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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】
“初期実装”の子供を捜すため、“実装石”のいる異世界を旅行する羽目になった弐羽としあきは、
8番目の「実装人の世界」に辿り付いた。
外観の違いから警戒され、さらには「魔道師ギルド」と呼ばれる謎の組織により拘束監禁されて
しまったとしあき達は、ビドゥという魔道師の依頼を受けて“グランマイスの聖者”と呼ばれる存在への
接触を図ることになった。
一方、アドベンチャーギルド・メルティスに所属するヒスイとルリは、携帯から出現した初期実装に
としあき奪還の依頼を受け、まずミドリとぷちの救出に成功した。
「焉道」と呼ばれるアーティリクスに連行されるとしあきを追うことになった一行は、馬車に乗って一路
ダイスズ山を目指す。
一足先に「焉道」に辿り付いたとしあきは、そこで、とんでもないものを目撃していた。
※ ※ ※
遠い遠い、遥か昔
地球の支配者「人類」は、ある日突然姿を消した
地上に残るは、人類以外の全生物
あらたな地球の覇権をかけて、全生物の進化競争が始まった
だがほとんどの生物は、すでに進化の最頂点
地球の環境が変わらぬ限り、更なる進化の理由がない
ところがどっこい、例外がいた
それが、実装生物達
人に最も近い場所で、最も人を羨望した彼等は
最大の進化理由と余力を持っていた
「施される立場」から、「施す側」になるために
人の姿を身に着けて、ありえないほど急進化
彼等は遂に、地球の覇権も手にしてしまった
それが、今の「実装人」
実装生物を祖に持つ、新人類
実装人が次に目指すは、「文明探求とその再現」
数千、数万年の時を経て、実装人の文明は発展したが、抱く謎は未だに解けない
「旧人類は、どうして地球からいなくなってしまったの?」
実装人は、その答えを探して、今日も遺跡を調べ回る——
『——なるほど、不思議な話だね』
焚き火の火を見つめながら、ひろあきが呟く。
火の中に薪をくべながら、ルリは静かに頷きを返した。
「これが、僕達の世界に伝えられている伝承さ。
本当のところはよくわからない。
けれど、かつて旧人類がいて、それが突然いなくなったのだけは事実なんだ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第8話 ACT-4 【 終わらされる旅 】
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キャンプを終え、朝食もそこそこに馬車を出発させたレックレス・エンジェルの一行は、ダイスズ山に入り、としあき達が
馬車を降りた地点にたどり着く。
魔道師ギルドの前に停められていた装甲馬車があり、その周囲には数名の兵士が立ち尽くしている。
レックレス・エンジェルの馬車が入り込むと、彼女達は即座に槍や剣を構えた。
「止まれ! ここから先、一般人は立ち入り禁止だ!」
「お前達は何者だ! ここは——」
take go into the root of Ancient-Magical spell program.
change the fragrance quality.
set “Poison-Kiss” discharge.
クレナイが呪文を詠唱し、投げキッスを飛ばす。
途端に濃厚な紅茶の香気が周囲に漂い、薄ぼんやりとした光の球が兵士達に向かって飛んでいく。
薄紅色の香気に包み込まれた兵士達は、あっという間にふらふらと崩れ落ちた。
後から駆けつけた者達も、残留する香気にあてられて次々に気絶していく。
「数十分もすれば目を覚ますわ」
『みんなオネンネしちゃったテチ?!』
“スッゲー特技デス。まるでネズミ男みたいデス”
「良く知らないけど、あんたをすっごく殴りつけたい気分になったわ」
「さあ行くです! ルリ、お前はちゃんと装備持っていくです!」
「え? こ、今回はそこまでしなくても」
『ルリ君、何があるかわからないんだから、用心してかかりたまえ』
「え、そんな事君に言われても……」
馬車を降りた5人と一匹は、崖沿いの道を歩いていく。
やがて高台にたどり着くと、巨大な穴とその脇に建てられたやぐら、そしてそれを取り囲むかがり火と大勢の実装人が
目に入った。
彼らはレックレス・エンジェルを見るなり警戒し、警告もそこそこに武器を携える。
一瞬対応に躊躇するルリとヒスイに対し、クレナイは鋭く言葉を発した。
「やっちゃいなさい! 殺さない程度にね!」
「えーっ?」
「合点承知、でっすん!」
いち早く反応したヒスイが、実装人達の中に飛び込んでいく。
宙高く舞い上がり、強く身体を捻り反転し、一番人が集まっている場に降り立つ。
「シャッッ!!」
青白い閃光をたなびかせ、大剣を思わせる鋭い蹴りが、大気を切り裂く。
その軌道上に居る者は、まとめてなぎ倒された。
「しょうがないなあ、もう!」
ギリギリ……ギリリッ……
身体に合わないほど巨大なガントレットを装備したルリは、肘部分のジョイントに固定したショーテルを振るい、まるで
カマキリのような動きで実装人達をなぎ倒していく。
刃で切り裂いたりはせず、あくまで平たい面での当身だ。
それでも、ルリの一撃は屈強な兵士を宙に舞い上げてしまうほどのパワーがあり、次々に沈黙させていく。
ものの数分もしないうちに、数十人はいたと思われる実装人のスタッフは、全員昏倒してしまった。
「こんなの、準備運動にもならんでっすん!」
「いいのかなあ、こんな事までして」
『お二人とも、すごくかっこよかったテチ! とっても強いテチ!
私、あこがれちゃうテチ!』
「今度、ぷちにも格闘技を教えてやるです♪」
『テチー♪ ヒスイオネーチャ、大好きテチ!』
“お前ら! そんな事よりとっとと先に行くデス!
早くグランマイスの聖者にたどり着くデス!!”
和やかに談笑するメンバーに、ミドリが食って掛かる。
その後を着いて来たクレナイは、一瞬眉をしかめた後、焉道に続くゴンドラを観察した。
「これを操作するためには、誰かがここに残る必要があるわね」
『それはまずいね、この連中が目覚めたらフルボッコだ』
“どうすりゃいいデス?”
「こんな時は、クレナイの魔法でひとっ飛びデスー!」
ヒスイがビシッ! と効果音付きで指差すと、クレナイは静かに頷き、全員を自身の傍に寄せる。
take go into the root of Ancient-Magical spell program.
set “Blossom-flyer” Ready.
魔法の詠唱と共に、クレナイ達の周囲に小さな竜巻が発生し、どこからともなく薔薇の花びらのようなものが発生する。
それが風に乗り、皆を包み込むように旋回すると、身体が僅かに浮かび始めた。
「おわっ! 本当に空飛ぶ魔法です?!
言ってみるもんです」
『テチャアッ!! あんよ浮いてるテチ! オネーチャ、怖いテチィ!』
“何故かワタシはとっくに慣れたデス”
『もうここまで来ると、なんでもありだな』
Blossom-flyer take-off.
追加詠唱の直後、5人と一匹の身体は舞い上がり、焉道の巨大な穴へと飛翔した。
※ ※ ※
薄水色の光に包まれた不思議な空間に、としあき達は居た。
驚くことに、サーバルーム内の各機器はすべて稼動しており、微細な駆動音とキーンという微かな耳鳴りが続いている。
巨大な部屋の中心部に生えている「機械の樹」のようなものに近づくと、それはとしあきの当初の予想を遥かに覆すほど
の規模だった。
見上げるほど高くそびえる機械の柱は、所々に不可思議なLEDのようなものが点灯し、複雑な計器を駆動させている。
だが、としあきは気付いた。
この巨大な柱は、ただの柱ではない。
天井にある何かとてつもなく大きな機械の一部がずり落ちて、床にめり込んで柱のように見えているのだ。
それは更に触手のように大小多数のケーブルを伸ばし、サーバマシンを取り込んでいる。
それこそ、植物の根が土の中でどんどん伸びていくように。
この光景は、まさにSF映画さながらの「現実にはありえない状況」そのものだ。
『ビドゥ様、としあき様、こちらへどうぞ』
「ああ」
案内役に招かれ、二人は柱の裏側に回りこむ。
そこでとしあきは、再び驚かされた。
なんとそこには、機械の柱に縛り付けられた全裸の女性がいた。
「げ……な、何これ?! 新手のSM?」
『何を言い出すんだ、良く見るがいい』
「へ?」
全裸の女性は、逆さまの状態で複数のケーブルに身体を縛られており、そのうちのいくつかはありえないほど深く体内に
めり込んでいた。
しかも膝から下と右肩・脇腹部分は柱に飲み込まれている。
また、かなりの長髪にも関わらず髪は全く垂れ下がっておらず、大部分が柱の中にめり込んでいた。
縛り付けられているというよりは、樹の中から女性が生えている、という表現の方が的確のようだ。
更に凝視すると、女性の体表はほのかに銀色の輝きを持っており、肌も無機質で生物感が全くない。
よく見ると、左肩の一部が割れ砕け、精密機械が露出しているのも判った。
「これは——ロボット? いや、アンドロイドか?!」
『紹介しよう、これが“グランマイスの聖者”だ』
グランマイスの聖者と呼ばれる女性型アンドロイドは、まるで生贄に捧げられた美女のようないでたちで柱に吊り下げられて
いるが、その穏やかな表情は乱れておらず、薄く開けられた瞼からは、光り輝く美しい瞳が覗いている。
やがて「彼女」はとしあきを見つめ、微かに唇を震わせた。
——ようこそ、「ペガサス」へ。
弐羽としあき様、あなたを歓迎いたします。
突然、女性が流暢な日本語で話し出した。
それは、ビドゥの魔法通訳でも、携帯のテレパシー翻訳でもなく、正真正銘の“としあきの世界の言語”だった。
「んな?! な、なんで俺の名前を?」
『私共の時とは、全く異なる反応でございます』
『おお! としあき、期待しているぞ』
「き、期待って、どうすりゃいいんだよ?!」
ビドゥや案内役より早く、としあきの疑問に女性が答えた。
としあき様。
私は Captured is Huge Information Knowledge Android 186533982 。
日本国用文明維持データベース323号機「ペガサス」のナビゲーターです。
としあき様がお求めの情報全てを網羅しております。
なんなりと、ご命令を。
「で、データベース?! 文明維持?」
『としあき、彼女はなんと言っているのか、教えてくれないか』
「へ? なんだよ例の魔法は使えないのかよ?」
『あの魔法は、相手が意志力を持っていないと通用しないんだ。
グランマイスの聖者に意志はないのか、翻訳が叶わないようだ』
「う、ううむ……」
としあき様。
私の保有するデータは、様々な媒体で出力可能です。
これまでの検索データを参照なさいますか?
「え、えーと俺、インターネットくらいしかわからないんだけど」
インターネット——検索完了。
としあき様の衣服・所持品の素材・形式より年代を特定。
2010年代のインターネットブラウザシステムFF形式で、過去検索データのサンプルを参考表示いたします。
「彼女」がそう言うと、突然、空間にモニタが浮かび上がった。
正確には、モニタ画面だけが空間投影されており、インターフェイスはどこにも存在していない。
半透明の画面はとしあきが使い慣れたブラウザの形式で、そこには英語と日本語で、無数の項目が示されている。
その中の「アパート」という項に指を触れると、画面が切り替わり、膨大な量の“20世紀の日本国における一般的な低家賃
アパート”についての情報が表示された。
更には“日本蕎麦”“桃○の「辛いようで辛くない、少しだけ辛いラー油」”や“水洗式トイレ”“ラーメン二郎”“今夜の夕食にもう一品”“アンナミラーズ”などの項目が見て取れる。
としあきは、腹の底から呆れたため息を吐き出した。
「……お前ら、もっと有用な情報を検索しろよ」
『ん? なんのことだ?』
「いや、なんでもない」
しばらく情報検索を行わせた後、ビドゥはとしあきの肩を叩き、いつもとは違う口調で話しかける。
『グランマイスの聖者がどういうものか、わかったかい?』
「だいたいわかった。
んで、俺はこれからどうすればいい?」
『実は、ある情報について検索して欲しい』
「ある情報?」
『旧人類は、果たしてどういう理由で、地上から姿を消したのか』
ビドゥは、としあきに旧人類についての説明を簡単に行った。
ひろあきに対してルリが語った物語と、実装人の上位研究者達が、今尚大きな関心と興味を抱いている現実、そして
「焉道」をはじめとする、旧人類の謎の遺跡の秘密……
これらを、どうしても知りたいのだという。
「そんなの、俺に頼まないで自分らで聞けばいいじゃん?」
としあきの疑問に、案内役が返答する。
『私共が聞いても、回答が拒絶されてしまいます。
ある種の情報は、実装人では閲覧不可能のようなのです』
「不便だなあ、じゃあ聞いてみるよ。
えーと、旧人類は、どういう理由で地上から姿を消したんだ?」
としあきが尋ねると、「彼女」は突如目をカッと見開き、不思議な光線を三人に照射した。
網膜パターン照合、指紋パターン照合、体表分泌物成分照合、声門パターン照合。
衣類・所有物の製造年代分析完了。
21世紀初頭の純粋なホモ・サピエンスと認定します。
第65575情報ボックス展開——システム転換中。
——Complete.
しばらくすると、「彼女」がとしあきに向けて左腕を伸ばしてくる。
軽く開かれた手の平には、不思議な光がいくつも点滅している。
その様子を見た案内役が、「おお、動いたぞ!」と呟き歓喜した。
不安げに振り返ると、案内役が説明してきた。
『その手に触れてください』
「ど、どうなるの?」
『グランマイスの聖者の情報は、テレパシーのように直接使用者の頭の中に提供されます』
「えー、な、なんか怖いな」
『心配するな、としあき。
何かあったらすぐに治療してやる』
「益々不安になるじゃないか!」
ぶつぶつ文句を言いながらも、としあきは手を伸ばし、「彼女」の手を取った。
途端に、としあきの意識が途切れる。
「彼女」の腕から沢山のワイヤーが触手のように伸び、としあきの身体に繋げられていくが、彼はぴくりとも動かない。
情報表示中です。
特殊条件検索中のため、外部命令を一時的に途絶します。
情報表示中です。
特殊条件検索中のため、外部命令を一時的に途絶します。
情報表示中です。
特殊条件検索中のため、外部命令を一時的に途絶します。
オウムのように、同じ事を何度も繰り返し唱え始める。
ビドゥは、ため息を一つ吐くと、「柱」が繋がっている天井を見上げた。
●●
『早く、情報を示してくれたまえ、としあき。
そして、我々に示すのだ——“旧人類を滅ぼしたもの”の正体をな』
としあきは、いつのまにか真っ白な空間の中にいた。
そこは温かくもなく寒くもなく、息苦しくもなければ特段居心地が良いわけでもない。
壁や天井、床という概念がなくなってしまったような空間に、ただ一人浮かび上がっている。
しばらくすると、目の前に全裸の女性が姿を現した。
にっこりと微笑む彼女の姿が、あの柱に吊るされている女性だとわかるのに、しばしの時間を要する。
「君は——」
「C.H.I.K.A.186533982 です。
としあき様に情報をお伝えするために、イメージビジュアルと感情AIを作成いたしました」
「CHIKA…チカ?」
「そうお呼びいただいても結構です」
そう言うと、「彼女」…チカは、優しい笑顔を向ける。
それは、とてもコンピュータが作り出した映像とは思えないほどリアルだ。
不思議なことに、チカの話す言葉はとしあきの脳内に細かな情報として直接伝わるようだ。
話す言葉が、脳内端末でいちいち文字変換表示されるかのような、若干違和感の伴う感覚。
だが、彼女の言葉や意志は、まるでずっと忘れられない情報として記憶されていくかのようだ。
「それでは、お話しましょう。
どうして、旧人類がいなくなったのかを」
「待ってくれよチカ。
どうして、口頭で話すんだ?」
「私の提供する情報は、メディアを通しません。
としあき様の頭脳に、直接お伝えしています」
「それじゃあ、実装人達に伝えられないけど」
「申し訳ありませんが、あの異性物達には決して伝えてはいけません。
これからお伝えする話を知らせる事は、危険を意味します」
「——どういうことだ?」
「その理由につきましても、としあき様に情報を直接お伝えします」
うろたえるとしあきに、チカは、丁寧な口調で説明を行う。
脳に情報を直接書き込まれるような違和感に耐えながら、としあきは、静かに話に聞き入る。
チカの話はとてもわかりやすく、そして覚えやすい。
だがその内容は、としあきの想像を大きく超えたものだった。
※ ※ ※
ミドリに導かれ、暗闇の中に伸びる階段を降り切ったレックレス・エンジェル一行は、巨大な自動ドアを潜り抜け、
グランマイスの聖者のエリアまで真っ直ぐ辿り付いた。
ドアの脇に立っていた二人の兵士は、咄嗟に応戦するもヒスイの側頭蹴りと延髄蹴りを食らい、僅か数秒で沈黙した。
「ひゅう、他にはいないです?」
『ヒスイオネーチャ、本当に強いテチ!
私もあんな風にかっこよく強くなりたいテチ!』
『メイド君はそのままの方がいいと思うよ?』
「早く、としあきを捜しなさい」
“こっちに居るデスーッ!”
尚も先導するミドリを見て、全員が首を傾げる。
だがクレナイは、ルリにそっと耳打ちをした。
(泳がせなさい、今はまだ手を出さない方がいいわ)
(どういう事なんだ、あいつ?
絶対に普通じゃないだろう?)
(何かが取り憑いてるみたいね。
微弱だけど、アパートで感じた気配と似た物を感じるわ)
(——わかった)
ミドリの先導で、メンバーは薄水色の光に満ちたエリアに侵入する。
大きな機械の柱と、それを取り囲むように並ぶ無数のサーバマシンを見て、一行は目を剥いて驚く。
ケーブルやワイヤーが無数に散らばった床に苦労しながら歩みを進めると、柱の向こうから誰かが姿を現した。
「困るんだよ君達、こんな所にまで来られるとね」
柱の影から、ビドゥと屈強な実装人が姿を現す。
途端に、場の空気が緊張感でみなぎる。
態度こそ余裕を見せているが、ビドゥがとてつもない怒気を放っているのが伝わってくる。
ヒスイとクレナイは、懸命に彼を睨みつけた。
「お久しぶりだ、スカーレット。
相変わらずお美しい」
「あなたの世辞も、相変わらず虫唾が走るわね」
「それは手厳しい」
激しく睨みあう二人の魔道師と、それを見て驚くヒスイとルリ。
ぷちはひろあきに守られ、その様子を少し下がった位置から見つめている。
「クレナイ……君、ビドゥ様と知り合いだったの?」
「昔、ちょっとね」
「でぇ、人に歴史ありですー」
「おや、ルリも来ているのか」
「……」
ビドゥに呼びかけられ、頬を真っ赤に染めるルリを横目に、クレナイは軽く舌打ちする。
「ビドゥ、答えなさい。
あなた……としあきに何をさせようとしているの?」
いつも冷静な筈のクレナイが、激情を込めて怒鳴りつける。
その迫力は、離れているヒスイとルリ、ぷちすらもびくっとさせるほどの迫力がある。
だが当のビドゥは、気取ったポーズで前髪をかきわけ、ふぅと息を吐くだけだ。
余裕の態度は、崩れる様子を見せない。
「聞くまでもないだろう?
ただ、旧人類の秘密を調べに来ただけさ。
どうして彼等が地上から消えたのか、それを知るためにね」
「なんだ、そんな事なら全然悪者じゃないです」
『テェ?』
「ビドゥ様が、悪者の筈がないだろう」
ヒスイ達が、ウンウンと頷いて納得する。
だがクレナイは、尚も食い下がった。
「旧人類の情報を得るために、どうしてとしあきが必要なの?」
「簡単な話だよ。
我々実装人では、引き出せる情報に限界がある。
だがとしあきなら、我々の知りえない情報まで調べてくれるからね」
「やっぱり悪い事じゃないでっすん」
『私もそう思うテチ。クソドレイサンも人のお役に立てていい事テチ』
ヒスイとぷちが、腕を組みながら共にウンウン頷く。
僅かに遅れて、ルリもこっくりと頷いた。
その反応に、クレナイは心底ガッカリした表情を浮かべた。
「これだから、あなた達は……
旧人類の情報って、いったいどれだけあると思ってるの?
それを引き出させてたら、時間がいくらあっても足りないでしょう?」
『テ…』
「あれ?」
「さしあたり、としあきをここへ幽閉して無限に情報を引き出させるつもりなんでしょう?
ビドゥ、人を人とも思わないあなたなら、やりそうなことだわ」
クレナイの指摘に、全員の視線がビドゥに向く。
だが当の本人は、口笛を吹きながらやれやれと肩をすくめている。
「そうかあ、クレナイが珍しく急いだのは、そういう理由があったからです?」
「クレナイさん、優しい人なんテチ♪」
巨乳娘達が、腕組みをしつつ揃ってウンウン頷く。
だが真っ先に異論を唱えたのは、意外にもルリだった。
「待ってよクレナイ!
ビドゥ様はそんな人じゃない!
きっと、もっと深いお考えがあるに違いないよっ!」
二人の間に立ち塞がるように、身を乗り出す。
だがそんなルリを、クレナイは冷酷な視線で射抜いた。
「あなたは、この男の本性をわかってないのよ」
「わかるさ! 僕は……カドデッキィで、ビドゥ様の下で教えをいただいてたんだ!」
「——そう、そういう関係だったのね、よくわかったわ。
けどね、ルリ。
だとしたら、益々あなたの意見は信用ならないのよ」
ルリを押しのけるように前に歩み出ると、クレナイはビドゥを指差し、更に激しく睨みつけた。
「この男はね、自身の出世のためなら手段を選ばない卑劣漢よ。
今の地位だって、大勢の犠牲者の上に成り立っているの」
「その通りだとも。
さすがは元・我が師——よくご存知だ」
ビドゥの言葉に、その場に居た全員が硬直した。
「我が師…?」
『和菓子テチ?』
『メイド君、そうじゃなくて、先生って意味だよ』
『テチ!』
ビドゥの肯定、そして関係の暴露に、ルリは激しく狼狽する。
「く、クレナイが、ビドゥ様の…? ど、どういう事なんだ?」
「聞いたままの意味よ。
不思議な縁ね、坊や。
どうやらあなた、私の孫弟子にあたるようだわ」
クレナイの言葉に更に動揺するルリだが、ビドゥが更に追い討ちをかける。
「ルリ、以前君に教えた事がなかったかな?
私の師は、あるくだらない理由で全ての魔力を失ってしまった。
しかし魔術師の道に執着し続けた師は、弟子の私に古代魔法の秘術を集めさせた、とね。
それがほら、君の目の前にいる女性……スカーレット・レギオンだよ」
スーカレット・レギオンとは、クレナイの本名である。
とある理由で魔道師ギルドを抜けた彼女は、アウトローになった時点で自身の名を捨てたのだ。
「そ、そんな……」
唖然とするルリを退けさせ、クレナイ……否、スカーレットは、右手を前方にかざしてビドゥに向けた。
「悪いけど、あなたと問答している暇はないの。
しばらくそこでじっとしていてもらうわ」
と言うが早いか、突如ビドゥの身体が、見えない何かに拘束される。
ぐぐぐ、という衣服が軋む音がはっきり聞こえ、足も僅かに浮かび上がっている。
「クレナイ!」
「ヒスイ、行きなさい!
としあきを助けるのよ!!」
「ほいきたガッテンです!」
『あーっ、ヒスイオネーチャ、待ってテチィ!』
“オラ、クソドレイ2号! ワタシを運べデス!”
『ぼ、僕の役目はそれか…トホホ』
クレナイとルリの脇をすり抜け、四人は奥へ向かって走る。
立ち塞がる案内役は、ひろあきの肩を足場に宙高く舞ったヒスイのローリングソバットを受けて、瞬時に昏倒した。
“あの柱の向こうデス!”
ミドリの指示に従い、三人はどんどん進んでいく。
そして取り残されたビドゥは……なぜかクスクスと笑っていた。
「ビドゥ様!」
「何がおかしいのか知らないけど、ホーリエの力に抗うのは無理よ。
安心なさい、殺しはしないわ」
「ククク……いつもそうだ。
そうやって私の力量を勝手に低く判断する。
決して高く評価しようとはしない——それがあなたの悪い所だ」
「何が言いたいの?」
「同じ原典から古代魔法を得た私が、どうして使い魔を持っていないとお考えになったのかな?」
いまだ余裕の態度を崩さないビドゥに、クレナイは呆れたため息を吐く。
だがビドゥに何か話しかけようとした途端、突然ルリがビクンと身体を大きくのけぞらせた。
「くは……!!」
「坊や? どうしたの?」
「スカーレット、あなたは不可視のインヴィジブル・ストーカーを召喚して手懐けた。
だが私は、そんなオーソドックス過ぎる手段は嫌いでしてね」
「どういう意味、かしら?」
「私の使い魔は、人そのものなんですよ——やりなさい、ルリ」
ビドゥの命令を受けた途端、ルリはショーテルをギリギリと回し、両手で構える。
何の前触れもなく、巨大なショーテルを振り上げクレナイに襲い掛かる!
あらゆるものを粉砕するルリの剣戟をよく知るクレナイは、動きを予測して咄嗟に身をかわした。
爆発音の後、先ほどまで立っていた床が、まるで爆撃でも受けたかのように深くえぐれた。
かわしたとはいえ、その爆風は容赦なくクレナイを巻き込み、吹き飛ばす。
「あなた、ルリを——!!」
「彼だけじゃない、見たまえ」
バタン、と音を立て、何者かが入り込んでくる。
それは、装甲馬車の中でとしあきについていた少年メイドだった。
手には兵士が装備していた槍が握られており、真っ直ぐにクレナイへ向けられている。
メイドの突槍攻撃をかわすと、その先にルリの剣戟が振りかかる。
際どいところで身をかわし、懸命に隙を窺いながら逃げ回るも、やはり二対一では分が悪すぎる。
やむなくクレナイは、ホーリエに命じて、最も攻撃頻度が高く危険なルリの捕獲を優先させる事にした。
「坊や、許しなさい」
「ぐうっ?!」
見えない巨大な手に掴まれ、ルリは空中でジタバタし始める。
まだ自由に行動しているメイドに向かって、クレナイは呪文を唱える。
——Fairy Light!!
ソフトボール大の光球が出現し、メイドの顔の前で定着する。
突然視界を奪われたメイドは、派手に転倒しのたうち回った。
「いったいどうやって、ルリを使い魔に——いや、それよりも!」
振り返ると、ビドゥの姿は忽然と消えている。
ただ、倒れている案内役が一人いるだけだ。
クレナイは、軽く舌打ちをすると、Blossom-flyer の呪文で柱の向こう側へ飛んで行った。
※ ※ ※
その頃——としあきは、真っ白な空間の中で、呆然としていた。
チカから教えられた情報は瞬時に脳内に刷り込まれ、どんな細かなことでも詳細に思い出せる。
だがそれと、としあき自身が理解を示せたかどうかは別である。
としあきは、もう一度目の前に立つチカの映像に質問した。
「まだよくわからない。
つまり、その“高次元エネルギーシステム”って奴の失敗で、この世界は一旦消滅したってことなの?」
「そうではありません。
お伝えした情報を再検索していただければわかると思いますが、具体的にはワームホールを制御するための——」
「すまん、小学生にもわかるように、噛み砕いて説明プリーズっ!!」
「かしこまりました」
嫌がるそぶりなど全く見せず、チカはあくまで優しげな態度を崩さずに説明した。
21世紀中期、世界各国で突如ワームホールが展開し、周辺の物が飲み込まれて消滅するという原因不明の現象が多発
した。
数十年に渡り頻発したこの事故の原因は不明だったが、本来であれば膨大なエネルギーがなければ生み出せない筈の
ワームホールが多数出現するという事象に着目、これの打開と共に有効利用を唱える科学者も多く現れた。
彼らは、長年の研究の末に微細なワームホールを封印し、これを利用して膨大なエネルギーを生み出すシステムの開発
に成功。
やがてこれは更なる発展を見せ、地球上で「星間航行すら可能ならしめる(可能性のある)宇宙船」の建造と出航が成功
する可能性も見えてきた。
その頃には、ワームホール被害も甚大化しており、人類に制御不能なほどの大規模災害も多発。
やがて人類は地球を捨て、外宇宙に新天地を求める大移民計画を検討し始めた。
「——ところが、これは実行には至らずに終わりました」
「どうしてなの?」
「なぜワームホールが大量に出現したのか、その理由が判明したからです」
「えーと、……次元干渉、だっけ? それがわからない」
「それは——」
人類は、やがてワームホールの分析を完了し、これが「現世界と融合しようとしている異世界の影響」によるものだと結論
を出した。
質量の大きな惑星が地球に接近すれば、圧倒的な重力の影響を受け地球は大変なことになるが、これと似たような事象が
「次元と次元」の接近でも起こったのだ。
複数の次元世界が融合してしまうため、たとえ宇宙に逃げたとしても被害から逃れることは出来ない。
そして、未知の次元との融合を果たした結果、世界がどう変貌するのかも、全く予測が付かないのだ。
実行直前まで達していた大移民計画は土壇場で暗礁に乗り上げ、人類は、そのまま次元干渉を受け容れるしかないと
いう状況に追い込まれてしまった。
「それからどうなったの?」
「私が持っている情報はここまでです。
ここからどうなったのかは、私には記録されておりません」
「あ、そうか、そりゃそうだよな」
「ただし、ワームホール事象発生の直前、世界中でいくつかの奇妙な兆候が確認されています」
「兆候?」
「はい。
実装石と呼ばれる謎の生命体が、私達の世界に—-—hairikondekitanodededededede」
突然、チカの反応がおかしくなり、映像が霞み出す。
「お、おい! なんだ、どうしたんだ?!」
——緊急事態発生、緊急事態発生!!
情報検索を中止します
閲覧者の保護プログラム、作動不能です
「えっ?! な、なんだよ、ちょっとぉ!!」
白い世界は瞬時に暗闇に包まれ、としあきの意識は、虚無の空間に放り出されてしまった。
「——テェェェン! テェェェン! クソドレイサアァァン!!」
顔面にとても温かく柔らかい感触を受け、気持ちよさを味わった次の瞬間、息苦しさを覚える。
四肢をジタバタさせ必死で逃れると、目の前には、べそをかいたぷちが座っていた。
「クソドレイサン、良かった、死んじゃったかと思ったテチ!」
「ぷ、ぷち?!」
『やっぱり、このスケベニンゲンは巨乳に反応したです!』
「弐羽君、君らしいよ、とっても」
デスー
「へ? へ?」
辺りをきょろきょろと見回すと、そこはもうあの白い空間ではなく、機械の大樹の根元だ。
いつの間にかグランマイスの聖者から引き離されており、樹の幹にあたる部分からは、煙が吹き上がっている。
それを見て目を剥いているとしあきに、ヒスイはなぜかエッヘンと胸を張った。
『感謝しろです! おかしなバケモノに捕まって取り込まれそうになってたから、ヒスイが助けてやったでっすん!』
「え? へ?」
「彼女のキックは凄いね、みるみるうちにバケモノを破壊していくんだもの」
「ヒスイオネーチャは、本当に凄いテチ!」
“……”
「破か……って、な、なにいっ?!」
慌てて飛び起きたとしあきは、機械の大樹の許に走り寄り、あまりの事態に愕然とした。
樹から垂れ下がっていたチカの身体は、まるで巨大なオノで分断されたように切り裂かれており、頭部と肩周辺が、腕ごと
床に落下している。
断面部はバチバチとスパークを起こしており、もはや修復不能なのは一目瞭然だ。
否、仮に修復手段があったとしても、この世界にいる誰にも彼女を元に戻せる技術者がいないのは明白だ。
じゃりっ、という足音に気付き振り向くと、そこには、同じく大口を開けて驚愕しているビドゥの姿があった。
『な、な、な、な、なあぁぁっ?!』
「お、俺じゃないぞ!! 俺は知らない!
つーかなんであいつらが、ここに居るんだよ?!」
『聖者が……グランマイスの聖者が……!!
なんということだ!
としあき! お前は、例の情報を検索し終えたのか?!』
以前とは違う、焦りと怒りの入り混じったような激しい口調で、責める様にまくしたてる。
としあきは、そんなビドゥの態度を見て、かえって冷静さを取り戻せた。
「ああ、一応ね。
それで、教えられたことをどうすればいいんだ?」
『そうか、検索を完了したか。
なら、それを直接いただくよ』
そう言うと、ビドゥは怪しい身振り手振りを始め、呪文を唱え出す。
take go into the root of Ancient-Magical spell program.
set “ES-PSY” Ready.
connect the toshiaki's imagination.
としあきの頭脳に、ビドゥの思考が割り込んでくる。
だが違和感はものの数秒で薄れた。
施術が完了したビドゥは、先ほどとはまた違う複雑な表情を浮かべていた。
『ワームホール……事象?!
異世界? 高次元エネルギー?!
なんだ、なんだそれは?!』
「なんだって言われても」
『バカな!
これでは、我々の世界はまだ——!!』
好き勝手な事を叫ぶだけ叫ぶと、ビドゥは突然肩を落とし、クスクスと不気味に笑い出した。
そこに、ようやくクレナイが駆けつける。
少し遅れて、透明な手に拘束されたルリも、引っ張られるようにやって来た。
『観念しなさい、ビドゥ。
危なかったわねとしあき、あなたは、ここに閉じ込められて、永久に旧人類の情報を引き出させられるところだったのよ』
「な、なんだって?!」
『馬鹿な! ビドゥ様が、そんな事をするはずがないだろう!!』
コントロールが外れたのか、拘束されたままのルリが自意識を取り戻している。
だが当のビドゥは、笑い続けるだけで否定しようともしない。
『えーと、何が起きたのかよくわかんないです、説明を求めるです』
『ヒスイね、これをぶち壊したのは』
『えっへんです!』
『恐らく、それがグランマイスの聖者よ』
『——ででぇ?!』
「ケンジャさんは、お人形さんだったテチ?」
“……デス”
「これじゃあ、もう情報は引き出せないよな」
としあきの呟きに反応するように、ビドゥが顔を上げる。
何かをぶつぶつと唱えているが、それを聞いたクレナイは、途端に顔色を変えた。
『な……?! みんな、逃げなさい!!』
「は?」
『でぇ?』
「テチ?」
「どうしたんだい?」
『いいから早く! その男から離れるのっっ!!』
クレナイは表情を引き締めると、手を前方にかざし呪文を詠唱し始める。
途中で、二人の唱えているスペルが偶然シンクロした。
take go into the root of Ancient-Magical spell program.
set “Dimention-Warp” Ready.
refer to important information that sleeps in a deep memory.
reach the place that I want at last, the road is opened....
『で、Dimension-Warp?! ビドゥ様、おやめください!』
『でぃめ……で、でぎゃあっ!!』
「テチ? 何がどうしたテチ?」
『全員吹っ飛ばされるです! 逃げろですぅっ!』
「な、なにいっ?!」
ビドゥとクレナイは、どちらも同じ呪文を唱えていた。
だが、まだ一度しか使用していない事もあり、クレナイの方が僅かに完成が遅い。
ほんの僅かな差で、ビドゥの呪文が先に完成する。
空中に、巨大な縦長の裂け目が発生し、周囲のものを凄い力で吸引し始めた。
「消え失せてしまえっ! 私の邪魔をした者どもおぉぉっ!!」
「うわあぁぁぁっ?! な、なんだこりゃあ?!」
『でひゃあっ?!』
「テ、テチィィィィッ!!」
「ち、ちょっち待って、く、くれたまえぇぇぇ!!」
『うわあぁぁぁっ!!』
続けて完成したクレナイの呪文が、ビドゥの術に吸い込まれそうな一行を引き止めている。
ビドゥの目はもはや正常な思考のものではなく、怒りに支配されていた。
精神集中を続けながら、クレナイは懸命に術の維持を図った。
だが、先ほどからずっと黙り続けていたミドリだけは、なぜか不思議と魔法の効果を受けていない。
やがてゆっくりと浮かび上がると、ビドゥの方を向いてニヤリと笑った。
“いい悪意ね、気に入ったわ”
『な、なんだと…?!』
“あなたの邪悪な意識、私、嫌いじゃないわよ。
いいわ、力を貸してあげる”
そう言うと、ミドリの身体から何かが抜け出した。
薄紫色の気体のようなものが固まり、丸い風船のようになった後、人型に変化する。
やがてそれは、一人の少女の姿になった。
薄紫色で、糸のように細い宝石を束ねたような髪。
耳の上から飛び出している、紫水晶の装植物。
左目に当てられた半透明の眼帯。
全身に巻きついた、鋼色のイバラを思わせる触手。
死人のように白い肌、不気味に赤く光る唇、そして——ぞっとするような冷たい眼差し。
少女は、床から数十センチ浮かんだ状態で制止し、ゆっくりと一同を見回した。
(——実晶人?!)
クレナイの心の中の呟きに、少女は静かに頷く。
“私はリンドウ——失われし水晶の民。
この世に、悪意と混沌を招く者”
(心を…読んだ、ですって?!)
まだ慣れていない術の施工で、まともに話すゆとりのないクレナイに、リンドウと名乗る少女はニッコリと微笑みかける。
とその瞬間、クレナイの術が乱れた。
『あっ?!』
“デェ? あれれ、ワタシは今まで何を——デ、デェェェェェッ?!”
突然術の効果に巻き込まれたミドリは、空中に吸い上げられてとしあきの顔面に激突した。
「うっぷ」
“デ、デギャアッ?!”
と同時に、二人はそのままビドゥの作り出した空間の裂け目に吸い込まれて行った。
続けて、ぷちとひろあきも。
「テチャアァァァァ……」
「る、ルリイィィィィ!!」
だが術は、まだ効果が続いている。
続けて、ルリとヒスイも、裂け目に呑み込まれていった。
『でぎゃあぁぁぁぁ……』
『ビドゥ様あぁぁぁぁ……』
『ヒスイ! ルリぃっ!!』
術の効果は、ついにクレナイをも捕らえる。
だが彼女の身体が1フィートほど浮かび上がった時点で、突然吸引力が停止した。
ビドゥの施術が限界に達したのだ。
肩で息をするビドゥに、クレナイは息も絶え絶えに問いかけた。
『ビドゥ! あの子達をどこへ飛ばしたの?!』
『——考えてない』
『なん……ですって?』
『何も考えてない! 適当に吹き飛ばしたさ!
今頃あいつらは、次元の狭間を彷徨っているだろう!
アハハハハハハハハ!』
『なんてことを…!』
力なく立ち上がったクレナイは、すかさず呪文を唱えようとする。
だがそれは、見えない何かに打ち払われた。
目の前に、リンドウが立つ。
“レックレス・エンジェルの名を継ぐ者達に、伝えておきます”
『何かしら?』
“私は、レックレス・エンジェルの名を持つ者達を、絶対に許さない。
混沌の渦に沈め、もがき苦しむように、永遠の地獄を味わわせてあげる”
『何を言っているのか、わからないわね』
“最初は、あなたに、苦しんでもらうわ”
そう呟くと、リンドウは右手をビドゥにかざした。
すると、彼女の姿が霞のように大気に溶け、滑り込むように、ビドゥの体内に入り込んだ。
赤と緑だった両の瞳が、突然金色に変色する。
怒りの形相にまみれていたビドゥの顔は、先ほどまでの醜さが失せ、以前のようなきどった態度を取り戻していた。
『おや? とても不思議だ。
力と自信が、無限に満ちてくるようだ』
『ビドゥ! あなたに取り憑いたのは、あなたが追っていた“魔”そのものよ!
早く、そいつを追い出しなさい!』
『追い出す? フフン、冗談じゃない。
スカーレット、私が目的のために手段を選ばない者だという事は、理解していたんじゃないのかね?』
そう言うと、ビドゥは再び呪文を唱え始める。
施術中にも関わらず、なぜか、彼の意思がクレナイの脳に飛び込んで来る。
それは、凄まじいほどの憎悪だった。
“あなたはすぐには殺しはしない。
それ以上に苦しめて差し上げよう。
ちょうどいい——遥か彼方に「セキュアの坩堝」が見える。
あなたが全てを失った場所に、もう一度戻るがいい”
『な、なんですって?!』
take go into the root of Ancient-Evil curse logic.
set “Dimention-Warp” Ready.
refer to important information that sleeps in a deep memory.
reach the place that I want at last, the road is opened.
I who is ashamed of ungentlemanly conduct.
I in contradiction to the natural law beg permission.
『や、やめなさい! ビドゥッ?!』
先ほどよりも何倍も早く展開した次元の裂け目に、クレナイはあっという間に吸い込まれ、消滅した。
その場に残されたのは、リンドウと一体化したビドゥと、破壊されたグランマイスの聖者、そして案内役だけだ。
やがて、ようやく意識を取り戻した案内役が、彼の姿を見てキョトンとした。
「ご無事でしたか、ビドゥ様?」
「ああ、幸いね」
「あの、どのようなことが……あの者達は?」
「案ずるな、私が追放した」
「そうですか。——そ、それは?!」
案内役は、床に落ちているグランマイスの聖者の残骸を見て、驚愕の声を上げる。
その肩を軽く叩き、ビドゥは事情を説明した。
「——というわけだ。
ただちに戻り、貴重なアーティリクスを破壊したメルティスのメンバーを更迭する。
上のスタッフには、君の口から説明してくれたまえ」
「わ、わかりましたぁっ!」
慌てて部屋を飛び出していく案内役の後姿を見て、ビドゥは、クスクスと愉快そうに微笑む。
そんな彼の頭の中に、何者かが話しかけてきた。
“とんでもない事を、してくれやがったデスゥ”
男とも女とも取れるような、はたまた人間のような、あるいは合成音声のような、妙に耳障りな声質。
ビドゥは…否、彼の中に宿るリンドウが、その意識に対応した。
“あなたね、彼等に隠れていたもう一人の「魔」は。
いったい、何度この世界に来れば気が済むの?”
“ワタシにはワタシの目的があるデスゥ。
死に損ないのお前に、とやかく言われる筋合いはないデスゥ”
“生憎だけど、私はあなたの力の影響を受けないわ。
何をしようとしても、無駄よ?”
“それはお互い様デスゥ——だが、いつか必ずギャフンと言わせてやるデスゥ”
それだけ言うと、謎の声の意識は遠ざかって行った。
我に返ったビドゥは、頭を抱えながら自問自答する。
「今のは、なんだったんだ?」
“あれが、数年前にあなた達の街に紛れ込んだ「魔」よ”
「な、なんだって? あの実蒼石を連れて来た?」
“そうよ、あれは私と同じもので、別なもの。
またいつか、きっとこの世界にやってくるわ——”
リンドウは、クスクス笑いながらビドゥの意識の中深く潜り、沈黙する。
大きな部屋の中に取り残されたビドゥは、室内に飛び込んで来た御付の者達の姿を見て、ニッコリと微笑んだ。
その両目は、赤と緑に戻っている……
としあき達がこの世界に滞在した時間は、たった三日間だった。
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次回 【 ネガ実装人の世界 】
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