをして実装石達の後を追いかけて行った。
「ヒスイ! どうしたんだ?!」
ルリがヒスイを介抱しようとした途端、残る二人も逃げ出して後を追った。
軽く舌打ちをしつつ、ルリはヒスイを抱き起こすと頬をぺちぺちと叩いてみる。
「う……うう……あ、ルリぃ」
「どうしたの? 何を見たんだ?」
「あ、あいつら、死体を持ってたです!」
「死体?」
「服の裏側のポケットに、死体が詰められてたです!
かさかさで平たくなった、実装石の死体が一杯入ってたです!
で、でえぇぇぇん!」
「なんだって?」
呆然と佇むルリと、顔を伏せてわんわん泣き続けるヒスイ。
二人を包み込むように、再びあの不思議な鳴き声が響いてきた。
デスデス、デスデス……
デスデス、デスデス……
デスデス、デスデス……
※ ※ ※
かつて新宿新都庁の展望台に昇った事があったが、としあきの部屋の位置は明らかにそれより高い位置にあるようだ。
街に降りられれば、何か貴重な情報が得られるのではないかと考え、まずはこの建物の出口を探そうと計画する。
仔実装を胸ポケットに入れてドアの前に立つと、プシューという軽い音を立てて開いた。
ドアを出ると、そこは左右に延々と伸びる廊下になっていた。
道幅は約3メートルとかなり広く、廊下を挟む壁に均等な感覚でドアが並んでいる。
向かい側の壁には、こちら側とは互い違いになるようにドアが配置されていた。
天井は照明のようなものは見当たらないが、全体がぼんやり光っておりとても明るい。
空気清浄機でも可動しているのか、空気はとても爽やかで気持ちよく、暑くも寒くもない適度な気温がキープされている。
だがとしあきは、いきなりのっけからつまずいた。
廊下があまりにも長すぎるため、左右どっちに行くべきかわからないのだ。
「えーと、どっちに行ってみよう?」
テチ? テチテチ、テチ?
仔実装は、小首を傾げながらとしあきを見上げ、右側を指した。
その方向に首を向けた途端、突然、としあきの身体が動き出す。
「おっ?! おっ、おっ、おっ」
としあきの立っている廊下そのものが、音もなくスライドしているようだ。
それは、池袋・サンシャイン60や東京駅・京葉線方面にある移動歩道に似ているが、あれより遥かにスマートでかつ高速だ。
物凄い速さで流れていくドアの群れを眺めながら、としあきは、その心地よさに思わず歓声を上げた。
数分ほど移動すると、廊下はゆっくりと速度を落とし、今度はエスカレーターのような機器の手前で静かに停止する。
あれほど高速で移動していたにも関わらず、としあきがつんのめることはなかった。
「すげぇな……って、俺達どれだけ移動してきたんだ?」
テチ?
「ま、いっか。先に行ってみよう」
テッチュウ♪
仔実装は、とても嬉しそうに両手を広げて頷いた。
それから延々二時間。
休みなく延々と彷徨ったが、としあき達はいまだに出口に辿り付けていない。
それは、としあきが方向音痴だからではなく、建物の規模が常軌を逸したレベルで巨大なのだ。
更に一時間ほど巡り、何箇所目かの移動歩道のターミナルにたどり着く。
3メートルほど上に、横長の板が浮遊しており、そこに日本語で文字が記されている。
“中央都市エリア第七ブロック こちらからどうぞ 「移動時間約10分」”
「とし…エリア? どういうこった?」
テッチテチ、テチティ
仔実装を見ると、とりあえず行ってみようといわんがばかりに腕を振っている。
としあきは、案内に従ってみることにした。
「な、な、な、なんだこりゃああぁぁ?!?」
テ、テッチャア〜!
としあきが移動しているチューブ状の通路は、いつしか「空の上」に飛び出した。
空——そう、としあきの眼下には、巨大な「街」が存在している。
建物の中にある巨大な街は、高さだけでなく横幅もかなり広く、端はどこまで伸びているのかよくわからない。
小さい頃、東京タワーの展望台から見下ろした光景よりも広いのではないかと、としあきは真剣に考えた。
「どうなってんだこりゃ?」
テッチュウ…テ、テチィ!
歩道は、やがて街の中心部からやや右手側に外れた所へ降りていく。
ビル街の中を通り抜ける頃には、としあきはすっかり驚き疲れていた。
移動歩道は、まるで都心部の地下鉄出口のような所にたどり着き、ここからはようやく自分の足で歩くことになりそうだった。
出口を出て、街中に歩み出たとしあきは、背の高い無数のビルの隙間から覗く移動チューブを見上げた。
これだけの大規模な設備にも関わらず、人の気配はまるでない。
「あれ? やけに静かだと思ったら——今まで、誰にも逢ってないな」
テチテチ、テチ!
「あーごめん、お前以外には、ってことだよ」
テッチュウ♪
前掛けのない仔実装は、すぐに機嫌を直してとしあきに微笑みかけた。
しばらくすると、車のライトのようなものがこちらにやってくる。
としあき達の数メートル手前で停止すると、それはプシューという音と共にガルウイングを開いた。
見た感じタイヤがなくなった乗用車という雰囲気で、古いSFに出てくるエアカーのように見えた。
まるでとしあきに「乗れ」といわんがばかりに待機している「それ」を見て、としあきは恐る恐る接近してみた。
車内には誰も乗っていない。
それどころか、ハンドルやクラッチ、アクセルやブレーキ、ハンドブレーキといった操作系も全くない。
非常に不気味だったが、この広い街を徒歩だけで当て所なく彷徨い続けるのは激しく躊躇われた。
「乗って、みるか?」
テチ!
仔実装の同意を得て、としあきは警戒しながらエアカーのようなものに搭乗した。
見た目の印象に反して中は広く、乗り心地も良い。
ガルウイングが静かに閉じ、車は、滑るように道路上を走り出した。
※ ※ ※
一方、ヒスイとルリは森林を抜け、更に広がる大草原にたどり着いた。
相変わらず牧歌的で爽やかな雰囲気だが、先ほどの実翠人達との遭遇が相当ショックだったらしく、ヒスイはかなり元気が
なくなってしまった。
それでも更に草原を歩いていくと、やがてなだらかな斜面の向こうに小さな村が見えて来た。
「ヒスイ、村がある。そこまでがんばろう」
「で、ですぅぅ〜〜」
相当ゲッソリしているヒスイの手を引きながら、ルリはやや小走り気味で降りていく。
実は、少し小腹が減り始めていたこともあり、彼も早く村に到着したかったのだ。
だが村にもうすぐたどり着くという所で、突然、どこからともなく激しい悲鳴が響いて来た。
テチャアァァァァァ!!!
「あれ、この声は?!」
「ぷちです!」
ルリの手を振り払い、ヒスイが猛ダッシュをかけ村の中に飛び込む。
村は、外枠を背の低い木製の垣根で覆っているが、ヒスイはそれを軽がると飛び越えて、中に侵入した。
間髪入れず、中から怒声や悲鳴、嬌声が轟く。
ただ事ではないと察したルリも、正面から突入を敢行した。
ルリの目の前では、先ほど遭遇したのと同じ実翠人が、多数集まり何かを取り囲んでいる。
そしてヒスイは、その中に飛び込み、襲い掛かる実翠人達を次々になぎ倒していた。
よく見ると、彼女の背後にはぷちが怯えながらうずくまっている。
実翠人達が、小型のナタやオノ、包丁や弓矢を持ち出しているのを見て、ルリはすかさず中に飛び込んだ。
「やめろ! 何をするんだ?!」
剣は使わず、腕力だけで実翠人達を押しのけていく。
だが常人の数倍のパワーを持つ上、身体が軽くなり更にパワーアップしている彼にかかれば、小柄な実翠人は簡単に弾き
飛ばされてしまう。
テチャァァァ!
デスウゥゥッ?!
デギャアァッ!!
何人かの実翠人達が、ためらいなくルリに刃物を振り下ろす。
だがそれは、すべてガントレットに防がれ粉々に砕け散る。
「なんなんだ、ここの連中は?!」
「ルリ! こいつらヒスイ達を殺そうとしてるです!」
「テェェェン! テェェェン!」
グェ……ゲ
横目で見ると、ぷちはミドリを抱きかかえ、必死で庇っているようだ。
そして実翠人達は、そんな彼女達に迫ろうとしている。
ヒスイは地面の上に寝そべり背を軸に回転しながら、両脚を振り回してまとめて数人を蹴り飛ばしている。
ついに矢まで飛び始めた実翠人を見て、ルリは諦めてショーテルを取り外した。
「ヒスイ!」
「がってん!」
ブレイクダンスのような連続キックを中断すると、ヒスイはぷちとミドリを庇い伏せる。
と同時に、ルリは両手に握ったショーテルを、思い切り地面に向けて叩き付けた。
「てやあっ!!」
——ド・ズ・ウゥゥゥン!!
“重爆”!!
デギャアァァァァッッ!!
ルリの剣戟は「斬る」ものではなく、「壊す」ものだ。
超絶パワーで振り下ろされた剣は爆風を生み出し、周囲に衝撃波を飛び散らせる。
体重の軽い実翠人達は、悲鳴を上げながら彼方へ飛び散っていく。
かなり手加減したつもりではあったが、それでも四人の周囲数メートルには、誰一人残ってはいなかった。
ルリの重爆はかなりの効果があったようで、範囲外の実翠人達も怯えた顔で後ずさり始める。
ルリは、尚もショーテルをかざしながら、背中越しにヒスイに呼びかけた。
「ヒスイ、ぷちちゃんを連れて村の外へ!」
「わかったです! さ、早く立つです」
「テェェェン、テェェェン! 怖かったテチィィ!!」
「まったく、どういう奴らなんだ!! この村は——」
剣をかざしながら周囲の様子を眺め、ルリは、愕然とした。
村のあちこちに吊るされている、禿裸の実装石達。
それは一部がミイラのように乾燥し、一部がいまだに悲鳴を上げながらもがいている。
かと思うと、もう何もかも諦めた様子でブツブツ呟いている者もおり、いずれも尋常ではない拷問を受けているようだ。
更に、腹を割かれ臓腑を取り出されたまま放置されている実装石が、民家と思われる建物の前に放置されている。
更にその横では、壷のようなものから実装石の頭だけが生えており、エヘエヘと不気味に笑っている。
更に、村の広場に集まっている実翠人達のうち何人かは、ミイラ状の実装石を頭から齧っている。
その様子は、まるで子供が駄菓子をほおばるように自然で、へたすると見逃してしまいそうなほど違和感のない光景に
思えた。
「なんなんだ、ここは?! カニバリズムの世界か?!」
「ルリ! こんなキチPな村、早く出るです!」
ぷちを引きずるように出口へと向かうヒスイを、後ずさりながら追う。
実翠人達は、それでもじわじわとルリとの距離を詰め、隙あらば踊りかかろうとすらしている。
これは交渉はおろか意志の疎通が図れるような相手ではなさそうだ。
見た目こそ実翠人だが、その中身は凶暴なモンスター群と大差ない。
そう考えたルリは、もう一度重爆を空撃ちし怯ませ、大急ぎで実翠人の村を脱出した。
なんとか先ほどの森まで戻ってきたところで、三人と一匹は、ようやく一息着いた。
「ハア、ハア…狂ってる、この世界は狂ってる!」
「あんなに沢山、実装石が殺されてるなんてショックです…!
なんでここの実翠人は、あんな酷いことをするです?」
ヒスイの呟きに、ようやく落ち着きを取り戻したぷちが返答する。
「私見たテチ! あの人達、実装石を捕まえて食べるテチ!
あそこに吊るされてたのは、みんな保存食にされる実装石テチ!」
「保存食……だって?」
ぷちは、ルリ達と別行動をしていた時の話を始める。
いきなり実翠人の村のど真ん中に出現したぷち達は、何やらおかしな言語で話しかけられ、突然襲われたという。
村中を走り回ったり、隠れたりしていたものの、ついに発見されて追い詰められたという。
しかも彼女達は、ミドリのみならずぷち自身をも狙っていたようで、向けられる殺意は凄まじいものがあったらしい。
「村の奥に、実装石の屠殺場があったテチ…
そこでは、沢山のハゲハダカチャンな実装石が居て、とても酷い拷問を受けてから殺されてたテチ。
とても見てられないくらい凄惨だったテチ!
それなのに、あの村の人達はみんな嬉しそうで、楽しそうに笑ってたテチ!
テェェェェン!」
「まるで、悪質な野良実装やオークと変わりない連中だな」
「もうあの村には近づかないようにするです。
それより、ミドリはどうしたです?」
ヒスイが抱き上げると、ミドリは真っ青な顔色で息も絶え絶え、時折四肢をピクピク震わせて呻いている。
今にも死んでしまいそうな様子だが、不思議と体温や心拍数は正常だ。
ヒスイは、プルプル震える口元に耳を寄せ、ミドリの発する言葉に聞き入った。
「——ハラ、ヘッタ、デス……だそうです」
「テェェ! お腹ペコペコなだけじゃ、ここまで衰弱しないテチ!」
「でも、確かに食料確保はしないとならないね。
さて、どうしようか」
「さっき森で逢った実装石達を探すです!」
ヒスイがそう言った時、村とは違う方向から馬車の揺れる音が聞こえてきた。
妙にデブった馬二頭に引かれ接近してくる馬車には、妙に見覚えなある人物が乗っている。
“やぁ、諸君。また逢ったね”
ルリとヒスイには聞き取れない言語だが、ぷちにはわかる。
彼女の表情が、明るくなった。
「ひろあきさんテチ! ご無事だったテチ!」
※ ※ ※
ひろあきも、ぷち同様実翠人の村に出現したのだが咄嗟に身を隠し、村が騒がしくなっている間に馬車を強奪してきたのだ。
以前にも、異世界に到着した途端おかしな連中のど真ん中に出現したことがあったため、これは長年の経験で身に染み
付いていた習性ともいえるものだ。
“というわけだ。まさかメイド君達が騒ぎの主役だとは思わなかったよ”
「テェェ! 私達が死に掛けてたときにひろあきさんばっかりずるいテチ!」
“はっはっは、それはすまなかったね。
けど、この世界の移動手段を手に入れただけ良かっただろう?”
「どーでもいいけど、この馬車めっさ遅いです!」
「というより、もう……へばってない?」
せっかく連れて来た馬車だったが、四人と一匹を搭乗させた時点で、この馬達には引っ張るのがぎりぎりだったようだ。
馬車に繋がれている馬は、よく見るとひろあきやヒスイ達が知る逞しい体躯を誇る生物とは全く異なっており、まるで
「おおまかなデザインだけ馬をパクった別な生物」のように見える。
よく耳を澄ますと、粗い息に混じって「デスー、デスー」という、聞き覚えのある声すらする。
不思議に思ったヒスイは馬車から飛び降り、馬の顔をじっくり観察した。
「あーっ! こいつらも実装石です!」
「な、なんだって?!」
「テチィ?!」
“これは驚いた、馬に似た実装生物かい?”
馬車馬は、赤と緑のオッドアイに加え、特徴的な三つ口と実装石の特徴をそのまま持っており、顔も馬よりかなり丸く鼻面が
短い。
身体や手足は太く一見逞しくも思えるが、触ってみるとほとんど贅肉ばかりで、筋肉が少ない。
ヒスイとルリは、これじゃ長距離移動は到底無理だと判断した。
「何かもっと丈夫で力の強い動物を探すです!」
「それより、クソドレイサンがどこに行ったのか捜すのが先テチ!
テェェ、あの村で食べられていたら、どうしようテチ?!」
「あ、そっか。彼の事をすっかり忘れてた!!」
デ、デェェ……ハヒーハヒー
“いや、ちょっと待ちたまえ”
死にかけのミドリを見て、ひろあきは眉をひそめた。
“ひょっとしたら、ミドリ君は偽石を抜かれているのかもしれない”
「テェッ?!」
ひろあきは、「他実装の世界」を脱出する寸前、ミドリの身体から偽石を摘出した事を説明した。
身体を実装燈に寄生されており孵化寸前だったため、緊急措置として行ったものだったが、彼はその後に建物の崩壊に
巻き込まれたため、ミドリの偽石を戻さないまま移動してしまったのだ。
“——もし、ミドリ君の偽石を「他実装の世界」に置き忘れて来たなら、ミドリ君はとっくに死んでいる筈だ。
けどまだ生きていて、それでいて死に掛けているという事は、偽石はこの世界にある。
そして……弐羽君は、かなり離れた場所にいる証拠になる”
実装石の偽石が引き離されると、本体は死なないまでも著しく体調を崩し時には制生死の境をさまようことになるが、今の
ミドリがまさにそれだった。
「テェッ! じゃあオネーチャが元気になればなるほど、クソドレイサンに近づいてることになるテチ?」
“そういうことだ。
ミドリ君、頑張って弐羽君センサーの役割を果たしてくれたまえ”
“デ……た、他人事みたいに……言うなデ……ズァ”
ぷちは、ルリとヒスイにひろあきの話を説明すると、ミドリの反応を頼りにとしあきの居場所を捜すことに同意させた。
この世界に来て他にやることがないという事情もあったが、二人はすんなりと承諾してくれた。
「だけど問題はある。
まず移動手段の再確保と、あとは食料と水の調達だ。
村があんな調子じゃ、とても食料を得られるとは思えない」
「森に戻って、果物や木の実を集めるのはどうです?」
“向こうに川もあった。
魚が釣れるかもしれないよ”
「じゃあ、手分けして準備をするテチ!
私、実装石のお友達に食べ物の場所を聞いてみるテチ!」
“ワタシは……寝てるデス…”
話はまとまり、四人と一匹は再び森まで戻ることにした。
実装馬は適当に逃がし、馬車だけその場に置き去りにすると、四人はそれぞれの方向に散って行った。
ただし、ミドリは今回はヒスイと行動を共にすることになった。
いざという時に防衛手段を持たないぷちが、ミドリを連れていたのでは危険だからだ。
「そういうわけだから、しばらく我慢するです」
“デェェ……乳でか娘、世話になるデス”
「困ったときはお互い様でっすん」
“お前、割といい奴デス…”
馬車の置かれた地点を合流ポイントに、それぞれが目的の場所へ向かう。
「よし、じゃあ行くか——」
ルリは、皆を見送った後、再びあの村に戻って行った。
※ ※ ※
街はすべて電気が灯っており、さながら不夜城の如き様相を呈しているにも関わらず、肝心の利用者がゼロのため、その
落差は相当な違和感がある。
もう一つ、建造物のデザインや雰囲気が、としあきのいた時代のものとは全く異なるもので、さながら何かのアニメで見た
未来都市の中を走っているような錯覚すら覚えた。
しばらくすると、エアカーは街の中心部に入り、数百階はあるだろう巨大ビルの間隙を縫うハイウェイに入る。
眼下には、それまで充分大きいと思っていたビル街が、まるで平屋建ての住宅地のように広がっている。
ふと見ると、ハイウェイの先に、周囲のビルに比べてかなり背の低い建物がある事に気付く。
それはガンメタルに輝くドーム状の建造物で、それを中心に周囲のビルへの連絡路が伸びているのがわかった。
「なんだありゃ? 野球場か?」
テチィ?
エアカーは、真っ直ぐにそのドームの中に入り込んでいく。
更に長いトンネルをくぐり、天地左右を剥き出しの機械に覆われたエリアを通り抜け、やがてエアカーはとてつもなく広い
ホールのような場所に辿り付いた。
カルウィングが展開する。
「降りろってことか?」
テチ!
としあきは、いつしかここが「建物の中にある街の中の建物」だという事すら忘れ、近未来的雰囲気の漂うホール内を
見回した。
胸ポケットの中の仔実装も、としあきを真似てポカンと口を開き、見上げている。
だがしばらくすると、微かな排気音と共に、ホールの中心部が円筒状にせり上がり始めた。
複雑な機器とパイプ、計器のようなものを内蔵していると思しき円筒状の物体は、流暢な日本語でとしあきに話しかけてきた。
——ようこそ、弐羽としあき様
「うお、また名指し!」
テチ!?
「実装人の世界」で出会った“グランマイスの聖者”に良く似た、優しげな女性の声に呼びかけられる。
だが、としあきは思っていたほど驚きはしなかった。
ようこそ、ペガサスへ。
弐羽としあき様、あなたを歓迎いたします。
円柱状の物体は、グランマイスの聖者と全く同じ挨拶をしてきた。
「ここでもペガサスかよ。
なあ、ここは一体なんなんだ?
俺は、なんでここにいるんだ?」
テチテチ、テッチィ
ここは、日本国用大移民船323号「ペガサス」内部の、中央都市中枢エリアです。
私は、 Captured is Huge Information Knowledge Android 186533982 。
としあき様がいらっしゃるのを、ずっとお待ちしておりました。
円柱の自己紹介に、激しいデジャブを覚える。
「あれ? 大移民船って……どういうこと?
ここは建物の中じゃないの?」
としあき様が現在いらっしゃる場所は、「ペガサス」内部に建造された都市の中心にあたります。
当艦は全長約4.8キロ、最大全高480メートル、収容人数37万人を誇る外宇宙航行用の新世代ギガント級宇宙艇です。
円柱の説明に、としあきの思考が一瞬止まる。
「宇宙艇?! 37万人?!」
テェェッ?!
左様でございます。
さあ、どうぞこちらへ。
円柱の前面部が開き、エレベーターのゴンドラが出現する。
としあきは躊躇ったが、少しずつ、この場所の正体を取りたい願望に取り憑かれ始めてもいた。
「おいお前、大丈夫か?」
テチィ!(コクコク)
「よし、じゃあいっちょ行ってみるか」
としあきは、鼻をピスピス鳴らして円柱の中に入り込んだ。
移動の違和感を全く感じさせないスムーズな動きで、ゴンドラはエレベーターにしてはかなり長く移動した。
そろそろ乗り飽きた、と感じる頃、ようやく前面部が開く。
そこは先ほどよりは天井が低く、代わりに幅と奥行きが凄まじく広い、白く輝く幻想的な雰囲気が漂うフロアだ。
よく見ると、フロアの中心部はちょっとした庭園になっており、芝生や花壇、クロスグリが栽培されている豪華なプランター、
少し大きな庭石が設置され、ご丁寧に小さな川まで流れている。
天井から降り注ぐ光は太陽光によく似ており、地下室の筈なのに晴天の下にいるような感覚すら覚える。
その光景は、今まで感じていた近未来感はほとんどなく、としあきにも馴染み深いものだった。
「なんか、新宿御苑とイメージダブるなあ」
テチ?
「ああ、丸の内線でね——って、あれ?」
しばらく歩いていると、目の前に小さな白い建物が現れた。
それは3メートル強程度の高さの堂で、クロスグリに覆われた神殿風の柱に囲まれている。
とても狭いところだが、その中に誰かが立っているのを、としあきはすぐに見止めた。
その人物は女性のようで、こちら向かって手招きをしているようだ。
「誘われてるから、行ってみる」
テチ? テチテチテチィ
少し不安げな顔つきで、仔実装が見上げる。
としあきは彼女の頭を指先で優しく撫でると、少し気を引き締めて向かうことにした。
堂の人物の姿を窺った途端、としあきはあんぐりと口を開けた。
「——はあ?! なんでお前が、こんなところにいるの?」
テチィ?
その人物は、いつものように首を僅かに右に傾け、見慣れた顔でニッコリと微笑んだ。
「まあいいや。それより、ミドリの奴はどうした?
それと、ひろあきは——」
としあきは肩に触れたが、慌てて手を引いた。
彼女の肩はなぜかとても硬く、そして冷たかったのだ。
「ぷ、ぷち? ど、どうしたんだ?!」
まだひんやりとした感覚が残る手を見つめながら、としあきは不思議そうな顔でその人物を見つめる。
見慣れた姿をした人物は、見慣れた仕草と態度、そして聞き慣れた声で、としあきに呼びかけてきた。
『ようこそ「カシスの庭」へ。
弐羽としあき様——あなたをお待ちしていました』
太陽が傾くように、部屋の光が傾き堂の中を照らす。
「お前……ぷちじゃねえ! 何者だよ!?」
目の前に立っている人物の体表はほのかな銀色に輝き、肌も無機質で生物感が全く感じられない。
それはぷちと全く同じ姿をしながら、「ぷちではない」存在だった。
『私は、C.H.I.K.A.186533982。
当艦ペガサスのメインコンピュータ兼データベースです。
どうぞ、ご安心なさってください』
テ、テチィィ……
胸ポケットの中で、仔実装が怯えたような声を上げる。
だがその人物——否、メインコンピュータを自称する存在は、とても優しげな笑顔でとしあき達を見つめていた。
その態度からは、不穏なものは全く感じない。
だがそれが、逆に独特の不気味さを覚えさせてもいた。
としあきは彼女の肌に触れ、指先から伝わる冷たい感触に強い確信を得た。
「お前——“グランマイスの聖者”?!」
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このスクは、
★実装石虐待保管庫
sc1862
sc1863
sc1865「じゃに☆じそ!」第一話(公園実装の世界編)
sc1891
sc1892
sc1893「じゃに☆じそ!」第二話(虐待正義の世界編)
sc1897
sc1899
sc1900「じゃに☆じそ!」第三話(人化実装の世界編)
sc1948
sc1949
sc1951「じゃに☆じそ!」第四話(実装愛護の世界編)
sc1956「じゃに☆じそ!」第五話(実装石のいなくなった世界編)
sc1975
sc1978「じゃに☆じそ!」第六話(実装人形の世界編)
sc2042
sc2044
sc2052
sc2055「じゃに☆じそ!」第七話(他実装の世界編)
★実装人保管庫
up0210.txt
up0211.txt
up0212.txt「無謀なる天使達3」(実装人荘編)
up0213.txt
up0214.txt
up0215.txt
up0216.txt 「じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜」第八話(実装人の世界編)
の続きです。
今回も実装人が主体のエピソードですので、白保ではなく人保に投稿させていただきました
尚、10話(全1回・完成済)からは、以前の通り「実装石虐待保管庫」に投下させていただく予定です。
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